作成:和久井理子(作成:2013322日 最終改訂:202053日)

経済法(独占禁止法)の研究教育用に作成した資料です。構成・表現等は学習・説明する際の便宜のために原文(判決・審決等)から変更しています。条文,年月日その他の内容に誤りが含まれている可能性があります。利用方法は講義・演習などで確認してください。

 

不当な取引制限

 

[基本・判決]

(株)新井組ほか3名による審決取消請求事件

最高裁判所判決平成24220

審決集58巻第二分冊148頁、最高裁判所民事判例集662796頁、判例時報215836頁、判例タイムズ1376108頁、裁判所時報15507

独禁法3条後段

独禁法7条の2

*事業活動の相互拘束,競争の実質的制限

*課徴金制度の趣旨,当該商品役務

 

本件基本合意は,「各社が,話合い等によって入札における落札予定者及び落札予定価格をあらかじめ決定し,落札予定者の落札に協力するという内容の取決めであり,入札参加業者又は入札参加JVのメインとなった各社は,本来的には自由に入札価格を決めることができるはずのところを,このような取決めがされたときは,これに制約されて意思決定を行うことになるという意味において,各社の事業活動が事実上拘束される結果となることは明らかであるから,本件基本合意は,法26項にいう「その事業活動を拘束し」の要件を充足するものということができる。そして,本件基本合意の成立により,各社の間に,上記の取決めに基づいた行動をとることを互いに認識し認容して歩調を合わせるという意思の連絡が形成されたものといえるから,本件基本合意は,同項にいう「共同して�相互に」の要件も充足するものということができる。」

「法が,公正かつ自由な競争を促進することなどにより,一般消費者の利益を確保するとともに,国民経済の民主的で健全な発達を促進することを目的としていること(1条)等に鑑みると,法26項にいう「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」とは,当該取引に係る市場が有する競争機能を損なうことをいい,本件基本合意のような一定の入札市場における受注調整の基本的な方法や手順等を取り決める行為によって競争制限が行われる場合には,当該取決めによって,その当事者である事業者らがその意思で当該入札市場における落札者及び落札価格をある程度自由に左右することができる状態をもたらすことをいうものと解される。

 

(本件基本合意の当事者及びその対象となった工事の規模,内容や,前記2(1)のとおり,公社では,予定価格が500万円以上の工事の発注について工事希望型指名競争入札と称する方式を採用し,規模の大きい工事や高度な施工技術が求められる工事については,入札参加希望者の中から原則として格付順位の上位の者が優先して指名業者に選定されていたためその上位に格付けされていたゼネコンが指名業者に選定されることが多かったことから,Aランク以上の土木工事については,入札参加を希望する事業者ランクがAの事業者の中でも,本件33社及びその他47社が指名業者に選定される可能性が高かったものと認められることに加え,本件基本合意に基づく個別の受注調整においては,同(5)ア,エ及びオのとおり,その他47社からの協力が一般的に期待でき,地元業者の協力又は競争回避行動も相応に期待できる状況の下にあったものと認められることなども併せ考慮すれば,本件基本合意は,それによって上記の状態をもたらし得るものであったということができる。しかも,前記2(3)及び同(5)エのとおり,本件対象期間中に発注された公社発注の特定土木工事のうち相当数の工事において本件基本合意に基づく個別の受注調整が現に行われ,そのほとんど全ての工事において受注予定者とされた者又はJVが落札し,その大部分における落札率も97%を超える極めて高いものであったことからすると,本件基本合意は,本件対象期間中,公社発注の特定土木工事を含むAランク以上の土木工事に係る入札市場の相当部分において,事実上の拘束力をもって有効に機能し,上記の状態をもたらしていたものということができる。そうすると,本件基本合意は,法26項にいう「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」の要件を充足するものというべきである。さらに,以上のような本件基本合意が,法26項にいう「公共の利益に反して」の要件を充足するものであることも明らかである。)

 

課徴金の制度は,不当な取引制限等の摘発に伴う不利益を増大させてその経済的誘因を小さくし,不当な取引制限等の予防効果を強化することを目的として,刑事罰の定め(法89条)や損害賠償制度(法25条)に加えて設けられたものである(最高裁平成14年(行ヒ)第72号同17913日第3小法廷判決・民集5971950頁参照)。

本件基本合意は,法7条の21項所定の「役務の対価に係るもの」に当たるものであるところ,上記の課徴金制度の趣旨に鑑みると,同項所定の課徴金の対象となる「当該�役務」とは,本件においては,本件基本合意の対象とされた工事であって,本件基本合意に基づく受注調整等の結果,具体的な競争制限効果が発生するに至ったものをいうと解される。そして,前記2(4)及び同(5)カのとおり,本件個別工事は,いずれも本件基本合意に基づく個別の受注調整の結果,受注予定者とされた者が落札し受注したものであり,しかもその落札率は8979%ないし9997%といずれも高いものであったから,本件個別工事についてその結果として具体的な競争制限効果が発生したことは明らかである。

以上によれば,本件個別工事は,法7条の21項にいう「当該�役務」として同項所定の課徴金の対象となるものというべきである。」

 

[参考]

植野興業(株)ほか6名による審決取消請求事件

東京高等裁判所平成301130

公正取引委員会ホームページ

独禁法3条後段

 

「落札率が高いからといって,そのことのみをもって当該工事において受注調整が行われていたと推認することはできない。しかしながら,受注調整は,通常,受注価格の低落を防ぐために行われるものであり,一般的に,受注調整が行われていれば落札率は高くなるということはできるから,312物件の平均落札率が高いことは,受注調整の存在を推認させるひとつの事情ということはできる。本件審決は,平均落札率が高いことのみをもって本件合意の存在を認定したものではなく,推認の一事情として考慮し,本件合意の存在を推認できる他の事実を総合考慮して本件合意の存在を認定したものである。したがって,本件審決の認定が経験則に違反するとはいえない。」

「原告らは,本件立入検査後である平成2441日から平成30331日までの平均落札率が本件対象期間中の平均落札率よりも高いか又は有意な差がないことからして,本件対象期間中に受注調整は行われていなかったと推認すべきであると主張する。

 しかしながら,違反行為終了後にも違反行為の効果が残存することは珍しくなく,直ちに自由かつ公正な競争が回復するとは限らないから,原告らの上記主張は採用できない。」

 

[参考]

(株)天川組による審決取消請求事件

東京高等裁判所平成30427

公正取引委員会ホームページ

独禁法3条後段

 

「受注調整は,受注価格の低下を防ぐために行われるのであるから,受注調整・談合が行われていれば落札率が高くなるということは否定できないと解され,落札率が高いことは本件合意の存在を推認する一つの事情ということができる。他方,「違反行為が既に消滅した」(本件審決)としても,本件違反行為終了後に塩山地区特定土木一式工事の入札において,原告を含む事業者間で自由かつ公正な競争を妨げる何らかの行為が行われていることもあり得ることから,自由かつ公正な競争がされている事実を認定するに足る証拠がないとの説示(本件審判)をすることは必ずしも矛盾するものとはいえず,上記のとおり,本件対象期間中の落札率の高さから本件合意のされていたことを推認することの妨げとはならない。」

 


 

 

[基本・判決]

社会保険庁シール談合刑事事件

東京高等裁判所判決平成51214

高等裁判所刑事判例集463322頁、判例タイムズ84081頁、東京高等裁判所(刑事)判決時報4411294頁、金融・商事判例93727頁、資料版商事法務119163

独禁法3条後段

独禁法89条ほか

*事業者,一定の取引分野,事業活動の相互拘束

 

「トッパン・ムーア,大日本印刷,小林記録紙及び日立情報は,いずれも本件シールの印刷・販売等に関する事業を行う事業者であり,トッパン・ムーアのH・・・は,社会保険庁発注にかかる本件シールの受注・販売等について,いずれも被告会社の業務を担当していたものである」。同人らは,「社会保険庁発注にかかる本件シールの入札について,今後落札業者をトッパン・ムーア,大日本印刷及び小林記録紙の3社のいずれかとし,その仕事は全て落札業者から日立情報に発注するとともに,その間の発・受注価格を調整することなどにより4社間の利益を均等にすることを合意し,もって,被告会社4社は,共同して,社会保険庁が発注する平成4年度以降の本件シールの受注・販売に関し,被告会社らの事業活動を相互に拘束することにより,公共の利益に反して,社会保険庁が発注する本件シールの受注・販売にかかる取引分野における競争を実質的に制限し,不当な取引制限をした」。

 

「独禁法の趣旨,及び社会・経済的取引が複雑化し,その流通過程も多様化している現状を考えると,「一定の取引分野」を判断するに当たっては,主張のように「取引段階」等既定の概念によって固定的にこれを理解するのは適当でなく,取引の対象・地域・態様等に応じて,違反者のした共同行為が,対象としている取引及びそれにより影響を受ける範囲を検討し,その競争が実質的に制限される範囲を画定して「一定の取引分野」を決定するのが相当である(東京高裁昭和61613日判決・行政裁判例集376765頁参照)。」

 

本件における談合・合意の内容は,「その取引段階に着目すれば,()社会保険庁から落札・受注する業者とその価格,()落札業者から受注する仕事業者とその価格とに分けることが可能であるとはいえ,指名業者になっていない日立情報が右談合・合意にその一員として参加している以上,同社に仕事業者等として利益を得る機会を与えない限り,アの談合が成立するわけがなく,また,被告会社4社の利益を均等化するためには,落札業者の発注価格(仕事業者の受注価格)をも定めなければならない関係にあり,結局アとイは一体不可分のものとして合意されたとみることができるのである。

そうしてみると,この様な合意の対象とした取引及びこれによって競争の自由が制限される範囲は,・・・社会保険庁の発注にかかる本件シールが落札業者,仕事業者,原反業者等を経て製造され,社会保険庁に納入される間の一連の取引のうち,社会保険庁から仕事業者に至るまでの間の受注・販売に関する取引であって,これを本件における「一定の取引分野」として把握すべきものであり,現に本件談合・合意によってその取引分野の競争が実質的に制限されたのである。」

 

「弁護人は,東京高裁昭和2839日判決・高民集69435頁(いわゆる新聞販路協定事件)を援用し,ここに「事業者」とは競争関係にある事業者であることが必要であるところ,日立情報は,指名業者ではないから,他の指名業者と競争関係にはなく,結局,ここにいう「事業者」に当たらない」という。「しかしながら,右判例は」,当時の「独禁法413号は「事業者は,共同して,��技術,製品,販路又は顧客を制限すること��をしてはならない」と規定し,同条2項において「前項の規定は,一定の取引分野における競争に対する当該共同行為の影響が問題とする程度に至らないものである場合には,これを適用しない。」と規定していたのである。すなわち,右判例は,同条1項が当該行為による競争への実質的影響を犯罪成立の積極的要件としていなかった規定のもとで,同項の解釈として,同項にも影響の可能性を取り込むため,その「事業者」を競争関係にある者に限定したものとみられるのである。しかし,昭和28年の改正により右4条が削除され,現行法の罰則規定である8911号が「第3条の規定に違反して��不当な取引制限をした者」と規定し,3条が「事業者は,私的独占又は不当な取引制限をしてはならない。」とし,26項が「��不当な取引制限とは,��により,公共の利益を反して,一定の取引分野における競争を実質的に制限することをいう。」と規定するに至り,右の犯罪が成立するためには,当該共同行為によって「競争を実質的に制限する」ことが積極的要件として必要となった現行法のもとで,はたして右判例のように「事業者」を競争関係にある事業者に限定して解釈すべきか疑問があり,少なくとも,ここにいう「事業者」を弁護人の主張するような意味における競争関係に限定して解釈するのは適当ではない。」「独禁法21項は,「事業者」の定義として「商業,工業,金融業その他の事業を行う者をいう。」と規定するのみであるが,事業者の行う共同行為は「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」内容のものであることが必要であるから,共同行為の主体となる者がそのような行為をなし得る立場にある者に限られることは理の当然であり,その限りでここにいう「事業者」は無限定ではないことになる。しかし,日立情報は,・・・自社が指名業者に選定されなかったため,指名業者であるビーエフに代わって談合に参加し,指名業者3社もそれを認め共同して談合を繰り返していたもので,日立情報の同意なくしては本件入札の談合が成立しない関係にあったのであるから,日立情報もその限りでは他の指名業者3社と実質的には競争関係にあったのであり,立場の相違があったとしてもここにいう「事業者」というに差し支えがない。この「事業者」を同質的競争関係にある者に限るとか,取引段階を同じくする者であることが必要不可欠であるとする考えには賛成できない。

 

日立情報は,指名業者ではないものの,「同社は,他の指名業者3社と合意した本件談合に拘束され,仕事業者としてその談合に従った事業活動をすべきことはもとより,落札・受注の関係においても,たとえばビーエフに働きかけて適正価格で落札させ,その一部又は全部の発注を受けるなどの行動をとることも許されなくなったもので,本来自由であるべき同社の事業活動が制約されるに至ったのであるから,「相互にその事業活動を拘束」する共同行為をしたものというのに支障はない。

 

「被告会社4社の判示各所為は,いずれも平成4年法律第107号による改正前の独禁法951項,8911号,3条(刑法6条,10条により新旧比照)に該当するから,その所定罰金額の範囲内で被告会社4社をそれぞれ罰金400万円に処」する。

 

 

 


 

[基本・判決]

東芝ケミカル審決取消等請求事件

東京高等裁判所判決平成7925

判例タイムズ906136頁,金融・商事判例9823

独禁法3条後段

*共同性(意思の連絡)

 

「原告の本件事案における行為が、法三条において禁止されている「不当な取引制限」すなわち「事業者が、他の事業者と共同して対価を引上げる等相互に事業活動を拘束し、又は遂行することにより、一定の取引分野における競争を実質的に制限すること」(法26項)にいう「共同して」に該当するというためには、複数事業者が対価を引き上げるに当たって、相互の間に「意思の連絡」があったと認められることが必要であると解される。しかし、ここにいう「意思の連絡」とは、複数事業者間で相互に同内容又は同種の対価の引上げを実施することを認識ないし予測し、これと歩調をそろえる意思があることを意味し、一方の対価引上げを他方が単に認識、認容するのみでは足りないが、事業者間相互で拘束し合うことを明示して合意することまでは必要でなく、相互に他の事業者の対価の引上げ行為を認識して、暗黙のうちに認容することで足りると解するのが相当である(黙示による「意思の連絡」といわれるのがこれに当たる。)。もともと「不当な取引制限」とされるような合意については、これを外部に明らかになるような形で形成することは避けようとの配慮が働くのがむしろ通常であり、外部的にも明らかな形による合意が認められなければならないと解すると、法の規制を容易に潜脱することを許す結果になるのは見易い道理であるから、このような解釈では実情に対応し得ないことは明らかである。したがって、対価引上げがなされるに至った前後の諸事情を勘案して事業者の認識及び意思がどのようなものであったかを検討し、事業者相互間に共同の認識、認容があるかどうかを判断すべきである。そして、右のような観点からすると、特定の事業者が、他の事業者との間で対価引上げ行為に関する情報交換をして、同一又はこれに準ずる行動に出たような場合には、右行動が他の事業者の行動と無関係に、取引市場における対価の競争に耐え得るとの独自の判断によって行われたことを示す特段の事情が認められない限り、これらの事業者の間に、協調的行動をとることを期待し合う関係があり、右の「意思の連絡」があるものと推認されるのもやむを得ないというべきである。」 

 

 


 

 

[基本・判決]

ポリプロピレン価格カルテル審決取消請求事件

東京高等裁判所判決平成21925

審決集56巻第二分冊326

独禁法3条後段

独禁法72

*共同性(意思の連絡)

*既往の違反行為

 

「実質的証拠の意味」について,「被告のした審決の取消訴訟については,被告の認定した事実は,これを立証する実質的な証拠があるときには,裁判所を拘束するものとされている(独占禁止法801項)から,裁判所は,審決の認定事実については,独自の立場で新たに認定をやり直すのではなく,審判で取り調べられた証拠から当該認定をすることが合理的であるかどうかの点のみを審査するのである(最高裁昭和50710日第1小法廷判決・民集296888頁)。」

(「本件においても,上記のような観点から,本件審決の事実認定に実質的証拠の裏付けがあるか,すなわち,本件審決の事実認定が,本件審決の挙示した証拠に照らし,経験則,採証法則等に違反するところがなく,合理的であると認められるかどうかを審査する」。)

 

独禁法26項にいう「共同して」に該当するというためには,「複数事業者が対価を引上げるに当たって,相互の間に「意思の連絡」があったと認められることが必要であると解される。この「意思の連絡」とは,複数事業者間で相互に同内容又は同種の対価の引上げを実施することを認識ないし予測し,これと歩調をそろえる意思があることを意味し,一方の対価引上げを他方が単に認識,認容するのみでは足りないが,事業者間相互で拘束し合うことを明示して合意することまでは必要でなく,相互に他の事業者の対価の引上げ行為を認識して,暗黙のうちに認容することで足りると解するのが相当である(黙示による「意思の連絡」といわれるのがこれに当たる。)。もともと「不当な取引制限」とされるような合意については,これを外部に明らかになるような形で形成することは避けようとの配慮が働くのが通常であり,外部的にも明らかな形による合意が認められなければならないと解すると,法の規制を容易に潜脱することを許す結果になるから,このような解釈では実情に対応し得ないことは明らかである。したがって,対価引上げがされるに至った前後の諸事情を勘案して,事業者の認識及び意思がどのようなものであったかを検討し,事業者相互間に共同の認識,認容があるかどうかを判断すべきである。

そして,そのような観点からすると,特定の事業者が,他の事業者との間で対価引上げ行為に関する情報交換をして,同一又はこれに準ずる行動に出たような場合には,その行動が他の事業者の行動と無関係に,取引市場における対価の競争に耐え得るとの独自の判断によって行われたことを示す特段の事情が認められない限り,これらの事業者の間に,協調的行動をとることを期待し合う関係があり,上記の「意思の連絡」があるものと推認されるのもやむを得ないというべきである(以上につき,東芝ケミカル事件に関する前掲東京高裁平成7925日判決参照)。なお,事業者としては,特段の事情の立証により上記の推認を破ることができるほか,対価引上げに関する情報交換という不明朗な行為自体を避けさえすれば,上記の推認を受けないものである。」

 

「多数の事業者が会合等を通じて「意思の連絡」を行ったような場合には,意思の連絡の強さには濃淡があり得るのであって,例えば,意見交換の場において,明確に意思を表明した者もあれば,他の者の意思表明に対し特段異論を述べなかったという者もいたとしても,何ら不自然ではない(場合によれば,全員が明確な意思表明を避けることもあり得る。)から,前後の状況も踏まえた上で,沈黙していた者も含めて,暗黙の了解が成立したと認められるならば,「意思の連絡」があったと認めることも,不合理とはいえない。

 

36日の部長会において本件合意が成立しても,トクヤマ水野が,その責任において,本件合意に基づいて大手メーカーが実際に値上げに踏み切ることを見定めてから,原告トクヤマの値上げの最終決断を行うという判断をしていたことも十分に考えられる」。このように「各社の最終的な値上げの決断が本件合意後に行われることがあること自体は,本件合意により各社の間に「意思の連絡」が生じたという認定を何ら否定するものではないことは,いうまでもない。

 

「部長会のメンバーに値上げの実質的権限がないという点については,前記のような「意思の連絡」の趣旨からすれば,会合に出席した者が,値上げについて自ら決定する権限を有している者でなければならないとはいえず,そのような会合に出席して,値上げについての情報交換をして共通認識を形成し,その結果を持ち帰ることを任されているならば,その者を通じて「意思の連絡」は行われ得るということができる。

           

独占禁止法542項にいう「特に必要があると認めるとき」とは,審決の時点では既に違反行為はなくなっているが,当該違反行為が繰り返されるおそれがある場合や,当該違反行為の結果が残存しており競争秩序の回復が不十分である場合などをいうものと解される。そして,この規定の趣旨が,必要に応じて排除措置を命ずることにより,当該違反行為に係る市場のあるべき競争秩序の回復・維持を図る目的を達成することにあることからすれば,排除措置を命ずる場合に対象となる違反行為には,措置の必要性の観点からみて既に行われた違反行為と同一性を有する違反行為も含めて,措置の必要性を判断することができるものと解するのが相当である。

 当該違反行為が繰り返されるおそれがあり,措置の必要があるか否かの判断に当たっては,当該違反行為の具体的状況,その経緯,背景,取引慣行,原告らの当該違反行為を繰り返すことのできる力,当該違反行為の期間,当該違反行為をやめた事情,過去の当該違反行為の有無,状況のほか,違反行為を助長する市場環境の存否,確実に違反行為を抑止するに足る事情,例えば,再発防止策,違反行為の実行を困難とする市場の状況の出現等諸般の事情を総合して判断すべきである。

そして,上記の「特に必要があると認めるとき」の要件に該当するかどうかの判断においては,我が国における独占禁止法の運用機関として競争政策について専門的な知見を有する被告の専門的な裁量が認められるものというべきであるから,被告の上記要件に該当するとの判断について合理性を欠くものであるといえないときは,被告の裁量権の範囲を超え又はその濫用があったものということはできないと解すべきである(最高裁平成19419日第1小法廷判決・裁判集民事224123頁)。」

 


 

[参考・判決]

大石組審決取消請求事件

東京高等裁判所判決平成181215

裁判所ウェブサイト

独禁法3条後段

*意思の連絡

 

独占禁止法の規制対象たる不当な取引制限における意思の連絡とは,入札に先だって各事業者間で相互にその行動に事実上の拘束を生じさせ,一定の取引分野において実質的に競争を制限する効果をもたらすものであることを意味するのであるから,その意思の連絡があるとは,各事業者がかかる意思を有しており,相互に拘束する意思が形成されていることが認められればよく,その形成過程について日時,場所等をもって具体的に特定することまでを要するものではない。


 

 

 

[参考]

(株)中村工務店による審決取消請求事件

東京高等裁判所判決平成301026

公正取引委員会ホームページ

独禁法3条後段

*意思の連絡

 

「原告は,かねて石和支部において執行部を務める飯塚工業及びこれと同調する会社と対立関係にあったとした上,原告の《F1》社長が「林務」の会長に就任した以降,「林務」に関して,相互に意見を述べたり,相談したりすることは皆無であった旨主張する」が,「仮に,原告と飯塚工業らとの関係が良好でなかったとしても,これらの業者が反目し合いながらも受注価格の低落防止といった共通の利益を図るため,本件合意の内容に従った行動を採ったり,他の業者にこれを期待したりすることはあり得るところであり,むしろ,前記のとおり,物件140の橋梁工事について,原告の《F1》社長と飯塚工業が話し合ってこれを飯塚工業が落札したこと,原告の保管していた入札参加者等取りまとめ表には欄外に「飯塚」「中村」などと記載されていて,それぞれの工事について,その欄外に記載された飯塚工業,原告などが落札したことが認められるのであって,これらの事実にも照らせば,上記各物件を含めて原告と飯塚工業らとの間で受注について話合いをすることはなかったとの上記主張は採用することができない。」

 

[参考]

友愛工業㈱による審決取消請求事件

東京高等裁判所判決平成301130

公正取引委員会ホームページ

独禁法3条後段

*意思の連絡

 

「原告を含む21社のうち芹沢組土木,八木沢興業及び地場工務店を除く18社は遅くとも平成1841日までに,芹沢組土木は遅くとも平成19619日以降,八木沢興業は遅くとも平成20102日以降,地場工務店は遅くとも平成21730日以降,本件土木一式工事について,受注価格の低落防止を図るために,受注予定者を決定し,受注予定者は受注すべき価格を決め,受注予定者以外の者は,受注予定者がその定めた価格で受注できるように協力する旨の合意(本件合意)をしたと認定されたものである。」

「原告は,上記の認定について,原告は平成17年に石和支部の当時の支部長であった《A1》社長から除名宣告を受け,以後実質的に除名されたのと同様の扱いを受けており,原告が入札に参加することや工事の受注を希望することなどを連絡したことはなく,受注調整行為を行ったこともないと主張」し,この主張を裏付ける供述等があるが,「《A1》社長と原告代表者との関係が良好ではなく,平成17年に上記のような出来事があったとしても,21社の他の事業者との間までが同様の状況にあったことをうかがわせる証拠は見当たらない上,21社には受注価格の低落防止という共通の利害関係があり,少なくとも本件土木一式工事の入札に関しては協力する関係にあったとしても不合理ではなく,現に峡東支部及び治山協会の会員であった《会社名略》株式会社の代表取締役・・・は,石和支部等と一定の距離を置くようにしていた等としつつ,本件合意の枠内で行動していたことを認めており,また,21社のうちの中村工務店の《F1》社長も,石和支部の執行部と深い確執があり,執行部や支部運営と距離を置いていたとしつつ,《E》事務員に入札への参加の予定につき連絡をしたことがあり,他の事業者から中村工務店が受注予定者であるという趣旨の連絡を受けたこともあることを認めている。

 しかも,栗田工業の《D2》元社長は,受注調整のために連絡を取り合った相手の中に原告の営業担当がいたことを供述しており,証拠によれば,原告が石和支部等に入札の連絡をしていたことが見て取れるのであって,原告の上記主張を採用することはできない。」

 

[参考・判決]

南建設(株)による審決取消請求事件

東京高等裁判所平成23107

審決集58巻第二分冊27

独禁法3条後段

*意思の連絡

 

原告は,トラスト・メンバーズに入会した際に,トラスト・メンバーズが受注調整をしていることを認識していなかったと主張するが,「TST親交会[トラストメンバーズの名称が変更されたもの]等が,受注調整を行うために設立され,新たに入会する者には,推薦者において受注調整が行われていることなどを説明し,その賛同と総会での承認を得た上で入会させることとしていた組織であって,さらに,実際,同会においては,TST等世話役も関与する形で恒常的に受注調整が行われ,受注調整に関する連絡等が会員に対して恒常的に行われてきたような組織であることが認められるから,特段の事情のない限り,その会員が,自社も受注調整に参加することとなる等,本件審決が挙げるようなことを認識しないままTST親交会等に参加しているとは考えられないというべきである。」

 


 

[参考・判決]

大森工業(株)による審決取消請求事件

東京高等裁判所判決平成23624

審決集58巻第二分冊11

独禁法3条後段

*意思の連絡

 

本件審決は,①トラスト・メンバーズは,盛岡支部A級会の解散後,岩手県が指名競争入札の方法により発注する建築工事一式について,競争を回避して受注価格の低落を防止するために事前に受注調整をすることを主たる目的として設立されたものであり,平成1410月ころ,トラスト・メンバーズが岩手県発注の特定建築工事について受注調整を行っている疑いがあるとの情報が同県に寄せられ,トラスト・メンバーズの会長(稲垣)や副会長などが同県による事情調査を受けたことから,会の名称をTST親交会に変更するなど受注調整の発覚を防止する措置が講じられたものの,引き続き従前どおりの受注調整が行われており,トラスト・メンバーズとTST親交会は,実質的に同一の組織であると評価することができること,②新たにトラスト・メンバーズないしTST親交会の会員となる者(TST親交会においては会社代表者等の個人が会員となることとされている(査第51号証,第114号証)が,以下,会社を会員として記述することがある。)は,これらの組織において岩手県発注の建築1式工事についての受注調整が行われていること及びその方法に関する説明を受け,これに賛同した上で,総会の承認を得ることになっていたこと,③トラスト・メンバーズヘの入会の際に,受注調整の手続に関する内容を含む連絡文書が新入会員に交付された事例があること,④トラスト・メンバーズからは,各会員に対して受注調整に関する連絡等が恒常的に行われていたため,受注調整に参加する意思のない者を入会させることは,部外者に対して自分たちが組織的に受注調整をしている事実を暴露するに等しいこと,⑤平成15年度及び平成16年度のTST親交会の総会では,従来の会則に代えて「1.みんなで決めたルールを尊重し,人としての礼節を守り,小異を捨てて効率的に柔軟な人間関係の形成を目指して英知を結集する場としましょう。」という内容の新たに制定された指標が総会資料に掲載されるなどして,引き続き受注調整を継続することが確認され,上記の資料は総会の欠席者にも配布されたこと,以上の事実から,トラスト・メンバーズないしTST親交会の会員となった事業者は,特段の事情がない限り,トラスト・メンバーズないしTST親交会が,主として受注調整を行うことを目的とする組織であって,この組織において実際に受注調整が行われており,自社がこれに参加することを認識していたと認めることができるとしている。」

しかし,本件においては,「原告が,TST親交会の入会に当たって,受注調整に関する説明を受けたことについての実質的な証拠は存在しない」。


 

 

[基本・判決]

元詰種子基準価格カルテル審決取消請求事件

東京高等裁判所判決平成2044

審決集55791

独禁法3条後段

独禁法72

*共同性,3条後段と8条との関係,相互拘束,競争の実質的制限

*排除措置命令(既往の違反行為)

 

不当な取引制限において必要とされる意思の連絡とは,複数事業者間で相互に同内容又は同種の対価の引上げを実施することを認識し,ないしは予測し,これと歩調をそろえる意思があることをもって足りるものというべきである(東京高裁平成7925日判決・判例タイムズ906136頁)から,このような意思が形成されるに至った経過や動機について具体的に特定されることまでを要するものではな」い。

(本件合意の徴表や,その成立時期,本件合意をする動機や意図についても認定することが必要であることを前提とする原告らの主張は,理由がない。)

 

上記の事実のみでは「32社以外の事業者を含む事業者団体である日種協元詰部会が,討議研究会で決定した基準価格に基づいて構成事業者の価格表価格及び販売価格の設定がなされるよう構成事業者を拘束して,一定の取引分野の競争を実質的に制限していた(独占禁止法811号),あるいは,価格表価格及び販売価格等を設定することに関する活動等を不当に制限していた(同条14号)ものとまで認めることには疑問が残るし,仮に,このように認定することができるとしても,少なくとも,32社が本件合意をしていたことを推認することが妨げられないことは上記のとおりであるから,独占禁止法3条所定の行為が存在する以上,事業者らに対し行政処分を課すことができることは当然であって,事業者団体に独占禁止法81項所定の行為があり,事業者らにも同法3条所定の行為があるものと認定し得る場合に事業者団体にしか行政処分を課することができないと解すべき同法上の根拠は見当たらず,これを相当とすべき事情が存在することも認められない。

 

原告らは「各事業者間に意思の合致が認められるのは9種類の元詰種子に係る合意であって,4種類の元詰種子を対象とする合意とするためには縮小された合意の認定が必要であると主張する」が,「基準価格を決定していた種子のうち,少なくとも4種類の元詰種子については,各事業者が基準価格に基づいて価格表価格及び販売価格を設定することについて互いに認識し,これと歩調をそろえる意思を有していたものと認定し得るのであるから,4種類の元詰種子については違反行為が成立しているものと認められるのであって,このような場合に,当該違反行為がさらにその他の5種類の元詰種子に及んでいたか否かによって,その違反行為の存否が左右されるものではない。」

 

原告らは「本件合意のみでは,具体的な販売価格を設定することができないから,相互拘束性を欠くと主張する」が,「本来,商品・役務の価格は,市場において,公正かつ自由な競争の結果決定されるべきものであるから,具体的な販売価格の設定が可能となるような合意をしていなくても,4種類の元詰種子について,いずれも9割以上のシェアを有する32社の元詰業者らが,本来,公正かつ自由な競争により決定されるべき価格表価格及び販売価格を,継続的に,同業者団体である日種協元詰部会の討議研究会において決定した基準価格に基づいて定めると合意すること自体が競争を制限する行為にほかならないものというべきである。すなわち,価格の設定に当たっては,本来,各社が自ら市場動向に関する情報を収集し,競合他社の販売状況や需要者の動向を判断して,判断の結果としてのリスクを負担すべきであるところ,本件合意の存在により,自社の価格表価格を基準価格に基づいて定めるものとし,他の事業者も同様の方法で価格表価格を定めることを認識し得るのであるから,基準価格に基づいて自社の価格表価格及び販売価格を定めても競争上不利となることがないものとして価格設定に係るリスクを回避し,減少させることができるものといえ,これをもって価格表価格及び販売価格の設定に係る事業者間の競争が弱められているといえるのである。」「本件においては,32社は,自社が基準価格に基づいて価格表価格及び販売価格を定めると共に,他社も基準価格に基づいて価格表価格及び販売価格を定めるものとの認識を有していたものというべきであることは上記1のとおりであり,上記の限度で事業者相互の競争制限行動を予測することが可能であったものといえるのであって,不当な取引制限にいう相互拘束性の前提となる相互予測としては,上記の程度で足りるものと解するのが相当である。原告らのこの点に関する主張は失当である。」

 

原告らは,「個別の取引においては,値引きや割戻しが行われており,価格競争が可能であるから,本件合意により実質的に競争が制限されていない」,「本件合意が将来基準価格を設定することについての約束であり,基準価格の金額,値上げ幅等の具体的な内容,基準については何らの合意もされておらず,各事業者による実際の販売価格の設定について目安となり影響を与え得るような内容は一切含まれていないから,実際の販売価格はそれぞれ独自に設定することとなり,事業活動の相互拘束は認められず,市場における競争機能に有効な影響を与え得ないものであるから,不当な取引制限は成立しない」などと主張するが,「そもそも,4種類の元詰種子について,いずれも9割以上のシェアを占める32社が,本来,公正かつ自由な競争により決定されるべき商品価格を,継続的なやり方であることを認識した上で,同業者団体である日種協元詰部会の討議研究会において協議の上決定する基準価格に基づいて定めるとの合意をすること自体が競争を制限する行為にほかならず,市場における競争機能に十分な影響を与えるものと推認することが相当である。

一般に,価格は生産コストや市場の情勢等の今後の販売の見通しなど様々な要因を総合考慮して定められるべきものであり,その価格の設定に当たっては同業他社の動向が不明であるため,どのように設定するかにより各事業者はかなりのリスクを負うのが通常であるところ,本件合意の存在により,基準価格が決定され,シェアのほとんど大半を占める同業他社が基準価格に基づいて価格表価格を設定することを認識し,基準価格に基づいて価格表価格を設定しても自らが競争上不利になることはなくなっているという事態は,とりもなおさず公正かつ自由な競争が阻害されている状況であるといえる。上記のとおり,元詰種子について,潜在的な価格競争が存在しており,これが顕在化していないのは,元詰業者らが基準価格に基づいて価格表価格や販売価格を定めることが続いていた結果,農協等の需要者が,価格に高い関心を払う必要がないまでに価格の差異がなくなっていることによるものというべきであるから,現時点の状況のみをもって価格競争が軽微であるとはいえないし,討議研究会において基準価格を決定し,これに基づいて各事業者が価格表価格を設定することで品種間の実際の販売価格に大幅な差異がなくなり,価格を考慮せず適性のみで品種を選択する状況となっており,想定を上回るような生産コストとなることがないものと需要者が認識するに至るまで価格競争が潜在化しているとすれば,本件合意による競争制限効果は,むしろ極めて深刻であるというべきである。」

 

「原告らは,一定の取引分野は,売り手側と買い手側の競争の及ぶ範囲により画定され,基本的には売り手側の競争の及ぶ場であって,基準価格が主に農協向けと大卸向けに決定されていることから,一定の取引分野は農協と大卸により画定されるべきであると主張する」が,「一定の取引分野は,不当な取引制限が対象とする取引及びこれにより影響を受ける範囲を検討した上で,その競争が実質的に制限される範囲を画定することをもって決定されるべきであり,本件合意では,討議研究会で決定した基準価格に基づいて,各事業者が価格表価格を設定することとされているところ,討議研究会では,農協,小売業者,卸売業者のそれぞれに対応した基準価格が決定され,各事業者の側でそれぞれ取引先の取引段階に応じた価格表価格を設定し,そのいずれとも直接取引が行われていることは上記前提事実及び上記1に認定のとおりであるから,本件合意による競争制限効果は,元詰業者が直接取引を行う各取引に及ぶものであり,その全体をもって本件合意による競争制限効果が及ぶ一定の取引分野というべきであって,その分野をその取引先の取引段階のうち主たるもののみに限定すべき理由は見当たらない。」

 

排除措置の必要性について,「本件審決は,全体としてみれば,1〕被審人19社は13社とともに遅くとも平成103月から平成1310月までの3年余りにわたって違反行為を継続しており,違反行為と認定されていないが,これ以前にも元詰業者間における協調的関係が存在していたこと,〔2〕違反行為終了の経緯が自主的なものでなく,被告の立入検査を契機とするものであること,〔3〕違反行為の誘因が依然存在しており,価格設定において共同歩調をとる必要を否定するに足りる市場状況の変化は認められないことから,被審人19社において今後同様の行為を繰り返すおそれがあると認められるとして,本件排除措置を命ずる必要性を肯定した。」「独占禁止法542項(同法72項)に定める「特に必要があると認めるとき」の要件に該当するか否かの判断については,我が国における独占禁止法の運用機関として競争政策について専門的な知見を有する上告人の専門的な裁量が認められるものというべきであるところ(最高裁平成19419日第1小法廷判決・判例タイムズ1242114頁),上記の「特に必要があると認めるとき」の要件に該当する旨の被告の判断が合理性を欠くものであるということはできず,裁量権の範囲を超え又はその濫用があったことは認められないから,本件審決が排除措置を命じたのは相当であり,独占禁止法542項に反するものではない。

 

 


 

[基本・判決]

日本エア・リキード(株)による審決取消請求事件

東京高等裁判所平成28525

審決集63304

独禁法3条後段,独禁法7条の2

 

「一定の取引分野」とは,そこにおける競争が共同行為によって実質的に制限されているか否かを判断するために画定されるものであるが,価格カルテル等の不当な取引制限における共同行為は,特定の取引分野における競争の実質的制限をもたらすことを目的及び内容としていることや,行政処分の対象として必要な範囲で市場を画定するという観点からは,共同行為の対象外の商品役務との代替性や対象である商品役務の相互の代替性等について厳密な検証を行う実益は乏しいことからすれば,通常の場合には,その共同行為が対象としている取引及びそれにより影響を受ける範囲を検討して,一定の取引分野を画定すれば足りるものと解される(東京高等裁判所平成51214日判決・高等裁判所刑事判例集463322頁参照)。

 本件合意は,タンクローリーによって供給される液化酸素,液化窒素及び液化アルゴンの総称である特定エアセパレートガスの販売価格の引上げに関するものであることからすれば,本件合意において,特定エアセパレートガスの販売分野という一定の取引分野が画定され,このような取引分野において競争が実質的に制限されているかを検討することが相当であり,かつ,それで足りるというべきである。」

 


 

 

[参考]

(株)廣川工業所による審決取消請求事件

東京高等裁判所判決平成30831

公正取引委員会ホームページ

独禁法3条後段

*一定の取引分野

 

「原告は,本件審決は,「塩山地区土木特定一式に係る入札市場」を「一定の取引分野」と画定した上,本件合意は,独占禁止法26項にいう「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」との要件を充足し,不当な取引制限に該当するとしたが,「一定の取引分野」とは,事業者間で競争が行われている個別取引の分野であるところ,塩山地区においては,土木工事,林道工事,治山工事及び農務工事の4種類の工事分野は,それぞれにおいて事業者間で競争が行われている個別の取引分野であって,これらの工事分野を超えた競争関係は存在しないから,本件における「一定の取引分野」は,4種類の工事ごとに画定すべきであり,土木工事,林道工事,治山工事及び農務工事を一体とした「塩山地区特定土木一式工事」という「一定の取引分野」は存在せず,当該「一定の取引分野」を前提とする本件違反行為は存在し得ないと主張する」が,「これら4種類の工事は,発注担当部署は異なるものの,いずれも山梨県が「土木一式工事」として発注していたものであり,発注担当部署を異にするにすぎない。

 また,山梨県は,「土木一式工事」の入札への参加を希望する事業者に対し,あらかじめ資格審査を行い,ABC又はDのいずれかの等級に格付し,有資格者名簿に登載していたことからすれば,有資格者名簿に登載されたA等級業者及びB等級業者(30社も,これに該当する。)は,いずれも,4種類の工事を含む塩山地区特定土木一式工事の全てについて施工能力を有していたものと認められる。

 仮にこれらの事業者の中に,4種類の工事のいずれかを得意とし積極的に受注していた事業者と,そうでない事業者がいたとしても,専門的知識を有する技術者を育成する,あるいは実績を積むために,あえて入札に参加することもあり得ることであり,自社が所持していない特殊な設備や道具を必要とする場合であっても,これらの設備等を購入する,あるいは借りることが可能であることからすると,これらの事業者が特定の種類の工事の施工能力をおよそ欠いていたものではなく,有資格者名簿に登載された他の事業者との間には,競争関係が存在したものと認められる。

 さらに,30社が,特定の種類の工事を他の種類の工事と区別して受注調整していた事実はうかがえない。むしろ,30社としては,山梨県が発注する「土木一式工事」の中で30社が入札参加資格を有する全ての工事を受注調整の対象とすることで,より調整がしやすくなるし,受注価格の低落防止という本件合意の目的にもかなうことになる。

 このように,30社は,塩山地区特定土木一式工事について,4種類の工事を区別することなく受注調整の対象としていたものであるから,本件における「一定の取引分野」は「塩山地区特定土木一式工事」に関するものというべきである。」


 

 

[参考]

軸受(ベアリング)カルテル刑事事件

東京地方裁判所判決平成2724

[*東京高等裁判所(控訴審)判決平成28322日差替え予定]

公正取引委員会審決集62485

独禁法3条後段

独禁法89条ほか

*一定の取引分野

 

「各弁護人は,軸受が個々の需要者の製造する機械製品に最適化するように開発された特注品になっていることなどに照らせば,本件における産業機械用軸受及び自動車用軸受のいずれについても,「一定の取引分野」は選好を異にする需要者ごとに画定されるべきである旨主張するので,以下に検討する。」

「産業機械用軸受と自動車用軸受では,それぞれ市場構造等に差異があると認められ,被告会社等4社がそれぞれを対象として価格の引き上げを合意していることに照らせば,本件においては,産業機械用軸受及び自動車用軸受のそれぞれについて競争が実質的に制限されたと認められる。そうすると,産業機械用軸受及び自動車用軸受のそれぞれについて「一定の取引分野」が成立するものと認められる。」

「各弁護人は,本件軸受は,需要者の機械製品における新規受注やモデルチェンジ等の機会に行われる見積もり合わせ等によって供給者が決定されるなど,多くは特注品として製造され,価格交渉も相対で行われるなどしており,需要者ごとに軸受メーカーのシェアが異なっているという実態があるから,特定の需要者ごとに「一定の取引分野」を画定すべきであると主張する。

 確かに,「一定の取引分野」の画定は,競争が実質的に制限されているかを判定する前提であるから,選択肢を異にする需要者が1つの市場に混在する場合には,特定の需要者にとって選択肢にならない供給者が含まれることになり,その供給者の関係では「同一の需要者に同種又は類似の商品又は役務を供給する」ことができる状態である「競争」(独占禁止法2条4項1号)が成立せず,「一定の取引分野」とはいえなくなる可能性がある。

 しかし,証拠によれば,本件軸受は,特注品であっても,製品の技術的完成度が高いために技術的差異がつきにくく,被告会社等4社に限れば他社でも代替品を製造することは可能であり,現に,被告会社等4社の間では,いわゆる安値拡販活動などによってシェアを奪い合うような事態が生じており,新規受注やモデルチェンジ等の際に一度決まった供給者も,価格交渉における態度や需要者の強いコストカットの意向を受けた相見積もりの内容によっては,その後他社に切り替えられる可能性もあることが認められる。また,産業機械用軸受と自動車用軸受とでは,販売先メーカーの特性の違いから,P3及び被告会社においては製造・販売部門から別個独立の供給体制がとられ,P5及びP4においても販売担当部門が分かれるなどしており,市場構造や取引態様が明らかに異なっている。このような事情に照らすならば,産業機械用軸受と自動車用軸受のそれぞれについて,各需要者は,選択肢及び条件を同じくする同一の需要者群を形成していると認められる。そうすると,本件において,特定の需要者ごとにしか「一定の取引分野」は成立しないとする各弁護人の主張は理由がない。」

                                                                                                           

 


 

[基本・判決]

東宝・新東宝審決取消請求事件

東京高等裁判所判決昭和28127

高等裁判所民事判例集613868頁、行政事件裁判例集4123215頁、判例時報1911頁、法曹新聞838

独禁法3条後段

*競争の実質的制限

*排除措置命令

 

公取委は,審決において,原告(東宝株式会社)と新東宝とが,「新東宝の製作する映画の配給は挙げてこれを原告に委託し原告は新東宝に対して一定の製作費を払う」という趣旨の協定を結んだことについて,①原告と新東宝とは右の協定により共同して映画の販路及び顧客を制限するものであり独占禁止法第4条第1項第3号に違反するとともに,②「原告及び新東宝の製作する映画の本数は,日本全国において製作される映画の総数の3分の1を占めること」からして,「共同してその事業を遂行することにより公共の利益に反して映画配給の取引分野における競争を実質的に制限するものであつて,同法第3条後段にも違反する」とした。審決時にはこの協定自体は失効していたことから,公取委は,審決において,「将来その一方の製作する映画の全部又は大部分を他の一方にのみ排他的に配給するような協定又は申合をしてはならない」ことなどを命じた。本裁判において原告は審決の取消を求めた。

 

一定の取引分野における競争の実質的制限について「まず日本国内において上映される映画の配給部面において多数の外国映画があることは公知の事実であつて,外国映画の配給と日本映画の配給とがそれ自体競争関係に立ち,そこに商品としての演芸演劇等の供給から区別されるべき一の取引分野を構成することは否定し得ないが,その中においてさらに日本映画は日本映画のみで輸入外国映画から区別された位置の独立した競争圏をもち,日本映画の配給という一定の取引分野を構成することはみやすいところである。」

「原告が原協定によつて配給する映画が,日本において製作配給される映画の総数の3分の1を占めるとの一事をもつて,この取引分野における競争を実質的に制限するものとするのは相当でない。競争を実質的に制限するとは,競争自体が減少して,特定の事業者又は事業者集団がその意思で,ある程度自由に,価格,品質,数量,その他各般の条件を左右することによつて,市場を支配することができる状態をもたらすことをいうのであつて(当庁昭和25年(行ナ)第21号,昭和26919日言渡東宝株式会社対公正取引委員会間審決取消請求事件判決参照),いいかえればかかる状態においては,当該事業者又は事業者集団に対する他の競争者は,それらの者の意思に拘りなく,自らの自由な選択によつて価格,品質,数量等を決定して事業活動を行い,これによつて十分な利潤を収めその存在を維持するということは,もはや望み得ないということになるのである。いかなる状況にいたつてこのような市場支配が成立するものとみるべきかは相対的な問題であり,一律には決し難くその際の経済的諸条件と不可分である。たんに市場におけるその者の供給(又は需要)の分量だけからは決定し得ないのである。従つてこれらの諸条件を考慮することなく,原告が日本映画の配給の3分の1を把握するということだけから,原告及び新東宝の競争者である松竹,大映等が,直ちに原告らの意思によつてその自由な事業活動に拘束を受けるということを証明することはできないものといわなければならない。審決のこの点に関する認定は実質的な証拠にもとづくものということはできない。」

 

排除措置が違法であるとの主張について,「ここに違反行為を排除するために必要な措置とは,現在同法に違反してなされている行為の差止,違反行為からもたらされた結果の除去等,直ちに現在において違反行為がないと同一の状態を作り出すことがその中心となるべきことは当然であるが,これのみに止まるものと解するのは,同法のになう使命に照らして狭きに失する。過去においてある違反行為があつても,それが一回的のもので継続する性質のものでなく,又は諸般の事情から将来くり返されるおそれがないことが予測されるものであれば,特に排除措置として将来にわたつてこれと同種行為の禁止を命ずる必要はないものということができるけれども,いつたん違反行為がなされた後なんらかの事情のため現在はこれが継続していないが,いつまた違反行為が復活するかわからないような場合には,現に排除の必要が解消したものとはいえないわけであつて,たまたま審決の時に違反行為がないからといつてこれを放置することなく,将来にわたつて右の違反行為と同一の行為を禁止することは,むしろ右違反行為の排除のために必要な措置というべきものである。」

 

 


 

[参考・判決]

郵船ロジスティクス(株)による審決取消請求事件

東京高等裁判所判決平成24119

審決集59巻第二分冊54

独禁法3条後段

独禁法7条の2

*競争の実質的制限

*当該商品役務

 

公取委(被告)は,原告が他の事業者と共同して,航空運送事業を営む者の行う運送を利用して行う輸出に係る貨物の運送業務(国際航空貨物利用運送業務。以下「本件業務」という。)の運賃及び料金(以下「運賃等」ともいう。)について,燃油サーチャージ(燃油価格が高騰している期間に限り本体の航空運賃とは別建てで顧客に負担を求める燃油価格相当の料金。以下「燃油SC」ともいう。), AMSチャージ(・・・),セキュリティーチャージ(以下「セキュリティーC」ともいう。)及び爆発物検査料(これら4料金を以下「本件4料金」ともいう。)について荷主に新たな負担を求める旨を合意する(以下「本件各合意」という。)ことにより,我が国における本件業務の取引分野における競争を実質的に制限し独禁法26項に反したとして,排除措置命令及び課徴金納付命令を下した。原告が本件各命令の取消を求めて被告に対して審判を請求し,被告がこれを却下する審決をするとこれを不服として審決取消請求を行った。

裁判所の判断

本件各合意による競争の実質的制限の存否について,「14社(平成16年以降は13社)の本件業務における貨物量の合計は,平成13年から平成20年までの我が国における本件業務における総貨物量の725%ないし750%を占めていたことからすると,このような市場占有率を有する14社によって,本件業務に関する不当な取引制限に当たる合意が成立すれば,本件業務の競争を実質的に制限する結果となることは明らかというべきである。」「原告は,本件燃油SC合意が本件業務の取引分野における競争を実質的に制限するものではないことを前提として,本件AMSチャージ合意及び本件セキュリティーC等合意だけでは,AMSチャージ,セキュリティーC及び爆発物検査料の3料金の運賃収益に占める割合が極めて少ないことから,本件業務の取引分野における競争を実質的に制限するとは認められないとも主張する」。「しかしながら,本件燃油SC合意が本件業務の取引分野における競争を実質的に制限するものであることは前述したとおりであるから,原告の上記主張は,その前提を欠き理由がないというべきである。」

 

原告は,「独占禁止法7条の21項所定の「役務の売上額」及び同法施行令5条の「提供した役務の対価の額」の対価とは,役務という給付についての等価の反対給付をいうのであるから,提供した役務が単一の場合には当該役務の対価の全部がこれに当たる」のであり,公取委が燃油SCに対応する部分の額だけを対価とし本件4料金に係る金額を売上額として課徴金を算定するのは不当であると主張するが,「本件燃油SC合意は,14社が本件業務の対価である運賃等のうちの本件燃油SCだけを対象として合意を成立させたものであるところ,運賃等のうち本件燃油SCだけを区別することは可能であり,本件燃油SCが本件業務における役務に対する渾然一体となった対価の一部としてこれを区別することができないというのは原告独自の見解というべきである。実際にも,本件燃油SC合意は,運賃等のうち本件燃油SCだけを対象として合意を成立させているのであり,これによりこの合意に参加した各社が相互に事業活動を拘束して競争制限の効果を生じさせていたのであるから,本件燃油SCの売上額を基に課徴金を課すことには何らの違法もないというべきである。そして,不当な取引制限である本件燃油SC合意につき,本体運賃と区別される本件燃油SCの売上額を基礎として,課徴金額を算定することは,カルテルによる不当な利得を剥奪することにより社会的公正を図るとともに,カルテルの発生を抑止することを目的とする課徴金制度の趣旨にも合致するものというべきである。なお,このことは,本件燃油SC合意以外の本件各合意についても同様というべきである。」

 

「本件業務は小売業に当たる」との原告の主張について,「原告は,貨物利用運送事業法の規定に基づき国土交通大臣の行う許可を受けて,本件業務を営む者であり,本件業務の内容は,荷主からの集荷,計量・ラベル貼付等,輸出通関手続,混載貨物の仕立て,航空会社への引渡し,航空機への搭載,航空機による運送,仕向地の空港への到着後の航空機からの取り下ろし,混載貨物の仕分け,輸入通関手続及び荷受人までの配送等のほか,アメリカ合衆国のAMS制度の導入に伴う手続や,保安対策基準によるRA制度の導入に伴う手続などもこれに含まれるというものであるから,原告を含む本件事業者が行う本件業務は運輸業に分類されるものと解するのが相当である。原告の行うこのような本件業務が,商品を仕入れて,これをさらに販売する小売業や卸売業に当たるものといえないことは明らかである。」

「原告は,自ら国際航空運送役務を創造するものではなく,航空会社が創造する運送役務を購入して需用者に提供し,マージンを得ているにすぎないから,その実質が小売業に当たると主張する」。「しかしながら,本件業務は,前記1のとおり,航空会社の運送を利用して輸出に必要な検査等の手続を行うことも含めて荷主の貨物を運送するという役務を提供することを内容としており,航空会社から一定の容量ないし重量の貨物を運送する役務を買い入れ,同一性を保持したままで荷主にこれを販売するというものではないことは明らかである。また,仮に航空会社による貨物運送についてはこれを仕入れて販売するものとみる余地があるとしても,本件事業者は,それ以外の貨物の運送に不可欠な作業をも付加して一体となった役務を提供しているのであり,航空会社による貨物運送とは別個の業務というべきものであることからすると,単に商品(役務)を流通させる事業とはいえず,「小売業,卸売業」には当たらないと解するのが相当である。これに反する原告の主張は,独自の見解というべきであるから,これを採用する余地はないといわざるを得ない。」

 

 

 

[参考・判決]

ケイラインロジスティックス(株)による審決取消請求事件

東京高等裁判所判決平成241026

審決集59巻第二分冊15

独占禁止3条後段

独占禁止法7条の2

*競争の実質的制限

*当該商品役務

 

原告は,国際航空貨物利用運送事業者である原告である。被告(公取委)は,原告が他の事業者と共同して,他人の需要に応じ有償で航空運送事業を営む者(航空会社)の行う運送を利用して行う輸出に係る貨物の運送(以下これを「本件業務」という。)のうち一定のものの運賃及び料金について,①利用する航空会社から燃油サーチャージの請求を受けることとなるときは,当該燃油サーチャージに相当する金額を荷主に対して新たに請求する旨の合意(以下この請求に係る料金を「荷主向け燃油サーチャージ」といい,当該合意を「本件荷主向け燃油サーチャージ合意」という。)をした,②AMSチャージ(アメリカ合衆国の税関当局が実施する貨物情報事前申告制度に伴う費用を荷主に請求するもの)として運送状1件あたり500円以上の額を荷主に対して請求する旨の合意(以下「本件AMSチャージ合意」という。)をした,③セキュリティーチャージ(上記事業者が新航空貨物保安措置の実施に伴って発生する費用を荷主に請求するもの)として運送状1件あたり1500円以上の額を荷主に対して請求し,④爆発物検査を実施したときは,爆発物検査料(上記事業者が爆発物検査の実施に伴って発生する費用を荷主に請求するもの)として運送状 1件当たり1500円以上を荷主に対して請求する旨の合意(以下,セキュリティーチャージと爆発物検査料を総称する場合には「セキュリティーチャージ等」といい、これを請求する旨の合意(以下「本件セキュリティーチャージ等合意」という。)をしたとし(以下,荷主向け燃油サーチャージ,AMSチャージ,セキュリティーチャージ及び爆発物検査料を総称する場合には「本件4料金」という。),これら行為が独禁法26項に当たるとして排除措置命令及び課徴金納付命令を下した。原告が被告に対して本件排除措置命令及び本件課徴金納付命令の取消しを求めて各審判請求をしたのに対し被告がこれらの請求をいずれも棄却する旨の各審決をすると,原告は、これを不服としてその取消しを求めた。

 

本件合意が本件業務の取引分野における競争を実質的に制限することについて,「本件合意に参加した14社(13社)の本件事業における市場占有率が7割を超えていることや,本件合意の対象となった本件4料金の本件業務の運賃及び料金に占める割合が12パーセント程度に達していることを考え併せると,本件合意は,本件業務の取引分野における競争を実質的に制限する不当な取引制限に当たると認めるのが相当である。」

「原告は,本件4料金は本件の運賃及び料金の約8分の1にも満たず,本件4料金部分の競争が停止しても,残りの8分の7以上の部分において競争を行うことが可能であるから,本件合意は本件業務の取引分野における競争を実質的に制限するものではないと主張」する。しかし,「本件合意は,本件4料金についての競争を回避する趣旨の合意であるところ,本件の運賃及び料金のうち本件4料金以外の部分について競争がされていれば,全体の12パーセントを占めるに過ぎない本件4料金のみについて競争を回避するとの合意をしてみても,本件の運賃及び料金全体としては競争が回避されないことになるから,本件4料金のみについて競争を回避する合意をする動機に乏しいことになるといえなくはないのであって,このような観点からみれば,本件各審決の上記認定は合理性がないとまでいうことはできない。

一方で,仮に,本件の運賃及び料金のうち本件4料金以外の部分について競争がされていたとしても,本件合意により本件の運賃及び料金のうち12パーセント程度を占める本件4料金についての競争が回避される結果,本件合意がされない場合と比べて,本件の運賃及び料金についての競争が減殺する効果が生じることは否定できないのであって,本件4料金の本件の運賃及び料金に占める割合が12パーセント程度に達していることから考えて,上記の競争を減殺する効果は決して軽視できる程度のものではないと考えられる。もとより,本件合意により,本件の運賃及び料金全体について,上記の競争を減殺する効果を上回るような競争促進効果が生じるというのであれば,本件合意が本件業務の取引分野における競争を実質的に制限するものではないと評価することもあり得るところであって,原告も,本件合意のこのような競争促進効果を主張するものの,これを具体的に立証する証拠はない。

したがって,原告の上記主張はいずれも採用できない。」

 


 

 

�[参考]

積水化成品工業(株)ほか1名による審決取消請求事件

東京高等裁判所判決平成30323

公正取引委員会審決集62412

独禁法3条後段

*競争の実質的制限

 

「本件合意の内容は,特定EPSブロックについて,詳細設計協力業者のうち最終図面を作成した者を受注予定者とし,受注予定者以外の者は受注予定者が受注することができるように協力するというものであり,その協力の態様としては,例えば,自社が詳細設計協力をしていない物件についてはEPSブロックの受注を目指さず,当該物件につき見積りを求められた場合には高い見積価格を提示するなどし,受注予定者が受注をすることに協力したりすることとなる。そして,本件合意をすることにより,当該詳細設計協力業者は,少なくとも他の8社が,当該EPS工法採用工事に係る特底EPSブロックの受注を目指して競争的な営業活動を行うことはないと期待することができるため,特定EPSブロックを確実に受注することができ,受注価格の面でも,競合他社の存在を意識して販売価格を設定する必要がなく,需要者である建設業者等との交渉を有利に進めることが可能となるという利益を得ることができることとなる。このような本件合意の内容及びその効果に照らせば,本件合意の実質的な意義は,他の8社が,特定EPSブロックの販売の段階で,当該特定EPSブロックの受注を目指して競争的な営業活動を行うことはないと期待することができるというところにあり,このことは,他の8社が当該EPS工法採用工事の存在を認識していたか,認識していなかったかにかかわるものではない。そうすると,本件合意は,不認識物件[原告ら以外のEPSブロック業者が当該物件の存在すら認識していない物件のこと。]の場合に係る特定EPSブロックを本件合意の対象から特段除外するものではなかったという本件審決における認定判断は,合理的なものであるから,同事実については,実質的な証拠があると認められる。」

 

「原告らは,EPSブロックの取引における主要な競争要素は,詳細設計業務の品質の優劣という設計協力段階にあり,かつ,設計協力の獲得の段階で現に熾烈な競争がされている以上,受注段階において,詳細設計協力の結果として当該詳細設計協力業者が受注を獲得する実態が生じ,事実上,競争がされないとしても,これをもって「公共の利益に反し」,又は「競争を実質的に制限する」とは評価し得ず,また,EPSブロックの取引においては,詳細設計段階において,詳細設計協力業者が費用と労力を投じて詳細設計を行っているところ,詳細設計協力業者以外のEPSブロック業者が当該案件を受注するとなると,詳細設計をやり直すこととなるから,元々の詳細設計は無駄となり,他方,前業者は,無駄となった費用を他に賦課せざるを得なくなり,効率的な資源の分配にマイナスの影響を生じさせ,公共の利益に反するものとなるから,本件合意が不当な取引制限に当たるとは認められないと主張する。

 しかし・・・9社は,本件合意をすることにより,特定EPSブロックを確実に受注することができ,受注価格の面でも,競合他社の存在を意識して販売価格を設定する必要がなく,需要者である建設業者等との交渉を有利に進めることが可能となるという利益を得ることができることとなり,それにより特定EPSブロックの販売段階において,いわゆる価格競争が十分に働かない結果となっていることが明らかである。このことは,設計協力の段階で現に熾烈な競争がされているか否かにより異なるものではないから,仮に9社の間で設計協力の段階で熾烈な競争がされていたとしても,これをもって「公共の利益に反し」,又は「競争を実質的に制限する」とは評価し得ないなどということはできない。

 また,EPSブロックの取引において,詳細設計段階において,無償で,詳細設計協力業者が費用と労力を投じて詳細設計を行っている結果,詳細設計協力業者以外のEPSブロック業者が当該案件を受注するとなると,元々の詳細設計が無駄となり,他方,前業者は,無駄となった費用を他に賦課せざるを得なくなるとしても,これをもって,効率的な資源の分配にマイナスの影響を生じさせ,公共の利益に反するなどといえないことも明らかである。」

 

 

[参考]

カネカケンテック(株)ほか1名による審決取消請求事件

東京高等裁判所平成30420

公正取引委員会ホームページ

独禁法3条後段

*競争の実質的制限の成立

 

(事実)

「官公庁等が軟弱地盤上の盛土等の土木工事を発注する場合,建設コンサルタント業者に対し,どの工法を採用するかを決めるための概略設計を依頼し,当該建設コンサルタント業者は,EPSブロック業者又は他工法のメーカーの協力を求めるのが通常である。EPSブロック業者は,EPS工法が採用されるようにするため,建設コンサルタント業者に概略設計協力の申出を行い,作成した関係資料を無償で提供する。そして,発注者がEPS工法の採用を決めると,発注者から建設コンサルタント業者に対し,工事の具体的内容を決める詳細設計を依頼し,当該建設コンサルタント業者はEPSブロック業者に詳細設計への協力を求めるのが通常である。EPSブロック業者は,設計図書のうちEPSブロックの使用に係る部分の図面を作成し,これを無償で提供する。」

 EPSブロック業者をメンバーとする団体の部会では,「設計業務に協力したEPSブロック業者が「頑張った業者」,「汗をかいた業者」であり,設計業務への協力に要した費用等を回収する意味からも,他の業者に優先して当該設計に係る工事に使用されるEPSブロックを販売すべきであると考えられるようになった。」

 EPSブロック業者らは,「特定EPSブロックについて,詳細設計協力業者のうち最終図面を作成した者を受注予定者とし,それ以外の者は受注予定者が受注できるように協力する旨の合意(以下「本件合意」という。)」をした。

(裁判所の判断)

「原告らは,①詳細設計業務はEPSブロックそのものと一体として商品を成しており,建設コンサルタント業者による詳細設計協力業者の選定において実質的な競争が行われること,②本件合意はむしろ資源の効率的分配に資することから,本件合意は「公共の利益に反し」又は「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」の要件を欠くと主張する」が,「EPSブロックの最終需要者である建設業者において,EPSブロックの購入価格に詳細設計業務の対価が含まれているものと認識していたとか,EPSブロック業者に対し詳細設計協力業務を行うことを取引条件に盛り込んでいた等の事情をうかがわせる証拠はなく,「詳細設計業務がEPSブロックそのものと一体の商品を成す」という原告らの主張の前提は,その根拠が不明といわざるを得ない。

 原告らが上記主張において意図する趣旨は,無償で行われる詳細設計協力業務で負担した費用を回収する必要性とその合理性を訴えるものとも推察される。しかし,上記費用を回収するための方策は,飽くまでも公正な競争ルールを前提に,詳細設計協力業務の有償化を含めた別途の方策を通じて検討されるべき事項であり,詳細設計協力業務が無償で行われる慣行があるからといって,本件合意による受注調整を正当化する理由にはならないというべきである。」

 

 


                                                

[参考・判決]

北陸新幹線消融雪設備工事入札談合(事業者)刑事事件

東京地方裁判所判決平261112

裁判所ウェブサイト

独禁法3条後段 

 

「被告会社の弁護人は,本件融雪基地機械設備工事等の予定価格が低く設定されている一方,工事コストが相当高額となる状況にあったから,被告会社は本件談合によって不当に高い利益を貪ったのではないなどと主張する。しかし,独占禁止法は,公正かつ自由な競争を促進し,事業者の創意を発揮させ,事業活動を盛んにすること等をもって,国民経済の民主的で健全な発達を促進すること等を目的としている(同法1条)ところ,本件談合で受注本命業者を決定して参加業者の共存共栄を図ったことによって,事業者間の活発な創意工夫による競争を阻害し,民主的で健全な経済を損なったこと自体が強い非難に値する。」


 

  

[基本・判決]

水道メーター談合刑事事件

最高裁判所平成12925日決定

最高裁判所刑事判例集547689頁、判例時報1729172頁、判例タイムズ1045131頁、最高裁判所裁判集刑事279219頁、裁判所時報12772

独禁法3条後段

*公共の利益

 

「原判決の認定によれば,水道メーターの販売等の事業を営む事業者25社の各営業実務責任者らは,東京都が指名競争入札等の方法により発注する水道メーターの受注に関し,各社が従前の受注割合と利益を維持することを主要な目的とし,過去の受注実績を基に算出した比率を基本にして,幹事会社が入札ごとに決定して連絡する受注予定会社,受注予定価格のとおりに受注できるように入札等を行うことを合意したというのである。

このような本件合意の目的,内容等に徴すると,本件合意は,競争によって受注会社,受注価格を決定するという指名競争入札等の機能を全く失わせるものである上,中小企業の事業活動の不利を補正するために本件当時の中小企業基本法,中小企業団体の組織に関する法律等により認められることのある諸方策とはかけ離れたものであることも明らかである。したがって,本件合意は,「一般消費者の利益を確保するとともに,国民経済の民主的で健全な発達を促進する」という私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の目的(同法1条参照)に実質的に反しないと認められる例外的なものには当たらず,同法26項の定める「公共の利益に反して」の要件に当たるとした原判断は,正当である。

 

[参考]

水道メーター刑事事件東京高裁判決

東京高等裁判所判決平91224

高等裁判所刑事判例集503181頁、判例時報163536頁、判例タイムズ959140頁、東京高等裁判所(刑事)判決時報4811296頁、高等裁判所刑事裁判速報集(9)98

「国又は地方公共団体における売買その他の契約には,大別して,国民の経済的利益ないしは負担,行政の目的達成の利益ないしは負担(結局はこれを通じた国民の利益ないしは負担)及び中小企業を含む事業関係者の利益ないしは負担の3つがかかわっている。したがって,これらの利益が対立する場合において,競争制限の罪の違法性等を判断するにあたっては,法令が認めている価値を中心とした法全体の趣旨によりそれらの利益等の優劣を判断してこれを行わなければならない。

 独占禁止法は,事業活動の不当な拘束を排除することにより公正かつ自由な競争を促進することに法的な価値を認め,これを通じて右の3つの利益を守ることとしているが,本件のように事業関係者全員が談合に加わっている場合には,これを規制することによって主として国民の経済的利益を守るという役割を果たすことになる。また,会計法,地方自治法等は,契約の方法を規制し,競争による入札という方法に高い価値を与え,これによらない随意契約を厳格に制限しているが,本件のような場合には,独占禁止法と同様に,主として国民の経済的利益を守るという役割を果たすことになる。

 他方,事業関係者の利益を守ることを主たる目的とする法令も存在する。所論が指摘する中小企業基本法もその1つであって,ここでは中小企業の成長発展等の目的を達成するため所定の事項について国は政策全般にわたり必要な施策を総合的に講じなければならず,その事項には中小企業の取引条件に関する不利を是正するように過度の競争の防止を図ることが含まれること(3条),地方公共団体は国の施策に準じて施策を講ずるように努めなければならないこと(4条),国は中小企業者が自主的に事業活動を調整して過度の競争を防止することができるようにその組織を整備するなどの施策を講ずるものとすること(17条)などが定められている。

しかしながら,右の中小企業保護の施策は,国又は地方公共団体が講ずるものであって,事業関係者が代替して講ずべきものでないばかりか,それが前記の独占禁止法等が認めている法的価値に優越する場合に初めて,独占禁止法の罰則の適用にあたって違法性阻却事由の原由となるものである。そして,本件の談合は,中小企業を含む事業関係者全員が加わって競争制限を行ったものであって,中小企業の競争からの保護という側面もあったということができるが,水道メーターの入札価格を東京都の予定単価に近いものとすることを内容としている点で,すでに独占禁止法の価値を侵害して国民の経済的利益に反する危険を内包し,これに優越する立場を主張し得るものでないことが明らかであるから,違法性阻却を認めることはできない。なお,東京都は,13で認定したとおり,水道メーターの入札を業者の規模に応じて行うなどして各業者に受注実績に応じた受注の機会を与え,中小企業の保護を図りつつ,その枠内で中小企業同士の競争を促進することとし,もって独占禁止法との調和を図っているのである。」

 


 

 

[基本・判決]

ストレッチフィルム刑事事件

東京高等裁判所判決平成5521

高等裁判所刑事判例集462108頁、判例時報147431頁、判例タイムズ828113頁、東京高等裁判所(刑事)判決時報44132頁、高等裁判所刑事裁判速報集平成549頁、金融・商事判例92325

独禁法3条後段

独禁法89条ほか

*競争の実質的制限の成立

*既遂に達する時期

 

「協調値上げ協定の成立時期については,「事業者が他の事業者と共同して対価を協議・決定する等相互にその事業活動を拘束すべき合意をした場合において,右合意により,公共の利益に反して,一定の取引分野における競争が実質的に制限されたものと認められるときは,独禁法8911号の罪は直ちに既遂に達する」(最2判昭和59224日・刑集3841287頁)と解するのが相当である」。

 

 被告会社8社の各所為は,「独禁法951項,独禁法8911号,3条に,裁判時においては,右改正後の独禁法951項,独禁法8911号,3条に該当するが,右は犯罪後の法令により刑の変更があったときに当たるから,刑法6条,10条により軽い行為時法の刑による」。

被告人15名の各所為は,「独禁法951項,独禁法8911号,3条(被告人清田を除く,被告人14名については,更に刑法60条)に該当する」。


 

 

[基本・判決]

航空タービン燃料審決取消請求事件

東京高等裁判所判決平成21424

審決集56巻第二分冊231

独禁法3条後段

独禁法72

*競争の実質的制限(公共入札における発注者の関与)

 

国の各省庁が売買及び請負等の契約を締結する場合においては,会計法上,原則として,競争に付さなければならないところ,その方法として競争入札の方法を選んだ以上,これにより競争市場が形成されるとともに,これを阻害する行為を行うことはこれに応札する業者はもとより,発注者である国においても許されず,仮に,発注者である国がそのような行為等を行ったとしても,業者においてこれに応ずる義務はないのであって,これによって法による保護の対象となる一定の取引分野における競争が消滅するものではないというべきである。したがって,少なくとも,このような競争を阻害する行為等を発注者である国が指示,主導したものでない以上,競争市場は消滅するものではなく,業者において,このような競争を阻害する行為を行った場合には,一定の取引分野における競争を実質的に制限するものとして,法3条に違反するものというべきである。

 

本件にみられる「入札等の手続の運用は,原告ら業者においても,少なくとも前年度の実績並みの受注割合を確保し,また,価格競争による落札価格の下落を防止することができる等のメリットがあり,原告ら業者においてこれらのメリットを享受しようと意図していたことは明らかであって,このように,双方にとってそれぞれのメリットがあればこそ,上記入札手続の運用が長年にわたって行われ,これが定着して慣行化したものとみられるところ,このような慣行化についても調達実施本部の側に強制的な契機を認めることはできない。なお,このような入札手続等の運用は,当初入札及び商議をいずれも不調とし,新たな入札の1回目において,受注予定会社が最低商議価格で落札することを内容とし,また,このような経過をたどることが予定されたものであって,その限りでは,取引市場における競争を制約し,阻害するものであるから,強行法規である法26項の規定に反するものとして違法であり,このような運用が慣行化していたものであっても,これが法規範としての拘束力を持つものではなく,指名業者である原告らにおいてこれを遵守すべき義務がなかったことはいうまでもない。したがって,調達実施本部にとって上記のメリットがあることをもって,調達実施本部において上記入札手続等の運用を原告らに指示し,主導したものということはできない。」

 

「法542項の「特に必要があると認めるとき」の要件に該当するか否かの判断については,我が国における独禁法の運用機関として競争政策について専門的な知見を有する被告の専門的な裁量判断にゆだねられている(最高裁判所平成16年(行ヒ)第208号平成19419日第1小法廷判決参照)ところ,本件審決は,前記「第2事案の概要」3「本件審決の要旨」(2)において説示するとおりの諸事情等を考慮して,本件排除措置を命じたものである。」原告らは「原告らによる本件違反行為の前提として行われていた調達実施本部の各行為,とりわけ固定経費についての教示及び油種ごとの基準価格についての最低商議価格(指値)の提示等の行為は既に取りやめられているところ,調達実施本部において,被告から入札に係る情報の適正な管理についての周知徹底を図るべき旨等の要請を受けたこと等から,今後これらの行為が行われるおそれがなくなり,本件違反行為等が行われる前提を欠くに至っているのであって,「本件行為と同一ないし社会通念上同一性があると考え得る行為」が行われるおそれは全くないから,本件排除措置を命ずる合理性も必要性もない旨を主張する」が,「原告らによる本件違反行為は,調達実施本部の指示,主導の下に,その利益擁護のために行われたものではなく,原告らにおいて,直接的な価格競争を免れ,安定的に入札物件を受注することができるという原告ら業者自身の利益のために行われたものであること前判示のとおりであり,その間の事情に変化は認められないのであって,この点の原告らの主張は失当である。」

「原告らは,本件違反行為が取りやめられてから既に約10年が経過し,その間,航空タービン燃料については,契約価格が本件当時より大幅に上昇しており,平成18年度第2期からは,指名競争入札に代えて一般競争入札による調達方法が採られるようになるなど市場の状況の変化が著しい旨も主張するが,本件以降も,現実に本件石油製品の入札に参加できるのは,原告ら及びその他の特定の業者に限られており,今後も受注調整が生じやすい参加構成になっている点において全く変わりがない。原告らは,また,原告らの独占禁止法違反歴は,いずれも30年以上も前のものであり,経営者のみならず,経営風土を異にする時期のものである上,本件とは違反類型を異にするものであり,また,原告らは,本件を契機として,折りに触れ,法遵守のための周知徹底措置を講じるなどして本件審決主文記載の措置を実質的には執行済みである旨も主張するが,前者の点については,原告らによる本件受注調整行為が現に行われていることから,また,後者の点については,原告らにおいて本件受注調整行為の違法を否定し,これを争っている上での対応であって,その実効性を保し難いことから,いずれも採用することができない。

本件違反行為が行われた市場の競争状況,市場における事業者間の関係,原告らが本件違反行為を取りやめるに至った経緯,原告らの過去の法の遵守状況,航空タービン燃料の市場の重要性等といった本件審決が認定考慮した前記事情にかんがみれば,被告の上記判断が合理性を欠くものであるということはできず,その裁量権の逸脱又は濫用があったものということはできない。よって,原告らの主張は失当である。」

 


 

[参考・判決]

防衛庁調達石油製品入札談合刑事事件

最高裁判所決定平成171121

最高裁判所刑事判例集5991597頁、判例時報1915158頁、判例タイムズ1197138頁、最高裁判所裁判集刑事288375頁、裁判所時報14009

独禁法3条後段

*競争の実質的制限(公共入札と発注者の関与)

 

発注者である「調達実施本部が指名競争入札を形がい化させて落札価格を決定し,指名業者である被告人会社等は防衛庁に対する石油製品の迅速確実な納入を図るために受注調整会議を開いて納入責任会社を決めていたにすぎないから,指名業者間の価格競争の余地はなく,被告人会社等が実質的に競争を制限したものではない」という主張について、「確かに,・・・当初入札では全件が不調となり,商議を経た後に実施された再入札において,商議の際に調達実施本部から提示されたいわゆる最低商議価格で落札されることが長年続くなど,指名競争入札の運用が形がい化していたと認められる実情にあり,調達実施本部担当官の中には,指名業者の間で何らかの受注調整が行われ,そのために上記のような経過をたどって落札されているのではないかと察知していた者がいたと認められる状況であったのに,同本部は,指名競争入札の運用を改めず,また,担当官においては,指名業者に対し,会計法29条の52項に違反する疑いがあるのに入札書の差し替えを許したり,複数落札入札の際のくじ引で便宜を与えたりするなど,再入札において最低商議価格により落札されることを前提としたような事務手続を行い,事実上指名業者による受注調整を黙認し,それを助長していたことが疑われる。しかしながら,調達実施本部から提示された最低商議価格を基に落札され,指名競争入札制度が形がい化していたとしても,それらは,調達実施本部において,指示,要請し,あるいは主導したものではなく,現に,被告人会社等は,入札における自由競争が妨げられていたというわけではない。しかるに,被告人会社等は,本件指名競争入札において,前年度実績並みの有利な受注を確保するために,当初入札における全件不調,商議を経て,受注できる価格についての情報を得て再入札手続に入るよう受注調整を実施したものであり,このような受注調整が本件指名競争入札における競争を実質的に制限したものであることは明らかであるから,被告人会社等に平成14年法律第47号による改正前の私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律8911号,3条違反の罪の成立を認めた原判断は,正当である。

 

 


 

 

                      

[基本・判決]

岡崎管工(株)による審決取消請求事件

東京高等裁判所判決平成1537

審決集49624

独禁法3条後段

*離脱

 

本件のように受注調整を行う合意から離脱したことが認められるためには,離脱者が離脱の意思を参加者に対し明示的に伝達することまでは要しないが,離脱者が自らの内心において離脱を決意したにとどまるだけでは足りず,少なくとも離脱者の行動等から他の参加者が離脱者の離脱の事実を窺い知るに十分な事情の存在が必要であるというべきである。

原告は,原告が本件合意から離脱した時期は平成12228日以前であると主張するが,「原告が同年228日の入札において受注調整の決定に従わずに自ら落札したものの,同年36日の入札においては受注調整の結果に従って受注予定者の落札に協力していること,同月中旬の段階では,本件合意の中心的役割を担う世話人会においても,ペナルティーとして1年間受注調整に参加させないことを決定したにとどまるものであることや,同月末日ころに作成され,関係者に配布された外線当番表に原告の名前が掲載されていなかったことなどの事情を総合して,本件審決が原告の本件合意からの離脱時期を同月末ころと認定したことに経験則違背や不合理な点はないから,当該事実を立証する実質的証拠に欠けるところはないというべきである。」

 


 

[参考・判決]

(株)タカヤによる審決取消請求事件

東京高等裁判所判決平成231111

審決集58巻第二分冊89

独禁法3条後段 ほか

*離脱

 

原告は,「少なくとも平成14422日の民事再生手続申立後は本件基本合意に参加していない旨を主張」する。原告については,「平成14422日民事再生手続が申し立てられ,同年122日再生計画が可決・認可されたことが認められる」。しかし,[調整・意思連絡が行なわれた]トラスト・メンバーズ「発足当時,同会を発足させ同会の会長となった稲垣は原告の取締役であったこと,平成124月に稲垣が原告を退社した後は,平成148月まで,原告の営業部長であった細川がトラスト・メンバーズの副幹事長を務めていたこと」,「TST親交会の「平成15101日現在」の会員名簿及び「平成1610月現在」の会員名簿に,いずれも「高弥建設株式会社」の「佐々木憲雄」(以下,同人を「佐々木」という。)の名が記載されていること」,平成141113日に開催されたトラスト・メンバーズの役員会において「民事再生手続終了後原告が再び受注調整に復帰して参加することを前提とする討議」されていること,「平成15年度及び平成16年度のTST親交会等の総会に原告から出席した者がいること」,「原告の民事再生手続終了後に入札が行われた物件102124125に関して,原告が受注調整の話合いに参加したことや原告が受注予定者となって他の入札参加者と入札価格に関する連絡を取り合ったことを示すメモ等があること」などからすれば,「原告は,本件期間の当初から本件基本合意に参加しており,本件期間中に民事再生手続の間一時的に受注調整に参加しない時期があったとしても,本件期間中において本件基本合意から離脱していなかったと認定することには合理性が認められ,原告の主張の民事再生手続の存在も,原告が本件基本合意に参加し本件期間中これを離脱したとは認められないとする本件審決の認定が実質的証拠に基づくものであるとの前記(1)の判断を左右するに足りるものではない。」

 


 

[参考・判決]

港町管理審決取消請求事件

東京高等裁判所判決平成21102

審決集56巻第二分冊373

独禁法3条後段ほか

*離脱

 

原告株式会社港町管理(以下「原告港町管理」という。)を代表とする原告3名(原告港町管理・原告株式会社東江建設・原告株式会社富士建設)で結成した特定建設工事共同企業体(以下「港町管理特定JV」という。)が受注した物件について,自由な競争入札によって落札したものであるなどと主張して,排除措置命令中本件物件に関する部分の取消及び原告3名に対する課徴金納付命令書中本件物件の売上額に対応する部分の取消を求めて審判請求した。公取委が棄却したため,本件審決の取消を求めて訴えを提起した。

 

上記物件については,次の事実が認められた。

入札前に,照正組の豊里が「建築1工区と同様,調停により受注予定者を決定することを2者に提案した。しかし,「原告港町管理の国吉は,南風原高校校舎増改築工事(建築1工区)の入札に関する受注調整に関する上記の経緯[港町管理特定JVと國場組特定JVとの間で調整がはかられ,国場組特定JVが落札したことをさす。]があったことから,本件物件についても受注希望を取り下げない國場組の対応に強い不満を抱き,調停の実施に反対する旨述べた。」「国吉は,調停の実施に反対する旨述べた後,他の入札参加者のいる会議室には戻らなかった。」「照正組の豊里は,会議室へ戻り,研究会の参加者に対し,「この物件は取りたい2者(港町管理特定JVと國場組特定JV)だけが競争すればいいのであって,他の皆さんは競争に参加しないでもらいたい。」などと述べ,研究会の参加者に対し,2者だけが受注を目指して入札し,他の入札参加者は基準価格以上の価格で入札することを提案した。研究会の出席者は,照正組の豊里のこの提案に異議を唱えることなく,これを了承した。」この物件は,港町管理特定JVが落札した。

 

「原告らは,受注調整には直接にも間接にも関与していない旨主張する。」「確かに,・・・国吉は,入札直前の時点で会議室の外において調停の実施に反対したあと,他の入札参加者のいる会議室には戻っていない。このことは,国吉において,会議室にいる入札参加者に対し,受注希望を断念させるような働きかけを行っていないといえるのと同時に,本件基本合意によらずに自由競争で入札すべきであると積極的に訴えたわけでもないことになり,本件基本合意による競争制限効果を打ち消す行為を何ら行っていないことになる。

 原告らは,国吉が調停を拒否したこと自体が受注調整の結果を自ら除去したことになると主張するが,それまでの研究会の経緯及び他の入札参加者の入札結果に照らし,調停の拒否がその主張のような効果を発生させたとは到底認めることができないし,それまでの受注調整の影響が消失したともいえないことは明らかである。

 そして,国吉は,港町管理特定JVの代表者である原告港町管理の営業担当者として,連日開催された研究会に参加しているのであり,本件基本合意に基づき原告らを含めた入札参加者間で話合いが行われたが,最終的に2者が受注を希望して調整がつかず,2者を受注予定者と選定することとなったのであって,これらのことからすると,原告らは受注調整に直後に関与したものというほかない。

したがって,土屋企業事件判決に照らしても,本件物件は課徴金の対象となるというべきである。」


 

 

[基本・審決]

日本ポリプロ(株)ほか1名に対する件

課徴金の納付を命ずる審決平成13627

審決集48183

独禁法3条後段

独禁法7条の2

*実行期間の終期

 

「独占禁止法第7条の21項は,実行期間の終期につき,「当該行為の実行としての事業活動がなくなる日」と規定している。不当な取引制限は,違反行為者間の合意による相互拘束状態の下に,競争を実質的に制限する行為をいうから,この終期は,そのような相互拘束力が解消されて,もはや,かような競争制限的な事業活動がされなくなった時点を指すものと解される。したがって,この終期は,典型的には,違反行為者全員が不当な取引制限行為の破棄を明示的な合意により決定した時点や,一部の違反行為者が不当な取引制限の合意から明示的に離脱した時点を指すというべきであり,単に違反行為者の内部で違反行為を中止する旨決定しただけでは足りず,原則として,違反行為者相互間での拘束状態を解消させるための外部的徴表が必要となる。

 しかし,上記のような終期の趣旨にかんがみれば,違反行為者全員の外部的徴表を伴う明示的合意がない場合であっても,違反行為者全員が,不当な取引制限の合意を前提とすることなく,これと離れて事業活動を行う状態が形成されて固定化され,上記合意の実効性が確定的に失われたと認められる状態になった場合には,やはり,当該行為の実行としての事業活動がなくなり,終期が到来したということができる。

 

「本件においては,本件合意成立後3か月弱で立入検査が行われ,その間,被審人らを含む本件違反行為の参加者が値上げに成功した取引先はごくわずかであって,合意に基づく値上げの浸透はいまだその実現途上にあったところ,本件立入検査がなされ,その旨が新聞等で報道された結果,本件合意に基づく値上げを実現することが客観的に困難になり,同日以降,被審人らを含む本件違反行為参加者による値上げの実現状況を確認する等のための会合は開かれなくなり,また,本件合意に基づく値上げ交渉を行ったとの事実も具体的に認めることができないのである。このような事情を総合すると,本件においては,立入検査時以降は,違反行為者全員が,本件合意を前提とすることなく,これと離れて事業活動を行う状態が形成されて固定化され,本件合意の実効性は確定的に失われたと認められる。

そうすると,本件においては,平成12530日の立入検査をもって本件違反行為がなくなったと認められる。したがって,課徴金算定の基礎となる実行期間の終期は,その前日である同月29日となる。」

 


 

 

[基本・判決]

(株)東芝ほか1名による審決取消請求事件

最高裁判所判決平成19419

審決集54657頁、判例時報197281頁、判例タイムズ1242114頁、最高裁判所裁判集民事224123頁、裁判所時報14344

独禁法3条後段

独禁法72

*排除措置命令(既往の違反行為)

 

「独禁法571項は,審決書には,公正取引委員会の認定した事実及びこれに対する法令の適用を示さなければならない旨定めている。本件審決は,同法3条の不当な取引制限の禁止の規定に違反する行為が既になくなっているものの,特に必要があると認めて,同法542項の規定によりされたものであるから,本件審決書には,同項所定の「特に必要があると認めるとき」の要件に該当する旨の判断の基礎となった上告人の認定事実を示さなければならない。この判断と基礎となる事実は,明確に特定されていなくとも,本件審決書の記載を全体として知ることができれば,「基礎となる認定事実が示されている」といえる。

本件違反行為は,被上告人らにおいて,共同して,受注予定者を決定し,受注予定者が受注することができるようにしていた行為である。手段として,担当官等からの情報の提示が行なわれていたが,これは受注予定者を決定するための手段にすぎず,担当官等からの情報の提示がなくとも,被上告人らにおいて,他の手段をもって,共同して,受注予定者を決定し,受注予定者が受注することができるようにすることにより,郵政省が一般競争入札の方法により発注する区分機類の取引分野における競争を実質的に制限することが可能であることは明らかである。「そして,このような見地から本件審決書の記載を全体としてみれば,上告人は,①被上告人らが,担当官等からの情報の提示を主体的に受け入れ,区分機類が指名競争入札の方法により発注されていた当時から本件違反行為と同様の行為を長年にわたり恒常的に行ってきたこと,②被上告人らは,一般競争入札の導入に反対し,情報の提示の継続を要請したこと,③被上告人らは平成91210目以降本件違反行為を取りやめているが,これは被上告人らの自発的な意思に基づくものではなく,上告人が本件について審査を開始し担当官等が情報の提示を行わなくなったという外部的な要因によるものにすぎないこと,④区分機類の市場は被上告人らと日立製作所との3社による寡占状態にあり,一般的にみて違反行為を行いやすい状況にあること,⑤被上告人らは,審判手続において,受注調整はなかったとして違反行為の成立を争っていることという認定事実を基礎として「特に必要があると認めるとき」の要件に該当する旨判断したものであることを知り得るのであって,本件審決書には,独禁法542項所定の「特に必要があると認めるとき」の要件に該当する旨の判断の基礎となった上告人の認定事実が示されているということができる」。

 

独禁法542項の「「特に必要があると認めるとき」の要件に該当するか否かの判断については,我が国における独禁法の運用機関として競争政策について専門的な知見を有する上告人の専門的な裁量が認められるものというべきである。

本件については,「特に必要があると認めるとき」の要件に該当する旨の上告人の判断について,合理性を欠くものであるということはできず,上告人の裁量権の範囲を超え又はその濫用があったものということはできない。

 


 

[基本・判決]

東京海上日動火災保険(株)ほか13名による審決取消請求事件

最高裁判所判決平成17913

最高裁判所民事判例集5971950頁、判例時報19093頁、判例タイムズ1191196頁、最高裁判所裁判集民事217797頁、裁判所時報13955頁、金融・商事判例122957

独禁法3条後段

独禁法第7条の2

*課徴金制度の趣旨

 

独禁法の定める課徴金の制度は,昭和52年法律第63号による独禁法改正において,カルテルの摘発に伴う不利益を増大させてその経済的誘因を小さくし,カルテルの予防効果を強化することを目的として,既存の刑事罰の定め(独禁法89条)やカルテルによる損害を回復するための損害賠償制度(独禁法25条)に加えて設けられたものであり,カルテル禁止の実効性確保のための行政上の措置として機動的に発動できるようにしたものである。また,課徴金の額の算定方式は,実行期間のカルテル対象商品又は役務の売上額に一定率を乗ずる方式を採っているが,これは,課徴金制度が行政上の措置であるため,算定基準も明確なものであることが望ましく,また,制度の積極的かつ効率的な運営により抑止効果を確保するためには算定が容易であることが必要であるからであって,個々の事案ごとに経済的利益を算定することは適切ではないとして,そのような算定方式が採用され,維持されているものと解される。そうすると,課徴金の額はカルテルによって実際に得られた不当な利得の額と一致しなければならないものではないというべきである。

「独禁法7条の2所定の売上額の意義については,事業者の事業活動から生ずる収益から費用を差し引く前の数値を意味すると解釈されるべきものであ」る。

「損害保険契約に基づいて保険者である損害保険会社が保険契約者に対して提供する役務は,偶然な一定の事故によって生ずることのあるべき損害をてん補するという保険の引受けであ」り,「損害保険業においては,保険契約者に対して提供される役務すなわち損害保険の引受けの対価である営業保険料の合計額が,独禁法8条の3において準用する同法7条の2の規定にいう売上額であると解するのが相当である。」

 


 

[基本・判決]

トッパン・フォームズ(株)による審決取消請求事件

最高裁判所判決平成101013

判例時報166283頁、判例タイムズ991107頁、最高裁判所裁判集民事1901頁、裁判所時報12291

独禁法3条後段

独禁法7条の2

*課徴金と罰金の関係,課徴金と国による不当利得返還請求の関係

 

 「本件カルテル行為について,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律違反被告事件において上告人に対する罰金刑が確定し,かつ,国から上告人に対し不当利得の返還を求める民事訴訟が提起されている場合において,本件カルテル行為を理由に上告人に対し同法7条の21項の規定に基づき課徴金の納付を命ずることが,憲法39条,29条,31条に違反しないことは,最高裁昭和29年(オ)第236号同33430日大法廷判決・民集126938頁の趣旨に徴して明らかである。

「原審の適法に確定した事実関係の下においては,実行期問において引き渡した商品の対価の額を合計する方法ではなく実行期間において締結した契約により定められた対価の額を合計する方法により課徴金の計算の基礎となる売上額を算定し,かつ,その際に消費税相当額を控除しなかったことが違法ではないとした原審の判断は,正当として是認することができ」る。

 


 

[基本・判決]

シール談合・国による不当利得返還請求事件

東京高等裁判所判決平成1328

判例時報174296頁、訴訟月報48102353

独禁法3条後段

*課徴金と国による不当利得返還請求の関係

 

不当利得返還制度と課徴金制度の関係について「独占禁止法における課徴金制度は,一定のカルテル行為による不当な経済的利得をカルテルに参加した事業者から剥奪することによって,社会的公正を確保するとともに,違反行為の抑止を図り,カルテル禁止規定の実効性を確保するために設けられたものである。課徴金の納付命令は,右の目的を達成するために,行政委員会である公正取引委員会が,独占禁止法の定める手続に従ってカルテルに参加した事業者に対して課す行政上の措置である。

 独占禁止法は,カルテル行為に対しては別途刑事罰を規定しているから,課徴金の納付を命ずることが制裁的色彩を持つとすれば,それは二重処罰を禁止する憲法39条に違反することになる。したがって,課徴金制度は,社会的にみれば一種の制裁という機能を持つことは否定できないとしても,本来的には,カルテル行為による不当な経済的利得の剥奪を目的とする制度である。そして,このような課徴金の経済的効果からすれば,課徴金制度は,民法上の不当利得制度と類似する機能を有する面があることも否めない。

 しかしながら,課徴金制度は,カルテル行為があっても,その損失者が損失や利得との因果関係を立証して不当利得返還請求をすることが困難であることから,カルテル行為をした者に利得が不当に留保されることを防止するために設けられたものである。そのような制度の趣旨目的からみるならば,現に損失を受けている者がある場合に,その不当利得返還請求が課徴金の制度のために妨げられる結果となってはならない。すなわち,利得者はまず損失者にその利得を返還すべきであり,現実に損失者が損失を回復していないにもかかわらず,利得者が課徴金を支払ったことだけで,損失者の不当利得返還請求権に影響を及ぼすべきものではない。

 控訴人は,課徴金を納付したのは国に対してであり,本件において不当利得返還請求をしているのも国であるから,国はすでに課徴金の支払を受けたことで損失の一部は回復している旨主張する。

 しかし,同じ「国」であっても,課徴金の納付先である「国庫」と,本件の不当利得返還請求権の主体であるいわば公法人として民間の企業と同様の立場に立つ「国」とは区別しなければならない。課徴金が納付されたことは,本件の損失を回復することにはなっていないのである。」

「なお,民法上の不当利得制度において返還を命じられる不当利得と課徴金として剥奪を命じられる不当な利得とは,必ずしも同一範囲のものではない。しかし,利得者が,損失者にすべての利得を返還し,他に剥奪されるべき不当な利得はないにもかかわらず,なおも課徴金が課されるというときには,そのような課徴金の納付命令の合憲性については検討が必要であろう。また,すでに課徴金を納付した後,利得者が損失者にすべての利得を返還したという場合,先に納付した課徴金の扱いについても検討が必要な場合があろう。しかし,それらのことがあるからといって,先の結論を変更するのは,制度全体の整合性を破るものというべきであり,適正な法解釈とはいえない。」

 


 

 [基本・判決]

(株)東芝ほか1名による審決取消請求事件

東京高等裁判所判決平成24217日                                                                                                                                                                                                                                                           

審決集58巻第二分冊127

独禁法3条後段

独禁法7条の2

*課徴金:対価に係るもの,当該商品役務

 

「入札談合の場合には,受注予定者を決定するとともに,受注予定者以外の者は,受注予定者が入札する価格以下の価格で入札しないという合意を当然に包含するものである。この受注予定者の入札価格が談合の関与者に周知されている場合には,受注予定者に特定の価格で落札させることについて合意が存在することになるから,対価に係る合意が存在するということは明らかである。これに対し,本件合意のように,受注予定者以外の者は入札に参加しないという場合には,受注予定者の入札価格が談合の関与者に周知される必要がなく,入札価格が受注予定者以外の者に知らされていなければ,特定の価格についての合意が存在することにはならない。しかし,この場合も,特定の価格が合意されていないとはいえ,入札価格は受注予定者に一任し,それ以下の価格で入札しない(入札に参加しない)という合意をしていることに変わりはなく,この合意は対価に係るものということができ」る。

 

独禁法7条の21項の「「当該商品又は役務」とは,当該違反行為の対象とされた商品又は役務を指すが,入札談合による受注調整の場合にあっては,基本合意の対象となる商品又は役務であることのほかに,基本合意に基づいて受注予定者として決定され,受注するなど,受注調整手続に上程されることによって具体的に競争制限効果が発生するに至ったものを指すと解すべきである。

 

(「原告らは,本件は,独占的買手である郵政省の特定の目的達成のための選択・嗜好に基づく「区分機類」の選別・特定,郵政省内示及び入札前措置並びに入札条件(予備部品条件,短期間納入条件及び接続条件)の設定がされたことにより,郵政省内示を受けなかった原告においては,郵政省内示を受けなかった物件についての製造・供給は,通常の事業の範囲内において,かつ,当該事業活動の施設又は態様に重要な変更を加えることなくすることができる状態ではなかったから,個別物件ごとの競争可能性は存在しなかったと主張しているので,この主張が本件合意に基づく具体的な競争制限効果を否定し,本件各物件の「当該商品及び役務」該当性を否定することになるかを検討する。」「認定事実によれば,①郵政省と原告らとの間では,昭和62年度以降,区分機類の発注について指名競争入札が行われていた頃から,郵政省内示及び入札前措置が行われ,郵政省内示を受けた原告のみが入札に参加することにより,原告らは,価格競争を回避しながら,郵政省の発注額のおおむね半分ずつを安定的に受注しており,そうした事態が長期間継続してきたこと,②平成6年に郵政省から区分機類の発注について一般競争入札を導入することが示された際も,原告らは反対の意向を表明し,原告日本電気は,郵政省内示の継続を要請したこと,③平成71月上旬頃,郵政省は,配備計画どおりに区分機類の納入がされないことは困ることから,郵政省内示を継続することを決めたこと,④平成7年度以降,区分機類の発注について一般競争入札が行われたが,郵政省内示及び入札前措置が継続されたことが認められる。そして,上記(1)で説示したとおり,原告らは,本件合意に基づいた行動を採り,本件各物件を受注している。以上によれば,郵政省が郵政省内示を行い,原告らとの間で入札前措置を行い,原告らがそれぞれ郵政省内示を受けた物件のみの入札に参加して受注するという方法が指名競争入札の時代から長期間継続してきたが,これは配備計画どおりに区分機類を納入したいという郵政省の意向と価格競争を回避して安定的に区分機類を受注したいという原告らの意向が合致していたために,郵政省と原告らが歩調を合わせてきたものというべきである。郵政省が郵政省内示により,一方的に受注者を決定し,原告らがこれに従属せざるを得なかったにすぎないと評価するのは相当ではなく,原告らも自社の利益を図るため,自ら主体的に郵政省内示を受け入れ,郵政省内示のあった物件についてのみ入札し,競争を回避する行動を採るという前提があったからこそ,郵政省内示及び入札前措置が継続されてきたというべきである。郵政省内示,入札前措置,本件合意に基づく入札行動といった,競争入札を形骸化させ,競争を制限する運用は,郵政省と原告らが協調して行ったものと評価できる。」「原告らは,郵政省内示及び入札前措置を前提とする現実の入札条件(予備部品条件,短期間納入条件及び接続条件)の下では,郵政省内示を受けなかった原告には競争可能性がなかったと主張する」が,「郵政省内示,入札前措置を前提として現実に設定された入札条件(予備部品条件,短期間納入条件及び接続条件)については,郵政省と原告らが協調して競争を制限する運用を行っていた結果として設けられたもの(短期間納入条件及び予備部品条件)か,もともと技術的には競争可能なところを原告らが競争を行う意思がなかったもの(接続条件)というべきであって,これらの入札条件は,競争可能性を否定する客観的条件とはいえない。したがって,これらの入札条件の存在は,本件各物件につき,本件合意に基づく具体的な競争制限効果が及んでいることを否定するような事情とはいえず,本件各物件は,「当該商品及び役務」に該当するものと認められる。」

 

「課徴金賦課の要件として,明文のない故意等の主観的要素は不要」である。

「独禁法7条の2は,課徴金賦課の要件として,事業者又はその従業員の故意,過失,違法性の認識,違法性の認識可能性といった主観的要素を要求しておらず,課徴金制度が,既存の刑事罰とは別個に独禁法違反行為を抑止するための行政上の措置として設けられているという趣旨に照らすと,立法論は別として,これら主観的要素を要件とすべきことが憲法上要請されていると解することはできない。」

「原告らは,課徴金制度の趣旨が,事業者の独禁法違反を犯そうとする意欲を減少させて違反行為を抑止することにあり,行動を思いとどまらせるには,行為者の意思に働きかけることが必要不可欠であるから,課徴金を賦課するには故意等の主観的要素が必要である旨主張する」が,「課徴金制度の趣旨が金銭的不利益を課して違反行為を抑止することにあるからといって,課徴金賦課の要件として故意等の主観的要素が当然に要求されるとはいえない。故意等の主観的要素を要件としない課徴金制度であっても,それが存在することにより,違反行為を抑止する効果は期待できるし,違反行為の抑止を目的として不利益を課す行政上の措置を設ける場合には,必ず故意等の主観的要素を要求しない限り,不当な制度であって憲法に違反することになるともいえないのであって,この点に関する原告らの主張には理由がない。」

 


  

[基本・判決][事例]

土屋企業(株)課徴金納付命令審決取消請求事件

東京高等裁判所判決平成16220

金融・商事判例118928

独禁法3条後段

独禁法7条の2 

*課徴金:当該商品役務

 

独占禁止法7条の21項は,事業者が商品又は役務の対価に係る不当な取引制限等をしたときは,公正取引委員会は,当該事業者に対し,実行期間における「当該商品又は役務」の売上額を基礎として算定した額の課徴金の納付を命ずる旨を規定している。そして,「当該商品又は役務」とは,当該違反行為の対象とされた商品又は役務を指し,本件のような受注調整にあっては,当該事業者が,基本合意に基づいて受注予定者として決定され,受注するなど,受注調整手続に上程されることによって具体的に競争制限効果が発生するに至ったものを指すと解すべきである。そして,課徴金には当該事業者の不当な取引制限を防止するための制裁的要素があることを考慮すると,当該事業者が直接又は間接に関与した受注調整手続の結果競争制限効果が発生したことを要するというべきである。

 

1. 原告(土屋企業株式会社)は,Xらとともに,受注価格の低落防止を図るため,合意(基本合意という。)に基づいて,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにするという受注調整を行うことにより,町田市発注の土木工事の取引分野における競争を実質的に制限した。

2. 原告は,前記1の行為について,不当な取引制限行為を行っていたとして,公取委から審決により課徴金の納付(課徴金586万円)を命じられた。

3. 前記課徴金納付命令の対象役務には,原告が落札し契約した4件の道路工事が含まれていた。

4. この4件の道路工事中,1件の道路工事(以下「たたき合い物件」という。)の原告による落札については,(1)Xは基本合意によれば自社が受注予定者となるべき物件であると考えこの意向を談合参加他社に伝えたところ,(2)原告は「仕事がないので受注したい。」として自らが受注する希望を示し,(3)原告とXの間で話し合いがもたれたものの決裂し,(4)Xは原告以外の指名業者に自己の入札価格を連絡した上で入札に臨んだが,(5)原告は他の指名業者とは連絡をとらず入札価格の連絡も行わないまま入札に臨み,(6)この結果,入札ではXと原告とのたたき合いとなって,(7)結局原告が相当廉価で落札したという経緯があった。

5. 原告は,たたき合い物件を対象役務としたことは法令に反する等として審決の取消を求めた。

 

裁判所の判断

原告は,「本件基本合意に参画したけれども,当該工事については,本命と目された[X]との2社間の話合いの場で,「仕事がないので受注したい,」との一点張りで対応し,本件基本合意に基づく調整を明確に拒絶して,その話合いを決裂させ,自らは他の指名業者に対し協力依頼や入札価格の連絡をしないで,他の指名業者及び[X]の入札価格に比べて相当低い価格で入札し,落札したのである。このような事情の下においては,たとえ,[X]が原告以外の他の指名業者に自己の入札価格を連絡して協力を依頼し,他の指名業者がこれに応じて[X]の入札価格よりも高い価格で入札するという具体的な競争制限行為が行われ,原告においてもそのような受注調整手続が進行しつつあることを知っていたなどの事情があったとしても,原告が直接又は間接に関与した受注調整手続によって具体的な競争制限効果が発生するに至ったものとはいえないから,当該工事は課徴金の対象となるとはいえない。」

したがって,本件たたき合い物件は「課徴金の対象となるものではなく,これを課徴金の対とした本件審決の判断は,独占禁止法7条の21項に違反するものであり,同法822号により取消しを免れない。」 

 


 

[参考・判決]

日本道路興運(株)による審決取消請求事件

東京高等裁判所判決平成2439

審決集58巻第二分冊200

独禁法3条後段

独占禁止法7条の2

*課徴金:当該商品役務

 

いわゆる入札談合の事案における課徴金の算定に当たっては,基本合意の対象となった商品又は役務のうち個別の入札において基本合意の成立により発生した具体的な競争制限効果が及んでいると認められるものは,独占禁止法7条の21項所定の「当該商品又は役務」に含まれると解するのが相当であるから,個別の入札に関する具体的な意思の連絡行為等の立証ないし認定がされること自体は必ずしも必要ではないというべきである。

 


 

[参考・判決]

(株)タクマによる審決取消請求事件

東京高等裁判所判決平成231111

審決集58巻第二分冊109

独禁法3条後段

独禁法7条の2

*課徴金:当該商品役務

 

独占禁止法7条の21項にいう「「当該商品又は役務」とは,原則として,不当な取引制限の対象とされた商品又は役務全体を指すものと解すべきであるが,本件合意のような入札談合の場合には,自由な競争を行わないという,不当な取引制限に該当する意思の連絡による相互拘束たる基本合意の対象となった商品又は役務全体のうち,個別の入札において,当該事業者が基本合意に基づいて受注予定者として決定されて受注するなど,基本合意の成立により発生した競争制限効果が及んでいると認められるものをいうと解すべきである。」

「すなわち,仮に,個別の入札について,当該事業者が受注予定者として決定されるに至った具体的経緯まで証拠によって認定することができないとしても,当該入札の対象となった役務又は商品が本件合意の対象の範囲内のものであって,これにつき受注調整が行われたこと及び事業者である原告が受注したことが認められれば,特段の反証がない限り,原告が直接又は間接に関与した受注制限手続の結果,競争制限効果が発生したものと推認するのが相当である。

この点に関し,原告は,そのような推認が許されるとすれば,入札談合案件の課徴金審判において,対象となる全ての個別物件について落札者が直接又は間接に受注調整に掲与したと推定されることになり,結果的に,被審人側は,対象物件全てについて受注調整への不関与という不存在事実の証明(悪魔の証明)を強いられることになると主張する。しかしながら,自社が入札に参加して受注した工事について,それが本件合意の対象となるものであったか否か,また,本件合意の対象から除外されたか否かについて,その事実関係を最もよく把握しているのは原告であるから,原告は,当該入札については本件合意の対象から除外されたという事実等を具体的に主張立証して十分に反証をすることが可能であって,それは不存在事実の証明を強いるものではないというべきである。」

 

「入札手続にアウトサイダーが参加している場合であっても,そのことのみによって直ちに基本合意による競争制限効果が失われるということはできず,具体的な入札行動等に照らし,基本合意による競争制限効果が失われ,実質的な競争が行われたと認められるか否かを判断すべきである。」

 

 

「独占禁止法7条の26項は,「当該審判手続が終了した日から1年を経過したとき」は,課徴金の納付を命ずることはできないと定めている。同法がこのような除斥期間の規定を設けた趣旨は,適正迅速な行政事務の遂行を確保するとともに,排除措置命令に不服のある被審人の利益にも配慮し,当該排除措置命令について審判が開始された場合には,同命令に係る違反事実の存否についての被告の判断が示されるまでは,課徴金の納付を命ずることができないこととし,その一方で,いったん上記の被告の判断が示されたときには,速やかに課徴金の納付を命ずることとして,これを被告に義務付け,これにより法律関係の早期安定を図ろうとしたことにある。そうすると,上記の被告の判断は審決の形式をもって示されるのであるから,独占禁止法48条の21項ただし書及び7条の26項にいう「審判手続が終了した」ときとは,被告の終局判断である審決が行われた時点を指すと解するのが相当である。」

本件において,本案審決は平成18627日に行われており,本件課徴金納付命令は平成19323日にされているのであるから,同命令は当該審判手続が終了した日から1年を経過する前に発せられたものであり,除斥期間を経過していない。

 


 

[参考・判決]

日立造船(株)による審決取消請求事件

東京高等裁判所判決平成2432

審決集58巻第二分冊188

独禁法3条後段

独禁法7条の2

*課徴金:当該商品役務

 

「独占禁止法7条の21項」「にいう「当該商品又は役務」とは,原則として,不当な取引制限の対象とされた商品又は役務全体を指すものと解すべきであるが,本件合意のような入札談合の場合には,自由な競争を行わないという不当な取引制限に該当する意思の連絡による相互拘束たる基本合意の対象となった商品又は役務全体のうち,個別の入札において,当該事業者が基本合意に基づいて受注予定者として決定されて受注するなど,基本合意の成立により発生した競争制限効果が及んでいると認められるものをいうと解すべきである。」

「基本合意(本件合意)の存在を前提とし,当該基本合意に基づき受注予定者が決定された事実が認められる場合には,それが推認によるときであっても,基本合意の参加者が直接又は間接に受注調整に関与したことの推認が働くことはいうまでもないから,個別の入札ごとに受注予定者が決定された際の具体的な経緯までを証拠によって明らかにしなければ,基本合意の参加者が受注調整に関与したことが認定できず,ひいて「当該役務」に該当すると認定できないと解すべき理由はない。」

「自社が入札に参加して受注した工事について,それが本件合意の対象となるものであったか否か,また,本件合意の対象から除外されたか否かについて,その事実関係を最もよく把握しているのは原告であるから,原告は,当該入札については本件合意の対象から除外されたという事実等を具体的に主張立証して十分に反証をすることが可能であって,それは不存在事実の証明を強いるものではないというべきである。」

 

 

 


   

[判決]

積水化学工業(株)による審決取消請求事件

東京高等裁判所平成29630

公正取引委員会審決集62359頁,判例タイムズ144876

*課徴金減免制度の趣旨

 

課徴金減免制度は,減免によって違反事業者が自ら被告に申告するインセンティブを高め,違反行為の発見及び事案の解明を容易にすることによって,違法状態の解消及び違反行為の抑制を図ろうとする制度である。直接的には,証拠収集を容易にして違反行為の摘発を促進するものであるが,この制度により,一刻も早い申請を促してカルテルの崩壊を早めたり,カルテルの締結自体を困難にしたりするなど,摘発率の向上による違反行為の抑止効果を発揮させることなども意図されて,平成17年の独占禁止法の改正により導入されたものである。

 独占禁止法上の課徴金減免制度は,予め定められた基準に従い非裁量的に適用される取引的要素のない制度であり,被疑者が特定の情報提供等を行う見返りとして取引的に処分が軽減されるものではない。また,証拠収集の容易化と抑止効果の発揮を目的とする行政上の措置であって,被告に対して協力的な態度をとったなどの違反事業者の情状を考慮するものではない。

 減免の対象となるのは,不当な取引制限に該当し,課徴金納付命令の対象となる違反行為であり,減免が認められるのは,本件当時は(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律(平成21年法律第51号)による改正前のもの),申請順位が3番目の事業者までであった。課徴金を納付すべき事業者が,「調査開始日」の前日までに,「単独で」「当該違反行為に係る事実の報告及び資料の提出」を行った場合は,失格事由に当たらない限り,第1位申請者は課徴金を全額免除され,第2位は50パーセント,第3位は30パーセントの減額がされる(独占禁止法7条の27項・8項)。ここにいう「調査開始日」とは,立会調査(同法4714号),臨検・捜索・差押え(同法1021項)が最初に行われた日などをいう。

 減免の申請は単独で行わなければならず,報告書を提出して減免の申請を行った事業者は,「正当な理由なく,その旨を第三者に明らかにしてはならない」(「課徴金の減免に係る報告及び資料の提出に関する規則」(以下「減免規則」という。)8条)とされているが,親会社や弁護士に報告することは正当な理由にあたると解されている。

 申請を行うことを決定した事業者は,まず,違反行為の概要を記載した「様式第1号による報告書」を提出して,被告から当該報告書の提出順位及び「様式第2号による報告書」の提出期限の通知を受ける。次いで,当該期間内に,「様式第2号による報告書」による報告及び資料の提出を行う。ここで求められるのは,「違反行為に関与した個人が知っていた情報を含め,違反行為者であれば知り得る情報」の提出であり,したがって,事業者は,違反行為に関係した個人に対する詳細な聞き取り調査を行い,関連するすべての文書や記録を収集して精査するなど,可能な限り包括的で実効性のある社内調査を行い,これに基づいて報告・資料の提出を行わなければならないとされている。課徴金減免制度における事業者から被告への報告は,その時点で公表されることはないが,企業の代表者名をもって行われる公式の行為であり,企業内部の意思決定が必要である。

 減免の申請が行われた後,被告は申請事業者に対し,当該違反行為に係る追加の報告・資料の提出を求めることができ,この報告要求に応じなかった事業者は減免を受ける資格を失う(独占禁止法7条の211項,122号)。また,申請時に報告・提出した資料に「虚偽の内容が含まれていた」場合,又は,追加の報告要求に対して「虚偽の報告若しくは資料の提出をした」場合には,減免を受ける資格を失う。

減免の申請をして調査に協力した事業者は,失格事由に該当しない限り,排除措置命令及び課徴金納付命令に際して,免除又は減額の処分がなされる。免除の場合には,他の違反行為者に対して課徴金納付命令をする際に,当該事業者に対し納付を命じない旨の通知がなされ,減額の場合には,所定の額を控除した課徴金納付命令がなされる。独占禁止法7条の212項の欠格事由は,免除の通知ないし減額された納付命令がなされるまでの間に判明したものに限定されているから,被告は,事後にこれを取り消すことはできない。

 調査開始日前の1番目に減免の申請を行った事業者で,失格事由に該当しない者に対しては,被告による刑事告発は行われない。当該事業者の役員,従業員等についても基本的には同様であり,事業者として調査に協力しているにもかかわらず,個人として協力を拒否しているなどの事情がない限り,告発されることはない([公取委]告発・犯則調査方針1)。」

 

「課徴金減免申請者の従業員の供述の信用性評価

 以上によれば,事業者にとって課徴金減免申請を行うことは,それによって課徴金の減免の利益を受けられる可能性がある反面,違法行為に関与したことを自ら認めることにより,刑事責任や民事責任を追求される可能性のみならず,取引先や株主その他のステークホルダーからの厳しい批判に曝され,企業としての社会的信用を大きく失墜させる恐れもあることは容易に想像されるところである。しかも,課徴金減免制度の申請手続は既に述べたとおりであり,課徴金減免を申請する事業者は,コンプライアンス部門が関与するなどして,弁護士の援助等も受けて,違反行為に関係した個人に対する詳細な聞き取り調査を行い,関連するすべての文書や記録を収集して精査するなどして,可能な限り包括的で実効性のある社内調査を行い,これらを踏まえて,正式な社内決裁を経て,代表者名で申請を行うものであることからすると,事業者が真に違法行為に関与していないにも関わらず,あえてこれを認めて課徴金減免申請を行い,あるいは,疑わしい行為があればとにかく課徴金減免申請をしておくということは,通常は考え難いことである。

 原告は,課徴金減免申請者は単なる情報交換であってもそれをカルテルとして供述する危険があるとか,課徴金減免申請者やその従業員は,首尾良く独占禁止法違反が認定されれば自らの免責が約束される立場にあるから,独占禁止法違反を構成する「ストーリー」に沿った供述を行う強いインセンティブを有していると主張する。しかしながら,既に見たように,課徴金減免制度は,予め定められた基準に従い非裁量的に適用される取引的要素のない制度であって,被疑者が特定の情報提供等を行う見返りとして取引的に処分が軽減されるものではなく,被告に対して協力的な態度をとったなどの違反事業者の情状を考慮する余地のないものであり,さらに虚偽申告に対しては課徴金減免が認められないことからして,課徴金減免申請者及びその従業員が,自らの関与を超えて被告の調査に迎合すべき理由は乏しいというべきである。また,そもそもカルテルの合意が存在しないのであれば,課徴金を納付する必要もないのであるから,事業者において,カルテルの合意が存在しないにもかかわらず,これが存在すると虚偽の申告をする合理的な理由は想定し難いし,その従業員が客観的には存在していないカルテルの合意をこれが存在すると敢えて虚偽の供述を行うべき必要性も通常は見出し難い。カルテルの合意の成立のためには合意の相手方である他社の存在が必要であるところ,仮にカルテルの範囲を拡大して無関係な第三者を巻き込んだところで,課徴金の減免が受けられるかどうかは,減免の申請順位次第であり,また,これによって課される課徴金の多寡には影響がないことから,刑事事件で見られるとされるように,犯罪者が自らの刑責を軽減するために虚偽の供述をして,本来は無関係な第三者を共犯として巻き込むという構造は見出し難い。」

 

 


 

 

[参考・判決]

愛知電線(株)による審決取消請求事件

東京高等裁判所判決平成251210

審決集60巻第二分冊108

独禁法3条後段

独禁法7条の2

*課徴金:減免制度

 

1. 愛知電線株式会社(以下「原告」という。)は,VVFケーブルの取引に関して独禁法26項に該当し3条後段に反する行為を行ったとして排除措置命令及び課徴金納付命令を受けた。

2. 公取委は,平成211217日に,架橋ポリエチレン絶縁ビニルシースケーブルを含む3品目(以下,「3品種」という。)を製造販売する原告以外の事業者への立入検査を行っていた(1次立入検査)。原告は,平成22413日に,公取委による立入検査を受けた(2次立入検査)。

3. 原告は,2次立入検査の行われた日に独禁法7条の212項の課徴金減免制度に係る事前相談をしたが,公取委は,報告の期限を経過しており報告はできないと回答した。

4. 公取委は,3品種について,平成221118日に排除措置命令及び課徴金納付命令を下し,VVFケーブルに関しては,平成23722日に原告を含む排除措置命令及び課徴金納付命令を下した。3品種にかかる命令において違反行為者として特定された事業者の中には,原告は含まれていなかった。VVFケーブルにかかる命令において違反行為者として特定された事業者の中には,3品種について違反行為者として特定され1次立入検査を受けた者が含まれていた。

5. 愛知電線は,1次立入検査では3品種だけが違反行為とされておりVVFケーブルに関する違反行為は被疑事実とされていなかったのであって前記3の回答は違法であったとして,課徴金納付命令の取消しを求めて審判を請求した。公取委は審判請求を棄却するとの審決をし,原告が審決の取消しを求めて提訴した。

 

裁判所の判断

課徴金減免制度は,「公正取引委員会の調査に全面的に協力して報告等を行った違反事業者に対し,その報告等の順番に応じて機械的に課徴金の減免を認めることにより,密室で行われて発見,解明が困難なカルテル,入札談合等の取引制限行為の摘発や事案の真相究明,違法状態の解消及び違反行為の防止を図るという趣旨に出たものである。」「また,当該違反行為に係る調査開始日より後に報告等を行った者についても,調査開始日から起算して20日を経過した日までの間に報告等を行った場合においては,調査開始日前に行った者との合計が5社に満つるまでに限り,最大で3社を上限として,30%を減額するが,この場合にも,報告等の内容が既に公正取引委員会によって把握されている事実に係るものではないことを要する(同条第12項)。調査開始日より後にされた報告等につき期間を限定して課徴金減免制度の適用の余地を認めた趣旨は,調査開始後であっても,一定期間内に違反事業者が当該違反事実に係る報告を自ら取りまとめて提出し,公正取引委員会の把握していない事実が明らかになれば,事件の全容の解明に資することとなって減額を認めることになお合理性があるものの,公正取引委員会による調査が進んだ後において報告等が行われても事案の解明に資することにはならないというものと解される。

 以上のように,課徴金減免制度の適用の有無及び内容は,当該違反行為に係る違反事業者が何番目に報告等を行ったか,当該事業者より前に報告等を行った事業者が何社あったか,さらに調査開始日より後の報告等についてはその内容が既に公正取引委員会が把握している事実に係るものか否かといった,違反事業者自身は事前に知り得ない多分に偶然的ともいえる事情によって左右されるものである。そして,その順番の基準となる違反行為の範囲についても,報告等を行い又は行おうとする事業者の主観的認識とは無関係に,専らその時点で公正取引委員会によって把握されていた範囲によって画されるというべきである。」

「特定VVFケーブルと3品種とは,・・・材質,性能,用途,使用場所等で密接な関係があり,取引通念上一連一体をなす取引を構成するものということができるのであって,法の適用上,特定VVFケーブルと3品種とで別個の取引となるということはできない。したがって,1次立入検査において違反行為とされていたのは3品種の取引制限行為のみでなく,特定VVFケーブルの取引制限行為(本件違反行為)も対象とされていたということができる。」「それ故に,1次立入検査を受け,別件排除措置命令で3品種に係る取引制限行為を認定された矢崎総業は,原告ら7社と共に本件排除措置命令の名宛人ともされており,同じく1次立入検査を受け,3品種に係る取引制限行為を認定された住電日立ケーブルほか2社も,本件排除措置命令の理由中で本件合意に加わったことが認定されているのであって,いずれも本件違反行為についても違反行為者とされているのである。」

「以上によれば,1次立入検査において特定VVFに関する本件合意についても調査の対象となる違反行為に含まれていたということができるから,法7条の212項にいう本件違反行為の「調査開始日」は1次立入検査の日である平成211217日であると認めるのが相当である。そうすると,課徴金減免規則5条が定める法4714号に掲げる処分が最初に行われた日である同日から起算して20日を経過した日より後の平成22413日にされた原告の事前相談に対し,被告が課徴金減免規則による報告等の期限が既に経過していて原告から報告等があっても受け付けられない旨の本件回答をしたことが違法,不当とは認められず,原告の主張はこの点で既に理由がない。」

 


 

[基本・判決]

橋梁談合(三地整)刑事事件

東京高等裁判所判決平成19921

審決集54773

独禁法3条後段

独禁法89条ほか 

*継続犯,包括一罪,共犯関係からの離脱

 

「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律8911号,3条所定の不当な取引制限の罪は,事業者間の相互拘束行為が実行行為に当たるだけではなく,その相互拘束行為に基づく遂行行為も別個の実行行為に当たると解される(東京高裁平成16324日判決・判例タイムズ1180136頁,東京高裁平成91224日判決・判例時報163536頁参照)。本件における相互拘束行為は,一定の者(三地整発注の鋼橋上部工事についてはK会及びA会の正副常任幹事会社の担当者ら,JH発注の鋼橋上部工事についてはg)が,従前の受注実績等を考慮して受注予定会社を決定するとともに,当該受注予定会社が受注できるような価格等で入札を行う旨合意することであり,相互拘束の合意成立の時点で不当な取引制限の罪は成立する。また,本件における遂行行為は,相互拘束の合意に従って,受注予定会社を決定することであり(上記東京高裁平成16324日判決参照),受注予定会社の決定を行った時点で不当な取引制限の罪が成立する。そして,相互拘束行為がされ,その後にこれに基づく遂行行為もされた場合には,不当な取引制限の罪の包括一罪が成立すると解される。

 

不当な取引制限の罪は継続犯と解される(上記東京高裁平成91224日判決参照)。そして,一般に,継続犯の場合には,犯罪遂行の危険が現実化した上に,そのままの状態を放置しておけば犯罪が継続していくという関係にあることから,犯行継続中における共犯関係からの離脱が認められるためには,客観的に見て犯行の継続阻止に十分な措置をとることが必要である(監禁罪に関する東京高裁昭和4646日判決・判例タイムズ265280頁参照)。したがって,継続犯である不当な取引制限の罪においても,犯行継続中における共犯関係からの離脱が認められるためには,行為者が犯行から離脱する旨の意思を表明し,これに対して他の共犯者らが特段の異議をとなえなかったというだけでは足りず,行為者において客観的に見て犯行の継続阻止に十分な措置をとることが必要というべきである。

 

 

「被告会社株式会社宮地鐵工所(以下「被告会社宮地鐵工」という。),被告会社三菱重工業株式会社(以下「被告会社三菱重工」という。)及び被告会社新日本製鐵株式会社(以下「被告会社新日鐵」という。)の3社(以下,第1の事実において「被告会社3社」という。)は,三地整発注に係る鋼橋上部工事(ただし,港湾・空港関係を除く。)の請負等の事業を営む事業者であり,被告人b(以下「被告人b」ともいう。)は,被告会社宮地鐵工の営業本部理事橋梁営業部長兼調査業務部長等の地位にあり,その所属する被告会社宮地鐵工の従業者として三地整発注に係る鋼橋上部工事の受注等に関する業務に従事していた者であるところ,」「上記b,被告会社三菱重工に所属して上記同様の業務に従事していたe及び被告会社新日鐵に所属して上記同様の業務に従事していたf3名は,上記同様の事業を営むその他の事業者46社にそれぞれ所属して上記同様の業務に従事していた者(以下,第11の事実において,これらの者の所属する会社46社と被告会社3社とを合わせて「被告会社等49社」という。)と共に」,合意に基づいて受注予定会社を決定することにより,三地整が平成15年度に競争入札の方法により発注する鋼橋上部工事の受注に関し,被告会社等49社の事業活動を相互に拘束し,遂行することにより,公共の利益に反して,三地整が平成15年度に競争入札の方法により発注する鋼橋上部工事の受注に係る取引分野における競争を実質的に制限し,

「被告人b,上記e及び上記f3名は,上記同様の事業を営むその他の事業者44社にそれぞれ所属して上記同様の業務に従事していた者(以下,第12の事実において,これらの者の所属する会社44社と被告会社3社とを合わせて「被告会社等47社」という。)と共に」,合意に基づいて受注予定会社を決定することにより,三地整が平成16年度に競争入札の方法により発注する鋼橋上部工事の受注に関し,被告会社等47社の事業活動を相互に拘束し,遂行することにより,公共の利益に反して,三地整が平成16年度に競争入札の方法により発注する鋼橋上部工事の受注に係る取引分野における競争を実質的に制限し」た。

 

離脱について,「〔1〕被告会社三菱重工では,平成16105日に公正取引委員会の立入検査が開始された後,社長の指示により,会社として入札談合への関与を即刻止めることを決定し,担当者であった被告人eらに対し,直属の上司からその旨の強い指示がされたこと,〔2〕被告人eは,公正取引委員会の立入検査が開始された後の平成161020日ころ,K会の常任幹事会社であった横河ブリッジの応接室において,同社の担当者であったhと面会し,鋼橋上部工事の入札談合から離脱する旨告げたこと,〔3〕さらに,被告人eは,A会の常任幹事会社であった川田工業の担当者であったjK会の副常任幹事会社であった被告会社宮地鐵工の担当者であった被告人bK会の副常任幹事会社であった石川島播磨重工の担当者であったk等に対し,同様の趣旨を個別に伝えたこと,〔4〕その後,被告人eを含む被告会社三菱重工の担当者らが,三地整及びJH発注の各鋼橋上部工事の入札談合に積極的に関与した事実はないこと,が認められる」が,「被告人eは,公正取引委員会の事情聴取に対し,部下の担当者らとともに,三地整発注の鋼橋上部工事等について入札談合はなかった旨虚偽の事実を述べていたこと,被告人ehとの上記面会以降,被告人eを含む被告会社三菱重工の担当者ら等が,K会及びA会の会員会社各社に対し,遂行行為を止めるように働きかけた事実はなく,現にK会及びA会の会員会社各社が入札談合を継続しているのを放置していたことが認められる。これらによると,被告人eを含む被告会社三菱重工の担当者ら等において,客観的に見て犯行の継続阻止に十分な措置をとったとはいえない」のであり,「被告会社三菱重工及び被告人eが,平成16105日以降,共犯関係から離脱したとは認められない。」

 

「被告会社宮地鐵工及び被告会社三菱重工の・・・各所為,被告会社新日鐵の・・・各所為は,いずれも私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)9511号,8911号,3条に該当するところ,以上はいずれも刑法45条前段の併合罪であるから,同法482項により各罪所定の罰金の多額を合計した金額の範囲内で,被告会社宮地鐵工を罰金6億円に,被告会社三菱重工を罰金56000万円に,被告会社新日鐵を罰金16000万円に,それぞれ処し,訴訟費用については,刑事訴訟法1811項本文により,その5分の1ずつを被告会社各社に負担させることとする。」

「被告人bの・・・の所為,被告人eの・・・各所為は,いずれも刑法60条,独占禁止法9511号,8911号,3条に該当するところ,被告人両名について各所定刑中いずれも懲役刑を選択し,被告人eについては,以上は刑法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により,犯情の重い判示第22の罪の刑に法定の加重をし,被告人bについてはその所定刑期,被告人eについてはその処断刑期の範囲内で,被告人両名をそれぞれ懲役1年に処し,情状により同法251項を適用して,被告人両名に対し,この裁判が確定した日から3年間それぞれその刑の執行を猶予し,訴訟費用については,刑事訴訟法1811項本文により,その5分の1ずつを被告人両名に負担させることとする。」

 

 


 

[基本・判決]

下水道事業団刑事事件

東京高等裁判所判決平8531

高等裁判所刑事判例集492320頁、判例タイムズ912139頁、東京高等裁判所(刑事)判決時報4711271頁、高等裁判所刑事裁判速報集(8)91

独禁法3条後段

独禁法89条ほか

*発注者の刑事責任(幇助)

*不可罰的事後行為

 

「被告会社株式会社日立製作所,同株式会社東芝,同三菱電機株式会社,同富士電機株式会社,同株式会社明電舎,同株式会社安川電機,同日新電機株式会社,同神鋼電機株式会社及び同株式会社高岳製作所は,いずれも日本下水道事業団発注に係る電気設備工事の請負等の事業を営む事業者であ」る。

「被告人aは,日立製作所の公共営業本部公共営業推進部部長代理,同bは,同社の電力事業本部調査部部長代理として,・・・同oは,神鋼電機の営業総本部営業企画部調査担当課長として・・・,それぞれが所属する被告会社において電機設備工事の受注等の業務に従事していた」。

「被告人rは,日本下水道事業団(以下「下水道事業団」という。)の工務部次長として,下水道事業団において電気設備工事の発注等の業務に従事していた」。

 

「被告人a,同b,同c,同d,同e,同f,同g,同h,同i,同j,同k,同l,同m,同n,同o,同p及び同qは,同一被告会社に所属する被告人らにおいては相互に共謀の上,それぞれの所属する被告会社の業務に関し,平成5年度に下水道事業団が指名競争入札の方法により新規に発注する電気設備工事について,・・・競争を実質的に制限して,不当な取引制限をし」た。

「被告人rは,前記のとおり,被告人a17名がそれぞれの所属する会社の業務に関し,平成5年度に下水道事業団が指名競争入札の方法により新規に発注する電気設備工事について,工事件名,予算金額等を基に,あらかじめ定めた配分比率,配分手続等に従い,右の新規発注に係る電気設備工事を被告会社9社にそれぞれ配分して受注予定会社を決定するとともに受注予定会社が落札して受注できるような価格で入札することを合意するに際し,その情を知りながら,同年5月中旬ころ,東京都港区虎ノ門2丁目313号下水道事業団事務所において,被告人gらに対し,工事件名,予算金額等を教示し,もって同被告人ら17名の前記犯行を容易にしてこれを幇助した。」

「被告会社9社・・・の各所為は,いずれも独占禁止法9511号,8911号,3条に該当する」。

「被告人a・・・の各所為は,いずれも独占禁止法9511号,8911号,3条(被告人oを除くその余の被告人16名については,・・・刑法60条)に該当する」。

「被告人rの・・・所為は,・・・刑法621項,独占禁止法9511号,8911号,3条に該当するところ,所定刑中懲役刑を選択し,右は従犯であるから右改正前の刑法63条,683号により法律上の減軽をした刑期の範囲内で同被告人を懲役8月に処し,情状により同法251項を適用してこの裁判の確定した日から2年間その刑の執行を猶予することとする。」

 

弁護人らは「受注調整のルールに関しては,平成2年に基本的な合意が成立しており,仮にこの合意が不当な取引制限に当たるとしても,その時点で独占禁止法違反の犯罪は既遂に達していると見るべきであり,その後の本件受注調整は,その合意の内容が実施に移されたものにすぎないから,不可罰的事後行為である」と主張するが,本件における基本合意(「受注調整ルール」)については,「毎年の会計年度末に見直して改訂することが了解事項になって」おり,年度毎に「下水道事業団の工務部次長から新年度発注工事の件名,予算金額等の教示を受けることが必要不可欠の事柄であり,このルールの改訂と工事件名等の教示を巡り」,各被告会社が相互に「密接な連携を保ちながら」準備をし,「ドラフト会議で受注予定社の決定に至」っているのであるから,「本件においては,受注調整による取引制限は,各年度ごとに独立して行われていることは明らかであり,各年度におけるルールの改訂からドラフト会議までの一連の作業をもって取引制限の実行行為と見るのが相当」である。「したがって,平成2年における受注調整のルールの合意により犯罪は既遂に達し,その後の行為はすべて不可罰的事後行為であるという弁護人らの主張は,採用することができない」。 

 


 

[基本・判決]

橋梁談合刑事事件

東京高等裁判所判決平成19127

審決集54809頁、判例時報199130頁、判例タイムズ1259142頁、東京高等裁判所(刑事)判決時報5811299

独禁法3条後段

独禁法89条ほか

*発注者の刑事責任(身分なき共謀共同正犯)

 

被告人は,日本道路公団の理事として,JHが発注する鋼橋上部工工事(以下「鋼橋上部工事」という。)に関する業務全般等を統括していた者であるが,同工事の受注等に関する業務に従事していた者らと共謀の上,本件47社が共同して,JHが平成16年度に競争入札の方法により発注する鋼橋上部工事の受注に関し,本件47社の事業活動を相互に拘束し,遂行することにより,公共の利益に反して,同工事の受注に係る取引分野における競争を実質的に制限した。

「被告人は,理事として,本件独占禁止法違反行為の対象である鋼橋上部工事の発注を承認する権限を有するJH側の責任者の立場にあった者であり,Bから依頼され,Cから割振表の提示と交付を受けることにより,JHCの割り振りを了承しているというお墨付きや権威付けを与え,Cの円滑な受注調整を可能にするとともに,Cの割り振りによる受注調整が行われていることを知りながら,理事説明において,多くの鋼橋上部工事の発注について,それを了承することを繰り返したのである。被告人のこのような行為は,Bの行為とともに,鋼橋上部工事の発注者側の責任者の行動として,本件独占禁止法違反の犯行にとって,極めて重要かつ必要不可欠な行為であったといわざるを得ない。」

「そして,被告人が,本件独占禁止法違反の犯行について,BC及び本件47社の担当者らと順次に共謀を遂げていたことも十分に認められる。しかも,被告人は,Bと同様に,将来の自分を含むJH職員の再就職先の確保という自分達の利益を図るために,このような行為を行っているのであるから,まさに自らの犯行として,本件独占禁止法違反行為を行ったということができるのである。」

「これらの事情に照らすと,被告人は,本件独占禁止法違反の犯行において,その対象工事の発注者側の責任者の1人として,自分達の利益を図るために,極めて重要かつ必要不可欠な役割を果たしているのであるから,被告人は,本件独占禁止法違反の犯行について,単に幇助犯にとどまるのではなく,BC及び本件47社の担当者らと共謀の上,これを自己の犯罪行為として行った者として,身分なき共謀共同正犯の責任を負うというべきである。」

被告人の所為は「刑法651項,60条,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律9511号,8911号,3条に,判示第2の所為は刑法60条,247条にそれぞれ該当するところ,判示各罪につき所定刑中いずれも懲役刑を選択し,以上は同法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により,重い判示第2の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で,被告人を懲役2年に処し,情状により同法251項を適用して,この裁判が確定した日から3年間その刑の執行を猶予し,訴訟費用は,刑事訴訟法1811項本文によりこれを被告人に負担させることとする。」

 


 

[参考・判決]

緑資源機構刑事事件

東京地方裁判所判決平成191128

判決集未登載

独禁法3条後段

独禁法89条ほか

*発注者の刑事責任(共同正犯)

 

(罪となるべき事実)

「被告人aは,独立行政法人c(以下「c」という。)森林業務担当理事として,同機構が発注する緑資源幹線林道事業に係る地質調査及び調査測量設計業務に関する業務全般を統括していたもの」,「同cは,c森林業務部林道企画課長として,前記地質調査及び調査測量設計業務の発注等に関する業務に従事していたもの」である。

被告人両名は,前記hら及び4法人に所属する他の従業者並びに前記同様の請負業等を営む他の事業者の従業者らと共謀の上,4法人の業務に関し,「cが平成17年度において指名競争入札又は見積合わせの方法により発注する緑資源幹線林道事業に係る地質調査及び調査測量設計業務」につき,「被告人両名を介して,各事業者の受注実績等を勘案して,被告人両名らの意向に従って受注予定事業者を決定するとともに当該受注予定事業者が受注できるような価格で入札を行う旨合意した上」,「前記合意に従って前記業務についてそれぞれ受注予定事業者を決定するなどし,もって4法人らが共同して,前記業務の受注に関し,相互にその事業活動を拘束し,遂行することにより,公共の利益に反して,前記業務の取引分野における競争を実質的に制限し」た。

cが平成18年度において指名競争入札の方法により発注する前同様の地質調査及び調査測量設計業務」について,「前同様の方法により,前同様の合意をした上」,「前同様の方法により,前記合意に従って前記業務についてそれぞれ受注予定事業者を決定するなどし,もって4法人らが共同して,前記業務の受注に関し,相互にその事業活動を拘束し,遂行することにより,公共の利益に反して,前記業務の取引分野における競争を実質的に制限し」た。

「罰条

 判示第1,第2の各所為 いずれも包括して刑法651項,60条,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律9511号,8911号,3条」。


 

[参考・判決]

北陸新幹線消融雪設備工事入札談合(発注者職員)刑事事件

東京地方裁判所判決平2679

判決集未登載

独禁法3条後段

入札談合等関与行為防止法8

*発注者の刑事責任(入札談合等関与行為防止法)

 

「罪となるべき事実」

「被告人は,特定法人である独立行政法人B([独立行政法人鉄道・運輸機構]以下「B」という。)鉄道建設本部C社設備部長として,同支社長の指揮を受け,Bが発注する機械関係設備工事の計画,設計及び施行並びに同工事の予定価格の算出の基礎となる工事費等の積算関係資料の整備及び積算の審査等に関する業務を統括していたものであるが、」,①Bが「入札を執行した北陸新幹線北代融雪基地外7箇所機械設備工事の条件付一般競争入札に関し,前記業務を行う者として適正に入札等の職務を行う義務があるのに,その職務に反し,・・・,D株式会社E店営業第三部長F及び同部課長Gに対し,前記入札における秘密事項である同工事の予定価格につき,同価格に近似した金額が284000万円未満である旨教示し,よって,前記入札において,D株式会社をして,予定価格・・・に近似する283000万円で入札させて,前記工事を落札させ」,②Bが「入札を執行した北陸新幹線金沢駅東部第1消雪基地外9箇所機械設備他工事の条件付一般競争入札に関し,前記業務を行う者として適正に入札等の職務を行う義務があるのに,その職務に反し,・・・H株式会社営業統括本部営業統括部営業部長Jに対し,前記入札における秘密事項である同工事の予定価格・・・に近似した金額が142000万円未満である旨教示し,よって,前記入札において,H株式会社をして,予定価格・・・に近似する141500万円で入札させて,前記工事を落札させ」「もってそれぞれ入札等に関する秘密を教示して入札等の公正を害すべき行為を行った」。

「(法令の適用)

罰条

・・・[上記①・②の]各行為につき いずれも入札談合等関与行為の排除及び防止並びに職員による入札等の公正を害すべき行為の処罰に関する法律8条」              

 


 

[参考・判決]

水道メーター刑事事件

東京高等裁判所判決平91224

高等裁判所刑事判例集503181頁、判例時報163536頁、判例タイムズ959140頁、東京高等裁判所(刑事)判決時報4811296頁、高等裁判所刑事裁判速報集(9)98

独禁法3条後段

独禁法89条ほか

 

1 被告会社25社」の「各所為は,いずれも私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という)9511号,8911号,3条に該当するが,以上はいずれも刑法45条前段の併合罪であるから,同法482項により各罪所定の罰金の合計額の範囲内で,各被告会社を主文1記載のとおりの罰金刑に処することとする。

2 被告人A1・・・の各所為は,いずれも独占禁止法9511号,8911号,3条(被告人D1の・・・各所為については,更に刑法60条)にそれぞれ該当するところ,各所定刑中いずれも懲役刑を選択し,被告人A2・・・については,以上はいずれも刑法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により,被告人B1,同I1,同L1,同N1及び同S1については犯情の重い判示第2の罪の刑に,被告人A3・・・については犯情のもっとも重い判示第3の罪の刑に,被告人A2及び同E2については犯情の重い判示第3の罪の刑にそれぞれ法定の加重をし,その刑期ないし所定刑期の範囲内で,各被告人を主文2記載のとおりの刑に処し,情状により,被告人34名に対し,同法251項を適用してこの裁判の確定した日からいずれも2年間その刑の執行を猶予することとする。」

 

小規模事業者について,期待可能性がなかったとの主張について「大規模事業者が独占的な地位を悪用して違法な行為に及んだときは,独占禁止法その他の法令により制裁その他の措置が採られるのであり,他方,小規模事業者であっても,適正な自由競争の結果生じ得る結果は受忍して,その保護を許されている他の手段に求めるべきであり,そうすることは十分に可能であったから,小規模事業者が本件談合に加わらないことを期待することはできなかったとはいえない。」

 


 

[参考・判決]

鋼板価格カルテル刑事事件

東京地方裁判所判決平成21915

審決集56巻第二分冊675

独禁法3条後段

独禁法89条ほか

 

「被告会社3社について

罰条 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律9511号,8911号,3条」

「被告人6名について

罰条 刑法60条,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律9511号,8911号,3条」

 


 

[基本・判決]

航空タービン燃料入札談合不当利得返還請求事件

東京地方裁判所判決平成23627

審決集58巻第二分冊395頁、判例時報212946頁、訴訟月報582245

独禁法3条後段

民法703条、704条、708条ほか

 

独禁法に違反した行為に起因した私法上の法律行為の効力については,その法律行為が独禁法に違反したことに起因することをもって直ちに無効となることはないが,当該法律行為が公序良俗に違反する場合には無効になると解すべきである(最高裁判所第2小法廷昭和52620日判決・民集314449頁参照)。

「被告らは,本件期間である平成7年から平成10年当時には,独禁法に違反するというだけで契約が無効になるという公序は存在していなかった旨主張する」。しかしながら「独禁法上,不当な取引制限に対しては,同法制定当時から本件当時に至るまで,排除措置命令や課徴金等の行政処分だけでなく,刑事罰まで設けられていたところ,その趣旨は,不当な取引制限によって同法の目的である公正かつ自由な競争による一般消費者の利益を確保し,国民経済の民主的で健全な発展を促進するという点が阻害される事態を防止するためであると解されるから,本件期間当時においても,不当な取引制限が経済秩序において許容されない反社会性の強い行為であるとの認識が存在していたものと認められる。」「しかして,本件受注調整行為は談合行為であって,不当な取引制限の中でも明らかにその性質上自由競争秩序を阻害する行為であるのみならず,一般消費者の利益を害する行為として社会通念上容認することはできない。」「そして,本件売買契約は本件受注調整行為によって競争を消滅させた後に,本件受注調整会社が当該行為から具体的な利益を得るための手段として行われたことからすると,本件売買契約と本件受注調整行為は密接不可分な関係にあり,本件売買契約を無効にしなければ,上記独禁法の趣旨は没却されると言わざるを得ない。したがって,本件売買契約は公序良俗に反し無効であると解するのが相当である。

 

原告とエッソ石油との間の本件売買契約の効力について,「エッソ石油は,本件受注調整会議には参加していなかった」。「エッソ石油は,他の指名業者が受注調整行為に及んでいることを認識しながら,これを利用することによって,競争を経ることなく自己が入札を希望する案件を受注していたことが認められ,このようなエッソ石油の行為は,他の指名業者によって本件取引分野における競争が制限されていたことに便乗して利益を得ていたと指摘されても無理からぬ点もある。」「しかし,本件受注調整会社の本件売買契約の締結が公序良俗に反するのは,本件受注調整会社が受注調整行為を行い,他の業者と共同して,積極的に自由競争を停止することによって,競争秩序を害していた点に求められるところ,エッソ石油が自らの経営判断のみによって,受注を希望しない案件について辞退することや他社と競争してまでシェアを拡大する必要がないと判断すること自体は,仮に本件取引分野において自由競争が行われていたとしてもあり得る事態であるのだから,自らの判断のみによって受注を希望する案件について入札をし,そうでない案件については受注をしないという行為自体は,何ら競争秩序を害するものではない。

 そして,受注を希望する案件については2回目も入札をし,受注を希望しない案件については当初入札2回目で辞退札を入札するという行動を取ることによって,本件受注調整会社に対し,エッソ石油が落札を希望する案件を暗示していたという点についても,上記のとおり,どの案件について受注を希望するかはエッソ石油が自ら判断していたものであり,希望しない案件についてまで当初入札2回目以降あるいは新たな入札において入札しなければならないわけではないのだから,エッソ石油の当該行動自体が直ちに競争秩序を害するものと評価することはできず,当該行動の結果,本件受注調整会社にエッソ石油が受注を希望する案件が伝わり,本件受注調整会社が競争を回避した結果,原告とエッソ石油との間に本件売買契約が締結されたとしても,そのことが直ちに同売買契約が公序良俗に反することを基礎づけるものとはいえない。

 また,確かに,エッソ石油が受注を希望する案件について,本件受注調整会社が共同して辞退札を入札する行為は,エッソ石油との価格競争を回避し,受注調整行為によって作り出す競争制限状態を維持するために行われるものであり,本件受注調整会社にとっては不当な取引制限に当たりうるが,それだからといって,このような他社(本件受注調整会社)の行為を理由にエッソ石油が競争秩序を害していると評価することができないことは明らかである。

 この点について,エッソ石油は自由競争が排除された結果,不当に高額に形成された代金により受注調整会議に参加していた本件受注調整会社と同様に不当な利益を得ていた旨原告は主張する。

 しかし,ある取引分野において行われている競争制限行為に参加していない事業者が,他の事業者により競争制限行為が行われていることを認識した場合に,自らも利益を拡大しようとこれに追随することを法的に非難することはできず,このような場合に他の事業者の本件受注調整行為を阻止すべき法的義務がエッソ石油にあるとはいえない。

 また,当該競争制限行為によって形成された価格に追随していくことが公序良俗に反するとすると,競争制限行為に参加していない事業者は従来どおりの価格での販売を強いられることになり,競争制限行為に参加している事業者に比べて少ない利益しか得ることができず,いずれは市場からの退場を余儀なくされてしまうおそれが高いところ,このような結論はかえって当該取引分野の一部の事業者による競争制限行為による競争制限効果を高めることになりかねない。むしろ,このような場合には,公正取引委員会による速やかな競争秩序の回復が期待されるのであって,そのような措置が執られないリスク又は不利益を競争制限行為に参加していない事業者に負担させる事態は,当該事業者に対し,過大な負担を課すことになり,適切ではないというべきである。

したがって,エッソ石油が他の指名業者により競争制限行為が行われていることを認識しながら,当該行為によって形成された価格に追随して本件石油製品の価格を引き上げた上で,本件売買契約を締結したからといって,直ちに当該行為が競争秩序を害したとはいえず,原告とエッソ石油の間の本件売買契約が公序良俗に反するとまでは認められない。」

「そうすると,本件では,原告とエッソ石油との間の本件売買契約は有効であり,被告エクソンモービルに対する請求のうち,エッソ石油との間の本件売買契約に基づいて支払った売買代金の返還を求める原告の請求は,その余の点について判断するまでもなく理由がない。」

 

 

「本件受注調整行為に参加し,〔1〕原告との間で本件売買契約を締結したのは,タイホー工業及び扶桑石油であったこと,〔2〕タイホー工業は,被告富士興産の代理人として,扶桑石油は,被告エクソンモービルの代理人として,本件売買契約を締結したことが認められる。」「また,タイホー工業及び扶桑石油が原告との間で締結した本件売買契約が公序良俗に反し無効であることは,・・・述べたとおりである。

そして,代理人の法律行為の瑕疵は本人にも及ぶところ(民法1011項),本件ではタイホー工業は被告富士興産の代理人として,扶桑石油は被告エクソンモービルの代理人として,それぞれ原告との間で本件売買契約を締結したのだから,タイホー工業及び扶桑石油が行った公序良俗違反行為の効力もそれぞれ本人である被告富士興産,被告エクソンモービルに及ぶと認められる。」

 

「本件売買代金の支払が不法原因給付に該当するか」及び「本件石油製品の引渡しが不法原因給付に該当するか」について,「民法708条にいう不法の原因のための給付とは,その原因となる行為が公序良俗に違反する場合の全てを意味するものではなく,その行為の実質に即し,当時の社会生活及び社会感情に照らし,真に倫理,道徳に反する醜悪なものによると認められるか否かによって決せられるべきである(最高裁判所昭和3738日第1小法廷・民集163500頁参照)。」

「これを本件についてみるに,上記争点2についての判示のとおり,本件売買契約は本件受注調整行為たる談合行為に起因するものであって,これを容認すれば,独禁法の趣旨を没却することになるものとして,社会経済秩序維持の観点から無効とせざるを得ないところではあるが,社会倫理,道徳に反する醜悪な行為によるから無効とされるものではないことが明らかである。

 したがって,談合の結果を反映した本件売買契約による不法な利益を収受させないとする必要性はあるものの,同契約により交換された財貨の全ての返還を拒否する必要があるとはいえず,したがって返還範囲の調整は民法708条によるべきではなく,同法703条又は704条の規定の適用により行うべきである。

そうすると,本件において,本件売買契約に基づく売買代金の支払及び本件石油製品の引渡しいずれについても民法708条所定の不法原因給付には当たらないと解するのが相当である。

 

「被告らは,調達実施本部の担当官が被告らの本件受注調整行為を認識していたこと,原告にも石油製品の安定的かつ迅速な調達が可能になる等の利点があったこと,それにもかかわらず,被告らが納入した石油製品を既に全て費消した段階で,本件売買契約の無効を主張し,被告らに対し,売買代金相当額の返還を求めることは信義則に反する旨主張する。」

「しかし,本件では,上述のとおり,直接的に競争秩序を侵害したのは被告らであって,調達実施本部の担当官が受注調整行為を指示,強制したわけではないこと,被告らも長年にわたって競争を経ることなくシェアを維持することができていたこと,公序良俗に反し無効である法律行為について,無効であると主張すること自体は,法秩序を維持する責務を負っている原告の役割に照らせば当然であること等の事情に照らせば,本件における原告の被告らに対する不当利得返還請求が信義則に反するとまではいえず,被告らの主張を採用することはできない。」

 

「本件売買契約は公序良俗に反して無効である結果,原告は,被告らに対し,本件売買契約に基づき,被告らに支払った売買代金相当額について不当利得返還請求権を行使することができ,他方,被告らは,原告に対し,不当利得返還請求権に基づき,同契約上の債務の履行として原告に引渡した本件石油製品の引渡しを求めることができることになる。」しかし,「本件においては,原告は,既に上記引渡しに係る石油製品をすべて費消しており(もっとも,上記引渡しの際,当時の防衛庁の認定タンク等に納入されたような場合は,そこに残存している燃料との区別がつかなくなり,混和状態を生じるから,費消前に原物返還不能となる。),被告らは,原告に対し,本件石油製品の原物返還を請求することができないから,それに代わるものとして,上記引渡しに係る本件石油製品の価格相当額の支払を請求するほかはないことになる。」

「被告らは,この不当利得返還請求権を自働債権として,原告の本訴請求債権である不当利得返還請求権を受働債権とする対当額での相殺を主張するところ,上記石油製品の価格について,当該市場において自由競争がされていた場合に形成されたであろう取引価格,すなわち,想定落札価格であると主張しているのに対し,原告は,上記引渡時における本件石油製品の客観的価格であると主張している。しかしながら,被告らは,原告から上記引渡しに係る本件石油製品の返還を求めることができたところ,これが混和又は費消により不能となったものであるから,公平の観念に照らせば,原物返還不能時における当該石油製品の客観的価格が返還対象価格になると解するのが相当である。」 

「そうすると,被告らは,上記引渡しに係る本件石油製品の原物返還不能時(混和又は費消時)における同製品の客観的価格について主張,立証責任を負うことになる。しかしながら,本件売買契約は,本件期間内の各期ごとに多数締結されている上に,同契約に基づく本件石油製品の引渡しも数回にわたって納入されることもあり(弁論の全趣旨),さらにその引渡しに係る同製品の混和又は費消が当該物品ごとにいつ生じたものであるのかについては,被告らとしては通常関知し得ない事項である。したがって,被告らに上記の主張,立証責任を課することは著しく酷に過ぎる結果をもたらす反面,原告が被告らに対する不当利得返還請求権を行使するために,本件売買契約の金額を主張,立証することは極めて容易であって,両者の間に明らかに不均衡をもたらしかねない。もっとも,この点については,被告らによる談合という違法行為がされた以上,その結果を被告らが甘受すべきであるとの議論もあり得ようが,そもそも,談合に基づくもの故に本件売買契約を公序良俗に反して無効とする所以は,それを容認することが公正な競争秩序を維持し,一般消費者や国民全体の利益を図るという独禁法の趣旨・目的に反することになるからであって,その目的を達成するために本件売買契約を無効にする以上に,その結果,被告らの原告に対する不当利得返還請求権の行使を困難にさせることまでをも合理化ならしめるものではないはずである。

 そうすると,本件売買契約に基づく原物が返還不能な場合における返還対象価格については,上記のとおり,原物返還不能時における物の客観的価格であるとしつつも,その立証責任については,本件事案における実態に照らして,相当な軽減を図る必要がある。」

本件においては,「被告らにおいて,本件売買契約締結時における本件石油製品の想定落札価格(その時点で自由な競争がされていたとすれば,少なくともその金額で落札され,それに基づき本件売買契約に係る売買代金の基礎とされていたであろう金額)を主張,立証すれば足り,原告において,同契約締結時から原物返還不能時までの間における有意的な経済事情による変動があり,その変動を反映しなければ適正な価格の算定が困難であるとか,想定落札価格は客観的価格を明らかに上回るとみられる確かな根拠がある等の特段の事情を主張,立証できない限り,上記想定落札価格をもって,原物返還不能時における本件石油製品の客観的価格であると事実上推定するのが相当である。そして,本件の場合は,上記特段の事情についての主張,立証がされているとはいえない。」

 


 

[基本・判決]

甲斐秀水ほか23名による損害賠償請求事件(日本石油ほか事件)

最高裁判所判決昭和6272

最高裁判所民事判例集415785頁、判例時報12393頁、判例タイムズ64280頁、最高裁判所裁判集民事151179頁、裁判所時報9651頁、金融・商事判例78910

独禁法3条後段

独禁法25

 

「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「法」という。)25条の規定による損害賠償に係る訴訟については,法801項のような規定を欠いており,また,いわゆる勧告審決にあっては,公正取引委員会による違反行為の認定はその要件ではないから,本件審決の存在が違反行為の存在を推認するについて1つの資料となり得るということはできても,それ以上に右審決が違反行為の存在につき裁判所を拘束すると解することはできない(最高裁昭和50年(行ツ)第112号同5344日第3小法廷判決・民集323515頁)。」

 

損害について,「元売業者の違法な価格協定の実施により当該商品の購入者が被る損害は,当該価格協定のため余儀なくされた余計な支出であるから,本件のような最終の消費者が右損害を被ったことを理由に元売業者に対しその賠償を求め得るためには,当該価格協定に基づく元売仕切価格の引上げが,その卸売価格への転嫁を経て,最終の消費段階における現実の小売価格の上昇をもたらしたという関係が存在していることのほかに,かかる価格協定が実施されなかったとすれば,右現実の小売価格よりも安い小売価格が形成されていたといえることが必要であり,このことはいずれも被害者たる消費者において主張立証すべき責任があるというべきである。もっとも,この価格協定が実施されなかったとすれば形成されていたであろう小売価格(以下「想定購入価格」という。)は,現実には存在しなかった価格であり,一般的には,価格協定の実施前後において当該商品の小売価格形成の前提となる経済条件,市場構造その他の経済的要因等に変動がない限り,協定の実施直前の小売価格をもって想定購入価格と推認するのが相当であるといえるが,協定の実施以後消費者が商品を購入する時点までの間に小売価格の形成に影響を及ぼす顕著な経済的要因の変動があるときは,協定の実施直前の小売価格のみから想定購入価格を推認することは許されず,右小売価格のほか,当該商品の価格形成上の特性及び経済的変動の内容,程度その他の価格形成要因を検討してこれを推計しなければならない。

 

本件第3の協定の実施当時,民生用灯油については,次の状況が存在した。

①通商産業省が値上げを了承した。なお,石油製品の元売仕切価格は右行政指導に極めて誘導されやすい。

OPEC(石油輸出国機構)攻勢による原油の値上がりがあるなど,輸入価格が上昇していた。

③公害規制強化に伴う産業用燃料油の油種転換により灯油の需要が増加していた。業界では,灯油の増産備蓄を行っており,灯油の増産は連産品である他の石油製品の在庫量の増大等によるコストの上昇につながる。

④当時,灯油価格は他の家庭用熱源に比較して低廉であったから,価格上昇要因があるときは現実の値上げと結び付きやすかった。

⑤灯油は,他の石油製品に比較してその精製に余分なコストを要するだけでなく,季節性の強い商品であり他の製品に比し備蓄等に余分なコストを要した。

これらからすれば,「本件第3の協定の実施当時は,民生用灯油の元売段階における経済条件,市場構造等にかなりの変動があったものであり,右協定の実施の前後を通じ,その小売価格の形成に影響を及ぼすべき経済的要因に顕著な変動があったというべきであるから,前示のとおり,本件においては協定の実施直前の小売価格をもってそのまま想定購入価格と推認することは相当でないといわざるを得ない。」

 


 

[基本・判決]

日本道路公団損害賠償請求事件

東京高等裁判所判決平成22101

審決集57巻第二分冊385

独禁法3条後段

独禁法25

*違約金条項と損害賠償請求、損害額の推計

*受注者及び入札参加者の発注者に対する損害賠償責任(共同不法行為、不真正連帯債務)

 

談合行為によって発注者が被った損害は,談合行為がなければ存在したであろう落札価格(想定落札価格)と現実の落札価格との差額であり,想定落札価格は,違反行為がされる直前の落札価格をもって想定落札価格と推認するのが相当であるが,違反行為が,認定された違反行為以前にも存在していた疑いがあり,それが相当長期にわたる場合には,違反行為の終了後の公正かつ自由な競争によって行われた入札における現実の落札価格を基礎として,想定落札価格を推計することが相当である。そして,入札の対象となる物件の規模,仕様等が異なるために比較できる同一の物件がなく,現実の落札価格を用いた推計が適さない場合には,違反行為の対象となっていない物件の現実の落札価格と予定価格との比率(落札率)を用いることが相当といえる。この場合,違反行為が行われていた期間と,価格形成の前提となる経済条件,市場構造その他の経済的要因の著しい変動がない期間における相当数の同種事例を抽出する必要があるというべきである。本件入札談合では,本件審決に照らせば,本件入札談合が認定された平成1341日以前にも,被告らが同様の違反行為を行っていた疑いがあることから,違反行為が終了した後の相当期間内における複数の同種入札事例を基礎とするのが相当であるところ,旧公団が発注する工事は,物件ごとに規模や仕様等を異にするので,その平均的な落札率を用いて想定落札率を算定した上,これを用いて損害額を推計する手法によることに一応の合理性を認めることができる。 

 なお,上記の想定落札率を用いて想定落札価格を算定するにあたり,落札した後に契約金額に変更がある場合については,それが当初工事と関連性が薄い工事が追加工事あるいは変更工事として扱われた場合などの具体的な競争制限効果が発生しないと認められる場合以外は,入札談合が行われていたときには変更後の工事費用の金額にも談合の影響が及んでいるというべきであるから,当初契約金額ではなく最終契約金額を基礎とするのが相当である。」

 

本件違約金条項の目的は,入札談合の場合には損害の立証が困難であることにかんがみて,その立証の負担を軽減し,損害の回復を容易にするとともに,入札談合等の不正行為を抑止するために設けられたと解することができる。しかしながら,入札談合の場合には,契約締結以前に談合が行われているのであるから,同被告らが本件違約金条項を定めた趣旨は,将来における不履行による損害賠償を前提としたものと解することはできず,通常の損害賠償額の予定と同様に解して,現実の損害が違約金の額を超える場合にその超過分の請求をあらかじめ放棄することで,談合参加者の責任を限定する趣旨とすることには馴染まず,むしろ損害の立証が可能な場合には更にその超過額の請求をなし得るものとして,談合参加者への責任追及の可能性を留保していると解するのが,本件違約金条項を設けた発注者側の合理的な意思に合致するというべきである。他方,本件違約金条項は,既に談合が行われ,契約に違反する事態が発生していたにもかかわらず,被告らがそのことを秘していたために合意に至ったものであるから,被告らが,本件違約金条項をもって責任が限定されていたものと認識していたと主張することは,信義則に違反するというべきである。」

 

入札談合では受注者とともに,事前の受注調整に応じて入札に協力した入札参加者は,発注者に対する共同不法行為が成立して損害賠償責任を負い,受注者とはいわゆる不真正連帯の関係に立つことになる。

 

[参考:事案の概要]

1. 被告X1X3は,電気通信工事業を営む。

2. 原告(独立行政法人日本高速道路保有・債務返済機構)は,日本道路公団(旧公団)が実施した高速道路情報表示設備工事の競争入札にあたって被告らが入札談合を行って旧公団に損害を与えたとし,その損害賠償請求権を承継したとして,被告らに対して独占禁止法251項に基づいて損害賠償を求めた。

3. 被告らと旧公団との間で締結した契約には,事前に談合がないこと及び談合に基づく落札であることが発覚した場合には,公正取引委員会の課徴金納付命令が確定すること等を条件として,請負代金の10分の1に相当する金額を違約金として支払うことを約した違約金条項があった。

4. 前記違約金条項に基づいて,X1は,原告に対して違約金の支払いを行った(X1については,平成21317日に247530664円を,同年41日に6339195円)。

5. 原告は,前記4のとおり支払いを受けた金額を遅延損害金と損害額元本に順次充当し,この結果,688709774円,被告小糸工業に対しては644161498円の損害金元本が残存していると主張した。

6. これに対して,(1)損害額を争ったほか,(2)被告X1X2は前記違約金条項の性質を損害賠償額の予定とした上で予め定められた違約金額を超過する損害が発生したとしてもその賠償義務は生じないと主張して争い,また,(3)被告X23は原告の請求に応じて自社受注工事分の損害金の支払を終えたのであってX1受注工事分の損害金については連帯の免除がなされているのであるからこの分についての損害賠償の請求をX2X3に対して行うことは信義則に違反し権利の濫用であって許されないと主張した。

 

裁判所の判断

争点(1),(2)については略(冒頭参照)

主張(3)について

入札談合では受注者とともに,事前の受注調整に応じて入札に協力した入札参加者は,発注者に対する共同不法行為が成立して損害賠償責任を負い,受注者とはいわゆる不真正連帯の関係に立つことになり「原告が当初,[X2]及び[X3]に対し,それぞれ入札談合による自社受注工事分の損害金のみを請求し,これに応じて各々支払済みであるとしても,原告において,その受領時に他の共同不法行為者の負担分に関して免除の意思表示をしたことを認めるに足りる証拠はなく,被告X2が主張するような原告による個別対応の事実があったとしても,直ちに連帯性を免れるものではない。さらに,他の共同不法行為者が損害金の支払に応じないために,その者ともども提訴されて損害賠償を請求されても,これが信義則に違反するとか,権利の濫用にあたるとはいえない。」

 

 

[参考・判決]

旧日本道路公団損害賠償請求(川崎重工等)事件

東京高等裁判所判決平成24518

審決集59巻第二分冊184

独禁法3条後段

独禁法25

 

「旧公団は,被告らの本件談合行為によって損害を被ったものと認められるところ,一般論としては,旧公団の被った損害は,現実の落札価格と想定落札価格との差額であるというべきである。」「しかしながら,想定落札価格は,現実には存在しなかった価格であるから,これを直接に推計することは困難である。」

「原告は,想定落札価格を直接推計することが困難な場合には,談合の影響を受けていないと認められる一定期間内における同質性のある工事事例を抽出し,その平均落札率を本件工事の想定落札率とみて間接的に本件工事の想定落札価格を推計する方法によることが合理的であると主張する」が、「原告主張のように,一定期間における工事事例の落札率の平均値をもって本件工事の想定落札率(談合行為がなかったとすれば自由かつ公正な競争の下で形成されたであろう落札率)と推定することが合理的であるというためには,まずもって,原告が収集した事例間に同質性があり,統計的処理になじむものでなければならないし,さらに,当該平均値が特定の入札事例の個別の価格形成要因の影響を受けていないといえなければならず,換言すれば,各工事ごとに異なる様々な個別の価格形成要因の差異が抽出工事事例の平均値を算出することにより捨象されることになるということができなければならない。」本件においては、原告が平均落札率算定の基礎として主張する「31事例の落札率の平均値が特定の入札事例の個別の価格形成要因の影響を受けていないとはいえず,工事ごとに異なる個別の価格形成要因の差異が31事例の平均値を算出することにより捨象されていると認めることはできないから,31事例の平均落札率をもって本件工事の想定落札率と推定することには合理性がないといわざるを得ない。」

 本件については,「損害の性質上その額を立証することが極めて困難であるときに該当するといえるから,民訴法248条を適用して相当な損害額を認定すべきである。」


 

[参考・判決]

ごみ処理施設建設工事談合独禁法25条に基づく損害賠償請求(中巨摩地区)事件

東京高等裁判所判決平成241116

審決集59巻第二分冊239

独禁法3条後段

独禁法25

 

「本件審決及び弁論の全趣旨によれば,被告を含む大手5社は,本件審決が認定したとおり,遅くとも平成64月以降,地方公共団体が指名競争入札等の方法により発注するストーカ炉の建設工事について,受注機会の均等化を図るため,あらかじめ受注予定者を決定し,受注予定者以外の者は,受注予定者が定めた価格で受注できるように協力することを主な内容とする本件基本合意をしたことが認められる。しかし,本件基本合意がされたとしても,必ずしも全ての入札で個別談合が行われるとは限らないし,本件基本合意によっても,受注希望者が1名の場合はその者を受注予定者とするが,受注希望者が複数の場合は受注希望者間で話し合って受注予定者を決定することとされているのであって,自動的に受注予定者が決定されるわけではないから,複数の受注希望者間の話合いにより受注予定者を決定できず,結局のところ自由競争となる場合もあると考えられる。 

 そうすると,本件基本合意の存在によって当然に個々の建設工事が受注調整の対象になったとはいえず,本件工事に関して被告の責任を問うためには,本件基本合意に基づいて個別談合が行われ,かつ,その個別談合で形成された合意が実行に移されたことが認められなければならない。」「・・・本件工事について個別談合が行われたことを推認するに足る十分な証拠はない・・・。」

 

 


 

 

[参考・判決]

ごみ処理施設建設工事談合独禁法25条に基づく損害賠償請求(龍ヶ崎地方)事件

東京高等裁判所判決平成24910

審決集59巻第二分冊204

独禁法3条後段

独禁法25

 

「本件基本合意の存在は」,証拠等及び前記の「各事実から明らかである。」

「次に,本件工事について本件基本合意に基づく本件談合が行われた事実は,以下の事実及び証拠から認めることができる。

〔1〕本件5社による受注予定者の決定

 本件5社が,本件対象期間に本件基本合意を行っていたことは上記のとおりであるところ,本件入札も本件対象期間内である平成9123日に実施されている。

〔2〕そして,P23リストにおいて,本件工事を指す「竜ヶ崎」がP4を指す「N」欄に記載されていることからすると,同リストは,本件5社において決定した受注予定者を記載したものと評価できる。

〔3〕本件入札後の会合ではあるが,・・・本件5社は,平成9911日ころまでに,ストーカ炉の建設工事を大型工事,中型工事及び小型工事に区分して受注調整を伴う予定物件を業者間で確定した上,同月29日には小型工事3件に関する受注調整を,同年1029日には中型工事2件に関する受注調整を,同月16日には大型工事1件に関する受注調整を行うための会合を開催し,本件5社は,上記の平成9929日の小型工事3件に関する受注調整を行うための会合において,受注希望表明を行い,それぞれ受注予定者を確定したことが明らかである。・・・」「以上によれば,本件工事に係る本件5社の本件談合(個別的談合行為)を推認することができ,この推認を覆すに足りる証拠はない。」

 以上によれば,[龍ヶ崎地方におけるごみ処理施設建設]工事に係る本件5社の本件談合(個別的談合行為)を推認することができ,この推認を覆すに足りる証拠はない。」

 

 


 

[参考・判決]

ストーカ炉談合損害賠償請求事件

名古屋地方裁判所判決平成211211

判例時報207288頁、判例タイムズ1330144

独禁法3条後段

民法709

*損害,因果関係,損害額

*受注者と入札参加者の発注者に対する損害賠償責任(共同不法行為)

*消滅時効の起算点

 

「本件は,原告が,原告が発注した名古屋市猪子石工場の建設工事及び名古屋市五条川工場の建設工事(以下,これらを併せて「本件各工事」という。)について,猪子石工場工事の一般競争入札において最低入札価格を提示して原告との随意契約により猪子石工場工事を受注した被告株式会社Y1(以下「被告Y1」という。)及び五条川工場工事の一般競争入札において最低入札価格を提示してこれを落札し,受注した被告Y2株式会社(以下「被告Y2」という。)が,α1株式会社(以下「α1」という。),α2株式会社(平成1541日付けでα2ダッシュ株式会社と商号変更した。以下「α2」という。)及びα3株式会社(以下「α3」といい,以上の3社と被告らを併せて「本件5社」という。)とともに,猪子石工場工事については被告Y1を,五条川工場工事については被告Y2をそれぞれ受注予定者とすることを事前に合意し,これに株式会社α4(以下「α4」という。)が協力するという受注調整が行われた結果,公正・自由な価格競争による健全な価格形成が阻害され,上記受注調整がなかった場合に形成されたであろう落札価格と現実の契約金額との差額分の損害を被ったと主張して,被告らに対し,不法行為に基づき,その損害の賠償を求めた事案である。」

「本件5社は,ストーカ炉の建設工事における従来からの優位な立場を背景として,少なくとも平成64月以降平成10917日までの間(本件対象期間),地方公共団体が指名競争入札等の方法により発注するストーカ炉の建設工事について,受注機会の均等化を図るため,〔1〕処理能力の規模等により区分された工事ごとに,各社が受注希望の表明を行い,受注希望者が1名の工事についてはその者を当該工事の受注予定者とし,受注希望者が複数の工事については,受注希望者間で話合い,受注予定者を決定する,〔2〕受注予定者は各社の受注の均衡を念頭に置いて決定し,この受注の均衡は各社が受注する工事のトン数を目安とする,〔3〕アウトサイダーが入札に参加した場合,受注予定者は,自社が受注できるよう当該アウトサイダーに協力を求め,その協力を得るようにするという基本ルールについて合意し,この合意の下に受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるように協力してきたものと認められる。」そして,「本件5社が,上記内容の基本合意に基づき,猪子石工場工事については被告Y1をあらかじめ受注予定者と決定したこと,五条川工場工事については被告Y2をあらかじめ受注予定者と決定したことをそれぞれ推認することができ」る。

 

日時・場所の特定の要否について

「被告らは,原告の主張が,本件各工事に関する談合行為の主体,日時,場所,内容等について具体的に特定しておらず,不法行為に基づく損害賠償請求の要件事実の主張として失当である旨主張する。

 しかし,原告は,・・・本件5社による基本合意の内容を主張した上,本件各工事についても,それぞれ,入札期日までの間に上記基本合意に基づき受注予定者が被告Y1又は被告Y2に決定され,被告Y1又は被告Y2においてアウトサイダーであるα4に対し協力を求めた旨主張している。そして,原告が談合の対象となった工事を特定し,当該工事の受注予定者が入札参加者間の合意により事前に決定されたことなどを主張すれば,他の談合行為に関する事実と識別することが可能であるから,本件訴訟における原告の被告らに対する各請求債権について,請求の特定に欠けるところはなく,請求を理由付ける事実の主張としても十分であるといえる。

 加えて,被告らの主張のように,原告が,請求原因事実として,個別の工事に関する談合の日時・場所等を明確に主張することが可能な事案であれば,その主張に対応して,被告らの防御の対象がより明確になり,裁判所にとっても審理の対象がより明確になり望ましいといえるものの,談合行為が入札参加者間で秘密裡に行われるのが通常であることなどに照らせば,原告が個別の工事に関する談合の日時・場所等を具体的に特定して主張することは著しく困難であるし,仮に上記特定がなかったとしても,被告らは,個別の工事に関する諸々の状況を把握し,資料も保有しているのであって,被告らにおいて,個別の工事に関する談合がなかったことを示す間接事実などを主張立証することによって防御することが可能であるから,被告らに不相当な不利益を強いるものとはいえない。

 したがって,被告らの上記主張は採用できない。」

 

談合と共同不法行為の成否について

「被告らは,α1α2及びα3との間で,猪子石工場工事につき,前記の基本合意に基づき,遅くとも入札期日である平成9520日以前に被告Y1を受注予定者と決定し,被告Y1においてα4に協力を求め,その協力を得ることにより,競争原理の働かない状況の下でその入札結果を作出したことが認められる。同様に,五条川工場工事につき,前記の基本合意に基づき,遅くとも入札期日である平成10730日以前に被告Y2を受注予定者と決定し,被告Y2においてα4に協力を求め,その協力を得ることにより,競争原理の働かない状況の下でその入札結果を作出したことが認められる。このような被告らの行為が,各工事ごとに,原告に対する共同不法行為を構成することは明らかである。」

 

損害の発生及び因果関係について

「入札参加者間の談合が,一般に,公正な価格競争が行われることにより落札価格が低額になることを防止する目的で行われるものであることに加え,・・・本件対象期間におけるストーカ炉の建設工事の平均落札率と本件対象期間後におけるそれに有意な差が生じていることを併せ考えると,すべての入札参加者間で公正な価格競争を排除する受注調整が図られたことが認められる場合には,仮に公正な価格競争が行われても,現実の落札価格ないし契約金額を下回る価格で入札をする業者がなかったことをうかがわせる特段の事情がない限り,想定落札価格(談合行為がなく公正・自由な価格競争が行われた場合に形成されたであろう落札価格)を上回る契約金額で請負契約が締結され,発注者にその差額分の損害が生じたものと推認するのが相当である。

 しかるに,本件各工事について原告が設定した予定価格との関係において,本件5社の価格競争力を前提としてもコストダウンに限界があり,現実の契約金額(本件各工事については,予定価格と一致する。)を下回る価格での応札が不可能であったものとは,本件全証拠によっても認められず,仮に公正な価格競争が行われても,現実の契約金額を下回る価格で入札をする業者がなかったことをうかがわせる特段の事情は認められない。したがって,本件各工事に関する談合により,原告には,想定落札価格と現実の契約金額との差額分の損害が生じたものというべきである。」

 

「被告Y1は,猪子石工場工事の入札については,随意契約の方法により請負契約が締結されており,その契約金額は,談合行為とは無関係に交渉によって任意に決定されるものであるから,仮に猪子石工場工事に関する談合があったとしても,その談合と,契約金額が174億円(消費税込みで1827000万円)と決定されたこととの間には因果関係が認められない旨主張する。

 しかしながら,前記基礎となる事実(第212))によれば,猪子石工場工事の入札においては,4回にわたり入札が行われたが,最低入札価格(被告Y14回目の入札に係る1743000万円[消費税抜き])が予定価格(174億円[消費税抜き])を上回ったため不調に終わり,原告は,地方自治法施行令167条の216号の規定に基づき,最低入札価格を提示した被告Y1との間で,随意契約の方法により請負契約を締結することとし,被告Y1との交渉を経て,請負代金を174億円(消費税抜き)として請負契約を締結したことが認められる。すなわち,上記の請負契約の締結は,地方自治体施行令167条の216号の規定に基づく随意契約の方法によってはいるものの,契約の相手方は,最低入札価格を提示した被告Y1とされ,その契約金額は,予定価格と同額であり,被告Y1の提示した最低入札価格をわずかに3000万円下回るものであったというのであるが,上記アで認定したとおり,猪子石工場工事に関する談合がなければ想定落札価格が上記の契約金額を下回ったことが推認される。そうすると,上記のような結果は,正に,本件5社及びα4の間で受注調整が図られ,競争原理の働かない状況の下で猪子石工場工事の入札が行われたことによって招来されたものにほかならないから,猪子石工場工事に関する談合と,同工事に係る請負契約が上記代金額にて締結され,原告が被告Y1に対し代金を支払い,損害が発生したこととの間に,相当因果関係が存することは明らかである。

 したがって,被告Y1の上記主張は採用できない。」

 

損害額について

「原告には,想定落札価格と現実の契約金額との差額分の損害が生じたとはいえ,想定落札価格は,現実には存在しない価格であって,当該工事の種類・規模・場所・内容,当該工事に係る入札の参加者数,入札当時の経済情勢及び各社の財務状況,同時期に発注された他の工事の数・請負金額等の受注状況,各社にとって当該工事を受注することのメリット,地域性等の多種多様な要因が複雑に絡み合って形成されるものであるであることからすると,想定落札価格を証拠に基づき具体的に認定することは極めて困難であるといわざるを得ない。したがって,本件においては,原告に損害が生じたことは認められるものの,損害の性質上その額を立証することが極めて困難というほかないから,民訴法248条を適用して,口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき,相当な損害額を認定すべきである。」

「民訴法248条に基づき,相当な損害額を検討するに,上記のとおり損害額の認定が困難であるにもかかわらず被告らに損害賠償義務を負わせるものであること,被告らは,原告が現に被った損害を補填する限度でその賠償義務を負うにとどまり,談合の再発防止といった行政目的を勘案して損害額を算定するのは相当でないことなどを考慮すると,損害額の算定に当たっては,ある程度控え目な金額をもって相当とするのもやむを得ないというべきである。

 しかして,前記28)のとおり,本件対象期間に地方公共団体が発注したストーカ炉の建設工事87件のうち,本件5社のうちのいずれかが受注した物件(予定価格が不明なものを除く63件)の平均落札率が966パーセントであったのに対し,本件対象期間後の期間に地方公共団体が指名競争入札等の方法により発注したストーカ炉の建設工事48件のうち,本件5社が受注した31件の平均落札率は901パーセントであり,その平均落札率に65パーセントの差があること,本件対象期間における本件5社の受注物件の平均落札率(966パーセント)と本件対象期間後の期間における48件の平均落札率(919パーセント)とで比較しても,47パーセントの差があることに加え,東京都や政令指定都市以外の地方公共団体は,ストーカ炉の建設工事を発注するに当たって,東京都や政令指定都市の発注動向をみて発注内容を検討する傾向にあるところ(前記13)オ(イ)),本件各工事は,政令指定都市の発注に係る規模の大きなストーカ炉の建設工事であり,近隣の市町村に対する営業上の効果等の点から各社にとって受注のメリットが大きいものであったと考えられること,その一方,前示のとおり本件5社間の基本合意は相当程度拘束力を有するものであり,そのような拘束の下で本件各工事の入札が行われていること,被告らは,本件各工事の受注により得た利益を具体的に明らかにしうる資料を提出していないこと,その他本件に現れた一切の事情を考慮すると,被告らの受注調整行為によって原告が被った損害額は,控え目に検討しても,本件各工事に係る請負契約の契約金額の5パーセントに相当する金額と認めるのが相当である。」

 

消滅時効の成否について

「民法724条前段にいう「損害及び加害者を知った時」とは,被害者において,加害者に対する賠償請求が事実上可能な状況の下に,その可能な程度にこれを知った時を意味するものと解するのが相当であり(最高裁昭和481116日第二小法廷判決・民集27101374頁参照),損害を知った時とは,被害者が損害の発生を現実に認識した時をいうと解すべきである(最高裁平成14129日第三小法廷判決・民集561218頁)。」

「本件のような入札談合が入札参加者間で秘密裡に行われることからすれば,上記のとおり本件各工事の入札参加者である本件5社及びα4がいずれも受注調整行為の存在を否定している状況にあって,原告において,本件各工事に関して談合が存在し,不法行為に基づく損害が生じたことの確証を得るのは困難というほかなく,損害の発生を現実に認識するためには,本件各工事に関する談合が存在すると判断するに足りる相当な資料,根拠が必要というべきところ,・・・[公取委]同審決書及びその認定判断の根拠となった資料は,本件各工事に関する談合が存在することの有力な判断資料ないし根拠となるものといえる」。「したがって,原告が損害の発生を現実に認識したのは,原告が同審決書及びその認定判断の根拠となった資料を入手し,その内容を把握した時点(以下「本件起算点」という。なお,具体的な時期は明らかではないが,早くとも別件審決が出された平成18627日以降であると認められる。)であると認めるのが相当である。

 そうすると,原告が本件訴訟を提起した平成19129日の時点,及び原告が請求の趣旨変更申立書を当裁判所に提出した同年829日の時点においては,本件起算点から3年が経過していないことが明らかであるから,」「消滅時効が完成していないこととなる。」

なお,「地方公共団体が発注するごみ焼却施設プラントの建設を巡りプラントメーカーが談合を繰り返していた疑いが強まり,公取委が被告らを含む十数社に対する立入検査をしたことの新聞報道があった事実のみでは,原告において本件各工事に関する談合の存在について確証を得る十分な根拠とならないことは明らかである。」

また,「公取委の排除勧告においては,公取委が認定した違反行為の概要は示されるものの,その認定判断の理由及び根拠資料が具体的に示されるわけではないから,本件5社に対し平成11813日付けで排除勧告がなされた事実によっても,原告において,本件各工事に関する談合が存在することの確証を得ることはできなかったものと推認される」。


 

[基本・判決]

ブラウン管カルテル事件(サムスン・エスディーアイ・カンパニー・リミテッド)審決取消請求事件

東京高等裁判所判決平成28422

判例集未登載

*独禁法3条後段

*国際カルテル

*域外で行われた行為

 

「独占禁止法が,公正かつ自由な競争を促進することなどにより,一般消費者の利益を確保するとともに,国民経済の民主的で健全な発達を促進することを目的としていること(1条)等に鑑みると,同法26項にいう「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」とは,当該取引に係る市場が有する競争機能を損なうことをいい,本件合意のような価格カルテルの場合には,その当事者である事業者らがその意思で当該市場における販売価格をある程度自由に左右することができる状態をもたらすことをいうものと解される(最高裁平成24年判決参照)。」

「そうすると,本件合意は,原告ほか4社が我が国ブラウン管テレビ製造販売業者との交渉の際に提示すべき本件ブラウン管の現地製造子会社等向け販売価格の各社が遵守すべき最低目標価格等を設定する旨の合意であり,・・・,平成15年から平成19年までの5年間における現地製造子会社等の本件ブラウン管の購入額を集計した結果を取りまとめたところ,サムスンSDIマレーシアほか7社からの購入額が全体の約83.5パーセントを占めていることが認められる・・・。したがって,本件合意は,現地製造子会社等がテレビ用ブラウン管製造販売業者からテレビ用ブラウン管を購入するという市場において,本件合意の当事者である原告ら11社がその意思で販売価格をある程度自由に左右することができる状態をもたらすものであり,この状態は,当該販売価格が我が国に所在する我が国ブラウン管テレビ製造販売業者との交渉によって決定されていたから,日本国内で生じていたということができる。

 したがって,本件合意は,我が国における「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」ものと認められる。」

「以上によれば,本件に独占禁止法3条後段を適用することができ,原告が本件合意をしたことは,同法26項の不当な取引制限に該当し,同法3条に違反するものである。」

「原告は,渉外的要素を含む事案に我が国の独占禁止法を適用することができるか否かは,効果主義に基づくべきであり,本件合意が日本国外で行われ,本件ブラウン管が日本国外で購入され,これを使用したブラウン管テレビが日本国外で製造され,本件ブラウン管を使用したテレビはその一部しか我が国に輸入されておらず,我が国に直接的,実質的かつ予見可能な効果は発生していないから,本件に我が国の独占禁止法を適用することはできないと主張する。

 しかし,上記・・・のとおり,独占禁止法の目的に鑑み,同法3条後段(不当な取引制限の禁止)の規定は,我が国における「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」行為に適用されるものと解される。そして,以上に説示したとおり,原告らによる本件合意は,我が国における「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」ものと認定判断することができるから,本件においては,原告が主張する,本件合意の我が国における「効果」の有無・程度を判断する必要はない。

 また,原告は,独占禁止法のいわゆる域外適用は,諸外国と国際的調和を図り,各国独占禁止法の適用の矛盾抵触や重複適用を回避するため,多くの国で採用されている効果主義によるべきであると主張する。しかし,法の適用の国際的調和は,本来,条約その他の国家間の取決めにより図られるものであるが,これがない場合には,各国の競争当局及び裁判所がそれぞれその国内法に基づいて判断すべき問題であるところ,独占禁止法 3条後段の規定を我が国における「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」行為に適用することは,我が国における競争を制限する行為を対象にしてその限度で独占禁止法を適用するにすぎず,独占禁止法の適用の国際的調和の趣旨に反するものとはいえない。」

「次に,原告は,「需要者」は商品又は役務の供給を受ける者をいうところ,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者は,間接的にも本件ブラウン管の供給を受けていないから,「需要者」に該当する余地はない・・・,価格カルテルの対象となった商品又はこれを部品として組み込んだ最終製品が独占禁止法の適用が問題となった法域内で供給,販売されたものだけを独占禁止法適用の対象としていると主張する。

 しかし,・・・,独占禁止法に「需要者」の定義規定はなく,我が国における自由経済競争秩序を維持確保するとの同法の目的に鑑み,「一定の取引分野における競争」における「需要者」は,商品の販売取引についていえば,商品の売買契約における買主という法形式,あるいは売買契約の履行としての商品の引渡しだけによって決まるのではなく,現実に競争の対象となる者は誰かとの実質的な観点も考慮して決定されるべきものである・・・。このような観点から,商品の売買契約の買主ではなく,商品の引渡しを受けるわけでもないが,商品の購入先,購入価格等取引条件の重要事項を実質的に決定している者も「需要者」に当たり,本件ブラウン管の取引の実態によれば,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者もこのような意味での「需要者」に当たること,「需要者」としての我が国ブラウン管テレビ製造販売業者が我が国に所在していたことも,上記・・・で説示したとおりである。商品・役務の供給を受ける者だけが「需要者」であり,これを前提に我が国ブラウン管テレビ製造販売業者は我が国に所在しない旨の原告の主張は,採用することができない。」


 

 

[参考]

ハードディスクドライブ用サスペンションの製造販売業者に対する件

公正取引委員会排除措置命令平成3029

公正取引委員会審決等データベースシステム

3条後段

*日本外の事業者を直接の販売先とする場合

 

「平成254月頃から平成285月頃までの間,我が国のハードディスクドライブ(以下,「HDD」という。)製造販売業者は,《製造販売業者A》[株式会社東芝]のみであった。」「《製造販売業者A》は,自社のHDDに用いるサスペンションの仕様を定め,サスペンション製造販売業者との間で直接交渉を行って当該サスペンションを調達する際の価格を決定し,エスエーイー・マグネティクス(ホンコン)・リミテッド(以下「SAE」という。)に指示して当該サスペンションを当該価格で購入させてヘッドジンバルアセンブリ[磁気ヘッドとサスペンションを組み合わせた部品。以下,「HGA」という。)を製造させ,当該HGAを購入してHDDの製造販売を行っていた。」

 

5社は,共同して,我が国のHDD製造販売業者向けサスペンションについて,相互に協調し,販売価格を維持する旨を合意することにより,公共の利益に反して,我が国におけるサスペンションの販売分野における競争を実質的に制限していたものであって,この行為は,独占禁止法第2条第6項に規定する不当な取引制限に該当し,独占禁止法第3条の規定に違反する」

 

 


 

 

[参考]

(株)ブリジストンほか4社に対する件

排除措置命令平成20220

審決集54512

独禁法3条後段 ,課徴金減免制度

*国際カルテル

 

1. 株式会社ブリヂストンほか4社(以下「5社」という。)及び横浜ゴム株式会社(以下「横浜ゴム」という。)は,マリンホース(タンカーと石油備蓄基地施設等との間の送油に用いられるゴム製ホース)の製造販売業を営む。

2. コミタル・ブランズ・エスペーアー(以下「コミタル」という。)は,マリンホースの製造販売業を営んでいたが,5社のうち1社にマリンホースの製造販売に係る事業を承継させており,以後,同事業を営んでいない。

3.マヌーリ・オイル・アンド・マリン・ユーエスエー・インク(以下「マヌーリ・マリン」という。)は,マリンホースの製造販売業を営んでいたが,平成181226日に消滅している。

4. 5社の本店は,日本,英国,フランス及びイタリア(5社中2社)にある。コミタル及びマヌーリ・マリンの本店は,それぞれ,米国にあった。(以下,本店が所在する国を「本店所在国」という。)

5. 我が国に所在するマリンホースの需要者(以下「需要者」という。)は,石油備蓄基地施設を運営する事業者等である。

6. 需要者は,5社,横浜ゴム,コミタル及びマヌーリ・マリンの8社(以下「8社」という。)その他マリンホースの製造販売業者又はこれらの販売代理店の中から複数の者に対して見積価格の提示を求め,最も低い見積価格を提示した者を受注者とする方法により,マリンホースを発注していた。

7. 8社は,平成111210日ころ以降(8社のうち,コミタルにあっては平成131218日までの間,アイティーアールにあっては平成131219日以降,マヌーリ・マリン及びマヌーリ・ラバーにあっては平成12928日ころ以降),受注価格の低落防止を図るため,次の合意を行い,これを実施していた。

8社のうちマヌーリ・マリンを除く7社は,マリンホースの使用地がいずれかの社の本店所在国内である場合には,使用地となる国に本店を置く者を受注予定者とする(なお,これに該当する事業者が複数ある場合には,当該複数の事業者のうちのいずれかの者を受注予定者とする。)。

②前記①以外の場合については,次のとおりとする。

(イ)各社の受注割合を予め定めておく。

(ロ)「コーディネーター」とされた者が受注予定者の選定等の業務を行う。

(ハ)コーディネーターは,過去の各社の受注実績等を勘案して,前記受注割合に基づいて,受注予定者を選定する。

(ニ)受注すべき価格は,受注予定者が定める。

(ホ)受注予定者以外の者は,受注予定者が受注できるように協力する。

8. 前記②の「コーディネーター」には,英国ルースに本店を置くピーダブリュー・コンサルティング・インターナショナル・リミテッドの代表者であった者が就いた。8社は,前記合意を実行するため,コーディネーターに対して,自社の受注実績の報告等を行っていた。コーディネーターは,これらの報告を基に,受注予定者の連絡等を行っていた。

9. 株式会社ブリヂストン及び横浜ゴムの2社(以下「2社」という。)は,我が国を使用地とするマリンホースについて, 2社の間の話合いにより受注予定者を決定していた。

10. 8社は,マリンホースのうち我が国に所在するマリンホースの需要者が発注するもののすべてを受注していた。

11. アメリカ合衆国において,平成1952日,同国政府によりコーディネーター及び5社の営業担当者が逮捕されたことから,前記合意に基づき受注予定者を決定する等の行為は取りやめられている。

 

法令の適用

8社は,共同して,特定マリンホースについて,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにすることにより,公共の利益に反して,特定マリンホースのうち我が国に所在するマリンホースの需要者が発注するものの取引分野における競争を実質的に制限していたものであって,これは,独占禁止法第2条第6項に規定する不当な取引制限に該当し,独占禁止法第3条の規定に違反するものである。また,違反行為が長期間にわたって行われていたこと,違反行為の取りやめがアメリカ合衆国政府によるコーディネーター及び5社の営業担当者の逮捕を契機とするものであること等の諸事情を総合的に勘案すれば,8社のうち横浜ゴム,コミタル及びマヌーリ・マリンの3社を除く5社については,特に排除措置を命ずる必要があると認められる。」

 

 

 


 

 

  

不当な取引制限 総合(講義・演習用参考事例)

 

 [事例]

EPSブロックの製造業者及び販売業者に対する件

排除措置命令平成24924

審決集59巻第一分冊195

独禁法3条後段

課徴金減免制度

 

1. EPS工法とは,発泡スチロール土木工法開発機構が策定したEPS工法の設計・施工基準に基づき建設工事に使用する工法であり,軟弱地盤上の盛土,擁壁,橋台背面の裏込め材としての盛土などの工事に利用される。

2. EPSブロックとは,EPS工法において使用される発泡スチロールブロックである。

3. EPSブロックの製造業者若しくは販売業者(以下,これらの者を「EPSブロック業者」という。)は,建設資材商社を通じてEPSブロックを販売していた。

4. 積水化成品工業株式会社,ダウ化工株式会社,株式会社ジェイエスピー,太陽工業株式会社,アキレス株式会社,株式会社積水化成品北海道,カネカケンテック株式会社,カネカフォームプラスチックス株式会社(以下「カネカフォームプラスチックス」という。)及び北海道カネパール株式会社(以下「北海道カネパール」という。)の9社(以下,これらを「9社」という。)は,EPSブロックの販売を行っている(ただし,①カネカフォームプラスチックスは,平成22101日,カネカケンテックに対し,吸収分割によりEPSブロックに係る事業を承継させ,②北海道カネパールは,平成1951,カネパールサービスに対し,吸収分割によりEPSブロックに係る事業を承継させ,ともに,同事業を営んでいない。)。

5. EPS工法採用工事を発注する官公庁等の発注者は,工事発注前に,建設コンサルタント業者に対して設計業務を依頼し,設計図書の作成等をさせることが通常であった。

6. 9社は,それぞれ,設計業務を請け負った建設コンサルタント業者に対して,自ら又は間接的に申し出て,設計図書のうちEPSブロックの使用に係る部分の図面作成を作成するなどの協力(以下「設計協力」という。)を行っていた。

7. EPS工法採用工事を受注した建設業者(以下「建設業者」という。)は,EPSブロックを建設資材商社又はEPSブロック業者から購入していた。

8. 建設業者は,EPSブロック購入にあたり,1又は複数の建設資材商社又はEPSブロック業者に対して見積を依頼し,提示された見積価格を購入先選定及び価格交渉の基礎としていた。

9. 建設資材商社は,見積依頼を受けた場合は,直接又は間接にEPSブロック業者に対して見積りを依頼し,見積もりにより示された価格を勘案して建設業者に対する自社の見積価格を提示していた。

10. 9社は,遅くとも平成191月以降(カネカケンテックにあっては平成22101日以降), 9社のいずれかが設計協力を行ったEPS工法採用工事に使用されるEPSブロックについては,①設計協力を行った者のうち発注されたEPS工法採用工事に採用された図面の作成を行った者を受注予定者とし,②受注予定者以外の者は,受注予定者が受注できるように協力する(受注予定者以外の者は営業活動を自粛する,見積依頼を受けた場合にはこれを断り又は受注予定者よりも高い価格を提示する等による)ことを合意し,実施していた。

11. 9社は,前記10により,特定EPSブロックのほとんど全てを受注していた。

12. 北海道カネパール及びカネカフォームプラスチックスは,それぞれ,事業を承継させた日以降(上記4参照),受注予定者が受注できるようにする行為を行っていない。

13. 平成23531日,本件について,公取委が立入検査を行った。

14. 前記立入検査日以降,積水化成品工業株式会社,ダウ化工株式会社,株式会社ジェイエスピー,太陽工業株式会社,アキレス株式会社,株式会社積水化成品北海道,カネカケンテック株式会社(以下,これらを「7社」という。)は,前記合意に基づき受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにする行為を取りやめている。

 

法令の適用

9社は,共同して,特定EPSブロックについて,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにすることにより,公共の利益に反して,特定EPSブロックの取引分野における競争を実質的に制限していたものであって,この行為は,独占禁止法第2条第6項に規定する不当な取引制限に該当し,独占禁止法第3条の規定に違反するものである。このため,9社は,いずれも,独占禁止法第7条第2項第1号に該当する者である。また,違反行為が長期間にわたって行われていたこと,違反行為の取りやめが公正取引委員会の立入検査を契機としたものであること等の諸事情を総合的に勘案すれば,7社については,特に排除措置を命ずる必要があると認められる。」

 

 

積水化成品工業株式会社

課徴金納付命令平成24924

審決集59巻第一分冊287

 

課徴金の計算の基礎

積水化成品工業は,特定EPSブロックの卸売業を営んでいた。

 積水化成品工業については,前記違反行為の「実行としての事業活動を行った日(平成20530日以前)から当該違反行為の実行としての事業活動がなくなる日までの期間が3年を超えるため,独占禁止法第7条の21項の規定により,実行期間は,平成20531日から平成23530日までの3年間となる。」

 前記実行期間における特定EPSブロックに係る積水化成品工業の売上額は,389495742円である。

 「積水化成品工業は,公正取引委員会による調査開始日である平成23531日以後,課徴金の減免に係る報告及び資料の提出に関する規則(平成17年公正取引委員会規則第7号。以下「課徴金減免規則」という。)第5条に規定する期日までに,課徴金減免規則第4条に規定する報告書及び資料の提出を行ったが,当該報告書及び資料の提出は,独占禁止法第7条の212項第1号に規定する報告及び資料の提出に該当するものとは認められない。」

「積水化成品工業が国庫に納付しなければならない課徴金の額は,独占禁止法第7条の21項の規定により,前記389495742円に100分の2を乗じて得た額から,同条第23項の規定により1万円未満の端数を切り捨てて算出された7618万円である。」

 


 

[事例]

トヨタ自動車(株)等が発注する自動車用ワイヤーハーネス及び同関連製品の見積り合わせの参加業者に対する件

排除措置命令平成24119

審決集58巻第一分冊258

独禁法3条後段

課徴金減免制度

 

1. 矢崎総業株式会社(以下「矢崎総業」という。),住友電気工業株式会社(以下「住友電気工業」という)及び古河電気工業株式会社(以下「古河電気工業」という。)(以下,これらを「3社」という。)は,それぞれ,自動車用ワイヤーハーネス及び同関連製品を自動車メーカーに対して販売していた。

2. トヨタ自動車株式会社(以下「トヨタ自動車」という。)は,自社及び我が国に所在する子会社が製造する自動車に搭載される自動車用ワイヤーハーネス及び同関連製品を調達するに当たり,既存の車種(以下「現行車種」という。)をフルモデルチェンジするなどの場合に,フルモデルチェンジ後の車種等に搭載される自動車用ワイヤーハーネス及び同関連製品を対象とするコンペを実施しており,コンペにおいては,自動車用ワイヤーハーネス及び同関連製品の種類(以下「部位」という。)ごとに受注者を選定していた。

3. トヨタ車体株式会社(以下「トヨタ車体」という。)及び関東自動車工業株式会社(以下「関東自動車工業」という。)は,トヨタ自動車から製造を委託された自動車に搭載される自動車用ワイヤーハーネス及び同関連製品の一部を,トヨタ自動車が実施するコンペにより選定された受注者に発注していた。

4.トヨタ自動車は,技術力,供給体制等を考慮してコンペの参加者(以下「サプライヤー候補」という。)を選定しており,コンペの大部分において,サプライヤー候補を3社の中から選定していた。

5.トヨタ自動車は,コンペを実施するに当たり,サプライヤー候補に対して,見積算出用図面等を交付して,この図面に基づく見積価格,原価低減のための技術提案等及び当該技術提案等を考慮した見積価格(以下「技術提案込み見積価格」という。)並びにこれら見積価格の積算根拠の提出を求めていた。

6. トヨタ自動車は,技術提案込み見積価格の実現可能性を査定し,査定結果を反映させた技術提案込み見積価格が最も低いサプライヤー候補を,当該部位の受注者としていた。

7. トヨタ自動車,トヨタ車体及び関東自動車工業(以下「トヨタ自動車等」という。)は,それぞれ,トヨタ自動車が受注者を選定した後,試作品の製作を繰り返して量産用図面を確定し,量産用図面及び見積基準に基づいて受注者に対する発注価格(以下「量産価格」という。)を決定していた。

8. 3社は,遅くとも平成149月頃以降,トヨタ自動車等発注の特定自動車用ワイヤーハーネス及び同関連製品について,量産価格の低落防止を図るため,①受注予定者を決定し,②受注予定者の技術提案込み見積価格を決定し,③受注予定者以外の者は受注予定者が受注できるようすることを合意し,実施していた。

9. 3社は,前記8の行為により,トヨタ自動車等発注の特定自動車用ワイヤーハーネス及び同関連製品の大部分を受注していた。

10. 古河電気工業は,平成20625日,矢崎総業が継続的に受注していた部位について,他のサプライヤー候補に連絡することなく矢崎総業より低い技術提案込み見積価格をトヨタ自動車に提出したこと等から,同日以降,前記合意に基づき受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにする行為を取りやめている。

11.平成2162日,公正取引委員会が,別件事件について住友電気工業及び古河電気工業の営業所等に立入検査を行ったところ,同日以降,前記8の行為は取りやめられている。

 

法令の適用

3社は,共同して,トヨタ自動車等発注の特定自動車用ワイヤーハーネス及び同関連製品について,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにすることにより,公共の利益に反して,トヨタ自動車等発注の特定自動車用ワイヤーハーネス及び同関連製品の取引分野における競争を実質的に制限していたものであって,この行為は,独占禁止法第2条第6項に規定する不当な取引制限に該当し,独占禁止法第3条の規定に違反するものである。このため,3社は,いずれも,独占禁止法第7条第2項第1号に該当する者である。また,違反行為が長期間にわたって行われていたこと,違反行為の取りやめが公正取引委員会の立入検査を契機としたものであること等の諸事情を総合的に勘案すれば,矢崎総業については,特に排除措置を命ずる必要があると認められる。」

 

 

矢崎総業株式会社

課徴金納付命令平成24119

審決集58巻第一分冊364

 

課徴金の計算の基礎

「矢崎総業については,前記3の違反行為の実行としての事業活動を行った日[平成1861日以前]から当該違反行為の実行としての事業活動がなくなる日[平成2161]までの期間が3年を超えるため,独占禁止法第7条の21項の規定により,実行期間は,平成1862日から平成2161日までの3年間となる。」

「前記実行期間におけるトヨタ自動車等発注の特定自動車用ワイヤーハーネス及び同関連製品に係る矢崎総業の売上額は」71142186289円である。

「矢崎総業は,独占禁止法第7条の212項第1号の規定により,公正取引委員会による調査開始日である平成22224日以後,課徴金の減免に係る報告及び資料の提出に関する規則(平成17年公正取引委員会規則第7号。以下「課徴金減免規則」という。)第5条に規定する期日までに,課徴金減免規則第4条及び第6条に定めるところにより,単独で,公正取引委員会に前記3の違反行為に係る事実の報告及び資料の提出(既に公正取引委員会によって把握されている事実に係るものを除く。)を行った者であり,当該報告及び資料の提出を行った日以後において当該違反行為をしていた者でない。また,当該違反行為について,独占禁止法第7条の210項第1号又は第11項第1号から第3号までの規定による報告及び資料の提出を行った者(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律(平成21年法律第51号)附則第17条の規定により,これらの規定による報告及び資料の提出を行ったものとみなされる者を含む。以下同じ。)の数は5に満たないところ,これらの規定による報告及び資料の提出を行った者の数と,同条第12項第1号の規定による報告及び資料の提出を行った者(以下「調査開始日以後の申請事業者」という。)であって矢崎総業より先に課徴金減免規則第4条第1項に規定する報告書の提出を行った者の数を合計した数は5に満たず,かつ,調査開始日以後の申請事業者であって矢崎総業より先に同項に規定する報告書の提出を行った者の数を合計した数は3に満たない。したがって,矢崎総業は,独占禁止法第7条の212項の規定の適用を受ける事業者である。」

「矢崎総業が国庫に納付しなければならない課徴金の額は,独占禁止法第7条の21項の規定により,前記71142186289円に100分の10を乗じて得た額から,同条第12項の規定により当該額に100分の30を乗じて得た額を減額し,同条第23項の規定により1万円未満の端数を切り捨てて算出された497995万円である。」

 

 

公取委HP

「独占禁止法第7条の210項,同条第11項又は同条第12項の適用を受けた事業者のうち,適用を受けたことを公表することを申し出た事業者は以下のとおりである。」

住友電気工業株式会社(50%)

古河電気工業株式会社(免除)

矢崎総業株式会社(30%)

 


 

[事例]

国土交通省四国地方整備局高知河川国道事務所が発注する一般土木工事の入札参加業者に対する件

排除措置命令平成241017

審決集59巻第一分冊206

独禁法3条後段

独禁法722号ほか

課徴金(主導的事業者ほか)

官製談合防止法

 

1. ミタニ建設工業株式会社ほか26名(以下「27名」という。)は,建設業を営む。

2. 27名のうち,①新洋共英株式会社は,平成2161日に大旺新洋株式会社に吸収合併されることにより消滅し,②株式会社竹内建設は,平成2161日に株式会社みかげに吸収合併されたことにより消滅し(さらに,株式会社みかげは,平成24713日に株主総会の決議により解散し,事業活動の全部を取りやめ,同年920日付で清算が結了した。),③藤本建設株式会社は,建設業法の規定に基づく許可の更新を受けず平成241017日において建設業を営んでいない。

3. 大旺新洋株式会社は,平成2161日に,新洋共英株式会社(前記2①)を吸収合併し,当該事業者から建設業に関する事業の全部を承継した者である。

4. 国土交通省四国地方整備局では,同局が所掌する工事の競争入札について,工事種別ごとに参加資格を有する者等を決定するとともに,一般土木工事の予定価格の区分に対応して参加資格保有者の等級(上位のものから順にABC及びD)を決定していた。(以下,このうちCの等級に格付された有資格者を「C等級業者」という。)。

5. 国土交通省が四国地方整備局高知河川国道事務所において一般競争入札の方法により一般土木工事として発注する工事であって,C等級業者のみを入札の参加者とする工事(ただし,平成20815日から平成22630日までの間にあっては,Bの等級に格付されていた株式会社竹内建設を含む。)(以下「本件特定一般土木工事」という。)については,全てについて,総合評価落札方式による一般競争入札が実施されていた。総合評価落札方式とは,入札の参加の申込みの際,参加希望者に施工計画等の価格以外の提案内容等をもって入札の参加の申込みをさせ,各入札における入札書の提出締切日前までに,各入札の参加者の提案内容等の評価を行い,当該提案内容等の点数(以下「評価点」という。)を決定し,入札価格が予定価格の制限の範囲内であるなどの一定の要件を満たした入札の参加者のうち,評価値(当該入札の参加者の入札価格を億単位にしたものによって,評価点等を除した数値をいう。)の最も高い者をもって落札者とするものであった。

6. 各工事の入札の参加者の名称,予定価格及び調査基準価格(低入札価格調査の基準となる価格)及び評価点(前記5)は,入札書の提出締切日までに公表されず,高知河川国道事務所内の一部職員だけが知ることができた。

7. 高知河川国道事務所の副所長は,本件特定一般土木工事について,ミタニ建設工業株式会社の代表取締役社主の求めに応じ,同人に対して,各入札における入札書の提出締切日前までに,入札の参加者の名称,入札の参加者の評価点,予定価格等の未公表情報を教示していた。

8. 27名は,C等級業者であった。

9. 27名は,遅くとも平成2041日以降(ただし,協業組合竹内新輝については平成2292日以降),本件特定一般土木工事について,受注価格の低落防止等を図るため,①受注予定者を決定し,②受注予定者以外の者は,受注予定者が受注できるように協力する旨の合意を行った。

10. 前記①の受注予定者の決定は,27名のうちミタニ建設工業株式会社,入交建設株式会社及び株式会社轟組が,各工事の施工場所,過去に受注した工事との継続性,過去の受注実績,各事業者の受注の希望状況等を勘案して指定することにより行っていた。

11. 受注すべき価格の決定は,受注予定者が,前記5の未公表情報を利用し,又は3社から当該未公表情報を利用した指導を受けて,定めることにより行っていた。

12. 27名は,本件特定一般土木工事のほとんど全てを受注していた。

13. 27名のうち,新進建設株式会社,株式会社清水新星及び藤本建設株式会社は,平成233月中旬頃,受注予定者を決定する話合いが決裂したことなどから,それぞれ,同月15日以降,前記合意に基づき受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにする行為を取りやめている。

14. 27名のうち,新洋共英株式会社は平成2161日以降,株式会社竹内建設は平成2256日以降,本件特定一般土木工事の入札に参加できなくなったため,同日以降,前記3の合意に基づき受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにする行為を行っていない。

15. 平成23126日,本件について,公取委が立入検査を行ったところ,同日以降,27名から前記11及び12記載の事業者を除いた22名は,前記合意に基づき受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにする行為を取りやめている。

 

法令の適用

27名は,共同して,高知河川国道事務所発注の特定一般土木工事について,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにすることにより,公共の利益に反して,高知河川国道事務所発注の特定一般土木工事の取引分野における競争を実質的に制限していたものであって,この行為は,独占禁止法第2条第6項に規定する不当な取引制限に該当し,独占禁止法第3条の規定に違反するものである。このため,27名は,いずれも,独占禁止法第7条第2項第1号に,[大旺新洋株式会社(前記2①)]は同項第2号に,それぞれ該当する者である。また,違反行為が長期間にわたって行われていたこと,違反行為の取りやめが公正取引委員会の立入検査を契機としたものであること等の諸事情を総合的に勘案すれば,[27名中]23[株式会社清水新星(前記13),新洋共英株式会社(前記2①) ,株式会社竹内建設(前記2②)及び藤本建設株式会社(前記3)を除く者]及び大旺新洋株式会社については,特に排除措置を命ずる必要があると認められる。

 

ミタニ建設工業株式会社に対する課徴金納付命令

平成241017

審決集59巻第一分冊296

課徴金の計算の基礎

ミタニ建設工業については,「違反行為の実行としての事業活動を行った日[平成20126日以前]から当該違反行為の実行としての事業活動がなくなる日[平成23126]までの期間が3年を超えるため,独占禁止法第7条の21項の規定により,実行期間は,平成20127日から平成23126日までの3年間となる。」

「ミタニ建設工業は,入交建設株式会社及び株式会社轟組と共同して,前記実行期間を通じ,土佐国道事務所発注の特定一般土木工事について,当該工事の受注を希望する他の事業者からなされる受注の希望を受けて,当該受注の希望状況,各工事の施工場所,過去に受注した工事との継続性,過去の受注実績等を勘案して,当該事業者に対し,受注予定者となる者を指定していたものである。したがって,ミタニ建設工業は,独占禁止法第7条の28項第2号に該当する事業者である。」

「前記実行期間における土佐国道事務所発注の特定一般土木工事に係るミタニ建設工業の売上額は」,平成21年改正独禁法施行日前(平成2211日前)(以下「施行日」という。)前に係るものについては1068375000円であり,施行日以後に係るものについては,1962397500円である。

ミタニ建設工業は,前記実行期間を通じ,資本金の額が3億円以下の会社であって,建設業に属する事業を主たる事業として営んでいた者である。したがって,ミタニ建設工業は,独占禁止法第7条の25項第1号に該当する事業者である。

ミタニ建設工業が国庫に納付しなければならない課徴金の額は①違反行為のうち施行日前に係るものについては,独占禁止法第7条の21項及び第5項の規定により,前記1068375000円に100分の4を乗じて得た額,②前記3の違反行為のうち施行日以後に係るものについては,独占禁止法第7条の21項,第5項及び第8項の規定により,前記1962397500円に100分の6を乗じて得た額を合計した額から,独占禁止法第7条の223項の規定により1万円未満の端数を切り捨てて算出された16047万円である。

[ミタニ建設工業ほか2社が独占禁止法第7条の28項第2号に該当する事業者であるとされた。]

 

 

公取委HP

「独占禁止法第7条の210項,同条第11項又は同条第12項の適用を受けた事業者のうち,適用を受けたことを公表することを申し出た事業者は以下のとおりである。」

株式会社清水新星(免除)

新進建設株式会社(30%)

 

 

国土交通大臣に対する改善措置要求等について

公正取引委員会報道発表平成241017

「高知河川国道事務所の副所長は,遅くとも平成2041日以降」,「高知河川国道事務所発注の特定一般土木工事について,ミタニ建設工業株式会社の代表取締役社主の求めに応じ,同人に対し,各入札における入札書の提出締切日前までに,入札参加業者の名称,入札参加業者の評価点,予定価格等の未公表情報を教示していた。」

国土交通省の職員による前記行為は,「入札談合等関与行為防止法第2条第5項第3号(発注に係る秘密情報の漏えい)の規定に該当し,同法に規定する入札談合等関与行為と認められる。

よって,公正取引委員会は,国土交通大臣に対し,入札談合等関与行為防止法第3条第2項の規定に基づき,今後,前記1の行為と同様の行為が生じないよう」,「高知河川国道事務所発注の特定一般土木工事のそれぞれについて,当該入札談合等関与行為が排除されたことを確保するために必要な改善措置を速やかに講ずるよう求めた。また,国土交通大臣に対し,この求めに応じて同条第4項の規定に基づき行った調査の結果及び講じた改善措置の内容について,同条第6項の規定に基づき公表するとともに公正取引委員会に通知するよう求めた。

さらに,会計検査院に対し,入札談合等関与行為の排除及び防止に万全を期す観点から,国土交通大臣に対して改善措置を講ずるよう求めた旨の通知を行った。」

 


 

[事例](行政・刑事,独禁法・談合等関与防止法 複合事例)

(刑事告発)

独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構が発注する北陸新幹線融雪・消雪基地機械設備工事の入札談合に係る告発

公取委・報道発表平成2634

 

1. 公取委は,「独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構(以下「鉄道・運輸機構」という。)が発注する北陸新幹線融雪基地機械設備工事及び消雪基地機械設備工事(以下「融雪・消雪基地機械設備工事」という。)の入札談合事件について犯則調査を行ってきたところ,独占禁止法に違反する犯罪があったと思料して,同法第74条第1項の規定に基づき,」ダイダン株式会社,高砂熱学工業株式会社,東洋熱工業株式会社,株式会社三晃空調,株式会社大氣社,三建設備工業株式会社,株式会社朝日工業社,新日本空調株式会社(以下,被告発会社8社という。)及び「同犯罪当時に被告発会社8社で設備工事の請負等の業務に従事していた8名を検事総長に告発した。」

2. 「被告発会社8社は,いずれも冷暖房等に関する設備工事の請負等の事業を営む事業者であり,被告発人8名は,それぞれの所属する被告発会社の従業者として,前記工事の請負等に関する業務に従事していたものであるが,被告発人8名は,被告発会社8社と同様の事業を営む他の事業者(他の事業者と被告発会社8社を併せて以下「被告発会社等」という。)の従業者らと共に,それぞれその所属する被告発会社等の他の従業者と共謀の上,被告発会社等の業務に関し,平成239月中旬頃から平成2411月頃までの間,東京都内の飲食店等において,面談等の方法により,平成2310月以降に鉄道・運輸機構が条件付一般競争入札の方法により順次発注する北陸新幹線融雪・消雪基地機械設備工事について,受注予定事業者を決定するとともに当該受注予定事業者が受注できるような価格で入札を行うことなどを合意した上,同合意に従って,上記工事についてそれぞれ受注予定事業者を決定するなどし,もって被告発会社等が共同して,上記工事の受注に関し,相互にその事業活動を拘束し,遂行することにより,公共の利益に反して,上記工事の受注に係る取引分野における競争を実質的に制限した」。

3. 罰条は,独占禁止法第89条第1項第1号,第3条,第95条第1項第1号及び刑法第60条である。

 

(改善措置要求)

独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構に対する改善措置要求等

公取委・改善措置要求平成26319日(報道発表平成26319日)

 

1. 公取委は,鉄道・運輸機構が条件付一般競争入札の方法により発注した北陸新幹線にかかる融雪・消雪基地機械設備工事について,「高砂熱学工業株式会社ほか7社及び同犯罪当時にこれら8社で設備工事の請負等の業務に従事していた8名を検事総長に告発した」。

2. [改善措置要求]

本件に関連して,次の事実が認められた。

「鉄道・運輸機構の鉄道建設本部東京支社の設備部長,設備部機械第三課長及び同部機械第二課副参事は,本件融雪・消雪基地機械設備工事のうち複数の物件について,これらの入札に参加していた事業者のうち特定の事業者の従業者に対し,各物件における入札前までに,未公表の予定価格に関する情報を教示していた。」

3. 前記2の行為は,入札談合等関与行為防止法第2条第5項第3号(発注に係る秘密情報の漏えい)の規定に該当する。

4. 「よって,公正取引委員会は,鉄道・運輸機構理事長に対し,入札談合等関与行為防止法第3条第2項の規定に基づき,今後,前記[2]と同様の行為が行われないよう,前記[2]の行為が排除されたことを確保するために必要な改善措置を速やかに講ずるよう求めた。また,同理事長に対し,この求めに応じて同条第4項の規定に基づき行った調査の結果及び講じた改善措置の内容について,同条第6項の規定に基づき公表するとともに公正取引委員会に通知するよう求めた。

 さらに,会計検査院に対し,入札談合等関与行為の排除及び防止に万全を期す観点から,鉄道・運輸機構理事長に対して改善措置を講ずるよう求めた旨の通知を行った。」

5. [鉄道・運輸機構に対する申入れ] また,前記2の行為以外にも,鉄道・運輸機構の役員及び職員による次の行為が行われていることが認められた。

① 前記1の「融雪・消雪基地機械設備工事以外の鉄道・運輸機構発注の一部の物件についても,特定の入札参加事業者の従業者に対し,入札前までに,未公表の予定価格に関する情報を教示していた。」

② 「鉄道・運輸機構の発注する整備新幹線等に係る工事に関し,入札参加事業者を共同企業体(以下「JV」という。)に限定した総合評価落札方式によって実施される入札において,当該入札に参加する各JVの構成員の中で代表者に次ぐ構成員に位置付けられている事業者に鉄道・運輸機構から再就職した者が在籍していない場合には,当該JVに対し,評価点の最高点は付けないなどの運用を行うよう指示していた。」

③ 「公正取引委員会が鉄道・運輸機構の本社を平成2511月に捜索した際,鉄道・運輸機構の退職者の再就職に関する書類・電子メール等を隠蔽・隠滅する行為を行った。」

6. このため,公取委は,「鉄道・運輸機構に対し,独占禁止法及び入札談合等関与行為防止法のそれぞれの趣旨及び内容を鉄道・運輸機構の役員及び職員に周知徹底することを含め鉄道・運輸機構における法令遵守体制を確立するとともに,鉄道・運輸機構における入札の実態について点検し,必要な場合には改善を行うなどの所要の措置を講ずるよう申し入れた。」

 

(排除措置命令)

独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構が発注する北陸新幹線消融雪設備工事の入札参加業者らに対する件

排除措置命令平成27109

審決集未登載

独禁法3条後段

 

1. ダイダン株式会社,高砂熱学工業株式会社,東洋熱工業株式会社,株式会社三晃空調,株式会社大氣社,三建設備工業株式会社,株式会社朝日工業社,三機工業株式会社,株式会社柿本商会,新日本空調株式会社,新菱冷熱工業株式会社の11社(以下,「11社」という。)は,それぞれ建設業を営む者である。

2. 独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構(以下,「鉄道・運輸機構」という。)は,同機構が北陸新幹線の長野・金沢間の軌道上における雪害対策を目的として条件付一般競争入札の方法により発注する融雪基地機械設備工事及び消雪基地機械設備工事(以下,「本件工事」という。)を,条件付一般競争入札の方法により発注していた。この条件付一般競争入札においては,一定の参加資格条件を付して入札の参加希望者を募って参加申込みを行わせた上で,参加希望者のうち参加資格条件を満たしていると認めた者を当該入札の参加者としていた。

3. 11社は,北陸新幹線消融雪設備工事の参加資格条件を満たしていると認められていた。

4. ダイダン株式会社,高砂熱学工業株式会社及び新日本空調株式会社の3(以下「3社」という。)は,本件工事について受注調整を行うことを計画した。そして,3社は,平成23914日,東京都中央区日本橋に所在する飲食店「銀座アスター日本橋賓館」において,11社による受注調整を行うための会合(以下,「アスター会合」という。)を開催することとし,11社のうち3社を除く8社(以下,「8社」という。)にこの会合への参加を呼び掛けた。8社は,呼びかけに応じてアスター会合に参加した。3社は,アスター会合において,8社に対して, 11社において受注調整を開始することを提案し,あらかじめ作成した受注予定者となる順番の案を示すなどした。そして,11社は,本件工事において,受注価格の低落防止等を図るため,以下の事項・内容を含む合意を行った。

① 11社を順番に受注予定者とすること及びその順番

② 前記①の順番を変更する場合は,関係各社間の協議によること

③ 受注予定者以外の者は,受注予定者が受注できるように協力すること

 

5. 11社は,本件工事の全てについて,前記2(2)の合意に基づき強力を行い,受注予定者は,各工事を受注した。

6. 平成24112日,北陸新幹線消融雪設備工事の全ての入札が終了したことから,翌日以降は前記合意は消滅している。

 

法令の適用

11社は,共同して,北陸新幹線消融雪設備工事について,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるように協力する旨を合意することにより,公共の利益に反して,北陸新幹線消融雪設備工事の取引分野における競争を実質的に制限していたものであって,この行為は,独占禁止法第2条第6項に規定する不当な取引制限に該当し,独占禁止法第3条の規定に違反する」。「前記の違反行為は既になくなっているが,11社は,いずれも,独占禁止法第7条第2項第1号に該当する者であり,かつ,違反行為が自主的に取りやめられたものではないこと,11社は,北陸新幹線消融雪設備工事について,平成243月頃に鉄道・運輸機構から独占禁止法違反行為の疑いに係る事情聴取を受けた際に,独占禁止法違反行為を行っていない旨を説明し,又は同行為を行っておらず今後も同行為を行わない旨の誓約書を鉄道・運輸機構に提出したにもかかわらず,その後も違反行為を継続したこと等の諸事情を総合的に勘案すれば,11社については,特に排除措置を命ずる必要があると認められる。」

 

[参考1]

課徴金納付命令の概要(公取委報道発表平成27109日)

「課徴金納付命令の対象事業者は,平成28510日までに,それぞれ別表の「課徴金額」欄記載の額(総額103499万円)を支払わなければならない。

 なお,ダイダン株式会社及び高砂熱学工業株式会社は,新日本空調株式会社と共同して(以下,ダイダン株式会社,高砂熱学工業株式会社及び新日本空調株式会社のことを「3社」という。),前記2の違反行為をすることを企て,かつ,11社のうち3社を除く8社に対し当該違反行為をすることを唆すことにより,当該違反行為をさせたことが認められたため,独占禁止法第7条の28項第1号に該当する者であることから,同項の規定に基づき,5割加算した算定率を適用している。」

 

[参考2]

課徴金減免制度の適用事業者(公表を希望した者に限る)

 

株式会社朝日工業社 減額率30%

三機工業株式会社 免除

株式会社三晃空調 減額率30%

高砂熱学工業株式会社 減額率30

 

 


 

不当な取引制限 その他事例(公取委)

 

[事例]

コーアイセイ株式会社に対する件

排除措置命令令和元年64

公正取引委員会ホームページ

独禁法3条後段

 

1. コーアイセイ株式会社(以下「コーアイセイ」という。)は,後発炭酸ランタンOD錠を製造していた。

2. 日本ケミファ株式会社(以下「日本ケミファ」という。)は,後発炭酸ランタンOD錠をコーアイセイに委託し製造させていた。

3. 医療用医薬品が保険医療において使用されるためには,「使用薬剤の薬価(薬価基準)」(厚生労働省告示。以下「薬価基準」という。)に収載される必要がある。

4.平成30615日から同年1024日までの間,薬価基準には2社の後発炭酸ランタンOD錠のみが収載されていた。

5. 2社は,遅くとも平成308月上旬までに,2社が自社製品として販売する後発炭酸ランタンOD錠の仕切価について,低落を防止し自社の利益の確保を図るため,日本ケミファが同年720日にコーアイセイに対して提示した価格(以下「日本ケミファ提示価格」という。)を目途とする旨を合意した。

6. コーアイセイは,卸売業者に対し,後発炭酸ランタンOD錠をおおむね日本ケミファ提示価格で販売していた。

7. 日本ケミファは,コーアイセイから安定供給に必要な量の後発炭酸ランタンOD錠の供給を受けられなかったことから,後発炭酸ランタンOD錠の販売を開始しなかった。

8. 日本ケミファは,平成301024日に課徴金減免申請を行うとともに,後発炭酸ランタンOD錠の自社の営業担当者等に対して他の事業者と後発炭酸ランタンOD錠の仕切価を話し合って決定すること等を行わない旨の指示を行い,同日以降,前記合意に基づく行為を行っていない。

 

法令の適用

2社は,共同して,後発炭酸ランタンOD錠の仕切価について,日本ケミファ提示価格を目途とする旨を合意することにより,公共の利益に反して,我が国における後発炭酸ランタンOD錠の販売分野における競争を実質的に制限していたものであって,この行為は,独占禁止法第2条第6項に規定する不当な取引制限に該当し,独占禁止法第3条の規定に違反する」。


 

 

[事例]

全日本空輸株式会社が発注する制服の販売業者に対する件

公正取引委員会排除措置命令平成30712

審決等データベースシステム

3条後段

 

1. 全日本空輸株式会社(以下「全日空」という。)は,平成25111日に説明会を開催して,一定の制服について次の方法により新規に調達をすることとした(以下,これらの制服を「本件制服」という。)。

① 平成25111日の説明会に出席した者のうち本件制服の受注を希望する者は,同年1210日までに,カテゴリーごとに,見積書等を提出する

受注者については,カテゴリーごとに,全日空の求める一定の品質基準を満たした複数の者のうち,価格交渉した結果,最も低い見積価格を提示した者とする

本件制服の初回納入は,平成26121日から開始し平成27131日までに完了する。

その後,受注者と本件全日空向け制服の継続的売買契約を締結し,契約期間については,平成2721日から3年間とし,平成3021日から7年間は,契約当事者による契約を終了する旨の通知がない場合,毎年,同一条件により契約期間を1年間延長する。

2. 全日空は,本件制服に係るデザイナーの選定,生地の検討,仕様書の企画・作成,説明会資料の作成等に関する業務について,平成24121日,オンワード商事株式会社(以下「オンワード商事」という。)との間で「デザイナー選定に関するアドバイザリー業務等委託契約」を締結した。また,この際に,オンワード商事に対し,秘密保持義務を課していた。

3. 株式会社髙島屋(以下「髙島屋」という。),株式会社そごう・西武(以下「そごう・西武」という。)及び株式会社名鉄百貨店(以下「名鉄百貨店」という。)の3社は,直接又は間接に,全日本空輸株式会社(以下「全日空」という。)に対して本件制服を販売していた。

4. 丸紅メイト株式会社(以下「丸紅メイト」という。)は,他の事業者を通じて,髙島屋に対し,本件全日空向け制服の一部の品目を販売していた。伊藤忠商事株式会社(以下「伊藤忠商事」という。)は,肩書地に本店を置き,そごう・西武に対し,本件全日空向け制服の一部の品目を販売していた。

5. オンワード商事は,直接又は他の事業者を通じて,髙島屋及びそごう・西武に対し,本件全日空向け制服の一部の品目を販売していた。

6. 髙島屋,そごう・西武,名鉄百貨店,丸紅メイト及び伊藤忠商事の5社(以下,「5社」という。)らは,上記1の説明会に出席した。オンワード商事については,上記2の契約を締結していたことから,全日空は,本件制服の調達を予定していなかった。また,このため,全日空は,前記1の説明会にオンワード商事を参加させなかった。

7. 5社及びオンワード商事の6社(以下,「6社」という。)は,遅くとも平成25126日までに,本件制服について次の合意を行った。

カテゴリー1は髙島屋,カテゴリー2及びカテゴリー3はそごう・西武,カテゴリー4は名鉄百貨店をそれぞれ受注予定者とする

5社は,カテゴリーごとの受注予定者 の見積価格がそれぞれ最も低い価格となるようにし,受注予定者以外の者 は受注予定者よりも高い見積価格を提示等する

オンワード商事は,5社に対して本件制服の完成品見本等を事前に提供し,特に,カテゴリーごとの受注予定者には仕様書の基準に合致した品質の完成品見本等を事前に提供する

8. 6社は,前記7の合意に基づき,本件制服について,カテゴリーごとの受注予定者が受注できるようにしていた。

 

法令の適用

6社は,共同して,本件全日空向け制服について,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにする旨を合意することにより,公共の利益に反して,本件全日空向け制服の取引分野における競争を実質的に制限していたものであって,この行為は,独占禁止法第2条第6項に規定する不当な取引制限に該当し,独占禁止法第3条の規定に違反するものである。」

 


 

 

[事例]

四国ロードサービス(株)ほか3社に対する件

勧告審決平成14124

審決集49243

独禁法3条後段

*競争の実質的制限ほか

 

1. 四国ロードサービス株式会社(以下「四国ロードサービス」という。),株式会社山陽メンテック(以下「山陽メンテック」という。),株式会社ショウテクノ(以下「ショウテクノ」という。)及び東中国道路メンテナンス株式会社(以下「東中国道路メンテナンス」という。)は,四国地区又は中国地区において土木工事等の建設業を営む。

2. 日本道路公団四国支社(以下「四国支社」という。)は,道路保全土木工事を公募型指名競争入札の方法により発注している。

3. 四国ロードサービスは,四国支社が平成8年度までに随意契約の方法により発注した保全工事のすべてを受注していた。

4. 四国ロードサービスは,この中で,遅くとも平成92月ころまでに,四国支社においても公募型指名競争入札が導入され,この入札の実施には複数の参加者が必要である等の情報を得た。

5. 四国ロードサービスは,公募型指名競争入札の下でも自社が四国支社発注の保全工事のすべてを確実に受注できるようにするため,また,自社が受注することを前提として公募型指名競争入札への複数の入札参加者を確保するために,中国地区において保全工事の受注実績を有する山陽メンテック,ショウテクノ,東中国道路メンテナンス等に対して入札の参加者としての指名を受けるよう依頼した。

山陽メンテック,ショウテクノ及び東中国道路メンテナンス(以下「中国地区3社」という。)は,当該依頼に応じれば,日本道路公団中国支社が公募型指名競争入札の方法により発注する保全工事の入札に四国ロードサービスは参加しないと考えこの依頼に応じることにした。

6. 四国ロードサービス及び中国地区3社の4社(以下「4社」という。)は,次の合意を行った。

①四国支社が公募型指名競争入札の方法により発注する保全工事は,四国ロードサービスが受注する

②中国地区3社は,四国支社から入札の参加の指名を受けた場合には,四国ロードサービスが受注できるように協力する

4社は,この合意に基づき,四国ロードサービスが中国地区3社にその入札すべき価格を連絡するとともに,その他の指名業者の協力を得るなどして,四国ロードサービスが受注できるようにしていた。

7. 四国ロードサービスは,前記6により,四国支社が公募型指名競争入札の方法により発注する保全工事の大部分を受注していた。

8. 公取委が本件について審査を開始したところ,4社は上記合意に基づき四国ロードサービスが受注できるようにする行為を取りやめている。

 

法令の適用

4社は,共同して,四国支社が公募型指名競争入札の方法により発注する保全工事について,四国ロードサービスが受注できるようにすることにより,公共の利益に反して,四国支社が公募型指名競争入札の方法により発注する保全工事の取引分野における競争を実質的に制限していたものであって,これは,独占禁止法第2条第6項に規定する不当な取引制限に該当し,独占禁止法第3条の規定に違反するものである。」


 

 

[事例]

防衛装備庁が発注するビニロン又は難燃ビニロンを材料として使用する繊維製品の入札参加業者に対する件

公正取引委員会排除措置命令平成29310

審決等データベースシステム

独禁法3条後段

 

1. ユニチカ株式会社(以下「ユニチカ」という。)及び株式会社クラレ(以下「クラレ」という。)の2社(以下「2社」という。)は,防衛装備庁(平成27930日以前は防衛省装備施設本部をいう。)が実施する一定のビニロン製品(以下,「本件製品」という。)の一般競争入札に参加していた。この競争入札には,2社のみ又は2社のうちいずれか1社のみが参加していた。

2. ユニチカ又はクラレは,本件製品の入札に係る業務(仕様書の受領,見積書,契約書,検品のための書類等の作成・提

出等をいう。)を,2社以外の事業者に代行させていた(以下,代行していた事業者を「代行商社」という。)。

3. 2社は,受注価格の低落防止等を図るため,本件製品について,受注予定者を決定し,受注予定者以外の者は,受注予定者が受注できるように協力することを合意し,次の方法により実施していた。

本件製品について,2社のうちいずれか1社が,常に受注予定者となるように受注予定者を決定する

② 2社が入札に参加する場合には,受注予定者が自社の入札価格を,自社の代行商社,ついで受注予定者以外の者(「相手方」という。)の代行商社を介して,相手方に連絡する

③ 連絡を受けた相手方は,受注予定者の入札価格よりも高い入札価格で入札し,又は,入札を辞退する

 

法令の適用

2社は,共同して,防衛装備庁発注の特定ビニロン製品について,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにすることにより,公共の利益に反して,防衛装備庁発注の特定ビニロン製品の取引分野における競争を実質的に制限していたものであって,この行為は,独占禁止法第2条第6項に規定する不当な取引制限に該当し,独占禁止法第3条の規定に違反する」。

 

(山本真弘・公正取引80932頁(担当官解説))

 「本件では、2 社が違反行為を実施するに当たって,違反事業者以外の事業者である代行商社が一定の協力を行っていた。...

 このように,代行商社は、違反行為の実施に当たって,一定の役割を担っていたが,「共同して�相互にその事業活動を拘束」しておらず,違反事業者とは認定されなかったものと考えられる。もっとも,代行商社は,違反事業者と認定されなかったが,違反行為に関与しており,その実施を助けていたといえる。このため,公正取引委員会は,代行商社に対して、2社に対する措置を行うに際して,違反行為に関与していたことは独占禁止法の観点から問題がある旨の指摘を行っている。」


 

 

[事例]

東日本電信電話株式会社が発注する作業服の入札参加業者らに対する件

公正取引委員会排除措置命令平成30220

審決等データベースシステム

独禁法3条後段

 

1. 東日本電信電話株式会社(以下「NTT東日本」という。)は,調達金額を引き下げるため,従来随意契約により発注していた作業服について,一般競争入札(以下,「本件入札」という。)により調達することとし,平成27521日に一般競争入札を実施した(以下,この入札に付された作業服を「本件作業服」という。)。

2. NTT東日本は,本件入札を行うに際して,本件NTT東日本等向け作業服に係る意見招請から調達までの各種相談,仕様書監修,生地審査,縫製品審査等に関する業務を公益財団法人日本ユニフォームセンター(以下「日本ユニフォームセンター」という。)に委託し,この際に日本ユニフォームセンターに対して秘密保持義務を課していた。

3. 伊藤忠商事株式会社(以下「伊藤忠商事」という。),双日ジーエムシー株式会社(以下「双日ジーエムシー」という。)及び丸紅メイト株式会社(以下「丸紅メイト」という。)の3社(以下,「3社」という。)は,従来,NTT東日本向けに作業服を販売していた。

4. 3社は,本件作業服につきNTT東日本が競争入札の方法による調達を検討しているとの情報に接した。

5. 双日ジーエムシー及び丸紅メイトは,日本ユニフォームセンターの担当者から,本件入札において3社及び株式会社チクマ(以下「チクマ」という。)以外には入札に参加するために必要な生地見本提出等を行った事業者がないこと,本件入札の目標価格が既存の総価と同程度であること等の情報を得て,3社間で共有した。

6. その後,3社は,日本ユニフォームセンターの担当者から,本件入札が不落となった場合は,NTT東日本が入札者と協議した上で複数の者と随意契約を締結する可能性がある旨の情報を得た。

7. 3社は,会合を開催して,3社の中から受注予定者を決定し,受注予定者は,受注予定者以外の者が納入している品目を当該受注予定者以外の者から購入することにより,それぞれが納入している品目を引き続き納入できるようにすることを合意した。

8. チクマは,双日ジーエムシーの協力を得て自社の入札参加資格を取得し,受注予定者が受注できるように協力することを同意して,前記3の合意に加わった。

8. 上記78の合意の具体的内容は,概ね次のようなものであった。

3社は,目標価格を上回る価格で複数回入札し,本件入札を不落にしてNTT東日本との協議に持ち込む

双日ジーエムシー及び丸紅メイトを受注予定者とする

伊藤忠商事は辞退する

⑤ 双日ジーエムシーは,伊藤忠商事から一定の品目を購入してNTT東日本に納入する

⑥ チクマは,双日ジーエムシーから連絡された総価及び品目ごとの単価で入札する

9. 双日ジーエムシーは,丸紅メイトと協議の上,伊藤忠を除く3社及びチクマに入札価格を定めて直接又は間接にこれらの者に連絡し,各社はこれに従って入札するなどして,おおよそ前記合意に基づいて,本件NTT東日本等向け作業服について,受注予定者が受注できるようにして,既存の納入者が引き続き納入できるようにしていた。

 

法令の適用

 3社及びチクマは「共同して,本件NTT東日本等向け作業服について,受注予定者を決定し,目標価格を上回る価格で入札し,受注予定者が受注できるようにして,既存の納入者が引き続き納入できるようにする旨を合意することにより,公共の利益に反して,本件NTT東日本等向け作業服の取引分野における競争を実質的に制限していたものであって,この行為は,独占禁止法第2条第6項に規定する不当な取引制限に該当し,独占禁止法第3条の規定に違反する」。

 

公正取引委員会報道発表資料「(平成30220)東日本電信電話株式会社が発注する作業服の入札参加業者らに対する排除措置命令等について」

「日本ユニフォームセンターに対する申入れについて」

「日本ユニフォームセンターは,NTT東日本等向け作業服に係る意見招請から調達までの各種相談,仕様書監修,生地検査,縫製品審査等に関する業務について,NTT東日本との間で受託契約を締結しており,その際に,NTT東日本に対して秘密保持義務を負っていた。

 日本ユニフォームセンターの担当者は,本件入札の実施に当たり,特定の販売業者に対し,

 ア 4社以外には入札参加に必要な生地見本等を提出した事業者がいない旨の情報を教示した。

 イ 本件入札における目標価格が既存の総価と同程度である旨の情報を教示した。

 ウ 本件入札が不落となった場合は,NTT東日本が入札者と協議した上で複数の者と随意契約を締結する可能性がある旨の情報を教示した。」

日本ユニフォームセンターのこれらの行為は,3社及びチクマの「違反行為を助長したものと認められることから,公正取引委員会は,公正かつ自由な競争を確保するため,日本ユニフォームセンターに対し,今後,前記1(2)と同様の行為が再び行われることのないよう適切な措置を講ずることを申し入れた。」

 


 

[事例]

近畿地区に店舗を設置する百貨店業者に対する件

公正取引委員会排除措置命令平成30103

審決等データベースシステム

独禁法3条後段

 

1. 株式会社阪急阪神百貨店(以下「阪急阪神百貨店」という。),株式会社髙島屋(以下「髙島屋」という。),株式会社近鉄百貨店(以下「近鉄百貨店」という。),株式会社京阪百貨店(以下「京阪百貨店」という。),株式会社そごう・西武(以下「そごう・西武」という。)及び株式会社大丸松坂屋百貨店(以下「大丸松坂屋百貨店」という。)の6社は,近畿地区に店舗を設置する百貨店業者であり,自社が販売する優待ギフトの配送に係る役務を顧客に対して提供していた。

2. 6社は,それぞれ,6社の近畿地区の店舗において顧客から収受する優待ギフト送料の額を定め,優待ギフトの配送を依頼した顧客から優待ギフト送料を収受していた。なお,6社は,それぞれ,配送業務について,あらかじめ契約した運送業者に運送料を支払って委託していた。

3. 6社の近畿地区の店舗において収受する優待ギフト送料の額の合計は,近畿地区に店舗を設置する百貨店業者が近畿地区の店舗において収受する優待ギフト送料の総額のほとんどを占めていた。

3. 6社は,運送業者のほとんどから運送料の引上げの要請を受ける中で,配送費用の増加が見込まれたことから,これを優待ギフト送料に転嫁して,物流に係る収支の改善を図るため,平成277月頃から平成283月上旬までに,各社の近畿地区の店舗において顧客から収受する優待ギフト送料の額を300円程度に引き上げることを合意し,この通り送料の額を引き上げた。

 

法令の適用

6社は,共同して,6社の近畿地区の店舗において顧客から収受する優待ギフト送料の額を300円程度に引き上げる旨を合意することにより,公共の利益に反して,近畿地区に店舗を設置する百貨店業者が近畿地区の店舗において販売する優待ギフトの配送分野における競争を実質的に制限していたものであって,この行為は,独占禁止法第2条第6項に規定する不当な取引制限に該当し,独占禁止法第3条の規定に違反する」。


 

 

[事例]

丸善(株)ほか6名に対する件

勧告審決平成8531

審決集43314

独禁法3条後段

*一定の取引分野、競争の実質的制限

 

1. 丸善株式会社,株式会社紀伊国屋書店,株式会社極東書店,ナウカ株式会社,株式会社国際書房,海外出版貿易株式会社及び日本出版貿易株式会社の7社(以下「7社」という。)は,外国新刊図書の輸入販売業を営む。

2.ユサコ株式会社(以下「ユサコ」という。)は,外国新刊図書の輸入販売業を営む。

3. 外国新刊図書の輸入販売業を営む者は,自己が輸入総代理店契約によらないで外貨建で輸入する外国新刊図書(以下「外貨建図書」という。)について,外国出版社が設定している外貨建小売価格に,一定期間の直物対顧客電信売外国為替相場の平均に必要経費等の額(以下「マークアップ額」という。)を加えて算出した外貨ごとの標準換算率を乗じて円貨に換算した額を標準小売価格としている。そして,国立大学等の大口需要者に対しては,当該標準換算率から値引きした換算率(以下「納入換算率」という。)を用いて円価に換算した額を納入価格としている。

4. 筑波大学,千葉大学,東京大学,東京工業大学,一橋大学及び横浜国立大学(以下「6大学」という。)は,外国新刊図書等の購入価格の交渉組織である「外国出版物購入価格に関する国立6大学協議会」(以下「6大協」という。)を組織している。

5. 7社は,それぞれ,6大学が特命随意契約の方法により発注する外貨建図書(以下「特定外貨建図書」という。)について,6大協との交渉により,特定外貨建図書に係る15通貨ごとの納入換算率を決定し,当該納入換算率を用いて算出した納入価格により6大学への納入を行っている。

6. 7社の6大学への特定外貨建図書の納入金額の合計は,6大学への特定外貨建図書の総納入金額の過半を占める。

7. 7社の6大学への特定外貨建図書の総納入金額又はすべての販売業者の6大学への特定外貨建図書の総納入金額のうち,ほとんどをドル,スターリング・ポンド,スイス・フラン,ドイツ・マルク,フランス・フラン及びオランダ・ギルダーの6通貨(以下「主要6通貨」という。)建の図書が占めている。

8. 6大学への特定外貨建図書の15通貨ごとの納入換算率は,6大学に特定外貨建図書を納入している7社以外の販売業者にも適用されている。

9. 7社及びユサコは,平成2329日ごろ,交渉で維持すべき主要6通貨の納入換算率における最低のマークアップ額を主要6通貨ごとに定めた。この決定は,これらの殆どと6大学(ただし一橋大学を除く)との間で主要6通貨の納入換算率におけるマークアップ額が価格交渉の結果,平成元年度には過去最低の水準になっていたところ,これら大学から平成2年度には一橋大学が加わった6大協との交渉となる旨の申出を受け,利益の確保が困難となるおそれがあると考えて行われたものだった。

10. 7社は,前記決定に基づき,6大学向け特定外貨建図書の主要6通貨の納入換算率におけるマークアップ額をおおむね維持している。

11. ユサコは,平成5年度の6大協との特定外貨建図書の価格交渉から離脱し,平成541日以降,本件の決定に基づく行為を取りやめている。

 

法令の適用

7社は,共同して,6大学向け特定外貨建図書の主要6通貨の納入換算率における最低のマークアップ額を決定することにより,公共の利益に反して,6大学向け特定外貨建図書の販売分野における競争を実質的に制限しているものであって,これは,独占禁止法第2条第6項に規定する不当な取引制限に該当し,同法第3条の規定に違反するものである。」

 


 

[事例]

中央食品(株)ほか6名に対する件

勧告審決昭和431129

審決集15135

独禁法第3条後段

*一定の取引分野、競争の実質的制限

 

1. 中央食品株式会社,有限会社奈良商店,竹内豆腐店こと竹内菊市,大西豆腐店こと大西忠雄,佐々木豆腐店こと佐々木哲夫,高田豆腐店こと高田泰夫および宮宇地豆腐店こと宮宇地滝次郎(以下「中央食品ほか6名」という。)は,豆腐,油あげ等(以下「豆腐類」という。)の製造販売業を営む者である。

2. 中央食品ほか6名は,いずれも,高松市旧市内における主要な豆腐類製造販売業者である。これらの者の豆腐類卸売高の合計は,高松市旧市内における豆腐類卸売高のほぼ半ばを占める。

3. 中央食品株式会社の豆腐類卸売高は,高松市旧市内における豆腐類卸売高の約30%を占める。

4. 中央食品ほか6名の代表者又は店主は,高松市豆腐組合(以下「組合」という。)の組合長,副組合員を含む主要な役員であって,同市旧市内の豆腐類製造販売業界において指導的地位にある。組合は,高松市旧市内における豆腐類製造販売業者のほとんどである37名を組合員とする。

5. 中央食品ほか6名を除く高松市旧市内における豆腐類製造販売業者のほとんどは,家族労働を主とするごく小規模な事業者であって,豆腐類の製造販売を積極的に拡張し難い状況にある。

6. 昭和4210月から昭和432月ごろにかけて,組合においては豆腐類の卸売価格の引上げについて意見が交換され,価格引上げの気運が醸成されていた。もっとも,組合役員会においてなされた豆腐類の卸売価格の引上げにかかる協議・決定の提案に対しては,組合でこれら協議,決定を行うことは適当でない旨の発言があり,同役員会では豆腐類の卸売価格の引上げについての検討はなされなかった。

7. その後,中央食品ほか6名は,昭和4356日以降豆腐類の卸売価格を豆腐124円,油あげ18円,厚あげ1枚,焼豆腐1丁および絹ごし1丁各12円に引き上げることに意見の一致を見た。

8. 前記申合せにもとづき,中央食品ほか6名は,それぞれ,豆腐類の卸売価格を前記卸売価格に引き上げている。

9. この結果,高松市旧市内におけるその他の豆腐類製造販売業者は,昭和435月上旬から同年6月下旬の間に,豆腐類の卸売価格を,おおむね,前記卸売価格に引き上げている。

 

法の適用

「中央食品ほか6名は,共同して豆腐類の卸売価格を引き上げることにより,高松市旧市内における豆腐類製造販売業者の豆腐類の卸売価格の引上げをもたらしているものであり,これは,公共の利益に反して,高松市旧市内における豆腐類の卸売分野における競争を実質的に制限しているものであり,私的独占禁止法第2条第6項に規定する不当な取引制限に該当し,同法第3条後段の規定に違反するものである。」

 


 

[事例]

三菱マテリアル(株)ほか2社に対する件

排除措置命令平成201017

審決集55692

独禁法3条後段

*購入分野における競争の実質的制限

 

1. 三菱マテリアル株式会社(以下「三菱マテリアル」という。)は,溶融メタル等(以下「溶融メタル等」という。)を含む非鉄金属スクラップを購入して非鉄金属を製造する事業を営む者である。

2. マテリアルエコリファイン株式会社(三菱マテリアルの子会社。以下「マテリアルエコリファイン」という。)及び日鉱環境株式会社(以下「日鉱環境」という。)は,それぞれ,溶融メタル等を含む非鉄金属スクラップを購入して販売する事業を営む者である。

3.エコシステムジャパン株式会社(DOWAホールディングス株式会社(以下「DOWAホールディングス」という。)の子会社。東京商事株式会社(以下「東京商事」という。)から事業を譲り受けた者。以下「エコシステムジャパン」という。)は,溶融メタル等を含む非鉄金属スクラップを購入して販売する事業を営む者である。

4. DOWAホールディングスは,東京商事及びエコシステムジャパンから溶融メタル等を含む非鉄金属スクラップを購入して非鉄金属を製造する事業を営んでいたが,平成18101日付けで,会社分割により前記事業を承継させ,以後は同事業を営んでいない。

5. 溶融メタル等は,銅及び金,銀等の貴金属の製錬用原料として用いられている。

5. 地方公共団体は,廃棄物処理施設において発生する溶融メタル等を,競争入札又は随意契約の方法により売却していた。

6. 地方公共団体が売却する溶融メタル等の購入を希望する者のうち,自社又は自社の子会社等が溶融メタル等(以下「特定溶融メタル等」という。)を製錬する施設を有する者は,おおむね三菱マテリアル,マテリアルエコリファイン,日鉱環境,エコシステムジャパン及び東京商事に限られていた。

7. 三菱マテリアル,マテリアルエコリファイン,日鉱環境,エコシステムジャパン,東京商事及びDOWAホールディングスの6社(以下「6社」という。)は,特定溶融メタル等の購入価格の上昇を防止するため,次の合意を行い,これに基づいて購入予定者を決定し,購入予定者が購入できるようにしていた。

①特定溶融メタル等の売却が見込まれた段階又は入札の指名,見積りの引き合い等が行われた段階において,購入実績を考慮して購入予定者を決定する

②購入予定者以外の者は営業活動を自粛し,指名又は見積りの引き合いを受けないよ うにすること等により,購入予定者が購入できるように協力する

③購入予定者以外の者が入札等に参加する場合には,購入すべき価格は,購入予定者が定め,購入予定者以外の者は,購入予定者がその定めた価格で購入できるように協力する

8.  6社のうちDOWAホールディングスを除く5社は,前記7により,特定溶融メタル等の大部分を購入していた。

9. DOWAホールディングスは,平成1641日以降,エコシステムジャパンに対し,購入指示等を行っていないことから,前記合意に基づく行為を事実上取りやめているものと認められる。

10.三菱マテリアルは,平成19717日,前記7の行為を取りやめることとし,マテリアルエコリファイン,日鉱環境及びエコシステムジャパンに対し,その旨を通告した。

11. 前記通告が行われた時以降,前記7の合意に基づき購入予定者を決定し,購入予定者が購入できるようにする行為は取りやめられている。

 

法令の適用

6社は,共同して,特定溶融メタル等について,購入予定者を決定し,購入予定者が購入できるようにすることにより,公共の利益に反して,地方公共団体が競争入札又は随意契約の方法により売却する溶融メタル等の購入分野における競争を実質的に制限していたものであって,これは,独占禁止法第2条第6項に規定する不当な取引制限に該当し,独占禁止法第3条の規定に違反するものである。また,違反行為が長期間にわたって行われていたこと等の諸事情を総合的に勘案すれば,三菱マテリアル,マテリアルエコリファイン及び日鉱環境については,特に排除措置を命ずる必要があると認められる。」

 


 

[事例]

雪印乳業(株)ほか飲用牛乳製造業者4名に対する件

勧告審決昭和49522

審決集2130

独禁法3条後段

*購入分野における競争の実質的制限

 

1. 雪印乳業株式会社,明治乳業株式会社,森永乳業株式会社,協同乳業株式会社及びグリコ協同乳業株式会社の5社(以下「5社」という。)は,飲用牛乳の製造業を営む。

2. これら5社の飲用向け原料乳(以下「原料乳」という。)の購入量の合計及び飲用牛乳の販売量の合計は,それぞれ我が国における原料乳の総購入量及び飲用牛乳の総販売量の大部分を占める。

3. 原料乳の購入価格については,5社は,従来,共同して,全国指定団体乳価対策委員会(原料乳生産者の委託を受けて原料乳を販売している都道府県ごとの原料乳生産者団体の代表者をもって構成する委員会である。以下「全乳対」という。)と交渉して決定し,この決定に基づいて,それぞれ,各生産者団体から原料乳を購入している。

4. 飲用牛乳の販売価格については,5社は,従来,共同して,全国牛乳商業組合連合会(飲用牛乳の専売店(以下「専売店」という。)の団体である牛乳商業組合を会員とする連合会である。以下「全乳連」という。)及び同一製造業者の飲用牛乳を扱っている専売店の団体(以下「マーク団体」という。)と飲用牛乳の希望小売価格を想定した上で交渉して決定し,この決定に基づいて,それぞれ,各専売店に飲用牛乳を販売している。

5. 5社は,原料乳の生産者団体から原料乳の価格を引き上げることを要求され,原料乳の購入価格及び飲用牛乳の販売価格の引上げについて検討し,①原料の購入価格を現行価格よりキログラム当り15円引き上げること,②全乳連及び各社のマーク団体の代表者らとの団体交渉で飲用牛乳の希望小売価格を8円(びん入り)又は7円(加工乳)引き上げることとし,③飲用牛乳の販売価格を引き上げることとして,専売店向け,量販店のそれぞれについて引き上げ額の目途を定めた。

6. 5社は,前記5①の決定に基づき原料乳を購入し,前記5②の決定に基づき,飲用牛乳を販売している。

 

法令の適用

5社は,共同して,原料乳の購入価格及び飲用牛乳の販売価格の引上げを決定し,これを実施することにより,公共の利益に反して,我が国における飲用牛乳の製造業者の原料乳の購入分野及び飲用牛乳の販売分野における競争を実質的に制限しているものであって,これらは,いずれも独占禁止法第2条第6項に規定する不当な取引制限に該当し,同法第3条後段の規定に違反するものである。」

 


 

[事例]

旭硝子(株)ほかソーダ灰製造業者3名に対する件

勧告審決昭和58331

審決集29104

独禁法3条後段

*輸入取引分野における競争の実質的制限

 

1. 旭硝子株式会社,セントラル硝子株式会社,東洋曹達工業株式会社及び徳山曹達株式会社の4社(以下「4社」という。)は,それぞれ,ソーダ灰の製造販売業を営む。

2. 我が国におけるソーダ灰製造業者は前記4社のみである。

3. ソーダ灰には,合成ソーダ灰とトロナ灰がある。4社は,いずれも,合成ソーダ灰を製造販売する。

4. 4社は,アメリカ合衆国から天然ソーダ灰(以下「トロナ灰」という。)を輸入し,自ら消費するとともに,需要者(東洋ガラス株式会社)に販売していた。

5. 4社がアメリカ合衆国から輸入するトロナ灰の数量は,我が国におけるソーダ灰輸入数量のほとんどすべてである。

6. 4社は,我が国におけるソーダ灰の総供給数量のほとんどすべてを占める。

7. ソーダ灰については,将来に需要が伸びること及び国内のソーダ灰の生産販売体制の現状では供給が不足することが予測されていた。アメリカ合衆国においては,生産が,合成ソーダ灰から豊富低廉なトロナ灰に移行しつつあった。

8. 4社は,割安なトロナ灰が無秩序に輸入されることを防ぐため,次の合意を行い実行した。

4社は,予測されるソーダ灰の不足量について,4社共同の責任でアメリカ合衆国における天然ソーダ灰製造業者(以下「米国トロナ灰メーカー」という。)から輸入する。

②前記①の輸入は,4社の指定する日本の商社を通じて行う。

4社は,輸入されたソーダ灰について,旭硝子株式会社34.05パーセント,セントラル硝子株式会社21.05パーセント,東洋曹達工業株式会社22.06パーセント及び徳山曹達株式会社22.84パーセントの引取比率により配分された数量を,定められた輸入経路により引き取る義務を負う。

④前記引取の価格は,4社が定めた価格とする。

⑤ソーダ灰の輸入に伴い必要となる受入サイロについては,4社が設立,運営する新会社(東光ターミナル株式会社(以下「東光ターミナル」という。)のサイロを用いる。

9. ソーダ灰を相当長期間保管するには専用設備が必要である。東光ターミナルのサイロは,設備,立地条件等から,バラ物の輸入ソーダ灰を保管するうえで我が国唯一の専用倉庫となっている。

10. 4社は,4社の輸入に係るソーダ灰以外については,東光ターミナルのサイロを利用させなかった。

 

法令の適用

4社は,共同して我が国へ輸入されるソーダ灰の輸入数量,引取比率及び輸入経路を決定することにより,公共の利益に反して,我が国のソーダ灰の輸入取引分野における競争を実質的に制限しているものであって,これは,独占禁止法第2条第6項に規定する不当な取引制限に該当し,同法第3条の規定に違反するものである。」

主文

1 旭硝子株式会社,セントラル硝子株式会社,東洋曹達工業株式会社及ぴ徳山曹達株式会社の4社は,今後,共同してソーダ灰の輸入数量,引取比率,輸入先及び輸入価格を決定しないことを確認しなければならない。

2 前記4社は,アメリカ合衆国の天然ソーダ灰の輸入に関し実施していた輸入経路の制限に係る合意を廃止したことを確認しなければならない。

3 前記4社は,今後,東光ターミナル株式会社の所有するサイロの利用を希望する者に対し,不当に利用の制限をしないことを確認しなければならない。」(主文以下略)

 


 

[事例]

日本油脂(株)ほか産業用爆薬製造業者5名に対する件

勧告審決昭和501211

審決集22101

独禁法3条後段

*共同製造販売会社

 

1. 日本油脂株式会社,日本化薬株式会社,旭化成工業株式会社,日本カーリット株式会社,日本工機株式会社及び中国化薬株式会社の6社(以下「6社」という。)は,それぞれ肩書地に本店を置き,ダイナマイト,硝安油剤爆薬等の産業用爆薬の製造業を営む。

2. 6社が販売する産業用爆薬の合計数量は,我が国における総販売数量のほとんどすべてを占めている。

3. 6社は,従来,四国地方における硝安油剤爆薬の需要の大部分を供給していた。

4. 6社は共同出資による新会社,四国アンホ株式会社(以下「四国アンホ」という。)を設立して,この会社に四国地方における硝安油剤爆薬の製造販売を行わせることとした。

5. 公取委は,四国アンホの設立は,独占禁止法第10条第1項の規定に違反する疑いがあるとして,同社の株主構成について適切な措置を講ずるよう要請したところ,6社は,四国アンホの株主を日本化薬株式会社,日本カーリット株式会社及び中国化薬株式会社の3社に改めた。以下,これら3社を「出資3社」といい,日本油脂株式会社,旭化成工業株式会社及び日本工機株式会社を「非出資3社」という。

6. 6社は,四国アンホを事実上,6社で運営することとなる次の事項等を内容とする協定を締結し,これを実施している。

①出資3社は,原則として,四国アンホの株式を他に譲渡しない。万一譲渡の必要を生じた場合は,他のすべての協定当事者から事前の承認を得る。

②四国アンホは,非出資3社に対し,毎月,経理内容等重要事項を公開し,説明する。

③四国アンホは,6社を代表して,日本化薬株式会社及び日本カーリット株式会社が,日鉄鉱業株式会社と締結した覚書に基づき,硝安油剤爆薬を四国地方における同社の鉱業所に対して供給する。

④四国アンホは,硝安油剤爆薬を四国地方の需要者(前記③の日鉄鉱業株式会社を除く)へ販売する場合は,原則として,6社を通じて行うものとし,6社はこれを引き受けるものとする。

⑤四国アンホは,原則として,四国地方の需要者以外には販売しない。

⑥四国アンホは,すべての販売取引条件について,6社と協議の上,決定する。

⑦四国アンホの6社に対する硝安油剤爆薬の販売価格は,6杜の販売価格を下回るものとし,その差額は,1箱につき,150円を下らないことを原則とする(ただし,予測できない事態が発生した場合は,6杜と協議の上,その差額は,50円を下らないものとすることができる。)

 

法令の適用

6杜は,共同して,四国アンホの運営に関する協定を締結し,これを実施することにより,公共の利益に反して四国地方における硝安油剤爆薬の販売分野における競争を実質的に制限しているものであって,これは,独占禁止法第2条第6項に規定する不当な取引制限に該当し,同法第3条の規定に違反するものである。」

 


 

[事例]

日本コンクリート工業(株)ほか5名に対する件

勧告審決昭和4585

審決集1786

独禁法3条後段

*技術供与先制限

 

1. 日本コンクリート工業株式会社(以下「日本社」という。),東急コンクリート工業株式会社(以下「東急社」という。),アサノボール株式会社(以下「アサノ社」という。),日本ヒューム管株式会社(以下「日本ヒューム社」という。),大同コンクリート工業株式会社(以下「大同社」という。)および西武化学工業株式会社(以下これらを「日本社等6社」という。)は,プレストレスト・コンクリートパイル(以下「パイル」という。)の製造業を営む。

2.日本社等6社は,東北,関東,近畿,中部および北陸地方におけるパイルの需要の大部分を供給している。

3.日本社等6社は,それぞれ,パイル製造にかかわる有力な特許権および実用新案権を所有している。日本社等6社からこれら知的財産権の通常実施権の許諾を受けなければ,新たにパイル製造業として営業を開始することは,かなり困難である。

4. 日本社等6社は,パイル市場の安定策について協議し,次の内容の決定を行い,市場安定化策を実施するための委員会(地区ごとに「八日会」,「十日会」,「なにわ会」がある。以下「八日会」等という。)を設けるなどしてこの決定を実行した。

①各社のパイルの出荷比率を取り決めること

②すべての引合を八日会等に申告し,八日会当では前記出荷比率を基準として受注予定社を決定すること

③各社がパイル製造にかかわる特許権及び実用新案権の供与(以下「技術供与」という。)を行なう場合は,(i) 日本社等6社全員の承諾を得ること,および(ii)技術供与契約において,日本社等6社の決定する市場安定策を遵守することを条件とすること

5.日本社等6社は,技術供与先に対する出荷比率の取扱については,まずは技術供与先の出荷比率内で処理することとし,一定期間経過後には技術供与先に個別に出荷比率を与えることとして対応してきている。

法の適用

「日本社等6社は,共同して,八日会,十日会およびなにわ会の地区ごとに,各社の技術供与先を含めた出荷比率および引合の割当方法ならびに技術供与に関する条件を決定し,実施しており,これは,公共の利益に反して,前記3地区における競争を実質的に制限しているものであつて,私的独占禁止法第2条第6項に規定する不当な取引制限に該当し,同法第3条後段の規定に違反するものである。」

 


 

[事例]

東洋リノリューム(株)ほか3名に対する件

勧告審決昭和5527

審決集2685

独禁法3条後段

独禁法19条 一般指定3 (昭和28年指定第4項)

*不当な取引制限と差別対価

 

1. 東洋リノリューム株式会社(以下「東洋リノリューム」という。),田島応用化工株式会社(以下「田島応用化工」という。),日東紡績株式会社(以下「日東紡」という。)及び信越ポリマー株式会社(以下「信越ポリマー」という。)の4社(以下「4社」という。)は,ビニルタイルの2ミリ厚ものの製造業を営む。

2. ビニルタイルは,床仕上工事業を営む者(以下「工事店」という。)によって,床仕上工事の材料として使用される。

3. ビニルタイルには,2ミリ厚ものと3ミリ厚のものとがあり,このうち,2ミリ厚もの(以下「市況品」という。)が大部分を占めている。

4. 4社の市況品の販売数量の合計は,我が国における市況品の総販売数量の大部分を占める。

5. 4社は,市況品を工事店に直接又は卸売業者を通じて供給している。

6. 4社は,市況品を卸売業者を通じて供給する場合には,通常,自己の定めた工事店に対する販売価格(以下「工事店渡し価格」という。)から卸売業者の口銭を差し引いた価格を,卸売業者に対する販売価格としている。

7. ビニルタイル工業会(以下「工業会」という。)は,ビニルタイルの健全な発達等を目的とする団体であった(昭和541122日解散)。会員は,4社並びに松下電工株式会社及び日新工業株式会社(以下「日新工業」という。)であった(ただし,日新工業は,昭和54630日に退会し,昭和547月以降,ビニルタイルに係る事業を廃止している。)。

8. ビニルタイル工事業協同組合(以下「ビニ協」という。)は,工事店の自主的な経済活動の促進等を目的として,全国各地に設立された組合であり,全国に11の組合がある。組合員は,各地区内の工事店である。

9.  4社は,ビニ協の組織を強化することが自らのビニルタイルの販売価格の維持に資すると考え,ビニ協の設立及び運営を援助している。

10. 4社及び日新工業は,需要の減退等による価格低下に対処するため,工業会の会合において,市況品の「値戻し」を図る方策について検討してきた。

11. 4社及び日新工業は,市況品の販売価格の引上げについて協議し,具体的価格の決定については東洋リノリュームに一任することとした。これを受けて,東洋リノリュームは,昭和514月以降の工事店渡し価格を,あらかじめ田島応用化工に連絡した上で,1枚当たり45円以上と定め,工業会の理事会において,これを提示した。

12. 4社及び日新工業は,工業会の理事会において,次の事項を確認した。

①市況品の販売価格引上げの実施時期について,各社の予定を相互に告知すること

②市況品の販売価格を30パーセント程度引き上げる旨を工事店の取引先である大手建築業者に周知徹底させる方法について検討すること

③ビニルタイルの生産数量が,全体として,前年同期実績の10パーセント減となるよう通産省に提出する各社別の生産計画を調整すること

④通産省に提出した各社のビニルタイルの販売計画を相互に告知し,各社は,これを指標として販売を行うこと

12. 4社及び日新工業は,それぞれ市況品の販売価格を引き上げた。

13. 4社及び日新工業は,販売価格引上げ以後も,(イ)工業会の会合において市況品の価格維持の情況等について意見交換を行うとともに,(ロ)当該年における国内の需要量を予測して全体の総販売目標量を定め,これに適合するよう各社別の販売目標量を定め改訂して各社の達成状況を確認することによりビニルタイルの需給を調整し,これにより市況品の販売価格を維持している。

14. 公取委が本件について審査を開始したところ,4社及び日新工業は,工業会の理事会において,販売目標量に関する決定を破棄することを決定した。

15. 東洋リノリューム及び田島応用化工は,工事店のビニ協加入を促進するため,市況品の取引価格について,ビニ協に加入しない工事店(以下「非組合員」という。)とビニ協組合員との間に1枚当たり5円程度の格差を設けることとし,以下の行為により,非組合員に対し,ビニ協組合員より高い価格で市況品を供給している。

①非組合員に対する市況品の販売価格は,1枚当たり53円程度に設定する

②卸売業者を通じて供給する場合には,卸売業者に対する仕切価格についてビニ協組合員向けのものと非組合員向けのものとで格差(1枚当たり4円程度)を設ける

③ビニ協組合員が自らの供給する市況品を取り扱った場合においては,当該組合員に対し,その取扱数量に応じて,所属のビニ協を通じて,1枚当たり150銭の割戻しを行う

16. 公取委が本件について審査を開始したところ,東洋リノリューム及び田島応用化工は,ビニ協組合員に対する前記割戻しを中止することをビニ協に申し入れた。

 

法令の適用

1 4社は,共同して,市況品の販売価格を引き上げ,維持することにより,公共の利益に反して,市況品の販売分野における競争を実質的に制限しているものであって,これは,独占禁止法第2条第6項に規定する不当な取引制限に該当し,同法第3条の規定に違反するものである。

2 東洋リノリューム,田島応用化工及び信越ポリマーは,正当な理由がないのに,相手方により差別的な対価をもって,市況品を供給しているものであって,これは,不公正な取引方法(昭和28年公正取引委員会告示第11号)の4に該当し,独占禁止法第19条の規定に違反するものである。」

 

主文

1 東洋リノリューム株式会社,田島応用化工株式会社,日東紡績株式会社及び信越ポリマー株式会社は,半硬質ビニルアスベスト床タイル(以下「ビニルタイル」という。)の2ミリ厚ものの価格の改定に際し,相互の間において,改定価格,改定の幅,改定の時期等に関する情報を告知することにより,共同して,価格を決定することをしてはならない。

2 前記4社は,ビニルタイルの国内向け販売に関し,共通の需要予測に基づいて定めた供給に関する計画を互いに告知し合うことにより,共同して,需給の適合を図ることをしてはならない。

3 東洋リノリューム株式会社,田島応用化工株式会社及び信越ポリマー株式会社は,ビニルタイルの2ミリ厚ものの取引価格について,全国各地のビニルタイル工事業協同組合の組合員と同組合に加入していない床仕上工事業者との間に格差を設けていることを取りやめるとともに,今後,同様の行為をしてはならない。」(主文以下略)

 


 

[参考・審決]

三共(株)ほか防疫殺虫剤製造業者14名に対する件

勧告審決昭和49930

審決集2193

独禁法3条後段

 

1. 三共株式会社,中外製薬株式会社,有恒薬品工業株式会社,神東塗料株式会社,フマキラー株式会社,呉羽化学工業株式会社,大阪化成株式会社,明治薬品工業株式会社,中央化学株式会社,東洋化学薬品株式会社,三笠化学工業株式会社,近藤化学工業株式会社,大日本除虫菊株式会社,ヤシマ産業株式会社及び宝薬品工業株式会社の15社(以下「15社」という)は,防疫殺虫剤の製造業を営む。

2. 15社の防疫殺虫剤の販売量の合計は,我が国における防疫殺虫剤の総販売量の大部分を占める。

3. 防疫殺虫剤の大部分は,市町村によって購入されている。

4. 15社は,原料価格の高騰に対処するため,①販売価格及び②販売業者の市町村向けの標準納入価格及び最低納入価格を定めた。

5. 15杜は,前記4の実効を確保するため,各社はそれぞれ自社の取引先とする販売業者を決め,この者以外とは取引しないことを取り決めた。

6. 15社は,前記決定に基づき,おおむね,防疫殺虫剤の販売価格を引き上げている。

 

法令の適用

15社は,共同して,防疫殺虫剤の販売価格の引上げを決定し,これを実施することにより,公共の利益に反して,我が国における防疫殺虫剤の販売分野における競争を実質的に制限しているものであって,これは,独占禁止法第2条第6項に規定する不当な取引制限に該当し,同法第3条後段の規定に違反するものである。」

 

 


 

 

事業者団体規制

 

[基本・判決][事例]

(社)観音寺市三豊郡医師会による審決取消請求事件

東京高等裁判所判決平成13216

判例時報174013頁、東京高等裁判所(民事)判決時報521122

 独禁法83号,84

*医師会による医療機関開設・診療科目追加等制限

 

「原告は,国民皆保険体制の下で価格競争のない医療サービスの分野では,市場機能に任せておくことによって国民の健康な生活を確保することはできない,と主張する」。「確かに,医療の分野が原告の主張するような特殊性を有することは否定できない。しかし,医療の提供が,非営利事業で,価格競争の働く余地が少ないとはいえ,医師によって治療方法や投薬が異なり,それによって治療費が異なるほか,医療機関の医療従業者の専門的能力,設備の水準等には差異があり,医療の分野においても,提供する医療の内容,質において競争原理の働く局面は多く,公正かつ自由な競争によって,需要者の利益を確保し,医療サービスの健全な発展を促進する必要があるのであり,医療の提供が独禁法の適用対象となることは明らかである。

 

1. 原告(社団法人観音寺市三豊郡医師会)は,香川県観音寺市三豊地区の開業医らを会員とする医師会である。

2. 原告は,①観音寺三豊地区内の市町の依頼等により,会員である開業医を学校医に推薦するなどして会員に各種の健康診査を実施させ,②母体保護法上の指定医師の指定(香川県医師会により行なわれる)を受けるために必要な意見書の発行を会員に対して行なうなど,会員に対し,開業医の業務上必要な便宜を広く供与している。原告に加入しないと,診療面で他の会員医師の協力を求めることが困難である。観音寺三豊地区において原告に加入していない開業医は1名のみ(除名処分になりかけたために原告を退会した者)である。

3. 原告は,患者の取合いを防止することなどを目的として,①医療機関の開設(移転を含む。以下同じ。),②病床の増設,③増改築,④会員が標榜する診療科目の追加及び⑤老人保健施設を開設しようとするときには,香川県知事に対する許可申請又は届出に先立ち,あらかじめ原告に申し出なければならないこととしている。そして,この申し出に対する可否を,原告において設置された委員会において審議させている。そして,前記①ないし④については,当該申出者が原告の規程の「観音寺市三豊郡医師会の運営に支障を来たす恐れのあるもの」又は「その他会員として不適当と認められるもの」に該当する場合には同意しないことしている。

4. 前記3の方針は,会員からの病床の増設等の申出については,原告の決定に従わない者に対しては原告からの除名権限が発動される可能性があることを前提として運用されている。原告から不同意の決定を受けた者は医療機関の開設等を断念し,条件付きの同意又は留保の決定を受けた者は当該決定に従っている。

 

裁判所の判断

公取委審決(医療機関の開設を制限すること(新規開業に当たって診療科目の標榜を制限することを含む。)により,観音寺三豊地区の開業医に係る事業分野における現在又は将来の事業者の数を制限することが独禁法813号に,会員の行う医療機関の診療科目の追加,病床の増設及び増改築並びに老人保健施設の開設を制限することが独禁法814号に違反するとした審決)の取消を求めた原告の請求は理由がない。

 


 

[参考・判決]

世田谷区清掃・リサイクル条例違反刑事事件

東京高等裁判所判決平成191213

判例時報199569

独禁法8条ほか

 

被告人は,世田谷区長の指定を受けていないにもかかわらず,世田谷区清掃・リサイクル条例第35条第1項に規定する一般廃棄物処理計画で定める所定の場所である東京都世田谷区先路上において,同所に置かれた古紙を収集したため,同日世田谷区長から,同条例第31条の22項の規定により,古紙,ガラスびん,缶等再利用の対象として同区長が指定したものを収集し又は運搬する行為を行わないよう命じられ,その後この命令に反したことを理由として,上記条例の罰則規定に基づいて罰金20万円を課された。裁判において被告人は,世田谷区が資源廃棄物(廃棄物のうちの古紙,ガラスびん,缶等の再利用の対象として指定するもののことである。)の回収日を決め,ほとんどの古紙等がそのルートで排出され,他の収集方法を利用する区民は非常に少なく,資源廃棄物について世田谷リサイクル協同組合と独占的に随意契約を締結して専らこれに行わせ,他者による回収を本件罰則条項により規制していることは,実質的には古紙回収業者の営業を全面的に制約するものであり,世田谷区が委託していることは独占禁止法81項に違反するなどと主張した。

 

裁判所の判断

「区といえども,事業を営む以上,独占禁止法所定の「事業者」には該当する。しかし,資源廃棄物を含めて廃棄物をどのように処分するかは,原則としてその所有者の意思に任されているのであって,所有者が行政機関にその回収を委ねることが不当だなどということはありえない。また,世田谷区における回収システムが民間業者の営業活動を実質的に困難にするものでもないことは繰り返し指摘したとおりであり,一定の事業分野における現在又は将来の事業者の数を制限するものでもない。独占禁止法81項に違反しないことは明らかである。

また,世田谷区の回収システム自体が,民間業者間の競争等を何ら排除するようなものではなく,独占禁止法に違反しないのであるから,たとえ世田谷リサイクル協同組合との随意契約により実施していても,このことが同法に違反するものではないことは明らかである。」

 


 

 

[基本・判決][事例]

デジコン電子(株)による損害賠償等請求事件

東京地方裁判所判決平成949

判例時報162970頁、判例タイムズ959115

独禁法81号,85号(一般指定12号)

民法709

*自主基準

 

「共同の取引拒絶行為であっても,正当な理由が認められる場合は,不公正な取引方法に該当しないと解される(一般指定1項)」。

本件は,製品の品質基準を設けて,これに合致しない商品の取扱いを中止するようにさせた事案であり「本件自主基準設定の目的が,競争政策の観点から見て是認しうるものであり,かつ,基準の内容及び実施方法が右自主基準の設定目的を達成するために合理的なものである場合には,正当な理由があり,不公正な取引方法に該当せず,独禁法に違反しないことになる余地があるというべきである。

 

形式的には「一定の取引分野における競争を実質的に制限する行為」に該当する場合であっても,独禁法の保護法益である自由競争経済秩序の維持と当該行為によって守られる利益とを比較衡量して,「一般消費者の利益を確保するとともに,国民経済の民主的で健全な発展を促進する」という同法の究極の目的(同法1条)に実質的に反しないと認められる例外的な場合には,当該行為は,公共の利益に反さず,結局,実質的には「一定の取引分野における競争を実質的に制限する行為」に当たらないものというべきである(最高裁第2小法廷昭和59224日判決・刑集3841287頁参照)」。

 

「独禁法は,原則的には,競争条件の維持をその立法目的とするものであり,違反行為による被害者の直接的な救済を目的とするものではないから,右に違反した行為が直ちに私法上の不法行為に該当するとはいえない。しかし,事業者は,自由な競争市場において製品を販売することができる利益を有しているのであるから,右独禁法違反行為が,特定の事業者の右利益を侵害するものである場合は,特段の事情のない限り,右行為は私法上も違法であるというべきであり,右独禁法違反行為により損害を受けた事業者は,違反行為を行った事業者又は事業者団体に対し,民法上の不法行為に基づく損害賠償請求をすることができると解するのが相当である。」

 

1. 原告(デジコン電子株式会社)は,ガス圧又は空気圧を利用してプラスチック製弾丸(以下「BB弾」という。)を発射する機能を有する射的銃(以下「エアーソフトガン」という。)及びBB弾等の製造販売を業とする。

2. 日本遊戯銃協同組合(以下「被告組合」という。)は,モデルガン又はエアーソフトガン(以下,併せて「遊戯銃」という。)の製造を行う中小規模の事業者を組合員とし,組合員の取り扱う遊戯銃の改造防止に関する事業等を目的として中小企業等協同組合法(以下「協同組合法」という。)に基づき設立された協同組合である。前田徹雄(以下「被告前田」という。)は,その代表理事であった。

3.東日本遊戯銃防犯懇話会(以下「東日本懇話会」という。),中部遊戯銃防犯懇話会(以下「中部懇話会」という。)及び西日本遊戯銃防犯懇話会(設立時には関西遊戯銃防犯懇話会。以下「西日本懇話会」という。)は,遊戯銃を取り扱う問屋の団体である(以下,併せて「3懇話会」ということがある。)。3懇話会は,被告組合の方針を問屋レベルで実施するための機関である。

4. 被告川島博(以下「被告川島」という。),被告村田正好(以下「被告村田」という。),被告岡井道昭(以下「被告岡井」という。)及び関藤彰(以下「被告関藤」という。)は,前記3の懇話会の会長であった。

5.エアーソフトガンを製造販売する事業者のほとんど全てが被告組合に加入していた(平成2年末以降概ね全国の30社ないし40社。平成5622日現在の組合員数は46社。)。原告は加入していなかった。

6.遊戯銃関係のほぼ全国のほとんどの問屋が,3懇話会の会員であった。その傘下の小売店は約5000店あった。

7.被告組合の設立前には,「日本モデルガン製造協同組合」と,「エアソフトガン協議会」の2者が存在したが,それぞれの自主基準は統一されていなかった。サバイバルゲーム(遊戯者が敵味方に分かれ,エアーソフトガンで撃ち合う戦争ゲーム)の競技中に眼に被弾して負傷したり,エアーソフトガンを使用して通行人等を狙撃するなどの事故や事件が続発し,また市販のエアーソフトガンを改造して威力を増したものを製造する業者らも現われるなどして,エアーソフトガンに対する社会的批判が強まる中で,通産省生活産業局文化用品課は,エアーソフトガンの安全確保の目的で,上記2団体に対して統合した組合を設立して統一した自主基準を作成するよう行政指導を行い,この結果,被告組合が結成された。

8. 被告組合は,エアーソフトガンのユーザーはより強力で実銃に近い性能を有する製品を嗜好することが一般的であって製品の威力等につき規制を設けなければ各メーカーが競ってより威力のある製品を開発することになり,消費者の安全を損なうこと,また,モデルガンについての所持販売を包括的に規制する立法がされてモデルガン業界が大きな打撃を受けたことから,エアーソフトガン業界についても右同様の規制がされることを防ぐために,統一的な自主基準を制定することとした。

9. 被告組合が規約により定めた自主基準(以下「本件自主基準」という。)の内容は次のとおりであった。

①エアーソフトガンの銃本体はプラスチック製とすること。

②エアーソフトガンの威力は発射された弾丸の運動エネルギーが0.4ジュール(以下,右「ジュール」を「J」で表すこととする。)以下とすること。ただし,対象年齢10歳以上の表示をするものは0.2J以下(当初,改定後は0.18J以下)とすること。

③弾丸については,材質はオールプラスチックとすること。

④弾丸の重量は0.2グラム以下(ただし,競技専用弾丸については,0.36グラム以下),直径は5.7ミリメートル以上とすること。

10. 被告組合は,組合員の製造した製品の威力等の検査を社団法人日本猟用資材工業会(以下「猟用資材工業会」という。)及び財団法人日本文化用品試験所(以下「文化用品試験所」という。)に委託することとした。そして,この検査の結果,自主基準に合致していると認められた製品について,被告組合から「ASGKシール」と称する合格証紙を有料で交付することとした。

11. 被告組合は,組合員に対して,ASGKシール」を自主基準に合致する製品に貼付して販売することを義務付けた。また,ASGK制度の趣旨に賛同する小売店を「遊戯銃防犯協力店」とし,その店舗に所定のステッカーを貼付してもらうことを定めた。被告組合の要請により,3懇話会は,ASGKシールの貼付されていない製品については取り扱わないことを申し合わせた。

12.原告は,平成21110日からエアーソフトガン及び弾丸(BB弾)の製造販売を開始した。原告は,製品を,問屋を経由せず直接,小売店に販売していた。原告は,当時の本件自主基準である0.2グラムを超える重量BB弾を主力製品として製造販売していたため,被告組合に加入することによって右重量BB弾の製造販売を中止しなければならなくなることを恐れ,また,原告は前記1のとおり製品を問屋を通さず直接小売店に卸販売していたところ,被告組合の組合員は懇話会加入の問屋以外に製品を販売してはならなかったため,被告組合に加入しないまま本件92Fを発売することに踏み切った。

13. 原告のBB弾は,他の業者の製造するBB弾と比較して品質が優れており,かつ安価であったため,小売店や消費者から高い評価を得ており,原告はBB弾の製造の有力企業となるに至った。なかでも,0.2グラムを超える重量BB弾を製造する者は,原告を含む2社だけであった。

14. 原告の本件92Fは,命中精度が高く相当程度に優秀な製品であった。ただ,原告は,BB弾メーカーとしては有力であったが,エアーソフトガンを製造するのは本件92Fが初めてであったため,小売店及び消費者の間に,エアーソフトガンメーカーとしての高い評価は得ていなかった。

15. 本件92Fの威力は,約0.58Jから1.02Jであった。

14. 前記12の製造開始を知り,被告前田は,原告に「以前モデルガンについて法規制ができたことによってモデルガン業界が壊滅的な打撃を受けた経緯があり,そのため,エアーソフトガンについてまで法規制がされることがないように本件自主基準を設け,業界全体で守っているのであるから,原告も被告組合に加入し協力してほしい」旨を要請した。原告は,原告において右のような重量BB弾の製造を継続することを条件に,エアーソフトガンに関してのみ被告組合に加入したいと返答したが,被告前田は右条件を拒否した。原告は,さらに,被告前田に対し,原告は重量BB弾が主力商品であって,この製造販売を中止しては会社が成り立たないから,エアーソフトガンの製造販売だけで経営が成り立つようになるまで1年待ってほしいと提案したが,被告前田は提案を拒否した。

15. 被告組合は,そのころ,3懇話会及びその会員である問屋に対し,原告製品の仕入れ及び販売を中止し,又はこれを小売店に対して指導することを要請した。その後,被告組合は,小売店に対し,「ASGKシールを貼付していない商品を取り扱った場合に,ASGKシールの貼付された組合の製品を出荷を中止することがある」ことを通知した。そして,被告組合は,「アウトサイダー取扱店」と題する文書を3懇話会の会員である問屋に送付した。

16. 前記取引中止要請を知った通産省生活産業局文化用品課担当官は,右要請は行き過ぎであるとして,取引中止要請を撤回するように指導した。被告組合は,この指導を受けて,撤回する旨の文書を3懇話会などへ送付し,3懇話会会員である問屋に対しては撤回の趣旨が伝達された。もっとも,小売店には撤回の趣旨は周知徹底されなかった。

17. 原告と取引のあった小売店のうち相当数は,原告製品についての取引を中止するに至り,前記通知等を理由にして本件92Fを返品する小売店もあった。多くの小売店は,被告組合に加入する業者に取引を中止され,当該小売店の営業に重大な支障を来すという不利益を恐れて原告製品の販売を中止していた。本件92Fの売上高は,全体として減る傾向を示した。BB弾については,原告の従来の大口取引先のうち,「フジカンパニー」「一文字屋」「松村屋玩具店」の3店との間で,本件取引中止要請文書の配付によりBB弾の取引が途絶えた。

18. 自主基準については,遵守がされておらず,組合員が製造しASGKシールが貼付された製品でも0.4Jを超える威力を有する製品が多数を占めるという状況にあった。1.0Jを超える威力を有する製品もみられた。これは,ユーザーの間では威力の強い製品を求める傾向が強いため,本件自主基準を遵守した0.4J以下の威力の製品では売れ行きが伸びないという状況が生じたことを背景としていた。

19. これら自主基準に違反する製品を製造している組合員らは,試験結果が0.4J以下となるような特別に調整した銃を提出して試験に合格し,いったんASGKシールの発給を受けてから,自主基準違反の製品にASGKシールを貼付して販売していた。

20. 被告組合は,一度検査を通過した製品に対してはその後は無条件でASGKシールを交付していた。当初は規約において既に検査合格後にも年1回試買検査をすることが定められていたものの,実際にはほとんど行われていなかった。前記違反行為は半ば公然と見過ごされていた。

21.被告前田は,自主基準に違反することが明らかな鉄製の銃身を有する遊戯銃製品にASGKシールを発給したり,一部の組合員に対し正当な理由なくASGKシール発給を遅らせたりして,恣意的な運営を行っていた。

 

裁判所の判断

「原告及び被告組合の組合員らは,互いに競争関係に立つ事業者であるところ」,被告組合の文書を「3懇話会及び全国の問屋に送付するとともに,その趣旨を全国の小売店に徹底するよう指示して原告商品を取り扱わないよう全国の問屋及び小売店に要請した行為,3懇話会に被告組合の作成した・・・文書を各会員に送付させるなどして被告組合の意向の徹底を図った行為,平成385日付け文書を,原告製品を仕入れ販売していると認められた小売店らに送付して原告製品を扱わないように要請した行為,同年9月ころ「アウトサイダー取扱店」と題する原告製品を扱っていると認められた小売店の店名及び住所を列挙した文書を全国の問屋に送付して原告商品を扱わないように要請した行為は,事業者団体である被告組合が,互いに競争者の関係に立つ事業者である被告組合の組合員,及び同様に競争者の関係に立つ事業者である3懇話会会員に要請し,一致して,小売店に対し,特定の事業者である原告との取引を拒絶させる行為(昭和57618日公正取引委員会告示第15号(以下「一般指定」という。)12号)をさせるようにする行為であって,独禁法の定める事業者団体の禁止行為である「事業者に不公正な取引方法に該当する行為をさせるようにすること」(以下「不公正な取引方法の勧奨」という。独禁法815号,29項)という構成要件に形式的に該当すると認められる。(以下,被告組合の右各妨害行為を併せて「本件妨害行為」という。)」

「そして,前記認定のとおり,平成211月ころ,原告を除くほとんど全てのエアーソフトガン製造業者は被告組合の組合員であってそのシェアの合計は100パーセントに近い数字であり,また,エアーソフトガンを取り扱う全国の問屋についてもその大部分が3懇話会に加入していたものであったから,前記のとおり,被告組合が組合員である問屋ら及びこの問屋らを介して小売店らに対し,原告と取引をした場合には被告組合員の製品を供給しない旨を告げて原告製品の取引中止を要請したことにより,原告が自由に市場に参入することが著しく困難になったことが認められる。したがって,本件妨害行為は,独禁法の定める事業者団体の禁止行為である「一定の取引分野における競争を実質的に制限すること」(以下「不当な競争制限」という。同法811号)の構成要件にも形式的に該当すると認められる。」

「(なお,原告は,被告前田が瀬戸に対し,平成21116日に電話し,さらに,同月26日付け文書を送付して,原告が被告組合へ加入することを要請し,加入しない場合には原告製品の製造販売を中止するよう要請した行為についても,独禁法に違反する行為である旨主張する。しかし,被告組合への加入を勧誘することが独禁法に違反するとは到底いえず,また,被告組合に加入しない場合には原告製品の製造販売を中止するよう要請した行為も,右行為により直ちに問屋及び小売店において原告との取引を拒絶することを来すような行為とはいえないから,被告前田の右行為がそれ自体で前記不公正な取引方法の勧奨又は不当な競争制限に該当するとは到底いえない。)」

正当な理由及び公共の利益の有無について,

「本件自主基準の目的の合理性」について,「独禁法は,自由競争経済秩序の維持を保護法益としているが,その究極の目的は,一般消費者の利益確保及び国民経済の民主的で健全な発達の促進にあるというべきであるから(同法1条),安全性の確保されない製品の流通による事故の防止は消費者の利益に適うことであり,本件自主基準の目的は,独禁法の精神と何ら矛盾するものではないというのが相当である。」「したがって,被告組合の本件自主規約及びこれに係る本件自主基準の設置目的は,正当なものであるということができる。」

「本件自主基準の内容の合理性」について,「エアーソフトガンの威力の基準を発射される弾丸の威力に基づいて定め」ることは合理性がある。「0.4J」としたことについては,「弾丸の運動エネルギーが0.4Jを超えたからといって,直ちに人体に対し傷害を負わせる威力を有し,銃刀法に違反するということはできない」が,「エアーソフトガンの消費者の多くは,可能な限り威力の高い製品を嗜好するのが一般的であるから,威力の上限の数値を設けない場合には,各メーカーが他社よりも威力の強い製品を製造販売しようとし,結果的に無制限な威力強化競争を招き,消費者の安全を害する蓋然性が高いこと,前記のとおり,モデルガン業界が立法により広範な規制を受けて大打撃を受けた経緯があることなどを考慮すれば,被告組合がエアーソフトガンの威力について0.4Jという上限を定め,エアーソフトガンと銃刀法に違反する実銃との間に相当広い空白の領域を設けようとしていることには理由があり,右のような本件自主基準の趣旨は一応合理的であるというべきである」。なお,「自主基準が遵守されていない」ことを「根拠として本件自主基準に合理性がないということはできない」。「本件自主基準がBB弾の重量について制限を設け,右制限を0.2グラム以下(平成43月以降0.36グラム以下)と定めたことについても,合理性がないとはいえない。」

「本件自主基準の実施方法の相当性」について,「本件自主基準の目的は主として消費者及びその周辺の安全の確保にあると認められ,その目的が不合理なものでないことからして,その実施方法が社会的に相当である限り,一定の限度において取引制限等の方法を用いたとしても,実質的違法性を欠く場合があり得るというべきである。したがって,本件92Fの流通により,消費者及びその周辺社会の安全という法益に重大な危険性が認められ,右危険を未然に防止するため他に適当な方法が存在しない場合には,問屋及び小売店に対し,本件92Fの取扱いの中止を要請することはやむを得ないものであって,正当な理由があり,公共の利益に反しないものと認めるべきである。

しかしながら,前記のとおり,本件自主基準中の前記0.4Jという威力の基準については,合理性がないとはいえないものの,必ずしも格別の根拠があるとはいえず,右基準に違反した製品が直ちに社会的に著しく危険であるともいえないこと,被告組合においては1度検査を通過した製品についてはその後ほぼ無条件でASGKシールが交付され,規約に定められた試買検査はほとんど行われていなかった結果,被告組合の組合員の製造販売にかかるASGKシール貼付の製品であっても,0.4Jを超える威力を有するものが現実には多数存在していたことなどに照らせば,本件92Fが被告組合員らの製造販売に係る製品と対比して格別に消費者及びその周辺社会に重大な危険を与えるものであるとは到底いえないものである。

この点について,被告らは,原告は本件92Fが業界一の威力であることを売り物にしており,本件92Fは消費者に危険を与えるものである旨主張しているが,前記認定のとおり,東京都消費者センターや「アームズマガジン」の測定の結果によれば,ASGKシール貼付の製品の中にも本件92Fより強力なものが存在することが明らかであるから,右主張は採用の限りではない。

右のとおりであるから,本件92Fが流通することによって消費者及びその周辺社会に重大な危険を及ぼすことになるとはいまだ到底認められないものである。

しかも,前記のとおり,被告組合は,本件92Fの威力を正確に測定した上で威力の強い危険な銃であると認めたわけではなく,原告が被告組合に加入しておらずASGKシールを貼付していないという,まさに排他的な事由をもって本件妨害行為に及んだものである。

したがって,たとえ本件自主基準の設定目的が正当なものであり,本件自主基準の内容も一応の合理性を有するものであっても,本件妨害行為は,右目的の達成のための実施方法として相当なものであるとは到底いえないというべきであり,正当な理由があるとはいえず,独禁法が禁止している前記「不公正な取引方法の勧奨」に該当するものである。

また,本件妨害行為は,自由競争経済秩序の維持という独禁法の保護法益を犠牲にしてまで,消費者及びその周辺社会の安全という法益を守るため必要不可欠なやむを得ない措置としてされたものであるとは到底認められないから,前記独禁法の究極の目的に実質的に反しない例外的な場合であるとは認められず,ひいては公共の利益に反しないものとはいえないから,本件妨害行為は独禁法が禁止している前記「不当な競争制限」に該当するというべきである。」

「なお,被告らは,本件妨害行為は通産省の行政指導に基づいてASGK制度による啓蒙活動を推進した一環であるかのような趣旨の主張をしているが,通産省の指導は右制度を推進すべしという内容にすぎないことが明らかであって,非組合員の製造したASGKシールを貼付していない製品をボイコットすることまで指導したものとは到底認められないから,右行政指導によって本件妨害行為の違法性が阻却されることはおよそあり得ないことというべきである。」

 

私法上の責任について

「本件においては,本件妨害行為により,原告の自由な競争市場で製品を販売する利益が侵害されていることは明らかであり,私法上の違法性を阻却するべき特段の事情は何ら認められないから,民法上の不法行為が成立するというべきである。」

 

各被告の責任について

「(1)被告前田

 被告前田は,本件妨害行為当時の被告組合の代表理事であり,前記のとおりの本件妨害行為を代表理事として推進したものであるから,本件不法行為につき,原告に生じた損害を賠償すべきものである。

 これに対し,被告前田は,本件妨害行為は被告組合の総会及び理事会で決定された方針に従い,被告組合の業務執行行為として行ったものであるから,被告前田個人は責任を負わない旨主張する。しかし,当該不法行為が,法人の理事により職務を行うについてなされたからといって,理事が個人としての責任を免れる理由はない(大審院昭和7527日判決・民集111069頁参照)から,被告前田は被告組合とともに損害賠償責任を負うというべきであって,被告前田の右主張は採用できない。

(2)被告組合

 本件妨害行為は,被告組合の代表理事である被告前田が,被告組合の業務執行行為として行った不法行為であるから,被告組合は協同組合法42条,商法2613項,782項,民法441項,709条により,右不法行為によって原告に生じた損害を賠償しなければならない。

(3)被告川島,被告村田,被告岡井及び被告関藤

 被告川島は,本件妨害行為の際,被告組合の組合員であるマルシン工業の代表取締役であり,また,東日本懇話会の会長を務めていたものであって,被告組合の作成した本件取引中止要請文書を東日本懇話会の会員らに配付したものであるが,前記認定のとおり,3懇話会は,基本的には被告組合の方針を問屋レベルで実施するための機関であって,被告組合の方針決定に参画するものではなく,右文書に関してもその作成過程には関与しておらず,単に被告組合が作成し東日本懇話会に配付を要請したことを受けて,権利能力なき社団である同懇話会の業務執行機関として,これに従ったにすぎないものと認められる。

 右事情からすれば,被告川島が本件取引中止要請文書を東日本懇話会の会員らに配付したことをもって,直ちに被告川島が本件妨害行為につき被告前田ないし被告組合と共謀したものとはいまだ認められず,他に被告川島が本件妨害行為につき被告組合ないし被告前田と共謀したと認めるに足りる証拠はない。よって,被告川島は原告に対し共同不法行為責任を負うということはできない。

 また,被告村田,被告岡井及び被告関藤も,前記のとおり,本件取引中止要請文書を所属する懇話会の会員らに配付したものであるが,被告川島の場合と同様に,共同不法行為責任を負うとはいえない。」

 

損害額について

BB弾について

「原告の従前の取引先のうち,「フジカンパニー」「一文字屋」「松村屋玩具店」の3店については,本件妨害行為によりBB弾の取引がなくなったと認められる。

 一方,前記認定のとおり,原告のBB弾の売上げは漸減傾向にあったことが認められるものの,・・・売上げの推移から本件妨害行為による直接の影響を読み取ることはできない。

 また,前記認定のとおり,平成43月末被告組合においても重量BB弾が事実上解禁され,複数の業者が重量BB弾を発売するに至ったこと,他の業者が高品質で安価な製品を製造販売するようになったこと,エアーソフトガン及びBB弾の市場の景気は平成元年から翌2年ころを境に悪化していることなどが認められる。」

 「さらに,本件妨害行為は本件92Fの発売直後に開始されていること,本件取引中止要請文書中のには「ベレッタ92F」との記載があることなどからすれば,本件取引中止要請文書の主たる目的は本件92Fの取引中止にあったものと認められる。

 そして,本件取引中止要請文書の配付以降に本件92Fについての取引を中止したと認められる小売店も,その後BB弾の取引は継続しており(〈書証番号略〉),本件取引中止要請文書以降に本件92FのみならずBB弾についてまで取引が全くなくなった小売店は,前記「フジカンパニー」「一文字屋」「松村屋玩具店」の3店だけである。」

 「そこで,これら3店に関する売上減を算定する」。(中略)「原告の平成212月から平成312月ころまでの粗利益率は50パーセントを下らないと認められるから,原告の損害額は前記売上減の5割と見るのが相当であり,結局,原告のBB弾に関する売上喪失額は4499662円,損害額は2249831円を下らないと認めるのが相当である。」

 

本件92Fについて

「原告は,主位的な損害算定方法として,本件92Fが原告のBB弾と同一の売上傾向を示すことを前提の計算をしている。しかし,同一メーカーの製品であっても,それまでの販売実績があり小売店や消費者から信用を受けていた原告のBB弾と原告が新しく開発し発売したエアーソフトガンとが同一の売上傾向を示すとは到底認められないから,原告の主張する主位的算定方法を用いて本件92Fに関する損害を算定するのは相当ではない。

 そこで,原告の主張する本件妨害行為前の市場占拠率による売上げの推計という予備的算定方法を用いて,損害額を算定することにする。」

 「被告は,右のような算定方法について,発売当時の数量を実績と同視することは相当ではなく,右数量を基に損害額の算定をすることは合理的でない旨主張する。しかし,本件92Fが発売されてから本件妨害行為の影響が発現するまでには約20日間の期間が存在し,右期間は,前後理論に基づき本件92Fのシェアを判断するにおいては一応十分な期間というべきである。」

 原告の「発売直後の本件92Fのシェアは」[市場全体の月平均売上丁数を各年度のシール発給枚数を12か月で除した数値を基に計算すると]「約0.83パーセントと認められる。」「しかしながら,前掲各証拠及び弁論の全趣旨を総合すると,小売店は,新製品について,消費者からの注文はなくともこの程度ならば販売できるだろうと見越して試験的に見込注文を行い,売れ行きを見て追加注文をすることが多いと考えられることなどを考慮すれば,発売後一か月以内の販売実績がそのまま継続すると見ることは相当ではない。

 そこで,前記認定のとおり,本件92Fは精度が高く相当程度に優秀な製品であり,エアーソフトガンとしては相当程度に長期間販売できた製品であること,原告が本件92F発売以前に製造販売していたBB弾は消費者の間でも評価が高かったこと,本件92Fの発売以前にも他社から同種製品が先行販売されていたこと,原告は,それまではBB弾メーカーとしては定評があったものの,エアーソフトガンを製造するのは本件92Fが初めてであり,エアーソフトガンに関してはいまだ必ずしも高い評価を得るに至っていなかったことなどの事情を総合的に考慮すると,本件92Fの推定されるシェアは,前記発売直後のシェアから約3割を減じた約0.6パーセントと認めるのが相当である。」

 上記推定シェアの継続期間について,「一般に,新規に発売されたエアーソフトガンの売上げは,発売後半年程度を経過すると減少傾向が見られるといえる。本件92Fは,前記認定のとおり,相当程度に優秀な製品であったと認められるが,同様に優秀な製品との評価が高かった前記エムジーシーのベレッタM92Fも発売後約半年で売上げが減少し始めたことに照らして,仮に本件妨害行為がなかったとしても,本件92Fも発売当時の売上げを維持できたのは約半年間であったと見るのが相当である。」

「本件妨害行為と因果関係のある原告の損害額は,BB弾と本件92Fを併せて,合計18461634円となる。」

 

謝罪広告の是非について

「前記認定のとおり,被告組合の配付した本件中止要請文書のうち,平成21126日付け文書中には,本件92Fが非常に危険な商品であると断定する部分が,同年1220日付け及び同月28日付け文書中には,原告を自己の利益しか考えていないメーカーであると断定する部分がそれぞれ存在することが認められ,右各文書は,当該文書の一般読者であるエアーソフトガン関係の問屋及び小売店の通常の注意と読み方を基準にして判断すれば,右読者らに対し,原告が自己の利益のために危険な製品を製造しているメーカーであるとの印象を与えるものであり,原告の社会的評価を低下させる内容であるというべきである。」

「被告組合は,原告の製品である本件92Fは威力が強く,また,原告の重量BB弾は鉛を含有し,エアーソフトガンの違法な改造を誘発する危険な製品であるから,右文書の内容は真実である旨主張する。

 しかし,前記認定のとおり,本件92F及び原告の製造したBB弾は,被告組合の組合員らが製造しているASGKシールが貼付された製品と対比して,特に危険な製品であるということはいまだ到底認められないから,右文書の内容が真実であるとはいえない。

 したがって,前記各文書は,原告の名誉及び信用を違法に毀損するものというべきである。」

「しかし,前記・・・認定のとおり,被告組合は,平成31219日付けの本件撤回文書によって,平成21128日付け,同年1220日付け及び同月28日付けの取引中止要請文書を撤回したことが認められる。

 もっとも,本件撤回文書中には今後もASGK制度を推進していく旨の表現が見られ,本件撤回文書の配付後の三懇話会等の席上でも同趣旨の発言が行われていることが認められるが,前記のとおり,本件撤回文書は,ASGK制度自体を撤回し廃止するという趣旨ではなく,ASGKシールを貼付していない原告製品についての取引中止の要請を撤回する趣旨のものであり,かつ,自主基準を設けその遵守を奨励すること自体は何ら違法性が認められないのであるから,右をもって本件妨害行為及び原告に対する名誉,信用毀損行為の撤回が行われていないと評価することはできない。

 加えて,前記のとおり,被告らが右撤回の趣旨を小売店等に徹底するための特段の措置をとらなかったことなどから,いまだ中止要請文書の効果が残存し,原告製品を取り扱うと不都合があると誤解している小売店も少数ながら存在していることが認められるものの,それは例外的な現象というべきであって,前記のとおり被告組合において現実に本件撤回文書を配付したのみならず,原告においても本件撤回文書のコピーを約1300ないし1500店の取引先に送付しており,右各措置により原告の名誉及び信用は既に相当程度回復したと認められること,本件は名誉毀損というよりも信用毀損の事案というべきところ,原告の信用が毀損されたことと密接に関連する前記売上げの減少についての財産的損害については,損害賠償請求が認容されて補填されることになること,原告が謝罪広告の掲載を求めている三誌は,いずれも一般消費者向けの雑誌であり,問屋及び小売店に対して配付された文書による名誉及び信用の毀損の回復方法として,右三誌に謝罪広告の掲載を命ずることは均衡を失し必ずしも合理的でないことなどを総合的に考慮すれば,結局,被告組合に謝罪広告を命ずることを求める原告の請求はいまだ理由があるとはいえないというべきである。]

 

差止請求の是非について

「本件撤回文書配付以降,被告らによって新たな妨害行為が行われたと認めることはできず,殊に,現在もなお本件妨害行為が継続していると認めるに足りる的確な証拠は全くないというべきである。」「したがって,原告の差止請求は,その前提を欠き,理由がない。」

 


 

[基本・審決]

(社)大阪バス協会に対する件

審判審決平成7710

審決集423頁、判例タイムズ89556

独禁法811号,独禁法814

 

「道路運送法は運賃等を主務官庁の認可に係らせ,また,完全には自由な事業者間の競争を認めない条文を置いているが,そのことから無条件に当然に,独占禁止法の適用が排除され,又は同法上の排除措置命令に関連する規定の内容が規定,拘束されるものではなく,この排除措置命令の可否は,専ら同法の見地から判断すべきである。」

「通常であれば「一定の取引分野における競争を実質的に制限」しているとされる外形的な事実が調っている限り,このような場合は,原則的に同法第3条(第2条第6項)又は第8条第1項第1号の構成要件に該当すると判断され,同法第7条又は第8条の2に基づく排除措置命令を受けるのを免れないのがあくまでも原則であると考えられる。」

「もっとも,その価格協定が制限しようとしている競争が刑事法典,事業法等他の法律により刑事罰等をもって禁止されている違法な取引(典型的事例として阿片煙の取引の場合)又は違法な取引条件(例えば価格が法定の幅又は認可の幅を外れている場合)に係るものである場合に限っては,別の考慮をする必要があり,このような価格協定行為は,特段の事情のない限り,独占禁止法第2条第6項,第8条第1項第1号所定の「競争を実質的に制限すること」という構成要件に該当せず,したがって同法による排除措置命令を受ける対象とはならない,というべきである。

なぜならば,・・・[独禁]法による排除措置を命ずることができるかどうかは,専ら同法の見地から判断すべきであって,道路運送法の認可制度を定める規定により当然に判断の拘束を受けるものではないが,独占禁止法の直接及び究極の目的,すなわち,同法第1条に記載された,公正かつ自由な競争を促進し,もって,一般消費者の利益を確保するとともに,国民経済の民主的で健全な発達を促進するという目的をも考慮してみると,これらの場合には,他の法律により当該取引又は当該取引条件による取引が禁止されているのであるから,独占禁止法所定の構成要件に該当するとして排除措置命令を講じて自由な競争をもたらしてみても,確保されるべき一般消費者の現実の利益がなく,また,国民経済の民主的で健全な発達の促進に資するところがなく,公正かつ自由な競争を促進することにならず,要するに同法の目的に沿わないこととなるのが通常の事態に属するといい得るため,特段の事情のない限り,その価格協定を取り上げて同法所定の「競争を実質的に制限する」ものに該当するとして同法による排除措置命令を受ける対象となるということができないからである。

・・・以上のようにいうことができる反面,全く同じ理由に基づき,価格協定が制限しようとしている競争が事業法等他の法律により刑事罰等をもって禁止された取引条件に係る場合であっても,当該価格協定に対して独占禁止法上の排除措置を命ずることが,同法の直接及び究極の目的,すなわち同法第1条に記載された,公正かつ自由な競争を促進し,もって,一般消費者の利益を確保するとともに,国民経済の民主的で健全な発達を促進する,という目的から首肯され得る,特段の事情のあるときは,このような価格協定行為が同法第2条第6項,第8条第1項第1号の構成要件に該当するということを妨げる理由はないのであるから,同法の見地に立って排除措置を命ずることができる,と判断される。・・・

そして,前記の特段の事情のある場合の典型的な例として,当該取引条件を禁止している法律が確定した司法部における判断等により法規範性を喪失しているときを掲げることができる。

その外に,・・・,右の特段の事情のある場合の例を挙げれば,i.事業法等他の法律の禁止規定の存在にもかかわらず,これと乖離する実勢価格による取引,競争が継続して平穏公然として行われており,かつ,ii.その実勢価格による競争の実態が,公正かつ自由な競争を促進し,もって,一般消費者の利益を確保するとともに,国民経済の民主的で健全な発達を促進する,という独占禁止法の目的の観点から,その競争を制限しようとする協定に対し同法上の排除措置を命ずることを容認し得る程度までに肯定的に評価されるときを挙げることができる・・・。」


 

 

[参考・判決]

北九州獣医師会損害賠償請求事件

福岡地方裁判所小倉支部判決平成元年37

判例時報132781頁、判例地方自治6859

 

「独占禁止法21項の規定する「その他の事業を行う者」とは,市場経済における公正かつ自由な競争秩序の維持・確保という独占禁止法の目的に照らし,物資,役務その他の経済的利益を供給し,これに対する反対給付として何らかの経済的利益を反覆継続して受ける経済活動を行う者をいうところ,専門性,公共性を有する役務の提供を行う者であっても,その役務の提供が右の経済活動にあたり,さらに他の者との間に役務の質と価格をめぐる競争が生じる以上,右事業者に含まれるものと解される。」 

 

「独占禁止法は,公正取引委員会に対して専ら公益保護の立場から同法違反の状態を是正する権限を与えているのであって,違法行為による被害者の個人的救済をはかることを目的として右権限を与えているものではないから,当該違法行為に対し公正取引委員会による是正勧告等の指導がなされていないからといって,同行為が不法行為に該当しないということはできない。したがって,独占禁止法違反の行為によって自己の法的権利を侵害された者は,右行為に対し公正取引委員会による審決あるいは指導等がない場合においても,民法709条の一般不法行為の要件を主張・立証することにより違反行為をなした事業者団体等に対し損害賠償請求をなすことができるものというべきである」。

 

 

1.被告北九州市は,狂犬病予防法に基づき,狂犬病予防注射業務及び手数料収納事務等の狂犬病予防注射の実施事務を行っている。

2.被告社団法人北九州市獣医師会(以下「被告獣医師会」という)は,獣医学術の発達,普及等を目的とする社団法人である。

3.被告北九州市は,狂犬病予防法に基づき,かねてより狂犬病予防注射業務及び手数料収納事務(以下「狂犬病予防注射業務等」という)を実施してきた。

4. 被告北九州市は,右業務等の実施を被告獣医師会に委託し,同被告に実施頭数に応じた委託料の支払いをしてきた。

5.被告獣医師会は,狂犬病予防注射業務等の受託業務の実施に必要な獣医師を選出して,この名簿を被告北九州市に提出し,この名簿に記載された獣医師により前記業務等を実施している。そして,これに従事した獣医師に対して,同被告から支払われる委託料のうち相当額を年度毎に支給している。被告獣医師会では,前記業務を専ら被告獣医師会・開業者部会の会員(開業者部会員)に機械的に割り当てている。

6. 被告獣医師会には,①正会員で診療所を開設する開業獣医師を構成員とする「開業者部会」,②北九州市役所勤務者である者を構成員とする「給与者部会」及び③①及び②のいずれにも属さない者を構成員とする一般部会の3部会がある。一般部会は,会員の一部が民間企業の勤務者であって,開業者部会及び給与者部会に所属することができなかったため,これらの者のために,獣医師会雑誌の配布・取寄,学会・講習会の通知連絡等の便宜を図ることを目的として設置された。

7. 原告は,獣医師であって,被告獣医師会一般部会会員である。開業者部会員でない原告は狂犬病予防注射業務等の実施に必要な獣医師に選出されず,右業務に従事できなくなっている。

8. 原告が一般部会会員となった経緯は次のとおりである。すなわち,被告獣医師会会員・同開業者部会会員であったが,原告の診療所移転に際して「移転先の診療所の2キロメートル以内に既設の診療所を有する同部会員2名のうち1名の同意を得ること及び既設の診療所から2キロメートル以内に診療所を開業するときは,至近距離にある2名の同部会員の同意を得ることが必要である」とする被告獣医師会規定に従わずに規定に定める「1名の同意」を得ることなく診療所を開設したなどことから,被告獣医師会内では原告を除名にすることなどが話し合われるようになった。原告は,獣医師会から退会することとし,獣医師会側では,原告を会員として残したままで,一般部会に所属させる扱いとした。その後,被告獣医師会では,保証人・入会金その他開業者部会に入会するについて必要とされている要件を具備するならば,いつでも原告を同部会に受け入れることを原告に対して表明し,開業者部会への入会を指導・勧誘した。しかし,原告はこの指導・勧誘に応じようとしなかった。なお,上記の規定は,公正取引委員会から独占禁止法違反の疑いがあるとして改善するよう指導をうけたことから,その後,改正された。

9. 厚生省・各都道府県知事通知では,「狂犬病予防法第5条による予防注射は原則として開業獣医師に行わせること」とされていた。

10.  開業者部会は部会員全員が開業獣医師であり,狂犬病予防注射業務等の実施のための機関として狂犬病予防委員会を設置していた。これに対して,一般部会は,会員数が少なく,多くは開業獣医師ではなく,目的も前記のようなものであったところからして何らの活動もしておらず,活動にあたっての規約・規則等も定められておらず,会費も低額であった。狂犬病予防注射業務等特に集合注射を実施するためには,実施方法の打合せ,実施要領の研修等の事前準備が必要であって,開業医ら側では機動的に行動する必要があるところ,被告獣医師会において開業獣医師の「集合体」としての機能を有しているのは開業者部会だけだった。

11. 被告獣医師会の受託業務である狂犬病予防注射業務等に参加することのできない開業獣医師であっても,個別に,注射として狂犬病予防注射を実施する機会は確保されていた。

12. 原告が,被告獣医師会らが独禁法8条に反し不法行為により損害を与えたとして訴えた。被告らは,開業獣医師は事業者にあたらない,本件予防注射業務は「事業」でなく独禁法が適用されない,公取委の勧告等がないのであるから不法行為に当たらない,独禁法8条に反しないなどと主張した。

 

裁判所の判断

(公取委の勧告等がないから不法行為に当たらないかについては,上記参照)。

開業獣医師は「事業者」にあたる。

被告は「被告獣医師会は,被告北九州市から地方公共団体の公共業務の委託を受けてその業務を実施することが,独占禁止法違反となることはない」と主張するが,「独占禁止法にいう事業とは」「経済的利益の供給に対する反対給付を反復継続して受ける経済活動をいい,営利を直接の目的とすると否とを問わないというべきであるところ,狂犬病予防注射業務も対価を得てなされる経済活動であるから,地方公共団体の公共事務として実施され,営利を目的としないということのみによって,右業務が事業性を失うものではない」。

「被告獣医師会が同北九州市から受託した狂犬病予防注射業務等の実施を開業者部会に一任し,犬の鑑札及び注射済票を同部会員に預託したことには合理的な理由があり,しかも,原告には,開業者部会に入会することによって右業務等に参加する機会が確保されていたものと認められるから,同被告の右行為をもって,同被告がその構成事業者である原告の機能又は活動を「不当に」すなわち,正当な理由なく事業者間の自由かつ公正な競争を阻害するおそれのある態様・方法で制限したとはいえず,また,不合理な差別として公序良俗に違反するということもできない。」

 


 

[参考・判決]

石油連盟による審決取消請求事件

最高裁判所判決昭和5739

最高裁判所民事判例集363265頁、判例時報10373頁、最高裁判所裁判集民事135343頁、裁判所時報8351頁、金融・商事判例6573

独禁法81

*行政指導

 

「事業者団体がその構成員である事業者の発意に基づき各事業者の従うべき基準価格を団体の意思として協議決定した場合においては,たとえ,その後これに関する行政指導があったとしても,当該事業者団体がその行った基準価格の決定を明瞭に破棄したと認められるような特段の事情がない限り,右行政指導があったことにより当然に前記独占禁止法811号にいう競争の実質的制限が消滅したものとすることは許されないものというべきである。」

 

1. 上告人石油連盟は,原油値上りにともなう石油製品の油種別値上げ額の設定について検討し,油種別(揮発油,ナフサ,ジエット燃料油,灯油等の油種別)に値上げ目標を設定して,一定期日から石油製品の販売価格を引き上げることを決定した。

2. 上告人会員元売業者各社は,この決定に基づき,石油製品の値上げ額をその取引先に通告し,おおむね,石油製品の販売価格を引き上げた。

3. 通商産業省当局は,この決定が行なわれた後,「原油コスト・アップに伴う負担増分の全額を需要者に転嫁することは適当でないが,製品換算1キロリットルあたり860円の限度で,これを需要者に転嫁することはやむをえない」という指導(以下「行政指導なるもの」という。)を行なった。

4. 行政指導なるものが行われた後,上告人会員元売業者各社らは,値上げ未了分について,値上げを達成するため,市況等をみながら可能な範囲で努力を続けていた。

5. 裁判所では,前記1の決定は,その後行われた通商産業省の行政指導によりその効力を失い,各元売業者は右行政指導の枠内で自主的に価格の引上げ額を決定することが可能となったのであって,本件決定による競争の実質的制限は消滅したと解すべきかどうかが争われた。

 

裁判所の判断

通産省当局は「販売価格の引上げを指導したものではなく,その販売価格の引上げを決定した本件決定とはその内容を異にするものであって,もとより本件決定を消滅させ,準拠すべき新たな価格を設定したものではないから,行政指導なるものに従いつつ本件決定に従うことも不可能ではなく,仮りに個々の上告人会員元売業者各社(以下「元売業者各社」という。)が行政指導なるものの事実上の強制力によりこれに従うことを余儀なくされたため,本件決定に基づく値上げの目標を完全に達成できなかったとしても,その達成した範囲内では,それが本件決定に基づく値上げでないとはいえないし,もとより元売業者各社が行政指導たるものに事実上従ったからといって,そのため本件決定の拘束力が消滅し,元売業者各社のその後の価格行動が右決定に基づくものでなくなるものともいえない。」

「行政指導なるものの前後の状況に照らして,その間及び本件審判開始決定のときまでに上告人が本件決定を破棄し,あるいは値上げの申入れを撤回させるなど破棄に準ずる措置をとった形跡はなく,他に本件決定が消滅したとすべき特段の事情も認められない。」

「仮りに,本件において事業者団体である上告人により決定された原油の製品換算1キロリットルあたり1113円の引上げが行政指導なるものに従った結果860円の引上げにとどめられたとしても,行政指導なるものは価格引上げの限度を示したにすぎないものであるから,これによってさきに行われた上告人の価格引上げ決定の効力に影響を及ぼすものとみることはできない」。

 


 

[参考・審決]

広島県石油商業組合広島市連合会に対する件

審判審決平成9624

審決集443頁、判例タイムズ950243

独禁法81

*価格制限

 

1. 被審人(広島県石油商業組合広島市連合会)は,会員事業者の経営安定と業界の健全な発展を期することを目的とし,広島市,広島県廿日市市,同佐伯郡(大柿町,能美町及び沖美町の地区を除く。),同安芸郡(江田島町,倉橋町,音戸町,下蒲刈町及び蒲刈町の地区を除く。),同山県郡(千代田町及び大朝町の地区を除く。)及び同高田郡向原町の区域(以下これらの区域を併せて「広島地区」という。)を地区とし,地区内において石油製品の販売業を営む者を会員とする(会員数254名)。

2. 地区内で石油製品販売業を営む非会員は,平成571日現在でいわゆる商系では株式会社オカザキ商店など6社を数えるのみであり,他にいわゆる商系外では農業協同組合があるのみである。

3. 被審人の会員の地区内における普通揮発油(特需と称する大口需要者向けを除く。以下同じ。)の小売販売量のほぼすべてを占めているのに近い。

4. 広島県石油商業組合(以下「県石商」という。)は,被審人の上部機関である。県石商は,中小企業団体の組織に関する法律に基づき,広島県内で石油製品等の販売業を営む者によりが設立された。

5. 昭和63年春ころ,広島地区の普通揮発油の1リットル当たりの小売価格(以下において「小売価格」又は「価格」として具体的な金額を記載するときは,特に断りのない限り,普通揮発油の1リットル当たりの小売価格を指し,個別の「普通揮発油の1リットル当たりの」との表記は省略する。)は,いわゆる通り相場がおおむね120円であったところ,石油製品の元売業者(以下「元売業者」という。)の直営する給油所が114円の安い価格を宣伝したことから,いわゆる安売り競争が始まり,ついには全国平均価格が110円のときに広島地区においては87円の価格で販売する給油所が現われるなど,価格競争が激化し,福岡,名古屋と並び小売業者の立場からみれば全国でのガソリンワースト市場であるといわれるようになった。

 6. そこで,広島地区の旧支部連合会(後の被審人)では,普通揮発油の市況を立て直すための努力,すなわち激しい状態にある価格競争を緩和して小売価格を引き上げるための努力を始めた。具体的には,会員総動員の協調体制を確立して班,支部等の組織活動を強化するようにと呼びかけ,また,浜井会長を中心として,機会あるごとに布教活動と称し,会員に対し,安易に価格競争を行わず,被審人のいわゆる適正マージンを確保できる価格で販売することを説得し,指示した。さらに,県石商の決定を受け,いわゆる「市場の正常化」すなわち小売価格の維持,安定のために,昭和6367日開催の執行部会において,ルール3原則と称して,①安値看板の掲示の禁止,②安値チラシの配布,③不特定多数を対象としたダイレクトメールの配布等の禁止,旗振りの禁止を決定し,会員にその実施を周知徹底させた。

7. 被審人は,その後,元売業者の仕切価格の引上げ又は引下げがあった場合には,「上がったときは上げ,下がったときは下げる。」との方針の下に,平成元年5月以降平成44月までの間に合計10回にわたり仕切価格の上下のたびごとに旧支部連合会ないしは被審人としての対応を協議し,仕切価格の引上げ又は引下げに応じた小売価格を決定し,それぞれの会員にその引上げや引下げを行わせ,その引上げなどが確実に行われたどうかについて各給油所の小売価格を調査するなどして,会員に旧支部連合会ないしは被審人の方針に従って小売価格の引上げ又は引下げを行うようにさせてきていた。

8. 平成4年ごろ,元売業者は,設備投資に伴う減価償却費の急増などを背景にして販売費,一般管理費などの間接経費が上昇したことを理由として,全国的に仕切価格の値上げを小売業者に対して通知してきていた。この中で,広島県内の被審人の広島地区においては,小売価格が1斉に4円あがった。

9. 審判において,公取委は,県石商では,前記仕切価格の上昇分と過去の仕切価格上昇分であって小売価格に反映させてこなかった分(累積額)の合計である金額4円分を小売価格に転嫁するために被審人として同年91日から会員の小売価格を4円引き上げることを決定し会員にこの決定の周知徹底をはかったために,前記小売価格の値上げ(4円)が行われたとした。被審人は,決定が行われなかったなどと主張した。

 

公取委の判断

公取委は,以下の理由から,県石商が「91日から会員の小売価格を4円引き上げることなどを内容とする本件決定をした事実を認めることができる,と判断する」。

「被審人会員の圧倒的大多数が9月末日までに134円へと4円引き上げたが,その時期は価格の判明している大部分の給油所において91日であることは,まず疑いを入れる余地のない事実として確定することができる。

この事実によれば,被審人会員の小売価格引上げは非常に足並みの統一がとれているということができる。」

「これらの認定事実によれば,元売業者による同年春以降の仕切価格引上げは時期にも価格の幅にもある程度のばらつきがあり,その仕切価格引上げを受けた日本全国各地の給油所の値上げ幅及び時期は,現実に全体として短期的にみる限りかなりのばらつきがあり(もっともある特定の範囲の地域の給油所間においては,価格の共通性を読み取り,その地域で価格についての話合いないし情報交換があったとの疑いを読み取り得る可能性はないでもないが,その点はしばらく措く。),その傾向は同じ広島県内の被審人の広島地区以外の近隣地区でも顕著であるのに対し,被審人会員の小売価格の値上げの幅及び時期が顕著に統一がとれて揃いすぎていることは,特異で際立っているということができる。

ところで,本件全証拠によっても,広島地区の普通揮発油の小売市場がごく少数の事業者から構成され,又は,特に大きな市場シェアを持つ事業者が存在するなどの理由で,特定の事業者がプライスリーダーシップを発揮でき,他事業者もそれと同一価格を設定せざるを得ないような特別の市場であることを窺わせる事実を認めることは,全くできない。

かえって,・・・認定によれば,平成5年夏ころ現在で,広島地区における小売販売業者の総数は260を超え,給油所の総数も480を超え,平成49月に遡ってもこれらの総数にそれほど大きな違いはないとみられる一方で,・・・会員事業者最大手の株式会社大野石油店(この点は査第7号証,第39号証)でさえも平成33月現在で23給油所を保有するにとどまっていたこと,したがって平成49月ころもほぼ同様であったと推測されること,1会員が1給油所を所有して営む規模の経営がおおむね75パーセントを占めることが,認定される。このような広島地区における事業者の数及び規模からみれば,広島地区の普通揮発油小売市場において自然に価格形成された結果が全国の他地区と比べて有意差を生じる可能性は乏しい,ということができる。

そうしてみると,元売業者による仕切価格引上げの時期及び幅にある程度のばらつきがあり,その値上げを受けた全国各地及び同じ広島県内近隣の他の地区で小売価格引上げの時期及び幅にかなりのばらつきがあるのに,広島地区においてだけ,本件で問題とされている価格引上げが91日から4円という時期と幅に顕著に均一の傾向を示していることは,全国的にみても特異で不自然というべきであり,その価格引上げにいずれかの主体による何らかの人為的な操作が介入していたとの疑いが生ずることも当然の成り行きといわざるを得ない。」

「有力会員を含む相当数の被審人会員が,被審人の方針と理解した上でこの値上げ行為をしており,また,会員が値上げ実施に用いる文書の送付に被審人の事務をも取り扱っている事務局職員が関与したこと,その後2回にわたり被審人の会議体である全体役員会において91日からの4円の値上げが円滑にされたことが報告されて確認されたこと,現実に被審人には過去において前身の旧支部連合会時代に2回,被審人設立後に8回合計10回にもわたり小売価格の決定行為をした経歴があることも明らかにされている。これらの事実によれば,91日からの小売価格の引上げが主体を被審人とする人為的なものである疑いが極めて濃厚であることが示されている。

そして,一方で,本件執行部会の参加者は,当時の被審人の会長,副会長,支部幹部を務める者であり,これらの者には当然,前記の全員参加体制下における「上がったときは上げ,下がったときは下げる。」との被審人の基本的な方針が十分に理解されていたとみられるが,平成48月中旬ころには客観的に,同年3月以降の仕切価格の上昇分の累積額が3円弱程度にも達しながら上昇幅が毎月小刻みであったため小売価格に反映されていなかった上に,同年8月中旬までに元売業者のほぼ全部から間接経費の上昇を理由に仕切価格を更に1円程度引き上げることが通告されるという,被審人が会員の価格の引上げ決定をしようとしても不思議ではないような情勢が切迫していた,ということができる。

他方で,本件執行部会までの約1か月間特に本件執行部会の直前2週間ほどの間に被審人幹部役員の出席の下に開かれた被審人又は県石商の会議の場において,小売価格の引上げに関する情報交換がされ,被審人の幹部役員によりしきりに小売価格の引上げを図ろうとする発言が繰り返され,中でも本件執行部会の1週間前に開かれた県石商の会議では出席者から91日という時期と4円という額を示して値上げの検討を提案する発言がされたことも,明らかにされている。

そのような情勢を受けて開催された本件執行部会において,少なくとも,元売業者による右の1円程度の仕切価格引上げ通告の報告がされたのに対し,小売価格に転嫁すべきだとの発言,同年春以来の仕切価格上昇分の累積額3円を転嫁すべきところにこの1円引上げ通告がされたから小売価格に転嫁していかないと大変なことになるなどの発言がされた上に,さらに,全国的にも市況上昇への気運があるし,広島でも環境整備に入っていこうとの発言があり,また,被審人の活動推進などのために827日に社店主会を設定し,支部中組織活動の面で1番弱い東支部は821日に支部の店主会を予定する,との発言がされた事実が,証拠上直接に明らかにされており,そのうち「環境整備に入っていこう」という発言の意味を足並みをそろえて小売価格の引上げを実施する手段条件の整備,実効性確保の努力に入っていこう,との意味に解し得ることも否めない。そして,被審人の会議において報告,発言がされた場合には特に異論がなければ承認,決定と扱われる慣行も示されている。

本件執行部会の会議内容は証拠上直接にはそれ以上はほとんど明らかでないが,被審人幹部役員,事務局職員にはこの会議内容について明確に違法性の意識があり,そのために事実に反してまで会議の存在すら否定している一方で,組織的に公正取引委員会による摘発の動きに対しできるだけ事実関係を明らかにさせないようにする動きがあったことも窺われる。

以上のような,91日からの被審人会員による4円の値上げ行為の不自然な一致の事実を前提として,その際の会員の認識,被審人の過去の活動方針,価格協定行為の累歴,客観的な情勢,本件執行部会までの経緯,事後の被審人による値上げ確認の行為と,本件執行部会の会議内容に関する被審人関係者の違法性の意識等とを念頭に置きながら,本件執行部会の席上でされたことが証拠上露見している範囲での報告,発言の内容と被審人の会議の慣行とを考え合わせてみると,本件執行部会の場で,同年3月以降の仕切価格上昇分の累積額3円分と新たに通告された間接経費の増加による仕切価格の上昇額1円分とを加えた4円分を小売価格に転嫁するために,被審人として91日から会員の小売価格を4円引き上げること及びその価格引上げの周知徹底をするとの本件決定がされ,併せてその場で827日の店主会,821日の東支部店主会がこの価格引上げ決定の周知徹底の場と位置付けられ,開催日が確認された,と推認するのが相当である。」

法令の適用

被審人は「会員の普通揮発油の小売価格の引上げを決定することにより,広島地区の普通揮発油の小売分野における競争を実質的に制限しているものであって,これは,独占禁止法第8条第1項第1号に違反するものである。」

 


 

[事例]

(社)日本冷蔵倉庫協会に対する件

審判審決平成12419

審決集473

独禁法81号,84

*届出料金の制限

 

1. 被審人(社団法人日本冷蔵倉庫協会)は,冷蔵倉庫業の健全な発達を図り,もって公共の福祉に寄与することを目的として設立された社団法人であり,都道府県(東北地方及び四国地方にあってはそれぞれの地域)を単位として全国38の地区ごとに所在する地区冷蔵倉庫協会を正会員,これらを構成する冷蔵倉庫業者(以下「会員事業者」という。)を賛助会員とする(平成711日正会員38名及び賛助会員1212名)。

2. 関東,東海,北陸,近畿,中国及び九州の地域には,それぞれ,地区冷蔵倉庫協会又は会員事業者を会員とする冷蔵倉庫協議会と称する団体が設置されている(これらの団体並びに北海道,東北地方及び四国地方を地区とする地区冷蔵倉庫協会を併せて,ブロック団体という。)。

3.会員事業者の営業用冷蔵倉庫(以下「冷蔵倉庫」という。)の設備能力の合計は,我が国の冷蔵倉庫の設備能力のほとんどすべてを占める。

4. 被審人の定款上の意思決定機関は,総会及び理事会であった。被審人は,さらに,幹部会を必要に応じて開催して,日常の事業活動について審議・決定をしている。幹部会で了承された事項は,事後に,総会,理事会等で事業報告の一部として承認されることとなるが,幹部会で了承されれば,事務局はこれに従って事業を進めており,実質的には理事会の承認と同様の意味を持つものとして扱われている。

5. 冷蔵倉庫料金については,倉庫業法第6条第1項の規定により,いわゆる事前届出制が採られており,冷蔵倉庫業者は,冷蔵倉庫保管料,冷蔵倉庫荷役料その他の営業に関する料金を定め,又は変更しようとするときは,その実施前に,運輸大臣に届け出なければならないこととされている。また,運輸大臣は,同条第2項の規定により,前記料金が能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたものを超えるものであるとき等に該当すると認める場合は,当該冷蔵倉庫業者に対し,期限を定めてその料金を変更すべきことを命ずること(以下「変更命令」という。)ができるとされている。

6. もっとも,本件以前は,冷蔵倉庫業界においては,個々の事業者が独自に届出の事務作業を行うことは煩雑かつ困難であること等のために,会員事業者は被審人からの料金改定についての連絡を受けその連絡内容どおりに届出を行っていた。運輸省としても,古くから,倉庫料金については公共料金に準ずる扱いをしていることなどのために倉庫料金は,自由な届出制というよりも,認可制に準じたものとの認識があった。そして,同省は,料金の改定に当たっては,事業者団体としての被審人から意向打診等を受け,その引上げ率が変更命令権の対象となるかどうかを検討していた。

7. 冷蔵倉庫業者は,冷蔵倉庫保管料の届出では,冷蔵倉庫の保管温度の範囲によりF級室とC級室を区分した上で,すべての物品に共通な基本料率として,一般基本料率と容積建基本料率を定めた上で,この基本料率により定まる基本料金に,保管の態様,貨物の種類等に応じた割増料金を加えて実際の料金を算出することとされていた。

8. 運輸大臣に対して届け出た冷蔵倉庫保管料(以下「届出保管料」という。なお,「届出料金」ということもある。)は,全国の冷蔵倉庫業者について昭和55年に一律に引上げが行われて以来,12年の間改訂が行われなかった。

9. 冷蔵倉庫業者が事前に届出をしないで料金を収受することは法律上禁じられていたが,本件当時,運輸省は届け出られた料率の上下各10パーセントの範囲内で実勢料金を収受することを認める運用をしていた。さらに,この範囲の下限を下回る料金を収受した場合について,取締りが行われていることは全くうかがえなかった。

10. 冷蔵倉庫保管料の現実の収受に当たっては,届出において定められた計算方法(前記7)により料金が算出され,届出料金どおりに料金が決められるのは,一見の顧客(取引先荷主)の場合等に限定されている。一般には,物品ごとに単位料金を決める計算方法がとられ,実勢料金は物品により相当の開きがあった。全体として,実勢料金は届出料金から相当下方にかい離し,届出料金の9割以下となっているものが相当多い(したがって,前記運輸省が運用として認める届出料金の上下各10パーセントの幅料金の下限を下回る状態である)ことが通常となっていた。

11. 平成2年度後半ころに,被審人の会員事業者から保管料の引上げを行ってほしいとの要望が出されるようになった。これを受けて,被審人は,会員事業者の収支の改善を図るため,会員事業者の届出保管料の引上げの可能性について検討し,運輸省担当課と折衝を開始した。

12. 運輸省担当官は,被審人の要望する引上げ幅のうち約8.8パーセントであれば届け出てよい旨,また,届出保管料の多様化を図ることが望ましいとの旨の意向を示した。

13. そこで,被審人(幹部会)は,会員事業者の届け出る保管料の基本料率について,会員事業者が運輸大臣に届け出ていた料率から,約9.69.28.88.48.0%のうちいずれかの率で引き上げるべきことを決定した。

14. 被審人は,これら5種類の料率を示しただけでは殆どの業者が最高の料率(すなわち,約9.6%)という保管料届出を行うことになり,運輸省担当官により示された前記意向に沿わない結果となると考え,個々の会員事業者に対し設備能力等に応じてどの料率で届出保管料を引き上げさせるかを予め定めることとした。あわせて,届出の時期,方法等についても定めた。

15. 被審人の前記決定は,ブロック団体及び各地区冷蔵倉庫協会事務局を通じて会員事業者に対して周知された。

16.近畿ブロックの複数の地区冷蔵倉庫協会においては,これら協会の指導による取引先への届出内容の周知(統一ひな型による「お願い文書」の送付),料金引上げ交渉,東京においては,東京冷蔵倉庫協会における大手水産会社に対する引上げ交渉窓口(幹事会社)の設定等が行われた。

17. 会員事業者は,被審人の前記決定に基づき,設備能力比で算出して約97%の者が,届出保管料を引き上げることとし,その旨を運輸大臣に届け出ている。

18. その後,公取委の審査開始後,会員事業者は,平成67月ころまでに,ほとんどの都道府県又は支部単位ごとに,会員同士の連名で,今後,届出の要否,届出の時期,届出の内容などについて,各社がそれぞれ自主的に判断する旨の確認書を作成している。

19. また,運輸省の倉庫料金の届出の受理に関する方針が変更され,運輸省が公示した一定の幅の範囲内ならば,倉庫業法施行規則に基づき料金変更届出書に添付すべき書類がなくても届出が受理されることになった。

20. 審判において,審査官は,被審人は811号に違反したとし,なかでも届出料金の引上げ決定が実勢料金の引上げ決定の意味を有すること主張した。被審人は,①幹部会の決定であり被審人の意思決定はないこと,②前記18の確認書作成により違反行為は消滅したことなどを主張した。

 

公取委の判断

811号違反について,「本件において,独占禁止法第8条第1項第1号違反の成立のためには,被審人の決定及びその会員事業者への周知による一定の取引分野における競争の実質的制限が必要である。そして,本件においては,右競争の実質的制限は実勢料金に関して生じることが必要である」ところ,本件においては「例えば東京地区のように,被審人の正会員である地区冷蔵倉庫協会が実勢料金の引上げに関する活動を行っていた疑いがある地区があるものの,被審人の行為としては,全国の会員事業者の実勢料金との関係で,届出料金の引上げを契機に少しでも実勢料金を引き上げるよう努力するという程度の認識による届出料金に関する決定であったとの認定にとどまらざるを得ず,また,本件の場合においては,届出料金の引上げ決定の内容及びその周知並びにその後の実施状況をもって,実勢料金についての競争の実質的制限が生じたものと認めるに足りないものである。したがって,本件行為が独占禁止法第8条第1項第1号の要件に該当すると認めることはできない。」

814号違反について,本件においては「被審人による会員事業者の届出料金の引上げに関する決定は認められるのであって,本件のような事業者団体の価格に関する制限行為は,同一の行為態様であっても,市場における競争を実質的に制限するものであれば,独占禁止法第8条第1項第1号の規定に違反し,市場における競争を実質的に制限するまでには至らない場合であっても,構成事業者の機能又は活動を不当に制限するものであれば,同項第4号の規定に違反するものである。」本件においては,被審人の「届出保管料の決定及び周知は,本来会員事業者が自由になし得る届出を拘束・制限するものであって,会員事業者の機能又は活動を不当に制限するものであるから,独占禁止法第8条第1項第4号違反が成立する。」

なお,前記16のように一部の地区冷蔵倉庫協会における実勢料金の引上げに向けた積極的,組織的な取組が認められるものの,「これらを,それぞれの地区冷蔵倉庫協会レベルでの行為としてとらえるのは別として,実勢料金引上げの契機となる被審人の行為と結び付けて,届出料金の引上げ決定と全国市場における実勢料金の上昇との連動性を認定することまではできない。」

他方で,幹部会は事実上の意思決定機関であると認められるから,被審人の主張①は理由がない。

違反行為が消滅したとの被審人の主張②について,上記確認書は,会員事業者が近隣の会員事業者との間で作成したものであり,その内容も被審人の違反行為ないしそれに基づく実施行為を否認するものにすぎず,決定の破棄に準ずるものとはいえないから,これらの確認書の作成をもって,違反行為が実質的に消滅したものと認めることはできない。もっとも,この確認行為は,被審人の決定の拘束・制限性を弱めるものということができる。さらに,倉庫業法の改正及び届出受理に関する方針変更により,会員事業者の料金決定の自由度が増加したものと認められる。そして,これに伴い,本件以前において事業者団体である被審人が有していた影響力も弱まったものと推認することができる。これら事実(確認行為及び届出受理方針変更等)があいまって,被審人による届出料金の引上げ決定の会員事業者に対する拘束・制限性は失われ,本件違反行為が事実上消滅したものと評価することができる。」

法令の適用

「被審人は,独占禁止法第2条第2項に規定する事業者団体に該当するところ,会員事業者が運輸大臣に届け出る保管料を決定し,これに基づいて会員事業者に届出を行わせることにより構成事業者の機能又は活動を不当に制限していたものであって,これは,同法第8条第1項第4号の規定に違反するものである。」

主文

1 被審人(社団法人日本冷蔵倉庫協会)は,次の事項を賛助会員である冷蔵倉庫業者及びその取引先荷主並びに正会員である地区冷蔵倉庫協会に周知徹底させなければならない。この周知徹底の方法については,あらかじめ,公正取引委員会の承認を受けなければならない。

1 被審人が平成4618日及び同年715日に前記冷蔵倉庫業者が運輸大臣に届け出る冷蔵倉庫保管料及び届出方法を決定し,これに基づいて前記冷蔵倉庫業者に運輸大臣に対し届け出させた行為は,独占禁止法に違反するものであった旨

2 被審人は,今後,前記冷蔵倉庫業者の前記保管料を決定せず,前記冷蔵倉庫業者がそれぞれ自主的に前記保管料を決定し,届け出る旨」(主文・以下略)

 


 

[事例]

(社)日本種鶏孵卵協会ブロイラー孵卵部会中国・四国ブロイラー孵卵協議会に対する件

審判審決平成1258

審決集47112

独禁法81

独禁法8条の3

*価格制限

 

1. 被審人(社団法人日本種鶏孵卵協会ブロイラー孵卵部会中国・四国ブロイラー孵卵協議会)は社団法人日本種鶏孵卵協会のブロイラー孵卵部会の地域協議会であり,中国四国地区内において素びなを生産し販売する者を会員とする(会員数17名)。

2. 被審人は,社団法人日本種鶏孵卵協会とは別に会則を設け,会費を徴収し,意思決定機関として総会及び会員全員を構成員とする中四国ブロイラー孵卵協議会と称する会合(以下「協議会」という。)を置き,素びなの需給状況に関する情報交換,生産技術研修等独自の活動を行っている。

3. 素びなは肉用鶏のひな鳥である。被審人の会員は,ほとんどすべての素びなに病気予防のためのワクチンを接種した上,取引先の依頼により雌雄の鑑別を行い,その大部分を中国四国地区に所在する養鶏業者等の需要者又は同需要者に販売する販売業者(以下これらを「需要者等」という。)に供給している。

4. 被審人の会員の中国四国地区における素びなの供給量の合計は,同地区における素びなの総供給量のほとんどすべてを占める。

5. 被審人は,平成810月からの配合飼料の仕入れコストの増加等に対処するため,協議会において,会員が需要者等に販売する素びなの販売価格(以下「素びなの販売価格」という。)を同年111日出荷分から1羽当たり2円引き上げること並びに会員の主要な需要者等に被審人及び全会員の連名で値上げ通知文書を送付することを決定した。被審人は,決定内容を,右協議会に欠席した会員に電話等により通知した。

6.被審人は,平成94月からの配合飼料の仕入れコストの増加等に対処するため,同月19日,協議会において,素びなの販売価格を同年51日出荷分から1羽当たり70銭引き上げること並びに会員の主要な需要者等に被審人及び当該需要者等と取引する会員1名の連名で値上げ通知文書を送付することを決定した。被審人は,決定内容を,右協議会に欠席した会員に電話等により通知した。

7. 被審人の会員は,前記56の決定に基づき,おおむね,素びなの販売価格を引き上げていた。

8. 決定後に開催された協議会においては,協議会の決定に基づく値上げ交渉の進ちょく状況の確認が行われた。

9. 審判において,被審人は,前記56の決定が存在しないことのほか,①「会員が,それぞれ,松尾会長が独断で需要者等に値上げ通知文書を送ったことを奇貨として,自主的に値上げ交渉を行ったにすぎない」,②「素びな価格(素びな本体の価格及びこれにワクチンなどの費用を付加した素びな総体の価格の両方を含む。)は孵卵業者によりまちまちであり,さらに同一孵卵業者であっても需要者等によって異なるのであるから,素びな本体の値上げ額を決定しても独占禁止法第8条第1項第1号の「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」との要件に該当するものとは認めるべきではない」,③「飼料販売業者が配合飼料の販売に当たり価格カルテルを締結し,会員は,当該カルテルによる配合飼料の値上げを一方的に押し付けられ,自助努力によりこれに対処する余地がない状況の下において,やむなく素びなの販売価格の引上げを決定した被審人の行為は,「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」との要件を欠き,違法性を欠くものである」などと主張した。

 

公取委の判断

決定は存在すると認められる。

被審人の主張①については,「協議会の決定は全会員に周知されていたこと,協議会において値上げ交渉の進ちょく状況を確認していることから,被審人の主張は理由がない」。

主張②については,「中国四国地区において被審人の会員の素びなの供給量の合計は素びなの総供給量のほとんどすべてを占めているから,被審人は同地区の素びなの市場を支配できる地位にあり,このような地位にある被審人が素びなの販売価格を一律に引き上げることを決定すれば,「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」との要件に該当することは明らかである」とした。

主張③については,「本件では被審人の行為が問題になっているのであるし,本件において被審人が主張するような動機等の背景事情が競争制限的な決定の違法性阻却事由となることはな」く,「したがって,被審人の行為が違法性を欠くという主張には理由がない」とした。

法令の適用

「被審人は,独占禁止法第2条第2項に規定する事業者団体に該当するところ,会員の素びなの販売価格の引上げを決定することにより,中国四国地区の素びなの供給分野における競争を実質的に制限していたものであって,これは,独占禁止法第8条第1項第1号の規定に違反するものである。」

 

 

(株)森孵卵場に対する課徴金納付命令

平成13319

課徴金の計算の基礎

株式会社森孵卵場(以下「森孵卵場」という。)は,平成851日以前から社団法人日本種鶏孵卵協会ブロイラー孵卵部会中国・四国ブロイラー孵卵協議会(以下「中四国協議会」という。)の会員となっている。

森孵卵場は,ブロイラー用素びな(以下「素びな」という。)を生産し販売する。

森孵卵場の違反行為の実行としての事業活動を行った日から当該行為の実行としての事業活動がなくなる日までの期間における中国四国地区に所在する養鶏業者等の需要者又は同需要者に販売する取引先販売業者に販売する素びなの売上額は,23649103円である。

森孵卵場が国庫に納付しなければならない課徴金の額は,独占禁止法第8条の3において準用する独占禁止法第7条の21項及び中小企業基本法等の一部を改正する法律(平成11年法律第146号)附則第3条第1項の規定によりなお従前の例によることとされる改正前の独占禁止法第7条の22項の規定により前記23649103円に100分の3を乗じて得た額から,同条第4項の規定により1万円未満の端数を切り捨てて算出された610万円である。

課徴金に係る違反行為

中四国協議会は,「独占禁止法第2条第2項に規定する事業者団体に該当するところ,会員の素びなの販売価格の引上げを決定することにより,中国四国地区の素びなの供給分野における競争を実質的に制限していたものであって,これは,独占禁止法第8条第1項第1号の規定に違反し,かつ,独占禁止法第8条の3において準用する独占禁止法第7条の21項に規定する商品の対価に係る行為である。」

 

 

(株)イシイに対する課徴金納付命令

平成13319

「株式会社イシイ(以下「イシイ」という。)は,平成851日以前から社団法人日本種鶏孵卵協会ブロイラー孵卵部会中国・四国ブロイラー孵卵協議会(以下「中四国協議会」という。)の会員となっている。」

イシイは,ブロイラー用素びな(以下「素びな」という。)を生産し販売する生産者である石井養鶏農業協同組合から素びなを仕入れて販売しており,同地区において,素びなの卸売業を営む。

イシイの違反行為の実行としての事業活動を行った日から当該行為の実行としての事業活動がなくなる日までの期間における中国四国地区に所在する養鶏業者等の需要者又は同需要者に販売する取引先販売業者に販売する素びなの売上額は,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律施行令第5条の規定に基づき算定すると,946748223円である。

「イシイが国庫に納付しなければならない課徴金の額は,独占禁止法第8条の3において準用する独占禁止法第7条の21項の規定により前記946748223円に100分の1を乗じて得た額から,同条第4項の規定により1万円未満の端数を切り捨てて算出された946万円である。」

課徴金に係る違反行為

中四国協議会は,「独占禁止法第2条第2項に規定する事業者団体に該当するところ,会員の素びなの販売価格の引上げを決定することにより,中国四国地区の素びなの供給分野における競争を実質的に制限していたものであって,これは,独占禁止法第8条第1項第1号の規定に違反し,かつ,独占禁止法第8条の3において準用する独占禁止法第7条の21項に規定する商品の対価に係る行為である。」

 


 

[事例]

一般社団法人吉川松伏医師会に対する件

排除措置命令平成26227

審決集--

独禁法81

*価格制限

 

1. 被審人(一般社団法人吉川松伏医師会、以下「吉川松伏医師会」という。)は,吉川松伏地区において医業に従事する医師らを会員とし,医道の高揚,医学及び医術の発展及び公衆衛生等の向上を図ること等を目的とする一般社団法人である。

2. 吉川松伏医師会の会員である医師には,①医療機関の開設者又は管理者として医業に従事する者及び②医療機関の勤務医として医業に従事する者がある。

3. 吉川松伏医師会は,吉川市及び松伏町から会員による健康診断業務を受託し,吉川松伏地区内の学校医として会員を推薦するなどの業務及び医師向けの研修を実施するほか,行政機関等が発する医療にかかる情報の提供等,会員が業務上必要とする便宜を提供している。

4. 吉川松伏地区内の開業医等の大部分は,医療機関の円滑な運営を考慮して,吉川松伏医師会に加入している。

5. 吉川松伏医師会には,総会及び理事会がおかれている。理事会は会務運営に関する事項の決定を行っている。

5. インフルエンザ任意予防接種は,公的医療保険制度が適用されないいわゆる自由診療に当たる。13歳未満の者は2回,13歳以上の者は1回の予防接種を受けることが望ましいとされている。

6.  吉川松伏医師会の会員が開設者又は管理者となっている医療機関におけるインフルエンザ任意予防接種の実施件数の合計は,吉川松伏地区におけるインフルエンザ任意予防接種の実施件数の大部分を占めていた。

7. 被審人の前身に相当する社団法人吉川松伏医師会においては,遅くとも平成10年頃から,インフルエンザ任意予防接種の料金が定められていた。

8. 吉川松伏医師会・理事会は,平成23年度のインフルエンザの流行に先立ち,同年1014日に開催した会合において,会員が設定するインフルエンザ任意予防接種の料金について次のとおり決定し,同月17日にこれを会員に周知した。

  13歳未満の者を対象とする1回目の料金(1回目を異なる医療機関で接種した場合の2回目の料金を含む。)3700円,1回目を同じ医療機関で接種した場合の2回目の料金を2650円とすること

13歳以上の者を対象とする1回目の料金を4450円とすること

9. 吉川松伏医師会・理事会は,平成24年度のインフルエンザの流行に先立ち,同年914日に開催した会合において,会員が設定するインフルエンザ任意予防接種の料金について, 前記8①の2回目の料金を2600円とし,②に関して2回目の料金を1回目を同じ医療機関で接種した場合につき2回目の料金を2900円以上とすることとするほかは前記8①及び②と同じ内容の決定を行い,同月18日にこれを会員に周知した。

10. 吉川松伏医師会の会員が開設者又は管理者となっている医療機関は,前記8及び9の決定及び周知に基づいて,おおむねこれら決定のとおりインフルエンザ任意予防接種の料金を設定し予防接種を実施していた。

11. 本件についての公取委による審査開始後,吉川松伏医師会・理事会は,前記9の決定を破棄し,その旨を会員に周知した。

 

法令の適用

「吉川松伏医師会は,独占禁止法第2条第2項に規定する事業者団体に該当するところ,会員が設定するインフルエンザ任意予防接種の料金を決定し,会員に周知することにより,吉川松伏地区におけるインフルエンザ任意予防接種の取引分野における競争を実質的に制限していたものであって,この行為は,独占禁止法第8条第1号の規定に違反するものである。このため,吉川松伏医師会は,独占禁止法第8条の22項において準用する独占禁止法第7条第2項第1号に該当する者である。また,違反行為の取りやめが公正取引委員会の審査開始を契機としたものであること等の諸事情を総合的に勘案すれば,特に排除措置を命ずる必要があると認められる。

よって,吉川松伏医師会に対し,独占禁止法第8条の22項の規定に基づき,主文のとおり命令する。」

 

主文

 

課徴金納付命令

なし

 


 

 

[事例]

全国モザイクタイル工業組合に対する件

勧告審決平成6530

審決集41183

独禁法81

独禁法8条の3

*価格制限,対輸出業者価格制限

 

1. 全国モザイクタイル工業組合(以下「モザイクタイル工組」という。)は,陶磁製モザイクタイル(以下「モザイクタイル」という。)の製造業を営む者を組合員として,組合員の公正な経済活動の機会を確保し,その経営の安定及び合理化を図ること等を目的として設立された商工組合である(組合員数114名。このうち「45角・452丁タイル」の製造業を営む者61名)。

2. モザイクタイルは,外装材等に使用され種々のものが製造されている。45角タイル及び452丁タイル(以下「45角・452丁タイル」という。)であって外装用に利用される施釉平物(以下「特定45角・452丁タイル」という。)がモザイクタイルの大部分を占める。

3. 組合員の製造する国内向け特定45角・452丁タイルの供給量の合計は我が国における国内向け同製品の総供給量の大部分を占める。

4. 組合員の東南アジア輸出向け特定45角・452丁タイルの供給量の合計は我が国における東南アジア輸出向け同製品の総供給量の大部分を占める。

5. 組合員は,45角・452丁タイルのほとんどすべてを直接又は間接に国内に出荷している。このうち,自己の商標で出荷するものの大部分は産地問屋に供給し,自己以外の事業者の商標で出荷するものはすべて当該事業者に供給し,東南アジア輸出向けに出荷するもののほとんどすべては輸出業者に供給している。

6. 組合員の45角・452丁タイルの出荷価格は,130cmの正方形になるよう連結したもの当たりの価格を基準として定められている。(以下,この価格を「基準額」という。)

7. モザイクタイル工組は,需要の減退等により組合員の国内向け及び輸出業者に対する東南アジア輸出向け特定45角・452丁タイルの出荷価格の低落が顕著になったことから,同製品の出荷価格を維持し引き上げるため次の事項を決定し,組合員に周知させた。

組合員の国内向け特定45角・452丁タイルの出荷価格・基準額(販売会社を経由して出荷する場合には,販売会社の出荷価格。以下同じ。)を95円以上とする

組合員の輸出業者に対する東南アジア輸出向け特定45角・452丁タイルの出荷価格・基準額を70円以上とする

前記①②の実効を確保するため,組合員は,外装用45角・452丁タイルの生産限度量を現行の生産量の範囲内とする

右出荷価格の引上げ及び生産数量の調整に協力するようモザイクタイル工組として組合員の大口取引先等に要請する

8. モザイクタイル工組の組合員は,前記決定に基づき,おおむね,国内向け及び輸出業者に対する東南アジア輸出向け特定45角・452丁タイルの出荷価格を維持し引き上げていた。

9. 公取委が本件について審査を開始したところ,モザイクタイル工組は前記決定を破棄した。

法令の適用

モザイクタイル工組は,「組合員の国内向け特定45角・452丁タイル及び輸出業者に対する東南アジア輸出向け同製品の出荷価格の維持,引上げを決定することにより,我が国における特定45角・452丁タイルの国内向け及び輸出業者に対する東南アジア輸出向けの供給に係るそれぞれの取引分野における競争を実質的に制限していたものであって,これは,同法第8条第1項第1号の規定に違反するものである。」

 

 

(株)カネキ製陶所に対する課徴金納付命令

平成7614

課徴金の計算の基礎

「株式会社カネキ製陶所(以下「カネキ製陶所」という。)は,外装用の45角・452丁タイルの施釉平物(以下「特定45角・452丁タイル」という。)の製造業を営む者であり,独占禁止法第7条の22項第3号に該当する事業者である。」

「カネキ製陶所は,平成511日以前から全国モザイクタイル工業組合(以下「モザイクタイル工組」という。)の組合員となっている。」

「カネキ製陶所の後記記載の違反行為の実行としての事業活動を行った期間における国内向け特定45角・452丁タイル及び輸出業者に対する東南アジア向け同製品の売上額は,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律施行令第5条の規定に基づき算定すると,271957106円である。」

「カネキ製陶所が国庫に納付しなければならない課徴金の額は,独占禁止法第7条の21項及び第2項の規定により前記271957106円に100分の3を乗じて得た額から,同条第4項の規定により1万円未満の端数を切り捨てて算出された815万円である。」

課徴金に係る違反行為

モザイクタイル工組は「独占禁止法第2条第2項に規定する事業者団体に該当するところ,組合員の国内向け特定45角・452丁タイル及び輸出業者に対する東南アジア輸出向け同製品の出荷価格の維持,引上げを決定することにより,我が国における特定45角・452丁タイルの国内向け及び輸出業者に対する東南アジア輸出向けの供給に係るそれぞれの取引分野における競争を実質的に制限していたものであって,これは,同法第8条第1項第1号の規定に違反し,かつ,同法第8条の3において準用する同法第7条の2に規定する商品の対価に係る行為である。」

 


 

[事例]

日本羊毛紡績会に対する件

勧告審決昭和49116

審決集21127

独禁法81

*数量制限

 

1.日本羊毛紡績会(以下「紡績会」という。)は,羊毛紡績業者及び羊毛紡績業に密接な関係を有する事業者29社並びに羊毛紡績業者らを構成員とする事業者団体7団体で構成される。

2.これらの事業者及び事業者団体の構成員(以下これらを「会員」という。)が生産する梳毛糸(そもうし)の生産数量は,我が国において生産される梳毛糸の約90パーセントを占めている。

3.紡績会は,梳毛糸の生産数量を調整し,市場の安定を図るため,次の方法により会員が生産する梳毛糸について各4半期分ごとに生産数量を決定し,会員に対して毎月の工場別生産実績を報告させることなどにより,これを会員に実施させている。

当該4半期(以下「当該期」という。)の始まる月の前々月に開催される役員会において,当該期における梳毛糸の需要量を予測し,これを基礎に梳毛糸の国内の生産目標量を設定する。

当該期における国内の梳毛糸の総生産数量が,前記生産目標量に見合ったものになるよう,会員から,それぞれの生産予定量を算定した生産計画を提出させ,これを基礎に,当該期における国内の梳毛糸の総生産数量(以下「全国拡大推計生産量」という。)を推計する。

当該期の始まる前月に開催される役員会において,会員から提出された前記生産計画を検討のうえ,前記生産目標量に対し,全国拡大推計生産量が見合ったものと判断される場合(判断されない場合は,会員に生産計画の再提出を求めて再検討する。)は,これを承認し,これによって,会員全体の梳毛糸の生産数量を決定するとともに,会員別の生産数量を決定する。

④前記生産計画を承認した後においても,当該期の途中で需要予測量の見直しを行い,必要に応じて生産目標量を変更し,会員にその計画を修正させる。

4.  紡績会は,前記決定に基づき,会員に生産数量の制限を行わせている。

5. 紡績会は,梳毛糸の在庫量が増加した時には,前記の方法により減産を実施した。

 

法令の適用

「紡績会は,独占禁止法第2条第2項に規定する事業者団体に該当するところ,同会は,梳毛糸の生産数量を決定し,これを会員に実施させることにより,我が国における梳毛糸の製造業者の販売分野における競争を実質的に制限しているものであって,これは,同法第8条第1項第1号の規定に違反するものである。」

 


 

[事例]

(社)全国港湾荷役振興協会に対する件

勧告審決昭和381025

審決集1218

独禁法81

*取引先制限

 

1. 社団法人全国港湾荷役振興協会(以下「全港振」という。)は,港湾運送事業および港湾荷役作業の改善等を目的とする団体である。全港振の正会員は,港湾運送事業者およびその団体である。全港振には,賛助会員として港湾運送事業に関する技能経験を有する者がある(正会員数港湾)運送事業者87名及び4団体,賛助会員数140名)。

2. 全港振は,支部を東京,横浜,清水,名古屋,大阪,神戸および門司の各都市に置いている。

3. 日本内の主要港(東京湾,川崎,横浜,清水,名古屋,四日市,大阪,神戸,下関および門司各港)各港における船内荷役総量(500総トン以下の小型船舶の荷役量を除く。)において,会員船内荷役事業者の船内荷役総量が占める割合は,関門港を除き,いずれも70%以上である。

4. 全港振の前身団体である全国港湾荷役振興協議会(旧全港振)は,船内荷役料金の引上げについて運輸省当局の意向を打診し,同局から「現行料金が遵守されていない現状においては,引上げは妥当とは考えられない」という意向提示を受けたことがあった。旧全港振では,これを受けて,船内荷役料金を遵守するための体制を早急に確立することとした。

5. この後,東京・横浜支部においては,次の規約を定め,会員に守らせるようになった。

貨主,船主等との取引については,旧来の実績を尊重し,他の領域を侵さないこと

新たに取引を行なう場合は,過去の実績を調査して他の会員に迷惑をかけないようにするとともに,かならず連絡会に報告すること

会員は,その所属支部港域内にかぎり作業を行なうこととし,これ以外の支部港域内の作業を請け負った場合には当該支部所属の会員に下請させなければならないこと

④これら取決めに違反した場合は,そのために得た利益の倍額を連絡会に醵出しなければならないこと

6. 名古屋,大阪及び神戸各支部は,それぞれ,会員と貨主,船主等との取引について,会員が相互に他の領域を侵さないことを決定した。

7. 全港振は,設立時に,東京・横浜両支部は前記規約を,名古屋,大阪及び神戸各支部は前記決定を,それぞれ,遵守すべきことを決議し,実施している。

 

法の適用

「全港振は,東京,横浜,名古屋,大阪および神戸の各支部において,会員の船内荷役について,その取引の相手方を制限しているものであつて,これは,京浜,名古屋,四日市,大阪および神戸の各港における船内荷役事業分野における競争を実質的に制限しているものであり,私的独占禁止法第8条第1項第1号の規定に違反するものである。」

 


 

[参考・審決]

四国食肉流通協議会に対する件

勧告審決平成469

審決集3997

独禁法81

*購入価格に関する制限

 

1. 四国食肉流通協議会(以下「協議会」という。)は,四国において,肉用の豚(以下「肉豚」という。)を購入して食肉の処理及び販売業を行う者等を会員とし,畜産の発展並びに会員の親睦及び繁栄を図ることを目的として設立された任意団体である(会員数12名)。

2. 協議会会員の肉豚の購入量の合計は,四国における肉豚の総購入量の大部分を占める。

3. 四国地区において,肉豚の生産者等と食肉加工業者等との取引価格は,通常,豚枝肉等の重量に1キログラム当たりの基準単価(以下「建値」という。)を乗じて算定されることが通常である。

4. 四国地区には,豚枝肉の卸売市場が存在しない。

5. この中で,協議会は,会員が肉豚の購入価格を取り決める際に用いる豚枝肉の建値は,卸売市場3市場(大阪市中央卸売市場南港市場(以下「大阪市場」という。),東京都中央卸売市場食肉市場及び群馬県食肉地方卸売市場のこと。)の卸売価格を基準として算定された額(それぞれの卸売市場の卸売価格について,大阪市場50%,東京市場30%及び群馬市場20%割合で加重平均した額)とすることを決定した。この決定前は,四国における建値は,大阪市場における卸売価格を用いて設定されることが多かった。協議会の前記決定は,大阪市場の豚枝肉の卸売価格の変動が激しく,会員の肉豚の購入価格が不安定となっていたことに対処するために行われた。

6. 公取委が本件について審査を開始したところ,協議会は,前記決定を破棄することを決定した。

 

法令の適用

協議会は,「会員の肉豚の購入価格の取決めの際に用いる豚枝肉の建値を決定することにより,四国地区における肉豚の購入分野における競争を実質的に制限していたものであり,これは,同法第8条第1項第1号の規定に違反するものである。」


 

[事例]

北海道ちり紙工業組合に対する件

勧告審決昭和44724

審決集1639

独禁法81

*生産制限,共同販売事業

 

1. 北海道ちり紙工業組合(以下「工業組合」という。)は,北海道においてちり紙の製造業を営む者を組合員とし,組合員の事業活動の調整および組合員のために必要な共同作業を行なうことを目的とする商工組合である(組合員数7名)。

2. 北海道地区において用いられているちり紙のうち,約60%は茶ちり紙が占める。茶ちり紙は同地区において用いられるちり紙のうち,もつとも安価であり,他のちり紙とくらべてかなりの価格差がある。

3. 工業組合の組合員のうち,北海道製紙株式会社を除く6名は,北海道において茶ちり紙を製造するもののすべてにあたる。これら6名は,同地区において消費される茶ちり紙のほとんどすべてを生産している。

4. 工業組合は,昭和3712月から昭和407月まで,茶ちり紙の一手買収販売を実施していたが,非組合員の競争によりこれを継続することが困難になり同事業を廃止した。昭和408月以降は,組合員が工業組合に販売を申し出た茶ちり紙について,工業組合の共同事業としてこれを購入し販売してきた。

5. 業者間の競争は激しく,昭和42年には組合員2社が倒産した。

6. 工業組合は,茶ちり紙の市況維持をはかるため次の決定を行った。

工業組合が販売する茶ちり紙の商標を「どさんこ」とする。

②「どさんこ」の商標を付したあて紙は,工業組合が一括印刷して組合員に実費で支給する

③組合員は,「どさんこ」商標の付された茶ちり紙(以下「どさんこ」という。)を工業組合以外に販売しない

④組合員は,「どさんこ」以外の茶ちり紙を生産しない(ただし,現在大口需要者と契約している組合員には,その契約期間中は,当該契約名柄のあて紙を付した茶ちり紙の出荷を認める)

⑤「どさんこ」1締の規格は,枚数を1000枚,目方を1キログラム,長さ240ミリメートル,巾175ミリメートルないし180ミリメートル,品質を工業組合が実施していた調整規定に定める普通3号と同一とする

⑥工業組合が,組合員から購入する商品「どさんこ」の価格は,160円とする。

7. 工業組合は,また,

⑦組合員から購入する茶ちり紙の数量の限度を定め,

⑧工業組合の販売先である帳合店への販売価格を定めている。

8. 岩手県東和町所在の有限会社成島製紙場(以下「成島製紙」という。)は,かねてから北海道地区に茶ちり紙を販売していた。他の地区から北海道に販売される茶ちり紙のほとんどすべては成島製紙の販売にかかるものである。工業組合は,これが北海道における茶ちり紙の値くずれの原因となることをおそれて,成島製紙から毎月最高35520締の範囲内において茶ちり紙を買い入れることを決定して売買契約を締結した。この際に,工業組合は,成島製紙が(i)北海道向け茶ちり紙を工業組合以外には販売しないこと,(ii)他の販売店から北海道向け直送販売を依頼された場合はこれを拒否することを契約の条件とした。

法の適用

「工業組合は,組合員の共通の利益を増進することを主たる目的とする事業者の結合体であつて,私的独占禁止法第2条第2項に規定する事業者団体に該当するところ,工業組合は,組合員が商品「どさんこ」以外の茶ちり紙を生産することを制限するとともに,組合員の生産した商品「どさんこ」および道外から移入される茶ちり紙を一手に買取り販売し,茶ちり紙の規格,販路,販売数量および販売価格を制限することにより,北海道において消費される茶ちり紙の取引分野における競争を実質的に制限しているものであつて,私的独占禁止法第8条第1項第1号の規定に違反するものである。」

主文

1 北海道ちり紙工業組合は,昭和42126日に行なつた,組合員は「どさんこ」以外の茶ちり紙を生産してはならない旨の決定を破棄しなければならない。

2 同工業組合は,昭和432月に有限会社成島製紙場と締結した売買契約のうち,左の条項を削除しなければならない。

1)同製紙場は,その製造する茶ちり紙を北海道内にて同工業組合以外には販売しないこと

2)同製紙場は,他の販売店から道内向けに直送販売を依頼された時はこれを拒否すること」(主文・以下略)

 


 

[事例]

(社)四日市医師会に対する件

勧告審決平成16727

審決集51471

独禁法81号,独禁法84

*医師会による価格制限・増床等制限

 

1. 社団法人四日市医師会(以下「四日市医師会」という。)は,三重県四日市市,三重県三重郡朝日町,同郡川越町,同郡楠町及び同郡菰野町の区域(以下「四日市地区」という。)に就業所又は住所を有する医師を会員とし,医道の昂揚,医術の発展普及並びに公衆衛生の向上を図り,社会福祉を増進し医師の権利を擁護することを目的として設立された社団法人である(会員数454名)。

2. 四日市医師会会員のうち231名は,病院又は診療所(以下「医療機関」という。)を開設して医業を行っている医師(以下「開業医」という。)である。

3. 四日市医師会は,四日市地区内の市町の依頼等により,会員を学校医等に推薦するなどして会員に各種の健康診査を実施させるほか,会員に行政機関から発せられる通達類等の情報を提供する等業務上必要な便宜を広く供与しており,四日市地区内の開業医のほとんどすべては四日市医師会に加入している。

4. インフルエンザ予防接種については,健康保険法で定める公的医療保険が適用されないが,年齢によっては接種料金の一部が市町村から助成される。

5. 四日市医師会は,インフルエンザワクチンの価格が上昇したことから,前記助成対象とならない者に対するインフルエンザ予防接種を会員が行う場合の料金は1件につき3,800円以上とすることを決定し,この決定を遵守するよう会員に周知した。

6. 四日市医師会の会員は,四日市医師会の前記行為により,おおむね料金を1件につき3,800円以上としていた。

7. 四日市医師会は,医療機関の偏在と会員相互の調整を図ることを目的として,以下の事項を決定し会員に遵守させた。

① 会員が医療機関の開設,診療科目の増設又は病床の増床をしようとする場合には,四日市医師会に申し出て,四日市医師会に設けられた適正配置委員会の助言と指導相談を受ける

② 会員が診療所開設又は診療所について診療科目の増設をしようとする場合には,同一の第1標榜科目を掲げている既存の医療機関との直線距離を500メートル以上とする

③ 会員が病院開設又は病院について診療科目の増設をしようとする場合には,同一の第1標榜科目を掲げている既存の医療機関との直線距離を1,000メートル以上とする

8. 四日市医師会は,会員から医療機関の開設等の申出があった場合は,適正配置委員会及び理事会において審議した上で,当該申出を受理し,又は既存の会員医療機関の同意を得ること,今後増床しないこと等の条件を付して当該申出を受理している。

法令の適用

「四日市医師会は,独占禁止法第2条第2項に規定する事業者団体に該当するところ,会員が行う特定インフルエンザ予防接種の料金を決定することにより,四日市地区内における特定インフルエンザ予防接種の取引分野における競争を実質的に制限しているものであって,これは,同法第8条第1項第1号の規定に違反するものであり,また,会員の行う医療機関の開設,診療科目の増設及び病床の増床を制限することにより,構成事業者の機能又は活動を不当に制限しているものであって,これは,同法第8条第1項第4号の規定に違反するものである。」

 


 

[事例]

 (社)三重県バス協会に対する件

勧告審決平成222

審決集3635

独禁法81号,84

*価格制限,増車申請制限

 

1. 社団法人三重県バス協会(以下「協会」という。)は,三重県の区域を地区とし,地区内において一般乗合旅客自動車輸送事業,一般貸切旅客自動車(以下「貸切バス」という。)運送事業又は特定旅客自動車運送事業(以下これらを「バス事業」という。)を営む者を会員とし,バス事業の経営基盤の強化を図ることなどを目的として設立された社団法人である(会員数11名(うち,貸切バス運送事業を営む者10名))。

2. 会員が保有する貸切バスの車両数は,地区内における貸切バスのほとんどすべてを占める。

3. 協会には,運賃・料金の改正,増減車等需給の調整,運賃・料金の適用方の統一等に関する同委員会の業務を遂行するため貸切バス実務委員会(以下「実務委員会」という。)を置いている。貸切バス運送事業に関する事項については,実務委員会の決定をもって協会の決定としている。

4. 道路運送法により,①貸切バスの運賃及び料金(以下「運賃等」という。)及び②貸切バスの増車等に係る事業計画については,これを変更するときには事業者は認可を受けなければならないこととされている。

5. 実務委員会は,貸切バスの運賃等の低落に対処するため,安値による受注競争の防止策として,貸切バスの大口輸送等(大口向け,イベント向け,高校野球の甲子園向け及びスキー向け各輸送をいう。以下同じ。)については今後最低運賃等を定め実施していくことを決定し,この決定に基づいて甲子園向け輸送及び世界デザイン博覧会向け輸送の最低運賃をそれぞれ定め,これを旅行業者に周知した。協会の会員は,前記決定に基づき,甲子園向け輸送及び世界デザイン博覧会向け輸送の運賃等を旅行業者らと交渉し,収受していた。

6. 実務委員会は,貸切バスの増車に係る事業計画変更の認可申請(以下「増車認可申請」という。)について各会員の増加車両数等について決定し,会員からこれについての同意・確認書を協会に提出させた。

7. 公取委が審査を開始したところ,協会は,前記56の決定を破棄する旨の決定を行い,これを会員に通知した。

法令の適用

協会は,「会員の大口輸送等の貸切バスの運賃等を決定することにより,三重県における大口輸送等の貸切バスの取引分野における競争を実質的に制限していたものであって,これは,同法第8条第11号の規定に違反するものであり,また,会員の貸切バスの増車認可申請を制限することにより,構成事業者の機能又は活動を不当に制限していたものであって,これは,同法第8条第1項第4号の規定に違反するものである。」

主文

1 社団法人三重県バス協会は,次の事項を三重県内の一般消費者及び旅行業者に周知徹底させなければならない。ごの周知徹底方法については,あらかじめ,当委員会の承認を受けなければならない。

1) 昭和631125日に行った大口向け,イベント向け,高校野球の甲子園向け及びスキー向け各輸送の一般貸切旅客自動車の運賃及び料金に関する決定を破棄した旨

2) 平成元年21日に行った高校野球の甲子園向け輸送及び世界デザイン博覧会向け輸送の一般貸切旅客自動車の運賃及び料金に関する決定を破棄した旨

3) 今後,会員の一般貸切旅客自動車の運賃及び料金を決定せず,会員がそれぞれ自主的に決める旨」

・・・

3 同協会は,独占禁止法の規定に違反する行為を繰り返すことのないよう,貸切バス委員会及び貸切バス実務委員会の組織,規約及び運営について改善の措置を速やかに講じなければならない。この措置の内容については,あらかじめ,当委員会の承認を受けなければならない。」(主文・以下略)

 


 

[参考・審決]

羊蹄山麓アスパラガス振興会ほか1名に対する件

勧告審決昭和40623

審決集1346

独禁法81号,84

*一手購入等

 

1. 羊蹄山麓アスパラガス振興会(以下「振興会」という。)は,缶詰用アスパラガス(以下「アスパラガス」という。)の品質向上および増産を図ることを目的として設立された任意団体である。

2. 振興会の会員は,①北海道の羊蹄山麓周辺地区のアスパラガス缶詰製造業者であるクレードル興農株式会社(以下「クレードル」という。),②羊蹄山麓アスパラガス協議会(アスパラガス缶詰製造業者の団体である。以下「協議会」という。)および③北海製缶株式会社(製缶業者である。以下「北海製缶」という。)である。

3. 協議会は,振興会と同一の目的をもって設立された任意団体である。会員は,羊蹄山麓周辺地区のアスパラガス缶詰製造業者6社である。

4. 羊蹄山麓周辺地区で生産されるアスパラガスのほとんど全量は,クレードルおよび協議会会員が購入している。

5. アスパラガスは,短時間に鮮度が低下するため,収穫後すみやかに販売される必要がある。このために,アスパラガスの販売先は,収穫地に近い缶詰工場に限られている。

6. 振興会及び協議会は,アスパラガス取引を安定させるため,次の一連の事項を決定して実行することとしている。

(1) 振興会は,次の①及び②を決定し実施している。

①羊蹄山麓6カ町村において生産されるアスパラガスについては,(i) 振興会が,農業協同組合(当該アスパラガスの生産者の団体である。)を通じて一手に購入し,(ii) これをクレードルおよび協議会に55%及び45%の割合で配分する

羊蹄山麓6カ町村以外の羊蹄山麓周辺地区(以下「特定地区」という。)で生産されるアスパラガスについては,指定した会社のみにこれを購入させる

振興会は,上記決定の実効をはかるため,会員から一定金額の手形を振興会に預託させている。

(2) 協議会は,羊蹄山麓6カ町村において会員が購入するアスパラガスについては,①協議会が,振興会から一手に購入し,②これを定められた配分比率にもとづいて会員に配分することを決定し,実施している。

 

法の適用

「振興会は,羊蹄山麓6カ町村で生産されるアスパラガスを一手に購入し,これを会員であるクレードルおよび協議会に割り当てており,また,特定地区で生産されるアスパラガスの購入先をクレードルおよび協議会会員に割り当てているものであつて,これは羊蹄山麓周辺地区で生産されるアスパラガスの取引分野における競争を実質的に制限しているものであり,私的独占禁止法第8条第1項第1号の規定に違反するものであり,また,協議会は,羊蹄山麓6カ町村において会員が購入するアスパラガスを一手に購入し,これを会員に割り当てているものであつて,これは,構成事業者の機能または活動を不当に制限しているものであり,同法第8条第1項第4号の規定に違反するものである。」

主文

1 羊蹄山麓アスパラガス振興会は,同振興会協定書のうち,左に関する事項を削除しなければならない。

1) 北海道虻田郡喜茂別町,同倶知安町,同ニセコ町,同京極町,同留美都村および同真狩村の6カ町村で生産されるアスパラガスについては,同振興会が,一手に購入し,これをクレードル興農株式会社および羊蹄山麓アスパラガス協議会に配分すること。

2) 同6カ町村の周辺地区で生産されるアスパラガスについては,特定の地区においては特定の会社のみにこれを購入させること。

3) 会員に一定金額の手形を同振興会へ預託させること。」

・・

3 羊蹄山麓アスパラガス協議会は,同協議会協定書のうち,同6カ町村において会員が購入するアスパラガスについては,同協議会が,一手に購入し,これを会員に配分することに関する事項を削除しなければならない。」(主文以下略)

 


 

[参考・審決]

宮城県テレビラジオ電機商業組合に対する件

勧告審決昭和41830

審決集1429

独禁法第81[価格制限]84号,85号(取引拒絶(昭和28年指定1項)

*価格制限,広告等制限,取引先制限

 

1. 宮城県テレビラジオ電機商業組合(以下「宮城電機商業組合」という。)は,宮城県において,家庭用電気器具(以下「家庭電器」という。)の小売業を営む者を組合員とし,組合員の経営の安定を図ること等を目的として設立された商業組合である(組合員数600名)

2. 組合員は,地区内の主要な家庭電器小売業者のほとんどすべてである。

3. 宮城県においては,テレビの修理業を営む者は,ほとんどすべて家庭電器小売業者である。

4. 宮城電機商業組合は,地区内における非組合員の家庭電器の廉売に対処するため,次の事項を決定し,組合員に通知するとともに,家庭電器卸売業者に通知して協力するよう要請した。

①家庭電器卸売業者等に対して,スーパー等家庭電器の廉売を行なつている非組合員には,全商品を出荷しないよう申し入れる

②組合員に前項の申入れに協力しない者の商品を取り扱わせないようにする

③組合員にスーパー等で行なう家庭電器廉売の宣伝において対象とされた商品を店頭に展示させないようにする

5. 前記行為の結果,卸売業者の中には,家庭電器の廉売を行なつている小売業者との取引を中止した者があった。

6. 宮城電機商業組合は,その後,家庭電器の小売および修理業を営む非組合員である仙台テレビサービス株式会社が廉売を行っているとして,卸売業者に対して取引しないよう申入れ,組合員に対して同社のテレビに関して修理委託等の取引をしないよう要請し,取引を中止させた。

6. 宮城電機商業組合は,かねてから,卸売業者等に対し,農業協同組合と直接取引しないよう申し入れてきた。一卸売業者(宮芝電機株式会社)がこれに反して直接取引したところ,宮城電機商業組合は直接取引しないよう強く申入れ,卸売業者は直接取引することができなくなった。

7. 宮城電機商業組合は,組合員の販売する電気冷蔵庫の価格について,新型の電気冷蔵庫については各製造業者の定めた標準小売価格の5パーセント引きを最低販売価格とすることを決定し組合員に実施させている。

8. 宮城電機商業組合は,組合員のテレビの修理料金を決定し組合員に実施させている。

法の適用

「宮城電機商業組合は,組合員に,家庭電器を廉売する非組合員である小売業者と取引する卸売業者と取引させないようにするとともに廉売宣伝の対象となつた家庭電器を店頭に展示させないようにしているものであり,また,宮城電機商業組合は,組合員に仙台テレビサービスと修理委託等の取引をさせないようにしているものであつて,これは,それぞれ,構成事業者の事業活動を不当に制限しているものであり,いずれも私的独占禁止法第8条第1項第4号の規定に違反し,さらに,宮城電機商業組合は,卸売業者に対し,家庭電器を廉売する非組合員である小売業者および農業協同組合とは取引させないようにしているものであり,これは,それぞれ,事業者に昭和28年公正取引委員会告示第11号不公正な取引方法の1に該当する行為をさせるようにしているものであつて,いずれも私的独占禁止法第8条第1項第5号の規定に違反するものである。」

「宮城電機商業組合は,新型電気冷蔵庫の最低小売価格およびテレビの修理料金を決定し,これを組合員に実施されているものであつて,これは,宮城県の電気冷蔵庫の小売およびテレビ修理のそれぞれの取引分野における競争を実質的に制限しているものであり,いずれも私的独占禁止法第8条第1項第1号の規定に違反するものである。」

 


 

[参考・審決]

岡山県被服工業組合に対する件

勧告審決昭和48629

審決集2041

独禁法81号,84

*価格制限

 

1. 岡山県被服工業組合(以下「岡山被服組合」という。)は,岡山県の区域を地区とし,衣料品の製造業を営む者を組合員として設立された商工組合である(組合員数162名)。

2. 岡山被服組合の組合員が出荷する衣料品は,岡山県から出荷される衣料品のほとんどすべてを占める。

3. 我が国における衣料品製造業者の学校制服等の全出荷量のうち,岡山県の衣料品製造業者の出荷量が占める割合は,①男子少年用学校制服およびスポーツ服については,いずれも,50%以上であり,②作業服,婦人少女用学校制服,男子少年用ズボン,男子少年用制服,男子少年用上衣および婦人少女用制服については,いずれも約13%から約27%の間である。

4. 岡山被服組合は,人件費,原材料費等の値上がりに対処するため,組合員の衣料品の販売価格の引上げについて検討し,次の決定を行い,これを組合員に周知させた。

男子少年用学校制服およびスポーツ服の販売価格を現行価格の20%高を目標として引き上げること

作業服,婦人少女用学校制服,男子少年用ズボン,男子少年用制服,男子少年用上衣および婦人少女用制服の販売価格を,現行価格の20%高を目標として引き上げること

販売先に対する値上げ通知文書を作成し,組合員に配布すること

5. 岡山被服組合は,前記決定に基づいて「製品価格の値上げのお願いについて」と題する通知文書を作成し,これを組合員に配布し,組合員をしてその販売先に配布させた。

6. 岡山被服組合の組合員は,前記決定に基づき,おおむね,学校制服等の販売価格を引き上げている。

法令の適用

岡山被服組合は,「組合員の男子少年用学校制服およびスポーツ服の販売価格の引上げを決定しこれを組合員に実施させることにより,わが国の男子少年用学校制服およびスポーツ服製造業者のそれぞれの販売分野における競争を実質的に制限しているものであって,同法第8条第1項第1号の規定に違反し,また,同組合は,組合員の販売する作業服,婦人少女用学校制服,男子少年用ズボン,男子少年用上衣および婦人少女用制服の販売価格の引上げを決定し,これを組合員に実施させることにより,組合員の機能または活動を不当に制限しているものであって,同法第8条第1項第4号の規定に違反するものであって,同法第8条第1項第4号の規定に違反するものである。」

 


 

 

[事例]

 公益社団法人神奈川県LP ガス協会に対する件

排除措置命令平成3039

公正取引委員会ホームページ

83

 

1. 公益社団法人神奈川県LPガス協会(以下「協会」という。)は,液化石油ガス(以下「LPガス」という。)による災害の防止,取引の適正化による消費者利益の保護,LPガスの普及及び啓発並びにこれらの基礎となる人材の資質の向上を図ると同時に神奈川県下のLPガス業界の健全な発展を図ることにより,広く社会公共の福祉の増進に寄与することを目的とする公益社団法人である。協会の正会員は,神奈川県内でLPガス販売事業,LPガスの卸売事業及びLPガスのスタンド事業を行う者であり,協会への入会は,事業者の販売所ごとに行われていた。協会の会員数は,772販売所(614事業者)だった。

2. 協会には社員総会及び理事会が置かれており,入会の基準は社員総会において,入会希望者の入会の可否についての決定は理事会において行われている。

3. 神奈川県の区域内に販売所を設置してLPガス販売事業を行うために下記4の登録を受けているほとんどの事業者は,協会の会員である。

4. 神奈川県内においてLPガス販売事業を行おうとする者は,あらかじめ,液化石油ガスの保安の確保及び取引の適正化に関する法律に基づき,経済産業大臣又は神奈川県知事の登録を受ける必要がある。登録を受けるには,液化石油ガスの保安の確保及び取引の適正化に関する法律施行規則の要件に適合するLPガス損害賠償責任保険の契約を損害保険会社と締結する必要がある。

5. LPガス損害賠償責任保険には,①一般社団法人全国LPガス協会(以下「全国LPガス協会」という。)が損害保険会社と契約している団体保険,②全国農業協同組合連合会が損害保険会社と契約している団体保険及び③個別保険がある。前記の事業者614名のほとんど全てが,①又は②の保険に加入している。①の保険には,全国LPガス協会の会員である協会の会員又は全国LPガス協会の会員しか加入することができない。②の保険には,農業協同組合ないしその関係者しか加入できず,前記4の登録を受けているLPガス販売事業者のうち②の保険の加入資格を満たす者はごく僅かである。また,③の保険については,我が国における損害保険会社51社中,44社は引き受けておらず,残る5社も通常は同個別保険を引き受けないこととしている。

6. 前記4及び5の事情等により,LPガス販売事業者(全農団LP体保険の加入資格を満たす者を除く。)が,上記5①の協会団体保険に加入せずにLPガス販売事業を行うことは困難である。このため,とくに神奈川県の区域内にのみ販売所を設置してLPガス販売事業を行おうとする者にとっては,LPガス販売事業を行う上で協会に入会する必要性は高い。

7. 協会は,入会に関する規程において,「不公正な競争を行うなどのエルピーガス業界秩序を混乱させる行為を行っていないこと,又はそれらの行為を中止してから相当の期間が経過していること」を入会の基準の一つとしていた。

8. 協会は,入会希望者の入会の可否を決定する理事会において,切替営業(既に他のLPガス販売事業者からLPガスの供給を受けている一般消費者等に対する,供給元を自社に切り替えることを目的とした勧誘等の営業活動)を行う入会希望者の入会申込みを否決してきている。入会が否決された者の中には,協会に入会できなかったため,協会団体保険に加入することができなかった者,協会団体保険に入るまでという前提で締結した個別保険の契約更新を拒絶された者等があった。

 

法令の適用

協会は,「入会希望者の入会の可否についての決定に際して,切替営業を行う入会希望者の入会申込みについて否決し,もって当該入会希望者が協会団体保険に加入できなくなることにより,神奈川県内のLPガス販売事業に係る事業分野における現在又は将来の事業者の数を制限しているものであり,この行為は,独占禁止法第8条第3号に該当し,独占禁止法第8条の規定に違反する」。

 


 

 

[事例]

大阪兵庫生コンクリート工業組合に対する件

同意審決昭和5964

審決集317

独禁法83号,85号(取引拒絶(昭和28年指定1項))

 

1. 被審人大阪兵庫生コンクリート工業組合(以下「大阪兵庫生コン工組」という。)は,大阪府及び兵庫県の区域を地区とし,地区内において生コンクリート(以下「生コン」という。)の製造業を営む者を組合員として,中小企業団体の組織に関する法律に基づいて設立された商工組合である(組合員数129名)。

2. 被審人の組合員の生コン販売量の合計は,地区内の生コンの総販売量の大部分を占める。

3. 前記地区には,被審人の組合員である生コン製造業者を組合員として生コンの共同販売事業を行う協同組合が12ある。被審人は,これら12の協同組合を大阪兵庫生コン工組の下部組織として取り扱っている。

4. 三菱鉱業セメント株式会社,徳山曹達株式会社,大阪セメント株式会社,宇部興産株式会社,小野田セメント株式会社,住友セメント株式会社,日本セメント株式会社,麻生セメント株式会社,新日本製鉄化学鉱業株式会社及び敦賀セメント株式会社の10社(以下「セメント10社」という。)は,大阪府及び兵庫県内において生コン製造業者が使用するセメントのほとんどすべてを供給している。セメント10社は,通常,販売業者を通じて生コン製造業者等に対しセメントを供給している。

5. 近畿地区には,大阪兵庫生コン工組ほか生コンの工業組合が複数あり,これら生コン工組は,全国生コンクリート工業組合連合会近畿地区本部の構成員となっている。

6. 大阪兵庫生コン工組ほか生コン工組は,全国生コンクリート工業組合連合会近畿地区本部が開催した会合において,これら生コン工組の地区内で問題になっていた非組合員による生コン製造設備新増設の問題について協議し,この結果を受けて,セメント10社の支店長らを招致して,非組合員による生コン製造設備新増設に対してセメントの供給をしないなどの方法により阻止することについて協力を要請した。

7. 大阪兵庫生コン工組は,非組合員による生コン製造設備新増設について検討し,同工組の地区内の協同組合又は同工組から関係のセメント製造業者にセメントの供給をしないよう要請するなどの方法によりこれを阻止する方針を決定した。そして,この決定後,大阪兵庫生コン工組は,機会あるごとに,セメント10社に対して右方針への協力を要請している。

8. 大阪兵庫生コン工組は,その後,阻止の徹底をはかるために下記の通り決定し, セメント10社に対して非組合員による生コン製造設備新増設の阻止について引き続き協力するよう要請し,セメント10社はこれを応諾した。

 

ドライ生コン製造設備の新増設も阻止の対象とする。

生コン製造設備が新増設された場合には,これにセメントを供給しているセメント製造業者に当該設備を買い取らせ又は原状に復させる。

セメント製造業者が上記②の措置を実行しないときは,その系列の生コン製造業者の工場を構造改善計画に基づく廃棄の対象とし,又は同工組の地区内の協同組合をして当該セメント製造業者の系列の生コン製造業者について生コンの共同販売事業における出荷割当数量を削減する措置を採らせる。

9. 前記8の決定後,大阪兵庫生コン工組は,次の措置をとった。

株式会社竹中工務店が,兵庫コンクリート工業株式会社から神戸市において生コンエ場の建設工事について請け負ったところ,大阪兵庫生コン工組は株式会社竹中工務店に対してその中止を要請し,要請に応じないときは以後同社が生コンの供給を受けられないようにする旨を示唆した。このため,同社は工事を中止した。

兵庫県姫路市の北浦商事株式会社(以下「北浦商事」という。)が,岡山県相生市に新設された大西建材株式会社(以下「大西建材」という。)の生コン工場にセメントを供給していたこと等に対する措置として,大阪庫生コン工組は,地区内の関係協同組合らと協議の上で,これらの協同組合をして同社から生コンの引き合いを拒否させた。この措置は,北浦商事が同工組の生コン製造設備新増設の阻止の方針に協力する旨を申し出るまで行われた。

大西建材・相生工場には,住友セメント株式会社がセメントを供給していた。大阪兵庫生コン工組は,住友セメント株式会社に大西建材・相生工場を買い取るよう要請した。同社がこれを実効しなかったところから,大西建材に対し,(イ)同社の相生工場の生コンの生産量及び西兵庫生コンクリート協同組合の共同販売事業における同社山崎工場の出荷割当数量をそれぞれ半減すること,(ロ)北浦商事に対し,大西建材相生工場にセメントの納入をしないことを約束させた。

10. 大阪兵庫生コン工組の前記の行為により,同工組の地区内で生コン製造設備を新増設した者は,当該設備により生コンの製造販売を行うことを断念し,又は,それを行うことが著しく困難な状祝にある。

法令の適用

「大阪兵庫生コン工組は,独占禁止法第2条第2項に規定する事業者団体に該当するところ,非組合員による生コン製造設備の新増設を阻止することにより,大阪府及び兵庫県における生コン製造業の事業分野における事業者の数を制限しているものであって,これは,同法第8条第1項第3号の規定に違反するものであり,また,セメント製造業者又はセメント販売業者をして,不当に,生コン製造設備の新増設をした事業者とのセメントの取引を拒絶する行為をさせるようにしているものであって,これは,事業者に不公正な取引方法(昭和57年公正取引委員会告示第15号)の第2項に該当する行為をさせるようにしているものであり,これは,事業者に不公正な取引方法(昭和28年公正取引委員会告示第11号)の1に該当する行為をさせるようにしているものであり,同法第8条第1項第5号の規定に違反するものである。」

 


 

[事例]

滋賀県生コンクリート工業組合に対する件

勧告審決平成51118

審決集40171

独禁法83号,85号(一般指定11項)

 

1. 滋賀県生コンクリート工業組合(以下「滋賀生コン工組」という。)は,滋賀県の区域を地区とし,地区内において生コンクリート(以下「生コン」という。)の製造業を営む者を組合員として,中小企業団体の組織に関する法律に基づいて設立された商工組合である。

2. 滋賀生コン工組の組合員(37名)の生コン販売量の合計は,地区内の生コンの総販売量の大部分を占めている。

3. 地区内においては,中小企業等協同組合法に基づいて,大津生コンクリート協同組合(以下「大津生コン協組」という。),湖東生コンクリート協同組合(以下「湖東生コン協組」という。)及び湖北生コンクリート協同組合(以下「湖北生コン協組」という。)(以下,これら3協同組合を「生コン協組」という。)がある。

4. 生コン協組は,組合員の製造する生コンの全量について,生コンの共同販売事業(以下「共販事業」という。)を実施している。生コン協組は,それぞれ,滋賀県南西部生コン卸商協同組合,湖東生コンクリート販売協同組合又は滋賀県北部生コンクリート販売協同組合(これら3協同組合を以下「卸協組」という。)を通じて,滋賀県建設業協同組合(以下「建設協組」という。)に販売量の半ばを供給している。

5. 建設協組の組合員である建設業者は,建設協組を通じて生コンを共同購入している。

6. 生コン協組は,建設協組の組合員に販売する場合には,割戻しと称して事実上の値引きを行うことにより,建設協組の組合員以外の一般の建設業者に販売する場合(以下「一般扱い」という。)とで差を設けている。

7. 滋賀生コン工組の組合員のすべては,いずれかの生コン協組に属している。

8. 滋賀生コン工組と生コン協組は密接な関係にある。生コン協組の行う共販事業について,滋賀生コン工組が指導,調整を行っている。

9. 滋賀生コン工組は,生コン協組の共販事業を維持,強化すること等を目的として,滋賀生コン工組の非組合員(以下「非組合員」という。)の生コンの製造設備を買上げ廃棄し,又は新増設の計画についてはその中止を求める旨を同組合の方針として決定し,この方針を次のように実施している。

①大津生コン協組及び湖東生コン協組の地区内において生コンの製造設備を有し生コンの製造販売を行っていた非組合員6名の製造設備について買上げ廃棄するとともに,買上げに際し,今後生コンの製造販売を行ってはならない旨の条件を付した。

②大津生コン協組の地区内において建設協組の組合員である建設業者が生コン製造設備を共同して設置し,生コンの製造販売を行おうとした計画2件について,滋賀生コン工組としてその計画の中止を求めることを決定するとともに,代表理事等を交渉担当者として繰り返し中止を求め,もって同計画を中止させた。

③非組合員が存在しない湖北生コン協組の地区内に非組合員が新たに生コン製造設備を設置し,生コンの製造販売を行おうとして土地の購入を契約したところ,滋賀生コン工組は,この非組合員の同地区内における生コン製造業への進出を防止するため,土地所有者に代わって解約金を負担するなどして同契約を解約させた上,自ら同土地を買い上げた。

10. 滋賀生コン工組は,建設協組の組合員である建設業者が非組合員からも生コンを購入していることに対処するため,前記6の建設協組の組合員に対する割戻しは全量生コン協組から購入することが条件であるとし,非組合員からも生コンを購入している建設協組の組合員については1立方メートル当たり1,200円の割戻しを行わず,一般扱いとすることを決定し実施することにより,建設協組の組合員が非組合員の生コンを購入しないようにさせている。

法令の適用

「滋賀生コン工組は,独占禁止法第2条第2項に規定する事業者団体に該当するところ,非組合員の生コン製造設備を買上げ廃棄するとともに買上げに際し今後生コンの製造販売を行ってはならない旨の条件を付し,又は非組合員による生コン製造設備の設置を中止させるなどにより,滋賀県の生コン製造業の事業分野における事業者の数を制限しているものであって,これは同法第8条第1項第3号の規定に違反するものであり,また,滋賀生コン工組は,生コン協組をして,不当に,建設協組の組合員に対し,生コン協組の競争者と生コンの取引をしないことを条件として当該相手方と取引させるようにしているものであって,これは,事業者に不公正な取引方法(昭和57年公正取引委員会告示第15号)の第11項に該当する行為をさせるようにしているものであり,同法第8条第1項第5号の規定に違反するものである。」

 


 

[事例]

滋賀県生コンクリート工業組合に対する件

審判審決昭和58930

審決集3050

独禁法83号,85号(一般指定2項前段)

 

1.被審人滋賀県生コンクリート工業組合(以下「滋賀県生コン工組」という。)は,滋賀県地区内において生コンクリート(以下「生コン」という。)の製造業を営む者を組合員として,中小企業団体の組織に関する法律に基づいて設立された商工組合である。

2. 滋賀県生コン工組の組合員(31名)の生コン販売量の合計は,地区内の生コンの総販売量のほとんどすべてを占めている。

3.住友セメント株式会社,大阪セメント株式会社,小野田セメント株式会社,敦賀セメント株式会社,三菱鉱業セメント株式会社,日本セメント株式会社及び宇部興産株式会社の7社(以下「セメント7社」という。)は,滋賀県において生コン製造業者が使用するセメントのほとんどすべてを供給している。

4. セメント7社は,通常,販売業者を通じて生コン製造業者等に対しセメントを供給している。

5. 滋賀生コン工組は,生コン製造設備の新増設の抑止を図っており,建設業者の団体によって進められていた滋賀県内における新設計画等,地区内の非組合員による生コン製造設備の新増設の動きを阻止することを決定した。そして,セメント7社中の主要なセメント製造業者らに対して阻止について協力を要請した。

6. 滋賀生コン工組は,三重県上野市所在の生コン製造業者が同工組の地区内に生コンを販売していること(以下「越境販売」という。)を阻止するための措置を講ずることとし,セメント7社中の主要なセメント製造業者らに対して,越境販売を行う生コン製造業者にセメントを供給していたセメント製造業者の名を挙げて,越境販売をやめさせるためにセメントの供給を停止することを要請した。

7. 滋賀生コン工組は,その後,新たに判明した非組合員による近江八幡市における生コン製造設備の新設計画も阻止の対象とすることを決定し,セメント7社にこれらに対してセメントを供給しないよう要請することとした。

8.滋賀生コン工組の前記の行為により,①同工組の地区内において,生コン製造設備の新設を断念した者があり,また,新増設をした者は,当該設備により生コンの製造販売を行うことを断念し,又はそれを行うことが著しく困難な状況にあり,②三重県上野市所在の生コン製造業者は,同工組の地区内への越境販売を取り止めている。

法令の適用

「前記事実によれば,滋賀生コン工組は,独占禁止法第2条第2項に規定する事業者団体に該当するところ,非組合員による生コン製造設備の新増設を阻止することにより,滋賀県の生コン製造業の事業分野における事業者の数を制限しているものであって,これは,同法第8条第1項第3号の規定に違反するものであり,また,セメント製造業者をして,不当に,事業者にセメントの取引を拒絶するようにさせているものであって,これは,セメント製造業者に不公正な取引方法(昭和57年公正取引委員会告示第15号)の第2項に該当する行為をさせるようにしているものであり,同法第8条第1項第5号の規定に違反するものである。」

 


 

[事例]

仙台港輸入木材調整協議会に対する件

勧告審決平成3116

審決集3754

独禁法83号,85号(291号ロ)

 

1. 仙台港輸入木材調整協議会(以下「仙台港調整会」という。)は,仙台港における保税上屋等の港湾施設の使用調整を図ることを主たる目的として設立された任意団体である。

2. 仙台港調整会の会員は,①宮城県塩釜港仙台港区(以下「仙台港」という。)において木材輸入業を営む者(以下「木材輸入業者」という。),②港湾運送事業を営む者(以下「港湾運送事業者」という。),③輸入木材のくん蒸事業を営む者等である(会員数計13名(木材輸入業者7名,港湾運送事業者2名,その他4名))。

3. 仙台港調整会の会員である木材輸入業者7名は,宮城県輸入木材協同組合(以下「輸入協組」という。)を組織している。

4. 外国から輸入する貨物は,原則として,輸入が許可されるまでは,大蔵大臣又は税関長の指定又は許可を経て設置された「保税地域」以外の場所に置くことはできない。

5.仙台港内には,一般輸出入貨物用保税上屋(以下「上屋」という。)として設置された土地がある。仙台港における輸入木材の保税地域として利用できるものは,右上屋のみである。ただし,同港において木材の輸入を行おうとするものは,宮城県所有の土地を利用することにより前記4の保税地域制度の例外である「他所蔵置制度」を利用することもできる。

6. 上屋は,昭和5441日,宮城県により設置されたものであった。仙台港調整会は,同上屋の使用調整を,同県の委託を受けて行ってきた。宮城県は,その後,輸入協組に,前記上屋の土地のほとんどすべてについて使用許可を与え,これを受けて,輸入協組は,平成元年41日にこの土地を輸入木材用保税上屋として改めて設置した。仙台港調整会は,これ以降も,これ以降も同上屋の使用調整を引き続き行ってきた。

7. 仙台港において荷役業務を行う港湾運送事業者は,仙台港調整会の会員である港湾運送事業者2社のみである。これら2社の荷役業務によらなければ,同港において木材を輸入することは事実上困難である。

9. 仙台港調整会は,①非会員から保税上屋の利用の申込みがあってもこれを拒否するとともに,②木材輸入業者については仙台港調整会の会員となる資格を輸入協組の組合員に限定することにより木材輸入業者の同調整会への新親加入を事実上制限している。

10. 仙台港調整会は,非会員が木材の輸入を仙台港において行うことを阻止するため,会員である港湾運送事業者2社に対し,非会員の輸入木材の荷役業務を行わないよう要請し,これに違反した港湾運送事業者に対しては,違反が判明した時から3カ月の間会員である木材輸入業者の荷役業務を依頼しないことを決定した。右港湾運送事業者2社は,右制裁措置が課されることを懸念し,非会員から荷役業務を依頼されてもその依頼に応じていない。このために,非会員は,他所蔵置の制度も利用することができていない。

11. 非会員は,仙台港調整会の前記行為により,仙台港において木材の輸入を行うことが困難な状況にある。

法令の適用

仙台港調整会は「仙台港での木材の輸入販売に係る事業分野における事業者の数を制限しているものであって,これは,同法第8条第1項第3号の規定に違反するものであり,また,前記事実1及び22)によれば,仙台港調整会は,正当な理由がないのに,会員である木材輸入業者に対し,共同して港湾運送事業者に非会員との輸入木材の荷役に関する取引を拒絶させる行為を行わせているものであって,これは,事業者に不公正な取引方法(昭和57年公正取引委員会告示第15号)の第1項第2号に該当する行為をさせるようにしているものであり,同法第8条第1項第5号の規定に違反するものである。」

 


 

[参考・審決]

山形海産物仲買人協同組合に対する件

勧告審決昭和3826

審決集1154

独禁法83号,85号(取引拒絶(昭和28年指定1項))

独禁法22

 

1.  山形海産物仲買人協同組合(以下「組合」という。)は,山形市,上山市,天童市および山形県東村山郡を地区とし,地区内において水産物の小売を業とする者を組合員として,中小企業等協同組合法に基づいて設立された事業協同組合である。

2.  組合の地区内における水産物の卸売市場は,山形魚市場のみである。

3.  山形魚市場内においては,水産物卸売業者11名が水産物小売業者に対して卸売を行っている。

4. 組合の地区内の水産物小売業者にとって,他の水産物卸売市場からの仕入は不便であって,これら水産物小売業者は山形魚市場において仕入れなければ通常の営業が困難な状態にある。

5. 組合は,組合員の資格取得について,①組合員により推薦された者,または,組合員の持分を譲り受けた者でなければならず,②加入しようとする者の開店場所は,地元組合員全員の承認を得なければならないと定めている。渡辺甚一郎が組合に加入を申し込んだところ,組合は,地元組合員が新規業者進出を嫌って同人の開業を承認しないことを理由に,これを拒否した。

6. 組合は,組合員の仕入先である前記卸売業者11名に対して,組合員以外のものに水産物(ただし,びん詰およびかん詰類を除く。)を販売しないように申し入れた。この結果,卸売業者11名は,非組合員2社(山形産業株式会社及び渡辺甚一郎)からの取引の申込を拒否し,組合員以外の者には一切販売していない。

7. 山形県魚市場において水産物を仕入れるには,条例により,買受人としての県知事の登録が必要とされている。この登録申請をするには,事業者は,山形魚市場の開設者(株式会社山形魚市場)との間で市場出入契約を締結する必要がある。組合は,株式会社山形魚市場に非組合員との間で市場出入契約を締結しないよう申入れ,これを実行させている。

法の適用

1,「組合は,水産物小売業者の事業者としての共通の利益を増進することを主たる目的とする結合体で,私的独占禁止法第2条第2項にいう事業団体と認められるところ,前記2の事実によれば,組合は,組合への加入を制限しており,したがつて,組合は,協組法にもとづいて設立された事業協同組合ではあるが,私的独占禁止法第24条第2号の要件を欠き,同法の適用を受けるものである。」

2,「山形魚市場において水産物を仕入れなければ,組合の地区内においては,水産物小売業を営むことが困難な状態にあるにもかかわらず,組合は,同魚市場における水産物の卸売業者全員に対して,非組合員に水産物を供給しないように申し入れこれを実行させているものであつて,これは,事業者に昭和28年公正取引委員会告示第11号の1に該当する行為をさせるようにしているものであり,私的独占禁止法第8条第1項第5号の規定に違反するものである。

3,「組合は,組合への加入を制限し,かつ非組合員が水産物の小売業を営めないようにしており,これは,山形市,上田市,天童市および山形県東村山郡の水産物小売の事業分野における現在および将来の事業者数を制限しているものであつて,私的独占禁止法第8条第1項第3号の規定に違反するものである。」

 


 

[事例]

東京湾水先区水先人会に対する件 

排除措置命令平成27415

審決集未登載

独禁法84

 

1. 東京湾水先区水先人会は,会員の品位の保持及び水先業務の適正かつ円滑な遂行に資するため,合同事務所の設置及び運営等を行うことを目的として水先法の規定に基づき設立された法人である。

2. 東京湾水先区水先人会の会員は水先法に基づき東京湾水先区に係る免許を受けている水先人であり,会員数は172名である。水先法は,水先人に免許に係る水先区に設立されている水先人会に入会することを義務付けており,東京湾水先区において水先業務に従事する全ての水先人が東京湾水先区水先人会の会員である。

3. 水先は,船舶の運航会社,その代理店等により利用されている。

4. 東京湾水先区水先人会には,総会及び理事会がおかれているが,総会及び理事会の決議の対象とされていない会務執行に関する事項については常勤役員会において決定している。

5. 水先人は,水先法上,水先料の上限を定めて国土交通大臣の認可を受けること及び認可を受けた上限の範囲内で定める水先料をあらかじめ同大臣に届け出ることを義務付けられている。会員は,水先をする船舶の運航区分,総トン数等に応じて水先料を定め届け出ている。

6. 東京湾水先区水先人会は,同会が国土交通大臣から認可を受けた会則において,同会が設置し運営する合同事務所を経由せずに会員が水先を引き受けてはならないこととしている。

7. 東京湾水先区水先人会は,同会の定めた引受事務要領に基づいて,合同事務所において,全ての水先の利用者からの水先の求めを一元的に受け付け,輪番制により配乗してきていた。

8. この中で,水先の利用者は,東京湾水先区水先人会に対して,水先を求める際に水先人について一定の条件を付すこと(以下,このことを「水先に係る指名」という。)を受け付けるよう求めた。同会は,水先に係る指名をできるだけ受け付けない方向で検討を行い,同会総会において,①会員が当直表上の休暇中でないこと,②1日ごとに水先に係る指名を受け付ける数について同会が定める上限を超えないこと等の指名を受け付ける条件(以下,「指名受付条件」という。)を定め,この指名受付条件を前記6の引受事務要領に加えることを決定した。同会は,この決定を実施することにより,水先の利用者が,水先に係る指名により水先を利用することを困難にしている。

9. 東京湾水先区水先人会常勤役員会は,さらにその後,③水先の利用者が水先に係る指名を行う際に,当該指名を行う水先の利用者と事前に契約を締結した複数の水先人から成るグループに属している者から指名を行うこと(以下,このような指名を「グループ指名」という。)については,同会が指定した会員から成るグループに属していることを条件としてこれを受け付けること,他方で,④特定の水先人を指名する個人指名については,これを受け付けないことを決定し,このとおり実施した。なお,グループ指名については,会員の殆どについて,各会員が特定の一グループに属するようにした上で,上記③の条件により指名を受け付け,輪番制により配乗している。

10. 東京湾水先区水先人会常勤役員会は,水先をする船舶により水先料が異なることを考慮し,輪番制による配乗のために会員間で収入上格差が生じることがないよう,各会員に代わって水先の利用者から収受した水先料をプールして,頭割りを基本とする計算方法により各会員に配分すること(以下「水先料の調整配分」という。)を決定し,このとおり水先料の調整配分を実施している。

法令の適用

東京湾水先区水先人会は,「構成事業者の機能又は活動を不当に制限しているものであって,これらの行為は」,独占禁止法第8条第4号に該当する。

主文

1 東京湾水先区水先人会は,各会員が自らの判断により水先の利用者と契約して水先を引き受けることを制限している行為及び各会員に代わって水先の利用者から収受した水先料をプールし,頭割りを基本とする計算方法により各会員に配分している行為を取りやめなければならない。」

2. (以下略)

 

[参考]

伊勢三河湾水先区水先人会に対する件 

排除措置命令平成27415

審決集未登載

独禁法84

 


 

 

[事例]

(社)日本建築家協会に対する件

審判審決昭和54919

審決集2625

 独禁法84

*報酬基準決定

 

1. 被審人(社団法人日本建築家協会)は,一級建築士としての実務経験が5年以上であることなど一定の要件を満たす者を構成員たる正会員とし,正会員の業務の改善と社会的地位の向上に努め,もって建築文化の発展を図ることを目的とする団体である。

2. 被審人の正会員1,156名中,

170名は,個人で建築士事務所を開設して設計,工事監理等を業とするものであり,

720名の者は,会社組織の建築士事務所の代表者たる地位にあり,これら建築士事務所の利益のためにする行為を行うものであり,

その他の者の大部分は,建築士事務所の役員又は従業員である。

3. 被審人は,設計,工事監理等の業務に関し,報酬規程において報酬の基準を定め,正会員に周知させている。

4. 被審人は,社団法人日本建築学会及び社団法人日本建築士会連合会とともに設計競技(建築主が2以上の建築士にそれぞれ建築物の設計をさせることによりその設計者を選定することをいう。)の基準について規準を定め,この中で設計競技における報酬の算定基準及び正会員に対する設計競技への参加を制限する規定を設けて,これらを正会員に周知させている。

5. 被審人は,その後,34の行為を取りやめている。

法令の適用

「前記事実によれば,[4]の正会員は,独占禁止法第2条第1項前段に規定する事業者に該当し,[4]の正会員は,同条第2項又は同法第3章の規定の適用については同条第1項後段の規定により事業者とみなされる者である。

よって被審人は,2以上の事業者の結合体であり,かつ」「これら正会員の事業者としての共通の利益を増進することを主たる目的とするものであるから,独占禁止法第2条第2項に規定する事業者団体に該当するところ,その正会員に係る設計,工事監理等の業務に関し,報酬規程において報酬の基準を,競技規準において設計競技への参加の制限を,また,憲章において報酬上の競争の禁止及び設計競技への参加の制限をそれぞれ定め,これらを正会員の遵守事項としていることにより,被審人の構成事業者たる正会員の機能又は活動を不当に制限しているものであって,これは,同法第8条第1項第4号の規定に違反するものであるが,第141)の事実によれば,当該行為はいずれも既になくなっているものと認められる。」


 

[事例]

社団法人滋賀県薬剤師会に対する件

排除措置命令平成19618

審決集54474

独禁法84

*価格広告制限

 

1. 社団法人滋賀県薬剤師会(以下「滋賀県薬剤師会」という。)は,公衆の厚生福祉の増進に寄与するため,薬剤師の倫理及び学術的水準を高め,薬学及び薬業の進歩発達を図ることを目的として設立された社団法人であり,滋賀県内に就業所又は住所を有する薬剤師を正会員とする。

2. 滋賀県内に所在する薬局又は薬店の管理薬剤師の大部分は,当該薬局又は薬店における医薬品の販売を円滑に行うために,滋賀県薬剤師会に加入している。

3. 滋賀県内において医薬品の販売事業を営む薬局開設者であって薬剤師でない者は,自己の代表者若しくは役員の地位にある管理薬剤師又は自己が雇用する管理薬剤師を滋賀県薬剤師会に加入させている。これら管理薬剤師は,自らが滋賀県薬剤師会の正会員であることにより受ける便宜を当該薬局開設者等の利益のために供している。

4. 滋賀県内で医薬品販売事業を営む者には,次の者が含まれることになる。

①社団法人滋賀県薬剤師会の正会員(以下「正会員」という。)である管理薬剤師であって,個人で自ら業として医薬品の販売を行う薬局開設者等」

②正会員である管理薬剤師が,代表者又は役員である地位にある法人の薬局開設者等

③正会員である管理薬剤師を雇用する法人又は個人の薬局開設者等

5. 前記4に応じて,滋賀県薬剤師会の正会員には次の者がある。

①前記4①に該当する者

②前記4②に該当する者の代表者又は役員である地位にある者

③前記4③に該当する者に雇用される者

6. 滋賀県内では,医薬品のほかに化粧品,日用雑貨品等を併せて総合的に販売する量販店(以下「特定量販店」という。)が,処方箋なしで購入することのできる一般用医薬品について積極的な広告活動を行っている。

7. 滋賀県薬剤師会は,新聞折り込み広告に一般用医薬品の販売価格を表示することは,価格競争を促進し,医薬品の過量消費と薬局開設者等の経営の悪化を招き望ましくないと考え,医薬品販売業者に上記行為を行わせないようにさせるために次の行為を行っている。

①「チラシ広告検討会」と称する会合を開催して,主な特定量販店の管理薬剤師の出席を求め,この会合に出席した者を通じて当該特定量販店に対して新聞折り込み広告に一般用医薬品の販売価格を表示しないことを要請して,この要請を遵守させ,

チラシ広告検討会への出席を求めなかった特定量販店に対し,前記の旨を周知させ,

①を正会員に対して周知する。

8. 滋賀県薬剤師会は, 特定量販店が新聞折り込み広告に一般用医薬品の販売価格を表示しているとの情報に接したときは,当該特定量販店に対して改めて前記要請の遵守をもとめて,これに従わせている。

9. 特定医薬品販売業者は,滋賀県薬剤師会の上記行為により,おおむね,新聞折り込み広告に一般用医薬品の販売価格を表示しなくなっている。

法令の適用

前記5①の正会員は,独占禁止法第2条第1項前段に規定する事業者に該当する。前記5②ないし④の正会員は,業として医薬品の販売を行う法人又は個人である薬局開設者等の利益のためにする行為を行うものであり,同条第2項の適用については,同条第1項後段の規定により事業者とみなされる。

よって,滋賀県薬剤師会は,前記5①ないし④の正会員である事業者の結合体である。かつ,前記1によれば,事業者としての共通の利益を増進することを主たる目的とするものであるから,独占禁止法第2条第2項に規定する事業者団体に該当する。

前記5②ないし④の管理薬剤師は,自ら事業を行っていない。業として医薬品の販売を行っているのは,前記4②ないし④の薬局開設者等であり,かつ,前記6②ないし④の管理薬剤師は自らが滋賀県薬剤師会の正会員であることにより受ける便宜を当該薬局開設者等の利益のために供しているものであるから,独占禁止法第8条第1項第4号の「構成事業者」に該当するのは前記4②ないし④の医薬品販売業者である。

前記の事実によれば「滋賀県薬剤師会は,特定医薬品販売業者に対し,新聞折り込み広告に一般用医薬品の販売価格を表示しないようにさせることにより,構成事業者の機能又は活動を不当に制限しているものであって,これは,独占禁止法第8条第1項第4号の規定に違反するものである。」


 

[事例]

日本人工臓器工業協会に対する件

勧告審決昭和59126

審決集3171

独禁法84

*価格に関する交渉等の制限

 

1. 日本人工臓器工業協会(以下「工臓協」という。)は,人工臓器の製造業を営む者を正会員とし,同製品の販売業又は輸入販売を営む者を準会員とし,人工臓器業界の健全発展を図ることを目的として設立された任意団体である(会員数27名)。

2. 工臓協の会員15名は,人工腎臓用ダイアライザー(以下「ダイアライザー」という。)の製造業又は販売業若しくは輸入販売業を営む。

3. 医療機関がダイアライザーを使用した際に保険者に対し請求する価格は,厚生大臣告示に定められている(以下,この定められた価格を「告示価格」という。)。医療機関が購入するダイアライザーの価格は,通常,告示で定められている価格を下回っている。告示価格と医療機関の購入価格との差は,医療機関の収入となる。

4. 工臓協は,ダイアライザーの告示価格の引下げへの対策として,開係会員は,告示価格の引下げ分については極力医療機関に吸収してもらうこととし,次の措置を取ることを決定し,関係会員に周知し実施させている。

①特に国公立又は準公立の医療機関については納入価格の引下げの要求には原則として応じない

②納入先医療機関ごとの納入比率を拡大するような行動をとらない

③交渉力の強い医療機関については,関係会員の間で連絡を取り合った上で,納入交渉に臨む

法令の適用

工臓協は,「医療機関とのダイアライザーの納入交渉に係る会員の自由な事業活動を制限することにより,構成事業者の機能又は活動を不当に制限しているものであって,これは,同法第8条第1項第4号の規定に違反するものである。」


 

[事例]

(社)浜北市医師会に対する件

勧告審決平成11125

審決集45185

 独禁法84

*広告制限

 

1. 社団法人浜北市医師会(以下「浜北市医師会」という。)は,静岡県浜北市地区内に就業所又は住所を有する医師を会員とし,医道の高揚,医学医術の発達・普及及び公衆衛生の向上を図り,社会福祉の増進に寄与することを目的として設立された社団法人である。

2. 浜北市医師会の大半は,病院又は診療所(以下「医療機関」という。)の開設者又は管理者として医業を行っている医師である。

3. 浜北市医師会は,医療機関相互の広告活動による患者の争奪を防止する等のため,次の内容の広告自粛規程を定め会員に遵守させている。

①看板以外の広告については,(i)その媒体を原則として定期刊行物の新聞,雑誌及びチラシのみに限定する,(ii)バス,電車等の車内において行う広告等を禁止し,(iii) 広告する時期は医療機関の新規開業,移転等の場合に限る。

②看板については,(i) 自己の医療機関の所在地点から1,000メートルを超える場所に設置することを禁止し,(ii) 1,000メートル以内に設置する看板の設置数は10箇所以内とする。

③健康相談については,広告を行わない。

法令の適用

「浜北市医師会は,独占禁止法第2条第2項に規定する事業者団体に該当するところ,会員に対して広告自粛規程を遵守させることにより,会員の広告活動を制限しているものであり,これは,構成事業者の機能又は活動を不当に制限しているものであって,独占禁止法第81項第4号の規定に違反するものである。」

 


 

[事例]

三重県社会保険労務士会に対する件

勧告審決平成16712

審決集51468

独禁法84

*広告・顧客争奪制限

 

1. 三重県社会保険労務士会(以下「三重県社労士会」という。)は,三重県の区域を地区とし,地区内に事務所又は勤務する事業所を有する社会保険労務士を会員とし,会員の品位を保持し,その資質の向上と業務の改善進歩を図ることを目的に,社会保険労務士法の規定に基づき設立された法人である。

2. 三重県社労士会の会員数は, 275名である。このうち189名の者は,自ら事務所を開設して業務を行っている。

3. 三重県社労士会は,会員のダイレクトメール,ファクシミリ等による広告活動を制限すること及び会員に他の会員の顧客を獲得しないように求めている。

4. 三重県社労士会の委員会(調査監察委員会)は,ファクシミリによる広告活動を行った会員及び他の会員の顧客を獲得したとして申出のあった会員について審議し,当該会員に対してこれら活動を行わないよう指導した。そして,このような指導を行ったことを会報を掲載し周知させた。

法令の適用

「三重県社労士会は,独占禁止法第2条第2項に規定する事業者団体に該当するところ,会員の広告活動及び会員が顧客を獲得するための活動を制限しているものであり,これは,構成事業者の機能又は活動を不当に制限しているものであって,独占禁止法第8条第1項第4号の規定に違反するものである。」

 


 

[事例]

全国レコード商組合連合会ほか9名に対する件

勧告審決昭和541127

審決集2650

独禁法84

*割引券配布制限

 

1. 全国レコード商組合連合会(以下「全レ連」という。)は,レコード及び音楽テープ(以下「レコード等」という。)の販売業を営む者等をもって組織する団体を会員とする連合体であり,会員及び会員構成員(以下「組合員」という。)の福利の増進及び親ぼくを図り,業界の発展に寄与することを目的として設立された任意団体である(会員数69名,組合員数2,602名)。

2.全レ連の組合員のレコード等の販売額の合計は,我が国におけるレコード等の総販売額の過半を占める。

3. 三重県レコード商組合,新潟県レコード商組合,北陸レコード商組合,全国レコード商組合連合会関西支部,北九州レコード商組合,全国レコード商組合連合会四国支部,大分県レコード商組合,全国レコード商組合連合会北海道支部,福岡レコード商組合は,それぞれ,全レ連の会員又は支部であり,各々の地区においてレコード等の販売業を営む者又はこれにより構成される組合等により構成される。所属する者の各地域におけるレコード等の販売額の合計は,各地域におけるレコード等の総販売額の大部分を占める。

4. レコード等の業界においては,小売業者の多くが,レコード等の購入者に対してサービス券(レコードその他の物品と交換し,又はその購入代金に充当できることを約するもの。スタンプ方式,会員証方式その他これらに類する方式によるものを含む。)を提供するようになっている。

5. 全レ連並びに前記3記載の組合及び支部は,サービス券を廃止することを決定し,各々の組合員に周知している。全レ連及び前記組合員等の一部は,決定の実効を確保するため,レコード等の製造業者,各地区内のレコード業の卸売業者に対して協力を要請している。

6. 前記3の組合及び支部の会員は,おおむね,各々の組合等の決定に従ってサービス券を廃止している。

法令の適用

「全レ連並びに三重県組合,新潟県組合,北陸組合,関西支部,北九州組合,四国支部,大分県組合,北海道支部及び福岡組合は,いずれも独占禁止法第2条第2項に規定する事業者団体であるところ,全レ連は,会員が自己の組合員にサービス券を廃止させることを推進しており,三重県組合,新潟県組合,北陸組合,関西支部,北九州組合,四国支部,大分県組合,北海道支部及び福岡組合は,それぞれ,組合員の提供するサービス券の廃止にっいて決定し,これを組合員に実施させているものであり,これは,構成事業者の機能又は活動を不当に制限しているものであって,同法第8条第1項第4号の規定に違反するものである。」

 


 

[事例]

東京都自動車硝子部会に対する件

勧告審決平成1222

審決集46390

独禁法84

*輸入品取扱制限

 

1. 東京都自動車硝子部会(以下「東京硝子部会」という。)は,東京都において補修用自動車ガラスの販売業を営む者を会員として設立された任意団体である(会員数70名)。(国内で使用される国産自動車向け補修用ガラスを,以下「補修用ガラス」という。)

2. 東京地区においては,補修用ガラス販売業者(以下「ガラス商」という。)のほとんどが東京硝子部会の会員である。

3. 補修用ガラスには,①純正品,②社外品,③輸入品等がある。

①純正品は,自動車製造業者が国内の補修用ガラスの製造業者に製造を依頼し,自社製自動車の部品として販売するものである。純正品は,自動車製造業者から部品販売会社を通じて補修用ガラス販売業者(以下「ガラス商」という。)に販売され,さらにガラス商から主として自動車販売業者に販売される。

②社外品は,国内の補修用ガラスの製造業者が自社製品として製造販売するものである。社外品は,補修用ガラス製造業者から卸売業者を通じてガラス商に対して販売され,ガラス商はこれをさらに貨物自動車運送業者等の大口需要者,自動車販売業者,自動車修理業者等に販売する。

③輸入品は,海外から我が国に輸入されるものである。輸入品は,輸入販売業者等から,直接に,又はガラス商を通じて,貨物自動車運送業者等の大口需要者,自動車修理業者等に販売される。

4. ガラス商は,自動車ガラスの損傷等により補修用ガラスの需要が生じる都度,補修用ガラスを卸売業者等から取り寄せて配送することが通常である。この際には,補修用ガラスを自動車に取り付ける作業を併せて行っている。

5. 輸入品をガラス商を通じないで購入した者の多くは,補修用ガラスを自動車に取り付ける技術を持たないため,取付作業を別途ガラス商等に依頼している。

6. 東京硝子部会は,輸入品が格安の価格で流通することにより会員の社外品の販売高及び販売価格が低下することを危惧して,輸入品の流通の増加抑制のため,会員は,輸入品を販売しないこと(顧客の求めにより臨時に輸入品を販売する場合を除く。)を決定し周知した。

7. 東京硝子部会の会員は,前記決定に基づき,おおむね輸入品の販売を行っていない。

法令の適用

東京硝子部会は「会員の輸入品の販売を制限しているものであり,これは,構成事業者の機能又は活動を不当に制限しているものであって,独占禁止法第8条第1項第4号の規定に違反するものである。」

 

 


 

[事例]

(社)教科書協会に対する件

勧告審決平成11112

審決集46347

独禁法84

*商品規格制限

 

1. 社団法人教科書協会(以下「教科書協会」という。)は,検定教科書の発行会社を会員とし,検定教科書の質的向上と教科書発行事業の合理化に関する調査研究を行うなどして学校教育の充実発展に寄与することを目的として設立された社団法人である(会員数55名)。

2. 教科書協会の会員は,我が国で発行される小学校用,中学校用及び高等学校用の教科書(以下「教科書」という。)のほとんどすべてを供給している。

3. 教科書協会は,学習指導要領に基づく教科書について,教科及び種目ごとに教科書のページ数,本文ページ数に占める色刷りページ数の割合(以下「色刷り度数」という。),折り込みページ数等の編集・製作上の標準的な規格(以下「体様のめやす」という。)を,小学校,中学校,高等学校用教科書について決定し,これを会員に周知させている。

4. 教科書協会は,教科書の編集・製作上の規格面での競争を回避する観点から,毎年,会員が発行する予定の教科書の規格が「体様のめやす」に適合しているか否かを調査し,「体様のめやす」に適合していない教科書を発行しようとする会員に対しては規格の変更を要請し実施させている。

5. 前記3の行為について具体的に示すと,次のとおりである。

会員が発行する予定の中学校用地図帳の折り込みページ数が「体様のめやす」で定められた折り込みページ数を超過していたため,教科書協会は,折り込みページ数の削減を要請して,この要請を受け入れさせた。この結果,この会員は,中学校用地図帳を利用する生徒にとって地理的関係の理解が容易になるであろうとして折り込みを行うこととしていた部分の一部について,折り込みを行うことを取りやめた。

会員が発行する予定の高等学校用数学教科書(以下「高等学校用数学教科書」という。)の色刷り度数が「体様のめやす」で定められた色刷り度数を超過していたため,教科書協会は,色刷りページ数を削減するよう要請し,定められた色刷り度数に近づける旨の回答を得た。この結果,この会員は,高等学校用数学教科書を利用する生徒にとって当該教科書の内容をより理解しやすいものにするために色刷りをすることとしていた部分の一部について,色刷りをすることを取りやめた。

6. 教科書協会の前記行為により,会員は,おおむね,体様のめやすに従って教科書を編集・製作している。

 

法令の適用

「教科書協会は,独占禁止法第2条第2項に規定する事業者団体に該当するところ,会員が発行する予定の教科書について,当該教科書の規格が,教科書協会が決定した体様のめやすに適合しているか否かを調査し,体様のめやすに適合していない教科書を発行しようとする会員に対し,体様のめやすに適合するように当該教科書の規格を変更するよう要請し,当該教科書の規格を変更させることにより,会員の自主的な教科書の編集・製作活動を制限しているものであり,これは,構成事業者の機能又は活動を不当に制限しているものであって,独占禁止法第8条第1項第4号の規定に違反するものである。」

主文

1 社団法人教科書協会は,会員が発行する予定の小学校用,中学校用及び高等学校用の教科書について,会員にそのページ数,本文ページ数に占める色刷りページ数の割合等を記入した教科書体様届と称する届出書を提出させるなど,当該教科書の規格が,同協会が決定した編集・製作上の標準的な規格に適合しているか否かを調査し,同規格に適合していない教科書を発行しようとする会員に対し,同規格に適合するように当該教科書の規格を変更するよう要請し,当該教科書の規格を変更させている行為を取りやめなければならない。

2 社団法人教科書協会は,前記の標準的な規格は教科書の編集・製作上の単なる参考となるものであって,会員の自主的な編集・製作活動を制限するものではないことを確認しなければならない。」(主文・以下略)

 


 

 [事例]

東日本おしぼり協同組合に対する件

勧告審決平成7424

審決集42119

独禁法84号,85号(一般指定2項前段)

独禁法22

*顧客争奪の禁止

 

1. 東日本おしぼり協同組合(以下「おしぼり協組」という。)は,東京都,神奈川県,埼玉県,群馬県,栃木県,茨城県及び千葉県の地域を地区とし,地区内において貸おしぼり業を営む者を組合員として中小企業等協同組合法に基づいて設立された事業協同組合である(組合員数98名)。

2. おしぼり協組の組合員のうち3名は,資本の額,従業員数等を総合すれば,小規模事業者とは認められない。

3. おしぼり協組は,貸おしぼり市場の安定を図るため,得意先争奪の禁止の方針をとり,①組合員の取引先を他の組合員が奪うことを制限し,②得意先に関する紛争が生じ,当事者間の話合いが困難となった場合はおしぼり協組内に設置された委員会(市場対策委員会)に仲裁を要請することができることとし,③規約に違反したと裁定された組合員に対して警告を与え罰則(得意先の返還,譲渡又は補償金の支払及びこれに従わない者の除名)を課すこととしている。

4. おしぼり協組は,組合員が購入するタオル,洗濯機,洗剤,包装機,フィルム,温蔵庫等の資機材ごとに,組合員の購入先である特定の資機材供給業者を推薦業者として指定している(以下,おしぼり協組の指定する資機材供給業者を「推薦業者」という。)。

5. おしぼり協組は,貸おしぼり市場の安定を図るため,新規参入業者の発生を阻止する方針をとり,この方針に基づき,①新規参入業者が推薦業者に資機材の購入を申し入れた場合にはこれを断らせ,②推薦業者が新規参入業者に資機材を供給した場合には推薦業者としての指定を取り消す等の措置を講じている。

法令の適用

「おしぼり協組は,独占禁止法第2条第2項に規定する事業者団体に該当するところ,同組合は,組合員のうちに小規模の事業者とは認められない者を含んでおり,小規模の事業者の相互扶助を目的とする組合とは認められない。したがって,同組合は,中小企業等協同組合法に基づいて設立された事業協同組合であるが,独占禁止法第24条第1号の要件を欠いており,同法の適用を受けるものである。」

「おしぼり協組は,組合員の得意先争奪を禁止しているものであり,これは,構成事業者の機能又は活動を不当に制限しているものであって,独占禁止法第8条第1項第4号の規定に違反するものであり,また,前記事実の3によれば,おしぼり協組は,不当に資機材の供給業者に対し,新規参入業者に資機材を供給しないようにさせているものであり,これは,事業者に不公正な取引方法(昭和57年公正取引委員会告示第15号)の第2項に該当する行為をさせるようにしているものであり,同法第8条第1項第5号の規定に違反するものである。」

 


 

[参考・審決]

楽しい手芸のハマナカ関東代理店会に対する件

勧告審決昭和44418

審決集1610

独禁法84号,85号(294号イ,一般指定12項(昭和28年指定8項))

 

1. 楽しい手芸のハマナカ関東代理店会(以下「関東代理店会」という。)は,関東地区において,ハマナカ株式会社の発売に係る手編・手芸糸(以下「ハマナカ商品」という。)の卸売業を営む者を会員とし,会員相互の親ぼくおよび共存共栄を図ることを目的とする任意団体である(会員数66名)。

2. 関東代理店会の会員には,①ハマナカ商品をハマナカ株式会社から直接仕入れる卸売業者(以下「一次店」という。)と,②主として一次店から仕入れる卸売業者(以下「二次店」という。)がある。

3. 会員は,地区内においてハマナカ商品を取り扱う卸売業者のうち,すべてである(ただし,小売業(以下「小売店」という。)を兼業する卸売業者(以下「卸・小売店」という。)を除く。)。会員は,地区内の小売店に供給されるハマナカ商品のほとんどすべてを販売している。

4. ハマナカ商品は,手編・手芸糸の中ではきわめて有力な地位にある。

5. 関東代理店会は,ハマナカ商品のうち一部の商品(昭和43年秋冬もの等)について価格維持を図るため,次の事項を決定し実施させた。

①会員の小売店に対する最低販売価格は,関東代理店会が定めたとおりとする

②小売店の最低販売価格は,関東代理店会が定めたとおりとし,会員は,小売店の同価格を守らせる

③会員の二次店および卸・小売店に対する最低販売価格は,関東代理店会が定めたとおりとする

④二次店,卸・小売店および大口小売店に対するリベートは,関東代理店会が定めたとおりとし,リベートの支払は,シーズン終了後,ハマナカ株式会社に代行させる

⑤二次店および卸・小売店の仕入先は1社,小売店の仕入先は2社に限定することとする

⑥会員の販売先を代理店会に登録し,登録後は原則として自己の登録先以外の者には販売しない

⑦この決定に違反した場合には違約金を徴収する

6. 関東代理店会は,販売姿勢が好ましくないこと等を理由に,地区内に所在する卸売業者10名を登録しないこと等の決定を行った。

法の適用

関東代理店会は「会員のハマナカ商品の販売価格,リベートおよび販売先を制限しているものであつて,これは,会員の機能,または活動を不当に制限しているものであり,私的独占禁止法第8条第1項第4号の規定に,また,同会は,会員に,正当な理由がないのに,小売店と消費者との取引を拘束する条件をつけて,当該小売店と取引させるようにしているものであつて,これは,事業者に不公正な取引方法(昭和28年公正取引委員会告示第11号)の8に該当する行為をさせるようにしているものであり,私的独占禁止法第8条第1項第5号の規定に,それぞれ違反するものである。」

 


 

[参考・審決]

再販売価格維持契約励行委員会に対する件

勧告審決昭和35530

審決等データベースシステム

独禁法84号,独禁法85号(取引拒絶(昭和28年指定1項))

 

1. 全日本教図出版販売組合(以下教図組合という。)は,教材用地図,掛図(以下,これらを合わせて教図類という。)の出版業者,卸売業者および小売業者を組合員とする任意団体である。

2. 再販売価格維持契約励行委員会(以下励行委員会という。)は,教図組合の組合員を構成員とし,教図組合の組合員相互間に締結された再販売価格維持契約(以下再販契約という。)を遵守,励行させることを目的とし,再販契約の実施状況の監視等の業務を行なうため設立された任意団体である。

3. 励行委員会は,福岡県戸畑市高峯中学校の教図類の入札において定価を値引きして落札した教図組合員・高井優(教図類小売業者)に対して,出荷停止を行うことを決定し,教図組合に加入するすべての出版業者および卸売業者にこれを通知するとともに,福岡県の教図組合員に対して同人への品物の融通を行なわないよう要請した。

4. 励行委員会は,あわせて,高井が値引き入札していることを知りながら教図類を同人に対して出荷した統正出版株式会社の責任を追及し,高井に対する出荷を停止させた。

5. 励行委員会は,定価販売を励行しない販売業者ら7者について,教図組合に加入するすべての出版業者および卸売業者に対して,これらの者に対する出荷を一時停止するよう要請した。

法の適用

「励行委員会は,教図組合員相互間に締結された教図類の再販売価格を維持する目的をもつて,再販契約の違反者に対し取引を停止することを決定し,かつ,これを全出版業者等をして実施させているが,これは構成事業者の機能または活動を不当に制限するものであり,私的独占禁止法第8条第1項第4号に違反するとともに,事業者に昭和28年公正取引委員会告示第11号の1に該当する行為をさせるようにしているものであつて,同法同条同項第5号に違反するものである。」

 


 

 [参考・審決]

(社)日本旅行業協会関東支部に対する件

勧告審決平成3107

審決集38100

独禁法84

*価格に関する制限

 

1. 社団法人日本旅行業協会関東支部(以下「関東支部」という。)は,社団法人日本旅行業協会(以下「協会」という。)の支部であって,関東地区内において旅行業法の規定に基づき,一般旅行業の登録を受けた者(以下「一般旅行業者」という。)を正会員,旅行業代理店業の登録を受けた者のうち正会員のために旅行業務を行っている者を準会員とし,旅行業の健全な発展に寄与することなどを目的とする(支部員数:正会員516名及び準会員27名)。

2. 一般旅行業者は,旅行業法の規定に基づき,事業の開始前に,旅行者から収受する旅行業務の取扱いの料金(主催旅行に係るものを除く。)を定め,これをその営業所において旅行者に見やすいように掲示しなければならないこと及び同料金を超えて料金を収受してはならないこととされている。(以下,掲示に記載された料金を「掲示料金」という。)

3. 一般旅行業者は,旅行者から掲示料金を下回った料金を収受し,又は料金を収受しないで旅行業務を行っている場合が多かった。

4. 関東支部は,支部員が旅行者から旅行業務の委託を受けた場合は当該旅行者から掲示料金どおりに取扱料金を収受すること(以下「完全収受」という。)を目標とするとの方針を決定し,この決定を支部員に通知した。

5. 関東支部は,前記4の決定を円滑に推進するために,①完全収受に関するポスターを支部員に配布するとともに,②支部員に対して,旅行業務取扱料金明細書をモデル伝票として配布し,③支部員は,旅行者から取扱料金を収受する際に掲示料金と同一料金の入った明細書を使用すべきことを通知した。

法令の適用

関東支部は,「取扱料金の完全収受を目標とするとの方針を決定し,これを支部員に実施させることにより,取扱料金の収受に係る支部員の自由な事業活動を抑制しているものであり,これは,構成事業者の機能又は活動を不当に制限しているものであって,同法第8条第1項第4号の規定に違反するものである。」

主文

1 社団法人日本旅行業協会関東支部は,平成元年928日に決定した取扱料金の完全収受を目標とするとの方針を破棄しなければならない。

2 同支部は,右決定を実施するために支部員に配布したモデル伝票としての取扱料金明細書及び取扱料金完全収受に関するポスターを支部員から回収して廃棄しなければならない。」(主文・以下略)


 

[参考・審決]

大阪東丸会に対する件

勧告審決昭和43810

審決集1545

独禁法84

*価格・リベート制限

 

1. 大阪東丸会(以下「東丸会」という。)は,ヒガシマル醤油株式会社大阪営業所内に事務所を置き,大阪府および尼崎市にあるヒガシマル醤油株式会社(以下「ヒガシマル社」という。)の特約店を会員とし,会員相互の福利増進および業界の健全なる発達を目的として設立された任意団体である(会員数19名)。

2. 大阪府および尼崎市にあるヒガシマル社の特約店の大部分が,大阪東丸会の会員である。

3. ヒガシマル社は,大阪府内向けのしよう油のほとんど全部を会員に販売している。

4. ヒガシマル社が大阪府内に販売するしよう油の販売量は,国内のしよう油メーカーの大阪府内向け総販売量の約16%を占める。

5. 東丸会の会員は,通常,二次店に対して,小売店に対する卸売価格と同一の価額でヒガシマルしよう油を販売し,マージンに相当する金額を割戻金という名目で後に支払っている。

6. ヒガシマル社は,京阪神地区にある同社の特約店を集め,生産者価格を引き上げる旨を発表した。

7. 東丸会は,前記生産者価格の引上げに対処するため,①会員の卸売価格及び②二次店に対する割戻金の額を定め,これを会員に遵守させている。

8. 東丸会は,ヒガシマルしよう油の直配取引について会員が小売店に対して支払う謝礼金について額を定めるとともに,謝礼金の支払事務を東丸会が代行することを決定し,これを会員に遵守させている。

法の適用

「東丸会は,会員のヒガシマルしよう油の卸売価格,ヒガシマルしよう油の取引にかかる会員の二次店に対する割戻金および小売店に対する謝礼金を決定し,会員に実施させているものであり,これは構成事業者の機能または活動を不当に制限しているものであって,私的独占禁止法第8条第1項第4号の規定に違反するものである。」

 


 

[参考・審決]

石川県理容環境衛生同業組合金沢支部に対する件

勧告審決平成12426

審決集47259

独禁法84

*価格・広告制限

 

1. 石川県理容環境衛生同業組合金沢支部(以下「金沢支部」という。)は,環境衛生関係営業の運営の適正化に関する法律(以下「環境衛生法」という。)の規定に基づいて設立された石川県理容環境衛生同業組合の支部であり,金沢市の区域において理容業を営む者を支部員とする(支部員数375名)。

2. 支部員は,金沢市において理容業を営む者のほとんどを占める。

3. 石川県においては,環境衛生法に基づき石川県理容環境衛生同業組合が適正化規程において料金・営業方法等について定めてきたが,この規程は平成83月に廃止された。

4. 金沢支部は,前記適正化規程が廃止されたことに伴い,各支部員が定めた理容料金の割引,広告活動等を行う者が出てきたことから,支部員の間における顧客の争奪の防止等を図るため,次の事項等を内容とする営業行為についての内規を決定し,会員に周知した。

理容料金の割引(ポイントカード類による割引を含む。以下同じ。)は禁止する

テレビ,ラジオ及び新聞による広告活動(新聞折り込みチラシによる広告活動を含む。)は禁止する

金沢支部以外の団体名で行う広告活動は禁止する

前記②・③以外の広告活動は原則的に自由とするが,いかなる場合でも理容料金の明示は禁止する

広告活動を意図する支部員は,広告活動の内容及び方法を記入した届出書を,地区部長を通じて調整委員会に提出することとし,調整委員会は,その可否について審議し,その結果を支部員に通知する

支部員が行う広告活動により周辺の支部員に迷惑が及ぶ場合は,調整委員会と両支部員との間で話合いを行う

金沢支部は,前記①ないし⑥に違反した支部員に対し,金沢支部からの脱退勧告又は除名を含む処分を行うことができる

5. 金沢支部の支部員は,前記①ないし⑤をおおむね遵守している。

法令の適用

金沢支部は,「支部員の理容料金の割引及び広告活動を制限しているものであり,これは,構成事業者の機能又は活動を不当に制限しているものであって,独占禁止法第8条第1項第4号の規定に違反するものである。」

 


 

[事例]

全国病院用食材卸売業協同組合に対する件

勧告審決平成1549

審決集50335

独禁法84

独禁法22

*地域制限

 

1. 全国病院用食材卸売業協同組合(以下「全病食協」という。)は,中小企業等協同組合法に基づいて設立された事業協同組合である。

2. 全病食協は,医療関連施設等の給食に病院用食材を提供する卸売業を行う小規模の事業者を組合員とする(51名)。また,治療用食品(腎臓病等の食事療法用食品等)の供給業者(52名)が,賛助会員となっている。

3. 全病食協は,治療用食品のうち賛助会員に製造を委託するもの(以下「プライベートブランド商品」という。)及び賛助会員から一手に供給を受けるもの(以下「専売商品」という。)を選定し,これらを共同購入して,組合員に販売している。

4. 全病食協の組合員は,プライベートブランド商品,専売商品等一部の治療用食品については全病食協から購入している。その他の大部分の治療用食品については賛助会員等から直接購入し,これらの治療用食品を医療関連施設及び自宅療養中の患者に販売している。

5. 全病食協は,加入希望があった場合について,加入希望者と既存の組合員との競合を回避するため,加入希望者が治療用食品を販売する地域が含まれる地区の全病食協下部組織(ブロック会)の了承を得ることができなければ加入を認めないこととしている。

6. 全病食協は,組合員間の競合を回避するため,①組合員の商圏を定めるとともに,②設立後新たに加入した組合員については,加入の都度その商圏を定め,③各組合員に対し,全病食協又は賛助会員から購入した治療用食品を商圏外の顧客に販売しないよう指示し,④商圏の数に応じた賦課金を徴収している。なお,⑤商圏外の顧客であっても,全病食協加入以前から取引している顧客に販売する場合又はその顧客が所在する地域を商圏とする他の組合員が異議を申し立てない場合には,商圏外に販売することも差し支えないものとして取り扱っている。そして,組合員間で商圏をめぐる問題が生じれば調整を行うなどして指示の実行性を確保している。

7. 治療用食品の通信販売業を営む非組合員に対して治療用食品を供給している組合員がいることが明らかになったときには,全病食協は,これを放置すると,事実上商圏外の顧客に対する販売を容認することになると考えて,次の対策を講じた。

①組合員との間で新たに商品売買基本取引契約を締結することを組合員に対して要請する。

②この契約において非組合員である治療用食品の販売業者に対するプライベートブランド商品,専売商品等の転売を禁止する。

全病食協は,ほとんどすべての組合員と前記契約を締結した。契約締結を拒否した組合員に対しては,プライベートブランド商品及び専売商品の販売を停止した。

8. 全病食協の組合員は,おおむね,7②の指示を遵守し,商圏外の顧客から注文を受けた場合にはその顧客が所在する地域を商圏とする組合員を紹介するなどして,他の組合員との競合を回避するようにしている。

法令の適用

「全病食協は,独占禁止法第2条第2項に規定する事業者団体に該当するところ,組合員の任意の加入を制限しており,中小企業等協同組合法に基づいて設立された事業協同組合であるものの,独占禁止法第22条第2号の要件を欠き,独占禁止法の適用を受けるものである。」

「上記の事実の2によれば,全病食協は,治療用食品の販売について組合員の商圏を定めることにより,組合員の販売地域を制限しているものであり,これは,構成事業者の機能又は活動を不当に制限しているものであって,独占禁止法第8条第1項第4号の規定に違反するものである。」

 


 

[参考・審決]

需要者団体協議会ほか1名に対する件

勧告審決昭和39116

審決集1273

独禁法85号(一般指定3・4項(昭和28年指定2項))

 

1. 需要者団体協議会(以下「需要者協議会」という。)は,大日本除虫菊株式会社内に事務所を置き,国産除虫菊を原料として殺虫剤を製造する者を会員とする,除虫菊契約栽培の推進等を目的とする任意団体である(会員数14名)。

2. 需要者協議会会員による国産除虫菊の購入量は,我が国における国産除虫菊総購入量の約93%を占める。

3. 全生産者団体連合協議会(以下「生産者協議会」という。)は,広島県経済農業協同組合連合会内に事務所を置き,除虫菊の生産者の共販体制を確立すること等を目的として設立された任意団体である。生産者協議会の会員は,①除虫菊生産地(15県)の経済農業協同組合連合会(以下「経済連」という。)9名及び②除虫菊の生産振興団体(農業協同組合等を構成員とし,除虫菊の生産の振興をはかることを目的として設立されている任意団体である。)9団体である。

4. 生産者協議会会員の経済連による除虫菊の販売量は,我が国における国産除虫菊総販売量の約80%を占める。

5. 需要者協議会および生産者協議会は,次の事項を決定し,需要者協議会会員に実施させた。

①需要者協議会会員は,必要とする除虫菊を経済連から購入し不足分を輸入により確保する

②需要者協議会会員は,集荷業者とは8月末まで取引しない

②需要者協議会会員は,集荷業者からは,経済連からの購入価格よりキログラムあたり2円低い価格で購入する

法の適用

「需要者協議会および生産者協議会は,需要者協議会会員の除虫菊の購入について,経済連との取引を優先し,集荷業者に対し著しく不利な取扱を行なうことを決定し,これを需要者協議会会員に実施させているものであつて,これは,事業者に,昭和28年公正取引委員会告示第11号不公正な取引方法の2に該当する行為をさせるようにしているものであり,私的独占禁止法第8条第1項第5号の規定に違反するものである。」

 

 

 

国際取引(独禁法6条)[国際カルテルについては3条後段の部も参照]

 

 [参考・審決]

(株)小松製作所ほか2名に対する件

審判開始決定昭和541012

判決集未登載

独禁法6

 

1. 被審人株式会社小松製作所(以下「小松」という。)は,建設機械その他の各種機械の製造販売業を営む。

2. 被審人三井物産株式会社(以下「三井物産」という。)は,各種商品の輸出入及び国内における販売業を営む。

3. 被審人ビサイラス・エリー・カンパニー(以下「ビサライス」という。)は,アメリカ合衆国に本店を置き,鉱山・建設機械その他の各種機械の製造販売業を営む。

4. ビサイラスは,海外における機械式パワーショベルの有力な製造業者であった。

5. 小松は,我が国における機械式パワーショベルの製造販売を早急に開始することを企図して,ビサイラスに対してその製造技術の援助を受けることを申し入れた。

6. ビサイラスは,両者に三井物産を加えた3者による合弁会社を設立し,合弁事業として機械式パワーショベルの製造販売を行う方法により当該技術の援助を行いたいと回答した。製造開始を急いでいた小松は,これを受け入れた。

7. 小松,三井物産及びビサイラスの3者間において,ビサイラスの提示した案に基づいて契約が締結され,3者が共同で出資する小松ビサイラス株式会社(出資割合小松及びビサイラスそれぞれ40パーセント,三井物産20パーセント)(以下「小松ビサイラス」という。)が設立された。小松ビサイラスの取締役には,小松,三井物産及びビサイラスのそれぞれの指名に基づいて選任された者が就任した。

8. 合弁等の対象商品(以下,対象商品のことを「ケー・ビー製品」という。は,当初は,機械式パワーショベルであり,その後,油圧式パワーショベルが追加されている。

9. 3者が締結するに至った契約によれば,小松ビサイラスが,ビサイラスから技術援助を受け,ケー・ビー製品の製造販売を行い,小松は,小松ビサイラスの下請業者として同社の委託を受けて同製品を製造してこれを小松ビサイラスに納入し,さらに,小松ビサイラスの「ディストリビューター」として,同社から同製品を再び買い受け,これを販売することとされている。ビサイラスと小松ビサイラス及びビサイラスと小松をそれぞれ契約当事者とし,ケー・ビー製品に「ビサイラス」の商標を使用する権利を小松ビサイラス及び小松にそれぞれ付与することを内容とする契約も締結されている。

10. 前記9にかかわらず,実質的には,次のように,小松がビサイラスから技術援助を受け,ケー・ピー製品の製造販売を行っている。

①小松ビサイラスの常勤の役員及び従業員の数は,合わせて数名にすぎず,同社が行っている業務は,主としてビサイラスに対するロイヤリティの支払い事務である。

②小松ビサイラスの運営に要する経費は,実質的に小松のみが負担している。

③技術面について,小松ビサイラスは,ビサイラスから送付された技術資料を小松に引き渡しているにすぎない。

④ケー・ビー製品に関する技術指導等は,小松の要請に基づいて,ビサイラスが直接小松に対して行っている。

⑤小松は小松ビサイラスからの委託によりケー・ビー製品の製造販売を行うことになっているが,実質的には,小松が自己の責任において製造販売活動を行っている。

11. 技術援助の有効期間については,下記の状況が認められる。

①技術援助の有効期間は,契約では,その効力発生の日から10年間であり,その後,ビサイラス又は小松ビサイラスの一方が当該有効期間満了の90日前までに更新しない旨の通告をしない限り,1年間ずつ更新されることが規定されている。

②小松ビサイラスがこの通告を行うについては,小松,三井物産及びビサイラスの指名した取締役が出席する取締役会(前記7参照)における取締役全員の出席が必要とされている。

③このため,小松は,事実上,自己の意思によっては当該技術援助を終了させることができない。

④そして,この結果,小松は,ビサイラスに対するロイヤリティの支払いを停止することができない。

12. 競業に関する取決めについては,下記の状況が認められる。

①契約により,小松には,ケー・ビー製品と競合する品目の製造,販売又は取扱いが禁止されている(ただし,ケー・ビー製品と明らかに競合しない機械の製造,販売,取扱い等を継続する場合を除く)。

②契約により,小松は,ケー・ビー製品と同種又は類似のいかなる製品も,小松ビサイラスから購入したものでなければ販売してはならないこととされている。

③小松がケー・ビー製品とは異なる機種の油圧式パワーショベルを自ら開発し,製造販売を開始しようとしたところ,ビサイラスは,いかなる型式のものであれ小松が独自にパワーショベルの開発を行うことは前記①②の条項に抵触し,かつ,合弁事業契約の精神に反するとして,小松が前記機種の製造販売を独自に行うことを拒否した。

13. 韓国,台湾及びフィリピンにおけるケー・ビー製品の販売については,契約により,①小松ビサイラスが販売業者を指定すること,及び②前記指定は,小松ビサイラスの取締役会の承認を得て行うことが規定されている。

14.改良技術の取扱いについては,契約上,①ビサイラスは,ケー・ビー製品の製造に実際に使用している発明改良等に係る技術を開示すれば足りるとされているのに対して,②小松は,ケー・ビー製品に関連する発明改良等に係る技術を開示しなければならず,③前記②に基づいて小松が開示した技術はすべて小松ビサイラスの所有に属する(当該技術が特許である場合には,ビサイラスの要請によりビサイラスに特許を譲渡する)ことが定められている。

法令の適用

前記11①,12①,12②,13②,14①ないし③の契約条項は,「不公正な取引方法(昭和28年公正取引委員会告示第11号)の10に該当する事項と認められ,小松,三井物産及びビサイラスは,不公正な取引方法に該当する事項を内容とする国際的契約を締結したものであって,これは独占禁止法第6条第1項の規定に違反するものである。」

 

 

審判手続打切決定昭和561026

「本件で対象とされている被審人株式会社小松製作所,同三井物産株式会社及び同ビサイラス・エリー・カンパニー間の国際的契約を解除することを内容とする「解除契約」が当事者間の合意により成立し」,この解除契約により,本件違反被疑事実は,完全に消滅したことが認められた。」

「本件審判手続はいまだ冒頭手続も終了していない段階であり,その他諸般の事情を勘案すれば,本件については,公正な競争秩序の維持の観点からみて審判手続を継続する実質的利益は失われたものと認められる。

よって,当委員会は,本件審判手続を打ち切ることが相当であると認め,主文のとおり決定する。」

 


 

[参考・審決]

東レ(株)ほか5名に対する件

勧告審決昭和471227

審決集19133

独禁法6

 

1. 東レ株式会社,鐘紡株式会社,ユニチカ株式会社,東洋紡績株式会社,旭化成工業株式会社および帝人株式会社(以下これらを「6社」という。)は,我が国においてナイロン・フイラメント(以下「ナイロン糸」という。)の製造業を営む。

2. 6社の輸出量の合計は,我が国におけるナイロン糸の輸出量のほとんどすべてを占める。

3. 6社は,スイス連邦チューリッヒ市において西ヨーロッパにおけるナイロン糸の製造量の大部分を製造している事業者ら(以下「西欧事業者ら」という。)とナイロン糸の輸出について協議し,300デニール以下の衣料用ナイロン糸のうち,ナイロン6およびナイロン6.6の輸出について,①日本国を含むアジアの3か国の地域を6社の伝統市場とし,西ヨーロッパの15か国の地域を西欧事業者らの伝統市場とし,②それぞれ,相手方の伝統市場に対して輸出しないことを決定した(後の決定により,6社の伝統市場はアジア10か国,西欧事業者らの伝統市場はヨーロッパ16か国とされることとなった)。

4. 6社は,おおむね,前記決定を実施している。

法令の適用

6社は,西欧事業者らとの間に6社のナイロン糸の当該地域向けの輸出取引の分野における競争を実質的に制限しているものであり,これは,不当な取引制限に該当する事項を内容とする国際的協定を締結しているものであって,私的独占禁止法第6条第1項の規定に違反するものである。」

 


 

[参考・審決]

旭化成工業(株)ほか2名に対する件

勧告審決昭和471227

審決集19124

独禁法6

 

1. 旭化成工業株式会社,株式会社クラレおよびユニチカ株式会社(以下これらを「3社」という。)は,レーヨン・ビスコース・フイラメント(以下「レーヨン糸」という。)の製造業を営む。

2. 3社の輸出量の合計は,我が国におけるレーヨン糸の輸出量のほとんどすべてを占める。

3. 3社は,イタリア共和国ミラノ市において,西ヨーロッパにおけるレーヨン糸の製造量の大部分を製造している事業者ら(以下「西欧事業者ら」という。)と,レーヨン糸の輸出について,次の決定を行った。

①日本国の地域を3社の伝統市場,西ヨーロッパの11か国の地域を西欧事業者らの伝統市場とし,それぞれ相手方の伝統市場に対して輸出しない

3社および西欧事業者らのそれぞれの伝統市場ならびにアメリカ合衆国の地域を除く地域を共通市場とする。この共通市場については,輸出数量の比率が,3社は14.5,西欧事業者らは85.5となるようにする。具体的には,共通市場を数地域に区分して,前記比率が達成できるように,各地域について限度量を設定する。

③共通市場における販売価格については,各国の地域別に,製品種別等ごとに最低価格を設定する。

4. 3社は,おおむね,前記の各決定を実施している。

法令の適用

3社は,西欧事業者らとの間に3社のレーヨン系のアメリカ合衆国の地域を除く地域向けの輸出地域,輸出限度量および最低販売価格を決定することにより,公共の利益に反してレーヨン系の当該地域向けの輸出取引の分野における競争を実質的に制限しているものであり,これは,不当な取引制限に該当する事項を内容とする国際的協定を締結しているものであって,私的独占禁止法第6条第1項の規定に違反するものである。」

主文

「旭化成工業株式会社,株式会社クラレおよびユニチカ株式会社は,昭和345月,同46128日および同47315日に西ヨーロッパにおけるレーヨン・ビスコース・フイラメントの製造業者らと締結した同フイラメントの輸出に関する国際的協定を破棄しなければならない。」(主文以下略)


 

[参考・審決]

東洋紡績(株)ほか4件に対する件

勧告審決昭和471227

審決集19140

独禁法6

 

1. 東洋紡績株式会社,三菱レイヨン株式会社,東邦レーヨン株式会社,旭化成工業株式会社および東レ株式会社(以下これらを「5社」という。)は,アクリル紡績糸の製造業を営む。

2. 5社のドイツ国の地域向けのアクリル紡績糸の輸出量の合計は,我が国における当該地域向けの同紡績糸の輸出量のほとんどすべてを占めている。

3.西ドイツ梳毛紡協会(ドイツ国のアクリル紡績糸の製造業者らによって結成される。)は,かねてから5社に対して,アクリル紡績糸のドイツ国の地域への輸出数量を制限するよう要求していた。

4. 西ドイツ梳毛紡協会は,前記要求に応じない場合には,ドイツ国の地域へのアクリル紡績糸の輸入量が制限されるよう対策を講ずると述べた。

5. 5社と西ドイツ梳毛紡協会は,大阪市北区所在のロイヤルホテルにおいて同協会代表者らと会合を行い,①昭和45年・46年について5社のドイツ国の地域向けの輸出限度量を年あたり4100トンとすること,②昭和47年については,必要に応じて再度協議することを決定した(昭和451016日)。

6. 5社は,西ドイツ梳毛紡協会から,アクリル紡績糸のドイツ国の地域向けの輸出限度量を昭和47年についても前年同様4100トンとするよう要求を受け,文書により,これに同意する旨を回答した(昭和472月)。

7. 5社は,大阪市東区所在の大阪化学繊維会館において会合し,前記6の輸出限度量の範囲内で,各社の同年のドイツ国の地域向けのアクリル紡績糸の輸出限度量を決定した(昭和47217日)。

8. 5社は,おおむね,前記の各決定を実施している。

法令の適用

5社は,西ドイツ梳毛紡協会との間にドイツ国の地域向けのアクリル紡績糸の輸出限度量を決定することにより,公共の利益に反してアクリル紡績糸の当該地域向けの輸出取引の分野における競争を実質的に制限しているものであり,これは,不当な取引制限に該当する事項を内容とする国際的協定を締結しているものであって,私的独占禁止法第6条第1項の規定に違反するものである。」

主文

1 東洋紡績株式会社,三菱レイヨン株式会社,東邦レーヨン株式会社,旭化成工業株式会社および東レ株式会社は,昭和451016日および同472月に西ドイツ梳毛紡協会と締結したアクリル紡績糸のドイツ国の地域(東ドイツの地域を除く。以下同じ。)向けの輸出に関する国際的協定を破棄しなければならない。

2 前記5社は,昭和47217日に行なったアクリル紡績糸のドイツ国の地域向けの輸出限度量に関する決定を破棄しなければならない。」(主文・以下略)

 

 


 

私的独占

 

 [基本・判決]

東日本電信電話()による審決取消請求事件

最高裁判所判決平成221217

審決集57巻第二分冊215頁、最高裁判所民事判例集6482067頁、判例時報120132頁、判例タイムズ133955頁、裁判所時報15222頁、金融法務事情193098

独禁法3条前段(排除)

 

独禁法は,公正かつ自由な競争を促進し,事業者の創意を発揮させて事業活動を盛んにすることなどによって,一般消費者の利益を確保するとともに,国民経済の民主的で健全な発達を促進することを目的(1条)とし,事業者の競争的行動を制限する人為的制約の除去と事業者の自由な活動の保障を旨とするものである。その趣旨にかんがみれば,本件行為が独禁法25項にいう「他の事業者の事業活動を排除」する行為(以下「排除行為」という。)に該当するか否かは,本件行為の単独かつ一方的な取引拒絶ないし廉売としての側面が,自らの市場支配力の形成,維持ないし強化という観点からみて正常な競争手段の範囲を逸脱するような人為性を有するものであり,競業者のFTTHサービス市場への参入を著しく困難にするなどの効果を持つものといえるか否かによって決すべきものである。

 

1. 上告人(東日本電信電話株式会社)は,東日本地区を業務区域とする電気通信事業者である。上告人は,光ファイバ設備を用いた戸建て住宅向けの通信サービス(以下「FTTHサービス」という。)を提供する。

2. FTTHサービスは,ブロードバンドサービス(インターネットに接続して大量のデータ通信を可能とするサービス)の中でも,通信速度が速く,接続が安定しており通信品質が良く,1本の回線で音声や動画等を統合したサービスが可能である等といった特徴を有する。

3. ブロードバンドサービスには,FTTHサービスのほかに,より通信料金の安価な非対称デジタル加入者線を用いた通信サービス(以下「ADSLサービス」という。)などがある。ADSLサービス等からFTTHサービスヘと移行する者はいるが,いったんFTTHサービスを選択した後にADSLサービス等の他種のブロードバンドサービスヘと移行する者はほとんどいない。

4. FTTHサービスをするためには,加入者宅に光ファイバを引き込む工事が必要である。事業者を変更するにはこの工事を再度行う必要があるため, 1度加入者と契約した事業者は当該契約を長期間維持することができるという傾向が強い。

5. 平成159月末の時点における上告人のFTTHサービス(ビジネス向けのものを含む。)の市場占有率は,東日本地区の各都道県で開通件数の82ないし100%を占めていた。

6. FTTHサービスを提供するには,自ら加入者光ファイバ設備を所有しこれを用いる方法と他者の加入者光ファイバ設備に接続することによる方法とがある。

7. 上告人は,加入者光ファイバを所有して,FTTHサービスを行なっており,上告人の保有する加入者光ファイバがFTTHサービスに係る事業者の保有する加入者光ファイバ全体に占める割合は,東日本地区のいずれの都道県でもおおむね芯線数の70%以上を占めていた。

8. 東日本地区で自らの加入者光ファイバ設備を用いてFTTHサービスを提供していた主な事業者には,上告人のほか,2社があったものの,芯線数が少なく,両社のサービス提供地域は東京都の一部に限られていた。

9. 一般的に,電気通信事業者が自ら管路又は電柱を設置して加入者光ファイバを設置することは困難であった。

10. 前記7-9のために,加入者光ファイバ設備と接続することによりFTTHサービスを提供しようとする電気通信事業者にとっては,上告人の加入者光ファイバ設備と接続することのみが選択肢であった。

11.上告人は,電気通信事業法により以下の内容とする規制に服していた。

①上告人は,他の電気通信事業者からその電気通信設備を当該電気通信回線設備に接続すべき旨の請求を受けたときは,原則として,その請求に応じなければならない。

②上告人は,この接続に対する料金(以下「接続料金」という。)を規定する接続約款を定めて総務大臣の認可を受けなければならず(変更時も同様),接続に関する協定の締結又は変更は認可を受けた接続約款により行なわなければならない。

③上告人が認可を受けた接続料金が「その原価に照らして不適当となったため公共の利益の増進に支障があると認めるとき等」には,総務大臣は,上告人に対して,接続約款の変更の認可を申請すべきことを命ずることができる(以下,この命令を「変更認可申請命令」という。)。

④上告人が利用者から徴収する料金(以下「ユーザー料金」という。)は,総務大臣に届け出なければならない。

⑤上告人から届け出られたユーザー料金が,「その算出方法が適正かつ明確に定められていないとき,特定の者に対し不当な差別的取扱いをするものであるとき,又は他の電気通信事業者との間に不当な競争を引き起こすものであり,その他社会的経済的事情に照らして著しく不適当であるため,利用者の利益を阻害するものであるとき」には,総務大臣は,「他の電気通信事業者との間の公正な競争の確保等の観点から」,ユーザー料金の変更を命ずることができる(以下,この命令を「料金変更命令」という。)。」

また,⑥FTTHサービスのユーザー料金と接続料金との関係については,ユーザー料金が接続料金を下回るという逆ざやが生ずることのないようにとの行政指導が総務省により行われていた。

12. 上告人の提供するFTTHサービス(毎秒最大100メガビット)には,①「ベーシックタイプ」,すなわち収容局と加入者宅とを直結して光ファイバ1芯を加入者が1人で利用する方式(以下「芯線直結方式」という。)によるサービスと,②「ニューファミリータイプ」,すなわち収容局の内外に分岐装置を設置して光ファイバ1芯を複数の加入者(最大32人)で共用する方式(以下「分岐方式」という。)によるサービスがあった。分岐方式は,1芯の光ファイバを共用する複数の加入者が同時に利用した場合には芯線直結方式よりも通信速度が低下する可能性があった。

13. 上告人のこれら方式ないしサービスにかかる接続料金とユーザー料金は,平成1461日から同一6331日までの間(以下「本件行為期間」という。)の初期には,次のとおり設定され,このとおり認可・届出されていた。

①分岐方式による接続については,接続料金を加入者光ファイバ1芯単位のものとして定める(こうすると,加入者の人数が増加するごとに加入者1人当たりの金額が逓減することになる(例えば,1芯当たりの加入者が1人の場合は20130円であるが,32人の場合は2326円となる。))。

②芯線直結方式による接続については,接続料金は,加入者1人当たり最低でも月額6328円となる。

③ユーザー料金のうち,「ニューファミリータイプ」(平成1461日から提供開始)については,月額5800円とする。

④ベーシックタイプのユーザー料金は,月額9000円とする。

14. 前記13③の届出にあたり,上告人は,ニューファミリータイプの加入者が平均で1芯当たり約19人であると想定した場合は,その加入者1人当たりの接続料金(回線管理運営費等を含む。)が月額約4906円となることをベースとし,これに一定程度の営業費を見込んだものであると説明していた。しかし,実際には,前記ユーザー料金は,東京電力が同年3月から開始する予定であった毎秒最大100メガビットの通信速度によるFTTHサービスのユーザー料金相当額(上告人は月額6000円程度と推測していた。)に対抗するために設定されたものであった。

15. 東京電力は,平成1412月にそのFTTHサービスの値下げを実施した。これに対抗する必要から,上告人は,同151月~4月に一連の認可申請及び届出を行い,ニューファミリータイプのユーザー料金(前記13③)を月額4500円に引き下げた。この値下げ等を受けて,ニューファミリータイプの申込件数は増加した(平成145月から同152月まで(10か月間)計約33000件,同年4月から6月にかけて毎月2万件前後)。

16. 上告人は,実際には,ニューファミリータイプのサービスも,芯線直結方式により提供していた。上告人としては,分岐方式とするには分岐装置の設置が必要であることから,同タイプの加入者が少ないうちは芯線直結方式によることとする方針であった。ただし,どのような状況になれば分岐方式によるサービス提供のために必要な分岐装置の設置を行なうかについての具体的な基準は策定していなかった。また,上告人は,将来的に分岐方式を導入する場合であっても,新規利用分のみを分岐方式とし,芯線が不足した場合に初めて芯線直結方式を分岐方式に移行することが合理的であるとの認識を有していた。なお,加入者光ファイバに係る設備情報は,対外的には開示されていなかった。

17. 上告人は,総務省の求めに応じたニューファミリータイプの実際の設備構成等についての報告(平成159月)において,ニューファミリータイプの大部分を本来の分岐方式ではなく芯線直結方式により提供していたこと,理由は加入者が点在している過渡期には芯線直結方式の方が設備費用が安価であったためであること,需要が堅調に出始めたことから早急に分岐方式に移行するよう検討を行っていること等と述べた。

18. 上告人は,総務省から,平成1511月に「ニューファミリータイプについて,そのサービスの内容が事実上ベーシックタイプと同じであり,現在の設備構成が将来にわたって継続する場合には電気通信事業法3122号の「不当な差別的取扱い」又は3号の「社会的経済的事情に照らして著しく不適当であるため,利用者の利益を阻害するもの」に該当すると考えられるため,既存加入者の分岐方式への移行についてはできる限り前倒しでその工事を行うとともに,より柔軟な接続料金の設定について検討し報告すること」等を求める行政指導を受けた。ただし,変更認可申請命令や料金変更命令が発出されることはなかった。

19. 上告人は,公取委から「本件行為期間において,ニューファミリータイプのFTTHサービスを自ら加入者に提供するに際し,分岐方式を用いることを前提に光ファイバ1芯を共用する加入者の人数が増えるに従って1人当たりの金額が逓減する接続料金に係る認可を受けていながら,実際には芯線直結方式を用い,他の電気通信事業者が芯線直結方式で上告人の加入者光ファイバ設備に接続してFTTHサービスを提供するために支払うべき接続料金を下回るユーザー料金を設定したこと(以下「本件行為」という。)」が排除型私的独占に該当し独禁法3条に違反するとの審決を受け,その取消しを求めた。

 

裁判所の判断

本件行為が,独禁法25項に規定する排除行為にあたるかどうかは,「具体的には」,①競業者(FTTHサービス市場における競業者をいい,潜在的なものを含む。以下同じ。)が加入者光ファイバ設備接続市場において上告人に代わり得る接続先を確保することの難易,②FTTHサービスの特性,③本件行為の態様,④上告人及び競業者のFTTHサービス市場における地位及び競争条件の差異,⑤本件行為の継続期間等の諸要素を総合的に考慮して判断すべきものと解される。

行為態様について,「本件行為期間において,上告人はニューファミリータイプのFTTHサービスを芯線直結方式によって提供しており,当時の需給関係等からみてこれによってもダークファイバが不足するような事態は容易に想定し難く,上告人においても分岐方式への移行の具体的な予定がなかったことなどからすれば,ニューファミリータイプのFTTHサービスはその実質において芯線直結方式を前提とするベーシックタイプと異なるものではなかったというべきところ,ニューファミリータイプのユーザー料金は芯線直結方式において他の電気通信事業者から取得すべき接続料金を下回るものであったというのであるから,上告人の加入者光ファイバ設備に接続する電気通信事業者は,いかに効率的にFTTHサービス事業を営んだとしても,芯線直結方式によるFTTHサービスをニューファミリータイプと同額以下のユーザー料金で提供しようとすれば必ず損失が生ずる状況に置かれることが明らかであった。しかも,上告人はニューファミリータイプを分岐方式で提供するとの形式を採りながら,実際にはこれを芯線直結方式で提供することにより,正に上記のような状況が生ずることを防止するために行われていた行政指導を始めとするユーザー料金等に関する種々の行政的規制を実質的に免れていたものといわざるを得ない。」

「上告人は,FTTHサービス市場において他の電気通信事業者よりも先行していた上,その設置した加入者光ファイバ設備を自ら使用していたためユーザー料金が接続料金を下回っていたとしても実質的な影響はなく,ダークファイバの所在等に関する情報も事実上独占していたこと等にもかんがみれば,上告人と他の電気通信事業者との間にはFTTHサービス市場における地位及び競争条件において相当の格差が存在した」。

「本件行為期間は110か月であるところ,その間のFTTHサービス市場の状況にかんがみ,当時同市場は急速に拡大しつつあったものと推認されるから,上記の期間は上告人による市場支配力の形成,維持ないし強化という観点から相応の有意な長さのある期間であったというべきである。」

以上によれば,本件行為は,上告人が,その設置する加入者光ファイバ設備を,自ら加入者に直接提供しつつ,競業者である他の電気通信事業者に接続のための設備として提供するに当たり,加入者光ファイバ設備接続市場における事実上唯一の供給者としての地位を利用して,当該競業者が経済的合理性の見地から受け入れることのできない接続条件を設定し提示したもので,その単独かつ一方的な取引拒絶ないし廉売としての側面が,自らの市場支配力の形成,維持ないし強化という観点からみて正常な競争手段の範囲を逸脱するような人為性を有するものであり,当該競業者のFTTHサービス市場への参入を著しく困難にする効果を持つものといえるから,同市場における排除行為に該当するというべきである。

FTTHサービス市場は,当該市場自体が独立して独禁法25項にいう「一定の取引分野」であったと評価することができる。」とくに,「本件行為期間において,ブロードバンドサービスの中でADSLサービス等との価格差とは無関係に通信速度等の観点からFTTHサービスを選好する需要者が現に存在していたことが明らかであり,それらの者については他のブロードバンドサービスとの間における需要の代替性はほとんど生じていなかったものと解される」。

競争の実質的制限について,「この市場においては,既に競業者である東京電力及び有線ブロードが存在していたが,これらの競業者のFTTHサービス提供地域が限定されていたことやFTTHサービスの特性等に照らすと,本件行為期間において,先行する事業者である上告人に対するFTTHサービス市場における既存の競業者による牽制力が十分に生じていたものとはいえない状況にあるので,本件行為により,同項にいう「競争を実質的に制限すること」,すなわち市場支配力の形成,維持ないし強化という結果が生じていた」。「さらに,上告人が本件行為を停止した後に他の電気通信事業者が本格的にFTTHサービス市場への新規参入を行っていること,その前後を通じて東京電力及び有線ブロードの競争力に変動があったことを示すような特段の事情はうかがわれないこと等からすれば,FTTHサービス市場における上記のような競争制限状態は本件行為によってもたらされたものであり,両者の間には因果関係があるということができる」。

なお,「総務大臣が上告人に対し本件行為期間において電気通信事業法に基づく変更認可申請命令や料金変更命令を発出していなかったことは,独禁法上本件行為を適法なものと判断していたことを示すものでないことは明らかであり,このことにより,本件行為の独禁法上の評価が左右される余地もない」。

 


 

 

[基本・判決][事例]

(株)イーライセンスによる審決取消等請求事件(日本音楽著作権協会事件)

最高裁判所判決平成27428

最高裁判所民事判例集693518頁,判例時報2261122頁,裁判所時報16271

独禁法3条前段(排除)

 

「独占禁止法25項にいう「他の事業者の事業活動を排除」する行為に該当するか否かは,・・・,自らの市場支配力の形成,維持ないし強化という観点からみて正常な競争手段の範囲を逸脱するような人為性を有するものであり,他の管理事業者の本件市場への参入を著しく困難にするなどの効果を有するものといえるか否かによって決すべきものである(最高裁平成221217日民集6482067[東日本電信電話()による審決取消請求事件最高裁判決]参照)。」

 

1. 日本音楽著作権協会(参加人)は,著作権に関する仲介業務に関する法律に基づく許可を受け,我が国における唯一の管理事業者として音楽著作権管理事業を営んできた。

2. 平成1310月に著作権等管理事業法が施行され,これ以降は,参加人は,同法3条に基づく文化庁長官の登録を受けたものとみなされて音楽著作権管理事業を継続している。

3. 音楽著作権管理事業とは,①管理事業者が,著作者や音楽著作権を有する音楽出版社等(以下「著作者等」という。)との間で管理委託契約を締結して音楽著作権の管理の委託を受けるとともに,②その管理に係る音楽著作物(以下「管理楽曲」という。)につきその利用を希望する者との間で利用許諾契約を締結してその利用を許諾し,③利用許諾契約に定められた使用料を徴収して,著作者等に分配する事業である。

4. 音楽著作権管理事業に係る市場は,①管理委託に関するものと②利用許諾に関するものとに分類することができる。

5. 管理楽曲の利用者には,放送事業者が含まれる。放送事業者によるテレビ・ラジオ放送においては,膨大な数の楽曲が日常的に利用される。(なお,前記4の②の市場のうち,放送事業者による管理楽曲の放送利用に係る利用許諾に関する市場を以下,「本件市場」という。)。

6. 放送事業者と参加人とは,参加人の管理楽曲の全てについてその利用を包括的に許諾する利用許諾契約が締結されている(以下,包括的な許諾を「包括許諾」という。)。

7. 包括許諾の方式による利用許諾契約上定められる使用料(以下「放送使用料」という。)の徴収方法には,一般的に,①1曲1回ごとの料金として定められる金額(以下「単位使用料」という。)に管理楽曲の利用数を乗じた額を徴収する方式(以下,この方式により行われる放送使用料徴収を「個別徴収」という。)と,②例えば年間一定額を支払うこととし又は一定率により計算される金額を支払うなど包括的に定められる額を徴収する方法((以下,この方式により行われる放送使用料聴衆を「包括徴収」という。)とがある。

8. 参加人は,使用料規程において,年間の包括許諾による利用許諾契約が締結される場合には包括徴収を行い,これ以外の場合には個別徴収を行うこととしている。

9. 参加人の上記使用料規程における包括徴収は,具体的には,①B及び地上波放送を行う一般の放送事業者については,前年度における放送事業収入に一定率を乗じた額を当年度の放送使用料とすること,②衛星放送を行う一般の放送事業者については,前年度における衛星放送の当該チャンネルの放送事業収入に一定率を乗じた額をを当該年度の放送使用料とするというものである(以下,上記①・②の額又は所定の金額による放送使用料の徴収を「本件包括徴収」という。)。

10. 参加人の上記使用料規定における個別徴収は,具体的には,11回ごとの単位使用料を64000円としている。

11. 参加人の上記10の個別徴収による場合には,放送事業者が参加人に支払う放送使用料の総額は,本件包括徴収による場合と比較して著しく多額となる。このため,ほとんど全ての放送事業者が参加人との間で年間の包括許諾及び本件包括徴収による利用許諾契約を締結している(以下,参加人がほとんど全ての放送事業者との間で本件包括徴収による利用許諾契約を締結しこれに基づく放送使用料の徴収をする行為を「本件行為」という。)。

12. 著作権等管理事業法の施行による音楽著作権管理事業の許可制から登録制への移行(平成1310月)に伴い,4社がインタラクティブ配信(インターネット等を用いた楽曲の公衆送信をいう。)等について音楽著作権管理事業を開始した。しかしながら,登録制への移行後今なお参加人は,音楽著作権の大部分について管理委託を受けている。

13. 本件市場においては,平成1810月まで,参加人のみが事業を行っていた。平成1810月に,株式会社イーライセンス(被上告人)が本件市場に参入した。

14. 被上告人は,本件市場参入に先立ち,音楽コンテンツの制作等を行い音楽著作権を保有するD及びその子会社(以下「Dグループ」という。)との間で,音楽著作権の管理委託契約を締結した。そして,被上告人は,2社との間で,被上告人の管理楽曲の放送利用についてその許諾方法を包括許諾とし放送使用料の徴収方法を個別徴収とする旨をそれぞれ合意し,平成18101日から本件市場において利用許諾業務を開始した。

15. 被上告人が管理委託を受けた楽曲60曲中には,放送利用の需要が見込まれる著名な歌手の楽曲が含まれていた。

16. 上記15にもかかわらず,首都圏のFMラジオ局を含む相当数の放送事業者が被上告人の管理楽曲の利用を回避し又は回避しようとするし,被上告人が委託を受けて管理する楽曲の放送局による利用については実績が上がらなかった。このため,Dグループは,平成1812月に被上告人との上記管理委託契約を解約した。

17. その後,被上告人の管理楽曲の数は,平成203月末時点までに1566曲へと増加した。しかしながら,被上告人が徴収した放送使用料の額は,66567円(平成18年),75640円(平成19年)にとどまっている。

18. 公正取引委員会(上告人)は,平成21227日に,参加人の本件行為につき,本件市場における他の管理事業者の事業活動を排除するものとして独禁法25(排除型私的独占)に該当し3条に違反するとして,参加人に対して,「放送事業者から徴収する放送使用料の算定において当該放送事業者が放送番組に利用した音楽著作物の総数に占める参加人の管理楽曲の割合(以下「放送利用割合」という。)が当該放送使用料に反映されない方法を採用することにより当該放送事業者が他の管理事業者にも放送使用料を支払う場合にはその負担に係る放送使用料の総額がその分だけ増加することとなるようにしている行為を取りやめるべきこと」などを命ずる排除措置命令(以下,「本件排除措置命令」という。)をした。

19. 本件排除措置命令を不服として参加人は,上告人に審判を請求した。上告人は,本件行為は本件市場における他の管理事業者の事業活動を排除する効果を有しないとして,本件排除措置命令を取り消す旨の審決(以下「本件審決」という。)をした。被上告人が本件審決を不服として取消を請求したところ,東京高裁はこの請求を認めた(平成25111日)。上告人が上告した。

 

(裁判所の判断)

「本件行為が独占禁止法25項にいう「他の事業者の事業活動を排除」する行為に該当するか否かは,本件行為につき,自らの市場支配力の形成,維持ないし強化という観点からみて正常な競争手段の範囲を逸脱するような人為性を有するものであり,他の管理事業者の本件市場への参入を著しく困難にするなどの効果を有するものといえるか否かによって決すべきものである(最高裁平成221217日民集6482067[東日本電信電話()による審決取消請求事件最高裁判決]参照)。

[排除効果について]

「本件行為が上記の効果を有するものといえるか否かについては,本件市場を含む音楽著作権管理事業に係る市場の状況,参加人及び他の管理事業者の上記市場における地位及び競争条件の差異,放送利用における音楽著作物の特性,本件行為の態様や継続期間等の諸要素を総合的に考慮して判断されるべきものと解される。」

「前記の事実関係等によれば,参加人は,著作権等管理事業法の施行による音楽著作権管理事業の許可制から登録制への移行の時点で既にその管理委託及び利用許諾の各市場において事実上の独占状態にあったものである。そして,音楽著作権の管理においては,一般に管理楽曲に係る利用許諾や不正利用の監視,使用料の徴収や分配等を行うために多額の費用を要することなどから,他の管理事業者による上記各市場への参入は相応の困難を伴うものであり,上記の許可制から登録制への移行後も,参加人が大部分の音楽著作権につき管理の委託を受けている状況は継続していたものである。このことに加え,放送利用においては膨大な数の楽曲が日常的に利用されるものであることから,本件市場では,放送事業者にとって,上記のように大部分の音楽著作権につき管理の委託を受けている参加人との間で包括許諾による利用許諾契約を締結することなく他の管理事業者との間でのみ利用許諾契約を締結することはおよそ想定し難い状況にあったものといえる。

 また,本件市場に新規に参入する他の管理事業者は自らの管理楽曲の個性を活かして供給の差別化を図るなどの方法によって既存の管理事業者と競争することとなるところ,放送事業者による放送番組に利用する楽曲の選択においては,当該放送番組の目的や内容等の諸条件との関係で特定の楽曲の利用が必要とされる例外的な場合を除き,上記の諸条件を勘案して当該放送番組に適する複数の楽曲の中から選択されるのが通常であるということができ,このような意味において,楽曲は放送利用において基本的に代替的な性格を有するものといえる。」

「前記・・・のとおり,本件行為は,参加人がほとんど全ての放送事業者との間で年度ごとの放送事業収入に所定の率を乗じて得られる金額又は所定の金額を放送使用料とする本件包括徴収による利用許諾契約を締結しこれに基づく放送使用料の徴収をするというものであるところ,このような内容の利用許諾契約が締結されることにより,放送使用料の金額の算定に管理楽曲の放送利用割合が反映される余地はなくなるため,放送事業者において,他の管理事業者の管理楽曲を有料で利用する場合には,本件包括徴収による利用許諾契約に基づき参加人に対して支払う放送使用料とは別に追加の放送使用料の負担が生ずることとなり,利用した楽曲全体につき支払うべき放送使用料の総額が増加することとなる。

 そうすると,上記・・・のとおり,放送事業者にとって参加人との間で包括許諾による利用許諾契約を締結しないことがおよそ想定し難いことに加え,楽曲が放送利用において基本的に代替的な性格を有するものであることにも照らせば,放送事業者としては,当該放送番組に適する複数の楽曲の中に参加人の管理楽曲が含まれていれば,経済合理性の観点から上記のような放送使用料の追加負担が生じない参加人の管理楽曲を選択することとなるものということができ,これにより放送事業者による他の管理事業者の管理楽曲の利用は抑制されるものということができる。そして,参加人は,上記のとおりほとんど全ての放送事業者との間で本件包括徴収による利用許諾契約を締結しているのであるから、本件行為により他の管理事業者の管理楽曲の利用が抑制される範囲はほとんど全ての放送事業者に及ぶこととなり,その継続期間も,著作権等管理事業法の施行から本件排除措置命令がされるまで7年余に及んでいる。このように本件行為が他の管理事業者の管理楽曲の利用を抑制するものであることは,前記・・・のとおり,相当数の放送事業者において被上告人の管理楽曲の利用を回避し又は回避しようとする行動が見られ,被上告人が放送事業者から徴収した放送使用料の金額も僅少なものにとどまっていることなどからもうかがわれるものということができる。」

「以上によれば,参加人の本件行為は,本件市場において,音楽著作権管理事業の許可制から登録制への移行後も大部分の音楽著作権につき管理の委託を受けている参加人との間で包括許諾による利用許諾契約を締結しないことが放送事業者にとっておよそ想定し難い状況の下で,参加人の管理楽曲の利用許諾に係る放送使用料についてその金額の算定に放送利用割合が反映されない徴収方法を採ることにより,放送事業者が他の管理事業者に放送使用料を支払うとその負担すべき放送使用料の総額が増加するため,楽曲の放送利用における基本的に代替的な性格もあいまって,放送事業者による他の管理事業者の管理楽曲の利用を抑制するものであり,その抑制の範囲がほとんど全ての放送事業者に及び,その継続期間も相当の長期間にわたるものであることなどに照らせば,他の管理事業者の本件市場への参入を著しく困難にする効果を有するものというべきである。」 

「したがって,本件行為が上記の効果を有するものであるとした原審の判断は,以上と同旨をいうものとして是認することができる。論旨は採用することができない。」

[正常な競争手段の範囲を逸脱する人為性の有無について等]

「なお,前記2の事実関係等や前記・・・の諸事情などに鑑みると,大部分の音楽著作権につき管理の委託を受けている参加人との間で包括許諾による利用許諾契約を締結しないことが放送事業者にとっておよそ想定し難い状況の下で,参加人は,前記・・・のとおり,その使用料規程において,放送事業者の参加人との利用許諾契約の締結において個別徴収が選択される場合にはその年間の放送使用料の総額が包括徴収による場合に比して著しく多額となるような高額の単位使用料を定め,これによりほとんど全ての放送事業者が包括徴収による利用許諾契約の締結を余儀なくされて徴収方法の選択を事実上制限される状況を生じさせるとともに,その包括徴収の内容につき,放送使用料の金額の算定に管理楽曲の放送利用割合が反映されない本件包括徴収とするものと定めることによって,前記・・・のとおり,放送使用料の追加負担によって放送事業者による他の管理事業者の管理楽曲の利用を相当の長期間にわたり継続的に抑制したものといえる。このような放送使用料及びその徴収方法の定めの内容並びにこれらによって上記の選択の制限や利用の抑制が惹起される仕組みの在り方等に照らせば,参加人の本件行為は,別異に解すべき特段の事情のない限り,自らの市場支配力の形成,維持ないし強化という観点からみて正常な競争手段の範囲を逸脱するような人為性を有するものと解するのが相当である。したがって,本件審決の取消し後の審判においては,独占禁止法25項にいう「他の事業者の事業活動を排除」することという要件の該当性につき上記特段の事情の有無を検討の上,上記要件の該当性が認められる場合には,本件行為が同項にいう「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」ものに該当するか否かなど,同項の他の要件の該当性が審理の対象になるものと解される。

 


 

[事例]

(財)日本医療食協会ほか1名に対する件

勧告審決平成858

審決集43209

 独禁法3条前段(排除・支配)

*公的検査制度の濫用

 

1. 財団法人日本医療食協会(以下「協会」という。)は,医療用食品の検査機関として指定を受け,医療用食品の販売業者等から検定料を徴収して,医療用食品の栄養成分値等の検査を行う収益事業を営む。国内には,医療用食品の検査機関として指定されている者は他に存在しない。

2. 「医療用食品」とは,主として入院患者の食事療養に用いられることを目的とする食品であって,厚生大臣が指定した検査機関において栄養成分が分析され,かつ,当該栄養成分分析値が保たれているものをさす。医療用食品の給与については,入院時食事療養費に一定金額を加算した給付が受けられる制度(以下「医療用食品加算制度」という。)が適用される。

3. 協会は,製造業者の出荷価額に一定率を乗じて算出した金額を検定料として徴収している。

4. 協会では,医療用食品の登録制度を設け,協会の栄養成分値等の分析検査に合格し厚生省の了承を得たものを医療用食品として登録している。厚生省は,協会に登録された医療用食品を医療用食品加算制度の対象として都道府県に通知している。

5. 医療用販売業者には,①製造業者から医療用食品を仕入れて販売業者又は医療機関に販売している者(以下「一次販売業者」という。)と,②一次販売業者から医療用食品を仕入れて医療機関に販売している者(以下「二次販売業者」という。)がある。

6. 協会は,昭和4712月ころから医療用食品の製造工場認定制度及び販売業者認定制度を実施し,認定した製造業者又は販売業者のみに医療用食品の製造又は販売を行わせてきた。

7. 昭和52年ころ,協会は,日清医療食品から,医療機関向け医療用食品の販売を一手に行いたい旨の要請を受けた。協会では,医療用食品の価格維持を図り,協会の検定料収入を安定的に確保するために,原則として医療機関向け医療用食品の一次販売業者を日清医療食品とすることを決定した。

8. 協会は,医療用食品の製造業者間及び販売業者間の競争を生じさせないようにし,日清医療食品の独占的供給体制を確立するために,①前記4の登録については,審査の過程に日清医療食品を参画させ,②既に登録している医療用食品と類似する食品を登録せず,③医療用食品の登録品目数の目安を280品目程度としそれ以上は登録しないという方針を設けて,実施してきた。

9. 昭和61年に入り日清医療食品の独占的供給体制への社会的批判が高まると,これをかわすために協会は,かねてから医療用食品の一次販売業者となることを希望していたナックスを,一次販売業者に加えることにした。この際,日清医療食品及び協会は,日清医療食品の独占的供給体制を実質的に維持し協会の検定料収入を安定的に確保するために,ナックスに次の事項を内容とする協定(「61年協定」という。)を締結させた。そして,この協定の締結後は,これら取決めを遵守させることにより,ナックス並びに他の医療用販売業者及び製造業者の活動を制限した。

①ナックスが新たに参入する地域は,医療用食品の普及率の低い地域を中心とする21都道県のみとする。

②医療用食品の販売系列は,日清医療食品及びナックスの2系列とし,日清医療食品及びナックスは共同して両社の系列に属さない販売業者の参入の防止に努める。

③日清医療食品及びナックスは,新規の二次販売業者を日清医療食品又はナックスのいずれかの系列に属させ,自己の系列以外の二次販売業者には販売しない。

④日清医療食品及びナックスは,他の販売業者から既に医療用食品を購入している医療機関に対しては,一切の営業活動を行わず,二次販売業者に対しても,これを遵守させる。

⑤日清医療食品及びナックスは,今後においても,日清医療食品系製造業者に対しては専ら日清医療食品に,ナックス系製造業者に対しては専らナックスに販売させる。

⑥日清医療食品及びナックスは,医療機関に対しては,日清医療食品又はナックスが定めた医療機関向け販売価格(以下「定価」という。)で販売し,二次販売業者に対しても,定価で販売することを遵守させる。

⑦日清医療食品及びナックスの二次販売業者向け販売価格は同一とする。

10. 公取委が本件について審査を開始したところ,協定及び日清医療食品は,ナックスとともに前記9の協定の破棄を決定するなどして前記9の行為をとりやめ,医療用食品の製造工場認定制度及び販売業者認定制度を廃止すること並びに登録方針を破棄することを決定した。

法令の適用

協会及び目清医療食品は,61年協定及び登録方針に従い,医療用食品の登録制度,製造工場認定制度及び販売業者認定制度を実施することによって,医療用食品を製造又は販売しようとする事業者の事業活動を排除するとともに医療用食品の製造業者の販売先並びに医療用食品の販売業者の仕入先,販売先,販売価格,販売地域及び販売活動を制限してこれらの事業者の事業活動を支配することにより,公共の利益に反して,我が国における医療用食品の取引分野における競争を実質的に制限していたものであって,これは,独占禁止法第2条第5項に規定する私的独占に該当し,同法第3条の規定に違反するものである。

 


 

[事例]

パラマウントベッド(株)に対する件

勧告審決平成10331

審決集44362

独禁法3条前段(排除・支配)

*公共入札制度の濫用

 

1. パラマウントベッド株式会社(以下「パラマウントベッド社」という。)は,病院の入院患者等が使用するべッド(以下「医療用べッド」という。)の製造販売業を営む。

2. 我が国において医療用べッドの製造販売業を営む者には,パラマウントベッド社のほか,フランスベッド株式会社(以下「フランスベッド社」という。),マーキスベッド株式会社(以下「マーキスベッド社」という。)等がある。

3. パラマウントベッド社は,国及び地方公共団体が発注する病院向け医療用べッドのほとんどすべてを製造販売している。

4. 東京都財務局が発注する特定医療用べッドを製造している事業者は,パラマウントベッド社,フランスベッド社及びマーキスベッド社の3社(以下「メーカー3社」という。)であり,パラマウントベッド社は,そのほとんどを製造している。

5. 東京都は,財務局が発注事務を所管する発注予定金額が500万円以上の都立病院向け医療用ベッド(以下「財務局発注の特定医療用べッド」という。)を,指名競争入札又は一般競争入札の方法(以下これらを「指名競争入札等」という。)により発注している。東京都は,これら指名競争入札等に当たっては,あらかじめ入札参加者を決めている。

6. 東京都は,中小企業育成の観点から,販売業者を前記5の入札の参加者としている。財務局発注の特定医療用べッドの指名競争入札等に参加している販売業者は,33者であり,それぞれ,メーカー3社のいずれかの医療用べッドを納入予定として入札に参加している。

7. 東京都は,指名競争入札等に当たっては,通常,複数の製造業者が製造する医療用べッドが納入可能な仕様書を定めて当該仕様書に適合する製品を対象とする入札(以下「仕様書入札」という。)を行っている。

8. 東京都は,とくに,電動式ギャッチベッドに切り替える3ヵ年計画計画に基づき発注する医療用ベッドについては,入札の公平性及び製造業者間の競争の確保等を図るため,次のとおりの発注方針を定めている。

①メーカー3社が製造する医療用べッドが納入可能な仕様書入札を実施する。

②メーカー3社の医療用べッドの発注の機会を確保するため,入札参加者(販売業者)の取引先製造業者にメーカー3社が含まれるようにすること。

9. 東京都は,平成7年度以降,財務局発注の特定医療用べッドを指名競争入札等により13件(うち11件は前記8の「3か年計画」に基づく案件である。)発注しており,このうち12件を仕様書入札,1件をパラマウントベッド社製品の製品指定入札としている。

10. パラマウントベッド社は,平成7年度以降,財務局発注の特定医療用べッドの指名競争入札等に関して,次の行為を行うことにより,同社の製品のみが適合する仕様書とすることを実現している。

①仕様書入札において,前記の東京都の方針を知りながら,医療用ベッドの仕様に精通していない都立病院の入札事務担当者に対して,

(i) 「同社の製品のみが適合する仕様を含んでいても対外的には東京都の方針に反していることが露見しないように仕様書を作成することができる」と申し出るなどし,

(ii) 同社が実用新案権等の工業所有権を有している構造であることを伏せて,仕様書に同構造の仕様を盛り込むことを働きかけ,

(iii)  フランスベッド社及びマーキスベッド社の標準品の仕様にはなく,これら2社が適合する製品を製造するためには相当の費用及び時間を要することが予想されるパラマウントベッド社の標準品等の仕様を仕様書に盛り込むよう働きかける。

11. パラマウントベッド社は,また,入札事務担当者をして次の行為を行わせている。

(i) 入札のための現場説明会において,パラマウント社の製品の仕様のみに合致する内容を説明し,又は,メーカー3社の標準品の機能等を比較しながらパラマウントベッド社の製品の機能がフランスベッド社及びマーキスベッド社の製品の機能に比較して著しく優れていることを示す一覧表(パラマウントベッド社が作成したものである。)を掲示して説明し,これらを通じて,入札参加者に対して同社の医療用べッドを発注する旨表明すること

(ii) フランスベッド社及びマーキスベッド社らが,仕様書がパラマウントベッド社の製品しか対応できない内容ではないかなどと質問し,仕様書の修正を要求したところ,これに対して,パラマウントベッド社の作成した回答に従って,当該仕様書の内容の必要性等を説明してパラマウントベッド社と相談の上で修正要求には応じないなどとの対応をとること

12. パラマウントベッド社の前記1011の行為により,平成7年度以降,財務局発注の特定医療用べッドについて,仕様書入札のほとんどの案件において,他の製造業者が製造する医療用べッドを納入予定とする販売業者は入札に参加することができず,その結果,他の製造業者は製品を納入することができなくなっている。

13.  パラマウントベッド社は,平成7年度以降,財務局発注の特定医療用べッドの仕様書入札及び同社の製品の製品指定入札において,入札参加者の中から,あらかじめ,落札すべき者(以下「落札予定者」という。)を決めた上で,落札予定価格を決め,落札予定者及び他の入札参加者に対し,それぞれ,入札すべき価格を指示して当該価格で入札させている。

14. パラマウントベッド社の前記行為により,仕様書入札のほとんどの案件及びパラマウントベッド社の製品の製品指定入札の案件において,入札参加者は同社から入札価格の指示を受けて,当該価格で入札させられており,その結果,同社が定めた落札予定者が同社が定めた落札予定価格で落札している。

法令の適用

「パラマウントベッド社は,財務局発注の特定医療用べッドの指名競争入札等に当たり,都立病院の入札事務担当者に対し,同社の医療用べッドのみが適合する仕様書の作成を働きかけるなどによって,同社の医療用べッドのみが納入できる仕様書入札を実現して,他の医療用べッドの製造業者の事業活動を排除することにより,また,落札予定者及び落札予定価格を決定するとともに,当該落札予定者が当該落札予定価格で落札できるように入札に参加する販売業者に対して入札価格を指示し,当該価格で入札させて,これらの販売業者の事業活動を支配することにより,それぞれ,公共の利益に反して,財務局発注の特定医療用べッドの取引分野における競争を実質的に制限しているものであって,これらは,独占禁止法第2条第5項に規定する私的独占に該当し,独占禁止法第3条の規定に違反するものである。」

主文

1 パラマウントベッド株式会社は,平成7年度以降,東京都が指名競争入札又は「地方公共団体の物品等又は特定役務の調達手続の特例を定める政令」(平成7年政令第372号)の規定が適用される一般競争入札の方法により発注する都立病院向け医療用べッド(財務局が発注事務を所管するもの)について行っている次の行為を取りやめなければならない。

1 複数の製造業者が製造する医療用べッドが納入可能な仕様書を定めて当該仕様書に適合する製品を対象とする入札において,都立病院の入札事務担当者に対し,パラマウントベッド株式会社が実用新案権等の工業所有権を有している構造であることを伏せて仕様書に同構造の仕様を盛り込むこと若しくは仕様書に他の医療用べッド製造業者がそれに適合する製品を製造するためには相当の費用及び時間を要することが予想される同社の標準品等の仕様を盛り込むことを働きかけることにより,同社の製品のみが適合する仕様書とすることを実現し,又は都立病院の入札事務担当者をして,入札のための現場説明会において同社の製品を発注する旨を表明するようにさせている行為

2 入札参加者の中から落札予定者を決めるとともに,落札予定価格を決め,当該落札予定者が当該落札予定価格で落札できるようにするため,入札参加者に入札すべき価格を指示し,当該価格で入札させている行為及び当該行為の実効を確保するため,入札参加者に対し,入札における協力への礼金の提供又は落札された製品について帳票類上のみの取引に参加させることによる利益の提供を行っている行為」(主文・以下略)                                                         

 


 

[事例]

(株)三共ほか10名に対する件(パチンコ機特許プール事件)

勧告審決平成986

審決集44238

独禁法3条前段(排除)

*取引拒絶

 

1. 株式会社三共,株式会社平和,株式会社ニューギン,株式会社三洋物産,マルホン工業株式会社(以下「マルホン」という。),株式会社ソフィア(以下「ソフィア」という。),株式会社大一商会,豊丸産業株式会社,京楽産業株式会社及び奥村遊機株式会社の10社(以下「10社」という。)は,ぱちんこ機の製造販売業(又は,1社については製造業)を営む。

2. 10社は,国内において供給されるぱちんこ機のほとんどを供給している。

3. 10社は,ぱちんこ機の製造に関する特許権及び実用新案権(以下「特許権等」という。)を所有し,これら特許権等の全部又は一部について,その通常実施権の許諾の諾否,実施許諾契約締結事務などの特許管理運営業務を,株式会社日本遊技機特許運営連盟(以下「日特連」という。)に委託している。

4. 日特連の発行済株式の過半数は,10社により直接又は間接に所有されている。10社は,日特連が管理運営する特許権等の実施許諾の諾否等の決定に実質的に関与している。

5. 日特連は,ぱちんこ機の製造を行う上で重要な特許権等を所有又は管理している。なかでも,これら特許権等の実施許諾を受けることなく,「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律」の定める検定に適合するぱちんこ機を製造することは困難である。

6. 日特連は,日本遊技機工業組合(以下「遊技機工組」という。)の組合員に対して,特許権等の実施許諾を行なっている。遊技機工組の組合員19社は,国内のぱちんこ機製造業者のほとんどすべてにあたる。組合員19社は,すべて日特連が所有又は管理運営する特許権等の実施許諾を受けてぱちんこ機を製造している。

7. 既存のぱちんこ機製造業者間でのぱちんこ機製造販売分野における自由な競争は,長年にわたるぱちんこ機製造販売業界における協調的な取引慣行とあいまって著しく阻害されている状況にあった。

8. 日特連は,既存のぱちんこ機製造業者である組合員の利益の確保を図るため,ぱちんこ機の製造分野への参入を抑止する方針の下に,自己が所有又は管理運営する特許権等の実施許諾について,かねてから,①ぱちんこ機を製造している組合員以外の者に実施許諾を行なわず,②実施許諾契約においては,許諾を受ける者が営業状態を著しく変更した場合(相手方の商号,標章,代表者及び役員の構成の変更等)には当該契約を解除することができる旨の条項を設けることにより,参入を抑止してきた。

9. 昭和58年春ころには,ぱちんこ機の市場規模が拡大する中,①右回胴式遊技機の大手製造業者や,②アレンジボール遊技機の製造業者であって従来,実施許諾を受けてぱちんこ機を製造することを認められていなかった組合員の新規参入の動きが生じた。この中で,10社(ただし,マルホンについては,平成5年秋ごろから)及び遊技機特許連盟は,「既存のぱちんこ機製造業者の市場占有率を確保し,当該製造業者間での価格競争等を回避してきた体制を維持する」ことを目的として,参入を抑止する手段として,(i) 9社及び日特連が新たに特許権等を取得し,遊技機特許連盟が所有又は管理運営する特許権等を集積して,参入に対する障壁を強化し,(ii) 参入希望者に対しては当該特許権等の実施許諾を行わず,(iii)これらにより,ぱちんこ機の製造分野への参入を排除する旨の方針を確認し,その後,この方針に基づき,参入を排除してきている。

10.  たとえば,非組合員である回胴式遊技機の大手製造業者は,既存のぱちんこ機製造業者である組合員の発行済株式の過半数を取得することを通じてぱちんこ機の製造分野に参入を図ろうとしたが,10社のうちマルホンを除く9社及び日特連は前記方針に基づき同組合員との実施許諾契約の更新を拒絶し続けた。この結果,この回胴式遊技機製造業者は,組合員を介してぱちんこ機の製造をすることができなくなった。

11. また,ぱちんこ機の製造販売を行いたいと考え,ぱちんこ機の開発に努めてきた事業者は,日特連が所有又は管理運営する特許権等の実施許諾を希望しているものの,10社及び日特連の前記方針のために,既存のぱちんこ機製造業者以外の者が当該特許権等の実施許諾を受けることは困難であるとの認識から,正式に実施許諾を申し出るには至っておらず,ぱちんこ機の製造を断念している状況にある。

法令の適用

10社及び遊技機特許連盟は,結合及び通謀をして,参入を排除する旨の方針の下に,遊技機特許連盟が所有又は管理運営する特許権等の実施許諾を拒絶することによって,ぱちんこ機を製造しようとする者の事業活動を排除することにより,公共の利益に反して,我が国におけるぱちんこ機の製造分野における競争を実質的に制限しているものであって,これは,特許法(昭和34年法律第121号)又は実用新案法(昭和34年法律第123号)による権利の行使とは認められないものであり,独占禁止法第2条第5項に規定する私的独占に該当し,独占禁止法第3条の規定に違反するものである。

主文

1 株式会社三共,株式会社平和,株式会社ニューギン,株式会社三洋物産,マルホン工業株式会社,株式会社ソフィア,株式会社大一商会,豊丸産業株式会社,京楽産業株式会社及び奥村遊機株式会社の10社並びに株式会社日本遊技機特許運営連盟は,共同して確認しているぱちんこ遊技機の製造分野への参入を排除する旨の方針を破棄しなければならない。

2 前記10社及び前記日本遊技機特許運営連盟は,同連盟が所有又は管理運営するぱちんこ遊技機の製造に関する特許権及び実用新案権の通常実施権の許諾に関して,前記1の方針に基づいて行った措置を撤回しなければならない。

3 1 前記日本遊技機特許運営連盟は,同連盟が所有するぱちんこ遊技機の製造に関する特許権及び実用新案権の通常実施権の許諾を内容とする契約書中,当該契約の相手方の商号,標章,代表者及び役員の構成等を変更した場合は同連盟に届け出てその承認を得なければならない旨の条項及びこれに違反し又はその承認が得られない場合には当該契約を解除することができる旨の条項を削除しなければならない。」(主文・中略)

4 前記10社及び前記日本遊技機特許運営連盟は,次の事項をぱちんこ遊技機の製造をする者及び同遊技機の製造をしようとする者に周知徹底させなければならない。」(主文・以下略)

 


 

[事例]

ニプロ(株)に対する件

審判審決平成1865

審決集53195

独禁法3条前段(排除)

*取引拒絶,差別取扱い等

 

1. 被審人(ニプロ株式会社)は,注射液等の容器として使用されるアンプル用の生地管(以下「生地管」という。)の販売業者である。

2. 被審人は,富山県,岐阜県及び愛知県以西の地域(以下「西日本地区」という。)において,日本電気硝子株式会社(以下「日本電気硝子」という。)から生地管の供給を一手に受け,西日本地区に本店を置くアンプル加工業者(生地管をアンプルに加工し製薬会社に販売する業者又はその子会社のことをいう。以下同じ。)に販売している。

3. 生地管とは,ガラスでできたアンプルの素材であり,専らアンプル加工業者により需要されている。生地管には,色,外径などが異なる多種多様な品種がある。ガラス製アンプルからプラスチック製アンプルへの切り替えが進んでいることから,生地管市場は,近年,縮小傾向にある。

4.アンプル加工業者と被審人の間では,①アンプル加工業者が,被審人に対して,製薬会社に納品する仕様に合う品種の日本電気硝子製生地管を注文し,②被審人がそれに応じた販売を行なうという取引が行なわれている。

5. 日本電気硝子は,我が国唯一の生地管の製造業者である。日本電気硝子製生地管が国産生地管の販売に占めるシェアは,100パーセントである。輸入生地管を含めた生地管全体の販売数量に占めるシェアは,約93パーセントである。

6.外国には別の生地管製造業者らが存在し,これらの生地管は外国において,日本電気硝子製生地管の半額から3分の2の価格で販売されている。

7. アンプルの需要者である我が国の製薬会社は,日本電気硝子製生地管を使用したアンプルから輸入生地管を使用したアンプルへの切り替えに対して慎重な姿勢をとっていた。

8. このことから,アンプル加工業者は,日本電気硝子製生地管を欠かすことができない状況にある。

9. もっとも,輸入生地管の方が価格が安いことから,品質検査を通ることを条件として輸入生地管を使用したアンプルへの切替えを認める製薬会社も多い。

10. 日本電気硝子は,前田硝子株式会社及び被審人とそれぞれ販売代理店契約を締結している。この契約においては,西日本地区に本店を置くアンプル加工業者に対しては被審人のみが,東日本地区に本店を置くアンプル加工業者に対しては前田硝子のみが,日本電気硝子製生地管を販売することが定められており,販売地域外への販売は禁じられている。

11. このために,西日本地区に本店を置くアンプル加工業者は,被審人のみから日本電気硝子製生地管を購入することができた。

12. 前記8及び11から,西日本地区に本店を置くアンプル加工業者は,被審人からの日本電気硝子製生地管の供給なくしては事業活動を行うことが極めて困難である。

13.内外硝子工業株式会社(以下「内外硝子」という。)は,子会社(株式会社ナイガイ(以下「ナイガイ」という。))を通じて①被審人から日本電気硝子製生地管を購入するとともに,②生地管を輸入して,③アンプルを製造し,④製造したアンプルを製薬会社に販売している。内外硝子の売上げの約9割は,アンプルが占める。

14. ナイガイは,かつては,被審人から日本電気硝子製生地管を年間1,000トン以上購入していた(平成6年度-平成10年度)。これは,被審人の日本電気硝子製生地管の全販売数量の25パーセント程度にあたる量であった。

15.  内外硝子は,輸入生地管を使用したアンプルへの切り替えを進めてきており,輸入生地管を使用したアンプルがアンプルの売上げ全体に占める割合は,約10パーセント(平成6年度)から約65パーセント(平成12年度)に増加してきている。

16. 西日本地区においては,輸入生地管が日本電気硝子製生地管にとって唯一の競争品である。生地管を大量に輸入しているのは,ナイガイのみである。

17. 西日本地区のアンプル加工業者向け生地管取引において,被審人のシェアは平成6年度から同12年度まで,次のとおり推移してきた:約92パーセント,約94パーセント,約92パーセント,約91パーセント,約90パーセント,約80パーセント,約85パーセント。シェアの余の大部分は,ナイガイグループの輸入生地管が占める。

18.被審人は,ナイガイグループの輸入生地管の取扱いをやめさせるため,前田硝子及び日本電気硝子と5回にわたり会合を開催してその対応策について検討を重ね,並行してナイガイに対して生地管の輸入を取りやめること又は一定の数量に抑制することを要請した。

19. ナイガイグループがこれに応じなかったことから,被審人は,ナイガイグループの輸入生地管の取扱いの継続又は拡大を牽制し,これに対して制裁を加える目的の下に次の一連の行為を一体として行なった。

①ナイガイのみに対する取引条件の変更(日本電気硝子製生地管の販売価格の値上げ,特別値引きの全廃等)。なお,変更後の取引条件は,他のアンプル加工業者との取引条件に比べて明らかに不利益な内容であった。

②輸入生地管と同品種の日本電気硝子製生地管の受注拒否。なお,この受注拒否は,日本電気硝子に注文することによって十分対応できるにもかかわらず行なわれた。在庫リスクを抑えるという理由も認められなかった。当時,ナイガイの輸入先(韓国製造業者)は生産が不安定となっており(硝子の窯の不調のため),被審人はこのことを知っていた。

③前記①②の行為がとられてもなおナイガイが要請に応じなかったことから,被審人は担保の差し入れ又は現金決済を要求し,これらに応じなければ取引に応じられないとした。なお,ナイガイが支払を遅滞したことはなかった。

20. 前記19③に対して,ナイガイは,仮処分の執行により必要な生地管の一部を確保したほか,緊急の必要がある場合に被審人提示の条件に従って被審人から生地管の供給を受けるなどして対応した。しかし,なお被審人からの生地管の購入数量は大幅に減少した。

21. 前記19①の行為は,当該価格を受け入れない対応を採れば日本電気硝子製生地管の供給を打ち切られるおそれがあり,また,当該価格引上げに応じれば,仕入コストが増大し,ナイガイグループのアンプル製造販売のコストを大きく引き上げることにより,同事業の継続が困難となるに至った蓋然性をもち,被審人によるナイガイに対する供給停止の行為がないとしても,ナイガイグループに対し,事業の継続に対する強度の不安を与える効果をもった。

22. 前記19②により,ナイガイは,この種のアンプル管について韓国硝子製生地管を使用せざるを得なくなった。この同生地管には不良品が極めて多く,コストが増加し,また部分的にはナイガイが被審人から購入できた日本電気硝子製生地管のうち取引を拒絶された生地管に類似するものを選り分けて対応したために負担が増え,ナイガイグループの事業活動に支障が生じた。

23. 前記19③及びこれに対してとったナイガイの対応のために,ナイガイには,現実のコストの増加が生じている。また,被審人からの生地管の購入数量が大幅に減少し,ナイガイとしては被審人から必要な生地管の供給を受けることができなかった。このため,内外硝子の製薬会社に対する供給に相当の影響があった。

24. 被審人の本件行為にもかかわらず,ナイガイグループは,輸入生地管に係る事業を継続し,輸入量を増加させた。

25. その後,ナイガイが被審人を相手方として「値上げ価格による売買代金債務の不存在」の確認を求め,被審人敗訴の大阪高裁判決が確定したことなどを受けて,被審人は前記19の行為前に適用されていた取引条件による取引を行なうようになった。その後,新たな排除抑圧行為は行なわれなかった。

26. その後,アンプルのプラスチック化の一層の進行等のため本件市場の規模は大幅に縮小した。ナイガイの生地管の輸入は拡大傾向で推移した。

公取委の判断

①「他の事業者の事業活動を排除する」行為にあたるかについて

「生地管は我が国では日本電気硝子のみが生産販売しており,被審人が日本電気硝子の代理店として,同生地管の西日本地区における独占的な供給者であり,また,アンプルの需要者である製薬会社は日本電気硝子製生地管の使用を望むものが多く,アンプル加工業者にとって,日本電気硝子製生地管を仕入れることが事業を継続する上で必要不可欠な状況において,被審人の本件行為は,ナイガイグループの輸入生地管の取扱いの継続又は拡大を牽制し,これに対して制裁を加える目的で企図され,実行されたものであり,被審人の本件行為がナイガイグループの事業の継続を困難にする蓋然性の高い行為であった・・・。してみると,かかる被審人の本件行為は,唯一輸入生地管を原材料として相当量仕入れ,これを加工したアンプルの販路を有するナイガイグループはもとより,潜在的な輸入者又は輸入生地管の需要者となり得る他のアンプル加工業者に対しても,輸入生地管を取り扱うことを萎縮,抑制させる効果を有するものと認められ,かかる行為によって,被審人の競争者である外国の生地管製造業者の事業活動を排除する蓋然性が極めて高く,その実効性を有するものである。

被審人の本件行為の後も,ナイガイの生地管の輸入は増加しており,ナイガイグループの事業活動が現実に排除されるまでの結果が発生しているとはいえず,被審人が本件行為の目的として目指したところは結果的に実現されたとはいえないのであるが,これは,・・・ナイガイの姿勢と前記民事訴訟の結果及び公正取引委員会の勧告があったからにほかならないのであるから,被審人の目的が結果的に実現されなかったからといって被審人の本件行為が独占禁止法第2条第5項に規定する行為に該当しないものということはできない。

被審人の本件行為は,上記のとおり,西日本地区における生地管の供給市場において支配的地位(需要者であるアンプル加工業者にとって日本電気硝子製生地管の仕入れが必要不可欠である市場において当該生地管の供給を独占する地位)を占める被審人が,ナイガイグループの行う生地管輸入の排除の意図・目的をもって,ナイガイグループの輸入生地管に係る事業活動を排除し,また,他のアンプル加工業者に輸入生地管を取り扱うことを萎縮させ,ひいては被審人の競争者の事業活動を排除する蓋然性の極めて高いものであり,独占禁止法第2条第5項の「他の事業者の事業活動を排除する」行為に該当するものというべきである。」

②「一定の取引分野」について

「輸入生地管は日本電気硝子製生地管と品質的に遜色はなく,また,輸入生地管を使用したアンプルについては製薬会社が切り替える際に製薬会社の検査を受ける必要があるが,輸入生地管の価格は日本電気硝子製生地管より相当廉価であることから,両者の間に代替関係があるといえる。また,前記認定のとおり,我が国においては日本電気硝子が唯一の生地管の製造業者であり,西日本地区においては被審人のみが同地区に本店を置くアンプル加工業者に日本電気硝子製生地管を供給しており,同地区に本店を置くアンプル加工業者であるナイガイが外国の生地管製造業者から生地管を大量に輸入しているものである。このような商品特性及び取引実態を前提にすると,生地管の取引においては,被審人及び外国の生地管製造業者を供給者とし,西日本地区に本店を置くアンプル加工業者を需要者とする西日本地区における生地管の供給分野が成立しているということができる。」

「外国に有力な生地管製造業者が存在するという事実のみをもって,唯一世界市場のみが成立するものとはいえない。需要者である西日本地区に本店を置くアンプル加工業者が,これら外国の生地管製造業者から生地管を輸入することにより,外国からの輸入を含め需要と供給がマッチする市場,すなわち西日本地区における生地管の供給分野が形成されるものであり,その地理的範囲は西日本地区である。」

③「競争の実質的制限」について

「被審人の本件行為は,西日本地区の生地管の供給市場において独占的な日本電気硝子製生地管の供給者であって既に市場支配力を有する被審人が,輸入生地管の取扱いの継続又は拡大を牽制し,これに対して制裁を加えることを企図し,ナイガイグループに対して行ったものであって,これにより競争力のある競争者の生地管の輸入を制限又は抑制して品質・価格による競争が生じ又は生じ得る状況を現出させないようにしているものであり,西日本地区における生地管の供給分野における競争を実質的に制限するものであると認められる。」

④排除措置の必要性について

「被審人による本件違反行為は,本件審判開始決定の時までに存在し,かつ,既になくなっていると認められる。そして,被審人の本件行為が取りやめられたとき以降,アンプルのプラスチック化の一層の進行等のため本件市場の規模は大幅に縮小していること,ナイガイの生地管の輸入も拡大傾向で推移していること等の本件市場の状況の大きな変化にかんがみると,本件は独占禁止法第54条第2項に規定する「特に必要があると認めるとき」に該当する事情があるとはいえないものというべきである。」

⑥法令の適用

「被審人は,ナイガイグループの輸入生地管に係る事業活動を排除することによって,競争者である外国の生地管製造業者を排除することにより,公共の利益に反して,西日本地区における生地管の供給分野における競争を実質的に制限していたものであり,これは,独占禁止法第2条第5項に規定する私的独占に該当し,独占禁止法第3条の規定に違反するものであるが,同法第54条第2項に規定する「特に必要があると認めるとき」に該当しないので,被審人に対し,同条第3項の規定により,主文のとおり審決することが相当である。」

主文

被審人の違反行為は,「既になくなっていると認められるので,被審人に対し,格別の措置を命じない。

 

 


 

 

[参考・判決]

ニプロに対する独禁法25条に基づく損害賠償請求事件

東京高等裁判所判決平成241221

審決集59巻第二分冊256

独禁法3条前段(排除)

独禁法25

 

公正取引委員会は,平成1865日,被告を被審人として,本件審決を行い,本件審決は,同年75日ころ確定した。

 本件審決に至る審判手続(本件審判手続)では,「被告が,原告内外硝子の外国製生地管を用いた低価格のアンプルに対抗するために,平成82月ころから,他のアンプル加工業者に対し,総販売原価を下回る仕入価格に近い価格でNEG製生地管を販売した行為(本件第2行為)」を含むの4つの行為が「審判の対象とされたが,本件第2行為は独禁法違反行為に当たらないとされ,ほかの3つの行為について」次のような審決がなされた。

「被告が,原告ナイガイとのアンプル用の生地管の取引に関し,原告ナイガイ及び原告内外硝子の輸入生地管の取扱いをやめさせ,又は一定程度に制限する目的で,〔1〕原告ナイガイに対してのみ,平成7年4月以降の販売価格の引上げ,手形サイトの短縮及び特別値引きの実施の取りやめを申し入れた行為(本件第1行為),〔2〕平成9年6月及び7月ころの原告ナイガイのアンプル用生地管の発注に対し,当該発注に係る生地管が同社が輸入している生地管と同品種のものであることを理由に受注を拒絶した行為(本件第3行為),並びに,〔3〕平成11年3月ころ以降,本件第1行為に係る販売価格の引上げを前提として,原告ナイガイの生地管購入代金債務に対する担保の差し入れ又は代金の現金決済のいずれかの条件以外での生地管の取引には応じないとした行為(本件第4行為)は,独禁法3条の規定に違反する。」(これらの3つの一連の行為を以下「本件独禁法違反行為」という。)

 

「本件において加害行為として主張し得る独禁法違反行為の範囲とその違法性-本件審決の確定により本件独禁法違反行為の違法性が確定したかを含む」に対する裁判所の判断

「原告らは,民法709条の要件事実は,〔1〕権利侵害(違法性),〔2〕損害の発生(その金銭的評価),〔3〕行為と損害との間の因果関係及び〔4〕故意過失であるところ,本件では,上記〔1〕については,本件審決が確定したことにより本件独禁法違反行為が違法であることが確定し,独禁法25条は〔4〕故意過失を要件としないから,本件における要証事実は,上記〔2〕及び〔3〕のみであると主張する。

 独禁法25条の責任が故意過失を要件としないこと(上記〔4〕)は原告らが主張するとおりである。しかし,上記〔1〕については,同条の規定によれば,同条の責任は,訴訟において被告が同条に定める独禁法違反行為をしたと判断された場合に発生するものである。本件審決がその判断をしたことは前記(1)で認定したとおりであるが,独禁法80条1項のような規定を欠く同法24条及び26条の無過失損害賠償請求訴訟については,審決において公正取引委員会が認定した事実であっても裁判所を拘束すると解することはできない(最高裁昭和5344日第三小法廷判決・民集323515頁)。そうすると,本件訴訟において,原告らは,被告が本件独禁法違反行為をし,それが排除型私的独占に当たるため,独禁法3条に違反することを立証する必要があり,本件審決の確定によりその立証が不要になるとの上記主張は採用できない。」

 「被告は,本件審決は一連かつ一体的な本件独禁法違反行為を独禁法違反行為と認めたものであって,本件第1行為,本件第3行為及び本件第4行為の個別の行為を独禁法違反行為と判断したものではないから,原告らが,独禁法25条に基づき,本件において本件第1行為,本件第3行為及び本件第4行為によって生じた本件費用損害の賠償を求めるのは,被告の審級の利益を害し,許されないと主張する。

 本件審決が本件独禁法違反行為を一連かつ一体的な行為と認定したことは前記・・・で認定したとおりである。しかし,独禁法25条及び26条の規定は,個々の被害者の受けた損害の填補を容易ならしめることにより,審判において命じられる排除措置とあいまって独禁法違反行為に対する抑止的効果を挙げる目的に出た規定であり(最高裁昭和471116日第一小法廷判決・民集2691573頁,同平成元年128日第二小法廷判決・民集43111259頁参照),審判自体によって,独禁法25条の責任の内容・範囲を確定しようとするものではない。また,審判の認定・判断が裁判所の認定判断を拘束するものでないことも,前記・・で説示したとおりである。したがって,本件訴訟において,原告主張の行為のうち排除型私的独占に当たると認められる行為と,原告らが主張する損害との間に相当因果関係が認められれば,被告は,独禁法25条の責任を負うと解するのが相当であり,被告の上記主張は採用できない。」

本件審決の事実上の推定が働く範囲や程度について,「公正取引委員会の審決が確定した場合には,独禁法違反行為の存在につき,いわゆる事実上の推定が働くことは否定できないと解されるが(前掲最高裁昭和5344日第三小法廷判決参照),それは飽くまで事実認定の問題であるから,抽象的にその範囲や程度を判断することはできない。そこで,基本的に,提出された証拠及び弁論の全趣旨により具体的事実を認定し,認定事実のうち,一定程度,本件審決の事実上の推定が働くと判断したものについては,証拠として,本件審決を掲げることとする。」

 

本件独禁法違反行為の独禁法違反行為該当性

「(1)排除行為該当性

ア 独禁法は,公正かつ自由な競争を促進し,事業者の創意を発揮させて事業活動を盛んにすることなどによって,一般消費者の利益を確保するとともに,国民経済の民主的で健全な発達を促進することを目的(1条)とし,事業者の競争的行動を制限する人為的制約の除去と事業者の自由な活動の保障を旨とするものである。被告が,本件第1行為,本件第3行為及び本件第4行為をしたことは,前記・・・で認定したとおりであるところ,上記独禁法の趣旨にかんがみれば,これらの行為が独禁法25項にいう「他の事業者の事業活動を排除」する行為(排除行為)に該当するか否かは,その単独かつ一方的な取引条件の変更(本件第1行為及び本件第4行為)又は単独かつ一方的な取引拒絶(本件第3行為及び本件第4行為)としての各側面が,自らの市場支配力の形成,維持ないし強化という観点からみて正常な競争手段の範囲を逸脱するような人為性を有するものであり,原告らの事業活動を著しく困難にし,あるいは,被告の競業者である外国製生地管の製造業者の西日本地区の生地管市場への参入を著しく困難にするなどの効果を持つものといえるか否かによって決すべきものである(最高裁平成221217日第二小法廷判決・民集6482067頁参照)。

イ 本件第1行為は,被告が,西日本地区のアンプル加工業者のうち,原告ナイガイに対してのみ,一方的に平成7年値上げ通告及び第1次取引条件を申入れたものであるところ,契約条件の変更申入れ自体は,一般的に正常な競争手段の範囲を逸脱するというものではない。

 しかし,本件第1行為当時,西日本地区を含めた我が国のアンプル加工業者にとって,NEG製生地管は代替可能性に乏しく,NEG製生地管の供給を受けることなくアンプル加工業を営むことは困難な状況が存在し,被告は,本件第1行為当時,その意思により,ある程度自由に価格その他の取引条件を左右することによって,西日本地区の生地管取引市場を支配することのできる地位にあったものである。そして,本件第1行為は,被告が,上記のとおり自らが支配している西日本地区の生地管取引市場の従前の状況を維持するため,価格競争による対策を内容とするNEGの提案に反対し,ナイガイグループによる外国製生地管の取扱いの継続又は拡大を牽制し,制裁を加えるための対抗措置として,平成7年値上げ前単価より1123%も割高で,平成23年以来,用いられたことのない公定価格まで,一方的に価格を引き上げたものである。上記のような行為は,被告の市場支配力の維持という観点からみて正常な競争手段の範囲を逸脱する人為性を有するものと評価するのが相当である。

 そして,本件第1行為は,原告らが本件輸入事業を止めない限り,アンプル加工業を継続することを著しく困難ならしめる効果を持つ行為であり,本件輸入事業を中止せず,取引条件の変更にも応じない選択をした原告らを,アンプル加工業が継続できなくなる現実的なおそれのある状況に陥らせたものであるから,原告らの事業活動を著しく困難にする効果を有したものというべきであり,上記市場における排除行為に該当するというべきである。

ウ 本件第3行為は,被告が,平成96月及び7月ころの原告ナイガイのアンプル用生地管の発注に対し,当該発注に係る生地管が同社が輸入している生地管と同品種のものであることを理由に受注を拒絶したものであるところ,競業者から仕入れをしている取引先に対して受注を拒絶すること自体は,一般的に正常な競争手段の範囲を逸脱するとまではいえない。

 しかし,本件第3行為当時も,西日本地区を含めた我が国のアンプル加工業者にとって,NEG製生地管は代替可能性に乏しく,NEG製生地管の供給を受けることなくアンプル加工業を営むことは困難な状況が存在し,被告が,その意思により,ある程度自由に価格その他の取引条件を左右することによって,西日本地区の生地管取引市場を支配することのできる地位にあったことに変わりはない。そして,本件第3行為は,製造元であるNEGが,原告らに供給するよう求めているNEG製生地管の供給を,販売代理店である被告が拒絶したものであり,その目的は,被告が支配している西日本地区の生地管取引市場の従前の状況を維持するため,ナイガイグループによる外国製生地管の取扱いの継続又は拡大を牽制し,制裁を加えるための対抗措置とすることにあったのである。上記のような行為は,被告の市場支配力の維持という観点からみて正常な競争手段の範囲を逸脱する人為性を有するものと評価するのが相当である。

 そして,本件第3行為によって,原告らがアンプル加工業が継続できなくなるおそれは更に強められたのであるから,本件第3行為は,原告らの事業活動を著しく困難にする効果を有したものというべきであり,上記市場における排除行為に該当するというべきである。

エ 本件第4行為は,平成113月ころ以降,本件第1行為に係る販売価格の引上げを前提として,原告ナイガイの生地管購入代金債務に対する担保の差し入れ又は代金の現金決済のいずれかの条件以外での生地管の取引には応じないとするものであるところ,契約条件の変更申入れや競業者から仕入れをしている取引先に対する受注拒絶が,一般的に正常な競争手段の範囲を逸脱するものではないことは,前記イ及びウで説示したとおりである。

 しかし,本件第4行為当時も,西日本地区を含めた我が国のアンプル加工業者にとって,NEG製生地管は代替可能性に乏しく,NEG製生地管の供給を受けることなくアンプル加工業を営むことは困難な状況が存在し,被告が,その意思により,ある程度自由に価格その他の取引条件を左右することによって,西日本地区の生地管取引市場を支配することのできる地位にあったことに変わりはない。そして,本件第4行為は,被告が支配している西日本地区の生地管取引市場の従前の状況を維持するため,ナイガイグループによる外国製生地管の取扱いの継続又は拡大を牽制し,制裁を加えるための対抗措置として,従来より1123%も割高で,平成23年以来,用いられたことのない公定価格で,かつ,現金決済という取引条件でしか供給しないとしたものであるから,被告の市場支配力の維持という観点からみて正常な競争手段の範囲を逸脱する人為性を有するものというべきである。

 そして,平成7年値上げ後単価は,原告らにとって長期的に負担できる程度のものではなく,原告らは,本件第4行為により,そのままでは事業の継続が困難な状態に陥った上,実際に減収を来したと認められるから,本件第4行為は,原告らの事業活動を著しく困難にする効果を有したものというべきであり,上記市場における排除行為に該当するというべきである。

(2)独禁法25項該当性

 西日本地区における生地管市場は,前記・・・で認定したとおり,被告が,約15社のアンプル加工業者に対し,納入先である製薬会社のアンプルの規格に合うように製造された200品種を超える代替性に乏しいNEG製生地管を供給していた市場であり,独立して独禁法25項にいう「一定の取引分野」であったと評価できる。

 そして,本件独禁法違反行為は,上記市場を支配することのできる地位にあった被告が,その地位を維持するために行った原告らに対する排除行為であるところ,原告ら以外に外国製生地管を大量に輸入する業者は存在せず,原告らを排除すれば,競業者である外国製生地管の製造業者の上記市場への参入を期待することはできないことになるのであるから,本件独禁法違反行為により,独禁法25項にいう「競争を実質的に制限すること」,すなわち市場支配力の維持という結果が生じていたというべきである。そして,本件についての公正取引委員会の立入調査が行われたのは,平成116月であるところ,我が国において,NEG製生地管の供給を受けずにアンプル加工業を営む困難さの度合いが,少なくとも平成11年~13年以降は徐々に改善されてきたと認められ,平成10年度まで90%を超えていた被告のシェアが,平成11年度は80%,平成12年度は85%に低下し,平成13年~平成16年の原告ナイガイの仕入れが本件輸入事業向けが約6割,本件国内事業向けが約4割と増加したことからすると,西日本地区の生地管市場における平成11年ころまでの競争制限状態は,本件独禁法違反行為によってもたらされたものであり,両社の間には因果関係があるということができる。」

「本件独禁法違反行為が行われている間も,原告らは,平成113月まではほぼ従前通りNEG製生地管の供給を受けており,平成129月期を除いては,損益への大きな影響も見られ」ないし,平成11年以降「本件輸入事業の拡大により,被告のシェアは減少しているのであり,本件独禁法違反行為により,外国製生地管の取扱いの継続又は拡大を牽制し,原告らに制裁を加えるという被告の目的が達成され」てはいない。「しかし,前記で説示したとおり,独禁法は,事業者の競争的行動を制限する人為的制約の除去と事業者の自由な活動の保障を旨とするから,本件独禁法違反行為が排除行為に該当するためには,それが,被告の市場支配力の形成,維持ないし強化という観点からみて正常な競争手段の範囲を逸脱するような人為性を有するものであり,原告らの事業活動を著しく困難にし,あるいは,被告の競業者である外国製生地管の製造業者の西日本地区の生地管市場への参入を著しく困難にするなどの効果を持つと認められれば足りると解されるのであり,これを超えて,被告の目的が達成されて,原告らが外国製生地管の取扱いを継続又は拡大できなかったことや,原告らに制裁が加えられたことまでを要するとは解されない。」

「以上によれば,本件独禁法違反行為を構成する本件第1行為,本件第3行為及び本件第4行為は,いずれも独禁法25項の排除型私的独占に該当し,被告は本件独禁法違反行為をすることにより,独禁法3条に違反したと認められる。したがって,被告は,同法251項により,上記各行為と相当因果関係のある損害を賠償する責任がある。」

 

「原告らは被告の本件独禁法違反行為によって,平成7年から18年までの間(本件損害発生期間),〔1〕生地管の輸入が進まず,価格が高止まり,適正価格で生地管を購入できなかったことによる損害(本件価格損害),〔2〕製薬会社と取引をすることができなくなったことによる損害(本件取引損害),〔3〕種々の費用の出捐を余儀なくされたことによる損害(本件費用損害),〔4〕無形の損害(本件無形損害)及び〔5〕弁護士費用(本件弁護士費用)に相当する損害を被っ」たと主張する。

本件価格損害について,確かに,「本件独禁法違反行為を行わなかった場合に,NEG製生地管の価格が下落した可能性は否定できない」が,被告によるNEG製生地管の供給停止が平成123月に解消され,被告がナイガイグループによる外国製生地管の取扱いの継続又は拡大を牽制する意図を失い,原告らの本件輸入事業が拡大した後にも,「西日本地区のアンプル加工業者に対する被告のNEG製生地管の販売価格は,平成14年前半以降も平成21331日までの間は変動がなく,同年41日にはむしろ値上げがされたと認められる。」「このように,NEG製生地管の価格が,本件独禁法違反行為期間後の実際の自由競争の下でも下落せず,被告がナイガイグループによる外国製生地管の取扱いの継続又は拡大を牽制する意図を失った平成14年前半ころ以降においても下落しなかったことからすると,本件独禁法違反行為がNEG製生地管の市場価格に影響していたと認めることは困難であり,本件独禁法違反行為がなければ,価格が下落したであろうと認めることはできない。」

 本件取引損害について,原告らは本件第4行為に近接する時期に多数の取引が失われていることを理由として本件取引損害が生じているとするが,「本件第4行為後にNEG製生地管を用いたアンプルの取引が減少する要因には,本件第4行為のほか,製薬会社からの発注の減少や原告らの営業活動なども考えられ」ることなどから,喪失した取引ごとに本件第4行為との相当因果関係を検討する。(原告らが主張する喪失取引のうち一部について相当因果関係を認定,残りについては否定。)

取引損害の損害額ほか,本件費用損害及び本件無形損害について 略

 


 

[事例]

東洋製罐(株)に対する件

勧告審決昭和47918

審決集1987

独禁法3条前段(排除・支配)

*取引拒絶,株式所有等

 

1. 東洋製罐株式会社(以下「東洋製罐」という。)は,食かんの製造販売業を営む。

2. わが国における食かんの主な製造業者には,東洋製缶,大和製缶株式会社(以下「大和製罐」という。),北海製罐株式会社(以下「北海製罐」という。),本州製罐株式会社(以下「本州製罐」という。),四国製罐株式会社(以下「四国製罐」という。),千葉製罐株式会社,山本製罐株式会社,三国金属工業株式会社(以下「三国金属」という。),昭和アルミニウム缶株式会社,第一金属工業株式会社,東海製罐株式会社,富士製罐株式会社および西日本工業株式会社の13社がある。

3. これら13社が,わが国における食かんのほとんどすべてを供給している。わが国における食かんの製造業者13社の総供給量のうち,①東洋製罐の供給量が占める割合は,約56パーセントであり,②東洋製罐,本州製罐,四国製罐,北海製罐及び三国金属の供給量が占める割合は,合計で約74パーセントであり,③大和製罐の供給量が占める割合は,約23パーセントである。

4. 本州製罐及び四国製罐は,東洋製罐が他者と共同出資して設立した会社である。東洋製罐は,設立時に直接又は間接にこれら会社の株式を取得しており,その後,これら会社の株式をさらに取得して,現在では発行済株式総数の3分の2を超える株式を所有している。東洋製罐は,自社の役員または従業員を現職のまま,または,退職させたうえで本州製罐及び四国製罐の役員等に就任させ経営に参加させている。さらに本州製罐については,,東洋製罐は,「関係会社の運営ならびに事務取扱要領」を定めて,本州製罐が自己の意向に従って営業するよう管理している。東洋製罐は,本州製罐及び四国製罐に食かんの下請生産をさせており,これら会社の食かん全販売数量の約33パーセント及び約11.8パーセントが,東洋製罐の下請として生産されたものである。

5. 北海製罐は,東洋製罐に対する過度経済力集中排除法に基づく決定指令を受けて,東洋製罐から分離独立した会社である。北海製罐の設立時に東洋製罐は同社の発行済株式総数2400万株のうち約2.6パーセントに当る株式を間接的に取得しており,その後,さらに間接的に取得して現在では,発行済株式の約29パーセントに当たる株式を間接的に所有している。また,東洋製罐は,北海製罐に食かんの下請生産をさせており,北海製罐の食かん全販売数量の約20パーセントにあたる数量が下請として生産されたものである。

6. 東洋製罐は,同社と北海製罐とは,将来合併すべきであるとの基本的諒解を前提として,両者間の協調促進および合併阻害要因の発生を阻止することとし,両者間における二重投資および競争関係の成立を意味する一切の営業活動を回避するという理由をもって北海製罐の販売地域を北海道一円に限定するとともに,最近伸長の著しい飲料かんの製造を阻止する等,北海製罐の事業活動を制限している。例えば,東洋製罐は,北海製罐から,本州地区に工場を新設することについて了承を求められたが,了承を与えることを数度にわたって拒否している。

6. 東洋製罐は,三国金属についても,同社の主要販売先の倒産及び同社からの技術指導依頼を契機として,その株式を取得するようになった。現在,東洋製罐は,三国金属の発行済株式総数の50パーセントに当る株式を所有している。東洋製罐は,三国金属から毎月,販売先別販売実績についての報告を受けている。さらに東洋製罐は,三国金属に食かんの下請生産を行なわせており,三国金属の食かん全販売数量の約36パーセントにあたる数量が下請として生産されたものである。

7. 東洋製罐は,かん詰製造業者に対して,かん詰を販売するほか,製造機械の販売又は貸与,技術支援,資金援助等を行い,これらを通じてかん詰製造業者の自社に対する依存度を高めている。

8. かん詰製造業者のうちには,かん詰製造原価の引下げを図るため,自家消費用の食かん(いわゆる自家製かん)を企図する者がある。東洋製罐は,同社の販売数量が減少し,ひいては,食かん業界における地位に悪影響をもたらすとして,自家製かんに対して反対する方針をとっている。そして,自家製かんを実施するかん詰製造業者に対しては,これら業者が自家製かんすることのできない食かんの供給を停止する措置をとることなどにより,自家製かんの開始を阻止することに努めている。

9. 例えば,東洋製罐は,有限会社丸神海産(以下「丸神海産」という。)に対する食かんの供給を停止した。丸神海産は,大篠津食品工業株式会社(以下「大篠津食品」という。)とともに,両者の自家製かんのための会社(神和工業株式会社)を設立していたが,この設立及びこの会社による自家製かん開始時に,東洋製罐は,丸神海産に対して,神和工業株式会社の経営に参画させ,同社を事実上,東洋製罐の下請工場とすることを申し入れ,拒否されていた。東洋製罐による前記供給停止は,この拒否を理由として行われたものだった。さらに,大和製罐は,丸神海産に対する東洋製罐の方針に追随して,従来から行ってきた大篠津食品に対する食かんの供給を停止した。

10. 太洋食品株式会社(以下「太洋食品」という。)は,自家製かんの準備を進めていたが,東洋製罐の丸神海産による自家製かんに関する前記対応をみて,自家製かんを開始した場合,現状では,自家製かんすることのできない食かんを円滑に購入することが不可能となることを危惧した。東洋製罐は,太洋食品の自家製かん開始に関する情報を得て,この真偽を太洋食品に確認した。これに対して太洋食品は,東洋製罐に対して,自家製かんの開始を示唆しながら食かん販売価格の引下げを要求した。これに対して,東洋製罐は太洋食品に対する食かん販売価格を引き下げ,この結果,太洋食品は,自家製かん開始を,事実上,断念した。

11. 深井産業株式会社は,自家製かん開始について検討を進めていたが,東洋製罐の丸神海産による自家製かんに関する前記対応をみて,太洋食品が抱いた前記10の危惧と同様の危惧を抱き,自家製かん開始を事実上,断念した。

 

法令の適用

東洋製罐は,本州製罐,四国製罐,北海製罐および三国金属の事業活動を支配し,また,かん詰製造業者の自家製かんについての事業活動を排除することにより,公共の利益に反して,わが国における食かんの取引分野における競争を実質的に制限しているものであり,これは,私的独占禁止法第2条第5項の規定に該当し,同法第3条前段の規定に違反するものである。

主文

1 東洋製罐株式会社は,今後,同社と北海製罐株式会社が合併するとの基本的諒解を前提として,北海製罐株式会社の事業活動に干渉してはならない。

2 同社は,北海製罐株式会社の岩槻工場設置に際して付した同工場の設備,製造かん型および販売先についての制限ならびに人事についての条件を撤回しなければならない。

3 同社は,[同社が事実上,所有する北海製罐株式会社の株式,すなわち]学校法人東洋食品工業短期大学および財団法人東洋食品研究所の名義で所有している北海製罐株式会社の株式のうち120万株をこえる部分を処分しなければならない。

4 同社は,第2項および第3項に基いてとるべき措置についての計画書を当委員会に提出し,承認を求めなければならない。

5 同社は,食かんの供給を停止することにより,取引先かん詰製造業者が自家消費用食かんの製造を開始することを排除してはならない。」

 


 

[事例]

(株)北海道新聞社に対する件

同意審決平成12228

審決集46144

 独禁法3条前段 (排除)

*取引拒絶,廉売等

 

1. 株式会社北海道新聞社(以下「道新社」という。)は,北海道を販売地域として一般日刊新聞の発行業を営む。

2. 道新社の発行する一般日刊新聞「北海道新聞」(以下「北海道新聞」という。)の朝刊の発行部数は,北海道で発行される一般日刊新聞朝刊の総発行部数の過半を占め,函館地区における同総発行部数の大部分を占める。

3. 北海道新聞の夕刊の発行部数は,函館地区で発行される一般日刊新聞夕刊の総発行部数の大部分を占める。

4. 株式会社函館新聞社(以下「函新社」という。)は,平成71115日に設立され,平成911日から夕刊紙である一般日刊新聞「函館新聞」(以下「函館新聞」という。)を発行している。

5. 株式会社十勝毎日新聞社(以下「勝毎社」という。)は,帯広地区において,夕刊紙である一般日刊新聞「十勝毎日新聞」を発行している。同紙は,帯広地区で発行される夕刊のうち,発行部数で第1位を占める。勝毎社は,函新社に出資するとともに社員を出向させている。

7. 株式会社テレビ北海道(以下「テレビ北海道」という。)は,北海道においてテレビジョン放送事業を営む。テレビ北海道は,道新社から出資を受け,その退職者などを自社の役員などとして受け入れるとともに,債務保証を受けるなど,道新社と密接な関係にある。

8. いわゆる地方紙を発行する者の多くは,その発行する地域又は都市名にちなんだ新聞題字を選定している。

9. 一般日刊新聞の発行業を営む者は,国内外の通信社からニュース配信を受けることが重要である。北海道で一般日刊新聞の発行業を営む主な者は,株式会社時事通信社(以下「時事通信社」という。)又は社団法人共同通信社から配信を受けている。社団法人共同通信社は,配信するすべての記事の配信を受けることを原則としており,新規に一般日刊新聞の発行業を開始した者は容易に配信を受けることができない。これに対して,時事通信社からは必要な記事のみの配信を受けることが可能である。

10. 一般日刊新聞の発行業を営む者にとっては,広告収入が,新聞販売収入に並ぶ重要な収益源となっている。

11. 道新社は,帯広地区において同社が発行する北海道新聞の夕刊の発行部数と勝毎社が発行する十勝毎日新聞の発行部数との間に大きな格差が生じている事態を解消できず,このままでは道新社の販売方針である朝夕刊セット販売が崩壊するおそれがあったことから,帯広対策と称する対策を講じてきた。

12. この中で,平成68月ころから,函館地区において夕刊紙の発行を目的とした新聞社設立の動きがみると,道新社は,同年9月,帯広地区のような事態を招来させることのないようにするため対策を講じるこことしこれを実施した。また,平成84月に函新社が平成91日から函館地区において函館新聞を発刊することが明らかになった後には,道新社は,函新社の新聞発行事業の継続を困難にさせるため対策を講じることとしこれを実施した。これらの対策の内容は,以下のとおりであった。

①「新聞題字対策」:函館地区に新設される新聞社に使用させないために,自ら使用する具体的な計画がないにもかかわらず,函館地区で新聞を発行する場合に使用されると目される新聞題字(「函館新聞」など9つの新聞題字)を選定し,これらについて商標登録出願を行った。その後,商標登録出願中の新聞題字のうち「函館新聞」を函新社が使用することが明らかとなると,道新社は,函新社に対し,前記商標登録出願中の新聞題字「函館新聞」の使用中止を求めることなどを内容とする文書を送達した。函新社が道新社の商標登録出願に対して異議申立てを行い,これが特許庁により認められて当該商標登録出願について拒絶査定を受けると,道新社は,これを不服として特許庁に対し審判請求をした。

②「通信社対策」:時事通信社に対して,北海道における先行契約者の地位にある道新社としては函新社への配信について了解する意向はないことを知らしめ,函新社からの配信要請に応じないよう暗に求めた。時事通信社は,新規の配信については,同一地域に既契約者が存在する場合であって当該既契約者と同一の記事の配信を希望するときには,既契約者の意向を無視して配信することはしないという先行契約者を優先する方針を採っていた。この方針は,このような方針を採用しなければ当該既契約者から契約を解除されるなどのおそれがあるという状況におかれているためにとられたものであった。道新社は,北海道における先行契約者の地位にあるとともに,時事通信社の主要な取引先であって,北海道での最大の配信先であった。道新社の上記要求により,函新社は,時事通信社との間で配信契約を締結することができない状況にある。

③「広告集稿対策」:道新社は,函新社の広告集稿活動を困難にさせる意図の下に,同社の広告集稿対象と目される中小事業者を対象とした大幅な割引広告料金等を設定することとし,当該地域情報版に関する収支試算上,損失が生じることが予測されたにもかかわらず,地域情報版掲載の営業広告の基本料金を本紙掲載広告の約半額の水準とするとともに,この営業広告を扱う広告代理店の広告取扱手数料に一定率の割増手数料を加算すること等を決定し実施した。このため,函新社は,函館新聞発刊以来現在に至るまで,広告集稿活動が困難な状況にあり,低廉な広告料金による受注を余儀なくさせられた。

④「テレビコマーシャル対策」:函新社が,函館新聞の発刊について一般消費者等に広告するため,テレビ北海道に対し,2か月間のテレビコマーシャル放映の申込みを行い,テレビ北海道はこれを受諾した。この情報を得て,道新社は,テレビ北海道に対し,函新社のコマーシャル放映の申込みに応じないよう要請した。テレビ北海道は,放映の申込みをいったんは受け付けたにもかかわらず,函新社のコマーシャル放映の申込みを拒否した。

13. その後,道新社は,特許庁に対し審判請求をした4つの新聞題字について,いずれも商標登録出願を取り下げ,広告料金を改定するなどして,前記12の行為を取りやめた。

法令の適用

「道新社は,函新社の参入を妨害しその事業活動を困難にする目的で講じた函新社が使用すると目される複数の新聞題字の商標登録の出願等の函館対策と称する一連の行為によって,同社の事業活動を排除することにより,公共の利益に反して,函館地区における一般日刊新聞の発行分野における競争を実質的に制限していたものであり,これは,独占禁止法第2条第5項に規定する私的独占に該当し,独占禁止法第3条の規定に違反するものである。」

主文

「被審人は,次の事項を株式会社函館新聞社に通知し,また,北海道函館市,亀田郡大野町,同七飯町,同戸井町及び上磯郡上磯町の地区の一般消費者に周知徹底させなければならない。この通知及び周知徹底の方法については,あらかじめ当委員会の承認を受けなければならない。

1 被審人が株式会社函館新聞社の参入を妨害しその事業活動を困難にする目的で講じた函館対策と称する一連の行為に関して次の措置を採った旨

1) 函館地区に関する商標登録出願をすべて取り下げたこと。」(以下主文略)

 


 

[事例]

(株)有線ブロードネットワークスほか1社に対する件

勧告審決平成161013

審決集51518

 独禁法3条前段(排除)

*差別対価等

 

1. 「音楽放送」とは,音楽の提供を主たる目的として音声その他の音響を顧客に送信する放送である。音楽放送には,有線電気通信設備により音声その他の音響を顧客に送信するもの(以下「有線音楽放送」という。)及び通信衛星を利用して音声その他の音響を顧客に送信するもの(以下「衛星音楽放送」という。)がある。

2. 音楽放送事業者(音楽放送を提供する事業者のこと。以下同じ。)は,自ら又はその代理店を通じて,顧客との間で受信契約(音楽放送の提供に係る契約のこと。以下同じ。)を締結して,有線音楽放送又は衛星音楽放送を提供している。

3. 顧客には,店舗,宿泊施設等の事業所及び個人がある。(以下,事業所に対して提供される音楽放送を「業務店向け音楽放送」といい,個人に対して提供される音楽放送を「個人向け音楽放送」という。)。

4. 株式会社有線ブロードネットワークス(以下「有線ブロードネットワークス」という。)は,音楽放送の提供に係る事業を営む。

5. 株式会社日本ネットワークヴィジョン(以下「日本ネットワークヴィジョン」という。)は,有線ブロードネットワークスの代理店として,営業,受信契約の取次ぎ等の事業を営む。

6. キャンシステム株式会社(以下「キャンシステム」という。)は,音楽放送事業を営む。

7. 国内における業務店向け音楽放送の受信契約件数において,有線ブロードネットワークスの契約数が占める割合は72パーセント程度であり,キャンシステムの契約数が占める割合は20パーセント程度である。

8. 業務店向け音楽放送の受信契約については,有線ブロードネットワークス及びキャンシステムは各々,顧客との間で通常,契約期間を2年間とする契約を締結している。この際,顧客は,前記2社が提示するチューナー等の器材(商材)を選択する。

9. 顧客に対して請求される料金には,加入金及び月額聴取料(キャンシステムにあっては,加入金,工事費及び月額聴取料)がある。

10. 前記8の受信契約には,①切替契約(既に自社以外の音楽放送事業者との間で同契約を締結している顧客との間で当該契約に代えて締結する受信契約のこと。)と,②新規契約(前記顧客以外の顧客との間で締結する受信契約のこと。)の2種類が設けられている。

11. 切替契約においては,加入金及び工事費は請求されず,顧客は月額聴取料のみを支払っている(有線ブロードネットワークス,キャンシステムとも)。

12. 新規契約においては,有線ブロードネットワークスは,おおむね,加入金及び月額聴取料を請求している。キャンシステムは,おおむね,月額聴取料のみを請求している。

13. 平成156月末時点において,有線ブロードネットワークス及びキャンシステムは,それぞれ,業務店向け音楽放送の顧客に対して次の内容の受信契約を提示していた(別の金額が書かれている場合については,設置された器材別に別の料金が請求されていたことを示す。有線ブロードネットワークスについては,順に,「USEN40ch」,「USEN24ch」及び「SPSingle Mix)」について,キャンシステムについては「ケーブル120ch」ならびに「ケーブル50ch」・「ケーブル30ch」及び「サテライト50ch」についての金額である。)。

(1) 有線ブロードネットワークス

①新規契約の場合,加入金は,21,000円/15,750円/31,500円。月額聴取料は,4,725円。月額聴取料無料期間:チューナー設置月(音楽放送の受信に必要なチューナーを設置した月のことをいう。以下同じ。)限り。

②切替契約の場合,加入金なし。月額聴取料は3,675円~4,725円。までであり,月額聴取料無料期間:チューナー設置月を含め最長3か月。

(2) キャンシステム(切替契約・新規契約とも) 月額聴取料は, 5,250円/4,725円(ただし,当該金額から1,000円程度を割り引く),月額聴取料無料期間:チューナー設置月を含め2か月程度。

14. その後,平成15714日以降,有線ブロードネットワークス及び日本ネットワークヴィジョンは,キャンシステムから短期間に大量の顧客を奪い,キャンシステムの音楽放送事業の運営を困難にした上で,キャンシステムに音楽放送事業を有線ブロードネットワークスに売却させて音楽放送事業を統合することを企図して,キャンシステムの顧客を奪取する行為を開始した。

15. これに対して,キャンシステムが有線ブロードネットワークス及び日本ネットワークヴィジョンに対抗して月額聴取料を引き下げるなどした。

16.そこで,有線ブロードネットワークス及び日本ネットワークヴィジョンは,平成158月以降,単独に又は共同して,順次,次の行為を実施し集中的にキャンシステムの顧客を奪取している。

(1) キャンシステムの顧客の大部分が受信している器材と顧客層が重複するサービスについて,キャンシステムの顧客に限って,次の条件を適用する:①月額聴取料無料期間を6か月とする。②一部サービスについて,月額聴取料を3,150円とする。

(2) キャンシステムの顧客に限って,月額聴取料を3,150円とするキャンペーンを実施した(平成15114日から同月21日まで関東地区において,平成1617日から同月20日まで全国において実施)。

(3) キャンシステムの顧客に限って,最低月額聴取料を一律3,000円に引き下げ,月額聴取料無料期間について器材によりそれぞれチューナー設置月を含めて最長6か月/最長9か月/最長12か月とするキャンペーンを実施した(平成162月~同3月末まで)。

(4) キャンシステムの顧客に限って,加入金として30,000円を支払った顧客に対しては月額聴取料無料期間を合計で12ヶ月~24ヶ月とするなどのキャンペーンを実施した(平成1641日から同年5月末まで)

17. 有線ブロードネットワークス及び日本ネットワークヴィジョンは,前記16の行為により,著しく多数のキャンシステムの顧客を奪取し,キャンシステムの受信契約の件数は,平成156月末時点の262821件から,平成166月末時点の216,175件へと著しく減少した(17%減少)。

18. この結果として,国内における業務店向け音楽放送の受信契約件数において,有線ブロードネットワークスの国内における業務店向け音楽放送の受信契約数の占める割合は68パーセント程度(平成156月末時点)から72パーセント程度(平成167月末時点)に増加し,キャンシステムの国内における業務店向け音楽放送の受信契約数の占める割合は26パーセント程度(平成156月末時点)から20パーセント程度(平成167月末時点)に減少している。

19. また,キャンシステムは,平成156月末時点において128箇所あった営業所を平成168月末時点で90箇所に減少させている。

20. これら行為に対して,公取委が東京高裁に緊急停止命令の申立てを行ったところ,有線ブロードネットワークス及び日本ネットワークヴィジョンは,月額聴取料を3,675円以上とし,かつ,月額聴取料の無料期間をチューナー設置月を含めて3か月以内とすることを決定し,以来キャンシステムの顧客を奪取する行為を取りやめている。

法令の適用

「有線ブロードネットワークス及び日本ネットワークヴィジョンは,通謀して,キャンシステムの音楽放送事業に係る事業活動を排除することにより,公共の利益に反して,我が国における業務店向け音楽放送の取引分野における競争を実質的に制限していたものであって,これは,独占禁止法第2条第5項に規定する私的独占に該当し,独占禁止法第3条の規定に違反するものである。」


 

 

[事例・判決]

USEN損害賠償請求事件

東京地方裁判所判決平成201210

審決集551029頁、判例時報203570頁、判例タイムズ1288112頁、金融・商事判例130818

独禁法19条 一般指定14

民法709

事業法違反と不法行為の成否

 

(事案の概要)

「本訴は,本訴原告(株式会社USEN。反訴被告。以下「原告」という。)が,本訴被告(キャンシステム株式会社。反訴原告。以下「被告」という。)において有線ラジオ放送業務の運用の規正に関する法律(以下「有ラ法」という。)等に違反する状態で営業を継続し,原告の顧客を奪取したと主張して,被告に対し,不法行為に基づく損害賠償」請求を行ったものである。

「反訴は,被告が,原告において被告従業員を大量かつ一斉に引き抜き,引き続き私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)及び昭和57年公正取引委員会告示第15号「不公正な取引方法」(以下「一般指定」という。)に違反する不公正な取引方法を用いたキャンペーンを実施して被告の顧客を奪取し,これにより損害を被ったと主張して,原告に対し,不法行為に基づく損害賠償」請求を行ったものである。

 

「有線音楽放送事業者は,自ら又はその代理店を通じて,顧客との間で受信契約を取り交わし,当該顧客に有料で業務店向け音楽放送又は個人向け音楽放送を提供している。有線放送事業において,原告及び被告の国内における業務店向け音楽放送の受信契約数の合計は,全体の9割を超える状況にある。」

「有線ラジオ放送の業務を行おうとする者は,有ラ法3条に基づいて,総務省令の定めるところにより,その旨の届出書を総務大臣に提出しなければならず,有線ラジオ放送の事業を行うに際し,他人の土地若しくは電柱その他の工作物に有線電気通信設備を設置して有線ラジオ放送をするためには,電柱の所有者及び道路の管理者にそれぞれ電柱の使用の承諾,道路の占用の許可を得なければならず(同法3条の2,道路法321項),また,電柱上,道路上で配線工事を行う場合には,所轄警察署の道路使用許可を得る必要がある(道路交通法771項)。有線音楽放送業界では,このような一連の手続をとっていない状態が続いてきたが,このような状態から上記一連の手続をとるように改善していくことを,正常化と呼んでいる。」

 

A(以下「A」という。)は,昭和56年から被告従業員として勤務し,平成111月には被告の専務取締役になったが,平成156月に被告を退社し,同年71日にネットワークヴィジョンを設立し,自ら代表取締役に就任した。」

「原告は,平成1571日付けで,ネットワークヴィジョンとの間で,原告の行う有線ラジオ放送サービス及びCSデジタル有料放送サービス業務の一部を,ネットワークヴィジョンに委託する旨の業務提携契約書を取り交わした。」

 

「原告はネットワークヴィジョンに対し,その設立以降,事業を支援するために総額228400万円を貸し付け」る等,事業に必要な資金のすべてを提供している。

 Aは,被告従業員に対して,被告を退社し,Aの設立する会社の行う事業に関与するよう勧誘した。この結果,467名が退職し,退職者はおおむねネットワークヴィジョンに移籍して,専ら被告の顧客を原告に切り替える業務に従事した。

「ネットワークヴィジョンは有線音楽放送設備を持たず,専ら被告の顧客の受信契約を原告に切り替えることを仕事として」いる。

「被告は従業員の大量かつ一斉の退職により技術担当の従業員を失い,放送装置及び顧客の受信装置の設置及び維持に困難を来した。」

 

 原告は[乙山に対し原告による被告の買収を申入れたが,乙山はこれを断った。次に,原告は乙山に対し,・・・放送設備の廃棄及び被告の顧客に原告の放送設備から音楽の配信を受けさせ,被告を清算会社とし,原告による出資の下で新会社を設立し,その会社に主に営業機能を残すこと等を提案したが,乙山はこれに応じなかった。」

 

[原告によるキャンペーン]

「ア 原告が,平成156月当時,業務店向け音楽放送の顧客に提示していた受信契約は,おおむね次のとおりである。

 対象商品はUSEN40chUSEN24chSPSingle Mix)である。新規契約(自社以外の音楽放送事業者との間で受信契約を締結していない顧客と締結する受信契約)の場合の加入金(消費税相当額を含む。)は,それぞれ21000円,15750円,31500円,月額聴取料はいずれも4725円,月額聴取料の無料期間は,いずれも当該顧客が業務店向け音楽放送を受信するために必要なチューナーを設置した月のみである。切替契約(既に自社以外の業者との間で受信契約を締結している顧客との間でその契約に代えて締結する受信契約)の場合には加入金は請求せず,月額聴取料はいずれも3675円から4725円までであり,月額聴取料の無料期間はいずれの商材においてもチューナー設置月を含めて最長3か月であった。契約期間は通常2年間とされている。 

イ 被告が,平成156月当時,業務店向け音楽放送の顧客に提示していた受信契約は,おおむね次のとおりである。

 対象商品は,ケーブル120ch,ケーブル50ch,ケーブル30ch及びサテライト50chである。月額聴取料は,切替契約及び新規契約を問わず,ケーブル120chにつき5250円,ケーブル50ch,ケーブル30ch及びサテライト50chにつき4725円とした上で,おおむね当該金額から1000円程度を割り引く。月額聴取料の無料期間はいずれもチューナー設置月を含めて2か月程度であり,加入金はなかった。契約期間は通常2年間とされている。

ウ ネットワークヴィジョンは平成15714日に営業開始と共に被告の顧客を奪取する行為を開始したところ,被告が原告及びネットワークヴィジョンに対抗して月額聴取料を引き下げるなどしたことから,原告及びネットワークヴィジョンは,平成158月以降合同又は単独で,以下のエからケまでのキャンペーンを実施して(ネットワークヴィジョンにあっては原告の承認を受けて実施した),集中的に被告の顧客を奪取した。

 ネットワークヴィジョンは,原告及びネットワークヴィジョンが各キャンペーンを実施する際に,営業担当従業員に対し,「CANへの不信感をあおり,きちんと契約書を交わす当社を信じてもらう事により獲得に役立てて下さい。このような条件はキャンペーン期間(CANが無くなるまでのですけど,これは内緒ですが�)だけなので,何とかこの機会に是非お願いしますと再プッシュして下さい。」等と記載のある「営業トークマニュアル」(乙52)を配布した。

エ ネットワークヴィジョン及び原告は,平成158月,被告の顧客らを対象に,「USEN40ch」,「USEN24ch」及び「SPSingle Mix)」につき,月額聴取料の無料期間を6か月とし,「USEN24ch」につき月額3150円とするキャンペーンを実施した。

オ 原告及びネットワークヴィジョンは,前記平成15101日付け覚書の締結により,「USEN40ch」,「USEN24ch」及び「SPSingle Mix)」につき,被告の顧客に限って月額聴取料の最低額を3675円から3150円とし,月額聴取料の無料期間をチューナー設置月を含めて最長3か月から最長6か月へと変更した。

カ 原告及びネットワークヴィジョンは,平成15114日から同月21日まで,被告の顧客らを対象に,「USEN24ch」につき月額聴取料3150円等とする「TDK(東京大空襲)キャンペーン」と称するキャンペーンを実施した。

キ 原告は,平成1617日,原告の各支社に対して,「支社対抗CAN切替キャンペーンの条件について」と題し,「約半年前からのCAN切替条件は,組織・体力共に壊滅状態にある状況に鑑み,一気に顧客獲得作戦でスタートしました。」等と記載されたメールを送信した。そして,原告は,平成1617日から同月20日まで,原告の支社ごとに被告の顧客らを対象にした切替契約の目標件数(全国で7000件)を設定し,支社がその達成率を競う「1月度全国一斉切替キャンペーン」と称するキャンペーンを実施した。

ク 原告及びネットワークヴィジョンは,それぞれ平成162月及び3月ころ,キャンシステムの顧客らを対象に,「USEN440ch」,「USEN80ch」,「USEN40ch」,「USEN24ch」,「SPAll Mix)」,「SPDual Mix)]及び「SPSingle Mix)」につき,最低月額聴取料を3000円に引き下げ,月額無料期間についても期間を延長するといった有利な切替契約の条件を提示する「40周年記念特別キャンペーン」と称するキャンペーンを実施した。このキャンペーンでは,「40周年記念キャンペーン切替条件」と題し,「月額聴取料:3000円(税込み),無料サービス期間6ケ月~12ケ月,チャンネル数,キャンシステムの支払状況などで無料サービス期間が変わります。」等との記載のあるチラシが用いられた。

ケ 原告及びネットワークヴィジョンは,それぞれ平成1641日から同年5月末まで,被告の顧客を対象に,すべての商品を対象に,加入金3万円を支払った顧客に対しては月額聴取料の無料期間を12か月(16000円を支払った顧客に対しては6か月)を上乗せし,「USEN40ch」,「USEN24ch」及び「SPSingle Mix)」については,原告分は原告の支社長決裁により更に6か月を上乗せする等による「トクトクキャンペーン」と称するキャンペーンを実施した。

コ 原告は,平成1679日付けで原告従業員に対し,「他社切替における営業条件について」と題する書面(「本年79日をもって,切替営業条件(戻し・押えを含む。)については,その最低単価を3,675円(税込),期間サービスを設置月含み3ケ月以内と致します。」と記載したもの)を配布した。

サ 原告及びネットワークヴィジョンの上記各キャンペーン等により,被告の受信契約件数は,平成156月時点で284768件であったものが平成167月には227285件となった。この間に,〔1〕被告が原告及びネットワークヴィジョンによって切り替えられた件数,〔2〕原告及びネットワークヴィジョンが被告によって切り替えられた件数,〔3〕上記〔1〕から〔2〕を差し引いた差額件数は,以下のとおりである。

平成157月 〔14665件,〔2903件,〔33762 ・・・

平成167月 〔11810件,〔21621件,〔3189

上記期間の合計 〔1104599件,〔255758件,〔348841件」

「原告及びネットワークヴィジョンの上記各キャンペーンの結果,国内における業務店向け音楽放送の受信契約件数において,原告の占める割合は,平成156月末時点で67%程度から平成167月末時点で72%に増加し,他方,被告の占める割合は,平成156月末時点で26%程度から平成167月末時点で20%程度に減少した。平成167月末時点で国内における業務店向け音楽放送の受信契約件数は,音楽放送事業者中原告が1位であり,被告が2位である。

 また,被告は平成156月末時点で128か所あった営業所が平成168月末の時点で90か所に減少している。」

 

(争点及び裁判所の判断)

被告の不法行為の成否について

「原告は,被告が有ラ法3条の届出をしていない放送所で営業をしているから,違法営業であると主張する。」

「なるほど,・・・,被告が145か所の放送所のうち一部について有ラ法所定の届出をしていなかったことが認められる。しかし,有線音楽放送業務は免許事業ではなく届出制であり,しかも被告は実際に有線音楽放送業務の届出をしているのであって,届出をしない放送所が一部にあるとしても,これをもって被告の届出をしていない放送所での営業を含めその営業全体が,競争業者である原告との関係で不法行為法上違法となるということはできない。」

 

「原告は,被告が有ラ法3条の2,道路法321項に基づき必要とされる電柱の所有者及び道路の管理者の使用許諾,占用許可を得ておらず,また,電柱上で配線工事を行う際にも,道路交通法771項により必要とされる所轄警察署長の道路使用許可を得ていないなど,法令に違反した状態で営業を継続していると主張する。

 しかし,有ラ法は,「有線放送ラジオ放送の業務の運用を規正することによつて,公共の福祉を確保することを目的とする」(同法1条)ものであり,同法3条の2もその公益目的を実現するための規定である。道路法は,「道路網の整備を図るため,道路に関して,路線の指定及び認定,管理,構造,保全,費用の負担区分等に関する事項を定め,もつて交通の発達に寄与し,公共の福祉を増進することを目的とする」(同法1条)ものであり,同法321項もその公益目的を実現するための規定である。道路交通法は,「道路における危険を防止し,その他交通安全と円滑を図り,及び道路の交通に起因する障害の防止に資することを目的とする」(同法1条)ものであり,同法77条もその公益目的を実現するための規定である。このように,上記各規定はいずれも公益目的を実現するための規定であり,私人間の法律関係を直接規律するものではないから,上記各規定を根拠として,被告が競争業者である原告との関係において上記各義務を負っているということはできない。そうすると,被告の営業において道路法321項違反,道路交通法771項違反の事実がうかがえるとはいえ,これをもって原告との関係において義務違反があるとか,原告の権利ないし利益を違法に侵害しているということはできず,原告に対する不法行為を構成するものではない」。

 

 

反訴請求についての原告の不法行為の成否について

Aによるネットワークヴィジョン設立と同日に原告がネットワークヴィジョンとの間で業務提携契約を締結し,ネットワークヴィジョンの事業に必要な資金をすべて提供していること,ネットワークヴィジョンは設立当初の約1か月という短期間に被告の従業員総数1630名の約3割に相当する496名を退職させ,被告を退職した従業員の大半がネットワークヴィジョンに移籍したこと,ネットワークヴィジョンは有線音楽放送設備を持たず,専ら被告の顧客の受信契約を原告に切り替えることを仕事としており,被告を退職した従業員はネットワークヴィジョンに移籍後,専ら被告の顧客を原告に切り替える業務に従事したこと,被告が従業員の大量かつ一斉の退職により技術担当の従業員を失い,放送装置及び顧客の受信装置の設置及び維持に困難を来していた時期に,原告が被告に対し放送設備の廃棄及び被告の顧客に原告の放送設備から音楽の配信を受けさせることを提案したこと,原告は被告から上記提案を拒否されると,原告はネットワークヴィジョンと通謀して,平成158月以降,被告の顧客に限って切替契約の条件として3675円を下回る月額放送料又はチューナー設置月を含めて3か月を超える月額放送料の無料期間を提供するキャンペーン等を順次実施したこと,原告及びネットワークヴィジョンはこうした一連のキャンペーンの実施により切替営業を行い,集中的に被告の顧客を奪取し,その結果,被告の顧客は平成156月末時点の284768件から平成167月末時点の227285件へと著しく減少したこと」という「事実を総合勘案すると,原告及びネットワークヴィジョンは,共謀の上,上記キャンペーンを実施して集中的に被告の顧客を奪取したものと推認される。そして,原告及びネットワークヴィジョンの上記行為は「差別対価」(一般指定3項)という不公正な取引方法に該当する違法な手段により被告の顧客を大量に奪取して被告の事業活動を排除し,もって公共の利益に反して,我が国における業務用音楽放送の取引分野における競争を実質的に制限したものであって,独占禁止法25項に規定する私的独占に該当し,独占禁止法3条に違反するものというべきである。」

 

「以上のとおり,原告は,被告の有線音楽放送に関する事業活動を排除することを企て,ネットワークヴィジョンと通謀して,〔1〕被告従業員に対し虚偽の事実を告げて,被告を退職してネットワークヴィジョンに移籍するように勧誘し,被告の従業員総数1630名の約3割に相当する496名もの職員を一斉に退職させてネットワークヴィジョンに移籍させ,〔2〕これに引き続き,原告の従業員やネットワークヴィジョンへ移籍した被告の元従業員を使って被告の顧客を原告に切り替えるための勧誘を行い,その際に,被告の顧客に対してのみ他の需要者と差別的な,顧客に有利な取引条件を提示し,被告との有線音楽放送の受信取引を中止して原告と取引するように勧誘し,そのような取引条件により被告の顧客と取引し,もって被告の顧客48841件を奪取したものである。

 原告の上記〔1〕の行為については,原告及びAが,被告の正常化作業を阻止し,最終的には被告を吸収することを目標として被告従業員を大量に引き抜く計画を立て,これに基づきAが被告従業員に対し組織的に勧誘を行ったこと,Aは勧誘の際に最終的には被告が原告によって潰される等の説明をしたこと,これによって被告従業員のうち約3割に当たる従業員が一斉に退職したこと等の事情を総合考慮すると,原告の上記行為は,単なる転職の勧誘を超えた社会的相当性を逸脱する不公正な引き抜き行為であって,違法といわざるを得ない。このように,原告は故意に上記引き抜き行為をして,被告の被告従業員に対する契約上の債権を侵害したのであるから,不法行為が成立する。

 また,原告の上記〔2〕の行為は,上記〔1〕の行為に引き続き,これとあいまって行われたものであり,独占禁止法に違反する不公正な取引方法を手段とする違法な行為である。原告は,前記認定の事実関係の下では,上記〔2〕の行為が独占禁止法に違反することを認識していたか,少なくとも認識することが可能であったものと推認されるところ,原告は上記〔2〕の行為により被告の顧客を奪取して営業上の利益を侵害して後記認定の損害を与えたのであるから,被告に対する不法行為を構成するというべきである。」

 

「原告は,自らの実施した各キャンペーンが原告と被告との間で定期的に行われていた切替営業[注:他社の顧客に対する自己と受信契約を締結するよう促す営業活動のこと]の一環であり,被告による切替営業に対する防衛策であって,不法行為が成立しないかのように主張する。しかし,原告の実施した各キャンペーンは,前示のとおり独占禁止法に違反する不公正な取引方法によるものであり,国内業務店向け音楽放送業界における自由競争の範囲を逸脱しているというほかなく,被告の切替営業に対する防衛策であるとして正当化することはできない。」

 

「原告は,被告が,〔1〕有ラ法上の届出をせずに営業しているところがあり,〔2〕電柱所有者,道路管理者の承諾を得ないで電柱上に音楽放送用の電線を架設したものがあり,正常化に際し電柱所有者に対し使用電柱の数を過少申告するなど,有ラ法3条の2やその他の行政法規等に違反する営業をしており,このような被告の営業利益は不法行為法上の「法律上保護される利益」に当たらないと主張する。

 しかしながら,上記〔1〕については,有線音楽放送は免許事業でなく届出制であること等に照らせば,被告が運営する放送所の一部について有ラ法所定の届出をしなかったとしても,被告の有線音楽放送による営業利益が法律上保護される利益であることは否定されない。また,上記〔2〕については,有ラ法3条の2やその他の行政法規は,いずれも公益目的を実現するための規定であるから,被告が上記各条項に違反したとしても,被告の営業上の利益が直ちに「法律上保護される利益」に当たらないということはできない。したがって,被告が電柱所有者,道路管理者の承諾を得ないで電柱上に音楽放送用の電線を架設したものがあり,正常化に際し電柱所有者に対し使用電柱の数を過少申告しているとしても,被告の営業上の利益が法律上保護される利益であることは否定されない。」

 

被告の損害について

「原告の上記不法行為によって,被告は売上高が減少しているが,他面,従業員引き抜きを含む不法行為であるから,被告は人件費を始めとする諸経費を免れていることに照らせば,被告の被った損害は,営業利益の喪失分と解するのが相当である。

 そして,原告の不法行為が平成157月から平成167月までほぼ1年にわたって継続したこと,原告及び被告の顧客との受信契約の契約期間は通常2年であること,平成167月に原告の不法行為が止んでからは被告の営業利益は回復傾向にあり,平成172月からは営業利益がプラスに転じていること等は前示のとおりである。これらの事情を総合勘案すると,被告の営業利益の喪失期間は,原告の不法行為が開始された平成157月から平成176月までの2年とするのが相当である。」

「原告の不法行為が開始される直近である平成137月から平成156月までの被告の月次営業利益の合計は1167814906円である。一方,原告の不法行為が開始された平成157月から平成176月までの被告の月次営業利益の合計はマイナス884082175円であることは前記1認定のとおりである。そうすると,原告の不法行為がなければ,被告は平成157月から平成176月までの2年間に,直近の過去2年間の営業利益1167814906円と同程度の営業利益を獲得することができたものと推認されるところ,被告のその間の営業利益は上記マイナス884082175円となっている。したがって,平成157月から平成176月までの2年間に失った得べかりし営業利益は,上記1167814906円から上記マイナス884082175円を差し引いた額2051897081円(1167814906円-(-884082175円)=2051897081円)となる。」

「被告は,「売上高」の喪失額が「利益」の喪失額,又は「利益」の喪失額と「損失」の合計額に等しいとして,被告の売上高の喪失が原告の不法行為による損害額であると主張する。しかし,従業員引き抜きを含む不法行為の場合には,売上高が減少すれば,売上原価,販売管理費等の費用も変動するのが通常であり,実際にも,被告の売上原価,販売管理費,営業費用は大きく変動している。不法行為による損害は,売上高の喪失そのものではなく,売上高の減少分から費用を控除した額として計算すべきである。

 また,被告は,費用が減少したことによる利益の増加は不法行為と無関係な要因によるものであると主張する。しかし,不法行為により従来の安定した費用が減少したとすれば,費用減少の原因は不法行為であると事実上推定されるのであって,費用の減少が不法行為と無関係であるとはいえない。

 さらに,被告は,被告における企業規模の縮小に起因した費用の減少による営業利益の回復は売上高の回復の結果でなく,費用の減少の結果にすぎないから,損害額を減少する方向に考慮すべきでないと主張する。しかし,一般に企業は企業規模それ自体に特別の財産的価値があるのでなく,収益を生み出す力に財産的価値があるのであるから,企業規模が縮小したとしても,それに起因して費用が減少し,その結果,営業利益が増加する場合には,原則として当該増加分が損害額を減少させるものというべきである。そうすると,原告の不法行為により被告の企業規模自体が縮小したとする損害は特別損害であるから,被告による具体的な主張立証を要するが,この点についての主張立証はない。」

 

損益相殺等について

「原告は,違法営業は保護の対象にならないから,違法営業をしている被告が正常化に要する費用は損害から控除すべきであると主張する。

 しかしながら,被告の営業に行政法規違反があるとしても,その一事をもって直ちに被告の営業利益が不法行為法上保護されなくなるものでないことは前示のとおりである。また,損害賠償額を算定するに当たり,正常化に要する費用は,原告の不法行為により損害を被った被告が,損害を被った原因と同一の原因によって利益を受けたものとはいえないから,損益相殺の対象になるものでもない。さらに,正常化にかかる費用が,被告の月次損益計算書で計上していると推認される正常化作業にかかる費用を超えるものであることを認めるに足りる証拠はないし,また,平成157月から平成176月までの間に計上すべき正常化作業にかかる費用とそれ以外の期間に計上すべき同費用とを判別することは困難である。なお,被告の正常化に要する費用が現状の支出以上にかかるとしても,被告が各電柱所有者等に対して費用を支出する義務が生ずることは格別,被告従業員を大量かつ一斉に引き抜き,独占禁止法違反に当たる被告の顧客奪取行為をした原告との関係において,正常化に要する費用を控除する理由はないものというべきである。したがって,原告の上記主張は,いずれにせよ採用することができない。」

 

過失相殺について

「原告は,被告従業員の大量一斉退職については真摯に正常化作業に取り組まなかった被告ないし乙山の寄与が大きいとか,売上高や営業利益の減少も被告ないし乙山の寄与が大きいとして,9割の過失相殺をすべきであると主張する。 

 しかしながら,原告は,Aと共に被告の正常化を阻止し最終的には被告を原告に統合することを目的として被告従業員を大量に引き抜くことを計画し,Aらにおいて被告従業員に対し,最終的には被告が原告によって潰される等の説明をして退職を勧誘して,被告従業員の大量かつ一斉退職を実現し,退職した被告従業員の大半をネットワークヴィジョンに移籍させたこと,原告及びネットワークヴィジョンは,これに引き続き,ネットワークヴィジョンに移籍した被告の元従業員らを使用してキャンペーンを実施して被告の顧客を奪取したことは前示のとおりである。このように,原告は被告の正常化を阻止し最終的には被告を原告に統合することを目的として被告従業員の大量引き抜きを計画して実行したのであって,被告従業員の大量一斉退職は,原告が用意周到な計画の下に被告従業員に対して行った積極的な働きかけなしには到底実現しなかったものと考えられる。そうすると,被告従業員の大量一斉退職の一因として,被告を退職した従業員が被告ないし乙山に対し不満を持っていたことが挙げられるとしても,被告従業員の大量引き抜きを計画して実行した原告との関係において,被告ないし乙山の大量引き抜きに対する寄与をしんしゃくするのは相当でない。また,売上高や営業利益の減少について被告ないし乙山の寄与があるということもできない。したがって,原告の過失相殺の主張は採用しない。」


 

 [事例]

インテル(株)に対する件

勧告審決平成17413

審決集52341

 独禁法3条前段(排除)

*排他条件付取引・リベート

 

1. インテル株式会社(以下「日本インテル」という。)は,米国に所在するインテルコーポレーション(以下「米国インテル」という。)の完全子会社であり,米国インテルが製造販売するパーソナルコンピュータ(以下「パソコン」という。)用x86系セントラル・プロセッシング・ユニットを,国内パソコン・メーカーに対して直接又は代理店を通じて販売している(以下,パソコン用x86系セントラル・プロセッシング・ユニットを「CPU」といい,米国インテルが製造販売するCPUを以下「インテル製CPU」という。)。

2. 日本エイ・エム・ディ株式会社(以下「日本AMD」という。)は,米国に所在するアドバンスド・マイクロ・デバイセス インク(以下「米国AMD」という。)の完全子会社であり,米国AMD社の製造販売するCPU(以下「AMDCPU」という。)を,国内パソコン・メーカーに対して直接又は代理店を通じて販売している。

3. 米国に所在するトランスメタ・コーポレーション(以下「米国トランスメタ」という。)は,米国トランスメタが製造販売するCPU(以下「トランスメタ製CPU」という。)を輸入し,国内パソコン・メーカーに対して直接又は代理店を通じて販売している。トランスメタ株式会社(以下「日本トランスメタ」という。)は,米国トランスメタが全額出資する会社であり,我が国において,トランスメタ製CPUについて営業活動を行い,パソコン・メーカーからのトランスメタ製CPUに対する注文を米国トランスメタに取り次ぐなどの事業を営んでいる。

4.  日本インテル,日本AMD及び米国トランスメタ(以下「3社」という。)が国内パソコンメーカーに対して直接又は間接に販売するCPUの総販売数量(以下「CPU国内総販売数量」という。)は,我が国において販売されるCPUのほとんどすべてを占める。

5. インテル製CPUについては、①CPU国内総販売数量の大部分を占め、②パソコン購入者間で広く認知されており、③強いブランド力を有し、④価格、機能等の面で様々な種類に対応するCPUを安定して供給し、⑤性能を向上させたCPUを次々に販売している。このため、国内パソコンメーカーにとっては、インテル製CPUを搭載したパソコンを製造販売することが重要となっている。

6.  平成12年ころ以降,日本AMDが,インテル製CPUと競合するCPUをより安い価格で発売したことなどを契機として,国内パソコンメーカーがAMDCPUを搭載し始めた。CPU国内総販売数量のうちAMDCPUの販売数量が占める割合は,平成12年から平成14年にかけて,約17パーセントから約22パーセントとなった。

7.日本インテルは,国内パソコンメーカーが製造販売するパソコンに搭載するCPUの数量のうちインテル製CPUの数量が占める割合(以下「MSS」という。)を引き上げることを,国内パソコンメーカー向けに営業活動をする際の基本的な営業目標としている。

8. 日本インテルは,国内パソコンメーカーに対し,特定のインテル製CPUを特別価格で販売する場合,一般的に,国内パソコンメーカーごとに提示する「カスタマー・オーソライズド・プライス」と称する価格(以下「CAP」という。)で当該CPUを販売したものとして販売代金を請求し,一定期間が経過した後に,CAPと特別価格との差額に販売数量を乗じて得た額の金銭(以下「割戻金」という。)を当該国内パソコンメーカーに提供している。また,日本インテルは,国内パソコンメーカーに対し,米国インテルを通じて,「マーケット・ディベロップメント・ファンド」と称する資金(以下「MDF」という。)を提供する場合がある。

9.  国内パソコンメーカーは,日本インテルから割戻金又はMDFの提供を受けることを強く望んでいる。

10. このような状況下で,日本インテルは,国内パソコンメーカーのうちの5社と取引するに当たり,以下のいずれかを条件として,インテル製CPUに係る割戻金又はMDFを提供することを約束した。日本インテルは,AMDCPUの販売数量が今後も増加し続けることを危ぐし,平成145月ころ以降,各国内パソコンメーカーのMSSを最大化することを目標として上記約束を行っていた。

MSS100パーセントとし,インテル製CPU以外のCPU(以下「競争事業者製CPU」という。)を採用しないこと

MSS90パーセントとし,競争事業者製CPUの割合を10パーセントに抑えること

③生産数量の比較的多い複数の商品群[(パソコン製造業者が価格,機能等により設けたパソコンの商品群。「シリーズ」と呼ばれる。)]に属するすべてのパソコンに搭載するCPUについて競争事業者製CPUを採用しないこと

11. この約束をされた国内パソコンメーカー5社は,その製造販売するすべて若しくは大部分のパソコン又は特定の商品群に属するすべてのパソコンに搭載するCPUについて,競争事業者製CPUを採用しなくなっている。

12.日本インテル,日本AMD及び米国トランスメタが当該5社に対して販売したCPUの数量の合計がCPU国内総販売数量に占める割合は,約77パーセントであった(平成12年から平成15年まで)。

13. インテルの前記10の行為により,CPU国内総販売数量のうち日本AMD及び米国トランスメタが国内において販売したCPUの数量が占める割合は,平成14年において約24パーセントであったものが平成15年においては約11パーセントに減少している。

14. 平成15年において,日本インテルが販売したインテル製CPUの数量がCPU国内総販売数量に占める割合は約89パーセントである。

法令の適用

日本インテルは,前記事実の2(1)記載の5社に対するCPUの販売に係る競争事業者の事業活動を排除することにより,公共の利益に反して,国内パソコンメーカー向けのCPUの販売分野における競争を実質的に制限しているものであって,これは,独占禁止法第2条第5項に規定する私的独占に該当し,独占禁止法第3条の規定に違反するものである。

主文

1 インテル株式会社は,インテルコーポレーションから,その製造販売するCPU(パーソナルコンピュータに搭載するx86系セントラル・プロセッシング・ユニットをいう。以下同じ。)を輸入し,これを,国内パソコンメーカー(国内に本店を置くパーソナルコンピュータの製造販売業者をいう。以下同じ。)に販売するに際して,平成145月ころ以降行っている,国内パソコンメーカーに対し,その製造販売するパーソナルコンピュータに搭載するCPUについて

(1) MSS(各国内パソコンメーカーが製造販売するパーソナルコンピュータに搭載するCPUの数量のうちインテル製CPU(インテルコーポレーションが製造販売するCPUをいう。以下同じ。)の数量が占める割合をいう。以下同じ。)を100パーセントとし,競争事業者製CPU(インテルコーポレーション以外の事業者が製造販売するCPUをいう。以下同じ。)を採用しないこと

(2) MSS90パーセントとし,競争事業者製CPUの割合を10パーセントに抑えること

のいずれかを条件として,インテル製CPUに係る割戻し又は資金提供を行うことを約束することにより,その製造販売するすべて又は大部分のパーソナルコンピュータに搭載するCPUについて,競争事業者製CPUを採用しないようにさせる行為を取りやめなければならない。」(主文・以下略)

 


 

[事例]

エム・ディ・エス・ノーディオン・インコーポレイテッドに対する件

勧告審決平成1093

審決集45148

 独禁法3条前段(排除)

*排他条件付取引

 

1. エム・ディ・エス・ノーディオン・インコーポレイテッド(以下「ノーディオン」という。)は,カナダに本店を置き,カナダ所在のアトミック・エナジー・オブ・カナダ・リミテッド(以下「AECL」という。)が原子炉を用いて製造する原料の供給を受け,これを自社の施設で処理することによりモリブデン99を製造し販売している。

2. ノーディオンは,世界におけるモリブデン99の生産数量の過半を占め,販売数量の大部分を占める。モリブデン99の製造販売を行なう者には,ノーディオンのほか,アンスティテュ・ナシオナル・デ・ラディオエレマン(世界第2位,べルギー王国所在)(以下「IRE」という。)等数社がある。

3. モリブデン99は,専ら放射性医薬品であるテクネチウム99エム製剤の原料として使用される。テクネチウム99エム製剤は,モリブデン99以外の原料によって製造することはできない。

4. 我が国においては,日本メジフィジックス株式会社(以下「日本メジフィジックス」という。)及び株式会社第一ラジオアイソトープ研究所(以下「第一ラジオ」という。)の2社(以下「2社」という。)が,テクネチウム99エム製剤を製造している。2社は,従来,使用するモリブデン99の全量をノーディオンから購入している。

5.  AECLの原子炉が老朽化し,これに代わる新規原子炉の建設等が計画されることになった。ノーディオンとAECLとの間では,「ノーディオンは,右原子炉等の所有権を取得するとともに,同原子炉の建設等に要する資金の大部分を負担する」との合意が行なわれた。

6. ノーディオンは,前記5の計画を実現するとともに投資資金を回収するための方策として,モリブデン99の販売数量を確保することとし,そのため世界のすべての主要な顧客との間で,顧客が必要とするモリブデン99の全量をノーディオンから排他的に購入する旨の規定を含む長期間の契約(以下「排他的購入契約」という。)を締結することとした。

7. ノーディオンは,2社に対して,10年間の排他的購入契約を締結することを提案した。

8. 日本メジフィジックスは,独占禁止法の規定に違反することが懸念されるとしてノーディオンに対して「exclusively」(「排他的に」の意味を持つ)という文言を契約書中に含めることに反対した。ノーディオンは,当該文言を削除し,「日本メジフィジックスが取得,使用,消費又は加工するモリブデン99の全量をノーディオンから購入しなければならない」旨の規定を含む平成17年末までの10年間の契約を締結した。

9. 第一ラジオは,従来から,ノーディオンによるモリブデン99の価格の大幅な引上げを受け入れざるを得ないという状況にあったため,モリブデン99を複数の供給先から購入することを検討していた。第一ラジオは,平成77月頃,IREに対して,一定の条件が満たされればモリブデン99の長期購入契約を締結する用意があることを伝えていた。第一ラジオは,その後,同年9月ころ,ノーディオンから前記・排他的購入契約の提案を受けた。第一ラジオは,ノーディオンに対し,購入契約を非排他的なものとするよう繰り返し要請した。しかし,ノーディオンは,前記の計画を実現するためには世界の主要な顧客すべてとの間に10年間の排他的購入契約を締結する必要があるとし,要請を受け入れなかった。このため,第一ラジオは,排他的購入契約の締結に応じなければ取引条件において不利益を被るおそれがあること等を懸念し,ノーディオンの要請を受け入れることとし,IREとの間の交渉は取りやめた。第一ラジオは,ノーディオンとの間で,「第一ラジオが取得,使用,消費又は加工するモリブデン99の全量をノーディオンから排他的に購入しなければならない」旨の規定を含む平成17年末までの10年間の契約を締結した。

10. ノーディオンの前記79の行為により,他のモリブデン99の製造販売業者(IREを含む。)は,平成17年末まで,日本メジフィジックス及び第一ラジオとモリブデン99の取引ができない状況となった。

11. 公取委が本件について審査を開始したところ,ノーディオンは,①第一ラジオとの間での契約を修正して同社に対してモリブデン99の全量をノーディオンから排他的に購入する義務を課すことを取りやめ,また,②日本メジフィジックスとの間での契約を修正し,同社に対し必要なモリブデン99の全量をノーディオンから購入する義務を課すことを取りやめた。

法令の適用

「ノーディオンは,日本メジフィジックス及び第一ラジオとの間において,それぞれ,平成8年から10年間,その取得,使用,消費又は加工するモリブデン99の全量をノーディオンから購入する義務を課す契約を締結して,他のモリブデン99の製造販売業者の事業活動を排除することにより,公共の利益に反して,我が国におけるモリブデン99の取引分野における競争を実質的に制限していたものであり,これは,独占禁止法第2条第5項に規定する私的独占に該当し,独占禁止法第3条の規定に違反するものである。」

 


 

[事例]

福井県経済農業協同組合連合会に対する件

排除措置命令平成27116

審決集未登載

独禁法3条前段(支配)

*受注調整

 

1. 福井県経済農業協同組合連合会(以下,「福井県経済連」という。)は,農業協同組合法に基づいて設立された連合会であり,福井県に所在する全ての農業協同組合(以下,「農協」という。)及び農業協同組合連合会等を会員とする(会員数18名,うち農協12名)。

2. 農協が施主となって穀物の乾燥・調製・貯蔵施設の建設等を行う際,農協等の多くは,施設建設等に係る専門的知識を有していないことなどのために施主代行業務を提供する者(以下,「施主代行者」という。)を選定して,この者から業務の提供を受けてきた。施工代行業務には,基本設計の作成,実施設計書の作成又は検討,工事の施行(当該工事の施工業者決定のための入札等参加者の選定についての助言,入札等の執行の補助等の業務を含む。),施工管理等の業務が含まれる。そして,農協は,施主代行者に対しては,報酬として,管理料(工事ごとに決められた料率を当該工事代金に乗じる等の方法により算出した金額)が支払われてきた。

3. 福井県経済連は,会員である農協等から委託を受けて,前記2の施主代行業務を提供する事業その他の経済事業等を行っている。

4. 福井県は,同県が生産を振興する「福井米」の評価向上を目的として,米の食味検査に基づいた区分集荷・販売等を実施することとし,平成23年度ないし平成25年度の間,これら生産体制整備事業の同県農林水産部所管の補助事業(以下,「本件補助事業」という。)として実施していた。

5. 本件補助事業の助成対象には,農協が施主となり発注する食味検査のための機器の導入に伴う荷受集計システムの改修工事,乾燥施設の改修工事等の穀物の乾燥・調製・貯蔵施設の製造請負工事等があり,これらはいずれも,現在稼働している穀物の乾燥・調製・貯蔵施設に係る工事であった。

6. 福井県は,本件補助事業について,農協が施主となる場合には原則として3者以上の施工業者が参加する指名競争入札により契約を行わなければならないとし,福井県農林水産部長からこれを通知し,このとおり農協を指導していた。

7. 福井県に所在する農協のうち,11の農協(以下,これらの農協を「11農協」という。)が,前記補助事業により発注した穀物の乾燥・調製・貯蔵施設の製造請負工事等及びこれと同時に発注された前記補助事業によらない製造請負工事及び建設工事(以下,これらの工事を「本件工事」という。)を発注していた。

8. 11農協は,本件工事57件のうち15件を除くものについて,福井県の前記6の方針・指導に従い3者以上の施工業者が参加する指名競争入札の方法により発注していた。そして,施主代行者である福井県経済連から助言を受けて,福井県内において現在稼働している穀物の乾燥・調製・貯蔵施設の建設・保守点検等の実績を有する者のうち6社(日本車輌製造株式会社,井関農機株式会社,株式会社福井近畿クボタ,クボタアグリサービス株式会社,ヤンマーグリーンシステム株式会社,株式会社サタケ)から,各入札における参加者を指名していた。なお,特定共乾施設工事のうち前記15件については,入札等の方法によらずに,当該施設の既設業者に発注していた。

9. 11農協は,それぞれ,指名競争入札の方法により発注する場合,入札回数を2回以内と定め,予定価格の制限の範囲内の最も低い価格で入札した者を受注者とし,当該価格を契約価格と決定していた。ただし,2回目の入札によっても予定価格の制限の範囲内の価格で入札する者がいなかった場合には,最も低い価格で入札した者との間で当該価格を基に価格交渉を行った上で,契約価格を決定し,その者を受注者としていた。

10. 福井県経済連は,平成239月頃以降,本件工事について,施主代行者として,工事の円滑な施工,管理料の確実な収受等を図るため,次の方法等により,受注すべき者(以下「受注予定者」という。)を指定するとともに,受注予定者が受注できるように,入札参加者に入札すべき価格を指示し,当該価格で入札させていた。

① 当該施設の既設業者を受注予定者と決定する。

② 受注予定者に対し,「ネット価格」と称する受注希望価格を確認し,当該価格を踏まえて,受注予定者の入札すべき価格を決定し,受注予定者に当該価格で入札するように指示する。

③ 受注予定者の入札すべき価格を踏まえて,他の入札参加者の1回目及び2回目の入札すべき価格を決定し,他の入札参加者に当該価格で入札するように指示する。

11. 指名競争入札の方法により発注された本件工事のすべてが,前記10の方法に従い,福井県経済連から指定された受注予定者が受注していた。

12. 平成25521日に本件補助事業により発注される全ての工事の入札が終了したことから,翌日以降,福井県経済連の前記10の行為は行われなくなった。

 

法令の適用

「福井県経済連は,特定共乾施設工事について,受注予定者を指定するとともに,受注予定者が受注できるように,入札参加者に入札すべき価格を指示し,当該価格で入札させることによって,これらの事業者の事業活動を支配することにより,公共の利益に反して,特定共乾施設工事の取引分野における競争を実質的に制限していたものであって,この行為は,独占禁止法第2条第5項に規定する私的独占に該当し,独占禁止法第3条の規定に違反する」。「違反行為が自主的に取りやめられたものではないこと等の諸事情を総合的に勘案すれば,特に排除措置を命ずる必要があると認められる。」

 


 

 

[参考]

農業協同組合等が発注する穀物の乾燥・調製・貯蔵施設及び精米施設の製造請負工事等の施工業者に対する件

排除措置命令平成27326

審決集未登載

独禁法3条後段

 

1. 株式会社サタケ(以下「サタケ」という。),井関農機株式会社,ヤンマーグリーンシステム株式会社,クボタアグリサービス株式会社(以下「クボタアグリサービス」という。),株式会社山本製作所,静岡製機株式会社,日本車輌製造株式会社(以下「日本車輌製造」という。)の7社(以下,「7社」という。)は,穀物の乾燥・調製・貯蔵施設及び精米施設の製造請負工事を請け負う者である。株式会社クボタ(以下「クボタ」という。)は,穀物の乾燥・調製・貯蔵施設及び精米施設の製造請負工事を請け負う者であったが,クボタアグリサービスに対しこれら工事の施工を含む農業用施設に関する事業を譲渡し,以降同事業を営んでいない。

2. 7社及びクボタの8社(以下,「8社」という。)は,農業協同組合,地方公共団体,農事組合法人,営利法人,任意組合及び全国農業協同組合連合会(以下,これらを「農協等」という。)から穀物の乾燥・調製・貯蔵施設及び精米施設の製造を請け負い工事を行っていた。

3.農協等は,一般競争入札等の方法により発注する穀物の乾燥・調製・貯蔵施設及び精米施設の製造請負工事等のうち福井県経済農業協同組合連合会が施主代行業務を提供する工事を除くものについて,次の方法による発注を行っていた。

① 「一般競争入札,一般競争見積,指名競争入札又は指名競争見積の方法にあっては,原則として,工事ごとに,予定価格又は見積設計目標価格(以下「予定価格等」という。)を設定して,複数の者から当該工事について入札価格又は見積価格(以下「入札価格等」という。)を提示させ,予定価格等の制限の範囲内の入札価格等を提示した者の中で最も低い価格を提示した者を受注者とし,当該価格で発注していた。」

②「見積り合わせの方法にあっては,原則として,複数の者から当該工事について見積価格を提示させ,最も低い価格を提示した者との間で当該価格を基に価格交渉を行った上で,その者を受注者とし,合意した価格で発注していた。」

4. 8社は,前記3の工事について,受注価格の低落防止等を図るため,次の通り,予め受注予定者を決定し,受注予定者以外の者は,受注予定者が受注できるように協力することを合意し,受注予定者が受注できるようにしていた。

①受注予定者の決定について,(i) 受注を希望する者(以下「受注希望者」という。)が1社のときは,その者を受注予定者とし,(ii)受注希望者が複数社のときは,当該工事それぞれについて,対象となる穀物の乾燥・調製・貯蔵施設及び精米施設の建設等又は保守点検等の実績,施主である農協等への営業活動の実績等を勘案して,受注希望者間の話合いにより受注予定者を決定する

受注予定者が提示する入札価格等は,受注予定者が定め,受注予定者以外の者にこれを連絡する

受注予定者以外の者は,受注予定者が連絡した入札価格等以上の入札価格等を提示する

5. 8社は,前記3の工事の大部分を前記4のとおり受注していた。

6. 平成251119日,公正取引委員会による立入検査を行った日の翌日以降,前記4の合意に基づく行為は取りやめられている。

 

法令の適用

8社は,共同して,特定農業施設工事について,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにすることにより,公共の利益に反して,特定農業施設工事の取引分野における競争を実質的に制限していたものであって,この行為は,独占禁止法第2条第6項に規定する不当な取引制限に該当し,独占禁止法第3条の規定に違反する」。

 

 

 

[参考]

北海道に所在する農業協同組合等が発注する低温空調設備工事の工事業者に対する件

排除措置命令平成27120

審決集未登載

独禁法3条後段

 

1. ナラサキ産業株式会社,株式会社北海道日立(以下「北海道日立」という。)及び三菱電機冷熱プラント株式会社(以下,「三菱電機冷熱プラント」という。)の3社(以下,「3社」という。)は,北海道に所在する農業協同組合又は農業協同組合連合会(以下,「農協等」という。)が発注する低温空調設備の建設工事を請け負っていた。なお,三菱電機冷熱プラントは,平成2641日以来,北海道支店における事業活動を取りやめており,上記工事の請負も行っていない。

2. 農林水産省は,国産農畜産物の産地競争力の強化及び食品流通の合理化に関する取組等を総合的に支援するため,北海道又は北海道内の市町村を介して,農協等に対し,農協等が発注する低温空調設備を建設する工事のうち一部の工事について工事に要する経費に係る額の半分に相当する額を交付していた。この際に,農林水産省は,農協等において一般競争入札により上記工事を行う事業者を選定することを交付の条件としていた。

3. 農協等は,前記2の交付を受けるか否かにかかわらず,一般競争入札,一般競争見積,指名競争入札,指名競争見積又は見積り合わせの方法により低温空調設備の建設工事の発注を行っていた(これらの方法により発注される低温空調設備の建設工事を「本件工事」という。)。なお,このうち,「見積り合わせの方法」とは,原則として複数の者から当該工事について見積価格を提示させ,最も低い価格を提示した者との間で当該価格を基に価格交渉を行った上で,その者を受注者とし,合意した価格で発注する発注方法である。

4. 農協等は,平成214月から平成263月までの間に実施した農協等発注の本件工事の競争入札等の全てにおいて, 3社のうち少なくとも複数の者を含む者を入札等の参加者として選定していた。

5. ホクレン農業協同組合連合会(以下「ホクレン」という。)は,農協等発注の本件工事の大部分について,農協等から施主代行業務を受託し,基本設計の作成,実施設計書の作成又は検討,工事の施行(入札等の実務,工事の施工業者の選定の補助等の業務を含む。),施工管理等の業務を農協等に対して提供していた。

6. ホクレンは,施主代行業務を行う者として,農協等に対して,前記2の農林水産省からの交付決定後に入札を行った場合には農協等が設定した期日までに工事を完了させることが困難と見込まれる工事について,農協等に対し,①交付金の交付決定前に,低温空調設備工事が施工される施設の建築設計の協力業者を選定する名目の「候補選考」と称する競争入札等を実施すること,②候補選考を行った場合には,改めて競争入札等を実施しないことを提案していた。3社は,候補選考と称して実施される競争入札等においては,当該工事の受注者が工事の受注先として選定されるものと認識していた。

7. 3社は,遅くとも平成2148日以降,農協等発注の特定低温空調設備工事について,受注価格の低落防止等を図るため,受注予定者を決定し,受注予定者以外の者は,受注予定者が受注できるように協力する旨の合意を行い,次の通り,受注予定者を決定し当該受注予定者が受注できるようにしていた。

① 受注希望者が1社のときは,その者を受注予定者とする

② 受注希望者が複数社のときは,同種工事の受注実績,ホクレン担当者が当該農協等の希望等を踏まえて示した意向等を勘案して,受注希望者間の話合いにより受注予定者を決定する

③ 受注予定者が提示する入札価格等は,受注予定者が定める。

④ 受注予定者以外の者は,受注予定者が定めた入札価格等以上の入札価格等を提示する

8. 3社は,農協等発注の特定低温空調設備工事の大部分を前記7の方法により,受注していた。

9. 平成26325日に公取委が立入検査を行い,同日以降,前記*の行為はとりやめられている。

 

法令の適用

3社は,共同して,農協等発注の特定低温空調設備工事について,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにすることにより,公共の利益に反して,農協等発注の特定低温空調設備工事の取引分野における競争を実質的に制限していたものであって,この行為は,独占禁止法第2条第6項に規定する不当な取引制限に該当し,独占禁止法第3条の規定に違反する」。「ナラサキ産業株式会社及び北海道日立については,違反行為が長期間にわたって行われていたこと,違反行為の取りやめが公正取引委員会の立入検査を契機としたものであること等の諸事情を総合的に勘案すれば,特に排除措置を命ずる必要があると認められる。」

 

[参考]

ホクレンに対する申入れ等について

(公取委報道発表平成27120日)

1. ホクレンについては,審査の過程で,次の事実が認められた。

「ホクレンの担当者は,ホクレンが施主代行業務を受託した農協等発注の特定低温空調設備工事の競争入札等において,特定の工事業者に対し,当該農協等の希望等を踏まえ,受注予定者についての意向を示すことがあった。また,ホクレンの担当者は,農協等発注の特定低温空調設備工事の競争入札等の実施に当たり,特定の工事業者に対し,当該工事の契約締結の目安となる予算額を教示することもあった。」

2. 前記1の行為は,北海道に所在する農業協同組合等が発注する低温空調設備工事の工事業者に対する件における3社の「違反行為を誘発し,助長していたものと認められることから,公正取引委員会は,公正かつ自由な競争を確保するため,ホクレンに対し,前記[1]と同様の行為が再び行われることがないよう適切な措置を講ずることを申し入れた。」

3. また,「ホクレンは,農協等から施主代行業務を受託した者として,交付金の交付決定後に入札を行った場合には農協等が設定した期日までに工事を完了させることが困難と見込まれるものについて,農協等に対し,交付金の交付決定前に低温空調設備工事が施工される施設の建築設計の協力業者を選定する名目の候補選考と称する競争入札等により,当該工事の受注者を選定し,その場合には,改めて競争入札等を実施せずにこれを実施した体裁を整えることを提案するとともに,その実務を担当していた。このため,公正取引委員会は,ホクレンに対し,入札手続の透明性を確保するための措置を講ずるべきである旨を伝えた。」

 

 


 

[参考・審決]

(株)埼玉銀行ほか17名に対する件

同意審決昭和25713

審決集274

独禁法3条前段(排除)

独禁法19

 

1. 株式会社埼玉銀行(以下「埼玉銀行」という。)は,銀行業務等を営む。丸佐生糸株式会社(以下「丸佐生糸」という。)は,生糸の売買,貿易並びに代理業等を営む。被審人平沼彌太郎,同秋元順朝,同和崎啓三,同森田角三郎,同世川鉄一郎,同長島恭助,同伊藤長三郎,同田島一夫,同千葉壽,同小河原勝次,同佐野作次郎,同会川覚太郎,同小川福治郎,同逸見正夫,同細田修三及び同町田賢一(以下被審人平沼彌太郎外15名という)は,埼玉銀行の役職員又は嘱託である。

2. 埼玉銀行は,埼玉共栄製糸株式会社他11の生糸製糸工場(それぞれ,いずれも埼玉県内にある。)に対して原料繭の購入資金(以下購繭資金という)の大部分を融資している。前記製糸工場は,この融資により原料繭を購入して生産した輸出生糸の検査及び販売を横浜市にある輸出生糸問屋に委託している。輸出生糸問屋は,その販売代金の中から及び立替金及び手数料等を控除して埼玉銀行に振り込んでいる。

3. 昭和242月頃から生糸の販売代金の流用等によつて購繭資金の回収が困難となると,埼玉銀行は,自己の支配下にある問屋として丸佐生糸を設立し,前記製糸工場に対し購繭資金を融資する際の条件として製品たる輸出生糸を丸佐生糸に一手に取扱わせることにより購繭資金を確実に回収することにした。

4. 丸佐生糸の株主23名中16名は,被審人埼玉銀行の役職員又は嘱託である被審人平沼彌太郎外15名(これらの者は全株式10万株中,7万株を所有する。)であり,残り7名の株主中6名は被審人埼玉銀行の元役員である。丸佐生糸の資本金総額である500万円は,全株主に対する株式払込金の融資の形で被審人埼玉銀行が出資し,各株主は埼玉銀行を受取人とする約束手形を振り出し支払を行っていない。

5. 丸佐生糸及び埼玉銀行は,融資先である製糸工場に対して製品を被審人丸佐生糸に出荷するよう要請した。

6. 前記5の行為により,被審人埼玉銀行の融資先製糸工場と横浜市にある輸出生糸問屋との取引は著しく影響を受けるようになり,例えば,従来日本シルク株式会社横浜出張所が取り扱っていた日本シルク株式会社・本庄,松山及び秋平工場の製品の全て及び従来横浜蚕糸商協同組合が取り扱っていた川越製糸株式会社の製品3000斤は,丸佐生糸に出荷されるようになった。

 

法の適用

「第1,右234の事実によれば被審人埼玉銀行及び被審人丸佐生糸は協議の上,金融上の圧力を加へて,被審人埼玉銀行の融資先製糸工場の事業活動を拘束し,以て此等製糸工場の取引先である被審人丸佐生糸以外の輸出生糸問屋の事業活動を排除することにより公共の利益に反して,埼玉県下の生糸製糸工場と横浜市にある輸出生糸問屋との取引分野における競争を実質的に制限するもので私的独占禁止法第3条前段に違反し,

2,右3の事実は,被審人埼玉銀行が被審人丸佐生糸の全株式を自己の関係者の名儀で実質上所有しているもので,同法第11条第2項の規定を免れる行為であつて同法第17条に違反し,又,被審人埼玉銀行の現役職員又は嘱託である被審人平沼彌太郎外15名が被審人丸佐生糸の株式7万株を名儀上所有することによつて横浜市にある輸出生糸問屋と埼玉県下の生糸工場との取引分野における競争を実質的に制限するものであつて同法第14条第1項に違反し,

3,右4の事実は被審人丸佐生糸が被審人埼玉銀行と協議し,不当に金融上の利益を以て競争者である横浜市にある他の輸出生糸問屋の顧客である被審人埼玉銀行の融資先製糸工場を自己と取引するように勧誘することであり,又被審人埼玉銀行が相手方である自己の融資先製糸工場とその顧客である横浜市の生糸問屋との取引を不当に拘束する条件をつけて,此等製糸工場に資金を供給することであつて夫々同法第2条第6項第4号及び第6号の不公正競争方法に該当し,同法第19条に違反する

ものと認めるが,当事者の申出に従つて審判手続を経ないで同意審決により本件手続を終了せしめることが公共の利益に適するものと思料するから次の如く審決する。」

主文

1,被審人埼玉銀行は審決後直ちに被審人丸佐生糸の株式に対する実質上の所有関係を終止せしむる措置をとり,その結果を60日以内に当委員会に報告すること。

2,被審人平沼彌太郎外15名の者は,前記の株式中各自の所有名儀にかゝる合計7万株を夫々審決後直ちに処分し,その結果を60日以内に当委員会に報告すること。

3,被審人千葉壽は,被審人埼玉銀行の支店長宛の「丸佐生糸株式会社成立発足に関する件」なる文書を撤回し,その旨を,融資先なる各製糸工場に周知徹底せしむること。

4,被審人埼玉銀行及び被審人丸佐生糸は将来他の事業者の事業活動を排除し,又は支配することにより公共の利益に反して生糸の取引分野に於ける競争を制限してはならない。」

 


 

 [参考・判決]

野田醤油審決取消請求事件

東京高等裁判所判決昭和321225

高等裁判所民事判例集1012743頁、行政事件裁判例集8122300頁、東京高等裁判所(民事)判決時報911

独禁法3条前段(支配)

*再販売価格拘束

 

原告(野田醤油株式会社)は,「自己の製造販売するしよう油の再販売価格を指示しこれを維持しもつて小売価格を斉一ならしめることにより他のしよう油生産者の価格決定を支配し東京都内におけるしよう油の取引分野の競争を実質的に制限している」として3条前段に反するとした審決の取消を求めた。

 

25項にいう「他の事業者の事業活動を支配するとは,原則としてなんらかの意味において他の事業者に制約を加えその事業活動における自由なる決定を奪うことをいうものと解するのを相当とする。しかしこのことから一定の客観的条件の存するため,ある事業者の行為が結果として他の事業者の事業活動を制約することとなる場合はすべてここにいう支配に当らないとするのは狭きに失するものといわなければならない。なんとなれば,法は支配の態様についてはなんらの方法をもつてするかを問わないとしているのであつて,その客観的条件なるものが全く予期せざる偶然の事情であるとか,通常では容易に覚知し得ない未知の機構であるとかいう特別の場合のほかは,一般に事業者はその事業活動を営む上において市場に成立している客観的条件なるものを知悉しているものというべきであるから,自己の行為がその市場に存する客観的条件にのつて事の当然の経過として他の事業者の事業活動を制約することとなることは,当然知悉しているのであつて,かような事業者の行為は結局その客観的条件なるものをてことして他の事業者の事業活動を制約することに帰するのであり,ここにいう他の事業者の事業活動を支配するものというべきであるからである。」

本件においては,「しよう油業界における格付及びそれにもとづくマーク・バリユー,品質,価格の一体関係から他の生産者が原告の定めた価格に追随せざるを得ない」という「客観的条件関係」が「市場に存在」し,「このような市場秩序の存するところで原告がその再販売価格を指示しかつ維持し小売価格を斉一ならしめれば,他の生産者はおのずから自己の製品の価格をこれと同一に決定せざるを得ざるにいたり,その間価格決定につき独自の選択をなすべき余地はなくなるというのであつて,これがすなわち原告の価格支配であるとする審決の所論」には,「論理の構造においてはなんら不合理なものあるを見ないのである。」「ただ原告の行為に客観的条件が作用する場合であつても,原告の生産者価格が決定された結果,他の生産者がその格付を維持するためそれと同一の生産者価格を決定せざるを得ないとしても,この行為をこの側面からとらえて私的独占の一場合たる価格支配となし得ないことは被告が審決において認めるところである。しかしこのことから,生産者のする再販売価格の指示及び維持による他の価格支配もまた許されるとすることのできないことは多言をまたない」。

 


 

[参考・判決]

伊予鉄道(株)による一般乗合旅客自動車運送事業の禁止等請求控訴事件

高松高等裁判所判決昭和6148

判例タイムズ629179頁、金融・商事判例76925

独禁法3条前段(排除)

 

控訴人が,乗合自動車事業(バス事業)を奥道後と松山市交通各拠点(国鉄松山駅等)を直結する路線において行うべく,運輸大臣に対して免許申請(以下「第一次免許申請」という。)をしたところ,この路線において既にバス事業を営んでいた被控訴人はこれに反対の立場をとって,道路運送法施行規則第73条の4の規定に基づく聴聞申請をした。その後,愛媛県当局及び県政財界の有力者の斡旋の下で協定(「原協定」とよばれる。)が成立した。この協定には,控訴人が「第一次免許申請書のとおり限定の経営免許を受け,奥道後遊園地発着の旅客に限り輸送する」という約条があった(原協定(3))。

控訴人は,この後,限定免許を受けて,乗合自動車事業を開始した。この限定免許の下では,往路(奥道後行)においては途中乗車ができるが途中下車ができず,復路(奥道後発)においては途中下車ができることとされていた。

控訴人は,その後,各路線の旅客が途中の各停留所で自由に乗降できる通常の乗合旅客自動車業務について経営免許の申請(非限定・第三次免許申請)を行った。

被控訴人が,控訴人に対して,被控訴人の第三次免許申請は原協定(3)の約条に反するとして,一般乗合旅客自動車運送事業の禁止を求めて訴えた。

高松高裁は,協定の趣旨・意義,協定が独禁法に反しないか,協定の有効性などについて,以下のとおり判示した。

 

(協定等の趣旨)

問題の協定は,「控訴人は,第一次免許申請書記載の松山市内の各交通拠点からの,または右各交通拠点への奥道後発着の路線及び旅客に限定して被控訴人が乗合自動車経営免許申請及び営業(認許があった場合)をすることに同意(右路線については,控訴人が競合して既免許路線を有しているから,右の限度で控訴人は既得権に基づく権益の侵害を理由に,被控訴人の限定免許申請に反対しないこと)し,右同意によって新会社の限定免許申請が簡易迅速に認許される便益を与える代りに,新会社は右限定免許の限度で免許申請をし,それをこえて将来非限定の乗合自動車事業部門に進出のため,その経営免許申請及び同事業を経営しないことを約したもの」であった。そして,「原協定(3)の約条は,新会社に対し非限定の乗合自動車事業部門に新規参入をしないという不作為義務を課したものであり,控訴人の側から言えば,新会社が右部門に新規参入しようとするときは,右約条に基づきこれを阻止し,排除できることが,その趣旨であったというべきである。」

 

被控訴人の主張(協定は独占禁止法に違反し無効である)について

「独占禁止法が禁止している私的独占は,①事業者が②単独または結合して③他の事業者の業事活動を排除または支配することによって④公共の利益に反し,⑤一定の取引分野における競争を実質的に制限することをいうものであることは,同法25項の規定するところである。そこで,以下順次原協定(3)の約条が右要件に該当するか否かについて見ることとする。」

「控訴人・被控訴人とも乗合自動車事業を営む事業者であることは明らかである。もっとも,原協定が成立した昭和359月当時,被控訴人は乗合自動車事業の事業者ではなかったが,新たに同種の事業者となるべく免許を申請中であり,私的独占の「他の事業者」には,このような潜在的競争事業者をも含むと解するのが,公正かつ自由な競争の確保を目的とする独占禁止法の趣旨に徴し相当である」。

「以下更に進んで原協定(3)の約条が被控訴人の事業活動を排除または支配するものであるか否かについて検討する。」

「前記のとおり原協定(3)の約条及び修正協定に基づき,控訴人は被控訴人の非限定の乗合自動車事業への新規参入を妨げようとするものであるから,控訴人の右行為は,競争事業者の排除に当たるものというべきであり,右行為によって現に非限定の乗合自動車事業に参入しようとしている被控訴人は,右事業活動を妨げられることになる。」

「そして,松山市内の各交通拠点,すなわち,高浜港,松山観光港,堀江港,松山空港,国鉄松山駅,松山市駅と奥道後とを直結する路線(途中に停留所が全く存在しないということではない。)は,右各交通拠点から観光客を奥道後に輸送することを主たる目的とするものと解せられるから,それ自体として1つの取引分野を形成するものというべく,右交通拠点と奥道後とを直結する路線については,控訴人と被控訴人のみが全面的に競合(ただし,被控訴人は限定)して営業しているものである。そうすると,控訴人が原協定(3)の約条及び修正協定に基づき,右路線における限定免許から無限定の乗合自動車事業への被控訴人の進出を妨げる行為は,一定の取引分野における競争を実質的に制限するもの,すなわち,独占禁止法3条で禁止されている私的独占に当たるものというべきである。もっとも,被控訴人が第一次免許申請において対象とした路線区間において,訴外瀬戸内運輸,宇和島自動車,国鉄など他事業者のバス路線が一部競合していることが・・・認められるけれども,それは右路線の一部にとどまり,前記松山市内の交通拠点と奥道後を直結する路線については,控訴人と被控訴人のみが全面的に競合しているものであるから,前記認定を左右するものではない。」

「そして,独占禁止法に定める「私的独占」は,「公共の利益に反する行為」であることをその要件としているが,右にいう「公共の利益」は,自由競争を基盤とする経営秩序そのものを指すと解するのが相当であるから,競争を実質的に制限する行為は,直ちに「公共の利益に反する」ことになるものというべきである。」

 

独占禁止法違反の私法上の効力について

「独占禁止法の規定の性格は,その内容によってかなり異なっており,効力規定的要素が強いものから行政取締法規的要素が強いものまで種々様々であるから,独占禁止法違反の契約,協定であっても一律に有効または無効と考えるのは,相当でなく,規定の趣旨と違反行為の違法性の程度,取引の安全保護等諸般の事情から具体的契約,協定毎にその効力を考えるのが相当である。本件は原協定(3)の約条に基づいて控訴人が被控訴人に対し本件路線への非限定の乗合自動車事業への参入を阻止しようとするもので,右協定当事者である控訴人と被控訴人間のみの問題で,その間に第三者が介在せず,取引の安全を考慮する必要はないから,原協定(3)の約条は,無効と認めるのが相当である。」

 

「以上のとおりであるから,原協定(3)の約条に含まれる競争制限的合意は,独占禁止法3条によって禁止されている私的独占に該当し,無効というべく,これに基づき被控訴人に対し非限定の乗合自動車事業の経営禁止及び第4次免許申請の取下げを求める控訴人の本訴請求は,その余の点について判断するまでもなく理由がない。」


 

企業結合

 

[基本・判決]

東宝・スバル審決取消訴訟事件

東京高等裁判所昭和26919

高等裁判所民事判例集414497頁、行政事件裁判例集291562

独禁法1613

*競争の実質的制限

 

原告は「競争の制限が実質的であるためには,料金の引上げを来すであろうとか,数本立を一本立にするであろうとかいう,具体的事実を示さなければならないのに,審決にはこれを示していないと主張している。なるほど,原告の挙げている事例は,これによつて競争の制限が実質的であると認定する1資料たる場合があることは認められるけれども,法第15条第1項第2号にいうところの競争の実質的制限(・・・)とは,原告のいうような個々の行為そのものをいうのではなく,競争自体が減少して,特定の事業者または事業者集団が,その意思で,ある程度自由に,価格,品質,数量,その他各般の条件を左右することによつて,市場を支配することができる形態が現われているか,または少くとも現われようとする程度に至つている状態をいうのである。従つて競争者の減少,或は競争の目的の減少(本件の場合でいえば映画数または映画の種類の減少等),または競争行為の減少(本件の場合でいえば,広告宣伝の減少等)等は,必然に競争の制限を来すが,これらの個々の事実があれば,直ちに制限が実質的となるとはいえないのであるから,必ずしも,これらの個々の事実をことさらに示すにはおよばないのである。」

 

 

1. スバル興業株式会社(以下「スバル興業」という。)とするものであり、映画その他の興行、映画の配給娯楽機関の経営、レクリエーシヨン事業の経営、不動産の売買並に賃貸借等の事業を営む。

2. 東宝株式会社(原告)は,映画の製作配給並に映画演劇その他の興行を営む。

3. スバル興業株式会社は,アメリカ映画上映館の経営を業とするが,レクリェーション事業の経営及び不動産売買等を兼営してこれらの未稼働資産に巨額の資金を投入した結果,金融難に陥り,スバル座及びオリオン座の2館を差押えられ公売処分の通知を受けるに至った。

4. スバル興業が原告に援助を求め,原告は,新興映画館として好評を博していたスバル,オリオンの2館を失うこととなれば,有楽町を中心とする映画興業景気がさびれ,これにより原告の直営映画館には不利益が生じると考え,申出に応じることにした。

5. 原告は,スバル興業に3千万円を貸付け,スバル興業から営業を賃借することとし,これを内容とする契約が締結された。

6. 東京都興行組合銀座支部の管轄区域(銀座を中心として,京橋,日比谷,新橋,築地を連ねる地域)においては,20の映画館(座席数16807個)が存在し,原告は,前記契約により8館(座席数9842個)を支配することになる。

7. 前記地域において原告が支配する映画館座席の比率は,スバル・オリオン座を除けば50.2%,これら2館を加えれば57.9%である。

8. スバル・オリオン座がある丸の内,有楽町界隈は前記地域の中でも便利なところにある。本件契約により原告は,丸の内,有楽町界隈において座席数について90.4%のシェアを有することになる。

9. スバル座は高い評価を受けている映画館であった。

10. 公取委が原告によるスバル・オリオン座の2劇場の賃借は独禁法16条等に反するとしてこれを禁ずる内容の審決を下したところ,原告が審決の取消を請求した。

 

裁判所の判断

本件においては,「銀座を中心として,京橋,日比谷,新橋,築地を連ねる1地域」について,映画興行の一定の取引分野が成立するとみるのが相当である。この「一定の取引分野における原告の支配は,単にその数の上で過半数を占めるばかりでなく,その質においてはるかに重きを加え,原告単独の意思で,相当に上映映画をはじめ,各般の興行条件にわたり,これを左右できる地位を占め,更に右分野において映画興行につき,強度の支配力を持つ可能性を有するに至るものと認定することができる。従つて原告の本件賃借により,右一定の取引分野における競争が実質的に制限されるものというべきである。」

                   


 

 [基本・事例]

日本楽器製造(株)に対する件

公取委勧告審決昭和32130

審決集851

独禁法10条,17

*株式取得

*水平型企業結合・

 

1. 日本楽器製造株式会社(以下「日本楽器」という。)は,ピアノ,オルガン,ハーモニカ等楽器類の製造販売を営む。生産量は,全国生産量に対し,ピアノ54%,オルガン64%,ハーモニカ28%で,いずれも第1位である。

2. 河合楽器製作所(以下「河合」という。)は,日本楽器と競争関係にある。河合が楽器類の全国生産量中に占める河合の割合は,ピアノ16%,オルガン13%,ハーモニカ7%である。

3. 日本楽器は河合の事業活動に影響を与える目的をもつて,野村証券株式会社浜松支店(以下「野村」という。)に対し,資金を提供して河合の株式の買集めを依頼した。野村は,この依頼に応じ,515,000株(発行済株式数の24.5%)にのぼる株式を買い集めた。

4. 日本楽器はその後,世評をおもんばかり日本楽器の材料購入先である三谷伸銅株式会社(以下「三谷」という。)に前記株式の引取を依頼した。そして,その購入資金64,751,361円および右株式に対する増資割当株式257,500株の払込資金12,875,000円に充当させるため,三谷に対し,合計78,000,000円を材料代の前渡金の名目で送金して,772,500株の株式を取得させたものである。

法の適用

「日本楽器は,自己と競争関係にある河合の株式を間接に所有しており,これによつて,ピアノ,オルガン,ハーモニカの製造販売の分野における競争を実質的に制限することとなると認められるものであつて,これは昭和22年法律第54号私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律第10条の禁止を免れる行為であり,第17条に違反するものである。」

主文

1,日本楽器製造株式会社は,三谷伸銅株式会社をして,同社に取得させた株式会社河合楽器製作所の株式のうち300,000株をこえる部分をただちに処分させなければならない。」(主文・以下略)

 


 

[基本・事例]

日本石油運送(株)ほか3名に対する件

同意審決昭和26625

審決集373

独禁法10

*垂直型企業結合

 

1. 日本石油株式会社は,柏崎製油所外5ヶ所の製油所,隅田川油槽所外16ヶ所の油槽所を有し,石油の精製,販売等を営む。

2. 被審人日本石油運送株式会社(以下「日本石油運送」という。)は昭和21327日設立され,裏日本における帝国石油株式会社の原油を運ぶタンク貨車を有する唯一の運送業者として日本石油株式会社,昭和石油株式会社,日本鉱業株式会社等の裏日本に製油所を有する石油精製会社の委託を受け,専らこれら石油精製会社の国産原油の輸送に従事して来た。

3. 日本石油運送の株式については,日本石油株式会社,昭和石油株式会社,日本鉱業株式会社,縁故関係者,日本石油運送株式会社の役員及び従業員等が保有してきたところ,昭和25年に日本石油株式会社以外の会社が所有する株式が個人に移転等し,この結果,日本石油株式会社が株式7万株を所有して株主となった。他に大株主と認められる者としては式守輝之助(34000株),松田通世(14000株),野村駿吉(1万株)等にすぎなかった。

公取委の判断

「被審人日本石油運送株式会社の日本石油運送株式会社の事業経営に対する発言権は著しく大なるものと認められ,特に日本石油運送株式会社の有するタンク貨車使用の利便は,日本鉱業株式会社及び昭和石油株式会社に優先して享受することができることとなり,これら3石油精製会社の石油製品販売分野における競争を実質的に制限することとなる」。

法の適用

「被審人日本石油株式会社の行為は,私的独占禁止法第10条第1項に違反する」。

主文

「被審人日本石油株式会社はこの審決を受けてから1ヶ月以内にその所有する日本石油運送株式会社の株式7万株全部を,石油採掘業者及び石油精製業者以外の者に譲渡しなければならない。」(主文・以下略)

 


 

[基本・事例]

広島電鉄(株)及びその役員等4名に対する件

同意審決昭和48717

審決集2062

独禁法10条,13

*水平型企業結合

*役員兼任

 

1. 被審人広島電鉄株式会社(以下「広島電鉄」という。)は,広島市およびその周辺の地域において,地方鉄道業,軌道業,一般乗合旅客自動車運送事業(以下「乗合バス事業」という。),一般貸切旅客自動車運送事業(以下「貸切バス事業」という。)等を営む。

2. 被審人堀江明は,広島電鉄の代表取締役である。被審人石松正二及び同岡野晴雄は,広島電鉄の取締役である。被審人田中渉は,広島電鉄の従業員である。

3. 広島バス株式会社(以下「広島バス」という。)は,乗合バス事業,貸切バス事業等を営む。

4. 広島市内においては,広島電鉄および広島バスのほかに,広島交通株式会社ら6社ならびに呉市および日本国有鉄道(以下これらを「広島交通ら8者」という。)が乗合バス事業を経営している。

5. 広島交通ら8者の路線は,いずれも,その大部分が広島市以外にある対距離制の運賃を採用している路線(以下「郊外線」という。)である。

6. 広島市内における軌道および乗合バスによる旅客の運送は,おおむね,広島電鉄(軌道及び市回線)と広島バス(市内線)によって行なわれている。

7. 広島電鉄の軌道および市内線と広島バスの市内線は,主要な地域において競合している。たとえば,次の地域の交通需要は,以下のとおり両社により,おおむね,充足されている。

①比治山と黄金山とを結ぶ線と京橋川とにはさまれ皆実町3丁目と翠町とを結ぶ線以南の地域と的場町から紙屋町までの県道広島・海田線から約500メートルの範囲に含まれる商業地域(以下「市中心部」という。)との間の交通需要:広島電鉄(軌道1号線・同3号線・同5号線,市内線1号線・同12号線)及び広島バス(市内線2号線・同9号線)

②比治山と黄金山とを結ぶ線と京橋川とにはさまれ皆実町3丁目と翠町とを結ぶ線以北の地域と市中心部との間の交通需要:広島電鉄(市内線5号線・同7号線)及び広島バス(市内線4号線,同8号線・同9号線)

③戸坂町地区と市中心部との間の交通需要:広島電鉄(市内線12号線)及び広島バス(市内線7号線)

④太田川と太田川放水路とにはさまれ平和大通り以北の地域(以下「3篠・横川地区」という。)と市中心部との間の交通需要:広島電鉄(市内線7号線・同9号線)及び広島バス(市内線3号線,同4号線・同9号線)(なお,この地域には広島交通ら8者の郊外線が存在するが,これらは,市内線とは停留所の位置が異なる上に,停留所の数が著しく少ないため,広島電鉄及び広島バスの市内線に代替しうるものではない。)

⑤国鉄山陽線と太田川放水路とにはさまれた地域と市中心部との間の交通需要:広島電鉄(地方鉄道宮島線・軌道2号線・同3号線)及び広島バス(市内線6号線)

⑥市中心部の内部における交通需要:広島電鉄(軌道1号線・同2号線・同6号線・市内線1号線・同2号線・同3号線・同4号線)及び広島バス(市内線2号線・同3号線・同5号線・同6号線・同7号線)(なお,この地域には広島交通ら8者の郊外線が存在するが,これらは,市内線とは停留所の位置が異なる上に,停留所の数が著しく少ないため,広島電鉄の軌道及び市内線並びに広島バスの市内線に代替しうるものではない。)

8. 広島市内において,軌道の運賃は,9号線の20円を除き,すべて130円であり,市内線の運賃は,おおむね,130円である。

9. 広島電鉄は,広島バスの取締役3名から,同人らが所有する広島バスの株式を広島電鉄に譲り渡したい旨の申入れを受け,昭和46910日から昭和47912日にかけて,広島バスの発行済株式総数13万株のうち約85パーセントに当る11万株を取得した。

10. 広島バスの取締役は5名,監査役は1名である。このうち取締役3名(堀江明,石松正二及び田中渉)及び監査役(岡野晴雄)は,いずれも,広島電鉄の役員または従業員を兼ねる。

法令の適用

「広島電鉄が広島バスの株式を取得し,また,堀江明,石松正二,岡野晴雄および田中渉が広島電鉄の役員または従業員と広島バスの役員を兼任していることは,いずれも,広島市の主要な地域における軌道および乗合バスによる旅客運送分野の競争を実質的に制限することとなるものであって,広島電鉄は,私的独占禁止法第10条第1項前段,また,堀江明,石松正二,岡野晴雄および田中渉は,同法第13条第1項の規定にそれぞれ違反するものである。」

主文

1 被審人広島電鉄株式会社は,その所有する広島バス株式会社の株式11万株のうち,85000株を審決が効力を生じた日から7日以内に処分しなければならない。

2 被審人堀江明,同石松正二,同岡野晴雄および同田中渉は,審決が効力を生じた日から20日以内に広島パス株式会社の役員を辞任しなければならない。」(主文・以下略)

 


 

[基本・事例]

八幡製鉄(株)ほか1名に対する件

同意審決昭和441030

審決集1646

独禁法15

*水平型企業結合

*排除措置命令

 

[I]

1. 被審人八幡製鉄株式会社(以下「八幡製鉄」という。)および同富士製鉄株式会社(以下「富士製鉄」という。)は,鉄鋼製品の製造販売を営む。

2. 八幡製鉄および富士製鉄は,八幡製鉄を存続会社とし,富士製鉄を解散会社とすること,存続会社の商号を新日本製鉄株式会社と変更すること等を内容とする合併契約を締結した。

3. わが国における鉄鋼製品の主要な製造,販売業者のうち,八幡製鉄,富士製鉄,日本鋼管株式会社(以下「日本鋼管」という。),住友金属工業株式会社(以下「住友金属工業」という。),川崎製鉄株式会社(以下「川崎製鉄」という。)および株式会社神戸製鋼所(以下「神戸製鋼所」という。)の6社(以下「6社」という。)は,製銑,製鋼,圧延を一貫して行なういわゆる鉄鋼一貫メーカとして,各種鉄鋼製品を多角的に生産する有力な事業者であり,他の鉄鋼製品の製造,販売業者に比べ事業規模において格段に優位を占める。6社はわが国における鉄鋼製品の製造,販売分野の大部分を占める。

4. 昭和43年上期における資本金,総資産および総売上高は,八幡製鉄および富士製鉄は,それぞれ資本金1,2736,000万円と1,020億円,総資産7,192億円と5,395億円,売上高2,262億円と1,964億円であり,いずれも八幡製鉄が第1位,富士製鉄が第2位である。

5. 6社が昭和43年における銑鉄および粗鋼の全国生産実績に占める割合は,八幡製鉄22. 1%18. 5%,富士製鉄22. 4%16. 9%,日本鋼管16. 0%12. 4%,住友金属工業13. 3%11. 8%,川崎製鉄工12. 4%11. 3%,神戸製鋼所7. 1%5. 5%である。

[鉄道用レール,食かん用鋳ブリキ,物用銑,鋼矢板について詳細下記]

 

I

「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「私的独占禁止法」という。)第15条弟1項第1号にいう「当該合併によつて,一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合」とは,当該合併によつて,市場構造が合併前と比較して非競争的に変化し,特定の事業者が,市場における支配的地位を獲得することとなる場合をいう。しかして,ある事業者が,市場を独占することとなつたり,あるいは取引上,その意思で,ある程度自由に,価格,品質,数量,その他各般の条件を左右しうる力をもつこととなり,これによつて,競争事業者が自主的な事業活動を行ないえないこととなる場合には,右の特定の事業者は,その市場における支配的地位を獲得することとなるとみるべきである。」

 「ところで,特定の事業者について市場支配的地位が形成されるかどうかは,当該の合併当事会社の属する業界の実情ならびに各取引分野における市場占拠率,供給者側および需要者側の各事情,輸入品の有無,代替品ならびに新規参入の難易等の経済的諸条件を考慮して判断されなければならない。」

「わが国における鉄鋼業界は,他産業に比して固定資本投下額が大きいために各事業者の製品コストのうちに占める固定費の割合が高く,巨大な設備資金を必要とするために金利負担が増大していること,鉄鋼製品は,資本財および生産財などとして使用される中間製品であつて,一般の消費財と異なる特徴を有すること,合わせて,需要産業界の需要動向に鋭敏であること,そして,鉄鋼製品は,一般に,製品差別化が困難なものであることなどの特異性を有する点ならびに日本経済の成長性と個別的な鉄鋼品種の成長性および競争事業者の事業力などが考慮されなければならない。」

「しかして,これらの事情を勘案すれば,現状において八幡製鉄と富士製鉄が合併することとなつた場合,鉄道用レール,食かん用ブリキ,鋳物用銑および鋼矢板の各取引分野について競争が実質的に制限されることとなると認められるが,そのそれぞれについてみれば,以下のとおりである。」

 

[II. 鉄道用レール]

(事実)

6.鉄道用レールは,主として,日本国有鉄道の定める一定の厳格な規格と品質についての要求のもとに製造がなされ,その需要者は,主として,日本国有鉄道ならびに公営および民営の各鉄道(以下「民営鉄道等」という。)である。 

7. 鉄道用レールを製造するのは,八幡製鉄と富士製鉄だけである。販売割合は,各年,おおむね八幡製鉄70パーセント,富士製鉄30パーセントの割合で推移している。

8. 鉄道用レールの輸入は,主として形状および価格上の理由などから行なわれていないし,当面行なわれる可能性もない。

9. 現在の八幡製鉄および富士製鉄の鉄道用レールの製造技術は,日本国有鉄道の協力と厳格な品質要求を受け,日本国有鉄道の関係者が参加する研究会への参加等を通じて永年の研究と経験により習得されたものである。

10. 同レールの国内総供給量のうちに占める日本国有鉄道の需要量の割合は,おおむね4分の3である。日本国有鉄道は,八幡製鉄および富士製鉄から,それぞれ原価計算の説明を求め,交渉を重ねたうえで購入価格を決定している。

11. 民営鉄道等の購入する鉄道用レールは,品質は日本国有鉄道が購入する鉄道用レールと同一であり,購入価格は日本国有鉄道の購入価格をもとにしてこれよりも若干の高値としている。

12. 鉄道用レールの需要の伸び率(見込み)は,今後3年間年間約4パーセントである。

13. 八幡製鉄と富士製鉄が合併することとなった場合,日本鋼管は,鉄道用レールを新たに供給するとの意向を公表し,両者との間で参入のための契約を締結している。参入計画等の具体的内容等は次のとおりである。

①日本鋼管は,昭和469月完成予定の日本鋼管・大中形工場に鉄道用レール製造用設備を設置して,同レールの製造,販売を行なう。この製造用設備の発注は昭和454月に行う予定であり,現在は設計を行っている段階にある。この設備を用いて,当初月間約1万トンを生産する。

②日本鋼管は下記③実施中に合併会社から有償で技術援助を受けて,必要な技術を取得する。

③日本鋼管は,前記①の自社新規設備による製造,販売開始までは,現在の富士製鉄・釜石製鉄所にある鉄道用レール製造設備を富士製鉄から譲り受けて自ら所有し,その他設備は同社からこれを貸借して,前記場所において合併会社に同レールの製造を請け負わせ,その完成品を自己の名において販売する。合併会社は,請負生産については,日本鋼管の生産許画を優先的に取り扱う。この段階で,日本鋼管は,現に富士製鉄が製造している年間約10万トンの同レールと同等量を製造できることになる。

④製造開始後は前記8の研究会に参加する資格が得られる。

⑤日本国有鉄道の品質検査のために要する検査及び指示の期間を短縮するために,富士製鉄で製造された原料を一部用いる等の措置を講ずる。

⑥なお,日本国有鉄道からは,品質,生産技術等について日本鋼管製鉄道用レールが信頼できるものと認められる場合には,購入の対象たりうる旨との回答が得られている。

(法の適用・理由)

「鉄道用レールの市場は,固有の取引分野を形成している。

現状のままでは,八幡製鉄と富士製鉄が合併することによつて,鉄道用レールの取引分野における競争を実質的に制限することとなり,これは,私的独占禁止法第15条第1項第1号の規定に違反するものである。

 もっとも,八幡製鉄と富士製鉄が合併することとなつた場合,日本鋼管が新たな供給者として参入することが明らかにされている。

同社が合併会社から技術援助を確実に受けられさえすれば,日本鋼管は,新規設備による本格生産をひかえて富士製鉄(釜石製鉄所)における経過的製造とその製品の販売を通じて同レールの新たな供給者として同レールの取引分野に参入して,品質・供給量の両面において現在の富士製鉄と同等またはそれ以上の供給を行ないうるものと認められる。

もっとも,日本鋼管を合併会社に対する有効な牽制力ある競争者として評価しうるためには,日本鋼管は,自主的に同レールの取引条件を決定しうる地位になければならない。」前記79)の委託生産実施中(約2年)の間は,「請負価格等が適正であること,合併会社が日本鋼管に原料を供給する場合には,その価格が適正であり,かつ原料供給が支障なく行なわれること,などが妨げられるようなことがなければ,日本鋼管にして取引条件を自主的に決定しえない立場におかれるものとは認め難い。そしてこの場合,合わせて,鉄道用レールの販売価格の決定については,主たる需要者である日本国有鉄道が大きな影響力をもつていること,民営鉄道等に対する同レールの販売価格は日本国有鉄道に対する販売価格をもとにして取り決められていることが考慮されなければならない。」

 以上からして,「右合併によつて鉄道用レールの取引分野における競争が実質的に制限されることとなる状態が排除されるためには,富士製鉄および合併会社は主文第一項ないし第七項の措置を採る必要がある。」

(主文 鉄道用レールに関する部分)

「一 被審人富士製鉄株式会社は,昭和4436日付の同八幡製鉄株式会社との合併契約にもとづく合併の合併期日前に,富士製鉄株式会社釜石製鉄所の鉄道用レール製造用附席設備を,別紙112の契約および覚書(案)にもとづいて,日本鋼管株式会社に譲渡しなければならない。

二 被審人富士製鉄株式会社は,前項の合併期日から,別紙112の契約および覚書(案)にもとづいて,同社釜石製鉄所において,日本鋼管株式会社の計算で,同社が指示する鉄道用レールの製造を行なわなければならない。

三 被審人富士製鉄株式会社は,前項の製造を行なうにあたつて,日本鋼管株式会社に対して原料(ブルーム)を供給する場合には,富士製鉄株式会社釜石製鉄所における自社のための生産に重大な支障を生ずるおそれのある場合のほか,同項の製造に必要な原料の供給に支障を与えてはならない。

四 被審人富士製鉄株式会社は,第二項の製造を行なうにあたつて,日本鋼管株式会社に対し,別紙11の契約第10条所定の対価については鉄鋼業界における原価の一般的算出方法によって算定した額に照らして適正な額を超えて,また同対価の支払方法については鉄鋼業界における慣行に反して,請求してはならない。

五 被審人富士製鉄株式会社は,第二項の製造を行なうにあたつて,日本鋼管株式会社に対し,別紙11の契約第9条第2項所定の原料(ブルーム)の対価については時価を基準とした額を超えて,また同対価の支払方法については鉄鋼業界における慣行に反して,請求してはならない。

六 被審人らは,第二項の製造を行なつている間に,日本鋼管株式会社に対して,別紙112の契約および覚書(案)にもとづいて,被審人らの有する鉄道用レールの製造に必要な技術を提供しなければならない。

七 被審人らは,日本鋼管株式会社に対して,別紙11の契約第4条第2項所定の対価については適正な額を超えて,また同対価の支払方法については鉄鋼業界の慣行に反して,請求してはならない。」

 

[III. 食かん用ブリキ]

(事実)

14. (1)「食かん用ブリキ」(かん詰用空かんの素材となるブリキのことをいう。)は,他のブリキと比較してより高度の耐蝕性等特別の品質が要求されることから,他のブリキと区別して製造,販売がなされている。

15. 食かん用ブリキを生産している者(カッコ内はシェアを示す。)は,現在,八幡製鉄(39.6%),東洋鋼鈑株式会社(以下「東洋鋼鈑」という。)(29.2%),富士製鉄(21.6%),日本鋼管(8.5%)および川崎製鉄(1.1%)5社である。

16. 食かん用ブリキの品質上の要求については,内容物である食品の種類により差異がある。とくに厳格な品質が要求される用途をおおむね充足するのは,前記5社のうちでも八幡製鉄,富士製鉄および東洋鋼鈑が製造する食かん用ブリキに限られる。

17. 前記5社以外に新規にブリキの供給を企図している事業者はない。食かん用ブリキの輸入は,行われておらず,当面行なわれる可能性もない。

18. 食かん用ブリキの主たる需要者は,東洋製缶株式会社(以下「東洋製缶」という。)(第1位),大和製缶株式会社(以下「大和製缶」という。)(第2位),北海製缶株式会社(以下「北海製缶」という。)(第3位)および本州製缶株式会社(以下「本州製缶」という。)(第4位)の4社である。これら4者の購入割合の合計は,約94パーセントである。

19. これら需要者のうち,大和製缶は,八幡製鉄から永年にわたって資本参加,役員派遣,製かん技術援助,資金援助等を受けてきており,食かん用ブリキを含めその使用するブリキのほぼ全量の供給を八幡製鉄から受けている。本州製缶は,富士製鉄から使用するブリキのほぼ全量の供給を受けている。

20. 東洋製缶は,使用する食かん用ブリキの約半量を東洋鋼鈑から購入し,残りを富士製鉄,八幡製鉄および日本鋼管の3社から購入している。

21. 東洋鋼鈑は,東洋製缶が使用するブリキを生産させる目的で設立した会社であり,その株式の34.4パーセントが東洋製缶により保有されている。東洋鋼鈑は,製鉄,製鋼および熱間圧延の設備を有さず,冷間圧延以降の製造工程を行なつて食かん用ブリキ等を製造する。同社の製品(各種ブリキ)を製造するには,鉄鋼一貫メーカーからホットコイルの供給を受ける必要があるところ,東洋鋼鈑は必要とするホットコイルについて,ほぼ全量を八幡製鉄および富士製鉄の2社から購入し,ごく少量を日本鋼管から購入している。なお,八幡製鉄は,昭和37年以降,東洋鋼鈑の株式の20%を所有しており,昭和38年以降同445月までは取締役1名を派遣していた。

22. ブリキ用ホットコイルを供給するには,製造技術の蓄積と生産余力を有する必要がある。八幡製鉄および富士製鉄以外のホットコイルの製造業者のうち,①日本鋼管は,試験的供給を行うにとどまっていたものの,現在では,富士製鉄の製造するホットコイルと大差ないところまで品質を向上させている。そして,前年度に比し,国内販売向けについては,約42万トン程度,輸出向けについては約15万トン程度の増加を見込む製造計画を立てている。②川崎製鉄は,ブリキ用ホットコイルを外販した実績がない上に,生産量は自社消費分をまかなうにも十分でない。③住友金属工業および日新製鋼株式会社は,ブリキ用ホットコイルの製造経験はない。

23. 八幡製鉄と富士製鉄が合併することとなった場合には,八幡製鉄は,合併期日の前日までに八幡製鉄が所有する東洋鋼鈑の株式の全部を日本鋼管と東洋製缶に譲渡することを計画している。この譲渡が行われれば,日本鋼管は東洋鋼鈑の発行済株式総数の9.9%を取得し,東洋製缶に次いで第2位の株主となる。

(法の適用・理由)

「食かん用ブリキの市場は,固有の取引分野を形成しているものと認めるのが相当である。」

 八幡製鉄と富士製鉄が現在の市場構造のもとで合併するとすれば,合併会社は,国内に供給される食かん用ブリキの約60パーセントを占める供給者となる。「食かん用ブリキの取引分野における競争は,主として東洋製缶と北海製缶に対する供給に関して行なわれていると認められるところ,合併会社に対する競争者としては,東洋鋼鈑,日本鋼管および川崎製鉄の3社があるが,このうち,日本鋼管および川崎製鉄の製品はその使途が限られている状況にある。したがつて,八幡製鉄と富士製鉄が合併した場合,日本鋼管および川崎製鉄をもつて,食かん用ブリキの取引分野において形成される合併会社の地位に対して,現状のままで有効な牽制力のある競争者とみることは困難である。」東洋鋼鈑は,「八幡製鉄と富士製鉄から,ほぼ全量のホットコイルの供給を受けており,両社の合併後は,合併会社に同量のホットコイルの供給を依存することとなる立場にある」が,「ブリキ用ホットコイルの製造業者としては,日本鋼管と川崎製鉄があり,東洋鋼鈑が合併会社以外に,ブリキ用ホットコイルの供給者を求めようとすれば,日本鋼管にその供給を求めざるをえないこととなる。そして,日本鋼管は,その製造するブリキ用ホットコイルの品質ならびに同社の同ホットコイルの供給余力からみて,東洋鋼鈑に対して,同ホットコイルをある程度供給できないわけではない。しかし,八幡製鉄が東洋銅版に対して」,「資本参加を行なつている限り,両社の取引関係がこの事情を背景としてなされていること,および永年の取引関係にあつたことの側面を無視することはできない。そうだとすれば,八幡製鉄と富士製鉄の合併後,特別の事情のない限り,東洋鋼鈑が合併会社にかわるブリキ用ホットコイルの供給者を求めることを期待することは困難であるから,現に食かん用ブリキの取引分野において30パーセントに近い市場占拠率を有する東洋鋼鈑をもつてしても,食かん用ブリキの取引分野において形成される合併会社の地位に対して,現状のままで有効な牽制力ある競争者とみることは困難である。したがつて,食かん用ブリキの取引分野においては,現在,具体的に新規参入をなしうるような潜在的競争者を見出すことができないから,八幡製鉄と富士製鉄が合併することによつて,合併会社は,市場支配的地位を獲得することとなると認めざるをえない。よつて,現状のままでは,八幡製鉄と富士製鉄が合併することによつて,食かん用ブリキの取引分野における競争を実質的に制限することとなり,これは私的独占禁止法第15条第1項第1号の規定に違反するものである。」

もっとも,八幡製鉄と富士製鉄が合併する場合には,合併期日の前日までに,現在八幡製鉄が所有している東洋鋼鈑の株式は,その全部が日本鋼管と東洋製缶に譲渡され,この結果,日本鋼管は,東洋鋼鈑の発行済株式総数の9.9パーセント強を所有する株主となることが明らかにされている。この譲渡が行われれば,八幡製鉄および富士製鉄と東洋鋼鈑のブリキ用ホットコイルについての取引関係を固定的なものとする要因が払拭されることになる。日本鋼管は,ブリキ用ホットコイルを「ある程度供給しうることは,前記認定のとおりであって」,日本鋼管が新たに東洋鋼鈑の株主となることによって,両社間に特別な関係が醸成されるという事情も考慮する必要がある。こうして,「東洋鋼鈑は,その使用するホットコイルの全量の供給を合併会社に依存せざるをえない立場から免がれることができるものと推認される。しかも,」「食かん用ブリキの購入実績で最大の需要者である東洋製缶は,東洋鋼鈑の第1位の株主であ」る。前記譲渡がなされた後,「合併会社が東洋鋼鈑に対して同社のホットコイルの取引について干渉しなければ,合併会社と東洋鋼鈑の間において,食かん用ブリキの取引について,公正かつ自由な競争が期待できる」。

「八幡製鉄と富士製鉄の合併によつて食かん用ブリキの取引分野における競争が実質的に制限されることとなる状態が排除されるためには,八幡製鉄および合併会社は主文第八項および第九項の措置を採る必要がある。」

(主文 食かん用ブリキに関する部分)

「八 被審人八幡製鉄株式会社は,第一項の合併期日前に,同社が所有する東洋銅版株式会社の株式2,016万株を,別紙21ないし3および31ないし3の各契約にもとづいて,日本鋼管株式会社と東洋製缶株式会社に,それぞれ譲渡しなければならない。

九 被審人らは,東洋銅版株式会社に対して,同社のホットコイルの購入先および数量について,いかなる方法によるとを問わず,干渉にわたる行為をしてはならない。」

 

[IV. 鋳物用銑]

(事実)

24. 鋳物用銑は,各種銑鉄鋳物の主要原料として用いられ,製鋼用銑とは別に製造,販売されている。

25. 鋳物用銑を生産している者(カッコ内はシェアを示す。)は,現在,富士製鉄(38.6%),八幡製鉄(17.7%),神戸製鋼所(17.0%),三栄鉄工株式会社(以下「三栄鉄工」という。)(7.1%),株式会社中山製鋼所(以下「中山製鋼所」という。)(7.0%),矢作製鉄株式会社(以下「矢作製鉄」という。)(6.6%),朝日製鉄株式会社(2.2%以下,以下3社について同じ),東京鉄鋼株式会社,岩手木炭製鉄株式会社および日本鋼管の10社であり,これらの者で,国内において販売される鋳物用銑のほとんどすべてを供給している。

26. 富士製鉄および八幡製鉄は,大手需要者の大部分に対して,主としてひも付取引によって鋳物用銑を販売している。店売取引についても,富士製鉄および八幡製鉄がその販売量のほぼ半ばを占め,有力販売業者である銑鉄専門問屋は両者の製品を主として取り扱っている者が多い(両者の製品をそれぞれ専門に取り扱っている者もある)。

27. 富士製鉄及び八幡製鉄を除く他の製造業者は,主として,店売取引によって中小需要者向けに鋳物用銑を販売している。店売取引においても,取引関係はほぼ固定している。

28. 鋳物用銑の需要者である銑鉄鋳物製造業者は,鋳物用銑の選択にあたり,品質がすぐれ,かつ,成分が安定していることおよび供給か安定的に受けられることを重視しており,これらの点を充足した銘柄を強く好む傾向がある。多くの者は,使い慣れた銘柄を他の銘柄に変えようとしない傾向が顕著である。この中で,鋳物用銑の需要者の間では,富士製鉄(「釜石銑」,「室蘭銑」)および八幡製鉄(「八幡銑」)の製品が高く評価されており,これらを追って神戸製鋼製製品(「尼銑」)が評価されている。

29. 鋳物用銑の輸入は,僅かである。輸入鋳物用銑は,品質,供給の安定性に欠けること等により,国産鋳物用銑と同等には評価されていない。

30. 鋳物用銑の需要の伸び率は鋼材一般に比べて低く,今後の伸び率は,年率6.7%程度と見込まれている。

31. 神戸製鋼所は,同社尼崎工場第1高炉によってほぼ専用に鋳物用続を製造している。昭和459月を完成予定として加古川第1高炉を建設中である。さらに同年には,加古川第2高炉の建設に着工することが確定している(昭和47年竣工予定)。

32. 八幡製鉄と富士製鉄が合併することとなった場合には,八幡製鉄は従来八幡銑を吹製してきた設備を神戸製鋼所に譲り渡す旨を約している。神戸製鋼所は,この譲渡を前提とする生産計画を次のとおり立てている。

①神戸製鋼所は,八幡製鉄から,前記製造設備を譲り受けて自ら所有し,この設備を用いた鋳物用銑の吹製を合併会社に請け負わせ,その製品を自己の名において販売する。

②前記①により製造された鋳物用銑については,可能な限り従来の八幡銑の需要者に販売する。

③神鋼商事株式会社(神戸製鋼所の従来の取引先に加えて,八幡銑の大部分の販売を担当してきた有力な銑鉄専門問屋(草野産業株式会社,鋳物用銑のいわゆる大手需要者の相当数を取引先とする。)に神戸製鋼所が生産する鋳物用銑を販売させることとする(契約締結済,契約期間1年間)。

④上記生産期間中,鋳物用銑の生産に必要な原料は,神戸製鋼所が合併会社と共同で又は神戸製鋼所単独で合併会社から購入する。

⑤原料については,神戸製鋼所と合併会社が協議のうえ神戸製鋼所がこれを決定する。合併会社は,神戸製鋼所の要求する数量および品質を確保するよう協力する。

⑥鋳物用銑の品質を左右する製造技術については,合併会社が,現に八幡製鉄が有するノウハウを有償で神戸製鋼所に提供する。

⑦神戸製鋼所は,上記①-⑥により,従来,八幡製鉄が八幡銑として販売してきた鋳物用銑と品質・数量が同等の製品製造を行うことができることになる。

⑥建設中の高炉等(前記31)が完成すれば,神戸製鋼所には供給量のかなりの余裕を生ずるところから,昭和47年度に58万トン,同48年度に704,000トンの鋳物用銑を吹製して外販する。

⑦昭和47年に神戸製鋼所が建設中の設備等が完成し生産が行われるようになれば,前記①の八幡製鉄から譲り受けた設備を用いた生産は中止する。

(法の適用・理由)

「鋳物用銑の市場は,固有の取引分野を形成していると認めるのが相当である。」

 「八幡製鉄と富士製鉄が現在の市場構造のもとで合併するとすれば,合併会社は,国内に供給される鋳物用銑の過半と占めることとなる。そして,合併会社に次いで鋳物用銑の生産において第2位を占める神戸製鋼所については,その製品が中小需要者間においてはもとより,大手需要者間においても,八幡製鉄および富士製鉄の製品との間で格差をつけて評価されているので,使い慣れの傾向とあいまつて,従来,八幡製鉄および富士製鉄の製品を使用している需要者が,合併会社の製品にかえてたやすく神戸製鋼所の製品を使用することを期待しがたい事情があり,さらに,店売取引の関係において,有力販売業者である銑鉄専門問屋が合併会社の製品を,主として,あるいは専門に取り扱うこととなることを考慮すれば,神戸製鋼所といえども,現状においては,鋳物用銑の取引分野において形成される合併会社の地位に対して,有効な牽制力ある競争者となるものと期待することは困難である。」神戸製鋼所の増産計画をもってしても,この認定を左右するには足りない。輸入鋳物用銑は,有効な競争製品と認めることはできない。

 以上より,「現状では,八幡製鉄と富士製鉄が合併することによつて,鋳物用銑の取引分野における競争を実質的に制限することとなり,これは,私的独占禁止法第15条第1項第1号の規定に違反するものである。」

もっとも,神戸製鋼所が,八幡製鉄と富士製鉄が合併する場合には前記のとおり製造,販売割合を拡大することとする計画を明らかにしている。前記ノウハウ提供が合併会社から行われれば,神戸製鋼所は需要者を維持できると考えられる。

 神戸製鋼所の前記計画については,品質,数量ともに八幡製鉄の鋳物用銑と同等の製品を生産することが可能であること,また販売面についてみると,すでに独自の販路を有するうえに,草野産業との間で製品売買に関する基本契約を締結して販売体制をととのえていることからして,右生産体制の変更に伴う神戸製鋼所の事業活動を妨げる行為にでない限り,実現性があるものとみることができる。前記計画が実現されるまでについては,主文一二ないし一九の措置がとられれば,神戸製鋼所は,自主的にその取引条件を決定しうる地位になければならない。

「八幡製鉄および合併会社が右に述べた限度で措置をとれば八幡製鉄と富士製鉄が合併しても,そのことによつて合併会社が鋳物用銑の取引分野において市場支配的地位を獲得するとは認め難いこととなる。したがつて,右合併によつて鋳物用銑の取引分野における競争が実質的に制限される状態が排除されるためには,八幡製鉄および合併会社は,主文第一〇項ないし第一九項の措置を採る必要がある。」

(主文)

一〇 被審人八幡製鉄株式会社は,第一項の合併期日前に,同社八幡製鉄所東田高炉工場の東田6号高炉等を,別紙412の契約および覚書(案)にもとづいて,株式会社神戸製鋼所に譲渡しなければならない。

一一 被審人八幡製鉄株式会社は,第一項の合併期日から,別紙412の契約および覚書(案)にもとづいて,同社八幡製鉄所東田高炉工場の東田6号高炉において,株式会社神戸製鋼所の計算で,同社が指示する鋳物用銑の製造を行なわなければならない。

一二 被審人八幡製鉄株式会社は,前項の製造を行なうにあたつて,株式会社神戸製鋼所の年度,4半期および月次の生産計画(原料計画を合むもので,以下原料とは,鉄鉱石,焼結鉱,ペレット,石灰石,コークスおよび副原料をいう。)の策定について,干渉にわたる行為をしてはならない。

一三 被審人八幡製鉄株式会社は,第一一項の製造を行なうにあたつて,株式会社神戸製鋼所の原料調進に応ずる場合には,八幡製鉄株式会社八幡製鉄所における自社の生産に重大な支障を生ずるおそれのある場合のほか,自社の生産のために,原料を優先的に充当してはならない。

一四 被審人八幡製鉄株式会社は,第一一項の製造を行なうにあたつて,株式会社神戸製鋼所八幡駐在職員の指示,監督を受けることを拒んではならない。

一五 被審人八幡製鉄株式会社は,第一一項の製造を行なうにあたつて,株式会社神戸製鋼所に対して,別紙41の契約第3条第2項所定の対価については第4項と同様にして算定した額に照らして適正な額を超えて,また同対価の支払方法については鉄鋼業界における慣行に反して,請求してはならない。

一六 被審人八幡製鉄株式会社は,第一一項の製造を行なうにあたつて,株式会社神戸製鋼所に対して,八幡製鉄株式会社が株式会社神戸製鋼所に供給する原料の対価については時価を基準とした額を超えて,また同対価の支払方法については鉄鋼業界における慣行に反して,請求してはならない。

一七 被審人八幡製鉄株式会社は,第一一項の製造を行なつている間に,株式会社神戸製鋼所に対して,別紙412の契約および覚書(案)にもとづいて,八幡製鉄株式会社が有する鋳物用銑の製造に関する技術を提供しなければならない。

一八 被審人八幡製鉄株式会社は,株式会社神戸製鋼所に対して,別紙41の契約第5条第2項の対価については適正な額を超えて,また同対価の支払方法については鉄鋼業界の慣行に反して,請求してはならない。

一九 被審人らは,株式会社神戸製鋼所が鋳物用銑の生産を,八幡製鉄株式会社八幡製鉄所東田6号高炉における製造から,株式会社神戸製鋼所の所有する他の高炉における製造に切り替えるにあたつて,東田6号高炉において製造した株式会社神戸製鋼所の鋳物用銑を購入している客容が,右切替えによつて株式会社神戸製鋼所が東田6号高炉以外の同社所有の高炉において製造する鋳物用銑を購入することを妨害してはならない。」

 

[V. 鋼矢板]

(事実)

33. 鋼矢板(鋼矢板の日本工業規格に定める形状のうち,鋼管形を除く。以下同じ。)は,独自の形状,材質および性能を有し,岸壁,河川等の土木工事の土留め,締切り等に用いられるものであつて,他の鋼材とは別に製造販売されている。鋼矢板には多数の形状および型がある。

34. 鋼矢板を生産している者(昭和43年度生産実績における生産割合)は,八幡製鉄(55.8%),富士製鉄(42.5%),川崎製鉄(0.1%),日本鋼管(0.5%)および大鉄工業株式会社(以下「大鉄工業」という。)(1.1%)5社だけである。

35. 鋼矢板の輸入は,行われておらず,当面行なわれる可能性もない。

36. 鋼矢板は,継子で連結して使用される。継手には一定の水密性と強度が必要とされる。継手は圧延するのが難しい。この圧延技術は企業の秘密事項とされている。

37. 需要者は,価格,品質,納期等を留意しており,使い慣れていることなども重視されている。

38. 八幡製鉄は,その品質面等で需要者間に確立した評価をえており,鋼矢板の全形状にわたって製造を行っている。富士製鉄は,一部形状のものを除く全形状にわたって製造を行なつている。

39. 川崎製鉄は,昭和436月に鋼矢板の製造設備を新設して稼働させて試験圧延を行い,現在では部分的に営業生産を行っている。実際の生産量は,計画生産量を下回っている。

40. 日本鋼管は,昭和443月に鋼矢板の製造設備を新設して稼働させ,試験圧延を終了し,一部について販売を行っている。

41. 大鉄工業は,その有する圧延設備が小さく,他社より一段と寸法の小さい鋼矢板を製造しており,生産能力も限られている。同社は,富士製鉄から資本参加,役員派遣,半製品の供給を受けている。

42. 八幡製鉄と富士製鉄が合併することとなった場合,八幡製鉄が日本鋼管に対し,また富士製鉄が川崎製鉄に対し,それぞれ有償で,次の通り,鋼矢板の製造に関する技術・ノウハウを6ヶ月の間提供する旨の契約を締結している。

①技術提供は,日本鋼管/川崎製鉄の要請にもとづいて行う。

②技術提供は,日本鋼管・川崎製鉄が技術提供を希望する製品種類について行う。

③技術提供の内容は,製造にかかわる資料の提供ならびに助言,従業員の実習訓練などである。必要があれば,技術員を派遣して指導する。また,日本鋼管/川崎製鉄の従業員が,八幡製鉄/富士製鉄の工場見学(製造工程・工程管理に関する資料討論を含む。)を行い,また技術的討論を行なつて検証した結果,必要があれば,技術の提供を行う。

④これら見学および技術的討論をすることにより,製造原価の推定が可能となる。

(法の適用・理由)

「鋼矢板の市場は,固有の取引分野を形成していると認めるのが相当である。」

「八幡製鉄と富士製鉄が現在の市場構造のもとで合併するとすれば,合併会社は,鋼矢板の国内需要の大部分を供給する事業者となる。日本鋼管および川崎製鉄は,一部の形状の鋼矢板について一応試験圧延を終つて販売をはじめているが,その販売数量はいまだ極めて少ないことなどから,現状においては,両社が合併会社に対抗してすみやかにその販売割合を拡大することは,容易であるとは認め難いので,両社も有効な牽制力をもつ競争者となるものと期待することは困難である。」

 「よつて,鋼矢板の取引分野においては,現状で八幡製鉄と富士製鉄が合併すれば,唯一の有効な競争者が消滅し,合併会社は,市場支配的地位を獲得することとなると認めざるをえないから,鋼矢板の取引分野における競争が実質的に制限されることとなり,これは私的独占禁止法第15条第1項第1号の規定に違反するものである。」

もっとも,八幡製鉄と富士製鉄が合併する場合には,前記のとおり,日本鋼管と川崎製鉄に対する技術提供が行なわれるものとされている。「日本鋼管と川崎製鉄に対して,すみやかに,すでにみてきたとおりの技術の提供が,その技術の内容およびその提供方法について十分責任をもつて,しかも生産数量,取引条件等販売を制約する協定を伴わずになされ,右合併期日以後さほど遠からぬ時期に,右両社が,合併会社の製遣する鋼矢板と品質および歩便りの点で大差ない製品を,逐次,多形状にわたつて製造,販売することのできる状態が作出されれば,現在,主としで八幡製鉄と富士製鉄の2社による競争が行なわれ,これを追つて,日本鋼管と川崎製鉄が・・・競争している市場構造と比較して,これが実質的に変化するものとは認められない。」

 「よつて,八幡製鉄と富士製鉄および合併会社が,これまで述べてきたところを充足する措置をとれば,八幡製鉄と富士製鉄が合併してもそのことによつて合併会社が鋼矢板の取引分野において市場支配的地位を獲得するとは認め難いこととなる。したがつて,右合併によつて鋼矢板の取引分野における競争が実質的に制限されることとなる状態が排除されるためには,八幡製鉄と富士製鉄および合併会社は,主文第二〇項ないし第二三項の措置を採る必要がある。」

(主文)

「二〇 被審人八幡製鉄株式会社は,日本鋼管株式会社に対して,U形および直線形の鋼矢板について,被審人富士製鉄株式会社は,川崎製鉄株式会社に対して,U形および直線形ならびにZ形の鋼矢板について,それぞれ別紙512および61ないし3の契約および覚書(案)にもとづき,すみやかにそれぞれの製造に関する技術を提供しなければならない。

二一 被審人らは,日本鋼管株式会社および川崎製鉄株式会社に対して,別紙51および612の契約の各第2条の対価については適正な額を超えて,また同対価の支払方法については鉄鋼業界の慣行に反して,請求してはならない。

二二 被審人らは,第二〇項の技術提供に関連して,日本鋼管株式会社および川崎製鉄株式会社との間において,鋼矢板の製造および販売に関し,生産数量,販売価梧,販売地域等に関する協定等一切の制約を設けてはならない。

二三 披審人らは,第二〇項の技術提供を行なうにあたつて,提供した技術の内容および提供の方法に瑕疵がある場合においては,その責を免れてはならない。」

 

(主文 つづき)

「二四 被審人らは,それぞれ,第一項,第八項,第一〇項および第二〇項にもとづいて,自ら採つた措置について,また第二項および第一一項の措置を採るにあたつて行なつた必要な準備行為について,第一項の合併期日前に,当委員会に報告しなければならない。」

 

 

 

[参考・判決]

全国金属労働組合による同意審決処分取消請求事件

最高裁判決昭和4831

判決集未登載(TKC文献番号 28140394

行政事件訴訟法7条,民訴法401条,民訴法95条,民訴法89

(上告人:全国金属労働組合,被上告人:公正取引委員会)

 

「 右当事者間の東京高等裁判所昭和45年(行ケ)第30号同意審決処分取消請求事件について,同裁判所が昭和451212日言い渡した判決に対し,上告人から全部破棄を求める旨の申立があった。

よって,当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。上告費用は上告人の負担とする。」

 

理由

「独禁法451項は,公正取引委員会の審査手続開始の職権発動を促す端緒に関する規定であるにとどまり,報告者に対して公正取引委員会に適当な措置をとることを要求する具体的請求権を付与したものではなく,また,同法の定める審判制度は,もともと公益保護の立場から同法違反の状態を是正することを主眼とするものであって,同法違反行為による被害者の個人的救済をはかることを目的とするものではないというべきであるから,同法451項に基づく報告,措置要求をした者は,たとえ同法違反行為の被害者に該当するときであっても,同法上の審決を求める権利利益を有するものと解することはできない(最高裁昭和43年(行ツ)第3号同471116日第1小法廷判決参照)。

されば,上告人が,所論のように独禁法第45条第1項の措置要求をしたものであり,同法違反行為の被害者にあたるとしても,上告人は,本件審決の取消しを求めるにつき法的利益を有しないものと解さざるをえないから,本件訴訟につき,上告人は,法律上の利益を有せず,原告適格を欠くとした原審の判断は,相当である。

したがって,行政事件訴訟法9条の違背をいう所論は,採用することができず,右違法を前提に憲法32条の違背をいう所論は,その前提を欠くことが明らかである。

原判決に所論の違法はなく,論旨はすべて理由がない。

よって,行政事件訴訟法7条,民訴法401条,95条,89条に従い,裁判官全員の一致で,主文のとおり判決する。

上告理由(一部)

「原告組合は昭和45425日付で公正取引委員会に対し,八幡,富士の合併手続の停止の勧告,4品目に限らず,全品目,粗鋼についても調査,審判開始を行うこと,審判に当って原告組合を含む多くの国民各層の参加を求めることなどを内容とした「独禁法451項にもとづく措置要求」を行った報告者である。」

 


 

[事例]

企業結合(平成24年度:事例9

株式会社ヤマダ電機による株式会社ベスト電器の株式取得

判決集未登載

独禁法10

*小売業における市場画定

 

1. 株式会社ヤマダ電機(以下「ヤマダ電機」という。)及び株式会社ベスト電器(以下,「ベスト電器」という。)は,家電小売業を営む会社である。

2. ヤマダ電機は,株式会社ベスト電器の株式を取得し,議決権の過半数を取得すること(以下「本件株式取得」という。)を計画した。

3. 関係法条は,独禁法10条である。

4. 当事会社は直営店舗及びフランチャイズ契約に基づくフランチャイズ店舗(以下「FC店舗」という。)を展開している。FC店舗のうち500平方メートル以上の店舗については,家電量販店の直営店舗に匹敵する品ぞろえが可能となることから,当事会社の直営店舗に準じるものとして取り扱う。

(一定の取引分野)

5. 家電製品を取り扱う小売業者には,家電量販店,総合スーパー(以下「GMS」という。),ホームセンター,ディスカウントストア(以下,GMS,ホームセンター及びディスカウントストアをまとめて「GMS等」という。),地域家電小売店(家電メーカーの系列店や地場の電気店を指す。以下同じ。)及び通販事業者がある。

6. 地域家電小売店及びGMS等の品ぞろえは,家電量販店に比べて限定されていることが多い。通販事業者は,家電量販店とは販売方法が異なり,アフターサービス及び品ぞろえが家電量販店と同等ではない。

7. 家電量販店は,専ら競合家電量販店の店舗を競争相手と認識して価格戦略を設定している。

8. 家電量販店の利用者(消費者)は,家電量販店間の価格等を比較して家電製品の購入先を選択している。

9. 前記57から,家電量販店の家電小売業とその他家電小売業者の家電小売業との間における代替性の程度は低いと認められる。

10. 「家電量販店における家電小売業」を役務範囲として画定した。

11. 家電量販店においては,店舗ごとに,特定の競合する家電量販店の店舗を注視し,当該店舗における販売価格を調査するなどした上で価格戦略がとられている。このことから,家電量販店間の競争は店舗ごとに行われていると認められる。

12. 各家電量販店では,消費者の買い回りの範囲等から個別店舗ごとの商圏を設定している。

13. 前記商圏について,当事会社は概ね「店舗から半径10キロメートル」の範囲で設定している。当事会社以外についても,このような範囲で商圏を設定することは標準的であると見るものが多い。

14. したがって,「店舗から半径10キロメートル」を地理的範囲として画定した。

(当事会社間の競争)

15. 前記で画定した一定の取引分野において,当事会社が競合している地域は253地域ある。

16. これら253地域について,家電量販店の各店舗の市場シェアを算出し,水平型企業結合のセーフハーバー基準に該当するかどうか判断することは,技術的に困難である。

17. もっとも,一般に,同一地域内における事業者数が多い地域ほど,競争が活発であると考えられる。

18. また,事業者数が多い地域において事業者数が1社減少する地域よりも,事業者数が少ない地域において1社減少する地域における方が,本件株式取得による事業者数の減少が競争に与える影響が大きいと考えられる。

19. 各家電量販店は,自社店舗の近隣に所在する特定の競合家電量販店の店舗を注視して,当該店舗を強く意識しながら価格設定を行っている。

20. 前記253地域のうち,ヤマダ電機がベスト電器を注視している地域は41であり,ベスト電器以外の店舗を注視している地域は212地域である。

(参入圧力)

21. 家電量販店の出店に関する規制としては,大規模小売店舗立地法に基づくものがある。同法では,店舗面積が一定基準を超える場合に届出を要するのみであり,制度上の参入障壁は低いものと考えられる。

22. 出店に要する費用は,他業種に比べ著しく高くはない。

23. もっとも,参入意欲のある地域は限定されるとのことであり(競争事業者に対するヒアリング),全ての地域について参入圧力が働いているとは認められない。競争事業者が出店する具体的計画が明らかになっている地域については,参入圧力が働いていると認められる。

(隣接市場からの競争圧力)

24. 店舗によっては,買物の際に自家用車が利用されるなど,地理的隣接市場からの競争圧力が働いている場合があると考えられる。店舗によっては,消費者が,地理的範囲(店舗を中心に半径10キロメートル)を超えて買いまわっていることが伺える。店舗によっては,当事会社は,地理的範囲の外にある競争事業者の店舗を注視している。

25. GMS等は,一定の地域を除いて,家電量販店に対する競争圧力になっているとは認められない(日本国内の家電製品全体の売上高に占めるGMS等の売上高の割合が小さいこと,ヒアリング調査結果,消費者の購買行動に関するアンケート結果,GMS等の店舗数が当事会社の店舗の利益率等に与える影響にかかるパネル分析等による)。

26. 通販事業者から強い競争圧力が働いているとは認められない(店舗来店者に対するアンケート調査結果,ヒアリング調査結果などによる)。

27. ベスト電器の業績は不振であって,競争事業者と比較してベスト電器の事業能力は限定的であると考えられる。当事会社と別の競争者との間での競争の程度は,当事者間における競争の程度よりも,激しく又は同等である地域が多い。

28. ベスト電器の財務状況は,公取委・企業結合ガイドライン(平成16531日)に定める「競争を実質的に制限することとなるおそれは小さい場合」に該当するとは認められない。

(独禁法上の評価)

29.「当事会社が競合している地域は253地域存在するが,各地域における競争状況を詳細に検討すると,ベスト電器の経営不振により同社の事業能力が限定的であることもあり,多くの地域において,当事会社間における競争と比較して同等又はより激しい競争が,当事会社と別の競争事業者との間で展開されている実態にあると認められる。具体的には,ヤマダ電機にとって注視する対象の店舗がベスト電器以外であり,実際にも,店舗の立地状況や規模等に照らして当該店舗からの競争圧力が強いと認められる地域や,ヤマダ電機がベスト電器の店舗を注視しているものの,同一の地理的範囲内又は地理的隣接市場内に,店舗の立地状況や規模等に照らして当事会社の店舗と遜色ない競争力を有する競争事業者(件数はあまり多くはないものの,地域によっては,家電量販店のみならず,ディスカウントストア等も含まれる。)の店舗の存在が認められる地域が,合計243地域存在する。同地域では,本件株式取得後に競争力を有する競争事業者の店舗との間で引き続き活発な競争が展開されることが想定されるとともに,地域によっては具体的な参入計画が存在し顕在的な参入圧力が認められること及び通販事業者からの一定程度の競争圧力が認められることを併せて考えれば,本件株式取得により,当事会社の単独行動又は競争事業者との協調的行動によって競争が実質的に制限されることとはならないと考えられる。」

30. 「他方,残りの10地域(以下「10地域」という。)については,ヤマダ電機がベスト電器の店舗を注視しており,同一の地理的範囲内又は地理的隣接市場内に店舗の立地状況や規模等に照らして当事会社の店舗と比較して遜色ない競争力を有する競争事業者の店舗の存在は認められず,顕在的な参入圧力も存在しないことから,通販事業者からの一定程度の競争圧力が認められるものの,本件株式取得により当該地理的範囲における競争が実質的に制限されることとなると認められる。」

31. ヤマダ電機は,10地域について,次の問題解消措置を申し出た。

[1].ヤマダ電機は,10地域それぞれについて,当該地域に所在する当事会社の店舗のうち1店舗(ヤマダ電機の店舗かベスト電器の店舗かを問わない。)を第三者(当事会社の企業結合集団に属する者又は当該店舗において家電小売業を営む意思を有さない者を除く。)に譲渡することとし,平成25630日までに譲渡の契約を締結する(当該地域に所在する当事会社のFC店舗が第三者のFC店舗となることを選択した場合には,譲渡があったものとみなす。)。ただし,④諫早地域と⑤大村地域は互いに隣接していることから,両地域に所在する当事会社の店舗のうち1店舗を譲渡する。同様に,⑧宿毛地域と⑨四万十地域についても,両地域に所在する当事会社の店舗のうち1店舗を譲渡する(合計8店舗の譲渡)。平成25630日までに譲渡の契約が締結されなかった地域又は同日までに譲渡の契約が締結されたがその後譲渡が実行されなかった地域においては,適切かつ合理的な方法及び条件で,当該地域に所在する当事会社の店舗(FC店舗を除く。)について速やかに入札手続を行う。

[2] ヤマダ電機は,店舗の譲渡が完了するまでの間,対象店舗の事業価値を毀損しないようにするとともに,各対象店舗において消費者に不当に不利な価格設定を行わないものとする。

[3] ヤマダ電機は,店舗の譲渡が完了するまでの間,定期的に,各対象店舗等の家電製品の販売価格について当委員会に報告するとともに,店舗の譲渡の実施状況等について,その内容を当委員会に速やかに報告する。」

32. 「ヤマダ電機の申し出た措置は構造的措置であり,10地域において当事会社の店舗を譲渡することにより,当該地域において新規の独立した競争者を創出するものであることから,適切な措置である」。

33. 「当該措置は本件株式取得後に実行される予定であるものの,店舗の譲渡の契約締結の期限が半年程度と明確に定められており,この点において適切である」。

34. 「さらに,譲渡までの間,譲渡の対象店舗の事業価値を毀損しないこと及び当該対象店舗において消費者に不当に不利な価格設定を行わないこととされていることから,本件譲渡までの間当該対象店舗の競争力を維持しつつ,競争上の弊害を除去する仕組みが確保されていると考えられる。」

35. ヤマダ電機が申し出た問題解消措置により,本件株式取得が10地域における競争を実質的に制限することとはならないと考えられる。

36. 公取委は以上の審査結果に基づき,当事会社に対し,排除措置命令を行わない旨の通知を行った。


 

 

[事例]

公取委・企業結合(平成27年度:事例9

ファミリーマートとユニーグループ・ホールディングスの経営統合

判決集未登載

独禁法15条・15条の2

*小売事業における市場確定

GUPPI

 

(概要)

1. 「株式会社ファミリーマート(以下「ファミリーマート社」という。)を存続会社, ユニーグループ・ホールディングス株式会社(以下「ユニーGHD」という。)を消滅会社とする合併を行い(以下,当該合併後のファミリーマート社を「統合会社」という。),その後,当該合併の効力発生を条件として,統合会社を分割会社,ユニーGHDの完全子会社である株式会社サークルKサンクス(以下「C KS」という。)を承継会社とする吸収分割を行うことにより,統合会社のコンビニエンスストア事業をCKSに承継させることを計画した・・・(以下,当該合併及び当該吸収分割を併せて「本件行為」という。)。

 なお,以下では,ファミリーマート社を最終親会社とする企業結合集団,ファミリーマート社の国内エリアフランチャイザー及びファミリーマート社が展開するコンビニエンスストアに係るフランチャイズチェーンの加盟店を総称して「ファミリーマートグループ」といい,ユニーGHDを最終親会社とする企業結合集団,CKSの国内エリアフランチャイザー及びCKSが展開するコンビニエンスストアに係るフランチャイズチェーンの加盟店を総称して「ユニーGHDグループ」という。また,ファミリーマートグループ及びユニーGHDグループを総称して「当事会社グループ」という。」

2. 「ファミリーマートグループは,「ファミリーマート」,「ココストア」及び「エブリワン」のコンビニエンスストアをフランチャイズ方式によりチェーン展開するほか,国内の一部地域及び海外においてはエリアフランチャイズ方式によりチェーン展開を許諾し,エリアフランチャイザー各社がそれぞれの地域においてコンビニエンスストア業を営んでいる。」

3.「ユニーGHDグループにおいては,コンビニエンスストア「サークルK」及び「サンクス」をフランチャイズ方式によりチェーン展開するほか,国内の一部地域においてはエリアフランチャイズ方式によりチェーン展開を許諾し,エリアフランチャイザー各社がそれぞれの地域においてコンビニエンスストア業を営んでいる。」

 

 

(一定の取引分野)

4. 「フランチャイズ加盟店は,フランチャイザーから経営についての統制・指導・援助を受けながらコンビニエンスストアを経営している。フランチャイズ契約上では取扱商品, 価格等に関する決定権は加盟店が有している。しかしながら,当事会社グループに限らず,いずれのフランチャイザーも,消費者の信頼を得るためには店舗間の統一性が必要であるとして,フランチャイズ契約等で定めたルールの遵守を加盟店に求めており,コンビニエンスストアの営業の実態としては,本部から提示される推奨商品,推奨価格等による販売がほとんどである。したがって,同一のコンビニエンスストアチェーン(以下「CVSチェーン」という。)内では商品の販売価格,品ぞろえ等に関する競争は限定的であり,コンビニエンスストア業においては,各CVSチェーンが加盟店を通じて競争しているものと考えられる。」

5. 「コンビニエンスストアが取り扱っている商品は,基本的にスーパーマーケット等の他業態の小売業でも販売されている。しかしながら,コンビニエンスストアと他業態の小売店の間では,利便性,品ぞろえ,価格帯等に違いがあり,一般消費者は,コンビニエンスストアと他業態の小売店を,目的に応じて使い分けていると考えられる。したがって,コンビニエンスストアと他の業態の小売業の需要の代替性は限定的であると考えられる。」

6. したがって,「コンビニエンスストア業」が役務市場である。

7. 「なお,ユニーGHDグループが運営している「miniピアゴ」は,ミニスーパーと呼ばれる業態の店舗であるが,店舗の売場面積が小さい,営業時間が長い,飲食料品を中心とする店舗であるなど,コンビニエンスストアと共通点が多いことから,本件行為に係る審査においては,「miniピアゴ」はコンビニエンスストアとして取り扱う」。

8. 「コンビニエンスストアの商圏は一律に定まるものではなく,立地状況,周辺施設,人口,隣接道路の交通量等によって店舗ごとに異なるものであるが,一般的にコンビニエンスストアの商圏は500m程度といわれていること,また,CKSも,店舗開店時には,店舗からおおむね半径500m程度の範囲を商圏設定の基準していること等を踏まえ,本件では,当事会社グループのコンビニエンスストアを中心とする半径500mの範囲を地理的範囲として画定」する。

 

(競争に与える影響)

9. 上記8の「地理的範囲内にファミリーマートグループ及びユニーGHDグループのコンビニエンスストアがいずれも存在する地域は,全国に2,222地域存在する。これらの地域においては,本件行為により,競合関係にあるCVSチェーンの数(以下「競合CVSチェーンの数」という。)が1つずつ減少することとなる。このうち,本件行為により,競合CVSチェーンの数が2から1になる地域(395地域)や競合CVSチェーンの数が3から2に減少する地域(546地域) については,商品の販売価格等をめぐる競争に与える影響が比較的大きいと考えられる。

  ただし,CVSチェーンの数が3から2に減少する地域のうち,当事会社グループ以外のコンビニエンスストア(以下「競合コンビニエンスストア」という。)の店舗数が当事会社グループの店舗数を上回っているもの(78地域)に関しては,引き続き活発な競争が行われることが期待される。そこで,以下では,これらの地域を除外した863地域について,一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなるか否かについて検討した。」

10.� 「当委員会は,コンビニエンスストアの消費者需要を把握するため,当事会社グループと協力して,一般消費者を対象とする店頭アンケート調査を実施した。

 調査の実施店舗については,当委員会において,それぞれの地理的範囲内における本件行為後の競合CVSチェーンの数と近接地域における競合コンビニエンスストアの有無を基準に,上記(1)において検討対象とした863地域を

本件行為により,各店舗の半径500m以内における競合CVSチェーンの数(以下「500m内チェーン数」という。)が3から2となり,かつ,半径500m から1㎞の範囲内(以下「隣接1㎞圏内」という。)に競合コンビニエンスストアの店舗が存在するグループ

本件行為により,500m内チェーン数が3から2となり,かつ,隣接 1㎞圏内に競合コンビニエンスストアが存在しないグループ

本件行為により,500m内チェーン数が2から1となり,かつ,隣接1 圏内に競合コンビニエンスストアが存在するグループ

本件行為により,500m内チェーン数が2から1となり,かつ,隣接 1㎞圏内に競合コンビニエンスストアが存在しないグループ

4グループに分類し,それぞれのグループの中から実施店舗を複数選定した。 アンケート調査においては,店舗来店者が当該店舗を利用する頻度や,仮に当該店舗において一定程度の値上げが行われた場合に購買行動にどのような変化が生じるのか(当該店舗において引き続き購買を行うのか,また,別の店舗に切り替える場合,どの店舗で購買を行うのか)といった内容について調査を行った。」

11. 本件行為後に当事会社グループのコンビニエンスストアが値上げ等を行う誘因を有するか否かを把握するため,上記アにおいてアンケートを行った店舗について, それぞれGUPPIGross Upward Pricing Pressure Index,グロス価格上昇圧力インデックス)と呼ばれる指標を推定した。

 仮に一方の当事会社グループ(α社)の店舗が,微小な値上げを行った場合,一部の顧客がもう一方の当事会社グループ(β社)の店舗に流れることにより,β社の店舗は追加的利益を得ることになる。この追加的利益は以下の式により計算される。

  β社の店舗における追加的利益 転換率 β社の店舗における限界利益 ・・・

 ここで,「転換率」とは,α社の店舗が微小な値上げを行った場合における,α 社の店舗の販売数量の減少分に占めるβ社の店舗の販売数量の増加分の割合である。また,「β社の店舗における限界利益」とは,β社の店舗において商品を追加的に1 位販売したときに得られる利益を表している。

β社の店舗における追加的利益」は,企業結合後においてはそのまま当事会社グループの利益となる2。したがって,この追加的利益の大きさは,企業結合後におけるα社の店舗の価格引上げ圧力の強さを表しているものと考えることができる。

 GUPPIは,「β社の店舗における追加的利益」をα社の店舗における価格で除した以下の式で表される。」

(略)

 「仮に,α社の店舗における価格とβ社の店舗における価格が等しいと仮定した場合,GUPPIは以下の式のとおり変形することができる。

 GUPPI 転換率 β社の店舗における限界利益率 ・・・

 本件では,当事会社グループの店舗間で価格が等しいと仮定し,式によりGUPPIを推定することとし,転換率の推定は,上記アの店頭アンケートの結果を, 限界利益率の推定は,当事会社グループから提出のあった財務データを用いて行った。

 このGUPPIの推定結果では,ほとんどの店舗はGUPPIがいずれも3%未満であったのに対し,上記アのグループに属する1店舗で約4.8%という比較的高い値だったため,当該店舗が属した上記のグループ(68地域)に関しては, より詳細な審査を行うこととした。

12. 「なお,GUPPIの数値が低かった店舗が属する上記からのグループ(794地域)については,詳細な審査は行わなかったものの,GUPPIの値が小さかったことに加え,上記第22で画定した地理的範囲又は隣接1㎞圏内に競合コンビニエンスストアが存在しており,当該競合コンビニエンスストアから競争圧力が一定程度働いていると考えられることなどから,本件行為によって一定の取引分野における競争が実質的に制限されることとはならないと判断した。」

13. 「上記・・・の店頭アンケート調査の結果からは,仮に当事会社店舗において一定程度の値上げが行われた場合,買い物先をスーパーマーケットの店舗に切り替えるとしている顧客の比率は,有力な大手競合コンビニエンスストアチェーンの店舗に切り替えるとしている顧客の比率と比べて遜色がないことが判明し,スーパーマーケットの店舗が当事会社による値上げに対して一定の牽制力を発揮していることが示唆された。そこで,当委員会は,当事会社グループのコンビニエンスストアが競合する地域が比較的多い石川県,岐阜県,愛知県,三重県及び愛媛県の5県について,コンビニエンスストアとスーパーマーケットをはじめとする他業態の小売店舗の間の競合の度合いを定量的に把握する目的で,計量経済分析を行った。

 分析に当たっては,当事会社グループの各店舗の1日当たりの平均来店客数を,競争環境(店舗周辺に所在するコンビニエンスストア,チェーンスーパー4等の店舗数),店舗属性(売場面積,駐車場の有無,各種商品又はサービスの有無等)及び商圏属性(店舗の所在地,店舗周辺の人口等)の違いによって説明する計量経済モデルを観念した上で,パラメータ(各説明変数の係数)を回帰分析によって推定した。

 その結果,当事会社グループの店舗周辺に所在するチェーンスーパーの店舗数を説明変数とするモデルの分析では,当事会社グループの店舗から半径1,500m圏内のチェーンスーパーの店舗数が多くなるほど,平均来店客数が有意に減少するという結果が得られた。さらに,当事会社グループの店舗周辺に所在するチェーンスーパーの店舗数ごとにダミー変数を設定したモデルの分析では,当事会社グループの店舗から半径1,500mの圏内にチェーンスーパーが3店舗以上所在する場合,当事会社グループの店舗への来店客数が顕著に減少するという関係が認められた。

 そこで,上記(2)イの68地域のうち,店舗から半径1,500mの圏内にチェーンスーパーが3店舗以上存在する22地域については,チェーンスーパーからの競争圧力によって本件行為後も競争が実質的に制限されることとはならないと考えられたため,検討が必要となる地域から除外した。その結果,より詳細な検討が必要となる地域の数は,46地域となった(以下,当該46地域を単に「46地域」とう。)。」

 

46地域に係る競争の実質的制限に関する検討

14. 46地域のうちの4地域については,当事会社グループの店舗の一方が高速道路のサービスエリア,パチンコ店の敷地内等に所在しているため,立地状況からみて, 他方の店舗との競合の度合いが低く,従来から当事会社グループの店舗間での競争は不活発であったと推測される。

 したがって,当該4地域については,本件行為が競争に及ぼす影響は限定的であると考えられる。」

15. ①「地理的隣接市場からの競争圧力」:「コンビニエンスストアの実際の商圏は,道路状況,人口密度,施設(駅,教育機関,勤務地,宿泊施設,公共施設等)との距離等により,必ずしも店舗を中心とした円とはならない。また,店舗からの距離も上記第22で設定した500mとは�� 必ずしもならない。特に,コンビニエンスストアの場合,自動車での来店客の割合�� が比較的高い店舗では,利用客の移動距離が長くなるため,商圏が広範囲となる傾向がある。

 その点,残る46地域から上記アの4地域を除いた42地域は,いずれも,駐車 場や隣接道路の状況からみて,自動車での来店客が一定程度存在すると考えられる。したがって,当該42地域の商圏は広範囲に及んでいることがうかがわれる。

 当該42地域に関しては,当事会社グループの店舗から半径1㎞の範囲には他のCVSチェーンのコンビニエンスストアが存在しない。しかし,そのうちの30地域については,比較的近隣の地域に他のCVSチェーンのコンビニエンスストアが存在しており,自動車であれば当該コンビニエンスストアに短時間で移動することが可能であると認められるため,当該コンビニエンスストアからの競争圧力が一定程度働いていると考えられる。」

②「他業態からの競争圧力」:「スーパーマーケットは,コンビニエンスストアと比べ,駐車場から店舗までの距離や店内の面積が広く,商品を探し,会計を済ませて店舗を出るまでの移動距離や時間が長くなるため,利便性という点ではコンビニエンスストアに劣る面があると考えられる。

 他方で,一般消費者にとって,スーパーマーケットは,コンビニエンスストアと比べても,取扱商品の豊富さ(品ぞろえの便利さ)に関しては遜色のない場合が多いと考えられる。また,スーパーマーケットは,販売価格の安さなど,コンビニエンスストアにはない訴求力も有している。このため,コンビニエンスストアの近隣にスーパーマーケットがある地域に関しては,コンビニエンスストアに対し,スーパーマーケットからの競争圧力が一定程度働いていると考えられる。事実,上記(2)アの店頭アンケート調査では,スーパーマーケットへの転換率が高いという結果が得られており,また,上記(3)の経済分析でも,チェーンスーパーからの競争圧力が認められるという結果が得られている。

 この点,上記()42地域のうちの31地域については,当事会社グループのコンビニエンスストアの近隣に事業規模,営業時間等の面で競争的牽制力と評価することのできるスーパーマーケットが存在しており,これらのスーパーマーケットからの競争圧力が一定程度働いていると考えられる。」

 上記①・②により,「 46地域のうちの39地域については,他業態の店舗

(スーパーマーケット)又は地理的隣接市場に所在する競合CVSチェーンの店舗から一定程度競争圧力が働いていると考えられる。」

16. 「追加の店頭アンケート調査を踏まえた経済分析等

 46地域のうち,上記アの4地域及び上記イ()39地域を除く3地域(A地域, B地域及びC地域)については,従来,当事会社グループの店舗間で活発に競争が 行われてきたと考えられるものの,地理的に近接した地域に競争的牽制力と認めら れるようなコンビニエンスストアやスーパーマーケットが存在していないことから, 本件行為後における当事会社グループの店舗に対する競争圧力の有無が不明であっ た。

 このため,当該3地域について,上記(2)アと同様の店頭アンケートを実施し, 上記(2)イと同様の方法でGUPPIを推定したところ,2.3%から3.2%の範囲に収まっていたことから,本件行為後に当事会社グループが値上げ等を行う誘因を持つ可能性は低いという結果が得られた。

このような経済分析の結果が得られた理由としては,以下のようなことが考えられる。

A地域

当事会社グループの店舗は,それぞれ,国道の反対車線沿いに位置している。当事会社グループの店舗はJR東日本の駅の南約8km地点に存在しており,近隣に電車は通っていない。店舗周辺は田園地帯であり,国道沿いに戸建ての住宅が

若干存在する程度である。また,周辺にはコンビニエンスストアが点在するのみで, スーパーマーケット等は近場には存在しない。このため,当事会社グループの店舗の利用客は,国道を通過する自動車客が中心になっている。

 このように国道を通過する自動車客が主な利用者となっているため,当事会社グループの店舗の商圏範囲は広く,また利用客自身の買い回りの範囲も広くなっていると考えられる。

 当事会社グループの店舗の周辺には,自動車であれば5分程度で移動できる距離(直線距離で約4㎞の位置)に競合CVSチェーンのコンビニエンスストアが複数あるため,これらの店舗からの競争圧力が一定程度働いていると考えられる。

① B地域

 当事会社グループの店舗は,それぞれ,国道の反対車線沿いに位置している。この国道は,交通量が非常に多い。また,当事会社グループの店舗の周辺には建物が少なく,住宅が余りないような立地環境であり,商業施設も存在しない。このため,当事会社グループの店舗の利用者は,国道を通過する自動車客が中心となっている。

 このように,国道を通過する自動車客が主な利用者となっているため,当事会社グループの店舗の商圏範囲は広く,また利用客自身の買い回りの範囲も広くなっているものと考えられる。

 当事会社グループの店舗の周辺には,自動車であれば5分程度で移動できる距離(直線距離で約3㎞の位置)に競合CVSチェーンのコンビニエンスストア及びスーパーマーケットがあるため,これらの店舗等からの競争圧力が一定程度働いていると考えられる。

② C地域域

 当事会社グループの店舗の南側は新興住宅地であるが,東側には大規模な工場や研究所が立ち並ぶ工業団地があり,新興住宅地の住民以外に,工業団地への通勤者等も当事会社グループの店舗を利用していると考えられる。

 新興住宅地は最寄駅から2㎞程離れており,鉄道は平均して1時間に2本程度しか電車が運行されていないため,住民の主要な移動手段は自動車となっている。また,工業団地への通勤者等の多くは,自動車を利用していると考えられる。このため,当事会社グループの店舗の顧客は,日ごろから市中心部のスーパーマーケット等,ある程度距離の離れた店舗も利用しているものと考えられる。

 前述の店頭アンケートではスーパーマーケットへの転換率が高いという結果が得られているところ,当事会社グループの店舗に対しては,当該店舗から直線距離で約3㎞に位置している特定のスーパーマーケットからの競争圧力が一定程度働いていると考えられる。」

17. 「本件行為については,単独行動又は協調的行動により,一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと認められる。」

 

(その他の検討事項)

18. 「ユニーGHDグループは,東海,関東,北陸,近畿の各エリアにチェーンストアを展開している。店舗のブランドとしては,モール型ショッピングセンターのほか,食料品, 日用品,衣料品等の幅広い商品を取り扱う総合スーパー業態の「アピタ」,食品スーパー業態の「ピアゴ」等がある。このように,ユニーGHDグループはコンビニエンス業のほか,総合小売業を営んでいるところ,本件行為により,

①当事会社グループがコンビニエンスストア業の競争力をてこに総合小売業の競争力を高めることを通じて,総合小売業の競争事業者が販売の機会を喪失し,総合小売業において市場の閉鎖性・排他性の問題が生じる可能性

当事会社グループが総合小売業の競争力をてこにコンビニエンスストア業の競争力を高めることを通じて,コンビニエンスストア業の競争事業者が販売の機会を喪失し,コンビニエンスストア業において市場の閉鎖性・排他性の問題が生じる可能性 が高くなるおそれがある。

 コンビニエンスストア業及び総合小売業における競争は,いずれも,店舗ごとに行わ れていると考えられるが,本件統合による当事会社グループの総合事業能力の向上は, 店舗ごとに達成されるのではなく,日本全国で統一的に実現される可能性が高い。 以上を踏まえ,コンビニエンスストア業及び総合小売業の日本全国における競争状況 についてみると. 下表のとおり,コンビニエンスストア業及び総合1]、売業のいずれにつ いても,当事会社グループよりもシェアの高い事業者を含め. 有力な競争事業者が複数 存在するD したがって,当事会社グループがコンビニエンスストア業(総合小売業)の 競争力をてこに総合小売業(コンビニエンスストア業)の競争力が高まることにより, 総合小売業(コンビニエンスストア業)市場における競争が実質的に制限されることと はならないと考えられる。

 

コンビニエンスストア業(日本全国): A社 約35%,②B社 約20%,③ファミリーマートグループ 約20%,④ユニーGHDグループ 約10%,⑤その他 約15% (合計100%)

 

総合小売業(日本全国): C社 約15%,②D社 約10%,③ユニーGHDグループ 0-5%,④その他 約70% (合計100)

 

19.「本件行為により,一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならない」。

 

 

 

 

 


  

[事例(相談事例)]

公取委・企業結合(平成21年度:事例7

パナソニック(株)による三洋電機(株)の株式取得

判決集未登載

独禁法10

*水平型企業結合

 

(概要)

1. 電気機器等の製造販売業を営むパナソニック株式会社(以下「パナソニック」という。)が,同業を営む三洋電機株式会社(以下「三洋」という。)が発行する株式に係る議決権の過半数を取得し,子会社とするものである。

2. 関係法条は独禁法10条である。

3. 当事会社間で競合する87品目のうち,競争に及ぼす影響が大きいなどと考えられる品目は,円筒形二酸化マンガンリチウム電池(住宅用火災警報器用),リチウムイオン二次電池(民生用)及びニッケル水素電池(自動車用)である。

 

円筒形二酸化マンガンリチウム電池(住宅用火災警報器用)について)

(一定の取引分野)

4. 円筒形二酸化マンガンリチウム電池は,高容量の一次電池(充電できない使い切りタイプの電池)である。

5. 円筒形二酸化マンガンリチウム電池は,住宅用火災警報器の電源のほか,ガスメーターの電源やフィルムカメラの主電源等として使用されている。

6. これらの用途に応じて,電池の内部の処方,放電特性,品質が異なる。

7.  用途に応じて,製造技術も異なる。

8. 前記67より,「円筒形二酸化マンガンリチウム電池(住宅用火災警報器用)」を商品範囲として画定した。

9. 円筒形二酸化マンガンリチウム電池(住宅用火災警報器用)は,日本全域で販売されており,価格も地域によって異ならない。

10. 海外で使用される円筒形二酸化マンガンリチウム電池(住宅用火災警報器用)については,その電流の量が国内で使用される住宅用火災警報器に必要な量に足りない。このため,海外の電池を利用するには,使用する機器自体の設計を変更する必要がある。

11. 前記910より,「日本全国」を地理的範囲として画定した。

(市場シェア,競争事業者等)

12. 本件行為により,当事会社の合算市場シェア・順位は約100%・第1位となる。

13. 市場では,当事会社のほか,A社が製造販売を行っており,05%のシェアを占める。

14. 本件行為後のHHIは約10,000HHIの増分は約4,000であり,水平型企業結合のセーフハーバー基準に該当しない。

15. 市場シェアが10%を超える有力な競争事業者は存在しない。

16. 現状において,日本市場に輸入品はほとんどなく,輸入圧力は弱いものと認められる。

17. 参入するためには,ユーザー(住宅用火災警報器メーカー)との間における性能評価及び価格交渉,受注並びに納入に期間を要する。ユーザーから信用を得るにはさらに期間を要する。これらより,参入圧力は存在しない。

18. 市場における事業者は当事会社を含めた3社しかおらず,ユーザーにとってメーカーを容易に変更できる状況にはないことから,需要者からの競争圧力は存在しないものと認められる。

19. 前記12から18までの状況にかんがみれば,当事会社の「単独行動又は当事会社と他の競争事業者との協調的行動によって」,一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなるおそれがある。

(問題解消措置)

20. 前記19の競争上の懸念を解消するため,当事会社から,次の問題解消措置をとるという申出があった。

①三洋が国内向けに出荷している円筒形二酸化マンガンリチウム電池(住宅用火災警報器用)の製造を行っている製造設備である,三洋の鳥取工場の当該電池製造設備,人員,取引先との契約等を大手電機メーカーの子会社で電池製造販売業[FDK株式会社,富士通のグループ会社]を営む他の事業者に譲渡する。

②平成223月末までに当該譲渡に係る契約を締結し,当該契約締結後3か月以内に譲渡を実行する。

21. 当事会社が申し出た問題解消措置が確実に履行されれば,譲受会社は,有力な競争事業者となり得るものと評価できる。

22. 当事会社が申し出た問題解消措置が確実に実施された場合には,本件行為により,「当事会社の単独行動又は当事会社と他の競争事業者との協調的行動によって」,一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならない。

 

[事例]

公取委・企業結合(平成26年度:事例3

王子ホールディングス(株)による中越パルプ工業(株)の株式取得

判決集未登載

独禁法10

*水平型企業結合

 

(概要)

1.王子ホールディングス株式会社(以下「王子ホールディングス」という。)は,紙・パルプ製品の製造販売業等を営む会社を有する持株会社である(以下,王子ホールディングス及び同社と既に結合関係が形成されている会社を「王子グループ」という。)。

2.中越パルプ工業株式会社(以下「中越パルプ工業」という。)は,紙・パルプ製品の製造販売業を営む会社である(以下,中越パルプ工業及び同社と既に結合関係が形成されている会社を「中越パルプ工業グループ」という。)(以下,王子グループと中越パルプ工業グループを併せて「当事会社」という。)。

3. 王子ホールディングスは,中越パルプ工業の株式を取得することを計画している(以下,計画されている株式取得を「本件株式取得」という。)。本件株式取得が行われれば,王子ホールディングスは中越パルプ工業の議決権の209%を取得することになる。

4. 王子グループは,現時点において,中越パルプ工業の議決権10%弱を保有している

5. 関係法条は独占禁止法第10条である。

(結合関係について)

6.本件株式取得の結果,王子グループは,中越パルプ工業の議決権の20%超を保有することとなり,議決権保有比率の順位は単独で第1位となる。したがって,王子グループと中越パルプ工業の間には結合関係が形成される。

 

(製紙業界の状況について)

7. 紙・板紙の国内需要量は,リーマン・ショック後(平成21年)に約2800万トンまでに落ち込み,以降は約2700から2800万トン台で推移している。とくに紙の国内需要量は,人口減少,電子化などの影響を受けて減少結構にある。

8. 主要な製紙業者の供給余力について,王子グループは一定の供給余力を有するが,競争事業者らは供給余力がない。

9. 紙・板紙は,製紙業者から代理店や卸商を通じて販売される。このうち「代理店」は,紙の流通を専門に扱う卸売販売業者であって,主に大口需要者及び卸商向けに販売を行う。代理店は複数の製紙業者の紙を取り扱うことが通常である。「卸商」は,主に中小口需要者向けに販売する流通業者であり,通常代理店経由で紙を調達した上で需要者に販売する。卸商には,代理店に比較すると事業規模の小さい事業者が多い。

10. 製紙業者は,紙・板紙の値上げを行う場合,値上げを行うことと,希望する値上げ幅及び出荷時期を公表する。この値上げ公表を受けて,代理店は川下事業者(卸商,最終需要者等)と交渉を行う。

11. 製紙業者の値上げ公表は,大手製紙業者間でほぼ同時期に一斉に行われることが一般的であり,この際の値上げ幅及び値上げ時期もほぼ同一である。ただし,製紙業者の公表したとおりに価格が改訂されるわけではなく,代理店と川下事業者の間の交渉の結果として,値上げ幅が値上げ公表時に示された値上げ幅よりも縮減され,値上げ時期も公表時に示された時期よりも数カ月後ろ倒しになることが多い。このような製紙業者間の協調的行動は,長期間にわたって行われているものと考えられる。

 

(薄葉印刷紙について)

12. 薄葉(うすよう)印刷紙は,極薄の非14塗工印刷用紙の総称であり,辞書などのページ数の多い書籍や保険約款等に用いられる。

[一定の取引分野]

13. 「薄葉印刷紙は,辞書などのページ数の多い書籍等に用途が絞られるため,他の品種との間で十分に代替的に使用されている状況にない。」[ママ]

14. 供給の代替性について,当事者は,薄葉印刷紙と薄葉印刷紙以外の非塗工印刷用紙が同じ製造設備で生産可能であると主張する。しかしながら,これらが同一の設備で生産されている事例は多くはないため,薄葉印刷紙と薄葉印刷紙以外の非塗工印刷用紙を含むの間には供給の代替性は必ずしも認められない。

15. そこで,「薄葉印刷紙」を商品範囲として画定した。

16. 需要者である全国の代理店や大口需要者等は,全国の製紙業者から薄葉印刷紙を調達しており,その輸送において地理上の制約はなく,地域によって価格が異なることもないので,「日本全国」を地理的範囲として画定した。

[競争の実質的制限]

17. 製紙業者の上記市場における市場シェアは,王子グループが約50%,A社が 35%,B社が5-10%,中越パルプ工業グループが5-10%C社が0-5%,輸入が0-5%である。

18. 本件株式取得により,HHIIは約4500,当事会社の合算市場シェア・順位は約60%・第1位となる。HHIの増分は,約800である。

19. 本件株式取得は,水平型企業結合のセーフハーバー基準に該当しない。

20. 有力な競争事業者としてA社があり,この者に供給余力は一定程度存在するものの,前記11の状況に鑑みれば当事会社が価格を引き上げたときに,競争事業者が当該供給余力を活用して競争的行動に出ることは期待できない。

21. 輸入紙のシェアは小さく,円高のために輸入量が増えた平成24年においても国内出荷量に占める輸入品のシェアは4%未満にとどまっていた。国内価格が上昇したとしても,輸入量が大幅に増加するとは考え難く,輸入圧力は認められない。

22. 保険の約款等の用途においては薄い上級印刷紙や微塗工印刷用紙に切り替えられた事例がある。しかし,辞書などのページ数の多い書籍等の用途においては,他の品種が薄葉印刷紙に代えて使用されることはほとんどない。したがって,隣接市場からの競争圧力が十分に働いているとは認められない。

23. 当事会社は,薄葉印刷紙の市場は縮小傾向にあること等のために需要者が強い価格交渉力を有し,需要者からの強い競争圧力が働いている旨主張する。しかしながら,薄葉印刷紙については,極めて限定された用途に使用されること等から,主要な流通業者等は,薄葉印刷紙の需要者が価格交渉力を有しているとは認識していない。このため,需要者からの競争圧力は限定的なものにとどまると認められる。

24. [総括]「本件株式取得により,国内の薄葉印刷紙市場における競争単位が一つ減少し,当事会社の合算市場シェアが約60%となる。約35%の市場シェアを有するA社が有力な競争事業者として存在するものの,輸入圧力が認められないことに加えて,隣接市場からの競争圧力が十分に働いているとは認められないこと,需要者からの競争圧力も限定的であること,製紙業者による一斉値上げの状況が認められることなどから,本件株式取得により,当事会社が単独で又は競争事業者との協調的行動によって,薄葉印刷紙の取引分野における競争を実質的に制限することとなると認められる。」

25. とくに協調的行動による競争の実質的制限について,①市場においては少数の有力な事業者に市場シェアが集中しており,② 製紙業者各社の供給余力は総じて限定的であり,王子グループには供給余力があるものの前記11のとおり製紙業者間の協調的慣行が長期わたり存在してきたと考えられるところ,本件株式取得によって寡占度が一層高まった市場において同社が取引量を拡大しようとするような競争的行動がこれまで以上に採られるようになるとは考えられないこと,③ 製紙業者は複数の製紙業者の紙を扱う代理店を通じて他社商品の販売価格に関する情報を入手することが可能であること,④ 製紙業界は需要が縮小傾向にあるものの,需要の変動は大きくないこと,⑤技術革新が頻繁であったり,商品のライフサイクルが短かったりする事情もないために,これらの要因により競争事業者と協調的な行動が採られにくいと判断することはできないこと,⑤前記11のように協調的慣行が行われてきたとみられることから,高い市場シェアを有する王子グループを当事会社とする本件結合により当事会社及び競争事業者による協調的行動がより採られやすくなると考えられる。

 

(重袋用両更クラフト紙について)

26. 重袋用両更(じゅうたいようりょうざら)クラフト紙は,未ざらし包装紙の一種であって,米麦等の農作物,肥料,セメント等を入れる大型のクラフト紙袋に使用される。

[一定の取引分野]

27. 重袋用両更クラフト紙には,強度が特に要求され,他の品種の紙で代替することはできない。このため,重袋用両更クラフト紙とその他の品種の紙の間に需要の代替性は存在しない。

28. 重袋用両更クラフト紙,一般両更クラフト紙及び特殊両更クラフト紙は,いずれも同一の製造設備(包装用紙の抄造に用いられる標準的な抄紙機)で設備の変更を特段行うことなく製造することができる。しかしながら,「それらの品種間において供給者の構成が異なっていたり,供給者の市場シェアも品種ごとに相当程度異なっていたりするため,供給の代替性が認められる点のみをもって,これらの品種全体をまとめて一つの商品範囲として画定することは必ずしも適切ではない。そこで,本件では,重袋用両更クラフト紙とその他の包装用紙の間には需要の代替性が認められないことを踏まえ,「重袋用両更クラフト紙」を商品範囲として画定」する。「なお,重袋用両更クラフト紙との間で一定の供給の代替性を有する品種については,重袋用両更クラフト紙に対する参入圧力として評価できるか否か検討することとする。」

29. 需要者は,全国の製紙業者から重袋用両更クラフト紙を調達しており,その輸送において地理上の制約はなく,地域によって価格が

異なることもない。したがって,「日本全国」を地理的範囲として画定した。

[競争の実質的制限]

30. 平成25年における重袋用両更クラフト紙の市場シェアは,王子グループが約30%,中越パルプ工業グループが約20%,F社が約15%,G 15%,H社が10-15%,I社が5-10%,輸入が0-5%であった。

31. 本件株式取得により,HHIは約3100(増分1100)となる。また,当事会社の合算市場シェア・順位は約50%・第1位となる。

32. 本件株式取得は,水平型企業結合のセーフハーバー基準に該当しない。

33. 競争事業者として市場シェア10%を超える競争事業者が存在するものの,これらの事業者の供給余力は限定的である。

32. 重袋用両更クラフト紙の分野における輸入紙の割合は限定的である。日本の需要者は高品質の製品について少量・高頻度での納入を短納期で求める傾向があるところ,輸入紙は品質,配送等の観点からこのような要請に対応できない。今後,輸入紙が大きく増加するとの意見はみられない。以上より,輸入圧力は認められない。

33. 前記28のとおり,他の品種の包装用紙を生産している事業者は,当該品種の生産を重袋用両更クラフト紙の生産に切り替えることは可能である。しかし,これらの包装用紙を生産している競争事業者の供給余力は十分ではない。また,「これらの包装用紙のうち,特殊両更クラフト紙及び両更さらしクラフト紙の取引分野における競争を実質的に制限することとなることから,重袋用両更クラフト紙市場に対する参入圧力として評価することは困難である。」[ママ]したがって,重袋用両更クラフト紙市場に対する参入圧力は認められない。

34. 重袋用両更クラフト紙の需要者には,中小規模の製袋業者が多数存在する。流通業者に対する書面調査によれば,重袋用両更クラフト紙の需要者が強い価格交渉力を有しているとは認められない。前記11の値上げ広告の後に,一定程度の値上げに成功している。以上より,需要者からの競争圧力が十分に働いているとは認められない。

35. 「本件株式取得により,重袋用両更クラフト紙市場における競争単位が一つ減少し,当事会社の合算市場シェアが約50%となるところ,有力な競争事業者3社を含む競争事業者4社が存在するものの,輸入圧力や参入圧力が認められないことに加えて,需要者からの競争圧力は限定的であること,製紙業者による一斉値上げの状況が認められることなどから,本件株式取得により,当事会社の単独行動又は競争事業者との協調的行動によって,一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなると認められる。」なお,とくに協調的行動による競争の実質的制限については,前記25と同様である。

 

(アート紙,裏カーボン原紙,特殊両更クラフト紙及び両更さらしクラフト紙については略する。なお,平成25年における特殊両更クラフト紙の市場シェアは,王子グループが約35%,J社が約30%,K社が約25%,中越パルプ工業グループが約10%,その他が僅少であったが,重袋用両更クラフト紙同様に競争が実質的に制限されることとなると認められるとしている。)

 

(問題解消措置について)

36. 当事会社に対し,競争を実質的に制限することとなるなどの点について説明を行ったところ,当事会社は,次のような措置を講じることを申し出た。

当事会社は,薄葉印刷紙,アート紙,裏カーボン原紙,重袋用両更クラフト紙,特殊両更クラフト紙及び両更さらしクラフト紙(以下,これらの品種の紙を「6品種」という。)の製造・販売に関し,他方当事会社から独立して事業活動を行うとともに,当事会社間において6品種の製造・販売に関し企業結合又は事業提携を行う場合には実行に先立ち公取委の了解を得る。

当事会社は,6品種の製造・販売に関する非公知の情報であって競争上有意な情報(以下「秘密情報」という。秘密情報には,6品種の製造原価,製造量,販売価

格,販売数量及び販売先が含まれるが,これらに限られない。)を他方当事会社に開示しない。

王子グループの役員又は従業員が中越パルプ工業グループの取締役に就任する場合には,当該取締役の数は1名(役職は業務執行に携わらない社外取締役)とする。

前記②の一環として,当事会社は,兼任役員が派遣先の秘密情報を出身元に開示しない義務を負うことを確認し,当該役員に遵守させる,定期的に研修を行うなどの周知・独禁法遵守のための措置をとる。

 

(結論)

37. 当事会社が申し出た措置等を踏まえれば,本件株式取得が一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと考えられる。


 

 

[事例]

公取委・企業結合(平成24年度:事例2

新日本製鐵(株)と住友金属工業(株)の合併

判決集未登載

独禁法15

*水平型企業結合

 

(概要)

1. 新日本製鐵株式会社(以下「新日鉄」という。)及び住友金属工業株式会社(以下「住友金属」という。)は,それぞれ,鉄鋼製品の製造販売業等を営む。両社は,合併すること(以下「本件合併」という。)を計画している。

2. 関係法条は,独禁法15条である。(審査終了後は,当事会社は,株式交換により住友金属を新日鉄の完全子会社とし,新日鉄が住友金属を吸収合併するというスキームに変更することとした。この結果,本件の関係法条は独占禁止法10条となるが,当初予定されていた合併の場合と独占禁止法上の判断を行うに当たって実質的な違いがないことから,公取委HP等では合併に係る事例として記載されている。)

3. 当事会社(当事会社と結合関係を有する会社を含む。)が競合する商品・役務(30分野)のうち,①無方向性電磁鋼板,②高圧ガス導管エンジニアリング業務等について詳しく審査が行われた。

 

[I] 無方向性電磁鋼板について

(一定の取引分野)

4. 無方向性電磁鋼板とは,電磁鋼板の一種であり,モーター等のコアに用いられる。

5. 電磁鋼板には,無方向性電磁鋼板と方向性電磁鋼板があるところ,無方向性電磁鋼板は,その特性からモーター等のコアに使用されるのに対し,方向性電磁鋼板は,その特性のために主に変圧器のコアに使用される。また,両者の製造設備は異なる。このように,両者は用途及び製造方法に違いがあり,需要の代替性及び供給の代替性がないことから,別々の商品範囲を構成するものと考えられる。

6. 無方向性電磁鋼板は,板厚及び鉄損値に応じて様々な規格が存在する。各規格の間の需要の代替性について,日本の需要者(電機メーカー等。以下,この項において「国内ユーザー」という。)のヒアリング及びアンケート調査の結果からすると,規格間の代替性は低いと認められる。他方,規格により製造設備は異ならない。このように異なる規格の間における需要の代替性は低いものの,供給の代替性が認められる。

7. 以上より,「無方向性電磁鋼板」を商品範囲として画定した。

8. 当事会社は,①国内ユーザーが東アジアを中心とした海外への展開を進め,これに伴い海外拠点における無方向性電磁鋼板の現地調達化を進めていること,②国内拠点においても東アジアの無方向性電磁鋼板のメーカー(以下「東アジアのメーカー」という。)が製造する製品の採用が加速されていること,③国内ユーザーは海外拠点における現地調達を通じて東アジアのメーカーの商品の価格を熟知しており,海外の価格が国内の価格に反映されていることから,地理的範囲は東アジアだと主張する。

9. しかし,国内ユーザーに対するアンケート調査結果によれば,海外拠点においても大部分の無方向性電磁鋼板を国内メーカーから調達しており,海外メーカーからの調達量は相対的に少ない。また,国内拠点において国内メーカーから調達している無方向性電磁鋼板については,価格が510%程度上昇した場合でも,海外メーカー品に切り替えないとする意見が多くみられた。

10. また,国内ユーザーに対するヒアリング結果によれば,日本と東アジア諸国とでは市場の状況が異なるため,東アジア諸国で取引される価格と国内で取引される価格は連動しておらず,海外拠点における海外メーカーからの調達価格を引き合いに出して国内拠点における国内メーカーからの調達価格を交渉することは現実的ではないとしている。価格に関するデータからも,日本と東アジアにおける価格の連動性が必ずしも認められるわけではない。

11.日本における国内メーカーのシェアは高い一方で,東アジアにおける国内メーカーのシェアは低く,日本と東アジアとでシェア分布が全く異なる。

12. 以上から,地理的範囲について,国境を越えて東アジアとして画定することは適当ではないと考えられる。

13. 日本国内での輸送に関しついては,輸送の難易性や輸送費用の点から制約があるわけではなく,当事会社及び競争事業者は日本全国において販売を行っており,地域により販売価格が異なるといった事情は認められない。

14. 以上から,「日本全国」を地理的範囲として画定した。

(市場構造の変化等)

15. 無方向性電磁鋼板を国内市場で販売する当事会社グループの事業者は,新日鉄(市場シェア約40%)及び住友金属(市場シェア約15%)である。

16. 本件合併により当事会社の合算市場シェア・順位は約55%・第1位,合併後のHHIは約4600HHIの増分は約1100となる。

17. 本件合併は,水平型企業結合のセーフハーバー基準に該当しない。

18. 無方向性電磁鋼板の国内市場においては,当事会社グループのほかに,A社が存在する(市場シェア約40%)。この他,輸入が約5%のシェアを占める。

19. 本件合併により,A社との市場シェアの格差が拡大する。

(当事会社間の従来の競争状況)

20. 国内ユーザーは,方向性電磁鋼板と無方向性電磁鋼板をセットで調達することがある。新日鉄とA社は,これら両商品を扱っているが,住友金属は無方向性電磁鋼板しか扱っていないことから,セットでの調達には対応できない。

21. 住友金属は,新日鉄及びA社よりも製造ラインが少なく,生産基盤がぜい弱である。

22. 国内ユーザーからのヒアリングや実際の価格の推移によると,住友金属の価格戦略は他の2社とは異なると認められる。

23. 合併会社(合併後の当事会社をいう。以下同じ。)は新日鉄と同様の性質を有する会社となり,住友金属がとっていたような価格戦略をとらなくなると考えられる。

(各事業者の供給余力)

24.無方向性電磁鋼板の製造設備の稼働率は,各事業者とも高い。

25. 各事業者とも輸出を多く行っているが,輸出分を国内に自由に振り向けることは困難であると考えられる。輸出の多くは国内ユーザーの海外拠点向けであって,安定調達を求める国内ユーザーに対する供給量を自由に調整することは容易でないためである。

(輸入圧力)

26. 輸入にかかる輸送費用は,東アジアの近隣諸国からであれば僅かである。

27. 関税はかからない。

28. 国内市場における輸入比率は,近年微増している。

29. 輸入の大部分は低グレードの製品が占めていると考えられる。

30. 国内ユーザーに対するアンケート調査結果によれば,前記9の状況が認められた。

31. さらに,前記調査結果によれば,国内ユーザーは東アジアのメーカーの製品について,一部の海外メーカー品に対する肯定的な意見をのぞけば,国内メーカー品に比べて板厚のばらつきが大きく加工が困難であるなど品質が十分でないとする意見,価格変動が激しく安定調達の面で問題があるとする意見,品質が国内メーカーと同等な海外メーカー品については価格メリットがないという意見がみられた。ヒアリングにおいても,同様の意見がみられた。

32. 前記調査結果では,特に,高グレードの製品について,東アジアのメーカーは国内ユーザーが求めるような高品質な製品を製造しておらず,国内ユーザーはほとんど全てを国内メーカーから調達しており,国内価格が相対的に上昇しても海外メーカー品に切り替えないとする傾向が顕著であった。

33. 高グレードの製品については,輸入圧力が働いているとは認められない。

34. 低グレードの製品については,輸入圧力がある程度は働いていると考えられるが,その程度は必ずしも強いとは認められない。

(需要者からの競争圧力)

35. 無方向性電磁鋼板は,規格が同じであってもメーカーによって微妙な違いがあり,メーカーの変更が容易でない。

36. 国内ユーザーが調達先を切り替えるには規格ごとの特性を評価・試験する必要があり,多大な時間とコストがかかる。

(単独行動による競争の実質的制限)

37. 「本件合併により当事会社は約55%の市場シェアを有することとなり,有力な競争事業者が存在するものの,十分な供給余力を有している状況にはないことから,当事会社が価格を引き上げた場合に供給量を十分に増やすことが難しいと考えられる。また,高グレードの製品については,国内ユーザーが国内拠点において求めるような高品質な製品を海外メーカーは製造しておらず,輸入圧力は認められない。また,低グレードの製品については,一定程度輸入が行われており,国内の価格が上昇した場合に海外メーカー品に切り替えるという国内ユーザーも一定数みられるが,国内ユーザーは海外メーカー品について,国内メーカー品に比べると国内ユーザーが国内拠点において求めるような十分な品質ではない,価格変動が激しく安定調達の面で不安があるといった懸念を述べていることから,輸入圧力が必ずしも強いとは認められない。さらに,国内ユーザーにとって調達先メーカーの変更は容易でなく,需要者からの競争圧力も認められない。したがって,本件合併により高グレードの製品において顕著に,当事会社グループが単独で価格等をある程度自由に左右することができる状態が容易に現出し得ることから,本件合併が競争を実質的に制限することとなると考えられる。」

(協調的行動による競争の実質的制限)

38. 「本件合併により無方向性電磁鋼板の国内市場における事業者は3社から2社に減少し,合併前と比較して,協調的行動をとりやすくなると認められる。また,住友金属は,方向性電磁鋼板の取扱いの有無,生産基盤の強弱という点において新日鉄及びA社と異なっており,実際の価格戦略について新日鉄及びA社とは異なると認められるところ,本件合併後には同質的な2社が市場をほぼ二分することとなるため,互いの行動を高い確度で予測することができるようになると考えられる。そのような状況の中で,高グレードの製品については輸入圧力が認められず,低グレードの製品についても輸入圧力が必ずしも強くはなく,また,需要者からの競争圧力も認められない。したがって,本件合併後,高グレードの製品において顕著に,当事会社グループとその競争事業者が協調的行動をとることにより,価格等をある程度自由に左右することができる状態が容易に現出し得ることから,本件合併が競争を実質的に制限することとなると考えられる。」

(問題解消措置)

39. 当事会社は,次の問題解消措置を講じることを申し出た。

「① 合併後5年間,住友商事株式会社(以下「住友商事」という。)に対し,国内ユーザー向けに住友金属が現在販売している全グレードの製品について,住友金属の直近5年間(平成18年度から平成22年度)における国内年間販売数量の最大値を上限として,合併会社の無方向性電磁鋼板のフルコストをベースとして計算した平均生産費用に相当する価格で供給する。

住友商事に対し,住友金属の無方向性電磁鋼板に関する国内ユーザー向けの商権を譲渡する。具体的には,顧客名簿の引継ぎに加えて,国内ユーザーとの取引関係(契約関係及び協定仕様書を含む。)を譲渡し,当該譲渡について国内ユーザーの理解を得られるよう最大限努力する。さらに,納入仕様の決定やクレーム対応に関する技術サポートを行うほか,スリット後の品質を確保するために,当事会社が技術指導を行った全国各地に所在するスリットセンターを住友商事が利用できるように適切な引継ぎ等の措置を講じる。

合併後5年間,1事業年度に1回,前記措置の実施状況を公正取引委員会に報告する。」

40. 低グレードの製品については,東日本大震災を契機とした国内ユーザーの調達チャネルの多様化の動き及び急激な円高の流れを受けて,輸入圧力が高まりつつある。高グレードの製品についても,海外メーカー品の採用に向けた動きが始まっている。これらより,一定期間経過後には輸入圧力が相当程度高まると考えられ,競争の実質的制限の状態が永続するとは合理的には予想されず,問題解消措置として恒久的な措置が不可欠であるとはいえない。

41. 前記①の措置について,住友金属は,新日鉄及びA社に比べて生産基盤がぜい弱であるほか,製造ライン休止などのために,高いコスト構造となっている。一方,引取権の設定先の事業者は,合併会社の平均生産費用に相当する価格で供給を受けることから,当事会社が申し出た措置には,住友金属よりも有力な事業者が創出されるという側面がある。したがって,本件においては,コストベースの引取権が妥当な条件により設定されれば,適切な問題解消措置となり得ると考えられる。

42. 住友商事は,無方向性電磁鋼板を自ら製造していないものの,商社として販売業務にかかわっており販売能力面で支障はない。

43. 合併後,合併会社の住友商事に対する議決権保有比率及び住友商事の合併会社に対する議決権保有比率はいずれも数%となる予定であり,両社の間には役員兼任もない。よって,住友商事は,当事会社から独立した事業者である。

44. 住友商事は,新規参入者として当事会社に対する有効な牽制力となり得ると考えられる。

45. 住友商事と合併会社との間では費用が共通化することになるものの,住友商事はメーカーではなく,商社としての独自の経験を有している上,方向性電磁鋼板の取扱いの有無や製造設備の保有の有無といった点において合併会社とは異なることから,合併会社とは異なる価格戦略をとるインセンティブを有するという側面もある。

46. 引取権の設定期間を合併後5年間とすることについて,この期間を経過した後であれば,高グレードの製品を含めて輸入圧力が働く蓋然性は高いと考えられる。

47. 以上より,前記問題解消措置により,本件合併が無方向性電磁鋼板の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと考えられる。

 

[II] 高圧ガス導管エンジニアリング業務について

(一定の取引分野)

48.高圧ガス導管エンジニアリング業務(以下「高圧ガス導管エンジ」という。)とは,鋼製ガス導管に関連するエンジニアリング業務(以下「鋼製ガス導管エンジ」という。)の一種であり,設計,資材調達(鋼管の調達),施工管理及び施工(土木,配管,溶接,塗覆装及び検査)の業務を含む。

49. 鋼製ガス導管エンジは,用いる導管の別(高圧ガス導管及び中圧ガス導管)に応じて,高圧ガス導管エンジと中圧ガス導管エンジニアリング業務(以下「中圧ガス導管エンジ」という。)がある。これらにおいて用いられる鋼管及び溶接方法は異なっており,高圧ガス導管エンジと中圧ガス導管エンジとの間には需要の代替性は認められない。

50. このため,高圧ガス導管エンジは中圧ガス導管エンジと別の役務範囲を構成すると考えられる。

51. したがって,「高圧ガス導管エンジ」を役務範囲として画定した。

52. 高圧ガス導管エンジを行う主要な事業者は,全国各地で高圧ガス導管エンジを受注しており,事業所等の拠点を持たない地域での業務を受注する場合には現場監督や溶接士等を当該地域に派遣して対応している。

53. したがって,「日本全国」を地理的範囲として画定した。

(市場構造の変化等)

54. 当事会社グループに属する事業者のうち,日鉄パイプライン株式会社(新日鉄の100%子会社である新日鉄エンジニアリング株式会社の100%子会社。以下「日鉄パイプライン」という。)及び住友金属パイプエンジ株式会社(住友金属の100%子会社。以下「住友金属パイプエンジ」という。)は,高圧ガス導管エンジを国内市場で提供する。

55. 日鉄パイプライン及び住友金属パイプエンジンの市場シェアは順にそれぞれ約30%である。

56. 本件合併により当事会社の合算市場シェア・順位は約60%・第1位,合併後のHHIは約4,900HHIの増分は約1,800となる。

57. 水平型企業結合のセーフハーバー基準に該当しない。

58. 高圧ガス導管エンジの国内市場には,日鉄パイプラインと住友金属パイプエンジのほか,B社がある。B社は,日鉄パイプラインらと同様に高炉メーカーのグループ会社であって,市場シェアが約35%である。(以下,日鉄パイプライン,住友金属パイプエンジン及びB社を併せて「高炉系エンジ会社」という。)という。)

60. 本件合併により当事会社は約60%の市場シェアを占め,B社を抜いて市場シェア第1位となる。

61. 需要者であるガス会社等は,入札の方法により受注者を決定している。本件合併により,入札に参加する主要な事業者である高炉系エンジ会社が3社から2社となる。

62. 高圧ガス導管エンジの国内市場には,ガス会社系エンジ会社(ガス会社の子会社であるエンジニアリング会社をいう。以下同じ。)も存在する。もっとも,市場シェアは小さく,05%である。

63. 大部分の発注案件においては,ガス会社系エンジ会社は入札に参加せず,高炉系エンジ会社の間の競争となっている。

64. 高圧ガス導管エンジにおける現場監督は元請会社(エンジニアリング会社)の従業員である必要がある。高圧ガス導管エンジを行う事業者は現場監督を行う者について余剰人員をもたない(なお,現場監督は同時に複数の現場の現場監督を兼ねることができない。)こと,現場監督を育成するためには相当の時間を要することから,各事業者は,急激に受注を拡大することが困難である。したがって,各事業者の供給余力は必ずしも大きいものではないと考えられる。

(参入圧力)

65. 過去5年間においてガス会社等から新たに入札参加資格が得られた事業者はない。

66. 高圧ガス導管エンジを行うためには,建設業法上の許可が必要である。もっとも,許可の取得は難しいものではない。

67. ガス会社等は,いずれも資材調達と施工業務は一体発注する必要があるとしている。このために,高圧ガス導管の主要な資材であるUO鋼管を自社のグループ会社から調達できる事業者が高圧ガス導管エンジの競争上有利である(とくに,納期及びコスト面で有利である。)。国内において自社グループからUO鋼管を調達できるのは高炉系エンジ会社のみである。高圧ガス導管エンジを行っている一部のガス会社系エンジ会社においても,UO鋼管を使用しない工事のみを行っているにすぎない。

68. 高圧ガス導管エンジを行うに当たり,特に,比較的大きな外径の鋼管を用いる工事については,手溶接でなく自動溶接を行うことが有利である。自動溶接機を持たない事業者が自動溶接機を新たに開発することは困難である。高圧ガス導管エンジを行っている一部のガス会社系エンジ会社においても,比較的小さな外径の鋼管を用いる工事のみを行っているにすぎない。

69. 以上から,高圧ガス導管エンジに本格的に参入するためには,資材であるUO鋼管を高炉系エンジ会社と同等の条件で調達できること及び自動溶接機を保有していることが重要であり,これが高圧ガス導管エンジへの参入障壁となっていると認められる。

70. 以上より,参入圧力が働いているとは認められない。

(需要者からの競争圧力)

71. ガス会社は,パイプライン建設を含めたコストを削減することに一定程度関心を有していると認められる。

72. ガス会社にとって,ガス導管工事ごとに発注先を変更することは容易である。

73. ガス会社は,入札によって高圧ガス導管エンジの受注者を決定している。

74. 以上より,需要者からの競争圧力が一定程度働いていると認められる。

(単独行動による競争の実質的制限)

75. 「本件合併により当事会社は国内市場全体の約60%のシェアを占めることとなるところ,入札に参加する事業者は基本的に高炉系エンジ会社のみであり,本件合併後の入札参加事業者は3社から2社になる。加えて,高圧ガス導管エンジにおいては参入圧力が働いておらず,また,需要者からの一定程度の競争圧力が認められるものの,ガス会社等は必ずしも競争性を高めるための施策を十分に持ち合わせていない。したがって,当事会社グループが単独で価格等をある程度自由に左右することができる状態が容易に現出し得ることから,本件合併が競争を実質的に制限することとなると考えられる。」

(協調的行動による競争の実質的制限)

76.「高圧ガス導管エンジは,大口の発注が不定期に行われているが,各事業者の供給余力が大きくない中にあって,本件合併により高圧ガス導管エンジを提供する主要な事業者である高炉系エンジ会社が3社から2社に減少すれば,互いの施工状況や供給余力の状況を相当程度確実に把握でき,高い確度で互いの受注意欲,入札行動等を予測することができるようになると考えられる。加えて,高圧ガス導管エンジにおいては参入圧力が働いておらず,また,需要者からの一定程度の競争圧力が認められるものの,ガス会社等は必ずしも競争性を高めるための施策を十分に持ち合わせていない。したがって,当事会社グループとその競争事業者が協調的行動をとることにより,価格等をある程度自由に左右することができる状態が容易に現出し得ることから,本件合併が競争を実質的に制限することとなると考えられる。」

(問題解消措置)

77. 当事会社は,次の問題解消措置を講じることを申し出た。

(1) ①当事会社は,新規参入者(高圧ガス導管エンジを既に行っているガス会社系エンジ会社を含む。以下同じ。)から日本国内における高圧ガス導管エンジに用いるUO鋼管の供給要請があった場合には,当該新規参入者に対し,当事会社が高圧ガス導管エンジを行う子会社(以下「エンジ子会社」という。)に供給する場合と価格,数量,納期,規格,寸法,特殊仕様,受渡し及び決済について実質的に同等かつ合理的な条件により,UO鋼管を提供する。

当事会社は,前記措置について,本件合併の日までに周知し,その実施状況を公正取引委員会に報告するとともに,本件合併後5年間,1事業年度に1回,前記措置の実施状況を公正取引委員会に報告する。

(2)自動溶接機の供給及びその取扱いに係る技術指導

当事会社は,新規参入者から,受注する工事に使用する目的で要請があった場合には,エンジ子会社等を通じて,当該新規参入者に対し,価格,受渡し及び決済について合理的な条件により,自動溶接機の新品を譲渡し,又は中古品を譲渡若しくは貸与する。ただし,価格については,実費相当額とする。

当事会社は,新規参入者から要請があった場合には,当該新規参入者に対し,価格,工数,指導内容,指導時期,指導場所及び決済について合理的な条件により,エンジ子会社を通じて,当該新規参入者が自動溶接機を取り扱うことができるようにするために必要な技術指導を行う。ただし,価格については,当該技術指導において発生する実費相当額とする。

当事会社は,前記各措置について,本件合併の日までに周知し,その実施状況を公正取引委員会に報告するとともに,本件合併後5年間,1事業年度に1回,前記各措置の実施状況を公正取引委員会に報告する。」

78. 競争上の問題に関する問題解消措置としては,事業譲渡等の構造的措置が原則であるが,高圧ガス導管エンジの市場規模は年度により大きく変動しており,高圧ガス導管エンジに係る事業は,中圧ガス導管エンジに係る事業と共に営まなければ事業の継続が困難であるところ,全国規模で中圧ガス導管エンジに係る事業を営んでいる事業者は高炉系エンジ会社しか存在しないことから,高炉系エンジ会社以外に事業譲渡を行うためには,高圧ガス導管エンジに係る事業を特定の地域ごとに分割する必要がある。しかし,そもそも鋼製ガス導管エンジ事業のうち高圧ガス導管エンジに係る事業のみを分割することは現実的ではなく,また,特定の地域の事業のみを分割することも現実的ではない。したがって,本件においては,高圧ガス導管エンジに係る事業の譲渡は困難である。

79. 前記措置(1)により,資材調達に係る参入障壁は解消される。

80. 前記措置(2)により,自動溶接機に係る参入障壁は解消される。

81. 以上のとおり,高圧ガス導管エンジへの参入障壁が解消することから,当該措置が周知されれば新規参入の蓋然性が高まることとなり,かかる参入圧力が当事会社による価格引上げに対する有効な牽制力となると考えられる。

82. よって,当事会社が申し出た問題解消措置により,本件合併が高圧ガス導管エンジの取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと考えられる。

 


 

  

[事例]

公取委・企業結合(平成24年度:事例3

古河スカイ株式会社と住友軽金属工業株式会社の合併

判決集未登載

独禁法15

*水平型企業結合

 

(概要)

1. 古河スカイ株式会社(以下「古河スカイ」という。)及びその子会社である日本製箔株式会社(以下「日本製箔」という。)ならびに住友軽金属工業株式会社(以下「住友軽金属工業」という。)及びその子会社である住軽アルミ箔株式会社は,いずれも,アルミニウム圧延品製造販売業を営む。また,古河スカイの親会社である古河電気工業株式会社(以下「古河電気工業」という。)及び住友軽金属工業の子会社である株式会社住軽伸銅(以下「住軽伸銅」という。)は,銅管製品の製造販売業を営む。古河スカイ及び住友軽金属工業は,合併すること(以下,「本件合併」と言う。)を計画している。

2. 関係法条は,独禁法第15条である。

3. 当事会社が競合するアルミニウム圧延品及び当事会社の親会社と子会社が競合する銅管製品について,本件合併が競争を実質的に制限することとならないかを検討した。

 

アルミニウム板製品

(一定の取引分野について)

3. アルミニウム板製品は,アルミニウム地金を圧延して製造される。アルミニウム板製品は,用途に応じて組成や形状の異なる様々な種類の製品に細分することができる。

4. アルミニウム板製品のうち,飲料用缶の蓋及びプルトップに用いられるエンド・タブ材については需要者から見た代替性が認められない。

5. エンド・タブ材の製造設備は一定の規模を要し,飲料の接触による腐食を防ぐ為の保護材を塗装する工程が必要であるため,供給者にとっての代替性も存在しない。

6. 前記45より,エンド・タブ材は他の板製品とは別の商品範囲を構成する(以下,この商品を「板製品(エンド・タブ材)」という。)。板製品(エンド・タブ材)の購入者は,飲料用缶製造業者(以下,「飲料用缶メーカー」という。)である。

7. エンド・タブ材以外の板製品(以下「板製品(一般材)」という。)については,製品間で需要者から見た代替性は認められない。

8. 「板製品(一般材)」は,いずれの製品も,同一の製造設備で製造されており,供給者にとっての代替性が存在する。

9. 前記78より,「板製品(一般材)」は同一の商品範囲を構成する

10. 「板製品(一般材)」及び「板製品(エンド・タブ材)」について,輸入品と日本のメーカーの製品とは価格帯が異なり,需要者の多くは日本のメーカーの製品と輸入品とは同程度の品質であるとは認識していない。

11. 「板製品(一般材)」及び「板製品(エンド・タブ材)」について,日本国内での輸送について難易性や費用面での制約はない。当事会社及び競争事業者は日本全国において販売を行っている。地域により販売価格が異なることもない。

12. 以上から,「板製品(一般材)」及び「板製品(エンド・タブ材)」をそれぞれ商品範囲とし,地理的範囲は「日本全国」と画定した。

 

板製品(一般材)について

13. 板製品(一般材)の市場シェア及び順位は,次の通りである(平成23年)。1位:古河スカイ,約30%。2位:A社,約20%。3位:住友軽金属工業,約20%。4位:B社,約10%。5位:C社,510%。6位:D社,05%で,輸入品が510%を占める。本件合併により,HHIは約3,200となり,当事会社の市場シェア・順位は50%,第1位となる。HHIの増分は約1,200である。

14. よって水平型企業結合のセーフハーバー基準に該当しない。

15.  A社,B社及びC社はいずれも一定の市場シェアを有している。これら3社の製造設備の稼働率はいずれも高い水準ではなく,これら3社は供給余力を有している。

16. 輸入品の品質は,用途によっては日本のアルミメーカーの製品の品質に追いついてきており,汎用品や塗装を施している場合は問題ない。また,輸入に要する輸送費用は東アジア地域からであれば僅かであり,関税は2%。更に,輸送による品質劣化は生じにくい。

17. 素材としてのアルミニウムは,あらゆる用途において,より軽量で強度のある素材(樹脂,炭素繊維等)又は他の金属(ステンレス等)と競合している状況にある。

18. 単独行動による競争の実質的制限について,「本件合併により合併会社の市場シェアは約50%となるが,一定の市場シェアを有する競争事業者が複数存在し,これらの事業者は供給余力を有していると認められること,輸入圧力が一定程度働いていると認められること及び隣接市場からの競争圧力が働いていると認められることから,合併会社が単独で価格等をある程度自由に左右することができる状態が現出するおそれはなく,本件合併が競争を実質的に制限することとはならないと考えられる。」

19. 協調的行動による競争の実質的制限について,「本件合併後,板製品(一般材)市場における事業者は6社から5社に減少するものの,合併会社及び一定の市場シェアを有する競争事業者は,いずれも供給余力を有しており,価格引き下げにより他の競争事業者の売上げを奪う余地があると考えられること,輸入圧力が一定程度働いており,国内の事業者が協調的に国内品の価格を引き上げた場合に,輸入品が増加し,国内品の売上げを奪うと考えられること及び隣接市場からの競争圧力が働いており,協調的行動がとられることを妨げると考えられることから,合併会社と競争事業者が協調的行動をとることにより,価格等をある程度自由に左右することができる状態が現出するおそれはなく,本件合併が競争を実質的に制限することとはならないと考えられる。」

 

板製品(エンド・タブ材)について

20. 板製品(エンド・タブ材)の市場シェア及び順位は次の通りである。1位:住友軽金属工業,約40%。2位:E社,約30%,3位:古河スカイ,約30%(平成23年)。本件合併により,HHIは約5,500となり,合併会社の市場シェアは約70%となる。HHIの増分は約2,200である。

21. よって,水平型企業結合のセーフハーバー基準に該当しない。

22. E社は一定の市場シェアを有しているが,製造設備の稼働率が高水準にあるため供給余力は有していない。

23. 需要者である飲料用缶メーカーであって板製品(エンド・タブ材)を当事会社又はE社から購入している飲料用缶メーカーのほとんどは,飲料用缶の側面及び底面に用いられるボディ材(以下,「ボディ材」と言う。)も併せて購入している。そして,飲料用缶メーカーによるボディ材の購入数量は,板製品(エンド・タブ材)の購入数量よりも多い状況にある。ボディ材は,当事会社,E社及びB社(前記13)が製造販売しており,輸入品も国内において流通している。

24. このために,合併会社から板製品(エンド・タブ材)を購入する飲料用缶メーカーは,「仮に,合併会社が板製品(エンド・タブ材)の価格を引き上げようとした場合,板製品(エンド・タブ材)とボディ材の両方を購入している飲料用缶メーカーは,ボディ材の購入先を」変更する旨を「主張することによって,合併会社による価格引上げを牽制することが可能であると認められる。」また,板製品(エンド・タブ材)のみを購入している飲料用缶メーカーは,後記25を考慮すると,東アジア地域のアルミメーカーからの輸入を検討する旨を主張することで,合併会社による価格引上げを牽制することが可能である。

25. 飲料用缶メーカーは,東アジア地域のアルミメーカーの板製品(エンド・タブ材)は品質及び調達の安定性について不安があるとして,板製品(エンド・タブ材)を輸入していない。しかし,当事会社から提出された資料によると,東アジア地域のアルミメーカーの品質と当事会社の製品と遜色がないと認められる。実際,東アジア地域で製造されたアルミニウム缶入り飲料は,日本国内で製造されたものと同じように日本国内で販売・流通されている。また,調達の安定性については,飲料用缶メーカーは,東アジア地域のアルミメーカーからボディ材を輸入している実績があるため,板製品(エンド・タブ材)を輸入することに特段の支障はないことが認められる。これらのことからすると,飲料用缶メーカーの輸入品に対する評価が変化すれば板製品(エンド・タブ材)の輸入が行われるようになる可能性があると考えられる。

26. 単独行動による競争の実質的制限について,「本件合併会社の市場シェアは約70%となるが,需要者からの競争圧力が働いていると認められること,一定の市場シェアを有する競争事業者が存在すること及び現状では輸入実績はないものの競争環境の変化により飲料用缶メーカーの輸入品に対する評価が変化すれば輸入が行われるようになる可能性があることから,合併会社が単独で価格等をある程度自由に左右することができる状態が現出するおそれはなく,本件合併が競争を実質的に制限することとはならないと考えられる。」

27. 協調的行動による競争の実質的制限について,「本件合併後,板製品(エンド・タブ材)市場における事業者は3社から2社に減少するものの,需要者である飲料用缶メーカーが板製品(エンド・タブ材)の価格交渉においてボディ材の購入量を背景とした強い価格交渉力を有していると認められるため,合併会社と競争事業者が協調的行動をとることが困難であると考えられること及び現状では輸入実績はないものの競争環境の変化により飲料用缶メーカーの輸入品に対する評価が変化すれば輸入が行われるようになる可能性があることから,合併会社と競争事業者が協調的行動をとることにより,価格等をある程度自由に左右することができる状態が現出するおそれはなく,本件合併が競争を実質的に制限することとはならないと考えられる。」

 

アルミニウム箔製品・純銅管について

 


 

[事例]

公取委・企業結合(平成24年度:事例6

ハードディスクドライブの製造販売業者の統合

判決集未登載

独禁法10条,16

*水平型企業結合

*複数の企業結合

 

(概要)

1. ウエスタン・デジタル・アイルランド・リミテッド(本社英国領ケイマン諸島。以下「WDI」という。)は,ヴィヴィティ・テクノロジーズ・リミテッド(本社シンガポール)の全ての株式の取得を行うこと(以下「本件株式取得」という。)を計画した。本件株式取得の関係法条は,独占禁止法10条である。

2. シーゲイト・テクノロジー・インターナショナル(本社英国領ケイマン諸島。以下「STI」という。)は,サムスン・エレクトロニクス・カンパニー・リミテッド(本社韓国)のHDD事業を譲り受けること(以下「本件事業譲受け」という。)を計画した。本件事業譲受けの関係法条は,独占禁止法16条である。

3. WDIは,HDDを製造する子会社(独占禁止法106項に規定する子会社をいう。以下同じ。)を統括する事業を営む。

4. WDIは,ウエスタン・デジタル・コーポレーション(本社米国)を最終親会社とする企業結合集団に属する会社であり,ウエスタン・デジタル・コーポレーションの子会社は,HDDの製造販売業を営む(以下,当該企業結合集団に属し,HDDの製造販売業を営む会社を総称して「WD」という。)。

5. ヴィヴィティ・テクノロジーズ・リミテッドは,HDDを製造販売する子会社を統括する事業を営む。ヴィヴィティ・テクノロジーズ・リミテッドの子会社は,HDDの製造販売業を営む(以下,ヴィヴィティ・テクノロジーズ・リミテッドの子会社で,HDDの製造販売業を営む会社を総称して「HGST」という。)。

6. STIは,HDDを製造販売する子会社を統括する事業を営む。STIは,シーゲイト・テクノロジー・パブリック・リミテッド・カンパニー(本社アイルランド)を最終親会社とする企業結合集団に属する会社であり,シーゲイト・テクノロジー・パブリック・リミテッド・カンパニーの子会社は,HDDの製造販売業を営む(以下,当該企業結合集団に属し,HDDの製造販売業を営む会社を総称して「STX」という。)。

7. サムスン・エレクトロニクス・カンパニー・リミテッドは,HDDの製造販売業を営む。サムスン・エレクトロニクス・カンパニー・リミテッドは,同社及びその子会社において,HDDの製造販売業を営んでいる(以下,サムスン・エレクトロニクス・カンパニー・リミテッド及びその子会社でHDDの製造販売業を営む会社を総称して「SEC」という。)。

8. HDDは,デジタル式の方法により及び磁気的にデータをメディアに書き込み,又は,メディアからデータを読み取るデータの記憶装置であって,主に企業向けのサーバー及びストレージ(大容量の記憶装置をいう。以下同じ。),パーソナルコンピュータ(以下「PC」という。),DVDレコーダー等の家電製品,PC及び家電製品の外付けHDD等に用いられる。

9. HDDには,搭載するメディアの規格(フォームファクターと呼ばれる)により,①2.5インチHDD3.5インチHDDなどの別がある。HDDの性能は,メディアの回転速度等により決定される。

10. HDDには用途別に異なる性能が求められる。

(一定の取引分野)

11. PCと家電製品には基本的に同じHDDが用いられており,PC向けHDD と家電製品向けHDDの間における需要の代替性の程度は高い。

12. 企業向けHDDは,PC及び家電製品向けHDDよりも性能・信頼性が高く,価格も高い。このことから,企業向けHDDPC及び家電製品向けHDDとの間の需要の代替性は低い。

13. 企業向けHDDには,ビジネスクリティカル向けHDD(容量が大きい)とミッションクリティカル向けHDD(性能が高い)の間では,性能や価格の違いがみられ,ビジネスクリティカル向けHDDとミッションクリティカル向けHDDの間における需要の代替性の程度は低い。

14.25インチHDDは,主に大きな記憶容量を必要とせず,小型及び軽量のHDDが必要とされる場合に用いられる一方,35インチHDDは,主に大容量のHDDが必要とされスペースや重量に制約が少ない場合に用いられること,また,25インチHDDは,35インチHDDと比べて1GB当たりの価格が高いことから,25インチHDD35インチHDDの間における需要の代替性の程度は低い。

15. 以上より,次のとおり商品範囲を画定した。

PC及び家電製品向けHDDであって,フォームファクターが35インチのHDD(以下「PC・家電向け35インチHDD」という。)

PC及び家電製品向けHDDであって,フォームファクターが25インチのHDD(以下「PC・家電向け25インチHDD」という。)

ビジネスクリティカル向けHDDであって,フォームファクターが35インチのHDD(以下「ビジネスクリティカル向け35インチHDD」という。)

ミッションクリティカル向けHDDであって,フォームファクターが35インチのHDD

ミッションクリティカル向けHDDであって,フォームファクターが25インチのHDD

16. HDDの製造販売業者(以下「HDDメーカー」という。)は,世界全体において,実質的に同等の価格でHDDを販売しており,内外のHDDの需要者は,内外のHDDメーカーを差別することなく取引を行っている。

17. よって,前記15で画定したHDDそれぞれについて,「世界全体」を地理的範囲として画定した。

18. 前記15⑤については,本件株式取得については水平型企業結合のセーフハーバー基準に該当し,本件事業取得については,SECが事業が行っていないことから競合関係が生じない。

19. 前記15④については,WD及びSECが製造販売を行っておらず,本件株式取得及び本件事業譲受けにおいて競合関係が生じない。

 

[I] PC・家電向け35インチHDD市場について

18. この市場における各社のシェアは, WD 40%,STX 40%, HGST 10%,SEC 10%である。

19. 本件統合によりHHIは約5,000となる。WD及びHGSTの合算市場シェア・順位は約50%・第1位となり,HHIの増分は約900である。STX及びSECの合算市場シェア・順位は約50%・第2位となり,HHIの増分は約800である。

20.本件株式取得及び本件事業譲受けのいずれも水平型企業結合のセーフハーバー基準に該当しない。

21. 本件商品については,需要の変動が小さく,また,需要の増加が長期的には見込めないものとされている。

22. WDHGST及びSTXSECが相互に有力な競争者となるが,その外に競争者は存在しない。

23. WDHGST及びSTXSECは,共に十分な供給余力を有していない。

24. HDDの製造販売分野に参入するには,①HDDに関する知的財産権を取得し又はこのライセンスを受けること,および②HDDの製造施設の建設に多額の資金が必要となる。このことから,他の事業分野からの新規参入は極めて困難な状況にある。近年,他の事業分野から参入した事業者はいない。

25. HDDの競合品としてソリッドステートドライブ(以下「SSD」という。)が存在するものの,HDDと比べ,1GB当たりの価格が非常に高いため,隣接市場からの競争圧力が働いているとは認められない。

26. PC及び家電製品市場には多数のメーカーが存在し,競争を行っているところ,これらのメーカーは,HDDの価格が上昇したとしても,PC及び家電製品にHDDの価格の上昇分を転嫁することが難しい。このように,PC・家電向け35インチHDD及びPC・家電向け25インチHDDの川下市場であるPC及び家電製品市場は活発な競争が行われており,当該HDDについて,需要者からの一定程度競争圧力が働いていると考えられる。

27. HDDメーカーの製品は,一定基準以上の品質を満たし,製品類型ごとに同質的な製品であるため,PC・家電向け35インチHDD市場,PC・家電向け25インチHDD市場及びビジネスクリティカル向け35インチHDD市場のいずれにおいても,取引先の変更は容易であると考えられる。

28. HDDユーザーは,HDDの安定調達や価格交渉における優位性の確保等の観点から,一つの用途で用いるHDDについて,3社程度から調達を行うことが望ましいとしており,実際にも,一般に3社程度のHDDメーカーから調達を行っている。本件統合後,HDDユーザーの調達先は,WDHGST及びSTXSEC2社のみとなる。このため,HDDユーザーが,調達先を変更することや調達割合を柔軟に変更することが困難となり,需要者からの競争圧力が十分に働かなくなるものと考えられる。

29. 本件株式取得により, WDHGSTが単独で,又は,その競争者であるSTXSECと協調して,PC・家電向け35インチHDDの供給量を制限することにより,ある程度自由に当該HDDの価格を左右することができる状態が容易に現出し得ることから,一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなると判断した。

30. 本件事業譲受により,STXSECが単独で,又は,競争者であるWDHGSTと協調して,PC・家電向け35インチHDDの供給量を制限することにより,ある程度自由に当該HDDの価格を左右することができる状態が容易に現出し得ることから,一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなると判断した。

(問題解消措置)

31. 前記30の問題に関して,WDIから,次の問題解消措置の申出があった。

「① 平成22年におけるPC・家電向け35インチHDDの市場シェアの約10%分に相当する量を製造する設備の一部を譲渡する。

PC・家電向け35インチHDDの製造販売に必要な知的財産権を譲渡先が利用できるようにする。

譲渡先の求めに応じ,一定期間,譲渡先にHDD部品を当該譲渡先が競争力を有する価格で供給する。

譲渡先は,WDからの独立性,譲渡事業を維持・発展させることができる財源,専門性及びインセンティブがあること等を基準に選定し,具体的な譲渡先については,譲渡先との契約締結後,譲渡契約書の写しを公正取引委員会に提出することによって,公正取引委員会に報告する。

譲渡の実行期限は,譲渡契約書の写しを公正取引委員会に提出した日から3か月以内とし,譲渡契約の締結後,譲渡契約書の写しについて公正取引委員会への提出がなければ,本件株式取得を実行しない。」

32. 前記問題解消措置を前提とすれば,PC・家電向け35インチHDD市場について,本件株式取得によりWD及びHGSTの合算市場シェア・順位は,約40%・第2位となる。本件株式取得後のHHIは約4200HHIの増分は約50である。

33. 前記問題解消措置を前提とすれば,本件株式取得は水平型企業結合のセーフハーバー基準に該当することとなる。

34. 譲渡先については,前記④の要件を満たせばPC・家電向け35インチHDD市場における独立した有力な競争者となると考えられる。当該要件を満たすかどうかは,公正取引委員会において判断することとする。

35. 事業譲渡が本件株式取得後に行われる場合であっても,前記期間内(3か月以内)に行われるとされていることから,問題解消措置を講じる期限は適切かつ明確に定められている。

36. 以上を踏まえると,本件問題解消措置を前提とすれば,本件株式取得について,WDHGSTの単独行動又は競争者との協調的行動によって,一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと判断した。

57. 前記問題解消措置を踏まえても,本件事業譲受けによりSTX及びSECの合算市場シェア・順位は,約50%・第1位となる。前記問題解消措置を踏まえた本件譲受後のHHIは約4200HHIの増分は約800である。

58. 本件事業譲受けは,前記問題解消措置を踏まえても,水平型企業結合のセーフハーバー基準に該当しない。

59. 前記問題解消措置を踏まえて検討を行うと,

「ア STXSECには,WD/HGST及び本件問題解消措置による譲渡先という有力な競争者が2社存在することから,相互の行動を高い確度で予測しやすくなるとはいえず,また,市場シェアもばらつき(STXSECが約50%,WDHGSTが約40%,譲渡先が約10%)が生じるため,本件事業譲受けにより,利害が一致しやすくなるとはいえない。

競争者のうち,譲渡先は,PC・家電向け35インチHDDに関する事業を発展させる意思・能力があることが事業譲渡の条件とされており,生産能力を拡大する可能性がある。

市場に合計で3社のHDDメーカーが存在するため,HDDユーザーは,PC・家電向け35インチHDDの調達先の変更や調達割合の柔軟な変更が可能であることを踏まえると,需要者からの競争圧力が引き続き働くこととなる。」

60. 以上より,本件事業譲受けについて,STXSECの単独行動又は競争者との協調的行動によって,一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと判断した。

 

[II] PC・家電向け25インチHDD市場について

61. この市場における各社のシェアは,WD 25%,HGST 25%,A 20%, STX 20%,SEC 10%である。

62. 本件統合によりHHIは約3,800となる。WD及びHGSTの合算市場シェア・順位は約50%・第1位となり,HHIの増分は約1,200である。STX及びSECの合算市場シェア・順位は約30%・第2位となり,HHIの増分は約450である。

63. 本件株式取得及び本件事業譲受けのいずれも水平型企業結合のセーフハーバー基準に該当しない。

64. 市場シェア約20%の有力な競争者であるA社が存在するほか,WDHGST及びSTXSECが相互に有力な競争者となるが,その外に競争者は存在しない。

65. WDHGST及びSTXSECは,共に十分な供給余力を有していないが,A社は一定の供給余力を有している。

66. 新規参入については,前記24のとおりである。

67. 隣接分野からの競争圧力については,前記25のとおりである。

68. 需要者からの競争圧力について,需要者の競争状況及び取引先変更の容易性については前記2627のとおりである。複数調達方針について,本件統合後,WDHGST及びSTXSEC以外にA社が存在することから,PC・家電向け35インチHDD市場と異なり,HDDユーザーは,これら3社のHDDメーカーの中で調達先や調達割合を変更することがある程度可能なことから,需要者からの競争圧力は引き続き働くものと考えられる。

69. 本件株式取得及び本件譲受についてについて,参入圧力及び隣接市場からの競争圧力は存在しないものの,有力な競争者が2社存在し,A社が一定の供給余力を有し,需要者から一定程度の競争圧力が存在することから,当事企業の単独行動又は競争者との協調的行動によって,一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと判断した。

 

[III] ビジネスクリティカル向け35インチHDD市場について

70. この市場における各社のシェアは,STX 40%,WD 35%,HGST 25%,SEC 5%未満である。

71. 本件統合によりHHIは約5,200となる。WD及びHGSTの合算市場シェア・順位は約60%・第1位となり,HHIの増分は約1,750である。STX及びSECの合算市場シェア・順位は約40%・第2位であり,HHIの増分は約50である。

72. 本件株式取得は水平型企業結合のセーフハーバー基準に該当しない。

73. 本件事業譲受けは水平型企業結合のセーフハーバー基準に該当する。

74. 本件株式取得について,STXSECが市場シェア約40%の有力な競争者となる。

75. 平成23年に本市場に参入したA社は,現時点での市場シェアは僅かであるが,A社には,ミッションクリティカル向けHDDの製造販売実績があること及びHDDユーザーの大部分が3社程度のHDDメーカーから調達を行っておりA社からの調達を増やすことが予想されるため,A社は,有力な競争者になると見込まれる。このほかに競争者は存在しない。

76. WDHGST及びSTXSECは,共に十分な供給余力を有していないが,A社は,今後,一定の供給余力を有することとなると見込まれる。

77 参入圧力については,前記のとおりである。

78. 隣接市場からの競争圧力については,前記のとおりである。

79. 需要者からの競争圧力について,需要者の競争状況及び取引先変更の容易性については前記のとおりである。複数調達方針について,本件統合後,WDHGST及びSTXSEC以外にA社が存在することから,PC・家電向け35インチHDD市場と異なり,HDDユーザーは,これら3社のHDDメーカーの中で調達先や調達割合を変更することがある程度可能なことから,需要者からの競争圧力は引き続き働くものと考えられる。

70. 本件株式取得について,参入圧力及び隣接市場からの競争圧力が存在しないものの, 有力な競争者が1社存在し,A社も一定の期間に有力な競争者となることが見込まれ,需要者から一定程度の競争圧力が存在することが見込まれることから,WDHGSTの単独行動又は競争者との協調的行動によって,一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと判断した。

 


 

  

[事例]

公取委・企業結合(平成25年度:事例2

サーモフィッシャーサイエンティフィック・インクとライフ・テクノロジーズ・コーポレーションの経営統合

判決集未登載

独禁法10条及び15

 

1. サーモフィッシャーサイエンティフィック・インク(本社米国。以下,同社を最終親会社とする企業結合集団を「サーモフィッシャー」という。)の子会社及びライフ・テクノロジーズ・コーポレーション(本社米国。以下,同社を最終親会社とする企業結合集団を「ライフテクノロジーズ」という。)は,ライフ・テクノロジーズ・コーポレーションを存続会社とする吸収合併を行うことを計画した。

2. 上記1の計画にあわせて,サーモフィッシャーサイエンティフィック・インクは,ライフ・テクノロジーズ・コーポレーションの全株式を取得することを計画した(以上,これら1・2の計画をあわせて「本件企業結合」という。

3.サーモフィッシャー及びライフテクノロジーズは,ライフサイエンス,バイオテクノロジー等の分野において分析機器,試薬その他関連製品の製造販売業を営む。

4. 関係法条は,独禁法10条及び15条である。

 

SSPタイピングキットについて)

5. SSPタイピングキットは,SSP(シークエンス特異的プライマー)タイピングテストに用いられる試薬等のキットである。SSPタイピングテストは,HLA(ヒト白血球抗原)の型を判定するHLAタイピングテストの一種である

6. SSPタイピングキットの主な需要者は,臓器・骨髄移植を行う病院とHLAタイピングテストサービスを提供する事業者である。

[一定の取引分野]

7. HLAタイピングテストには,SSPタイピングテスト以外の方法がある。それぞれの方法ごとに,各タイピングテストに用いられる試薬等のキット(以下,これらのキットを「HLAタイピングキット」という。)が供給されている。HLAタイピングテストは,解像度,費用,検査に要する時間等が異なっている。需要者は,用途や検査件数に応じて適切なHLAタイピングテストを選択し,これに対応するHLAタイピングキットを購入している。

8. SSPタイピングテストは,短時間でHLAの型を判定できることから,緊急を要する臓器移植の際に用いられる。また,他のHLAタイピングテストではHLA型が正確に判定できなかった際の再判定に用いられる。 他方で,SSPタイピングテストは,多くの検体の同時検査・判定には向いていない。

9. 上記78より,各HLAタイピングキットの間における需要の代替性は,限定的である。

10. HLAタイピングキットを構成する試薬等の製造に必要な技術は,異なっている。

11. HLAタイピングキットを構成するソフトウェア等を開発するには,各々のキットごとに異なる独自のノウハウが必要である。

12. 上記1011より,各HLAタイピングキットの間においては,供給者にとっての代替性もない。

13. 以上より,商品の範囲は,「SSPタイピングキット」である。

14. 国内の需要者は,国内の販売代理店及び海外メーカーの日本法人(以下「販売代理店等」という。)からSSPタイピングキットを購入している。

15. 商品の流通においては,販売代理店等が,需要者のニーズの把握から商品の販売,アフターサービスにわたって重要な役割を担っており,SSPタイピングキットの供給者は販売代理店等を通じて国内の需要者に商品を販売している。

16. 需要者が海外から商品を輸入する場合にも,販売代理店等のサポートが必要である。

17. 以上より,地理的範囲は「日本全国」(日本全国の需要者向け市場)である。

[競争を実質的に制限することとなるか]

18. 平成24年におけるSSPタイピングキットの市場シェアは,サーモフィッシャーが 60%,ライフテクノロジーズが約30%A社が約5%である。

19. 本件企業結合により,HHIは約8800HHIの増分は約3900となる。

20. 本件企業結合は,水平型企業結合のセーフハーバー基準に該当しない。

21. A社の市場シェアは,高くない。しかしながら,SSPタイピングキットの増産は比較的容易であって,A社は十分な供給余力を有していると考えられる。このため,A社は,当事会社の価格引上げに対する牽制力になると認められる。

22. 海外には有力なSSPタイピングキット供給業者が存在する。国内において他のHLAタイピングキットを製造販売する事業者はSSPタイピングキットを製造する技術を有している(なお,知的財産権による参入障壁もない。)。これらの事業者が日本におけるSSPタイピングキット市場に参入することは十分可能である。したがって,一定の参入圧力が認められる。

23. 当事会社は需要者との間でSSPタイピングキット以外の多くの製品の取引を行っている。当事会社がSSPタイピングキットを値上げした場合には,需要者がSSPタイピングキット以外の製品の取引をも他社に切り替える可能性がある。SSPタイピングキット以外の製品にかかる取引額の方がSSPタイピングキットの取引額よりも大きい。市場規模も,SSPタイピングキットの規模よりも,これ以外の製品の規模の方が大きい。このような中では,当事会社がSSPタイピングキットを値上げするインセンティブは低いものと考えられ,需要者から一定の競争圧力が働いていると認められる。

24. 今後,需要者の事業規模が拡大し,HLAタイピングテストを行う回数が増えた場合には,このテストを多く行う需要者に用いられているSSO(シークエンス特異的オリゴヌクレチオド)タイピングキットが代替的に利用される可能性がある(ただし,緊急を要する場合や再判定のためにSSPタイピングテストが用いられる場合は除く)。SSOタイピングキットの需要量は,SSPタイピングキットを上回っている。以上より,隣接市場から一定の競争圧力が働いているものと認められる。

25. [小括]以上より,本件企業結合により,「当事会社の市場シェアが約90%になるものの,当事会社の価格引上げに対する牽制力になると考えられる競争事業者が存在すること,一定の参入圧力が認められること,需要者からの一定の競争圧力が認められること及び隣接市場からの競争圧力が認められることから,本件行為により,当事会社の単独行動又は競争事業者との協調的行動によって日本全国のSSPタイピングキットの取引分野における競争が実質的に制限されることとはならないと認められる。

 

(バイオプロダクション顧客向け血清について 略)


 

 

[事例]

公取委・企業結合(平成30年度:事例4

新日鐵住金㈱による山陽特殊製鋼㈱の株式取得

判決集未登載

独禁法10条及び15

*水平型企業結合

 

1. 「新日鐵住金株式会社(以下「新日鐵住金」といい,同社と既に結合関係が形成されている企業の集団を「新日鐵住金グループ」という。)及び山陽特殊製鋼株式会社(以下「山陽特殊製鋼」といい,同社と既に結合関係が形成されている企業の集団を「山陽特殊製鋼グループ」という。また,新日鐵住金及び山陽特殊製鋼を併せて「当事会社」といい,新日鐵住金グループ及び山陽特殊製鋼グループを併せて「当事会社グループ」という。)は,鉄鋼製品の製造販売業等を営む会社である。」

2. 新日鐵住金は山陽特殊製鋼の株式に係る議決権の51.5%を取得すること(以下「本件行為」という。)を計画している。」

3. 「関係法条は,独占禁止法第10条である。」

 

[軸受用小径シームレス鋼管について]

4. 「鋼管とは,鋼を圧延し,又は鋼板を接合して作られる,断面が主に円形の形をした肉厚の薄い鋼材をいう。鋼管は,製法により,棒状の鋼材の中心に孔をあけて製造するシームレス鋼管(継ぎ目無し)と,鋼板を成形ロールにて管状に整え,両端を溶接して製造するシーム鋼管(継ぎ目あり)に分類され,また,外径のサイズにより,小径(おおむね外径175ミリメートル以下),中径(おおむね外径175ミリメートル超426ミリメートル以下)及び大径(おおむね外径426ミリメートル超)に分類される。

 上記のうち,当事会社間で競合するのは,小径シームレス鋼管のみである。

 また,小径シームレス鋼管は,さらに,用途により,軸受用,構造用,配管用,熱交換器用等に分類され,材質により,普通鋼,特殊鋼及びステンレス鋼に分類される。

 

[一定の取引分野]

5.� 「シームレス鋼管は,継ぎ目からの腐食・破損の危険がないため,シーム鋼管を用 いることができない高温・高圧の環境などで用いられる。また,シーム鋼管より価 格が3割程度高いことから,シーム鋼管を使用できる環境下では通常用いられな い。このため,シームレス鋼管とシーム鋼管との間に需要の代替性は認められない。また,シームレス鋼管とシーム鋼管は,製造設備及び製造方法が異なり,製造を転 換することは容易でないことから,供給の代替性も認められない。したがって,シームレス鋼管とシーム鋼管とは,別の商品範囲を構成する。」

6. 「需要者は,使用目的に応じて,小径シームレス鋼管と中径及び大径シームレス鋼管を使い分けており,小径シームレス鋼管に代えて中径及び大径シームレス鋼管を使用することはできないため,これらの鋼管の間に需要の代替性は認められない。また,小径シームレス鋼管と中径及び大径シームレス鋼管とは,製造設備が異なり,製造を転換することは容易でないことから,供給の代替性も認められない。したがって,小径シームレス鋼管と中径及び大径シームレス鋼管とは,別の商品範囲を構成する。」

7. 「小径シームレス鋼管は,用途ごとに成分等が異なり,これにより,耐摩耗性,強 度等の程度が異なるため,通常は,需要者において,異なる用途の小径シームレス 鋼管を代替的に用いることはない。また,軸受用の小径シームレス鋼管については, 製造設備及び製造方法が他の用途のものと一定程度異なるため,供給の代替性は 限定的である。したがって,軸受用の小径シームレス鋼管については独立した商品範囲を構成するものと認められる。」

8.� 以上のとおり,「軸受用小径シームレス鋼管」を商品範囲として画定した4

[地理的範囲]

9. 「軸受用小径シームレス鋼管は,日本国内での輸送に関し,輸送の難易性や輸送費用の点から制約があるわけではなく,供給者は日本全国において販売を行っている。また,地域により販売価格が異なるといった事情は認められない。したがって,「日本全国」を地理的範囲として画定した。」

 

[競争の実質的制限]

10. 「当事会社は,いずれも軸受用小径シームレス鋼管を製造販売していることから,本件は,水平型企業結合に該当する。

 平成28年度における軸受用小径シームレス鋼管の国内市場の状況は下表のとおりであり,本件行為後の当事会社の市場シェアは約100%(第1位),HHI⁵は約10,000HHIの増分は約4,200であることから,水平型企業結合のセーフハーバー基準に該当しない。」

 

【平成28 年度における軸受用小径シームレス鋼管の市場シェア】① 山陽特殊製鋼 約70%,②新日鐵住金 約30%,(合計100%)

 

11. 「軸受用小径シームレス鋼管の輸入数量は不明であるが,同製品の主要な需要者に輸入品の使用実績はなく,また,輸入品の調達予定もないとのことである。したがって,輸入圧力は認められない。」

12. 「小径シームレス鋼管を製造販売するためには,専用の設備を備える必要があり, 多額の設備投資費用を要する。日本国内において,過去10年間に小径シームレス鋼管の製造販売業に新たに参入した事例はなく,今後大きな需要の拡大も見込まれないことから,近い将来における新規参入の蓋然性は認められない。

 また,既に小径シームレス鋼管を製造販売している当事会社以外の鉄鋼メーカーにとっても,軸受用小径シームレス鋼管の製造販売業に新たに参入する場合には多額の設備投資が必要となることなどから,参入の蓋然性は認められない。

 したがって,参入圧力は認められない。」

13. 「軸受用小径シームレス鋼管に隣接する商品市場として,特殊鋼棒鋼7が存在するが, 需要者である軸受メーカーは,特殊鋼棒鋼により製造可能なものは特殊鋼棒鋼で製造し,特殊鋼棒鋼では製造が困難なものは比較的高価な軸受用小径シームレス鋼管で製造するなど,既に使い分けを行っていることから,軸受用小径シームレス鋼管から特殊鋼棒鋼への切替えの可能性は限定的であると認められる。したがって,隣接市場からの競争圧力は限定的である。」

14. 「軸受用小径シームレス鋼管は,当事会社のみが製造し,輸入品も選択肢にならないことから,需要者である軸受メーカーに当事会社以外の選択肢はなく,その価格交渉力は限定的である。また,一般的に,最終需要者である自動車メーカー等は,集中購買9を背景とした価格交渉力を有しているものの,自動車メーカー等にとっても,軸受用小径シームレス鋼管に代わる他の選択肢はないことから,最終需要者からの競争圧力も限定的である。したがって,需要者からの競争圧力は限定的である。」

[評価]

15. 「本件行為により,当事会社は,軸受用小径シームレス鋼管の取引分野を独占することとなり,輸入圧力及び参入圧力が認められないことに加えて,隣接市場からの競争圧力及び需要者からの競争圧力も限定的であることから,当事会社が単独で価格等をある程度自由に左右することができる状態が現出し,本件行為が国内の軸受用小径シームレス鋼管の取引分野における競争を実質的に制限することとなると認められる。」

 

[当事会社による問題解消措置の申出]

16.「当事会社から,以下の問題解消措置(以下「本件問題解消措置」という。)の申出があ った。」

① 当事会社は,山陽特殊製鋼が所有する軸受用小径シームレス鋼管(以下軸受用小径シームレス鋼管を「本製品」という。)の圧延設備に係る一定割合の持分を株式会社神戸製鋼所(以下「神戸製鋼所」という。)に譲渡し,神戸製鋼所は,当該設備について年間15,000トンの使用権を有する。当事会社は,神戸製鋼所から,年間15,000トン(神戸製鋼所が希望する場合には追加で1,000 トン)を上限として,本製品の操業生産を受託する。神戸製鋼所が上限数量を超える数量の操業生産の委託を希望する場合は,当事者間で誠実に協議・決定する。

当事会社は,神戸製鋼所に対して,神戸製鋼所が本製品の販売において必要とする技術・品質情報を提供するとともに,本製品の新規仕様ニーズ,製品開発ニーズ等に対する技術サービス支援を行う。

②本製品について,当事会社が保有する本製品に係る一部の商権(年間計約14,000トン相当)を神戸製鋼所に譲渡する。当事会社は,商権譲渡実行日から3年間,自らが商権元となる譲渡対象商権の需要者に対して,譲渡対象商権に係る取引に関して神戸製鋼所が販売する本製品の使用推奨を行う。

③当事会社は,本製品の操業生産の受託に伴って神戸製鋼所に係るセンシティブ情報(コスト情報,営業情報,顧客情報等)が当事会社の営業部門等に開示等されることのないよう,自社内に適切な情報遮断措置を講じる。具体的な内容については,事前に公正取引委員会の承認を得る。

④当事会社は,公正取引委員会に対し,本件問題解消措置の実施状況に関する年1回の定期報告を,本件実行日から原則として5年間にわたり行う。また,当委員会からの求めに応じて,必要な報告等を行う。

 

[問題解消措置に対する評価]

17. 「本件問題解消措置に従って設備譲渡等を受ける第三者は,設備譲渡により,山陽特殊製鋼が所有する本製品の圧延設備の一定割合の持分及び年間15,000トンの当該設備の使用権を取得するとともに,当事会社に対して,年間15,000トン(当該第三者が希望する場合には追加で1,000トン)の本製品の操業生産の委託を行うことができる。また,商権譲渡により,年間計約14,000トン相当の商権を取得することになる。さらに,本製品の製品開発等に関する必要な技術サービス支援を受けることができる。

 したがって,かかる設備譲渡等が適切な第三者に対してなされれば,新たに最大25%の市場シェアを有する有力な事業者が市場に参入し,当該事業者からの競争圧力が働くものと認められる。」

 「神戸製鋼所は,新日鐵住金と同じく高炉法10により鉄鋼製品を製造する事業者であり, 国内粗鋼生産能力では第3位に位置するほか,特殊鋼棒鋼を軸受メーカーに販売して おり,既に軸受メーカー向けの商流網を確立している。このため,本件問題解消措置に従って設備譲渡等がなされれば,神戸製鋼所は,短期間のうちに少なくとも商権譲渡分の本製品の販売が可能になると認められる。したがって,設備譲渡等を受ける第三者として,神戸製鋼所は適切であると認められる。」 

 「当事会社が自社内で情報遮断措置を講じ,その内容について事前に公正取引委員会の承認を得ることは,当事会社が神戸製鋼所の営業情報等を取得すること等により協調的関係が生じることを防止する観点から,また,当事会社が神戸製鋼所から取得した情報を不当に有利に利用することを防止する観点から,適切であると認められる。」

 「また,本件問題解消措置の実施状況について,当委員会への定期報告その他必要な報告を行うことは,本件問題解消措置の履行監視の観点から適切であると認められる。」

18. 「以上のとおり,本件問題解消措置を前提とすれば,新たに有力な競争事業者として神戸製鋼所が市場に参入することで,本件行為以前と同程度の競争環境が維持されるものと評価できることから,本件行為により,国内の軸受用小径シームレス鋼管の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと認められる。」


 

 

[事例]

公取委・企業結合(平成28年度:事例3

出光興産㈱による昭和シェル石油㈱の株式取得及びJXホールディングス㈱による東燃ゼネラル石油㈱の株式取得

判決集未登載

独禁法10

*水平型企業結合における協調的行動による競争の実質的制限

 

[当事会社]

1. 出光興産株式会社(以下「出光」といい,同社と既に結合関係が形成されている企業の集団を「出光グループ」という。)及び昭和シェル石油株式会社(以下「昭和シェル」といい,同社と既に結合関係が形成されている企業の集団を「昭和シェルグループ」という。また,出光と昭和シェルを併せて「出光統合当事会社」といい,出光グループと昭和シェルグループを併せて「出光統合グループ」という。)は,主に石油製品の製造販売を営む。

2. 「JXホールディングス株式会社(以下「JXHD」といい,同社と既に結合関係が形成されている企業の集団を「JXグループ」という。)を最終親会社とするJXエネルギー株式会社(以下「JX」という。)及び東燃ゼネラル石油株式会社(以下「東燃ゼネラル」といい,同社と既に結合関係が形成されている企業の集団を「東燃ゼネラルグループ」という。また,JXと東燃ゼネラルを併せて「JX統合当事会社」といい,JXグループと東燃ゼネラルグループを併せて「JX統合グループ」という。)は,主に石油製品の製造販売を営む。

3. 以下,出光統合当事会社,JXHD及びJX統合当事会社を併せて「当事会社」といい,出光統合グループ及びJX統合グループを併せて「当事会社グループ」という。

[企業結合計画等]

4. 出光は,昭和シェルの株式に係る議決権を20%を超えて取得すること(以下「出光統合」 という。)を計画している。

5. JXHD[は],東燃ゼネラルの株式に係る議決権を50%を超えて取得すること(以下「J X統合」という。)を計画している。

6. �出光統合及びJX統合(以下,併せて「本件両統合」という。)が同時期に行われるため,出光統合についてはJX統合を踏まえて,JX統合については出光統合を踏まえて検討する。

 

(プロパン元売業及びブタン元売業)

「当事会社グループにおいては,出光が51%出資するアストモスエネルギー株式会社,JXの子会社であるENEOSグローブ株式会社(以下「EG」という。)及び株式会社ジャパンガスエナジー(以下「JGE」といい,EGと併せて「EG等」という。)並びに昭和シェル及び東燃ゼネラルが各25%を出資するジクシス株式会社(以下「ジクシス」という。)が,それぞれLPガス元売業を行っている。

 したがって,本件両統合後,出光統合当事会社及びJX統合当事会社は,それぞれ複数のLPガス元売業者に出資することとなる。」

[出資比率:

JX統合当事者 JGE51% EG50% ジクシス25%

出光統合当時会社 ジクシス25% AE 51%

株主構成:

JGEJX統合当時会社 51% / ジクシス‐JX統合当時会社 25%

A社 25%B社 25%, 出光統合当時会社 25% / AE‐ 出光統合当時会社51%C社 49%

�[商品範囲 ]

「LPガスは,主成分の違いにより,プロパンとブタンに分類されるが,主な用途が異なること,沸点が異なるため物流・保管・最終需要者における使用に係る設備が異なること等から,両者間の需要の代替性は限定的であると考えられる。また,プロパンとブタンは製造設備・方法が異なることから供給の代替性は認められない。

 したがって,商品範囲を「プロパン」及び「ブタン」として画定した。

LPガスについては,元売業者と卸売業者との取引価格は,通常,一定の算出式(以下「フォーミュラ」という。)に基づいて決定され,卸売業者は,日本全国どこでもおおむね同じような価格で購入することができるものの,輸送費の観点から,輸送範囲は,おおむね製油所又は輸入基地(一次基地)が所在する地域ブロック(北海道,東北,関東,中部,近畿,中国,四国,九州及び沖縄)内であること等から,地域ブロックごとにLPガスの元売市場が形成されている可能性も考えられる。したがって,地理的範囲を「日本全国」及び「地域ブロック」として重層的に画定した。

[競争の実質的制限]

(1) 結合関係及び協調的関係

「LPガス元売業に関しては,本件両統合により,前記・・・のとおり・・・ジクシス,AE及びEG等(以下「LPガス元売4社」という。)との間で結合関係が形成されることから,LPガス元売4社間に協調的関係が生じるかが問題となる。

 ジクシスの役員及び従業員(以下「役員等」という。)は,ジクシスの株主4社からの出向者のみで構成され,かつ,ジクシスに出向している役員等(以下「出向役員等」という。)は出向元の人事権に服しているため,ジクシスの利益とともに出向元の利益を図るインセンティブを持つ。そのため,本件両統合による出資関係の変動を通じて,出向役員等がジクシスと出向元である出光統合当事会社又はJX統合当事会社の双方との共通の利益を図るという状況が生じることから,LPガス元売4社が競争回避的な行動等の協調的行動を採るインセンティブ(以下「協調インセンティブ」という。)が生じると考えられる。

 また,本件両統合により,出光統合当事会社及びJX統合当事会社の双方が,ジクシスに役員等を出向させること及びジクシスの株主間契約に基づき一定の拒否権を持つことから,ジクシスの事業活動全般に関与することが可能となり,共にジクシスの事業活動上の意思決定に重要な影響を及ぼし得ると考えられる。

 さらに,本件両統合による出資関係の変動により,ジクシスとAE,ジクシスとEG等の利害が共通化すること及びLPガス元売4社に協調インセンティブが生じることから,AE及びEG等が,相互にジクシスとの協調的行動を妨げることが期待できないと考えられる。

 加えて,LPガス元売業者が保有する卸売業者への販売価格等の情報は,直ちに陳腐化する情報ではないところ,出向役員等が出向元である出光統合当事会社及びJX統合当事会社に復帰した後,AE及びEG等に異動することで,かかる情報がLPガス元売4社で共有されるおそれがある。

 以上から,LPガス元売4社間で協調的関係が生じる蓋然性が高いと考えられる。

(2) 協調的行動を容易にするその他の事情

 LPガスは,商品の同質性及び費用条件の類似性が認められる商品であること,各LPガス元売業者が関連会社としてLPガス卸売業者を持ち,当該卸売業者が自社の関連会社たるLPガス元売業者及びそれ以外のLPガス元売業者からの複数購買を通じて他社の価格情報を入手し得ること等から,LPガス元売業者が,互いの行動を高い確度で予測することが容易であり,協調的な行動に関する共通認識に至ることが容易であると考えられる。

 また,LPガスについては小口・定期の取引が行われているため,例えば,あるLPガス元売業者が卸売価格を引き下げて売上げの拡大を図るといった逸脱行為を行うことによって得られる利益が小さいため,協調的行動を採る誘因が大きいと考えられる。

 さらに,小口・定期の取引が行われているため逸脱行為を監視することが一定程度可能であると考えられること及びLPガス元売4社には十分な供給余力があるため相互に報復することも容易であると考えられることから,協調的行動を採る誘因が大きいと考えられる。

 以上から,LPガス元売4社間で協調的行動が採られる蓋然性が高いと考えられる。

�(3) 協調的行動に対する牽制力

 LPガス元売4社について協調的関係が生じた場合,LPガス元売業における合算市場シェアは日本全国で80%前後,地域ブロックによっては90%を超える地域が複数存在するなど,高度に寡占的な市場が現出する。そのため,少なくともLPガス元売4社の合算市場シェアが90%を超える地域ブロック又は競争事業者が単独で輸入基地等を保有しない地域ブロックのようにLPガス元売4社以外の競争事業者の供給余力が十分でないと考えられる地域ブロックにおいては,競争事業者からの牽制力が十分機能しないと考えられる。

 また,LPガスの競合品(電気,都市ガス等)による隣接市場からの競争圧力は一定程度働くものの,切替えに要するコスト及び期間を踏まえれば大幅な切替えは困難であると考えられること並びにLPガス元売4社の競争事業者の供給余力が十分でないと考えられる地域においては,需要者にとってLPガス元売4社以外の調達先の選択肢が限られることから,隣接市場及び需要者からの競争圧力はいずれも協調的行動に対する牽制力としては十分機能しないと考えられる。

(4) 経済分析

 本件両統合において,出光統合当事会社及びJX統合当事会社がそれぞれジクシスに対して25%を出資することになるという出資関係の変化が,各LPガス元売業者のプロパンの販売価格にいかなる影響をもたらすかを分析するため,株主と企業の間の持分 関係及び支配関係を考慮した上でのシミュレーション分析 を行った。」

「シミュレーションによって計算された価格変化率は,LPガス元売業者ごとにまちまちであり,各種条件の設定値等にも左右されるが,価格変化率が最大となるLPガス元売業者については,2%程度ないし6%程 度価格が上昇するという結果となった(注)。

注)「本分析のように企業結合審査においてシミュレーション分析を用いる際は,当該分析の結果が,一連 の仮定の上に成り立っていることを認識する必要がある。したがって,本分析のシミュレーション結果は,本件両 統合の効果に関する決定的な結論ではなく,定性的な調査結果を補完するものとして位置付けられる。」

[結論]

「本件両統合により,出光統合当事会社及びJX統合当事会社は,LPガス元売4社の協調的行動を通じて,プロパン元売業及びブタン元売業に関する一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなると考えられる。」

 

(ガソリン元売業)

[商流]

「ガソリンは,①石油元売会社から,系列特約店13及び系列販売店14に対し,特約店契約に基づいて,石油元売会社の商標を掲げて運営するサービスステーション(以下「SS」といい,石油元売会社の商標を掲げるSSを「系列SS」という。)において販売するために供給される場合(系列ルート),②系列ルート以外の流通経路で,商社等を通じて,商社系プライベートブランド(以下「PB」という。)SS,独立系PBSS(系列SS,商 社系PBSS及び全農15系PBSS以外のSSをいう。),全農系PBSS等16において販売される場合(非系列ルート。以下,非系列ルートで販売されるガソリンを「非系列玉」という。),③官公庁や運送会社等の需要家に対して直接販売される場合がある。」

[一定の取引分野]

(1) 商品範囲

「ガソリンの主な需要者である一般消費者は,基本的には自己の保有する自動車の仕様に応じてハイオクガソリンとレギュラーガソリンを使用しているが,自動車の仕様の枠を超えて双方を使用している者もいるため,ハイオクガソリンとレギュラーガソリンの間には,一定程度の需要の代替性が認められる。また,供給の代替性について,各石油元売会社は,原油を精製することによって,ハイオクガソリン及びレギュラーガソリンの双方を生産でき,かつ,需要動向に応じて双方の生産数量を調整することができるため,供給の代替性が認められる。

 したがって,商品範囲を「ガソリン」として画定した。」

(2) 地理的範囲

「各石油元売会社は,系列SSを通じて全国にガソリンを供給できる仕組み・能力を有していること及び都道府県ごとの小売市況の影響を受けないフォーミュラによってガソリンの卸売価格を決定していることから,地理的範囲を「日本全国」として画定した。」

[競争の実質的制限1]

単独行動による競争の実質的制限

 「本件両統合により,ガソリン元売業について,出光統合当事会社の合算市場シェア・順位は約30%・第2位,HHIの増分は約500となり,また,JX統合当事会社の合算市場シェア・順位は約50%・第1位,HHIの増分は約1,100となり,いずれも水平型企業結合のセーフハーバー基準に該当しない。

 【平成26年度におけるガソリン元売業の市場シェア】

    JX 約35%,② 東燃ゼネラル 約15%,③ 昭和シェル 約15%,④出光 約15%,⑤ D社 約10%, ⑥ E 社 約05%,⑦ その他 約05%

(合計 100%)」

 「出光統合当事会社及びJX統合当事会社は,共に十分な供給余力を有しており,相互に有力な競争事業者となると考えられる。他方,市場シェアが約10%のD社については,供給余力が限定的であること,本件両統合を契機とする物流網の再編による バーター契約(石油元売会社間で,いずれか一方のみが製油所又は油槽所を有している地域において,同種・同量の石油製品 を相互に融通する取引をいう。)の解消などにより,物流コストが増加し,日本全国における競争力を維持することが困難になるおそれがあることから,競争圧力は限定的と考えられる。」

 

[輸入]

「ガソリンを輸入する事業者は,石油の備蓄の確保等に関する法律に基づく備蓄義務18を負うため,備蓄義務の履行に要する費用が生じるほか,石油元売会社以外の事業者は,輸入を受入れ可能な港湾やタンクが限られるといった物理的な障壁が存在する。

 また,ヒアリングによれば,石油元売会社からの石油製品の調達依存度が高い事業者は,輸入を行うことにより石油元売会社と競合する関係に立つことから,輸入を躊躇することがあるとのことである。

 さらに,石油元売会社以外の事業者が輸入するガソリンの数量と,日本国内における ガソリン卸売価格の関係についてインパルス反応関数分析を実施し,当該事業者の輸入数量に生じたショック(変動)が,日本国内におけるガソリン卸売価格にもたらす影響をグラフ化して検証したところ,当該事業者の輸入数量におけるショック(変動)は, 日本国内におけるガソリン卸売価格に有意な影響をもたらしていないという結果となった。

 以上から,輸入圧力は働かないと考えられる。」

[需要者からの競争圧力]

 「本件両統合により,ガソリンの需給ギャップが一定程度解消され,非系列玉は減少する可能性が高いものの,需給ギャップを完全に解消することは困難であるため,引き続き一定量の非系列玉が流通すると考えられる。また,ガソリンは同質的な商品であることから,価格競争になりやすく,各石油元売会社は,自社の系列SSが他社の系列SSに売り負けないよう,特約店からの値下げ要求にある程度応じざるを得ず,一定の価格引下げ圧力が働くと考えられる。

 したがって,需要者から一定程度の競争圧力が働くと考えられる。」

「以上のとおり,十分な供給余力を持つ有力な競争事業者が存在すること及び需要者から一定程度の競争圧力が働くことから,本件両統合により,出光統合当事会社及びJX統合当事会社が,単独行動によって,ガソリン元売業に関する一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと考えられる。

[競争の実質的制限2

協調的行動による競争の実質的制限

「本件両統合により,①競争事業者の数が減少すること,②同質的な商品であり,販売条件について競争する余地が少ないこと,③コスト構造が類似すること,④業界紙による通知価格の掲載等により,各石油元売会社は適時に他社の通知価格の変動状況等に係る情報を入手できることから,互いの行動を高い確度で予測できるようになると考えられる事情が認められる。また,ヒアリング等によれば,競争事業者及び需要者においても,競争が緩和され収益改善が図られることが望ましいという共通認識を持っていたことからすると,協調的な行動に関する共通認識に到達することが容易であると考えられる。

 また,上記①及び④からすると,協調的行動からの逸脱監視が容易と考えられる。

 さらに,出光統合当事会社及びJX統合当事会社はいずれも十分な供給余力を有しており,報復行為を容易に行うことができると考えられる一方,市場シェアが約10%のD社については,供給余力が限定的であること,本件両統合を契機とする物流網の再編によるバーター契約の解消などにより,物流コストが増加し,日本全国における競争力を維持することが困難になるおそれがあることから,競争圧力は限定的と考えられる。

 加えて,各石油元売会社が協調的に価格を引き上げた場合,需要者は,他に十分な調達先の選択肢がなく,価格引上げを受け入れざるを得ないと考えられるため,需要者からの競争圧力は働かないと考えられる。

 以上のとおり,協調的行動を採ることとなる事情が認められることから,本件両統合により,出光統合当事会社及びJX統合当事会社が,自社以外の競争事業者との協調的行動によって,ガソリン元売業に関する一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなると考えられる。

[独占禁止法上の評価 ]

 「本件両統合により,出光統合当事会社及びJX統合当事会社は,自社以外の競争事業者との協調的行動によって,ガソリン元売業に関する一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなると考えられる。」

 

(灯油元売業)

「本件両統合により,出光統合当事会社及びJX統合当事会社は,自社以外の競争事業者との協調的行動によって,灯油元売業に関する一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなると考えられる。」

(軽油元売業)

「本件両統合により,出光統合当事会社及びJX統合当事会社は,自社以外の競争事業者との協調的行動によって,軽油元売業に関する一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなると考えられる。」

(A重油元売業)

「本件両統合により,出光統合当事会社及びJX統合当事会社は,自社以外の競争事業者との協調的行動によって,A重油元売業に関する一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなると考えられる。」

[問題解消措置:申出]

「問題点の指摘を行ったところ,当事会社から,それぞれ次 の問題解消措置(以下「本件問題解消措置」という。)の申出を受けた。」

LPガス元売業に関する問題解消措置

(1) 出光統合当事会社

 「出光統合当事会社は,出光統合の実行日から9か月以内に,①昭和シェルが保有するジクシス株式について,出資比率を20%に引き下げるための株式譲渡契約を締結し,当該契約締結日から3か月以内に当該株式の譲渡を実行する。

 また,出光統合当事会社は,出光統合の実行日から9か月以内に,②昭和シェルからの出向者であるジクシス役員を辞任させ,以後,出向先における役員を非常勤監査役1名に限定する。

 さらに,出光統合当事会社は,出光統合の実行日から,③昭和シェルが,同社からの出向役員等に対する出光統合実行日以後の人事評価に関与しない,④株主として会社法上認められる権利を超えた権利を行使しない,⑤ジクシスに対する工場生産品の供給を継続する,⑥設備の賃貸を継続する,及び⑦情報遮断措置の実施に係る措置を採る。

(2) JX統合当事会社

 JX統合当事会社は,JX統合実行日から6か月以内に,①東燃ゼネラルが保有するジクシス株式全ての譲渡に係る契約を締結し,当該契約締結日から3か月以内に当該株式の譲渡を実行する。

 また,JX統合当事会社は,遅くともJX統合実行日から1年以内に,②ジクシスに出向している出向役員等を全員引き揚げる。

 さらに,JX統合当事会社は,JX統合実行日から,③ジクシスへの出向役員等に対する人事評価に関与しない,④ジクシスに対する工場生産品の供給を継続する,⑤ジクシスに対する基地提供を継続する,及び⑥情報遮断措置の実施に係る措置を採る。

主燃油(ガソリン,灯油,軽油およびA重油)の元売業に関する問題解消措置

(1) 輸入促進措置(備蓄義務の肩代わり)

「当事会社は,石油元売会社以外の事業者が主燃油の輸入を行った際に課せられる備蓄義務について,当事会社が自社で保有する原油又は主燃油在庫を活用し,備蓄義務を肩代わりする(以下「本件肩代わり措置」という。)。

当事会社は,油種ごとに,石油元売会社以外の事業者によって輸入される数量が内需の10%に相当する数量になるまで備蓄義務の肩代わりを行い,本件肩代わり措置の利用者(以下「措置利用者」という。)は,タンクの維持管理に係るコストベースの本件肩代わり措置の委託料を,当事会社に支払う。また,当事会社は,本件肩代わり措置に関する情報について,本件肩代わり措置を行う部署と主燃油の販売業務を行う部署との間における情報遮断措置を実施する。

(2) 輸入促進措置(不利益取扱いをしないことの確約)

当事会社は,取引先に対して,主燃油の輸入を行ったことを理由として,主燃油の販売取引において不利益を与えないことを当委員会に確約し,その旨周知する。

その他の問題解消措置(競争事業者の競争力維持のための措置)

当委員会が,当事会社に対し,競争事業者とのバーター取引の解消等により,競争事業者からの競争圧力が減少するおそれがある旨の問題点を指摘したところ,競争事業者の競争力を維持するため,当事会社からは現行のバーター取引の維持等に係る措置の申出を受けた。

�[問題解消措置に対する評価 ]

LPガス元売業に関する措置

 出光統合当事会社の申し出た措置によれば,出光統合当事会社のジクシスの意思決定に及ぼす影響力が低下すること,出資比率が20%に引き下げられることにより利害の共通化の程度が低下すること及びジクシスとAEとの間で競争上センシティブな情報が共有されないような措置が採られることから,出光統合後も,ジクシスとAEが一定程度独立した競争単位として事業活動を行うと考えられる。

 また,JXHD及びJX統合当事会社の申し出た措置によれば,ジクシスとの出資関係が解消され,出向役員等を全員引き揚げるため,ジクシスの意思決定に及ぼす影響力が無くなり,利害の共通化も解消されること及びジクシスとEG等との間で競争上センシティブな情報が共有されないような措置が採られることから,JX統合後も,ジクシスとEG等が独立した競争単位として事業活動を行うと考えられる。

 さらに,当事会社の申し出た措置によれば,ジクシスは,本件両統合が行われる前と同等の競争力を維持することができると考えられる。

(2) 経済分析

 本件問題解消措置について,前記 ・・・のモデルを用いて,当該措置が価格変化率にどのような影響を与えるのか定量的な検証を行ったところ,価格変化率は当該措置がない場合と比べ大きく下がり,ほぼ0に近いという結果となった。このことから,当該措置は,定量的にみても有効なものであると考えられる。

主燃油に関する措置(輸入促進措置)

 輸入促進措置が履行された場合,主燃油を輸入しようとする措置利用者の備蓄義務の負担(在庫金利,タンクの維持管理費用,タンク等の確保)及び心理的な障壁が軽減されることから,当該輸入促進措置は,輸入を促進する効果を持つものと考えられる。

 輸入促進措置により,直ちに市場シェア10%に相当する輸入が実現するとは限らないものの,当該輸入促進措置は,通常,一定程度の競争圧力として評価される水準まで輸入を促進する措置といえること及び石油元売会社が,石油元売会社以外の輸入を行う事業者当該措置は, の行動を高い確度で予測することは容易ではなく,当該輸入促進措置により輸入数量が増加し,又は増加し得る状況を創出すると考えられることから,石油元売会社による協調的行動が困難になると考えられる。

 JX統合当事会社からは,内需の約10%の輸入品が,当事会社の協調的行動を牽制するのに十分であることを示す根拠として,当事会社が主燃油の卸売価格を引き上げるイン センティブがあるか否かを,臨界損失分析29の枠組みを用いて分析する経済分析が提出された。当該分析においては,主燃油の卸売価格を引き上げた場合の臨界損失を計算し,当該臨界損失が内需の約10%,すなわち実際損失よりも小さいことを示している。かかる分析結果によれば,当事会社は主燃油の卸売価格を引き上げても利益を最大化できず,卸売価格を引き上げるインセンティブはないことになる。

 以上のとおり,本件問題解消措置を前提とすれば,主燃油について,協調的行動に対する十分な牽制力となり得る輸入促進効果が認められると考えられる。

競争事業者の競争力維持のための措置

 本件問題解消措置が履行された場合,競争事業者は,少なくとも現在と同様の価格水準で日本全国に主燃油等を供給することができることから,その競争力を維持できるものと考えられる。

[結論]

当事会社が本件問題解消措置を講じることを前提とすれば,本件両統合がプロパン,ブタン,ガソリン,灯油,軽油及びA重油の各元売業に関する一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと判断した。」


 

 

[事例(相談事例)]

公取委・企業結合(平成19年度:事例2

三菱ウェルファーマ(株)と田辺製薬(株)との合併

判決集未登載

独禁法15

*水平型企業結合における協調行動による競争の実質的制限

 

(概要)

1. 本件は,医療用医薬品の製造販売事業を営む三菱ウェルファーマ株式会社(以下「三菱ウェルファーマ」という。)と,同事業を営む田辺製薬株式会社(以下「田辺製薬」という。)が合併することを計画したものである。

2. 関係法条は,独禁法15条である。

(医療用医薬品について)

3. 医療用医薬品の製造販売については,薬事法の規定により,厚生労働大臣の承認を得ることが義務付けられている。基礎研究の開始から臨床試験等を経て新薬が発売されるまでには,通常,少なくとも10年程度を要する。

4. 医療用医薬品は,通常,製薬会社から卸売業者を経て医療機関等に販売され ている。

5. 医療用医薬品については,品目ごとに,医療機関等が使用した医薬品について健康保険から医療機関等に対して支払われる酬等の基準となる価格(薬価)が,厚生労働省により定められている。

6. 製薬会社が卸売業者から徴する販売価格は,仕切価格と呼ばれる。仕切価格は,銘柄ごとに設定されている。取引先ごとに仕切価格を変えることは行われていない。

7. 製薬会社は,卸売業者に対し,取扱量や目標達成率等に応じて,「リベート」及び「アローアンス」と呼ばれる金員を支払っている。これらにより,卸売業者は,実質的には「仕切価格」よりも低い価格で医療用医薬品を製薬会社から購入している。

8. 各製薬会社の仕切価格,リベート並びにアローアンスの額及び率は公表されていない。

(一定の取引分野)

10. [破傷風トキソイド及び全身止血剤を商品市場として画定した。当事企業は,これら商品を委託製造して,販売している。]

11. 各製薬会社の医療用医薬品はいずれも全国で販売されており,需要者にとって選択可能な製薬会社の範囲が地理的条件によって異なる状況にはないことから,地理的範囲は全国とした。

 

破傷風トキソイドについて

[市場シェア,競争の状況について]

12. 各社の販売シェアは次のとおりである。

A社 約50%, 三菱ウェルファーマ 約35%, B社  約10%,  田辺製薬  約5%,  C社  約2%, その他  約3

13. 合併後のHHIは約3,800HHIの増分は約300である。

14. 破傷風トキソイドについては,いずれの製薬会社の製品も同一菌種から製造されており,同質性が高い。特に差別化が図られているものではない。

15. 破傷風トキソイドについては,販売元の多くがワクチン・トキソイド等の製造業者に製造を委託している。

16.  15のため,製造元から供給を受けることにより,破傷風トキソイドの販売元として参入することは容易かつ短期間に行うことができる。

17. 卸売業者は,通常,複数の販売元の医薬品を取り扱っており,仕入先製薬会社を切り替えることは比較的容易である。

(独禁法上の評価)

18. 当事会社合算シェアは約40%(第2位)となるものの,A社というシェア約50%(第1位)を有する有力な競争者が存在する。参入は容易である。田辺製薬のシェアは約5%と比較的少なく,本件合併の市場構造への影響は大きくない。破傷風トキソイドは同質的な商品であり,医療機関等による使用銘柄の切替えは容易と考えられる。以上のことから,当事会社の単独行動により,一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと考えられる。

19. 参入は容易かつ短期間に行うことができる。田辺製薬のシェアは約5%と比較的少なく,本件合併の市場構造への影響は大きくないと考えられる。「製薬会社各社の仕切価格,リベート及びアローアンスは公表されておらず,卸売業者への実質的な販売価格は外部から容易には察知しがたいと考えられることから,協調的行動により,一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと考えられる。」

(特定全身性止血剤について,問題が指摘され,第三者に対する事業承継措置がとられることになった。)

 

 

 

[事例(相談事例)]

公取委・企業結合(平成24年度:事例4

エーエスエムエル・ホールディング・エヌ・ビーとサイマー・インクの統合

判決集未登載

独禁法10

*垂直型企業結合

 

(概要)

1. 半導体製造において使用される露光装置の製造販売業を営むエーエスエムエル・ホールディング・エヌ・ビー(本社オランダ)を最終親会社とする企業結合集団(独禁法102項に規定される企業結合集団のことである。以下「ASML」という。)に属するエーエスエムエル・ユーエス・インク(本社米国。以下「米ASML」という。)が,同製品の重要な部品である光源の製造販売業を営むサイマー・インク(本社米国。サイマー・インクを最終親会社とする企業結合集団を,以下「サイマー」という。)の全株式を取得することを計画した。(以下,光源の製造販売業者を「光源メーカー」といい,露光装置の製造販売業者を「露光装置メーカー」という。)

2. 関係法条は,独禁法10条である。

 

 (一定の取引分野:川上・川下市場の画定)

3. 光源は,露光装置には不可欠な重要な部品の一つである。

4. 露光装置は,半導体集積回路の土台となるウェハ(円板状の薄い板)上に電子回路を転写する装置である。光源の需要者は,露光装置メーカーである。露光装置の需要者は,半導体製造販売業者及び半導体受託生産業者(以下「半導体メーカー」という。)である。

5. 露光装置の需要者である半導体メーカーは,露光装置の購入に当たり,各光源メーカーの光源を選択できるようになっている。

光源について

6. 当事会社間で取引のある光源は,DUV(Deep Ultraviolet Light:深紫外線)光源であり,DUV光源は,KrF光源及びArF光源に大別される。KrF光源とArF光源とでは,解像度が異なっており,KrF光源は太い回路の転写に用いられるのに対してArF光源は細い回路の転写に用いられる。KrF光源とArF光源とでは,価格帯も異なる。

7. 露光装置に用いられる光源としては,DUV光源のほかにEUV(Extreme Ultraviolet Light:極端紫外線)光源があるものの,EUV光源及びEUV光源を搭載したEUV露光装置は,技術的な課題が多いために現在は研究開発向けに一部販売されるにとどまっている。

8. 前記6より,KrF光源とArF光源は,露光装置メーカーにとっての代替性がない。したがって,「KrF光源」及び「ArF光源」をそれぞれ商品範囲として画定した。

9. 光源メーカーは,世界全体において,実質的に同等の価格で光源を販売しており,内外の露光装置メーカーは,内外の光源メーカーを差別することなく取り扱っている。

10. したがって,KrF光源とArF光源のそれぞれについて,「世界全体」を地理的範囲として画定した。

露光装置について

11. 露光装置の中でもArF光源を搭載した露光装置には,通常の露光装置(以下「ArF露光装置」という。)と液浸露光装置と呼ばれる露光装置(以下「ArF液浸露光装置」がある。ArF液浸露光装置は,レンズとウェハの間を水で浸し水の屈折率を利用して解像度を高めたものであり,「ArF露光装置」よりも解像度が高い。また,KrF露光装置,ArF露光装置及びArF液浸露光装置は,解像度のみならず価格帯が異なっている。

12. 前記11より,KrF露光装置,ArF露光装置及びArF液浸露光装置の間では,半導体メーカーにとっての代替性がない。したがって,「KrF露光装置」,「ArF露光装置」及び「ArF液浸露光装置」をそれぞれ商品範囲として画定した。

13. 露光装置メーカーは,世界全体において,実質的に同等の価格で露光装置を販売しており,内外の需要者である半導体メーカーは,内外の露光装置メーカーを差別することなく取り扱っている。

14. したがって,「KrF露光装置」,「ArF露光装置」及び「ArF液浸露光装置」それぞれについて,「世界全体」を地理的範囲として画定した。

 

(当事会社の地位及び競争の状況)

15. 世界におけるKrF光源の市場においては,サイマーが約60%のシェアを占め,HHIは約5300である。サイマーの競争事業者は,A社(国内メーカー)のみである(シェア約40%)。

16. 世界におけるArF光源の市場においては,サイマーが約75%のシェアを占め,HHIは約6300である。サイマーの競争事業者は,A社(国内メーカー)のみである(シェア約25%)。

17. 世界におけるKrF露光装置の市場においては,ASMLが約90%のシェアを占める。HHIは。約8300である。競争者としては,X社(国内メーカー,シェア約5%)及びY社(国内メーカー,シェア約0-5%)がある。

18. 世界におけるArF露光装置の市場においては,ASMLが約45%(第2位)のシェアを占め,HHIは約5100である。競争者としては,X社(国内メーカー,シェア約55%)がある。

19. 世界におけるArF液浸露光装置の市場においては,ASMLが約85%のシェアを占め,HHIは約7500である。競争者としては,X社(国内メーカー,シェア約15%)がある。

20. 前記15ないし19のいずれの市場についても,垂直型企業結合のセーフハーバー基準に該当しない。

 

(光源の取引における閉鎖性・排他性の問題等)

21. 前記17ないし19において言及したX社及びY社は,サイマーから相当程度のKrF光源又はArF光源の調達を行っている。本件統合により,サイマーとX社又はY社の取引の機会が奪われること又はASMLに比べてX社又はY社が取引上不利に取り扱われること(以下「投入物閉鎖」という。)により,X社又はY社が不利な立場に置かれ,市場の閉鎖性・排他性の問題が生じる可能性がある。

22. サイマーは,川上市場において高い市場シェアを占めており,かつ,競争事業者も少ないことから,前記21で述べたように市場の閉鎖性・排他性の問題が生じる場合には,前記11ないし14で画定した川下市場における競争に及ぼす影響が大きいものと考えられる。

23. もっとも,当事会社は,前記5のとおり,半導体メーカーがどの光源メーカーの光源を選択するかを決めており,投入物閉鎖を行った場合には,光源の収益源を失うだけでなく,半導体メーカーからの信用も失い,ASMLの露光装置の売上げにも影響を及ぼすこととなること,このために投入物閉鎖のインセンティブはないことなどを主張している。

24. このほか,「①半導体メーカーは,複数の光源を選択できることが価格競争や性能競争につながることから,本件統合後に投入物閉鎖が行われるようなことがあった場合でも,当事会社に対し光源メーカーの選択について意見を言うことができると述べていること,②当事会社の売上げの大部分が大手の半導体メーカー数社によるものであること,③半導体メーカーをはじめとする半導体業界全体のロードマップに基づいて露光装置や光源の開発が行われていること」が認められる。これらのことから,半導体メーカーは当事会社による投入物閉鎖に対して一定程度の牽制力を有していると考えられる。

25. [米ASMLが申し出た措置] 米ASMLは,投入物閉鎖に対する懸念について,次の措置を講じることを申し出た。

「① サイマーは,DUV光源について,公正,合理的かつ無差別的な事業条件の下に,既存の契約を尊重し,既存の契約に合致する形でX社及びY社と引き続き取引をする。

なお,EUV光源についても,本件統合後,サイマーは,公正,合理的かつ無差別的な事業条件の下に,業界の標準を尊重し,これに一致する形でX社及びY社と取引を行う。

サイマーは,X社及びY社との間で,合理的な条件の下で,かつ,DUV光源については従前のやり方と一致した形で共同開発活動を行う。

当事会社は,本件統合後5年間,毎年1回,前記措置の遵守状況を当委員会に報告する。

前記③の報告書は,独立した監査チームが作成し,当該監査チームの任命に当たっては,事前に当委員会の承認を得る。」

26. [独禁法上の評価]米ASMLが申し出た措置及び需要者からの競争圧力が一定程度働いていることを踏まえれば,本件統合による投入物閉鎖は生じないものと考えられる。

 

(露光装置の取引における閉鎖性・排他性の問題等)

27. 前記1516において言及したA社は,ASMLに対し,相当程度のKrF光源及びArF光源の販売を行っている。本件統合により,ASMLとA社の取引の機会が奪われること又はサイマーに比べてA社が取引上不利に取り扱われること(以下「顧客閉鎖」という。)により,市場の閉鎖性・排他性の問題が生じる可能性がある。

28. ASMLは,川下市場において高い市場シェアを占めており,かつ,競争事業者も少ないことから,前記27のとおり市場の閉鎖性・排他性の問題が生じるようなことがあった場合には,川上市場及び川下市場における競争に及ぼす影響が大きいものと考えられる。

29. 当事会社は,どの光源メーカーの光源を選択するかは半導体メーカーが決めており,顧客閉鎖のインセンティブはない等と主張している。

30. 半導体メーカーは,当事会社による顧客閉鎖に対して一定程度の牽制力を有していると考えられる。

31. [米ASMLが申し出た措置] 米ASMLは,顧客閉鎖に対する懸念について,次の措置を講じることを申し出た。

「① ASMLは,サイマー又はA社に対する光源の研究開発並びに光源の製品,部品及びサービスの発注において,品質,物流,技術,費用及び顧客の選好等の客観的かつ無差別的な基準に基づき,供給業者を決定する。

ASMLは,引き続き顧客が好む光源を選べるものとし,光源の供給に関する顧客の決定に不当にいかなる影響も与えないようにする。

ASMLは,光源の研究開発並びに光源の製品,部品及びサービスの発注に必要な情報をサイマー及びA社に実質的に同じタイミングで提供する。

当事会社は,本件統合後5年間,毎年1回,前記措置の遵守状況を当委員会に報告する。

前記④の報告書は,独立した監査チームが作成し,当該監査チームの任命に当たっては,事前に当委員会の承認を得る。」

32. [独禁法上の評価]ASMLが申し出た措置及び需要者からの競争圧力が一定程度働いていることを踏まえれば,本件統合による顧客閉鎖は生じないものと考えられる。

 

(秘密情報の入手)

33. 「光源メーカーと露光装置メーカーは,製品の開発・製造・販売に当たり,製品の開発に関する情報,製品の仕様に関する情報,顧客に関する情報等,様々な秘密情報を共有している。そのため,本件統合後,サイマーがASMLを通じて,ASMLとA社との間で共有されているA社の秘密情報を入手し,又は,ASMLがサイマーを通じて,サイマーとX社又はY社との間で共有されているX社又はY社の秘密情報を入手し得る可能性がある。川上市場及び川下市場ともに技術革新が頻繁であり,半導体メーカーによる一定程度の競争圧力が働いていることなどから,当事会社と競争事業者が協調的に行動する可能性は小さいと考えられるものの,当事会社が当該秘密情報を自己に有利に用いることにより,当事会社の競争事業者が不利な立場に置かれ,市場の閉鎖性・排他性の問題が生じる可能性がある。」

34. 「当事会社は,川上市場及び川下市場において高い市場シェアを占めており,かつ,競争事業者も少ないことから,当事会社間で競争事業者の秘密情報が共有され,市場の閉鎖性・排他性の問題が生じるようなことがあった場合には,川上市場又は川下市場における競争に及ぼす影響が大きいものと考えられる。」

35. [ASMLが申し出た措置] ASMLは,秘密情報の取り扱いについて次の措置を講じることを申し出た。

「① X社又はY社の秘密情報に関与しているサイマーの役員・従業員が,ASMLの役員・従業員に当該秘密情報を提供することを禁止し,当該役員・従業員に秘密保持契約を締結させる。

A社の秘密情報に関与しているASMLの役員・従業員が,サイマーの役員・従業員に当該秘密情報を提供することを禁止し,当該役員・従業員に秘密保持契約を締結させる。

前記①及び②の遵守のため,社内向け情報遮断プロトコル(秘密情報保護方針)を策定する。

当事会社は,本件統合後5年間,毎年1回,前記措置の遵守状況を当委員会に報告する。

前記④の報告書は,独立した監査チームが作成し,当該監査チームの任命に当たっては,事前に当委員会の承認を得る。」

36. 「米ASMLが申し出た措置を踏まえれば,本件統合により当事会社が競争事業者の秘密情報を入手することとはならないものと考えられる。」


 

 

[事例]

公取委・企業結合(平成29年度:事例2

日立金属による三徳の株式取得

判決集未登載

独禁法10

*垂直型企業結合

 

(概要)

1. 日立金属株式会社(以下「日立金属」といい,同社と既に結合関係が形成されている企業の集団を「日立金属グループ」という。)が,株式会社三徳(以下「三徳」といい,三徳と既に結合関係が形成されている企業の集団を「三徳グループ」という。また,日立金属と三徳を併せて「当事会社」といい,日立金属グループと三徳グループを併せて「当事会社グループ」という。)の株式に係る議決権を50%を超えて取得すること(以下「本件行為」という。)を計画した。

2. 「当事会社グループのうち,三徳グループは,ネオジム磁石合金の製造を行」い,「当事会社グループのうち,日立金属グループは,合金メーカーからネオジム磁石合金を調達し,ネオジム磁石の製造を行っている。」

3. 「ネオジム磁石合金は,レア・アースと呼ばれる希土類元素であるネオジム(Nd),プラセオジム(Pr)及びジスプロジウム(Dy)に鉄やホウ素等を加えた合金であり,ネオジム磁石の材料として使用されている。

 ネオジム磁石合金は,主にストリップキャスト法(SC法)と呼ばれる方法により製造される。SC法は金属を溶解させ,その溶湯を銅ロール上に注いで急冷凝固させる鋳造方法をいう。

 合金メーカーは,磁石メーカーから希土類の配合比率や冷却温度等について仕様の指定を受け,当該仕様に基づいて合金製造を行っている。他方,鋳造条件によって合金の組織の大きさや不純物の量といった組成が異なるため,合金メーカー側も製造方法についてノウハウを有しており,当該ノウハウは各社の機密事項になっている。」

4. 「ネオジム磁石は,希土類を原材料として製造される永久磁石であり,現在製造される磁石の中で最も磁力が強い磁石である。その磁力の強さから,自動車駆動用モーター,ハードディスクドライブ,エアコンのモーター,エレベーターの巻上機等に用いられている。ネオジム磁石は,ネオジム焼結磁石(以下「焼結磁石」という。)とネオジムボンド磁石(以下「ボンド磁石」という。)に大別される。

 焼結磁石は,SC法により製造されたネオジム磁石合金を粉砕し,強磁場をかけて成型し,焼結,熱処理を行うことにより製造する磁石である。一方,ボンド磁石は,ネオジム磁石合金を磁粉状にし,樹脂等と混合した後に成型固化するものである。一般的に,樹脂と混合する分,焼結磁石よりボンド磁石の方が磁力が弱く,耐熱性が低くなる一方,成型加工が容易であり,価格が低いという違いがある。」

 

(一定の取引分野)

5. 「ネオジム磁石合金は,ネオジム磁石の原料としてのみ用いられるものである。ネオジム磁石の原料として他に代替することができる合金は存在しないことから,他の合金との間に需要の代替性は認められない。また,ネオジム磁石合金と他の合金とでは,製造設備・工程が異なり,他の合金からネオジム磁石合金の製造に切り替えるためには,多額の設備投資費用を要することに加え,製造に当たってのノウハウも必要となることから,他の合金からネオジム磁石合金に製造を切り替えることは容易ではなく,他の合金との間に供給の代替性も認められない。

 次に,ネオジム磁石合金には,SC法による合金(以下「SC合金」という。)と,遠心鋳造法等,SC法以外の製造方法の合金(以下「他製法合金」という。)があり,当事会社グループ及び競争事業者のA社が主に製造するのはSC合金である。この点,他製法合金とSC合金とでは品質に違いがあり,最終需要者からネオジム磁石合金の製法について, SC合金か他製法合金かを指定されることもある。よって,SC合金と他製法合金とでは需要の代替性は限定的である。また,SC合金と他製法合金では製造設備や必要となる特許等が異なり,製造の切替えも容易ではないことから,供給の代替性も認められない。

 以上のことから,商品範囲を「SC合金」として画定した(以下,SC合金を単に「ネオジム磁石合金」と記載する。)。」

6. 「永久磁石には,ネオジム磁石以外の磁石も存在するが,ネオジム磁石と同程度の磁力を有する磁石は存在せず,他の磁石との間に需要の代替性は認められない。また,他の磁石とネオジム磁石とでは,製造設備や必要となる特許等が異なり,製造の切替えも容易ではないことから,供給の代替性も認められない。

 次に,焼結磁石とボンド磁石は品質や価格が異なっているが,最終需要者は両者を分けて仕様を指定することはなく,最終需要者の必要とする品質基準(磁束密度,保磁力等) を満たせばいずれも使用されていることから,焼結磁石とボンド磁石との間には一定の需要の代替性が認められる。

 以上のことから,商品範囲を「ネオジム磁石」として画定した。」

7.� 「ネオジム磁石合金について,日本国内において輸送上の制約はなく,地域によって価格が異なることもない。また,ネオジム磁石合金メーカーは,日本全国において,需要者である磁石メーカーに対してネオジム磁石合金を販売しており,磁石メーカーもネオジム磁石合金メーカーを地理的に区別することなく調達を行っている。

 この点,ネオジム磁石についても同様である。

 したがって,ネオジム磁石合金及びネオジム磁石それぞれについて,地理的範囲を「日本全国」として画定した。」

 

(競争に与える影響)

8. 「本件はネオジム磁石合金を川上市場,ネオジム磁石を川下市場とする垂直型企業結合に該当する。」

9. 「ネオジム磁石合金の製造販売業に関する当事会社グループ及び競争事業者の市場シェアは下表のとおりであり,HHIは約6,000,当事会社グループの市場シェアは約75 であることから,垂直型企業結合のセーフハーバー基準に該当しない。

 三徳グループ以外にネオジム磁石合金を外販している有力な競争事業者としては,市場シェア約20%のA社が存在する。

 なお,ネオジム磁石合金を内製し,自己消費している磁石メーカーもある。」

 

【平成28年度におけるネオジム磁石合金の市場シェア】

  ①三徳グループ 約75%,②A社 約20%,③輸入 0-5%(合計100%)

 

10.  「ネオジム磁石の製造販売業に関する当事会社グループ及び競争事業者の市場シェアは下表のとおりであり,HHIは約3,100,当事会社グループの市場シェアは約30%であることから,垂直型企業結合のセーフハーバー基準に該当しない

 日立金属グループ以外に,有力な競争事業者として市場シェア約40%のB 社及び約115%のC 社などが存在する。磁石メーカーには,ネオジム磁石合金を内製し自己消費しているメーカーと,ネオジム磁石合金を外部調達しているメーカーがある。」

 

【平成28年度におけるネオジム磁石の市場シェア】

B社 約40%,②日立金属グループ 約30%,③C社 約15%,④その他 約10%,⑤輸入 約0-5%(合計100%)

 

11. 「ネオジム磁石合金の供給拒否等」

投入物閉鎖を行う能力

  ネオジム磁石合金は,磁石メーカーからの仕様に基づき,オーダーメイドで製造される製品であり,新たなネオジム磁石合金の製造には一定期間が必要になる。磁石メーカーが三徳グループのみから調達しているネオジム磁石合金も一定数あり,当該ネオジム磁石合金については,容易に調達先を切り替えることができない状況にあると認められる。

 したがって,磁石メーカーが調達先の切替えを行うには少なくとも一定期間を要し,当事会社グループは投入物閉鎖を行う能力を有していると認められる。」

 「投入物閉鎖を行うインセンティブ

 日立金属グループの供給余力が相当程度あること,日立金属グループの最終需要者に販売するネオジム磁石の売上額が三徳グループのネオジム磁石合金の売上額全体よりも数倍大きいこと等に鑑みれば,投入物閉鎖により当事会社グループの利益が増加する可能性があり,当事会社グループは投入物閉鎖を行うインセンティブを有していると認められる。」

 「磁石メーカーには,ネオジム磁石合金を内製しているメーカーと外部調達しているメーカーがあり,前者は投入物閉鎖の影響を受けないが,後者は影響を受け,競争力を削がれる可能性がある。したがって,投入物閉鎖により,市場の閉鎖性・排他性の問題が生じる蓋然性が認められる。」

12. 「ネオジム磁石合金の購入拒否等」

 「顧客閉鎖を行う能力

 日立金属グループが,三徳グループ以外のネオジム磁石合金の製造販売業者に対して, ネオジム磁石合金の購入の拒否又は三徳グループとの取引と比較して不利な条件での取引

(以下,この行為を「顧客閉鎖」という。)を行うことにより,ネオジム磁石合金市場において市場の閉鎖性・排他性の問題が生じる可能性について検討する。

 川下市場における当事会社グループの市場シェアは約30%である。A社は,現在日立金属グループに対して相当量のネオジム磁石合金の販売を行っているが,顧客閉鎖がなされた場合に,合金を内製している磁石メーカーに対して販売先を切り替えることはできず, 合金を外部調達している磁石メーカーに対しても,切替えには一定期間を要する。また, ネオジム磁石合金はオーダーメイド品であり,日立金属向けに調達した原材料の中には, 他の磁石メーカー向けに用いることができないものもある。その結果,在庫の滞留や当面の設備稼働率の低下等により,コスト競争力が低下するおそれもある。

 したがって,当事会社グループは顧客閉鎖を行う能力を有していると認められる。」

 「顧客閉鎖を行うインセンティブ

 国内でネオジム磁石合金を外販している事業者は,三徳グループ及びA社の2社のみであるが,日立金属グループが顧客閉鎖を行い,A社が市場から排除されると,川上市場は当事会社グループのみとなる。また,三徳グループは十分な供給余力を有しており,日立金属グループが顧客閉鎖を行うことにより,三徳グループの設備稼働率を上げることも可能となる。このため,顧客閉鎖により当事会社グループの利益が増加する可能性があり, 当事会社グループは,顧客閉鎖を行うインセンティブを有していると認められる。」

 「以上のことから,顧客閉鎖により,市場の閉鎖性・排他性の問題が生じる蓋然性が認められる。」

13. 「本件行為後,三徳グループは日立金属グループを通じて,A社の合金販売価格,数量, 組成等の競争上センシティブな情報(秘密情報)を入手し得る。そして,三徳グループが当該秘密情報を自己に有利に用いることにより,A社が不利な立場に置かれ,市場の閉鎖性・排他性の問題が生じる蓋然性が認められる。」

14.  「本件行為後,日立金属グループは三徳グループを通じて,ネオジム磁石合金を外部調達している磁石メーカーの合金調達価格,数量,組成等の競争上センシティブな情報(秘密情報)を入手し得る。そして,日立金属グループが当該秘密情報を自己に有利に用いることにより,ネオジム磁石合金を外部調達している磁石メーカーが不利な立場に置かれ,市場の閉鎖性・排他性の問題が生じる蓋然性が認められる。」

15. 「以上のとおり,本件行為によって,投入物閉鎖又は顧客閉鎖が行われ,若しくは当事会社グループ間で川上市場・川下市場の競争事業者の秘密情報が共有されることで,市場の閉鎖性・排他性の問題が生じる蓋然性が認められる。」

16.「当事会社から,大要以下の問題解消措置(以下「本件問題解消措置」という。)を採る旨の申出を受けた。」

  ①「三徳は,磁石メーカーに対し,本件行為実行日から5年間,原材料費(本件問題解消措置申出時点において各磁石メーカーとの間の取引に適用される価格)及び加工費(各磁石メーカーとの間でそれぞれ合意する金額)の合計額にて,三徳が平成26年度ないし平成28年度の各年度において供給した数量の平均値を上限とする数量のネオジム磁石合金の供給を行う。

  ②「日立金属は,A社から,本件行為実行日から原則1年間,本件問題解消措置申出時点におけるA社との間の品種ごとの取引価格を上限とする価格にて,日立金属が平成26年度ないし平成28年度の各年度において供給を受けた数量の平均値を上限とする数量のネオジム磁石合金の供給を受ける。」

  ③「当事会社は,一方当事会社が有する競争事業者とのネオジム磁石合金及びネオジム磁石 の取引に係る価格,数量,組成等の非公知情報を他方当事会社に開示しない。 また,当事会社は,上記非公知情報について,他方当事会社の役職員がアクセスできないようにする措置を講じる。」

  ④「当事会社は,競争事業者とのネオジム磁石合金及びネオジム磁石の取引に係る非公知情報にアクセスする役職員に対し,当該情報を他方当事会社の役職員に開示しないよう周知し,かつ,本件問題解消措置を遵守すること,及び万一これに違反した場合には就業規則等に基づき懲戒処分の対象になり得ることを了解する旨の誓約書を提出させる。」

  ⑤「当事会社は,前記①の磁石メーカー及び合金メーカーとの取引内容並びに前記②の情報遮断措置の遵守状況について,本件行為実行日から原則として5年間,1年に1度,公正取引委員会に対して報告する。」

17. 競争事業者へのヒアリングの結果も踏まえると,前記第41の取引継続に係る措置が採られた場合,競争事業者の競争力が維持されるほか,将来投入物閉鎖・顧客閉鎖がなされた場合に取引先を切り替えられるだけの十分な準備期間が与えられるため,市場の閉鎖性・排他性の問題が生じないと考えられることから,当該措置は適切なものであると評価できる。また,前記第42の情報遮断措置が採られた場合,競争事業者の製品に係る情報が当事会社グループ内で共有されることはなく,川上市場又は川下市場において,市場の閉鎖性・排他性の問題が生じないと考えられることから,当該措置も適切なものであると評価できる。さらに,履行監視の観点から,定期報告は有効な措置であると認められる。」

18. 「当事会社が本件問題解消措置を講じることを前提とすれば,本件行為により,一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならない」。


 

 

[事例]

公取委・企業結合(平成30年度:事例6

ジェイエックス・メタルズ・ドイチェラント・ゲーエムベーハー(JX Metals Deutschland GmbH)によるエイチ・シー・スタルク・タンタラム・アンド・ニオビウム・ゲーエムベーハー(H.C.Starck Tantalum and Niobium GmbH)の株式取得判決集未登載

独禁法10

*垂直型企業結合

 

(概要)

1. タンタル製ターゲット材等の製造販売業を営むJX Metals Deutschland GmbH(本社ドイツ。以下「JXMD」といい,同社の最終親会社であるJXTGホールディングス株式会社(以下「JXTG」という。)と既に結合関係が形成されている企業の集団を「JXTGグループ」という。)が,タンタル粉等の製造販売業を営むH.C.Starck Tantalum and Niobium GmbH(本社ドイツ。以下「スタルクTaNb」といい,スタルクTaNb及びその子会社を「スタルクTaNbグループ」という。また,JXMDとスタルクTaNbを併せて「当事会社」といい,JXTGグループとスタルクTaNbグループを併せて「当事会社グループ」という。)の株式に係る議決権の100%を取得すること(以下「本件行為」という。)を計画した」。

2. 「タンタルを素材とするターゲット材がタンタル製ターゲット材である。」

(一定の取引分野)

3. 「タンタル粉及びタンタル製インゴット(以下,両者を合わせて「タンタル粉等」という。)には,ターゲット材向けのもののほか,コンデンサ向けなど他の用途向けのものも存在する。ターゲット材向けのタンタル粉等は,他の用途向けのタンタル粉等と比べて純度などの製品特性や、価格帯も異なるため,ターゲット材向けのタンタル粉等と他の用途向けタンタル粉等との間に需要の代替性はない。

 また,他の用途向けのタンタル粉等の供給業者が,ターゲット材向けタンタル粉等に容易に製造を転換できるとまでは認められないため,供給の代替性も限定的である。

 以上から,ターゲット材向けタンタル粉等と他の用途向けのタンタル粉等とは別の商品範囲を構成する。」

4. 「ターゲット材向けタンタル粉等は,不純物の含有量により,標準的なものと,より高純度なものに分類し得る。しかし,高純度品と標準品の差について一般的な基準はないほか,需要者においては,両者を代替的に使用することも一定程度可能である。

 以上から,純度の異なるターゲット材向けタンタル粉等は,同一の商品範囲を構成する。

 なお,スタルクTaNbグループは,比較的高純度のタンタル粉の製造を得意とするが,後記・・・の「本件行為が競争に与える影響」においては,このようなスタルクTaNbグループのタンタル粉の特徴も踏まえながら,市場の閉鎖性・排他性の問題が生じる可能性について検討を行う。」

 「以上のことから,商品範囲を「ターゲット材向けタンタル粉等」として画定した。」

5.「半導体の配線の素材によってターゲット材に用いられる金属は決まっており,タンタル製ターゲット材と他の素材のターゲット材との間に需要の代替性は認められない。

 また,他の素材のターゲット材の供給業者が,タンタル製ターゲット材に容易に製造を転換できるとまでは認められないため,供給の代替性も限定的である。

 以上のことから,商品範囲を「タンタル製ターゲット材」として画定した。」

6.「タンタルはレア・メタルであり,ターゲット材向けタンタル粉等について輸送上の制約はなく,重量に比して価格が高いという特徴がある。このため,輸送費が価格に占める割合は低く,輸送費が取引上の障壁とはなっておらず,国内外で価格差がほとんどみられない。また,供給者は需要者の所在する国を問わず取引をしており,需要者も,基本的に国内外の供給者を差別することなく取引している。

 この点,タンタル製ターゲット材についても同様である。

 以上から,ターゲット材向けタンタル粉等及びタンタル製ターゲット材について,「世界全体」を地理的範囲として画定した。」

 

(本件行為が競争に与える影響)

7.「本件はターゲット材向けタンタル粉等を川上市場,タンタル製ターゲット材を川下市場とする垂直型企業結合に該当する。」

8. 「平成29年度におけるターゲット材向けタンタル粉等JXTGの市場における当事会社グループ及び競争事業者の市場シェアは,本件行為に係る審査時点の事実に基づけば下表のとおりであり,HHIは約5,500,当事会社グループの市場シェアは約75%であることから,垂直型企業結合のセーフハーバー基準に該当しない。

 スタルクTaNbグループ以外にターゲット材向けタンタル粉等を販売している有力な競争事業者としては,市場シェア約20%のA社が存在する。」

 

【平成29年度におけるターゲット材向けタンタル粉等の市場シェア】 ①スタルクTaNb 約75%,②A社 約20%,③B社 0-5%,④C社 0-5%,⑤その他 0-5%(合計100%)

 

9. 「平成29年度におけるタンタル製ターゲット材の市場における当事会社グループ及び競争事業者の市場シェアは,本件行為に係る審査時点の事実に基づけば下表のとおりであり,HHIは約3,600,当事会社グループの市場シェアは約55%であることから,垂直型企業結合のセーフハーバー基準に該当しない。

 JXTGグループ以外に,有力な競争事業者として共に市場シェア約15%のD社及びE社が存在する。」

 

【平成29年度におけるタンタル製ターゲット材の市場シェア】①JXTGグループ 約55%,②D社 約15%,③E社 約15%,④F社 0-5%,⑤その他 約10%(合計100%)

 

10. 「投入物閉鎖を行う能力」:「ターゲット材向けタンタル粉等の市場におけるスタルクTaNbグループの市場シェアは約75%であるため,供給拒否等が行われた場合,特定のタンタル製プレート製造販売業者(X社)にとって他の調達先から同種同量のターゲット材向けタンタル粉等を調達することは容易ではない。特に,スタルクTaNbが得意とする純度の高いターゲット材向けタンタル粉については,開発・製造を行うために数年程度の期間が必要であるため,スタルクTaNbグループ以外の製造業者(A社等)に製造を依頼して当該製造業者に調達先を切り替えるのに少なくとも一定の期間を要すると認められる。

 したがって,当該タンタル製プレート製造販売業者(X社)からタンタル製プレートを調達している川下市場の競争事業者(D社等)も,必要なタンタル製プレートを確保するには少なくとも一定期間を要するため,供給拒否等が行われた場合には川下市場の競争事業者(D社等)の競争力が減退する可能性があり,当事会社グループは投入物閉鎖を行う能力を有していると認められる。」

11. 「投入物閉鎖を行うインセンティブ」:「当事会社グループは,ターゲット材向けタンタル粉等の供給拒否等を行った上でタンタル製ターゲット材の生産数量を増加させること等によって,当事会社グループの利益を増加させられる可能性があることから,投入物閉鎖を行うインセンティブを有していると認められる。」

12. 「以上から,当事会社グループには投入物閉鎖を行う能力及びインセンティブがあると認められ,投入物閉鎖により,市場の閉鎖性・排他性の問題が生じる蓋然性が認められる。」

13. 「現時点において,JXTGグループは必要なターゲット材向けタンタル粉等の大半をスタルクTaNbグループから調達しており,他社からのタンタル粉等の調達量は川上市場全体の約0-5%にとどまることから,当事会社グループに顧客閉鎖を行う能力はないと認められる。」

 

(問題解消措置)

14.「当事会社から,大要以下の問題解消措置(以下「本件問題解消措置」という。)を採る旨の申出を受けた。」

 ①「取引継続に係る措置

スタルクTaNbは,特定のタンタル製プレート製造販売業者(X社)との間で締結しているターゲット材向けタンタル粉の長期供給契約(以下「本件長期供給契約」という。)を以下のとおり変更する。

・本件長期供給契約の期間を相当期間延長する。期間満了後は,スタルクTaNb及び特定のタンタル製プレート製造販売業者(X社)のいずれかが,期間満了の1年前までに相手方に対し,契約終了を事前通知しない限り,1年間自動更新される。

・スタルクTaNbは,特定のタンタル製プレート製造販売業者(X社)に対し,本件長期供給契約の期間中,ターゲット材向けタンタル粉について,本件行為時に供給するのと同程度の数量を上限とする供給義務を負う。

・スタルクTaNbは,特定のタンタル製プレート製造販売業者(X社)に対し,特定

期日までの間,現在の本件長期供給契約に基づき決定された価格でターゲット材向けタンタル粉の供給を行う。当該期日以降は,前年の特定期日までに翌年の供給価格又はかかる価格の決定方法に関する交渉を開始し,決定する。特定期日から3か月以内に決定しない場合には,仲裁手続により決定する。

②「当事会社は,前記1の特定のタンタル製プレート製造販売業者(X社)との取引内容について,本件行為の実行から令和5年末まで,年1回,公正取引委員会に対して報告する。」

15. 「特定のタンタル製プレート製造販売業者(X社)及び川下市場の競争事業者(D社等) へのヒアリングの結果も踏まえると,前記・・・の取引継続に係る措置が採られた場合,当該措置が継続する間,特定のタンタル製プレート製造販売業者(X社)はスタルクTaNbグループから合理的な条件で十分な量のターゲット材向けタンタル粉の供給を受けることができ,特定のタンタル製プレート製造販売業者(X社)からタンタル製ターゲット材用プレートの供給を受ける川下市場の競争事業者(D社等)の競争力が維持される。また,その間に川上市場の競争事業者において高純度のターゲット材向けタンタル粉等の開発・製造を行うために十分な期間が確保されることになり,当該措置の終了後にスタルクTaNbグループによる供給拒否等が行われたとしても,特定のタンタル製プレート製造販売業者(X社)はその時点でターゲット材向けタンタル粉等の調達先を切り替えることが可能であり,市場の閉鎖性・排他性の問題が生じないと認められることから,当該措置は適切なものであると評価できる。

 さらに,履行監視の観点から,定期報告は有効な措置であると認められる。

 以上のとおり,本件問題解消措置により,市場の閉鎖性・排他性の問題は生じない。」

(結論)

「当事会社が申し出た本件問題解消措置を講じることを前提とすれば,本件行為により,一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと判断した。」 


 

 

[事例]

公取委・企業結合(平成24年度:事例1

大建工業株式会社によるCH株式会社の株式取得

判決集未登載

独禁法10

*垂直型市場閉鎖による競争への悪影響

 

1. 大建工業株式会社(以下「大建」という。また,大建を最終親会社とする企業結合集団を「大建G」という。)及びホクシン株式会社(以下「ホクシン」という。また,ホクシンを最終親会社とする企業結合集団を「ホクシンG」という。)は,床材等に用いられる中密度繊維板(以下「MDF」という。)等の木質材料の製造販売業及び木質材料等を部材とする内装建材等の製造販売業を営む。大建Gは,MDF(ただし,下記に定義する「PタイプのMDF」を除く。)を用いて床材等の内装建材を製造している。

2. CH株式会社(以下「CH」という。)は,ホクシンの100%出資子会社であり,ホクシン製品の全量を販売している。

3. 大建は,C&Hの株式を取得し議決権の過半数を取得すること(以下「本件株式取得」という。)及びホクシンの株式を取得し,議決権保有比率を約15%に引き上げることを計画した(以下,大建GとホクシンGを併せて「当事会社」という。)。

4. 関係法条は独禁法10条である。

(結合関係)

5. 本件株式取得により,CHは大建とホクシンの共同出資会社となり,大建とホクシンの間に間接的な結合関係が形成される。

6. 前記4に加えて,大建がホクシンの株式に係る議決権の約15%を保有し,両社間でMDFの製造等に係る業務提携関係が新たに構築されることから,本件株式取得に伴う一連の行為により,大建GとホクシンGの間に結合関係が形成されると考えられる。

7. したがって,本件株式取得により大建GとホクシンGの間に新たに結合関係が形成される。

(一定の取引分野)

8. MDFは,主に床材などの内装建材の部材として使用されており,内装建材メーカー等により購入される。MDFを部材とする内装建材は,ハウスメーカー等により購入される。

9. MDFのうち,厚さが55mm以下のものは「薄物」,厚さが55mm超のものは「厚物」とされている。薄物と厚物とでは,用途が異なっており,薄物(厚物)のMDFの価格が10%程度上昇した場合,厚物(薄物)のMDFに切り替える割合(数量ベース)は極めて低い。したがって,両者の間に需要者にとっての代替性は認められない。

10. 薄物と厚物とでは,主として用いられている製造方法が異なる。したがって,供給者にとっての代替性は一定程度存在するが,その程度は弱い。

11. MDFは,接着剤のタイプにより,Uタイプ,Mタイプ及びPタイプの3つに区分される。Uタイプ,Mタイプ,Pタイプの順に耐水性能が高くなる。

12. Uタイプ,Mタイプ及びPタイプは,それぞれ異なる用途に用いられており,需要者にとっての代替性は認められない。

13. Uタイプ,Mタイプ及びPタイプの間での供給者にとっての代替性について,現に同一の製造ラインでこれら複数のタイプを製造している場合には異なるタイプを製造することが可能であるが,そうでない場合には,異なるタイプを製造することは容易ではない。したがって,供給者にとっての代替性は限定的である。

14. PタイプのMDFについては,大建Gは製造販売を行っておらず競合関係は生じない。

15. MDFと他の木質材料(合板,パーティクルボード)の間では,需要者及び供給者にとっての代替性が認められない。

16. 以上から,「薄物UタイプのMDF」,「厚物UタイプのMDF」,「薄物MタイプのMDF」及び「厚物MタイプのMDF」を商品範囲として画定した。

17. 日本の需要者は,JISに定める品質を満たした製品を選好して購入しており,日本の需要者は海外の需要者とは性質が異なる。

18, したがって,「日本全国(日本全国の需要者向けの市場)」を地理的範囲として画定した。

(水平型企業結合の観点からの検討)

19. 前記のいずれの市場においても,競争制限効果が生じるおそれはないと認められる。

(垂直型市場閉鎖に係る検討:薄物MタイプのMDFについて)

20. 本件株式取得は,MDF専業メーカーであるホクシンGと内装建材メーカーである大建Gとの垂直型企業結合の側面を有する。

21. 薄物MタイプMDF市場において,当事会社は,本件株式取得後,約65%のシェアを有することになる。HHIは,5500である。競争事業者には,市場シェアが約35%のA社がある。MDFメーカーの設備稼働率はおおむね100%であり,操業時間の調整等による増産が可能ではあるものの,供給余力が十分にあるとはいえない。海外メーカー品は,ほとんど流通しておらず,これらでは必要な性能を確保できないとの意見がある。MDF製造設備の導入には多額の投資が必要であることなどの理由から,新規参入の可能性は低い。薄物タイプのMDFの価格が上昇したとしても,合板及びパーティクルボードに切り替える割合は低い。

22. 大建Gは,床材市場において有力な事業者であり,床材の製造について十分な供給余力を有する。このために,本件株式取得後には,ホクシンGMDFを優先的に自社で調達し,床材の生産量を増加させる能力とインセンティブを有すると考えられる。

23. 独立系床材メーカーの中には,技術上の理由などから,MDFの価格が上昇したりMDFの調達が困難となった場合であっても容易に合板に切り替えられることができない者がある。前記21に記した状況の中で,市場シェア約45%のホクシンGMDFについて垂直型市場閉鎖が行われれば,独立系床材メーカーが競争的な行動をとることが困難となると考えられる。

24. 独立系床材メーカーには,本件株式取得後,ホクシンGMDFが大建Gの内装建材部門に優先的に供給されることにより,ホクシンGMDFの自社への供給量が減少すること等を懸念する意見が多い(独立系床材メーカーに対するアンケートやヒアリングの結果による。)。

(大建が申し出た措置)

25. 大建は,次のような措置を講じることを申し出た。

「① 大建は,本件株式取得実行後5年間,CHが大建G(大建の製造委託先を含む。)以外の取引先(以下「外販先」という。)に対して販売する薄物MタイプのMDFに関し,CHをして,外販先に対し,価格・数量・納期・品質・規格(厚さ・寸法等)等の取引条件について,大建Gに対して供給する場合と実質的に同等かつ合理的な条件で引き合いに応じさせる。ただし,CHの事業年度ごとの外販先に対する販売数量(立方メートル単位)(以下「外販数量」という。)が,直近5事業年度の外販数量(事業年度当たり)の最大値を超える場合はこの限りではない。

大建は,本件株式取得実行後5年間,6か月に1回,CHの取引先ごとの薄物MタイプのMDFの販売実績(受注日・価格・数量・納期・品質・規格(厚さ・寸法等)等)について,当委員会に報告をする。」

26. 前記措置がとられれば,本件措置の実行期間中(5年間)については,独立系床材メーカーが競争的な行動をとることが困難となるおそれはないと考えられる。

27. 薄物MタイプのMDFを用いて特定の性質・性能を確保している独立系床材メーカーであっても,5年程度の期間をかければ,当該性質・性能を有する床材を,薄物MDFを用いることなく製造することは十分に可能であると認められる。したがって,本件措置終了後も独立系床材メーカーは引き続き競争的な行動をとることが可能であると認められる。

28. したがって,大建が申し出た措置を踏まえれば,本件株式取得による垂直型市場閉鎖は生じないと考えられる。

(垂直型市場閉鎖に係る検討:厚物MタイプのMDFについて)

29. 前記25と同様の措置をとることの申し出が大建からなされた。この措置を踏まえれば,本件株式取得による垂直型市場閉鎖は生じないと考えられる。

(垂直型市場閉鎖に係る検討:薄物・厚物UタイプのMDFについて)

30. 当事会社の合算市場シェアがそれぞれ約50%となり,MDFメーカーには供給余力が十分にはないが,有力な競争事業者が23社存在し,海外メーカー品からの競争圧力が一定程度あり,合板及びパーティクルボードが代替的に用いられており間接的な隣接市場からの競争圧力が働いている。

31. 垂直型市場閉鎖の懸念については,需要者が当事会社からUタイプのMDFを調達することが困難となったとしても,当事会社以外にもUタイプを製造するMDFメーカーが23社存在すること,海外メーカー品で代替することも一定程度可能であることから,本件株式取得によりUタイプのMDFを使用する内装建材メーカーが競争的な行動をとることが困難となるおそれはないと認められる。


 

 

[事例]

公取委・企業結合(平成29年度:事例4

ブロードコム・リミテッドとブロケード・コミュニケーションズ・システムズ・インクの統合

判決集未登載

独禁法10条・15

*混合型企業結合

 

(概要)

1. 「半ブロードコム・リミテッド(本社米国。以下「ブロードコム」といい,ブロードコムを最終親会社とする企業結合集団を「ブロードコムグループ」という。)の子会社と・・・ブロケード・コミュニケーションズ・システムズ・インク(本社米国。以下同社を「ブロケード」といい,ブロケードを最終親会社とする企業結合集団を「ブロケードグループ」という。また,ブロードコムグループとブロケードグループを併せて「当事会社グループ」という。)が,ブロケードを存続会社として合併した後,ブロケードの株式をブロードコムの他の子会社が全部取得すること(以下「本件行為」という。)を計画した」。

2. 「ブロケードグループはFCSAN スイッチを製造販売しており,ブロードコムグループはFCHBAを製造販売している。」

3. 「通信ネットワークにおいて,データを外部記憶装置(以下「ストレージ」という。)に書き込む,又はストレージからデータを読み出すためには,サーバーとストレージは何らかの結線により接続される必要がある。サーバーとストレージが高速のデータ通信ネットワークにより接続されている構成はストレージエリアネットワーク(以下「SAN]」という。)と呼ばれており,ネットワークとしてファイバーチャネルが使用されているものをファイバーチャネル・ストレージエリアネットワーク(Fibre Channel Storage Area Network)(以下「FCSAN」という。)といい,イーサネットを用いたインターネット・プロトコルネットワークにより接続されているものをIPSANという。」

FCSANは,FCSANスイッチを通じて,ファイバーチャネル・ホストバスアダプター(Fibre������������� Channel Host Bus Adapter)(以下「FCHBA」という。)が搭載されたサーバーをストレージに接続するための専用ネットワークである。」

FCSANスイッチは,FCSANを構成する際に必要となる中継装置であり,FCSANスイッチに複数のサーバーとストレージがファイバーチャネル・ケーブルで接続される。」

FCSANにおいて,サーバーとストレージを接続するためには,FCSANスイッチのほか,一般に「カード」とも呼ばれるFCHBAをサーバーのポートに搭載する必要がある。FCHBAは主にホストサーバーに搭載されており,データの出入力の処理等を行う。」

(一定の取引分野)

4. FCSANスイッチサーバーとストレージをFCSANにより接続するためには,FCSANスイッチが必要であり,IPSANでは「IP/イーサネット・ネットワーキングルータ及びスイッチ」が用いられている。

 FCSANスイッチとIP/イーサネット・ネットワーキングルータ及びスイッチでは機能が異なり,代替して使用することはできないことから,需要の代替性は認められない。また,FCSANスイッチとIP/イーサネット・ネットワーキングルータ及びスイッチの製造設備は異なっており,製造設備の切替えは容易ではないことから,供給の代替性も認められない。

 以上から,本件では,「FCSANスイッチ」を商品範囲として画定した。」

5. FCHBAサーバーとストレージをFCSANにより接続するためにはFCHBAをサーバーに搭載する必要があり,IPSANによる接続には一般的にインターネット・スモールコンピュータシステム・インターフェース(以下「iSCSI」という。)HBAがサーバーに接続される。

 FCHBAiSCSIHBAでは機能が異なり,代替して使用することはできないことから,需要の代替性は認められない。

 また,FCHBAiSCSIHBAの製造設備は異なっており,製造設備の切替えは容易ではないことから,供給の代替性も認められない。

 以上から,本件では,「FCHBA」を商品範囲として画定した。」

6. 「「FCSANスイッチ」及び「FCHBA」のいずれについても,輸送上の制約はなく,製品価格に占める輸送費,関税等の割合が低いことから,国内外で価格差がほとんどみられない。また,供給者は需要者の所在する国を問わず取引しており,需要者も国内外の供給者を差別することなく取引している。以上から,「世界全体」を地理的範囲として画定した。」

 

(競争に与える影響)

7.「ブロケードグループが製造販売するFCSANスイッチ及びブロードコムグループが製造販売するFCHBAは,共通の需要者であるサーバーの製造販売業者らに販売されていることから,本件は混合型企業結合に該当する。」

8.FCHBA市場における当事会社及び競争事業者の市場シェアは下表のとおりであり, HHIは約5,000,当事会社の市場シェアは45%である。」「FCHBA市場においては,市場シェア約55%のC 社が存在しており,また,FCHBAの製造販売業者2社の製品には大きな性能差はなく,多少の使い勝手の差がある程度である。」

【平成27年におけるFCHBAの市場シェア】

① C社 約55%,② ブロードコムグループ 約45% ③ その他 05

(合計100%)

9.FCSANスイッチについては,HHIは約5,800,当事会社の市場シェアは約75%である。FCSANスイッチ市場には市場シェア約25%のB社が存在するものの,ブロケードグループはFCSANスイッチの開発に関してB 社のFCSANスイッチよりも先行している。したがって,混合型企業結合のセーフハーバー基準に該当しない。」

【平成27年におけるFCSANFスイッチの市場シェア】

① ブロケードグループ 約75% ②B 社 約25% ③その他0-5% (合計100%) 

10.FCSANスイッチ市場の閉鎖性・排他性の検討

 グループは,本件行為により,ブロケードグループ製FCSANスイッチでしか使用できない仕様のブロードコムグループ製FCHBAを製造販売する,又はブロケードグループ製FCSANスイッチでしか100%の性能を発揮できない仕様のブロードコムグループ製FCHBAを製造販売することにより,FCSANスイッチ市場において市場の閉鎖性・排他性の問題が生じる可能性がある。

 しかしながら・・・FCHBA市場には約55%の市場シェアを有するC社がおり,一定程度の供給余力を有している状況に加え,FCHBAは製品により多少の使い勝手の差はあるものの,需要者は,主に価格でFCHBAの調達先を決定しており,調達先をC 社に変更することに支障はない。

 以上のことから,FCSANスイッチ市場の閉鎖性・排他性の問題は生じないと認められる。」

11. FCHBA市場の閉鎖性・排他性の検討

 当事会社グループが,本件行為により,ブロードコムグループ製FCHBAでしか使用できない仕様のブロケードグループ製FCSANスイッチを製造販売する,又はブロードコムグループ製FCHBAでしか100%の性能を発揮できない仕様のブロケードグループ製FCSANスイッチを製造販売することにより,FCHBA市場において市場の閉鎖性・排他性の問題が生じる可能性について検討する。」

①「市場閉鎖を行う能力・インセンティブ

 FCSANスイッチ市場では,ブロケードグループが大きな市場シェアを有している状況にあり,また,B 社のFCSANスイッチがブロケードグループ製FCSANスイッチと同程度の性能を有するようになるには一定の期間が必要となることから,FCSANに係る次世代製品が発売される際には,ブロケードグループが中心となり,ブロケードグループのFCSANスイッチとブロードコムグループ及びC 社のFCHBAとの接続テスト等を行い,接続性を確保した上でリリースされる。

また,需要者は,FCHBAの調達先を変更するよりもFCSANスイッチの調達先を変更する方が費用等の観点から困難であり,一般的にFCSANスイッチの調達先を変更しない傾向にある。

 このような状況から,仮に,ブロードコムグループ製FCHBAでしか使用できない仕様のブロケードグループ製FCSANスイッチを製造販売する,又はブロードコムグループ製FCHBAでしか100%の性能を発揮できない仕様のブロケードグループ製FCSANスイッチを製造販売した場合,C社のFCHBAが不利な立場に置かれる可能性があり,特に次世代製品については,ブロケードグループ製FCSANスイッチとの接続性がない又は十分な接続性が発揮できなければ,需要者はC 社製のFCHBAを購入することはないと考えられる。

 したがって,当事会社はFCHBA市場を閉鎖する能力を有していると認められる。また,FCHBA市場を閉鎖することにより当事会社は利益を増加させることが可能となることから,当事会社はFCHBA市場を閉鎖するインセンティブを有していると認められる。」

 

⓶「競争事業者のFCHBAに関する秘密情報の入手

 ・・・FCSANに係る次世代製品が発売される際には,ブロケードグルー プが中心となり,ブロケードグループのFCSANスイッチとブロードコムグループ及 C社のFCHBAとの接続テスト等を行い,接続性を確保した上でリリースされてい るが,その過程で,ブロケードグループはC社との間で相互に製品計画等を共有し,FCSANスイッチとFCHBAとの接続性を確保するための秘密情報等を共有している。

 このため,本件行為により,ブロードコムグループがブロケードグループを通じてC 社のFCHBAに関する秘密情報を入手するなどして,FCHBA市場の競争において, 当事会社グループがC社より優位に立つ可能性がある。」

 

「以上のとおり,当事会社グループがFCSANスイッチの仕様を当事会社グループ以外のFCHBAに対して閉鎖的なものとすること及び競争事業者のFCHBAに関する秘密情報を共有することにより,FCHBA市場の閉鎖性・排他性の問題が生じる蓋然性が認められる。」

12. 「当事会社グループから以下の問題解消措置(以下「本件問題解消措置」という。)の申出があった。

①当事会社グループのFCSANスイッチと競争事業者のFCHBAとの間の接続性の確保及び差別禁止

 当事会社グループは,競争事業者の技術的な制約により接続性の確保が困難となる場合を除き,競争事業者のFCHBAと当事会社グループのFCSANスイッチとの間で接続性を確保するものとし,確保される接続性は,当事会社グループのあらゆる開発段階におけるFCSANスイッチとFCHBA間の接続性と同程度のものとする。

 当事会社グループは,FCHBAの競争事業者に対し,あらゆる開発段階において,当事会社グループのFCSANスイッチ事業が当事会社グループのFCHBA事業に対して提供するのと同程度の支援-競争事業者のFCHBAと当事会社グループのFCSANスイッチが接続可能となるよう,当事会社グループはFCHBAの競争事業者に対して,開発サイクルのあらゆる段階において,製品のシュミレーション,技術テスト,検証及び保証等並びに製品リリース後のサポート活動を行う。-を,リードタイムの差を設けることなく提供する。また,当事会社グループは競争事業者のFCHBA事業を不利にする目的で,当事会社グループのFCSAN スイッチを設計若しくは開発すること又は当事会社のFCSANスイッチに変更等を加えることはしない。

⓶競争事業者のFCHBAに関する秘密情報の保護

i) 当事会社グループによる保証

当事会社グループが競争事業者のFCHBAに関する秘密情報を厳格に秘密情報として扱い,自社のFCHBA事業を有利にするために用いない等

ii) 当事会社グループによる情報遮断措置

当事会社グループのFCHBAの設計及び開発に関する活動を,FCHBAの競争事業者に対する当事会社グループの支援と物理的に隔離する等

① 定期報告

当事会社グループは,公正取引委員会の承認が得られた日から10年間にわたり,公正取引委員会に対して,2年に1度,独立した第三者(監視受託者)が監視する前記1及び2の遵守状況を報告する。

13. FCHBAの競争事業者は,FCHBAの製造販売に当たりブロケードグループの FCSANスイッチとの接続が必須であり,本件行為後においてもFCHBAの製造販売業者が従前どおりの条件でブロケードグループのFCSANスイッチと接続が行える環境が必要となる。

 ①当事会社グループのFCSANスイッチと競争事業者のFCHBAとの間の接続性及び差別禁止

当事会社グループはFCSANスイッチ及びFCHBAの製品開発のあらゆる段階において,当事会社グループのFCHBAと同程度の接続性を競争事業者のFCHBAについても確保し,その支援等を行うものである。本件問題解消措置により,競争事業者のFCHBA が当事会社グループのFCHBAに比べて不利な影響を受けることとはならないことから, 有効な措置であると認められる。

②競争事業者のFCHBAに関する秘密情報の保護

競争事業者のFCHBAに関する情報が秘密情報として扱われ,当事会社グループの製品開発等を行う部門と競争事業者のFCHBAとの接続性を確認等する部門とが遮断等されるものであり,当事会社グループ自身のFCHBA事業を有利にする又は他のFCHBAの競争事業者が不利な影響を受けることを防止する有効な措置であると認められる。

定期報告

FCSANスイッチ及びFCHBAについては,次世代製品の開発サイクルが少なくとも2年以上必要であること,一度上市された製品について当事会社グループが事後的に接続性を低下させることは容易ではないことから,2年に一度の定期報告は履行監視の観点から, 有効な措置であると認められる。」

14. 「当事会社グループが本件問題解消措置を講じることを前提とすれば,本件行為により,一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならない」。


 

 

[事例]

公取委・企業結合(平成-年度:事例3

クアルコム・リバー・ホールディングス・ビーブイによるエヌエックスピー・セミコンダクターズ・エヌブイの株式取得

判決集未登載

独禁法10

*混合型企業結合

 

1.「半導体の製造販売業を営むクアルコム・インコーポレーテッド(本社米国。以下, 同社が属する企業結合集団を「クアルコム」という。)の子会社であるクアルコム・リバー・ホールディングス・ビーブイが,半導体の製造販売業を営むエヌエックスピー・セミコンダクターズ・エヌブイ(本社オランダ。以下,同社が属する企業結合集団を「NXP」といい, クアルコムとNXPを併せて「当事会社」という。)の株式に係る議決権を50%を超えて取得すること(以下「本件行為」という。)を計画した」。

2. 「当事会社は,いずれも半導体の製造販売業を営む会社であり,当事会社が製造販売する特定の商品間で水平関係及び混合関係にあるものが多数存在する」が,半導体の一種である,ベースバンドチップ,NFCチップ及びSEチップについて「競争に与える影響が比較的大きいと考えられる」。

3. 「ベースバンドチップは,スマートフォン,携帯電話,タブレット等の携帯端末(以下「携帯端末」という。)と基地局等のネットワークとの間で音声・データ通信を行うための半導体であり,主に携帯端末に搭載される。」

4. NFC (Near Field� Communication)は,一般的に13.56MHzの周波数を利用する近距離無線通信技術である。NFCチップは,NFC無線通信規格に対応した複数の機器を接触させる又は10㎝以内の距離に近づけることによってデータ通信を可能とする半導体である。NFCチップは,搭乗券リーダー,クレジットカードリーダー,セキュリティカード等に搭載されることがあるが,電子決済等を可能にするために携帯端末にも搭載されることがある。

 日本では,携帯端末で電子決済を可能にするための技術としてFeliCaが事実上の標準として普及していることから,通信キャリアが作成する携帯端末の仕様において,FFeliCaに準拠したNFCチップ(以下「FeliCa準拠NFCチップ」という。) を携帯端末に搭載することが必要とされている。よって,携帯端末メーカーは,日本国内で販売するための携帯端末には,FeliCa準拠NFCチップを搭載している。NFC チップをFeliCaに準拠させるには,当該技術に準拠したNFCチップの製造販売に関するライセンス事業等を行う事業者からのライセンスを受けなければならない。

 また,携帯端末メーカーは,FeliCa準拠NFCチップについても通信キャリアが作成した仕様を満たす製品を選定するが,各NFCチップメーカーのFeliCa準拠NFCチップの間で機能・性能や品質等に大きな差はないため,価格によって調達先を決めている。

 当事会社のうちNXPNFCチップを製造販売しており,従来,NXPNFCチップはFeliCaに準拠していなかったが,近年,NXPFeliCa準拠NFCチップが,日本で販売される一部の携帯端末に搭載されるようになった。」

5. SESecure Element )チップは,NFCチップとの組合せで使用され, 電子決済を安全に行うことを目的として,個人情報や暗証番号といった機密データを暗号化することでNFC通信の安全性を担保する半導体である。携帯端末でNFCチップを使った電子決済を行う際には,SEチップを組み合わせることが一般的であり,SEチップは,SIMカード又はSDメモリーカードにも搭載されることがある。

 前記(2)のとおり,日本では,携帯端末で電子決済を可能にするための技術としてFeliCaが主流となっており,携帯端末で電子決済を実現するためには,NFCチップのみならずSEチップもFeliCaに準拠させる必要がある。

 また,携帯端末メーカーは,FeliCaに準拠したSEチップ(以下「FeliCa準拠SEチップ」という。)についても通信キャリアが作成した仕様を満たす製品を選定するが,各SEチップメーカーのFeliCa準拠SEチップの間で機能・性能や品質等に大きな差はないため,価格によって調達先を決めている。

 当事会社のうちNXPSEチップを製造販売しており,前記(2)同様,近年,NXPFeliCa準拠SEチップが,日本で販売される一部の携帯端末に搭載されるようになった。」

 

(一定の取引分野)

6. 「各種ベースバンドチップは,各種通信方式,UEカテゴリ及びキャリアアグリゲーションへの対応状況,同時に搭載されるアプリケーションプロセッサの性能等の要素によって機能・性能が異なることから,各種ベースバンドチップ間に需要の代替性は認められない。他方,いずれのベースバンドチップも,無線通信やデジタル信号を制御するという基本的な性能は同様であり,各ベースバンドチップメーカーは基本的に各種ベースバンドチップを製造することができることから,各種ベースバンドチップ間に供給の代替性は一定程度認められる。

 以上から,本件では,「ベースバンドチップ」を商品範囲として画定した。

 なお,特にクアルコムのベースバンドチップは高機能・高性能であり,CDMAネットワーク対応のベースバンドチップを供給することができるのは実質的にクアルコムだけであるが,後記第3「本件行為が競争に与える影響」においては,これらクアルコムのベースバンドチップの特徴も踏まえながら,市場の閉鎖性・排他性の問題が生じる可能性について検討を行う。」

 

7. NFCチップについては,前記12)のとおり,日本では,FeliCa準拠NFCチップを携帯端末に搭載することが必要とされている。この点,FeliCa準拠NFCチップと「FeliCaに準拠していないNFCチップ」では,いずれも13.56MHzという同じ周波数を利用していること,近距離無線通信を使った決済など実現可能な機能は同じであること等の共通点はあるものの,それぞれの準拠する技術の開発を主導している事業者は異なり,携帯端末に搭載するためには,当該事業者からソフトウェアの提供を受ける必要がある。また,それぞれのNFCチップを搭載した携帯端末を利用するための読み取り機械・端末も異なる。これらの事情から,日本国内で携帯端末を使って決済機能を利用しようとする場合,携帯端末にFeliCa準拠NFCチップを搭載する必要があり, FeliCa準拠NFCチップを「FeliCaに準拠していないNFCチップ」と代替的に用いることはできない。

 したがって,FeliCa準拠NFCチップと「FeliCaに準拠していない NFCチップ」の間には需要の代替性は認められない。

 また,FeliCa準拠NFCチップと「FeliCaに準拠していないNFCチップ」のハードウェア部分に係る設計・製造のノウハウは同様であるものの,前記のとおり,それぞれの準拠する技術の開発を主導している事業者が異なり,当該事業者から提供されるソフトウェアが異なるため,それぞれの通信技術について異なるライセンス制度が設けられ,時間的・経済的コストを掛けてライセンスを受けない限りそれぞれの通信技術に準拠したNFCチップを製造することはできない。

したがって,FeliCa準拠NFCチップと「FeliCaに準拠していないNFC チップ」の間には供給の代替性は認められない。

 以上から,本件では,「FeliCa準拠NFCチップ」を商品範囲として画定した。」

8. SEチップは,NFCチップと併せて使用されるため,SEチップもNFCチップと同一の技術に準拠する必要がある。日本では,前記1(3)のとおり,携帯端末で電子決済を実現するためには,NFCチップの場合と同様,SEチップもFeliCaに準拠させる必要がある。よって,NFCチップと同様,携帯端末メーカーは日本国内で販売するための携帯端末にはFeliCa準拠SEチップを搭載しており,FeliCa準拠SEチップを「FeliCaに準拠していないSEチップ」と代替的に用いることはできない。

 したがって,FeliCa準拠SEチップと「FeliCaに準拠していないSEチップ」の間には需要の代替性は認められない。

 また,FeliCa準拠SEチップと「FeliCaに準拠していないSEチップ」のハードウェア部分に係る設計・製造のノウハウは同様であるものの,NFCチップと同様,それぞれの通信技術について異なるライセンス制度が設けられ,時間的・経済的コストを掛けてライセンスを受けない限りそれぞれの通信技術に準拠したSEチップを製造することはできない。

したがって,FeliCa準拠SEチップと「FeliCaに準拠していないSEチップ」の間には供給の代替性は認められない。

 以上から,本件では,「FeliCa準拠SEチップ」を商品範囲として画定した。」

 9.「前記2で画定したベースバンドチップ,FeliCa準拠NFCチップ及びFeliCa 準拠SEチップは,輸送費,関税等がほとんど掛からず,世界中で同一水準の価格で販売されている。また,需要者である携帯端末メーカーは国内外の供給者を差別することなく取引しており,供給者も需要者の所在する国を問わず取引している。したがって,「世界全体」を地理的範囲として画定した。」

 

(競争への影響)

10.「クアルコムが製造販売するベースバンドチップと,NXPが製造販売するFeliCa準拠NFCチップ又はFeliCa準拠SEチップ(NFCチップとSEチップが統合したものを含む。以下,これらをまとめて「FeliCa準拠NFCSEチップ」という。)は,共通の需要者である携帯端末メーカーに販売されていることから,本件は混合型企業結合に該当する。」

ベースバンドチップの製造販売業に関する当事会社及び競争事業者の市場シェアは下表のとおりであり,HHIは約3,400,当事会社の市場シェアは約50%である。

FeliCa準拠NFCチップ及びFeliCa準拠SEチップについては,それぞれの正確な市場シェアは不明である。このため,混合型企業結合のセーフハーバー基準に該当しないものとして検討する。

 

【平成28年におけるベースバンドチップ(自家消費分含む)の市場シェア】 ①クアルコム 約50%,②A社 約25%,③B社 約10%,④C社 約10%,⑤D社 0-5%,⑥E社 0-5%,⑦その他 0-5% (合計100%)

 

11. 「市場閉鎖を行う能力」:「NFCチップ及びSEチップについては,日本国内で販売するための携帯端末には,FeliCa準拠NFCSEチップを搭載することが必須となるが,FeliCa準拠NFCSEチップのメーカーには,NXPのほかに複数の事業者が存在しており,各事業者の製造販売するFeliCa準拠NFCSEチップについては,性能差はない。

 また,各事業者のFeliCa準拠NFCSEチップの製造ラインは逼迫しているものの,FeliCa準拠NFCSEチップと同じ製造プロセスの製品の製造を減らしてFeliCa準拠NFCSEチップの製造に切り替えることは可能であること等から, 供給余力は一定程度あると認められる。

 さらに,携帯端末メーカーにおいても,FeliCa準拠NFCSEチップの選択に際しては主に価格を重視して調達先を選定しており,調達先の切替えに障壁はないものと認められる。

よって,当事会社はベースバンドチップ市場を閉鎖する能力は有していないと認められる。」

 

12. 「市場閉鎖を行う能力」:「携帯端末メーカーの中には自社又は子会社でベースバンドチップの開発・製造を行っている事業者も存在するが,CDMAネットワークに対応する高機能・高性能なベースバンドチップを供給できるのは実質的にクアルコムだけである。よって,CDMAネットワークへの対応を求められる場合やクアルコムのベースバンドチップでしか実現できない機能・性能が求められる場合には,自社でベースバンドチップを開発することができる携帯端末メーカーも含め,他社製ベースバンドチップへの切替えは困難であり,クアルコム製ベースバンドチップを必要とする。

特に,日本国内においては,ほとんどの携帯端末にクアルコム製ベースバンドチップが搭載されており,日本の携帯端末メーカーは次のからの理由により,調達先についてクアルコムから競争事業者への切替えが困難な状況にある。

日本で販売される携帯端末のほとんどがハイエンドの携帯端末であり,当該携帯端末に搭載するベースバンドチップも高機能・高性能なベースバンドチップが求められる傾向にある。このような高機能・高性能なベースバンドチップを日本の携帯端末メーカーに供給することができる事業者は,クアルコムを含む23社に限られている。

日本の携帯端末メーカーは,自社でアプリケーションプロセッサを開発したり,アプリケーションプロセッサのみを調達することは困難であるため,携帯端末に搭載するベースバンドチップは,アプリケーションプロセッサが組み合わされ,一体となったものを調達している。このようなベースバンドチップとアプリケーションプロセッサが一体となったものを日本の携帯端末メーカーに供給することができる事業者は,上記23社のうちクアルコムのみである。

日本の携帯端末メーカーにとっては,サポート体制の整備状況がベースバンドチップメーカー選択の際の重要な要素となる。この点,クアルコムは日本国内においても十分なサポート体制を整備している。

 また,携帯端末メーカーがベースバンドチップの調達先の切替えを行う場合,携帯端末メーカーによる設計や試作を行った上で,通信キャリアへの配布を行い,通信キャリアによる実地での接続テストが必要となる。こうした切替えには,一般的に多額のコストが掛かり,最短でも1年半程度の期間が必要であるため,経済的・時間的困難を伴うこととなる。このため,携帯端末メーカーは,ベースバンドチップの調達先の切替えを躊躇する傾向にある。以上のことから,携帯端末メーカーにとっては,クアルコムから他社への切替えが困難な状況にあり,これは特に日本の携帯端末メーカーにとって顕著である。

 したがって,本件行為により,当事会社がベースバンドチップの仕様を当事会社以外のNFCSEチップメーカーに対して閉鎖的なものとすることにより,FeliCa準拠NFCSEチップ市場を閉鎖する能力を有していると認められる。」

 

13.「市場閉鎖を行うインセンティブ」:「ベースバンドチップとNFCチップ又はSEチップとの間においては,各製品がその設計上の目的を完全に達成できるように機能すること,すなわち接続性を確保する必要がある。ベースバンドチップは,携帯端末において主要な役割を果たしており,携帯端末メーカーはベースバンドチップの機能・性能等を重視して,ベースバンドチップの調達先を選定する。前記(1)のとおり,ベースバンドチップの切替えには,相当の経済的・時間的コストを要する。また,携帯端末メーカーの中には,クアルコム製ベースバンドチップが高機能・高性能であること等を理由に,クアルコム製ベースバンドチップからの切替えが困難な事業者がいる。

 このような状況において,仮に,当事会社のみで製品開発を行い,NXP製以外のFeliCa準拠NFCチップ・SEチップとの接続性を確保しないベースバンドチップの開発等が行われた場合,多くの携帯端末メーカーはNXP製以外のFeliCa準拠NFCSEチップを購入しなくなり,NXPのみから調達するようになる。このように,携帯端末メーカーが行うFeliCa準拠NFCSEチップの調達に当たり,当事会社以外からの購入を当事会社からの購入に振り替えさせることで,当事会社は利益を確保することが可能となる。

 したがって,当事会社は,FeliCa準拠NFCSEチップ市場を閉鎖するインセンティブを有していると認められる。

 「以上から,当事会社がベースバンドチップの仕様を当事会社以外のNFCSEチップメーカーに対して閉鎖的なものとすることにより,FeliCa準拠NFCSEチップ市場の閉鎖性・排他性の問題が生じる蓋然性が認められる。」

 

(問題解消措置)

14.「当事会社から以下の問題解消措置(以下「本件問題解消措置」という。)の申出があった。

クアルコムは,本件行為後8年間,全世界において,当事会社及び第三者の製品間の接続性のレベルを,クアルコムのベースバンドチップとNXPNFCチップ又はSEチップ(FeliCaに準拠したものとFeliCaに準拠していないものを含み,NFCチップとSSEチップが統合したものを含む。)の間において将来存在し得る接続性と同一に維持することを約束する。

クアルコムは,前記1の接続性を実現するため,第三者から書面での要請を受けた場合に必要な情報を提供する等,必要な措置を講じるものとする。

③定期報告

本件行為後8年間,クアルコムは当委員会に対し,最初の5年間は四半期毎に1回,それ以降は半年毎に1回,独立した第三者(監視受託者)が監視する本件問題解消措置の遵守状況を報告する。

本件行為後8年間,当委員会は,当事会社に対し,本件問題解消措置の効果的な履行を監視するために合理的に必要と認められる全ての情報を要請することができる。

上記にかかわらず,当委員会は,その職権により,本件問題解消措置において予定される期間を延長することができる。」

「当事会社が本件問題解消措置を講じることを前提とすれば,当事会社がベースバンドチップの仕様を当事会社以外のNFCSEチップメーカーに対して閉鎖的なものとすることはできないことから,FeliCa準拠NFCSEチップ市場の閉鎖性・排他性の問題は生じない。また,履行監視の観点から,定期報告は有効な措置であると認められる。」

(結論)

15.「当事会社が本件問題解消措置を講じることを前提とすれば,本件行為により,一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならない」。

 

 


 

 

[事例]

公取委・企業結合(平成25年度:事例7

中部電力(株)によるダイヤモンドパワー(株)の株式取得

判決集未登載

独禁法10

*混合型企業結合

 

1. 中部電力株式会社(以下「中部電力」という。)は,本件は,一般電気事業者である。一般電気事業者とは,一般の需要(参入が自由化された分野における需要を除いた家庭用等の電力の需要のことをいう。)に応じ電気を供給する事業を営むことについて経済産業大臣の許可を受けた者をさす。

2. ダイヤモンドパワー株式会社(以下「ダイヤモンドパワー」という。)は,自由化分野の需要者の需要に応じ電気を供給する事業を営むことについて経済産業大臣に届出をした者(特定規模電気事業者と呼ばれる。)である。

3. 中部電力は,ダイヤモンドパワーの株式を取得し,議決権の過半数を取得することを計画した(以下,計画されている株式取得を「本件株式取得」という。)。

4. 関係法条は,独占禁止法第10条である。

5. 「一定の取引分野」は,役務市場については「自由化分野の需要者向け電気小売業」及び「託送供給事業」(一般電気事業者が,その供給区域に保有する送配電網を利用して,特定規模電気事業者等からの委託に応じて,当該特定規模電気事業者等の指定する需要者に電気を供給する事業のこと)である。

6. 地理的市場は,自由化分野の需要者向け電気小売業については,「中部電力の供給区域」及び「東京電力の供給区域」であり,託送供給事業については「中部電力の供給区域」である。

7. 中部電力の供給区域における自由化分野の需要者向け電気小売業については,中部電力及びダイヤモンドパワーはそれぞれ事業を営んでおり,水平型企業結合にあたる。(以下略(結論:競争の実質的制限の蓋然性なし))

8. 中部電力の供給区域における託送供給事業においては,中部電力が市場シェアの100%を占める。中部電力の供給区域における自由化分野の需要者向け電気小売業においては,前記7のとおり,当事会社各々が事業を営む。前者の事業は川上市場,後者の事業は川上市場にあたり,本件株式取得は,垂直的企業結合にあたる。(以下略(結論:競争の実質的制限の蓋然性なし))

(混合型企業結合について)

9. 東京電力の供給区域における自由化分野の需要者向け電気小売業の市場において,ダイヤモンドパワーは約0-5%のシェアを占めるのに対して,中部電力は供給を行っていない。中部電力の供給区域における自由化分野の需要者向け電気小売業については,当事会社の市場シェアは合計して約100%である。

10. 本件株式取得は,混合型企業結合のセーフハーバー基準に該当しない。

11. 「混合型(地域拡大)企業結合による市場の閉鎖性・排他性」について,当事会社は,中部電力の供給区域における自由化分野の需要者向け電気小売業において約100%の市場シェアを有しており,「東京電力の供給区域及び中部電力の供給区域の双方で電気の供給を受ける需要者に対して,双方の供給区域における電気の供給を併せて行うことで,東京電力区域における自由化分野の需要者向け電気小売業における競争において優位となる可能性がある。」

12.  「しかしながら,中部電力は,東京電力区域への円滑な参入を目指して本件行為を計画しているところ,東京電力区域における自由化分野の需要者向け電気小売業においては約95%の市場シェアを有する東京電力が存在すること等から,当事会社が直ちに競争上優位になる可能性は極めて低いと考えられる。」したがって,混合型企業結合による市場の閉鎖性・排他性の問題は生じることはなく,本件株式取得により競争を実質的に制限することとはならないと判断した。

 


 

[事例(相談事例)]

企業結合・公取委(平成19年度:事例3

旭化成ケミカルズ(株)及び日本化薬(株)の産業用火薬事業の統合

判決集未登載

独禁法10条,16

*共同出資会社

 

(概要)

1. 旭化成ケミカルズ株式会社(以下「旭化成ケミカルズ」という。)は,自社で生産した産業用火薬を100%子会社である旭化成ジオテック株式会社を通じて販売している。

2. 日本化薬は,自社で生産した産業用火薬及び100%子会社である北洋化薬株式会社で生産した産業用火薬を100%子会社である株式会社カヤテックを通じて販売している。

3. 旭化成ケミカルズ及び日本化薬は,共同出資会社を設立して,これらの両社グループ会社を含め,産業用火薬事業を統合することを計画した。

4. 関係法条は,独禁法10条及び第16条である。なお,公取委事前相談終了後,会社分割の方法によって共同出資会社に統合された。公取委は「関係法条は独禁法10条及び第15条の2となるが,この統合方法の変更は,競争上の判断に実質的な影響を及ぼすものではない。」とした。

5. 産業用火薬には,爆薬と雷管の2種類がある。

6. 爆薬には,硝安油剤爆薬と,一般爆薬(含水爆薬及びダイナマイト)がある。

7. ANFO爆薬は,安価(一般爆薬の3分の1程度)で安全性に優れているが,耐水性に欠け,発破後有毒ガスが発生する等の性質がある。このため,ANFO爆薬が使用できない場合に一般爆薬が使用されている。

8. 含水爆薬とダイナマイトについては,破壊力等の性能及び価格は拮抗しており,安全性の配慮から含水爆薬への切替えが進んでいる。

9. 爆薬の製造設備は爆薬の種類ごとに異なっている。

(一定の取引分野)

10. ANFO爆薬は両当事会社が製造販売しているが,一般爆薬は販売についてのみ競争関係にある。ANFO爆薬の製造販売及び含水爆薬とダイナマイトを併せた一般爆薬の販売それぞれについて,商品範囲を画定した。

11. 産業用火薬は,いずれも全国で取引されており,これを限定する要因はないことから,地理的範囲を全国として画定した。

(一般爆薬について)

(市場シェア,競争の状況等)

12. 一般爆薬の市場における各社の市場シェアは,次のとおりである。

13. A社 約35%, 旭化成ケミカルズ  約30%,  日本化薬グループ  約30%,   G社(輸入品)  05%,  H社  05%  D社(輸入品)  05

14. 本件企業結合により,当事会社の合算市場シェア・順位は約60%・第1位となる。

15. 本件企業結合後のHHIは約4,500HHIの増分は約1,600である。

16. 競争業者の供給余力は当事会社の販売量に比して大きいものではない。

17. 一般爆薬は,土木・砕石用途における消費が多く,ゼネコン等が入札を行うことによって調達している。「すべてのユーザーに価格交渉力があるとまでは評価できない。」

18. 製造が容易なものではないことから,新規参入は容易ではない。

19. D社及びG社が海外製品を輸入販売しているものの,輸入圧力はほとんど存在しない。

(独禁法上の評価)

20. 「統合後のHHIは約4,500,当事会社のシェア・順位は約60%・第1位と非常に高くなり,HHIの増分も約1,600と高いところ,競争事業者の供給余力,新規参入圧力及び輸入圧力が認められず,ユーザーの価格交渉力も評価できないことから,当事会社の単独行動により一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなるおそれがあると考えられる。」

21. 「統合後のHHIは約4,500,当事会社とA社の2社で9割強ものシェアを占める状況となるところ,各社の供給余力,新規参入圧力及び輸入圧力が認められず,ユーザーの価格交渉力も評価できないことから,当事会社と競争事業者の協調的行動により一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなるおそれがあると考えられる。」

(問題解消措置)

22. 当事会社は,以下の措置を採ることを申し出た。

① A社を除く産業用火薬メーカー又は商社に対し,最低でも約1,000トン/年(市場シェア約10%相当分)の引取権を付与する。

② 更に引取権設定の要請があれば,最大約2,500トン/年(約25%相当分)まで(上記の1,000トン/年を含む。)の引取権を付与する。」

23. 「問題解消措置は構造的措置が原則であるが」,「競争事業者等に対して引取権を付与することで販売分野における新たな競争者の創出や現在の競争業者の地位の強化を図ることが可能であり,統合による問題の解消につながるものと考えられる。」「当事会社が申し出た措置が実施されれば,当事会社のシェアは・・・1025%」「下落し,統合後のHHIHHIの増分もそれぞれ小さくなる。」「また,A社以外の競争業者のシェアは数%にとどまっているため,これらのうちのいずれかに当事会社からの引取権を付与することとなれば,販売分野における当該競争事業者の地位を高めることとなる。また,引取権がメーカーではなく商社等に付与された場合であっても,新たな競争者を創出することとなる。以上から,この措置が確実に実施される場合には,本件統合により競争を実質的に制限することとはならないと考えられる。」

23. 当事会社が申し出た措置が確実に実施された場合には,本件統合により,一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと判断した。

 


 

  

[事例(相談事例)]

企業結合(平成21年度:事例3

三井金属鉱業(株)と住友金属鉱山(株)-による伸銅品事業の統合

判決集未登載

独禁法15条の2

*共同出資会社,間接結合

 

(概要)

1. 三井金属鉱業株式会社(以下「三井金属」という。)が,その営む伸銅品事業を,住友金属鉱山株式会社(以下「住友鉱山」という。)の子会社で同業を営む住友金属鉱山伸銅株式会社に統合することを計画した。

2. 関係法条は独禁法15条の2(吸収分割)である。

(一定の取引分野)

3. 本件行為により,当事会社は伸銅品事業を営むことを目的として,同業を営む会社に共同出資することとなり,当事会社間には共同出資会社(以下「本件共同出資会社」という。)を通じた結合関係が形成されることとなることから,伸銅品について,本件行為による競争上の影響が生じるものと考えられる。

4. 当事会社が競合する商品のうち,電気銅(電気銅地金)については,電気銅が伸銅品にとって不可欠の原材料であること,及び,電気銅の約40%は伸銅品に使用され,電気銅メーカーにとって伸銅品メーカーは重要な顧客となっていることから,電気銅と伸銅品は密接に関連する商品であると認められる。本件行為により,当事会社間で電気銅に係る情報が共有化されることで,電気銅について,競争上の影響が生じるものと考えられるため,独占禁止法上の検討を行う。

5. 地理的範囲については,いずれの商品についても,物流面による制約はなく,全国のユーザーに対して販売されていることから,日本全国を地理的範囲として画定した。

6. 伸銅品については,形状及び成分などにより,純銅条などを商品範囲として画定した。

7. 電気銅地金を商品範囲として画定した。

(本件行為が競争に与える影響)

8. 伸銅品については,いずれの市場についても,本件行為後のHHIの水準及び本件行為によるHHIの増分が水平型企業結合のセーフハーバー基準に該当することから,本件行為により,一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと判断した。

9. (電気銅地金について)

①本件行為により,当事会社の合算市場シェア・順位は約55%・第1位となる。

②本件行為後のHHIは約3,500HHIの増分は約1,400であり,水平型企業結合のセーフハーバー基準に該当しない。

③市場シェアが10%を超える有力な競争事業者が複数存在する。

④日本市場における輸入品のシェアは10%未満で推移している。ユーザーは,安定調達を優先して,輸送時間が掛かる海外メーカーよりも国内メーカーから購入しており,今後もこうしたユーザーの調達傾向に大きな変化があるとは考えにくく,輸入圧力は弱い。

⑤電気銅地金市場への新規参入に当たっては数百億円規模の巨額の投資が必要とされることから参入は容易ではなく,参入圧力は存在しない。実際,過去40年間新規参入はない。

⑥銅には他の素材に比べて電気伝導率が高い等の固有のメリットがあることから,必ずしもすべての用途において他の商品に代替されるわけではなく,隣接市場からの競争圧力は弱い。

⑦電気銅地金のユーザー(電線メーカー及び伸銅品メーカー並びにその顧客である電気機器メーカー及び自動車部品メーカー等)は大企業であるものの,過去の価格交渉の状況によれば,ユーザーの価格交渉力は必ずしも大きくないとみられる。したがって,需要者からの競争圧力は弱いものと認められる。

⑧前記の状況にかんがみれば,本件行為による当事会社間における電気銅地金に関する情報の共有化により,当事会社の単独行動又は当事会社と他の競争事業者との協調的行動によって,一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなるおそれがある。

(問題解消措置)

10. 前記の競争上の懸念を解消するため,当事会社から問題解消措置の申出があった。

①三井金属及び本件共同出資会社は,本件行為により,当事会社間で電気銅地金に関する情報が共有されることを防ぐため,情報遮断措置の設計,実行及び監視を責任を持って行う体制を構築すること

②三井金属及び本件共同出資会社は,電気銅に係る秘密情報(電気銅の研究,開発,製造,販売及びマーケティングに係る非公知の情報をいう。以下同じ。)に接する必要性のある者(以下「アクセス者」という。)がそれ以外の者に対して電気銅に係る秘密情報を開示又は漏洩すること及び目的外に使用することを禁止するとともに,アクセス者以外の者による電気銅に係る秘密情報へのアクセスを禁止し,パスワード管理,施錠管理等により,アクセス者以外の者によるアクセスを防止すること

③当事会社は,上記②に違反した者に対する懲戒事項を設けること

④当事会社は,PPCと本件共同出資会社との間で,一方の会社の役員である者(過去に役員であった者を含む。)を他方の会社の役員に選任しないこと及び一方の会社のアクセス者のうち電気銅に係る秘密情報を知得した者は,他方に出向又は転籍させないこと

11. (評価)本件行為における競争上の懸念は,本件行為によって当事会社間で電気銅地金に関する情報が共有化されることである。このような情報の共有化を防ぐためには,いずれかの当事会社の電気銅事業と伸銅品事業との間で情報遮断を徹底し,両事業の間の人的関係を制限することが必要である。したがって,当事会社が申し出た問題解消措置が確実に履行されれば,上記懸念は払拭されるものと評価できる。

[結論]

12. 当事会社が申し出た問題解消措置が確実に実施された場合には,本件行為による当事会社間の電気銅地金に関する情報の共有化により,当事会社の単独行動又は当事会社と他の競争事業者との協調的行動によって,一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならない。


 

 

[事例]

企業結合(平成30年度:事例7

(株)USEN-NEXT HOLDINGSによるキャンシステム(株)の株式取得

判決集未登載

独禁法10

*経営状況の考慮

 

1. 「音楽放送・配信業等を営む株式会社USENの最終親会社である株式会社USEN-NEXT HOLDINGS(以下「USEN」といい,同社と既に結合関係が形成されている企業の集団を「USENグループ」という。)が,同じく音楽放送・配信業等を営むキャンシステム株式会社(以下「キャンシステム」といい,同社と既に結合関係が形成されている企業の集団を「キャンシステムグループ」という。また, USENとキャンシステムを併せて「当事会社」,USENグループとキャンシステムグループを併せて「当事会社グループ」という。)の株式に係る議決権の全部を取得すること(以下「本件行為」という。)を計画した」。

2. 「関係法条は,独占禁止法第10条である。」

3. 「なお,当事会社グループは,業務店向け音楽放送・配信業及び個人向け音楽放送・配信業でそれぞれ水平関係にあるが,当事会社グループは主として業務店向け音楽放送・配信業を営んでおり,競争に与える影響が大きいと考えられたため,以下では業務店向け音楽放送・配信業について詳述する。」

[一定の取引分野]

4. 「業務店向け音楽放送・配信業とは,飲食店,小売店等の業務店に対して,電気通信用ケーブル,人工衛星又はインターネット回線を用いた方法により,直接,音楽を提供する事業である。

 一般的に,業務店向け音楽放送・配信業に係る契約は,一定期間の継続利用を原則としており,契約期間の満了前に需要者が解約を希望する場合には,一定額の違約金を支払うことが定められている。当事会社グループの業務店向け音楽放送・配信業に係る契約は,2年間の継続利用を原則とし,解約を希望する需要者は,解約希望日の前々月の末日までに解約の申入れを行わなければならないと規定し(以下,この規定を「2か月前通知条項」という。),利用期間が2年間に満たない場合は,満たない分の期間における利用料に相当する額を違約金として支払わなければならないと規定している(以下, この規定を「解約違約金条項」という。)。また,2年間の継続利用の満了日の1か月前までに需要者から解約の意思表示が行われなかった場合,2年間の継続利用を原則とした契約が自動的に更新されると規定している。」

5. 「業務店向け音楽放送・配信業によって提供される音楽は,主に,業務店における雰囲気作りのためのBGMとして利用される。音楽は著作権法上の著作物に当たり,営利を目的として利用する場合,需要者(業務店)において著作権者の許諾を得る手続(以下「著作権処理」という。)が必要となる。そのため,業務店向け音楽放送・配信業者は,通常,音楽を提供するだけでなく需要者(業務店)の著作権処理も代行している。一方,個人向け音楽放送・配信業によって提供される音楽は,個人の鑑賞のために利用され,需要者(個人)において著作権処理が不要であることから,個人向け音楽放送・配信業者は,需要者(個人)の著作権処理を代行していない。また,業務店向け音楽放送・配信業と個人向け音楽放送・配信業とでは利用料の価格帯が異なるほか,ほとんどの個人向け音楽放送・配信業によって提供される音楽は,契約上,需要者(個人)による営利を目的とした利用が禁止されている。

 これらのことから,業務店にとって業務店向け音楽放送・配信業の代わりに個人向け音楽放送・配信業を相互に代替的に使用することは困難である。

 また,業務店向け音楽放送・配信業者と個人向け音楽放送・配信業者は,競争事業者の顔ぶれが異なり,個人向け音楽放送・配信業者が,新たに業務店向け音楽放送・配信業を営むためには,著作権処理の代行に係るノウハウを取得する必要があること等から,容易に当該事業を開始できるとはいえない。

 したがって,「業務店向け音楽放送・配信業」を役務範囲として画定した。」

5. 「業務店向け音楽放送・配信業者は,日本全国に同等の価格,品質,内容等で音楽を提供しており,需要者は,所在地にかかわらず,日本全国の業務店向け音楽放送・配信業者から,同等の価格,品質,内容等で音楽の提供を受けることが可能である。したがって,「日本全国」を地理的範囲として画定した。」

 

[競争に与える影響]

6.� 「業務店向け音楽放送・配信業の市場シェアは,下表のとおりであり,本件行為後のHHIは約8,600HHI増分は約2,500であることから,水平型企業結合のセーフハーバー基準に該当しない。」

 

【平成28年度における業務店向け音楽放送・配信業の市場シェア】①USENグループ 約75%,キャンシステムグループ 約15%,A社 約5%,B社 0-5%,C社 0-5%,D社 0-5%,E社 0-5%,F社 0-5%,G社 0-5%,H社 0-5%,I社 0-5% (合計100%)[当時会社合計市場シェア・順位:約90%,第1位]

 

7. 「本件行為後における当事会社グループの合算市場シェアは約90%(第1位)であるのに対し,競争事業者の市場シェアは最大でもA社の約5%にとどまっており,競争事業者と当事会社グループとの市場シェアの格差は大きい。

 また,当事会社グループは,フルラインサービス(業務店向け音楽放送・配信業のビジネスモデルのうち,人気のある楽曲や知名度の高い楽曲からそうでない楽曲まで幅広い音楽を放送・配信するビジネスモデルに基づくサービスをいう。以下同じ。)を提供しており,料金も競争事業者より高額であるなど,当事会社グループが提供するサービスの内容が類似しているのに対し,競争事業者は,取り扱う楽曲が限られており,必ずしも人気のある楽曲や知名度の高い楽曲を取り扱っておらず,当事会社グループより料金が低額であるなど,当事会社グループと競争事業者の提供するサービスの内容の間には一定の差異がある。この点,需要者に対するヒアリングにおいても,多くの需要者は,当事会社グループ間のみで業務店向け音楽放送・配信業者を比較すると述べている。したがって,競争事業者からの競争圧力は限定的である。」

8. 「業務店向け音楽放送・配信業のうち業務店向け音楽放送業へ参入するには,電柱使用料や衛星回線使用料といった多額の費用が必要となる。一方,業務店向け音楽配信業に関しては,参入自体に多額の費用を要するものではなく,実際に過去数年間に参入した事業者も存在する。

 もっとも,当事会社グループのようにフルラインサービスを提供するには複数の大手レコード会社と契約し,楽曲使用料を支払う必要があるが,当事会社グループのように市場シェアの非常に高い事業者が既に存在しており,また,需要者が複数の供給者と取引することが想定されない中で,参入事業者が多額の楽曲使用料を回収できるだけの顧客を獲得することは容易ではない。実際に,過去の参入事業者は,著作権使用料の負担を伴わない(いわゆる「著作権フリー」の)楽曲を取り扱うなど,提供するサービスの内容が当事会社グループのものとは異なっている傾向にあり,競争圧力として限定的であることからも,近い将来において,十分な事業規模・内容で参入を計画する事業者が存在するとは認められない。したがって,参入圧力は限定的である。」

9. 「需要者である業務店にとって,業務店向け音楽放送・配信業により提供される音楽は, 事業を行う上で必ずしも必要なものではなく,価格・サービス等の利用条件が悪化した 場合には,その利用を止めることも可能である。実際,当事会社グループにおいても, 直近数年間の解約のうち需要者側の経費削減等を理由としたものが相当数存在してい る。したがって,需要者からの圧力が一定程度働いていると認められる。」

10. 「本件行為後に,当事会社グループが,単独行動により,業務店向け音楽放送・配信の価格を引き上げることに対するインセンティブの程度を測定するため,GUPPIの算定を行った。」

GUPPI とは,Gross Upward Pricing Pressure Index の略語であり,「グロス価格上昇圧力インデックス」などと訳される。当該インデックスの考え方は次のとおりである。

 一方の当事会社グループ(甲社)が価格の微小な引上げを行うとき,一部の顧客がもう一方の当事会社グループ(乙社)に流れる場合,乙社は追加的利益を得ることになる。この追加的利益は以下の式により計算される。

(乙社の追加的利益)=(甲社から乙社への転換率)(乙社の限界利益)

ここで,「甲社から乙社への転換率」とは,甲社が価格の微小な引上げを行った場合における,甲社の販売数量の減少分に占める乙社の販売数量の増加分の割合である。また,「乙社の限界利益」とは,乙社の商品を追加的に1単位販売したときに得られる利益を表している。

「乙社の追加的利益」は,企業結合後においてはそのまま当事会社グループの利益となる。したがっ て,この追加的利益の大きさは,企業結合後における甲社の価格引上げ圧力の大きさを表していると考えることができる。

 そして,甲社の GUPPI は「乙社の追加的利益」を「甲社の商品価格」で除したものとして定義され,同様に,乙社の GUPPI は「甲社の追加的利益」を「乙社の商品価格」で除したものとして定義される。よって,甲社(乙社)の GUPPI が大きければ,企業結合後に甲社(乙社)の価格を引き上げるインセンティブは大きいと評価し得る。

 なお,本件では,転換率は,当事会社グループから提出のあった解約情報に係るデータ等を用いて推定し,当事会社グループの限界利益は,当事会社から提出のあった財務データを用いて推定した。」

 「結果として,キャンシステムのGUPPI10%を超えるという比較的高い値になった。」

11. 「当事会社グループは,いずれもフルラインサービスを競争事業者より高額の価格帯で提供するなど,そのサービスの内容は類似しており,当事会社グループと同様のサービスを提供する競争事業者は存在しないことから,本件行為が実行された場合,当事会社グループはフルラインサービスをほぼ独占的に提供する事業者となる。また,需要者からの競争圧力は一定程度認められるが,参入圧力は限定的であり,経済分析の結果, キャンシステムのGUPPIも高い値となっている。」

 

[経営状況に関する主張と検討]

12. 「当事会社は,キャンシステムが実質的に債務超過に陥っており,企業結合がなければ近い将来において倒産し,市場から退出する蓋然性が高いこと,キャンシステムを企業結合により救済可能な第三者がUSENグループ以外に存在しないことから,本件行為により,業務店向け音楽放送・配信業における競争が実質的に制限されることとはならないと主張したため,以下では当該主張について検討する。

 ①について,キャンシステムは,実質的に債務超過に陥っていると認められるほか, 同社の財務資料を基に実施した安全性分析[企業の流動負債及び固定負債に対する支払能力を検討することを目的とした分析のこと。]の結果やキャンシステムの事業の見通しを踏まえると,本件行為がなければ,同社は近い将来において倒産し,市場から退出する蓋然性が高いと認められる。

 また,②について,キャンシステムの上記経営状況等を踏まえると,USENグループ以外の第三者がキャンシステムを企業結合により救済する可能性は低いと考えられる。しかしながら,キャンシステムが他社との企業結合を実際に検討した状況に鑑みれば,キャンシステムがUSENグループ以外の第三者と企業結合を行う可能性を十分に検討したとは認められず,キャンシステムを企業結合により救済することが可能な事業者で,本件行為よりも競争に与える影響が小さいものの存在が認め難いとまではいえない。

 この点について,仮に,本件行為が実行されなかった場合,上記のとおり,キャンシステムが近い将来において市場から退出する蓋然性が高く,実際に退出した場合,キャンシステムの需要者は競争事業者が提供するいずれかのサービスの利用に切り替えることとなると考えられる。その際,当事会社グループ間のサービスの内容の類似性等から,需要者のほとんどはUSENグループのサービスの利用に切り替え,USENグループ以外の競争事業者のサービスの利用に切り替える需要者はごく一部に限られると考えられる。

 このため,本件行為の有無にかかわらず,キャンシステムの需要者のほとんどがUSENグループのサービスの利用に切り替えるという点で状況に大きな差は無いといえる。しかし,キャンシステムの需要者のうち,本件行為が実行されずキャンシステムが市場から退出した場合にUSENグループ以外の競争事業者が提供するサービスの利用に切り替えようとする一部の需要者にとっては,本件行為が実行された場合には,サービスの提供を継続するキャンシステムに解約違約金を支払った上で当該競争事業者が提供するサービスの利用に切り替える必要があるため,切替えを躊躇するおそれがあり,競争事業者にとっても,顧客獲得がより困難になるおそれがある。需要者及び競争事業者に対するヒアリングによれば,キャンシステムとの契約に定められた解約違約金条項や2か月前通知条項が,競争事業者との取引への切替えの障害になっている面があるとのことである。

 このように,解約違約金条項等のために,本件行為の有無にかかわらず,業務店向け音楽放送・配信業における競争状況に実質的な差異が生じないとまではいえない。」

 

[問題解消措置]

13. 「当事会社に対し,前記1の点を指摘したところ,当事会社は,本件行為に関して,キャンシステムが提供する業務店向け音楽放送・配信業に係る取引(以下「本件取引」という。)について,以下のとおり措置(以下「本件措置」という。)を講じることを申し出た。

①キャンシステムは,平成3010月から令和29月までの間,解約違約金条項及び2か月前通知条項を撤廃する。当該期間中においては,同社の需要者から本件取引に係る解約の申入れがなされた場合,解約に伴う違約金の請求を行わないこととするとともに,同社の需要者から解約の申入れがなされた月の末日をもって解約できることとする。

②キャンシステムは,既存の需要者及び今後新たに本件取引を行う需要者に対して, 前記(1)の事項を通知する。需要者への通知は,文書で行い,事前に公正取引委員会の確認を受けるものとする。

③本件行為から3年間,1事業年度に1回,本件措置の実施状況を公正取引委員会に報告する。」

14. 「本件措置は,解約違約金条項及び2か月前通知条項を2年間撤廃することで,キャンシステムの需要者における取引の切替え及び競争事業者による顧客獲得に係る障害を解消するものであると認められる。また,同社の需要者全員に対し,本件措置の内容を事前に通知することとしていることから,需要者には切替えを検討する十分な機会及び猶予が与えられていると認められる。

 そのため,本件措置を前提とすれば,本件行為後もキャンシステムの需要者において競争事業者との取引への切替えが困難になるとはいえず,本件行為の有無により,業務店向け音楽放送・配信業における競争状況に実質的な差異は生じない。

 したがって,本件行為により競争が実質的に制限されることになるとは認められない。」

 


 

 

[事例]

公取委・企業結合(平成26年度:事例1

佐藤食品工業㈱による㈱きむら食品の包装餅製造販売事業の譲受け

判決集未登載

独禁法16

*経営状況(民事再生手続)

 

1. 佐藤食品工業株式会社(以下「佐藤食品」という。)は,包装餅の製造販売業を営む。宝町食品株式会社は,佐藤食品の子会社である(以下,佐藤食品を最終親会社とする企業結合集団を「佐藤食品グループ」という。)。

2. 株式会社きむら食品(以下「きむら食品」という。)は,包装餅の製造販売業を営む。

3. 宝町食品株式会社は,きむら食品から,包装餅の製造及び販売事業を譲り受けることを計画した。

4. 関係法条は,独禁法第16条である。

5. 「包装餅は,無菌包装した常温保存可能な餅であり,その形状,厚み,加熱殺菌の有無等により複数の種類が存在するが,それらの成分,味,効能等に大きな差異はなく,各製品間の価格水準の差異も大きくないため,包装餅の種類の間では需要の代替性が認められる。」

6. 「包装餅のうち,鏡餅については,年末年始の装飾用途という側面が強いため,鏡餅とその他の包装餅との間の需要の代替性は限定的である。しかし,鏡餅は,装飾用の包装容器に包装餅が入れられているものが主流であり,また,鏡餅の包装容器等の製造に特別な設備・技術・工程等は要しない。よって,鏡餅とその他の包装餅との間では供給の代替性が認められる。」

7. したがって,本件における商品市場は,鏡餅を含む「包装餅」である。

8. 当事会社は包装餅を日本全国で販売し,需要者も全国の事業者から包装餅を調達している。

9. 包装餅については,地域により販売されている製品や販売価格が異なるといった事情は認められない。

10. したがって,本件における地理的市場は,「日本全国」である。

11. 上記の通り画定された市場において,各社の市場シェアは,A社が約25%,佐藤食品グループが約25%,きむら食品が約15%,B社が約10%,その他が約25%である。

12. 包装餅の製造販売分野には,A社及びB社という有力な競争事業者及び一定規模以上の競争事業者が存在する。これらの競争事業者のうちには,大手流通事業者のプライベートブランド商品を生産している者が複数あり,これらの事業者も当事会社に対する十分な競争圧力になると認められる。

13. 有力な競争事業者の中には,供給余力を一定程度有する事業者が含まれる。

14. 包装餅の主たる販売経路は量販店である。量販店は,包装餅について激しい競争にさらされており,集客力の高い商品をより安く購買する必要がある。日本人のライフスタイルが変化し,餅を食する機会が減少してきていることから包装餅は量販店にとって必ずしも魅力的な商品とはいえない。量販店の中には,当事会社の包装餅は他社の包装餅に容易に代替できるとする者がある。また,近年では,プライベートブランド商品の販売も増えている。以上のことから,当事会社の販売先は強い価格交渉力を有しており,需要者からの競争圧力は働いていると考えられる。

15. きむら食品は,民事再生手続中であって,第三者の支援とこれによる追加の資金融資を受けることができなければ原材料の仕入れができなくなる状況にあったことから,きむら食品の事業能力は限定的であったと考えられる。

16. 以上から,前記2の事業譲受けにより,一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと判断した。

 

 


 

 

[事例]

公取委・企業結合(平成-30年度:事例10

ふくおかフィナンシャルグループによる十八銀行の株式取得

判決集未登載

独禁法10

*市場の規模

(概要)

1. 「株式会社ふくおかフィナンシャルグループ(以下「FFG」といい,同社と既に結合関係が形成されている企業の集団を「FFGグループ」という。)は福岡県に本店を置き銀行業等を営む子会社の経営管理等を行う会社である。また,FFGの子会社である株式会社親和銀行(以下「親和銀行」という。)及び株式会社十八銀行(以下「十八銀行」といい,同社と既に結合関係が形成されている企業の集団を「十八銀行グループ」という。また,FFG及び十八銀行を併せて「当事会社」,FFGグループ及び十八銀行グループを併せて「当事会社グループ」という。)は,長崎県に本店を置き銀行業を営む会社である。」

2. FFGは,十八銀行の株式に係る議決権を50%を超えて取得すること(以下「本件統合」という。)を計画している。

 

(一定の取引分野)

3. 「当事会社グループを含む金融機関が行う資金の貸付け等のいわゆる貸出業務は, 事業者を対象とする事業性貸出しと一般消費者を対象とする非事業性貸出しとに大別される。事業性貸出しは事業者が運転資金や設備資金等の事業に必要な資金を調達するものであるのに対し,非事業性貸出しは一般消費者が住宅や教育等の消費生活に必要な資金を調達するものであり,両者は需要者が異なるとともに用途が異なる。このため,両者は需要者にとっての代替性が認められない。

 また,事業性貸出しは個々の需要者の事業や財務の状況等に応じて貸出条件を設定する必要があるため,金融機関には,定期的に事業者を訪問しながら信用状況に係る情報等を収集,評価し,貸出条件に反映させるための専門性のほか,拠点となる店舗や一定規模の営業人員が必要となる。一方,非事業性貸出しはあらかじめ一定の貸出条件が設定され,貸出審査を保証会社による審査に依拠する場合も多いため,事業性貸出しに求められるような専門性や店舗,人員等の体制までは必要とならない。このため,両者は供給者にとっての代替性も限定的である。

 したがって,「事業性貸出し」及び「非事業性貸出し」は,それぞれ別の役務範囲」である。

 

4. 「当事会社グループは,大企業・中堅企業,中小企業及び地方公共団体に対して事業性貸出しを行っているが,これらの需要者は,その事業規模,事業を展開する範囲, 事業の性質等が異なるため,借入金額や取引方法等が異なる。また,借入先である金融機関の業態によって貸出対象者に係る制限が異なることから,取引を行う金融機関が異なる。このように,事業性貸出しについては,取引の相手方によって取引の実態が異なっているため,「大企業・中堅企業向け貸出し」,「中小企業向け貸出し」及び「地方公共団体向け貸出し」をそれぞれ別の役務範囲として競争の実質的制限についての検討を行った。」

5. 「中小企業は,事業規模が比較的小さく,借入金額も比較的小さい傾向にある。この点,銀行のほか信用金庫及び信用組合についても中小企業は貸出対象者となるため,中小企業は,銀行,信用金庫及び信用組合を代替的な借入先とすることが可能である。

 一方,農協等は,前記アのとおり,基本的に貸出対象者が農業者等に限られている。また,商工中金及び日本公庫は,政府系金融機関として,法令等に基づき,基本的に民業補完の観点から民間金融機関から借り入れることが困難な事業者を貸出対象者としており,需要者も,資金需要の性質に応じて民間金融機関とこれらの政府系金融機関を使い分けている。このため,中小企業が,農協等,商工中金及び日本公庫を代替的な借入先とすることができる場合は限られている。

 したがって,中小企業向け貸出しに係る競争の実質的制限についての検討を行 うに際しては,銀行,信用金庫及び信用組合については競争事業者からの競争圧力, 農協等,商工中金及び日本公庫については隣接市場からの競争圧力と整理して検 討を行った。」

 

6. 需要者アンケート・・・によれば,自己が所在する経済圏[(下記)]外に所在する銀行,信用金庫又は信用組合の店舗から借入れを行う中小企業は1割前後にすぎないが,現在借入れを行っている金融機関の貸出条件が悪化し,他の金融機関からの借入れを考える場合,新たな借入先を探す地域は,長崎県全域等,自己が所在する経済圏よりも広い範囲とする者が5割前後存在する。このことから,中小企業向け貸出しについて・・・まずは「長崎県」を地理的範囲とし,長崎県内に店舗を有する銀行,信用金庫及び信用組合であれば,長崎県外に本店を置く銀行,信用金庫及び信用組合を含めて,競争事業者からの競争圧力として検討を行い,長崎県内に店舗を有しない銀行,信用金庫及び信用組合については隣接市場からの競争圧力として検討を行った。

 一方,需要者アンケート・・・よれば,9割前後の中小企業が,自己が所在する経済圏内に所在する銀行,信用金庫又は信用組合の店舗からのみ借入れを行っており,また,供給者である銀行,信用金庫及び信用組合は,貸出金額が比較的小さい中小企業に対しては,営業,与信管理等にかかるコストの観点から,その店舗の所在地を中心として貸出しを行っている。

 したがって,中小企業向け貸出しについては,本件統合による競争上の影響が地域によって異ならないか審査を行うため,上記の「長崎県」に加え,下表の経済圏ごとにも,競争の実質的制限についての検討を行った。

 

経済圏(経済圏に含まれる市町):①県南経済圏(長崎市,長与町及び時津町),②県北経済圏(佐世保市,平戸市,松浦市,西海市,東彼杵町,川棚町,波佐見町及び佐々町),③県央経済圏(島原市,諫早市,大村市,雲仙市及び南島原市),④対馬経済圏(対馬市),⑤壱岐経済圏(壱岐市),⑥五島経済圏(五島市),⑦小値賀経済圏(小値賀町),⑧新上五島経済圏(新上五島町)

 

(競争への影響)

A. 長崎県

7.� 平成301月末の長崎県における中小企業向け貸出しの市場シェアの状況等は下表のとおりであり,本件統合は水平型企業結合のセーフハーバー基準に該当しない。

 

【中小企業向け貸出しの市場シェア】

FFGグループ 約40%,②十八銀行 約35%,③D 約10%,④E 約5%,⑤F 約5%,⑥その他 約10% (合計100%)

 合算市場シェア・順位:約75%・第1位,市場シェアの増分:約35

 統合後の HHI 5,400HHIの増分:約2,600

 

8.FFGグループの市場シェアは約40%・第1位であり,本件統合により当事会社グループの合算市場シェアは約75%となり,市場シェアの増分は約35%に達する。また,一方の当事会社グループが,他方の当事会社グループの貸出債権の返済資金を貸し出すことによる借換え(いわゆる肩代わり)を促すなど,中小企業向け貸出しにおいては,専ら当事会社グループの間で競争が活発に行われていると認められる。

 当事会社グループの競争事業者として,約10%の市場シェアを有するDのほ か,約5%の市場シェアを有するEFが存在する。需要者アンケート・・・によれば, いずれの競争事業者についても,過去3年以内に当該競争事業者から勧誘を受け たとする中小企業は1割に満たなかったが,需要者アンケート・・・によれば,過去3年以内に当該競争事業者から勧誘を受けたとする中小企業の割合は競争事業者に より1割から4割と増えており,本件統合の計画の公表後に競争事業者の勧誘活 動は一定程度活発化していると認められる。しかし,需要者アンケート・・・に よれば,当事会社グループを相互に代替的な借入先であると認識している中小企 業は6割程度である一方,これらの競争事業者を当事会社グループと代替的な借 入先であると認識している中小企業は,多くとも2割強にすぎない。また,資金面 では供給余力を有していると認められる競争事業者についても,体制面での供給 余力は十分ではないと認められる。

 以上から,競争事業者からの競争圧力は限定的であると認められる。」

9.「隣接市場からの競争圧力」

「農協等は,農業者等以外への貸出実績が少ないため,農業者等以外の幅広い事業者を対象とする中小企業向け貸出しに対する競争圧力は限定的であると認められる。」

「商工中金及び日本公庫は,政府系金融機関として,法令等に基づき,基本的に民業補完の観点から民間金融機関から借り入れることが困難な事業者を貸出対象者としている。また,競争事業者に対するヒアリングによれば,これらの政府系金融機関と競合するとしても,設備資金等の一部においてのみであるとのことである。したがって,商工中金及び日本公庫からの競争圧力は限定的であると認められる。」

「需要者アンケート・・・によれば,中小企業については,長崎県外に所在する銀行等の店舗から借入れを行っている者は5%程度にすぎない。

 また,・・・銀行等は,貸出金額が比較的小さい中小企 業に対しては,営業,与信管理等にかかるコストの観点から,その店舗の所在地 を中心として貸出しを行っているため,長崎県内に所在する中小企業が,長崎県 外に所在する銀行等の店舗から借入れを行うことは容易ではないと認められる。

 したがって,長崎県内に店舗を有しない銀行等からの競争圧力は限定的であると認められる。」

10.� 「参入圧力は認められない。」

11.� 「需要者アンケート・・・によれば,本件統合後に当事会社グループが一定程度の金利の引上げを行った場合に当事会社グループ以外の金融機関からの借入れを検討するとした中小企業は4割弱と一定程度存在する。また,需要者アンケート・・・によれば,当事会社グループから借入れを行っている中小企業のうち競争事業者からも借入れを行っている者が3割前後存在するが,そのような中小企業にとっては借入先を競争事業者に変更することは比較的容易であると考えられる。

 他方,7割前後の中小企業は競争事業者から借入れを行っておらず,前記アのとおり,競争事業者を当事会社グループと代替的な借入先であると認識している中小企業は相対的に少ないこと等から,そのような中小企業にとっては借入先を競争事業者に変更することは困難であると認められる。」

12. 「以上から,競争事業者及び隣接市場からの競争圧力が限定的であり,参入圧力も認められないことから,本件統合により,中小企業にとって借入先に係る十分な選択肢が確保できなくなるような状況になり,当事会社グループが,単独行動によって,長崎県における中小企業向け貸出しに係る一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなると認められる。」

 

B. 各経済圏

13.「平成301月末の各経済圏における中小企業向け貸出しの市場シェアの状況等は下表のとおりである。FFGグループのみが店舗を置いて中小企業向け貸出しを行っている小値賀経済圏は,本件統合によるHHIの増分が約0であり,水平型企業結合のセーフハーバー基準に該当する。

 それ以外の各経済圏については,本件統合は水平型企業結合のセーフハーバー基準に該当しないが,五島経済圏では,本件統合前のFFGグループ以上の市場シェアを有し,資金面及び体制面において供給余力を有すると認められる競争事業者が存在することから,本件統合により競争を実質的に制限することとはならないと認められる。

 したがって,以下では,小値賀経済圏及び五島経済圏以外の各経済圏について, 競争の実態に応じて,県南経済圏,県北経済圏及び県央経済圏(以下,これらをまとめて「県南等3経済圏」という。)と,対馬経済圏,壱岐経済圏及び新上五島経済圏(以下,これらをまとめて「対馬等3経済圏」という。)に分けて検討する。」

 

【県南経済圏】①十八銀行 約40%,②FFGグループ 約35%,③G 約10%,④H 約5%,⑤I 約5%,⑥その他 約5% (合計100%)

 合算市場シェア・順位:約75%・第1位,市場シェアの増分:約35

 統合後のHHI:約5,600, HHI の増分:約2,700

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【県北経済圏】①FFGグループ 約50%,②十八銀行 約20%,③J 約10%,④K 約5%,⑤L 約5%,⑥その他約10% (合計100%)

 合算市場シェア・順位:約70%・第1位,市場シェアの増分:約20

 統合後のHHIHHI:約5,300HHI の増分:約2,200

 

【県央経済圏】①十八銀行 約40%,②FFGグループ 約30%,③M 約10%,④N 約10%,⑤その他 約10%(合計100%)

 合算市場シェア・順位:約70%・第1位,市場シェアの増分:約30

 統合後のHHI:約5,100HHI の増分:約2,400�������������

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【対馬経済圏】①十八銀行 約75%,②FFGグループ 約20%,③ その他 約5%(合計100%)

 合算市場シェア・順位:約95%・第1位,市場シェアの増分:約20

 統合後のHHI:約9,500HHI の増分:約3,200

 

【壱岐経済圏】①十八銀行 約60%,②FFGグループ 約40%,③その他 約5%(合計100%)

 合算市場シェア・順位:約95%・第1位,市場シェアの増分:約40

 統合後のHHI:約9,100HHI の増分:約4,400

 

【五島経済圏】①十八銀行 約50%,② 〇 約30%,③FFGグループ 約20%,その他役0%(合計100%)

 

 合算市場シェア・順位:約70%・第1位,市場シェアの増分:約20

 統合後のHHI:約5,700 HHIの増分:約2,000

 

【小値賀経済圏】①FFGグループ 約100%,②その他 約0% (合計100%)

 合算市場シェア・順位:約100%・第1位,市場シェアの増分:約0

 統合後のHHI:約10,000HHI の増分:約0

 

【新上五島経済圏】①FFGグループ 約60%,②十八銀行 約20%,③P 約20%,④その他 約0%,(合計100%)

 合算市場シェア・順位:約80%・第1位,市場シェアの増分:約20

 統合後のHHI:約6,800 HHIの増分:約2,600

 

14.「県南等3経済圏では,本件統合により,当事会社グループの合算市場シェアは約70%から約75%,市場シェアの増分は約20%から約35%となる。・・・これらの経済圏では,専ら当事会社グループの間で競争が活発に行われていると認められる。

 当事会社グループの競争事業者として,市場シェアが約10%又はそれ以下の 金融機関が存在するが・・・本件統合の計画 の公表後に競争事業者の勧誘活動は一定程度活発化していると認められるものの, 競争事業者を当事会社グループと代替的な借入先であると認識している中小企業 は相対的に少なく,また,競争事業者は体制面での供給余力は十分ではないと認め られる。

 以上から,競争事業者からの競争圧力は限定的であると認められる。」

 「また,隣接市場からの競争圧力,参入圧力等については,前記(1)イないしエの長崎県における状況と同様であると認められる。

 したがって,前記(1)の長崎県と同様,本件統合により,中小企業にとって借入先に係る十分な選択肢が確保できなくなるような状況になり,当事会社グループが,単独行動によって,県南等3経済圏における中小企業向け貸出しに係る一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなると認められる。」

15. 「対馬等3経済圏では,当事会社以外に店舗を置いて貸出しを行っている競争事業者は存在せず,対馬経済圏及び壱岐経済圏では,本件統合後に当事会社グループの市場シェアは約95%となる。また,新上五島経済圏のPは,約20%の市場シェアを有しているが,同経済圏の市場規模が極めて小さい一方,特定の中小企業に対して多額の貸出しを行ったことを反映したものにすぎない。以上から,対馬等3経済圏においては,実質的な競争事業者は存在せず,競争事業者からの競争圧力は認められない。

 他方,一般的に,各事業者にとって最も効率的な供給量(最小最適規模:事業者にとって平均費用が最低となる供給量)との関係で一定の取引分野における市場規模が十分に大きくなく,複数の事業者で需要を分け合うと効率的な事業者であっても採算が取れず,複数の事業者による競争を維持することが困難な場合(このような場合には,事業の譲受けにより競争事業者を創出しようにも,不採算を理由に事業の譲受先が見つからないと考えられる。)には,当該複数の事業者が企業結合を行い1社となったとしても,当該企業結合により一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと認められる。

 対馬等3経済圏は,市場規模が極めて小さく10,当事会社グループは店舗等の合理化を図ってきたにもかかわらず採算が取れていない状況にあるため,複数の事業者による競争を維持することが困難であると認められる。また,競争事業者に対するヒアリングによれば,競争事業者の創出のため,仮に対馬等3経済圏の店舗が譲渡されるとしても,当該店舗の譲受けを希望しないとのことである。

 以上から,対馬等3経済圏では,本件統合により競争を実質的に制限することとはならないと認められるが,ほぼ独占状態となることから,その弊害が生じないよう所要の措置が講じられることが望ましい。」

16. 当事会社は,以下の問題解消措置(以下「本件問題解消措置」という。)を講じることを申し出た。

 ①債権譲渡:「当事会社グループは,県南等3経済圏における当事会社グループの事業性貸出しに係る債権のうち,貸出先が他の金融機関への借換えを希望し,他の金融機関が受入れを応諾する合計1千億円弱相当について,原則として本件統合を実施するまでに,当該他の金融機関に対する譲渡(貸出先が当事会社グループの貸出債権を返済して他の金融機関に借り換えるものを含む。以下「本件債権譲渡」という。)を行う。また,本件統合を実施するまでに債権譲渡額が当該金額に満たなかった場合には,本件統合後1年以内に追加的に当該不足額相当の債権を他の金融機関に譲渡する。」

 ②金利等のモニタリング: 「当事会社グループは,不当な金利の引上げが生じることがないよう,個々の貸出しを実行する前に正当な理由なく金利が上昇していないか確認し,正当な理由がない場合には金利の見直しを行う。また,いわゆる貸し渋りや貸し剥がしが生じることがないよう,第三者に委託して,需要者からの相談を受け付けるための相談窓口を設置する。加えて,中小企業向け貸出しに係る新規実行金利及び残高等について,具体的な指標を作成して事後的なモニタリングを実施する。

 これらの措置(以下「本件モニタリング」という。)の実施状況については,当事会社グループ内部の委員会及び第三者委員会を設置するなどガバナンス態勢を整備してその監視を受けるとともに,金融当局が検査・監督において確認する。

 また,当事会社グループは,本件統合によりほぼ独占状態となる対馬等3経済圏にお いても,本件統合による弊害が生じないよう,同経済圏に所在する需要者に係る金利の 事前確認や同経済圏に所在する需要者からの貸し渋り等に係る相談の受付を行うなど, 本件モニタリングを着実に実施する。」

 ③ 定期報告:「当事会社は,本件債権譲渡及び本件モニタリングの実施状況について,公正取引委員会に対して定期的に報告する。」

 

17.「問題解消措置に対する評価」

 ①債権譲渡:「本件債権譲渡が行われた場合,下表のとおり,当事会社グループの合算市場シェア及び市場シェアの増分は減少することから,それだけ競争に与える影響も小さくなる。また,債権譲渡を受ける競争事業者の市場シェアは大きくなり,本件統合による当事会社の市場シェアの増分(本件債権譲渡後のもの)と比較しても,一定程度の市場シェアを有する競争事業者が存在する状況になるほか,長崎県のQ,県南経済圏のR及び県央経済圏のSのように,一定程度の市場シェアを有する競争事業者が増加する。

 競争事業者は,債権譲渡の対象となった中小企業に対して,債権譲渡に伴う取引関係を契機として比較的容易に追加的な貸出しを行うことができるようになるとともに, 長崎県において一定の貸出実績を上げることによって,当事会社グループと代替的な借入先であると中小企業に認識されるようになり,その結果,取引のない中小企業に対しても貸出しを行いやすくなるものと考えられる。このように,競争事業者は,債権譲渡により,長崎県及び県南等3経済圏において一定の顧客基盤を構築することができると考えられる。前記・・・のとおり,競争事業者は,本件統合の計画の公表後に勧誘活動を一定程度活発化させており,その結果,貸出残高を一定程度増加させるとともに,前記・・・のとおり,一定割合の中小企業が競争事業者への借換えを検討するとしている。このような中で,上記のように競争事業者が一定の顧客基盤を構築し,当事会社グループと代替的な借入先であると認識されるようになれば,競争事業者への借換えを実行する中小企業は更に増加すると考えられる。この点,本件債権譲渡を長崎県及び県南等3経済圏において取引拡大を図る契機と捉え,今後,取引を拡大する意向を有する競争事業者が複数存在する。

 また,本件債権譲渡は,債権譲渡を受ける競争事業者にとって,債権譲渡の対象となった中小企業との取引を維持,拡大するために営業人員等を増員する必要が生じるほか,上記のとおり,借換えを実行する中小企業が更に増加する場合には,その対応のため,体制を強化するインセンティブとなると考えられる。この点,本件債権譲渡への対応のほか,更なる取引先の拡大を図るため,長崎県内に所在する店舗の営業人員を増員するなど,体制を強化する競争事業者が複数存在する。

 以上を踏まえれば,本件債権譲渡により,長崎県及び県南等3経済圏において,一定程度の市場シェアを有する競争事業者を中心に,当事会社グループに対して一定程度の競争圧力を有することとなるものと認められる。このため,本件債権譲渡を前提とすれば,当事会社グループが,単独行動によって,長崎県及び県南等3経済圏における中小企業向け貸出しに係る一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと認められる。」

 

 

【長崎県における中小企業向け貸出しの市場シェア】

(本件債権譲渡前)①当時会社合算 FFGグループ十八銀行 約75% 約40%約35%,②D 約10%,③E 約5%,④F 約5%,⑤その他 約10% (合計100%)

 市場シェアの増分��� 35

 統合後のHHI����������� 5,400HHIの増分2,600

(本件債権譲渡後)①当時会社合算 約65%,D 約10%,E 約5%,F 約5%,Q 約5%,その他 約10% (合計100%)

 市場シェアの増分��� 25

 統合後のHHI����������� 4,700HHIの増分2,300

 

【県南経済圏における中小企業向け貸出しの市場シェア】

(本件債権譲渡前)①当時会社合算 十八銀行FFGグループ 約75% 約40%約35%,②G 約10%,③H 約5%,④I 約5%,⑤その他 約5%(合計100%)

 市場シェアの増分��� 35

 統合後のHHI����������� 5,600HHIの増分2,700

(本件債権譲渡後)①当時会社合算 約65%,②G 約15%,③H 約5%,④I 約5%,⑤R 約5%,⑥その他 約5%,(合計100%)

 市場シェアの増分��� 25

 統合後のHHI����������� 4,800HHIの増分2,300

 

【県北経済圏における中小企業向け貸出しの市場シェア】

(本件債権譲渡前)①当時会社合算 FFGグループ十八銀行 約70% 約50%約20%,②J 約10%,③K 約5%,④L 約5%,⑤ その他 約10%(合計100%)

 市場シェアの増分��� 20

 統合後のHHI����������� 5,300HHIの増分2,200���

(本件債権譲渡後)①当時会社合算 約65%,②J 約10%,③K 約10%,④L 約5%,⑤その他 約10%(合計100%)

 市場シェアの増分��� 15

 統合後のHHI����������� 4,500HHIの増分1,800

 

【県央経済圏における中小企業向け貸出しの市場シェア】

(本件債権譲渡前)①当時会社合算 十八銀行FFGグループ 約70% 約40% 約30%,②M 約10%,③N10%,④その他 約10%(合計100%)

 市場シェアの増分��� 30

 統合後のHHI:約5,100HHIの増分:約2,400

(本件債権譲渡後)①当時会社合算 約65%,②M 約10%,③N 約10%,④S 約5%,⑤その他 約10%(合計100%)

 市場シェアの増分:約25

 統合後のHHI:約4,700HHIの増分:約2,200の増分

金利等のモニタリング:「本件債権譲渡は遅くとも本件統合後1年以内に完了する予定であるが,本件モニタリングは,本件債権譲渡が完了するまでの間,当事会社グループが市場支配力を行使することを防止するための措置として実効性が認められることから,適切な措置であると認められる。

 また,前記・・・のとおり,対馬等3経済圏では,本件統合によりほぼ独占状態となることから,その弊害が生じないよう所要の措置が講じられることが望ましい。この点,対馬等3経済圏において実施される本件モニタリングは,ほぼ独占状態となることによって生じ得る不当な金利の引上げ等を防止するための措置として実効性が認められることから,適切な対応と認められる。」

③定期報告:「本件債権譲渡及び本件モニタリングの実施状況について,公正取引委員会に対して定期的に報告することは,問題解消措置の確実な履行を担保する観点から適切な措置であると認められる。」

18. 「以上から,当事会社が本件問題解消措置を講じることを前提とすれば,本件統合により,一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならない」。

 

 

 

取引拒絶

 

[基本・判決]

エイベックス・マーケティング㈱ほか3名による審決取消請求事件(着うた事件審決取消請求事件)

東京高等裁判所判決平成22129

審決集56巻第二分冊498

独禁法19条 291号イ

 

一般指定1項柱書にいう「「共同して」に該当するためには,共同取引拒絶の規制の趣旨が,拒絶者集団が意思の連絡をもって共同で取引を拒絶する行為が被拒絶者の市場における事業活動を不可能又は著しく困難にし,ひいては不公正な取引につながる弊害があるため,その弊害を除去することにあること,しかし,反面において,そのような意思の連絡のない外形的に一致したにすぎない取引拒絶行為をも規制することとなれば,事業者の経済行為の自由に対する過度の規制となり得ること,を踏まえれば,単に複数事業者間の取引拒絶行為の外形が結果的に一致しているという事実だけでなく,行為者間相互に当該取引拒絶行為を共同でする意思すなわち当該取引拒絶行為を行うことについての「意思の連絡」が必要となるものと解すべきである。そして,この場合の「意思の連絡」とは,複数事業者が同内容の取引拒絶行為を行うことを相互に認識ないし予測しこれを認容してこれと歩調をそろえる意思であることを意味し,「意思の連絡」を認めるに当たっては,事業者相互間で明示的に合意することまでは必要ではなく,他の事業者の取引拒絶行為を認識ないし予測して黙示的に暗黙のうちにこれを認容してこれと歩調をそろえる意思があれば足りるものと解すべきである。

 

原盤権の「利用許諾の拒絶行為を5社が個別に行っていた場合にはそれが著作権法の観点から適法であって経済的合理性を有する行為であると評価できるとしても,そのことは,本件において5社が意思の連絡の下に共同して利用許諾を拒絶していたとの事実認定やそれが独占禁止法に違反する違法な行為であるとの評価を左右するものではないというべきである。」

 

5社が原盤権の利用許諾の拒絶行為を個別に意思の連絡なく行った場合には,それぞれの行為が経済的合理性を有するもの又は基本的な自社配信主義というビジネスポリシーに基づく自然な行為とはいえても,そのような拒絶行為を5社が意思の連絡の下に共同して行った場合には,独占禁止法及び本件告示に違反する違法な行為となる」。

(排除措置の必要性に関して)「5社のいずれかが利用許諾の拒絶に係る意思の連絡から離脱したというためには,離脱者が離脱の意思を他の参加者に対して明示的に伝達することまでは要しないものの,離脱者が自らの内心において離脱を決意したにとどまるだけでは足りず,少なくとも離脱者の行動等から他の参加者において離脱者の離脱の事実を窺い知ることができる十分な事情の存することが必要である。

 


 

 

[参考]

ドキュメンタリー映画「沖縄うりずんの雨」上映差止・損害賠償請求事件

知的財産高等裁判所判決平成30823

裁判所ウェブサイト

独禁法19条 291号イ,一般指定2項前段

 

「控訴人は,①控訴人は被控訴人に対し,本件各映像の本件映画への利用許諾を一貫して真摯に求め続け,被控訴人の要求に応じて謝罪し,適切な映像対価を支払う意思を表明した上で,被控訴人提示の諸条件については合理的な理由を示して再考を求めたのであり,客観的には,本訴提起の直前の時点まで許諾条件の交渉が継続していたと評価できる,②これに対し,被控訴人の側が,控訴人に何ら連絡することなく一方的に交渉を打ち切り,本訴を提起した,③被控訴人は,本訴提起後も不許諾の理由を説明せず,自らの行為の正当性についても何ら立証しようとしなかった,などと本訴提起の前後にわたる事情を種々指摘して,被控訴人の本件各映像に係る著作権及び著作者人格権の行使を権利濫用と認めなかった原判決の認定判断は誤っていると主張する。

 しかしながら,本件の事実経過・・・によれば,①控訴人が被控訴人に対し本件各映像の利用許諾を申請したのは,本件映画の企画製作の開始(平成24年頃)から約3年後,本件映画の公開日(平成27620日)の約4か月前(同年219日)に至ってからであって,申請の理由も「A監督・シグロ製作の当該ドキュメンタリー映画『OKINAWA(仮題)』は,沖縄戦後70年を迎える年に当たって,沖縄地上戦から現在までの沖縄の歴史,とりわけ沖縄米軍基地の存在による地域抑圧や性暴力の実態を,沖縄・アメリカの双方に取材してまとめた2時間30分(予定)の作品です。本年620日より,東京・岩波ホールと沖縄・桜坂劇場にて劇場公開を予定しています。」という概括的なものにとどまっていたこと,②控訴人が本件映画の公開前に被控訴人に対して本件各映像の利用許諾を申請したのは,上記の1回のみであって,しかも,被控訴人からその利用を許諾されなかったにもかかわらず,許諾がないままこれを利用して本件映画を完成し,その公開に踏み切っていること,③本件映画の公開後も,控訴人は,被控訴人側から説明を求められるまで,何ら無許諾で本件各映像を利用した理由を説明しておらず,事後の交渉においてもフェアユースを主張するなどして,必ずしも正面から権利侵害の事実(違法性)を認めていなかったこと等の事情が認められる。

 これらの事情を総合すれば,本件映画の公開の前後を通じて,控訴人が本件各映像の利用許諾につき被控訴人との間で真摯な交渉を継続していたなどと評価できないことは明らかである。控訴人が主張する前記①②の点は,事の真相を正しく反映したものとはいえず,権利濫用を基礎付ける根拠ないし事情としては採用できない。

 また,控訴人が主張する前記③の点についても,本訴提起後の被控訴人の訴訟追行ないし訴訟態度に,その権利行使を権利濫用とすべき特段の事情があるものとは認められない。

 したがって,当事者間の交渉経過等を踏まえた権利濫用の主張は理由がない。

・・・

 以上によれば,本件においては,被控訴人の控訴人に対する本件各映像に係る著作権及び著作者人格権の行使が権利濫用に当たると評価することはできず,これに反する控訴人の主張は採用できない。」

「控訴人は,被控訴人の行為①ないし④は,独占禁止法291号イ(共同の取引拒絶)又は同項6号イ,一般指定2項(単独の取引拒絶)に定める不公正な取引方法に当たり,かつ,被控訴人の権利濫用として,控訴人に対する不法行為に該当するとして,この点に関する原判決の認定判断には誤りがあると主張する。

 しかしながら,被控訴人の行為①ないし④が,いずれも被控訴人による著作権及び著作者人格権の行使にほかならないところ,著作権及び著作者人格権の行使は,当該権利行使が著作権制度の趣旨を逸脱し,又はその目的に反するような不当な権利行使でない限り,独占禁止法の規定の適用を受けるものではないと解すべきことは,原判決が説示するとおりである。

 しかるところ,被控訴人による著作権及び著作者人格権の行使をもって権利濫用とすべき根拠ないし事情が認められないことは,前記・・・のとおりであるから,控訴人の主張はその前提を欠く。

 なお,一般論としては,被控訴人が報道機関として取材によって得た映像や資料を独占する立場にある(そもそも報道機関でなければ取材自体が許されない現場ないし場面が存することは,経験則上明らかであって,その場合,当該報道機関は取材によって得た映像や資料を独占する立場にあるといえる。このことは,取材を行える報道機関に一定の資格要件が課される場合は,なお一層明らかであるといえる。)ことからすると,事情によっては,第三者による当該映像等の使用を許諾すべき義務が生じることがあるといえ,そのような場合にまで,著作権や著作者人格権を盾にしてその許諾を拒むことは,独占禁止法上,違法と評価される余地も存するというべきであるが,本件においては,そのような事情が存するものとまでは認められない。」

 

 

 

 


 

[事例]

(株)上村開発ほか16名及び(株)ワキタに対する件(ロックマン事件)

勧告審決平成121031

審決集47317頁、判例タイムズ1070299

 独禁法19  291号イ,一般指定2項前段

 

1. 株式会社上村開発ほか17社(以下「18社」という。)は,ロックマン工法による下水道管きょの敷設工事(以下「ロックマン工事」という。)等の土木工事業を営む。株式会社ワキタ(以下「ワキタ」という。)は,建設機械販売業を営む。

2. ロックマン工法は,施工現場の状況から推進工法によることが適している工事であって,礫,玉石,転石の混り土,岩盤等の硬度が高い土質における工事に特に適する。ロックマン工事の施工実績は,近年,増加している。

3. ロックマン工事を施工するには,専用の機械(以下「ロックマン機械」という。)を使用する必要がある。

4. ワキタは,我が国においてロックマン工事の施工業者(以下「施工業者」という。)向けに販売されるロックマン機械の大部分を販売している。

5. 18社中17社は,ロックマン工法協会と称する団体に加盟する施工業者を会員とし、ロックマン工法の施工に関する事項についての会員相互の意思疎通を図ること等を目的とするロックマン工法協会施工部会と称する団体(以下「施工部会」という。)の会員である。これら17社は,施工部会の会員以外の者(以下「非会員」という。)が新たにロックマン工事を施工できるようになり会員との間で受注競争が生じることになることを阻止すること等を目的として,ワキタが非会員に対し,ロックマン機械の販売及び貸与を行わないことを前提として,次の方針を立て,このとおり実行した。

①「施工部会細則」を設けて,この中で施工部会の会員が遵守すべき事項として非会員に対するロックマン機械の貸与及び転売の禁止等を定める。

② 上記細則を遵守する旨の同意書を施工部会に提出する。

③ 新たに施工部会に入会するためには,施工部会に右同意書を提出し,施工部会長の承認を得ることを要件とする。

6.  18社のうち1社(株式会社サンシュー)は,上記決定がなされた後に,前記5③の同意書を施工部会に提出し,施工部会に入会して,前記決定に参加した。

7. ワキタは,施工業者らが前記細則の原案の作成及び説明をするなど,細則の決定において中心的役割を果たした。

8. ワキタは,会員との信頼関係を維持しロックマン機械の販売の継続を図るために,前記施工業者らとともに,自らも,施工部会への入会が認められない限り非会員に対してはロックマン機械の販売及び貸与を行わないこととし,この方針に従って販売及び貸与を行なわなかった。

9. 18社は,例外的な場合を除いて,非会員に対しロックマン機械の貸与及び転売を行っていなかった。これにより,18社は,非会員がロックマン工事を施工することができないようにしていた。ワキタは,非会員に対しロックマン機械の販売及び貸与を行っていなかった。これにより,ワキタは,非会員がロックマン工事を施工することができないようにしていた。

10. 17社及びワキタは,その後,前記5及び9の行為を取りやめた。

 

法令の適用

17社及びワキタは,相互に協力して,17社にあっては,正当な理由がないのに,共同して非会員に対しロックマン機械の貸与及び転売を拒絶し,ワキタにあっては,不当に,非会員に対し,施工部会への入会が認められない限りロックマン機械の販売及び貸与を拒絶していたものであり,かかる17社及びワキタの行為は,それぞれ,不公正な取引方法(昭和57年公正取引委員会告示第15号)の第1項第1号及び第2項に該当し,いずれも独占禁止法第19条の規定に違反するものである。

主文

施工業者らに対しては,上記のとおり決定された方針に基づいて,「ロックマン工法協会施工部会と称する団体の会員以外の者に対し共同して行っていたロックマン工法による下水道管きょの敷設工事を施工する際に使用する専用の機械の貸与及び転売を拒絶する行為を取りやめ」ていることを確認することなどが命じられた。株式会社ワキタに対しては,「前記団体の会員以外の者に対し前記17社とともに行っていた前記機械の販売及び貸与を拒絶する行為を取りやめていること」を確認することなどが命じられた。

 

 


 

[事例]

都タクシーほか19社に対する件

排除措置命令平成19625

審決集54485

独禁法19条 291号ロ

 

1. 新潟市等からなる交通圏(以下「新潟交通圏」という。)においては,都タクシー株式会社ほか20社(以下「20社」という。)及び昭和交通株式会社(以下「昭和交通」という。)(平成1938日に廃業した。)(以下,20社及び昭和交通をあわせて「21社」という。)が,タクシー事業を営み,又は,営んでいた。

2. 新潟交通圏においては,21社のほか,太陽交通株式会社(以下「太陽交通」という。),三和交通株式会社(以下「三和交通」という。)及び四葉タクシー有限会社(以下「四葉タクシー」という。)がタクシー事業を営んでいる。

3. 太陽交通,三和交通及び四葉タクシー(以下「低額運賃3社」という。)は,小型車につき,21社の適用するタクシー運賃よりも低額なタクシー運賃を適用している。

4. 新潟交通圏においては,タクシーの共通乗車券が利用されている。共通乗車券とは、乗車する客が,その券面にタクシー事業者に支払うべき運賃等を記載してタクシー事業者に手渡すことにより複数のタクシー事業者のタクシーの中から選択して乗車することができる乗車券である。この共通乗車券は,平成186月末日まで,共通乗車券事業を営む株式会社新潟ハイタク共通乗車券センター(以下「新潟ハイタクセンター」という。)により,平成187月からはタクシー共通券事業株式会社(以下「タクシー共通券事業会社」という。),新潟地域タクシー共通券株式会社(以下「新潟地域タクシー共通券会社」という。)及び柳都タクシー共通券株式会社(以下「柳都タクシー共通券会社」という。)の3社(以下「共通乗車券事業者3社」という。)により行われている。これらの共通乗車券事業を営む事業者は,タクシー事業者等との間で共通乗車券事業に係る契約を締結した上で,契約した事業者のタクシーを利用することができる共通乗車券を発行し,共通乗車券を利用する官公庁,企業等から共通乗車券の券面に記載された額に係る金銭をタクシー事業者に代わって回収している。

5. 株式会社新潟ハイタク共通乗車券センター(以下「新潟ハイタクセンター」という。)の株主は,21社並びに太陽交通及び三和交通の23社であった。新潟ハイタクセンターは,株主である23社のほか,四葉タクシー等その株主以外のタクシー事業者等と上記4の契約を締結していた。新潟ハイタクセンターは,平成186月末日をもって解散した。

6.共通乗車券事業者3社は,それぞれ,平成185月に設立され,新潟交通圏において共通乗車券事業を営む。「共通乗車券事業者3社」は,タクシー共通券事業会社は21社のうち5社,新潟地域タクシー共通券会社は21社のうち9社,柳都タクシー共通券会社は21社のうち7社を株主とする。共通乗車券事業者3社は,それぞれ,その株主等のタクシー事業者等と当該契約を締結している。共通乗車券事業者3社は,それぞれ,自社が発行したタクシー共通乗車券を他の2社の株主であるタクシー事業者のタクシーに共通して使用できることとしている。

7. 専ら新潟交通圏において共通乗車券事業を営む者(個人であるタクシー事業者のみと契約することとしている者を除く。)は,現在においては共通乗車券事業者3社のみである。これら3社が設立された同185月以前は新潟ハイタクセンターのみであった。

8.  21社は,低額なタクシー運賃を適用しているタクシー事業者が共通乗車券事業に係る契約を締結することができないようにすることを目的として,新潟ハイタクセンターを解散させるとともに,新たに共通乗車券事業を営む会社3社を設立し,株主構成及びタクシー共通乗車券の使用方法を前記6のとおりとした。また,低額なタクシー運賃を適用していた太陽交通及び三和交通が設立される会社3社との間で,共通乗車券事業に係る契約を締結することを認めないようにすることとした。

9. その後,四葉タクシーが平成184月以降低額なタクシー運賃を適用することとなったことから,21社は,共通乗車券事業者3社との間で共通乗車券事業に係る契約を締結することを認めないようにすることにした。

10.  太陽交通及び三和交通は,新潟ハイタクセンターの解散及び共通乗車券事業者3社の設立の経緯から,共通乗車券事業に係る契約の申込みを拒否されることが明白であるため,当該契約の申込みをしていない。

11. 四葉タクシーは,平成1810月に共通乗車券事業者3社に対して共通乗車券事業に係る契約の申込みをしたが,共通乗車券事業者3社は,回答を留保している。

法令の適用

前記事実によれば,21社(ただし,平成1938日以降は昭和交通を除く20社)は,正当な理由がないのに,共同して,新潟ハイタクセンター及び共通乗車券事業者3社に,低額運賃3社に対し新潟交通圏における共通乗車券事業に係る契約を拒絶させているものであり,これは,不公正な取引方法(昭和57年公正取引委員会告示第15号)の第1項第2号に該当し,独占禁止法第19条の規定に違反するものである。

 


 

[参考・判決][事例]

関西国際空港新聞販売民事差止事件

大阪高等裁判所判決平成1775

裁判所ウェブサイト

独禁法19条 291号イ

独禁法24

 

1. 控訴人は,新聞の販売等を目的として設立された株式会社である。

2. 新聞の流通経路は,実配と即売に大別される。実配とは,新聞販売店がへの戸別配達によって販売するルートである。即売とは,駅及び空港の売店並びにコンビニエンスストア等を通じて不特定の顧客に販売されるルートである。

3. 京阪神地区において,即売ルートで流通する全国紙のほとんどすべてが卸売5社(被控訴人株式会社新販(株式会社朝日新聞社系列),被控訴人株式会社大読社(株式会社読売新聞社大阪本社系列),被控訴人関西地区新聞即売株式会社(株式会社産業経済新聞社大阪本社発行分の産経新聞について,同社から直接に新聞の卸売を受けている唯一の即売会社である。),被控訴人株式会社近販(株式会社毎日新聞社系列),訴外A社(株式会社日本経済新聞社の即売業者。後に被控訴人日経大阪即売(日本経済新聞については,被控訴人日経大阪即売設立後はA社に代わって同被控訴人。以下同じ)(以下「卸売5社」という。))により流通されている。

4. 全国紙を仕入れることを希望する者は,卸売5社から全国紙を仕入れるほか,卸売5社から全国紙を仕入れる他の即売業者から全国紙を仕入れることができる。

5. 関西国際空港新聞販売株式会社(以下「被控訴人関空販社」という。)は,卸売5社により,関西国際空港島(以下「空港島」という。)における新聞等の販売窓口を1本化する目的で設立され,卸売5社から一手に空港島向けの全国紙を仕入れ,これを空港島内の売店,航空会社等に販売していた。

6. 控訴人は,卸売5社各々に,空港島内において新聞の仕入・販売をしたいとして取引を申し込んだ。

7. これに対して,卸売5社は,それぞれ,空港島における新聞の販売については被控訴人関空販社を通して行うことを理由として,控訴人からの取引申込みを拒絶した。

8. 被控訴人関空販社は,控訴人に対して,控訴人からの取引の申出には通常の取引として対応する用意があることを連絡した。控訴人は,卸売5社との直接取引を望んでいるとして,関空販社に対しては取引の申込みを行わなかった。

9. 控訴人は,前記7の取引拒絶後から現在まで,訴外B社から,全国紙を定価の75パーセントの価格で仕入れ,空港島内の売店・ラウンジ等及び全日空に対して定価の80パーセントで販売している。

10. 控訴人は,被控訴人関空販社及び卸売5社が一般指定1項に該当する共同の取引拒絶を行っているとし,独禁法24条に基づいて差止を請求した。

11. 被控訴人関空販社は,その後,空港島内における全国紙等の販売を止め,被控訴人卸売会社らが空港島内における全国紙等の販売を行うようになった。

裁判所の判断

被控訴人関空販社について,「一般指定1項は,「自己と競争関係にある他の事業者」と共同してする取引拒絶について規定しているところ,共同の取引拒絶が認められるためには,まず,被控訴人関空販社が,①自己と競争関係にある,②他の業者と共同して,③取引を拒絶することが必要である。」「控訴人は,本来,被控訴人関空販社との取引を希望せず,これ故に同被控訴人に対して,取引の申込みをしていないのであるから,被控訴人関空販社が,控訴人からの取引申込みを拒絶したということはあり得ない。」「本件各取引拒絶当時,被控訴人関空販社と卸売5社とは,新聞等の販売面での取引先が競合するなどの競争関係にもなかったし,上記設立目的からすると,将来競争関係が生じるということも考え難い」。以上より,一般指定1項に該当する共同の取引拒絶を行ったとはいえない。

卸売5社について「被控訴人関空販社は,卸売5社が,空港島における販売窓口を1本化するために共同して設立したものであり,卸売5社は,空港島における新聞販売について被控訴人関空販社以外と取引をしないことを当然の前提としていたことが明らかであるから」,卸売5社の前記7の取引拒絶は,卸売5社が共同して行ったものと認めることができる。

「上記の卸売5社が共同して行った本件各取引拒絶が不公正な取引方法に当たるのは,その行為が正当な理由がないのに行われたこと,すなわち,公正な競争を阻害するおそれ(公正競争阻害性)がある場合である(独禁法24条,19条,296号)。そして,公正競争阻害性とは,一般的には公正な競争秩序に悪影響を及ぼすおそれをいうところ,共同の取引拒絶の場合の具体的内容については,主として自由な競争状態を侵害するかどうかの観点から捉えるのが相当である。」

「卸売5社から,取引申込みを拒絶されて全国紙を購入することができなくとも,卸売5社から全国紙を仕入れる他の即売業者から全国紙を仕入れて,これを空港島で販売することができるのであり,現に,控訴人は,卸売5社から仕入れたB社から全国紙を仕入れて空港島で販売していることが認められる。」「また,被控訴人関空販社においても,控訴人に対し,全国紙の販売取引に応じる用意のあることを申し出ているのであるから,控訴人が卸売5社との直接取引にこだわらず,被控訴人関空販社に対し,取引を申し出ていたならば全国紙を容易に仕入れることができたであろうことは推認するに難くない」。「そうすると,卸売5社のした本件各取引拒絶には,公正競争阻害性があったということはできない。」

上では「本件各取引拒絶当時及びそれ以後で同拒絶の状況に変動を生じていない状況下における公正競争阻害性の有無について検討した」。もっとも,現在では,「被控訴人卸売会社らが空港島内における全国紙等の販売を行っているのであるから,卸売5社が本件各取引拒絶を行った主たる理由である,空港島における新聞の販売は被控訴人関空販社を通して行うとの方針を採る理由はなくなったものということができる。そうだとすると,卸売5社が行った本件各取引拒絶によって公正競争阻害性が生じる余地はなくなったものということができる。」

「本件各取引拒絶は,結局のところ公正競争阻害性を生じさせていない」。

念のために判断すると,独禁法24条にいう「著しい損害とは,いかなる場合をいうかについて検討するにそもそも,独禁法によって保護される個々の事業者又は消費者の法益は,人格権,物権,知的財産権のように絶対権としての保護を受ける法益ではない。また,不正競争防止法所定の行為のように,行為類型が具体的ではなく,より包括的な行為要件の定め方がされており,公正競争阻害性という幅のある要件も存在する。すなわち,幅広い行為が独禁法19条に違反する行為として取り上げられる可能性があることから,独禁法24条は,そのうち差止めを認める必要がある行為を限定して取り出すために,「著しい損害を生じ又は生ずるおそれがあるとき」の要件を定めたものとも解される。」「そうすると,著しい損害があって,差止めが認められる場合とは,独禁法19条の規定に違反する行為が,損害賠償請求が認められる場合より,高度の違法性を有すること,すなわち,被侵害利益が同上の場合より大きく,侵害行為の悪性が同上の場合より高い場合に差止が認容されるものというべきであり,その存否については,当該違反行為及び損害の態様,程度等を勘案して判断するのが相当である。」

本件においては,前記9からして「本件各取引拒絶によって控訴人が空港島における全国紙販売市場に参入できなくなった若しくはそのおそれがあった,又はその市場からの退出を余儀なくされている若しくはそのおそれがあるなど,本件各取引拒絶を差し止める必要性を基礎づける事情は認められない。」「「著しい損害」について,控訴人は,本件各取引拒絶がなければ,被控訴人卸売会社らから定価の70パーセントの価格で全国紙を仕入れることができるのに,本件各取引拒絶によって,定価の75パーセントの価格で全国紙を仕入れざるを得なくなっているから,5パーセントのマージンを得ることができなくなっている旨主張する」が,「「著しい損害」を要件とする規定の趣旨等に照らせば,前記のように既に市場に参入し5パーセントとはいえマージンを得ている控訴人が単に共同取引拒絶がなければより大きい利益を上げることができたというだけでは,差止めを認めるに足りる「著しい損害」に当たるとはいえない」。「控訴人は,得べかりし利益の半分を失っているのであるから,その額が少なかったとしても,控訴人にとっては,著しい損害であるとも主張しているが,そもそも,控訴人が,仮に,被控訴人らから全国紙を仕入れることができたとしても,被控訴人らが,控訴人に対し,定価の70パーセントで販売しなければならない義務はないと主張していることに徴しても,被控訴人らから,定価の70パーセントの価格で全国紙を仕入れることができるとの前提事実を認めるに足りる証拠は存在しない。」

 


 

[参考・判決]

シラス共同取引拒絶禁止等請求・損害賠償請求事件

和歌山地方裁判所判決平成22921

審決集57巻第二分冊342

独禁法19条 一般指定11号,一般指定14

 

1. 原告組合(箕島町漁業協同組合)は,水産業協同組合法に基づいて設立された漁業協同組合である。

2. 原告X1ら及び被告組合員らは,いずれも原告組合の組合員で,シラス漁等を営む。

3. 被告仲買人らは,いずれも和歌山県有田市又は同県有田郡湯浅町を本拠として,シラスの転売又は加工等を業とする。

4. 株式会社戝文水産(以下「戝文水産」という。)は,和歌山県日高郡美浜町を本拠とし,シラスの転売又は加工等を業とする。

5.  従前,原告X1ら,被告組合員ら及び被告仲買人らは,原告市場でシラスの売買取引を行っていた。取引の内容は,「原告X1ら及び被告組合員らが水揚げしたシラスの販売を原告組合に委託し,原告組合が箕島漁港内に設置経営するシラス市場(以下「原告市場」という。)で,原告組合からシラスの購入を許された被告仲買人らが入札の方法でシラスを購入し,原告X1ら及び被告組合員らが販売手数料(「歩金」と呼ばれる。)を原告組合に支払う」というものであった。被告仲買人らは,原告組合との間で入札参加契約を締結して原告市場での上記取引を行なっていた。

6.  原告組合及び原告X1らが,戝文水産を新たに参加させようとしたところ,被告仲買人らはこれに反対し,原告市場での入札に参加しないなどの対応をとるようになった。

7. 原告組合は,原告X1らが戝文水産に対して原告組合を通すことなく原告市場外で直接取引することを認めることとした。また,戝文水産の入札への参加は認めないこととした。

8. 原告組合は,被告仲買人らに対して原告市場に入札に参加するよう呼びかけ,会合を持つなどしたが,対立は解消しなかった。原告組合理事は,被告仲買人ら及び被告組合員らに対して「お前ら勝手にせえ。」などと発言した。その後,原告組合は,被告仲買人らとの間の入札参加契約を終了する通知をこれらの者に対して行なった。

9. 戝文水産の申立により,和歌山地方裁判所は,原告組合に対して,戝文水産の入札参加を拒否し又は入札参加を妨害してはならない旨の仮処分をした。

10. 被告仲買人及び被告組合員らは,原告市場とは別の市場(以下「新市場」という。)を開設し,新市場でシラスの売買取引を行うようになった。新市場における入札手続事務や売買に付随する事務は,被告組合員ら及びその親族らにより行なわれるようになった。

11. 被告組合員らは,被告組合員らと被告仲買人らは,いずれも相手方の同意がなければ,他の者との間でシラスの売買取引を行なうことができないことなどを取り決めた。なお,この協定は,個々の被告組合員が原告組合に対して販売委託取引を行なうことを禁じるものではなかった。

12. 被告組合員らは,原告組合に対して,シラス取引の販売手数料を支払わなくなった。原告組合は,被告組合員らに原告市場で販売取引することを求めたが,被告組合員らはこれに応じなかった。

13. 原告組合は,①被告組合員らが,原告組合に対するシラスの販売委託取引を共同で拒絶している,②被告仲買人らが,被告組合員らの原告組合に対するシラスの販売委託を妨害しているなどとし,これらの行為が独禁法に違反するとした。原告X1らは,被告仲買人らが原告X1らからのシラス購入を共同で拒絶し独禁法に反しているとした。そして,原告らは,独禁法24条に基づくこれら行為の差止及び損害賠償を請求した。

 

裁判所の判断

被告組合員らによる原告組合に対する共同の販売委託取引の拒絶にかかる主張について「独禁法が不公正な取引方法を規制しているのは,公正且つ自由な競争秩序を維持し,一般消費者の利益を確保するためであるから(独禁法1条),「正当な理由がない」(一般指定1項)か否かの判断については,当該共同の取引拒絶が,この独禁法の目的を害するかどうかを基準とするのが相当である。」「従前行われてきた原告市場におけるシラスの売買取引の方法に鑑みると,原告組合が共同の取引拒絶をされていると主張する販売委託取引とは,シラスの入札手続事務や売買に付随する事務を被告組合員らが原告組合に委託するという取引である。そうすると,被告組合員らが原告組合に対するシラスの販売委託取引を拒絶しても,シラスの売買自体に関する公正且つ自由な競争が阻害されることにはならない。そして,本件では,シラスの入札手続事務や売買に付随する事務の委託において,原告組合に他の競争者がいるわけではないから,被告組合員らによる原告組合に対するシラスの販売委託取引の拒絶は,複数いる取引の相手方のうちの特定の事業者を不当に排除するというものではない。また,それまで原告組合に委託していた事務を被告組合員ら及びその親族が行ったからといって,一般消費者の利益の確保に悪影響を与えるとはいいがたい。」「以上の事情を総合すると,被告組合員らが原告組合に対するシラスの委託販売取引を拒絶していることは,上記独禁法の目的を害するとは認められ」ず,したがって「「正当な理由がない」とはいえず,「共同の取引拒絶」に該当しない」。

「被告仲買人らによる被告組合員らの原告組合に対するシラスの販売委託取引の妨害」に関する主張について,一般指定14項「「競争者に対する取引妨害」とは,「自己又は自己が株主若しくは役員である会社と」「競争関係にある他の事業者とその取引の相手方との取引について,」「その取引を不当に妨害すること」をいうから,原告組合又は被告組合員らが,被告仲買人ら又は被告仲買人らが株主若しくは役員である会社と競争関係にあることが必要である。しかし,本件では,原告組合は,シラスの入札手続事務や売買に付随する事務を行う者であり,被告組合員らはいずれもシラスの売主であるところ,被告仲買人らはいずれもシラスの買主であるから,原告組合又は被告組合員らが,被告仲買人ら又は被告仲買人らが株主若しくは役員である会社と競争関係にあるとはいえない。」

「被告仲買人らによる原告X1らからのシラスの購入取引の拒絶」に関する主張について,「原告組合が,被告仲買人らの上記行為を独禁法24条の差止請求の対象とするには,これ「によって」,原告組合が「利益を侵害され,又は侵害されるおそれがあ」り,原告組合に「これにより著しい損害を生じ,又は生ずるおそれがある」(独禁法24条)ことが必要である。」「この点,原告組合は,侵害される利益及び著しい損害として,原告X1らから徴収する歩金が減少したこと及び組合員の漁獲物の安定した出荷先を確保し,組合員の経済的,社会的地位を高めるという漁業協同組合としての目的を達成できなくなったことを挙げる。」「しかし,歩金の減少についてみるに,歩金は,組合員がその地位に基づき当然に支払義務を負うものではなく,原告組合がシラスの入札で仕切りをしたことに対する事務手数料として売主の地位に基づき支払義務を負うものと解される。そして,・・・被告組合員らが原告組合に対するシラスの販売委託取引を拒絶することは,独禁法上の規制行為に当たらず,原告X1らが,被告組合員らと共同して原告組合に対しシラスの販売委託取引を拒絶しても同様である。そうすると,確かに,原告X1らは,原告市場での販売取引を望んでいるけれども,上記の限りにおいては,原告組合に独禁法上の「侵害される利益」があるとはいえない。被告仲買人らによる原告X1らからのシラスの購入取引の拒絶によって,原告組合の原告X1らから徴収する歩金収入が減少しても,両者の関係は間接的なものであって,その間に相当因果関係は認められない。」「漁業協同組合としての目的を達成できなくなったことについてみるに,原告組合が,原告X1らのシラスの安定した出荷先として被告仲買人らを確保できないことは,原告組合にとって,抽象的,間接的損害があるにすぎず,差止請求の要件である「著しい損害」とは認められない。」

 


 

[参考・決定]

株式会社朝日新聞社ほか153名に対する件(緊急停止命令)

東京高等裁判所決定昭和3046

高等裁判所民事判例集82177頁、行政事件裁判例集641076頁、判例時報515頁、法曹新聞995

独禁法19条 一般指定11号,12項(昭和28年指定17

 

1. 被申立人朝日新聞社,同毎日新聞社および同読売新聞社(以下「被申立人3社」という。)及び株式会社千葉新聞社(以下「千葉新聞社」という。)は,新聞の発行販売事業を営む。

2.被申立人渡辺七五郎ほか155名は,いずれも,被申立人3社の発行する新聞を販売する事業を営む。

3.被申立人3社は,合同で,千葉県における系統販売店を集めて会議を開催し,販売店に対して,同県における減紙の原因は千葉新聞社が発行する千葉新聞の進出にあるとし,販売店に対して,①各店とも千葉新聞を2割減紙すること,②販売店は,この不買決定の趣旨を千葉新聞社に通告すること,③被申立人3社の新聞については,販売店は,減紙しないことを要請した。

4. 前記要請を受けて,販売店らは要請通り申し合わせを行った。

5. 被申立人渡辺七五郎ほか200余名は前記申合せを実行している。

6. 公取委は,「右被申立人3社の行為は,販売店が正当な理由がないのに自己の競争者である千葉新聞社から,千葉新聞の供給を受けないことを条件として,当該販売店と取引するものであつて」,「昭和28年公正取引委員会告示第11号の第7の排他条件付取引に該当し,同法第19条に違反し,被申立人渡辺75郎ほか155名の行為は,千葉新聞社から不当に千葉新聞の供給を受けないものであつて同法第2条第7項同告示第11号の第1の不当不買に該当し,私的独占禁止法第19条に違反する疑があるものである」として,次の内容を命ずる裁判を求めた。

①被申立人3社は,本案の審決があるまで株式会社千葉新聞社から,千葉新聞の供給を受けないことを条件として,別紙当事者目録記載の被申立人新聞販売業者渡辺七五郎以下156名と新聞販売の取引をしてはならない

②被申立人新聞販売業者渡辺七五郎ほか155名は,本案の審決があるまで昭和30320日実施予定の千葉新聞の不買をしてはならない

 

裁判所の判断

「当裁判所は申立人及び被申立人双方の主張と双方の提出した疎明方法とを検討審査した結果主文第3項記載の被申立人ら5名を除くその余の被申立人ら154名がいずれも申立人主張の法条に違反する疑のある行為をしていること及び一時これらの行為を停止すべき緊急の必要があることが疎明されたと認める。」

 

 


 

[事例]

松下電器産業(株)に対する件

勧告審決平成13727

審決集48187頁、判例タイムズ108783

 独禁法19条  一般指定2項後段

1. 松下電器産業株式会社(以下「松下電器」という。)は,「National」又は「Panasonic」の商標を付した家庭用電気製品(以下「松下製電気製品」という。)を,同社が出資する販売会社(以下「販社」という。)並びに松下電器又は販社と代理店契約を締結している卸売業者(以下「代理店」という。)を通じて小売業者に供給し,これらの小売業者を通じて一般消費者に販売している。

2. 販社は,実質的には,松下電器の販売部門として営業活動を行っている。

3. 松下電器は,多くの家庭用電気製品において販売額第1位の地位を占め,我が国の家庭用電気製品の販売分野における有力な事業者である。松下製電気製品は,一般消費者の間において高い人気を有しており,家庭用電気製品の小売業者にとっては松下製電気製品を取り扱うことが営業上有利であるとされている。

4. 松下電器は,自己の経営理念及び販売方針を受け入れる家庭用電気製品の小売業者に対して松下製電気製品を供給することとしている。

5. 販社は,松下電器から松下製電気製品の供給を受ける小売業者と継続的な取引契約を締結している(以下,この契約を締結している小売業者を「取引先小売店」という。)。

6.  松下電器は,販社と継続的な取引契約を締結していない小売業者(以下「未取引先小売店」という。)が松下製電気製品の廉売を行っているとして,取引先小売店から当該廉売に関して苦情を受けるようになった。

7. 松下電器は,取引先小売店の経営の安定を図る等の観点から,この種の苦情があった際には販社と一体となって製品流通経路を調査した。そして,当該未取引先小売店に直接又は間接に当該製品を販売していた代理店等が判明した場合には,次の措置をとり,当該代理店等に対し,松下製電気製品の廉売を行っている未取引先小売店に直接又は間接に松下製電気製品を販売しないようにさせた。

①当該代理店等に対し,当該未取引先小売店に松下製電気製品を直接又は間接に販売しないよう要請する

②前記①の要請に従わない代理店等に対しては,松下製電気製品の販売数量を制限し,リベートを減額し,若しくは松下製電気製品の販売価格を引き上げ,又はこれらの行為を行うことを示唆する

8. 公取委が本件について審査を開始したところ,松下電器は,前記7の行為を取りやめた。

法令の適用

松下電器は,不当に,代理店等に,松下製電気製品の廉売を行う未取引先小売店に対する松下製電気製品の販売を拒絶させていたものであり,これは,不公正な取引方法(昭和57年公正取引委員会告示第15号)の第2項に該当し,独占禁止法第19条の規定に違反するものである。

 


 

 

[参考・判決]

東京スター銀行損害賠償等請求事件

東京地方裁判所判決平成23728

審決集58巻第二分冊227頁、判例時報2143128頁、判例タイムズ1383284頁、金融・商事判例137325頁、金融法務事情1928122

19条 一般指定2項前段

 

「一般に,事業者は,取引先を選択する自由を有しているから,事業者が価格,品質,サービス等の要因を考慮して独自の判断によって他の事業者との取引を拒絶した場合には,これによって,たとえ相手方の事業活動が困難となるおそれが生じたとしても,それのみでは直ちに公正な競争を阻害するおそれがあるということはできないから,不当な取引拒絶には該当しないというべきである。もっとも,例えば,市場における有力な事業者が競争者を市場から排除するなどの独占禁止法上不当な目的を達成するための手段として取引拒絶を行い,このため,相手方の事業活動が困難となるおそれが生じたというような場合には,このような取引拒絶行為は,もはや取引先選択権の正当な行使であると評価することはできないから,公正な競争を阻害するおそれがあるものとして,一般指定2項に該当するというべきである。」

 

1. 原告(株式会社東京スター銀行)は,社団法人第2地方銀行協会(以下「第2地方銀行協会」という。)に加盟する第2地方銀行である。平成20年当時の預金残高は,約16559億円であった。

2. 被告は(株式会社三菱東京UFJ銀行),都市銀行である。平成20年当時の預金残高は,約1018615億円であった。

3. 被告を含む都市銀行12行と原告を含む第2地方銀行協会の加盟行70行弱は,都市銀行らと第2地方銀行協会との合意に基づいて,オンライン現金自動支払機の相互利用に関する基本契約(以下「本件基本契約」という。)をそれぞれ締結し,相互に他行の保有する現金自動支払機(以下「CD」という。),現金自動預入払出兼用機(以下「ATM」という。)及び自動振込機(以下,CDATM及び自動振込機を合わせて「ATM等」という。)による現金の払出し,残高照会,振込み及びこれらに付随する業務(以下「本件提携業務」という。)を行ってきた。

4. 都市銀行らと第2地方銀行協会との間での上記合意においては,被仕向銀行(CDカードを発行した銀行)が仕向銀行(ATM等を設置した銀行)に対して銀行間利用料を支払うこととされており,上記基本契約においても,このとおり定められた。

5. 本件基本契約を締結した各行は,他行が発行したCDカードを使用して自行のATM等において現金の払出しが行われた場合について,他行から徴収する銀行間利用料の額を各々定めて,他行の承認を得てきた。また,この場合には現金払出しの窓口となった銀行が当該払出しを行った顧客[「他行顧客」という。]から顧客手数料を徴収することになることから,顧客手数料を定め,これを変更するときにはその内容を他行に通知してきた。

6. 原告と被告の間でも,本件基本契約が締結され,本件提携業務が行なわれてきた。

7. 銀行間利用料は,原則として1件当たり100円などと定められた。

8. 原告は,当初は,他行顧客から徴収する顧客手数料を,時間帯により,100円又は200円としていた。この額については,被告との間で合意が成立していた。

9. 原告は,その後(平成165月から),全国各地のコンビニエンスストア(以下「コンビニ」という。)やスーパーマーケット(以下「スーパー」という。)等で自行ATM等の設置を進め,他行顧客から徴収する顧客手数料を,時間帯により,無料又は100円とするいわゆる「ゼロバンキング事業」を始めた。

10. この「ゼロバンキング事業」において,原告は,上記ATM等を利用する顧客から顧客手数料(無料又は100円)を徴収するとともに,当該利用が他行発行のCDカードによるものである場合には,他行から銀行間利用料の支払を受ける。ゼロバンキング事業を行なうについて,原告は,ATM等運用業務の委託費用を支払ったが,この委託費用は,他行から原告に対して支払われる銀行間利用料により支払うことができた。

11. 原告の店舗外ATM等の設置台数は急激に増加した。これに伴い,他行発行のCDカードによる原告のATM等の利用件数も大幅に増加した。

12. この結果,原告のATM等を利用して現金の払出しを行う被告の顧客が増加した。

それまでは原告の支払額とほぼ拮抗していた被告の原告に対する銀行間利用料の支払月額は,増加していった(約1403万円(平成185月),約3748万円(同12月),約5384万円(平成1912月),約5834万円(平成207月))。これに伴い,被告の銀行間利用料支払総額に占める原告への支払額の割合も増加し,平成1812月以降は,約60%から約95%の間で推移した。

13. 被告は,上記不均衡が生じているとして,原告に対して支払う銀行間利用料の引下げを求め,2年以上にわたって交渉が続けられた。被告は,銀行間利用料を21円に引き下げれば不均衡の是正が図られるとして,これを提案した。これに対して,原告が将来顧客手数料の有料化を実施することを前提として,銀行間利用料を73円に引き下げることなどを提案した。この間には,設置提携先の間で原告が顧客手数料の有料化に対する反発が広がったことから,原告も,銀行間利用料の引下げによる解決の意向を申入れ,その後に,「銀行間利用料を減額してまでゼロバンキング事業を継続する意思はない」として,再び被告に対して顧客手数料の有料化の方針を伝えたことがあった。被告は,原告からの顧客手数料の有料化の提案に対しては,公正取引委員会との関係での懸念を示し,その後の交渉過程においても,顧客手数料の有料化を前提とする合意を締結することには難色を示した。両者は,合意に到達しなかった。

14. 被告は,原告に対し,平成2081日付け解約通知書によって委託契約を解約した。これに伴い,被告は,自行の顧客が自行発行のCDカードを使用して原告の設置したATM等により現金払出し,残高照会又は振込みを行おうとした場合には,「提携外」を理由とする拒否報告電文を送信するようになった(以下「本件応答拒否」という。)。

15. 原告が,電文送信の拒否行為は独禁法296号イ,一般指定2項所定の不当な取引拒絶に該当する旨主張して,同法24条に基づく差止請求として電文送信の拒否行為等の差止め等を求めた。

 

裁判所の判断

前記13の交渉経緯などに照らすと,「むしろ原告の方が顧客手数料の有料化による解決に積極的な姿勢を示していたことがうかがわれるのであって,被告が顧客手数料の有料化によって原告をゼロバンキング事業から撤退させ,ATM等役務提供市場から排除する目的を有していたということはできない。」

「また,前記1で認定した事実によると,MICS加盟行である原告と被告との間では,仕向徴求方式がとられているため,委託者である被告(CDカード発行行)は,顧客のATM等利用件数を左右する顧客手数料の決定権を持たず,顧客のATM等利用件数に応じて銀行間利用料の支払額も変動することになることから,受託者である原告(ATM等設置行)の定めた顧客手数料体系によって,銀行間利用料の支払額が大きく左右される結果となるというのである。このような事情の下では,委託者である被告が本件委託業務の委託報酬に当たる銀行間利用料の支払額を抑制するには,受託者である原告に対して銀行間利用料の引下げを求めるか,又は本件委託契約を解約して委託を取り止めるか,いずれかの方法によるしかないことになる。ところが,前記1で認定した事実によると,①原告がゼロバンキング事業を開始した後,原告のATM等を利用して現金の払出しを行う被告の顧客が増加したため,被告の原告に対する銀行間利用料の支払額は,増加の一途をたどり,②このため,被告は,平成18620日,原告に対し,銀行間利用料の引下げを求め,2年以上にわたって交渉を続けたものの合意に達しなかったことから,本件解約に至ったものであって,③被告の原告に対する銀行間利用料の支払額は,この間に4倍以上に増大し,年間約6億円もの水準に達していたというのであるから,被告が本件解約に至ったことには正当な理由があるというべきである。」

(これに対し,原告は,被告が提案した1件当たり21円(税込み)という銀行間利用料の額には合理的根拠がなく,原告においてこれを受け入れることはゼロバンキング事業の仕組みとの関係で不可能であったなどというが)「①P銀行もATM等の顧客手数料を無料とする事業を展開しているところ,②被告は,同行に対しても銀行間利用料の引下げを要請し,③同行は,これに応じて銀行間利用料を21円(税込み)に引き下げた後も,被告との提携関係を維持しつつ,顧客手数料を無料とする事業も継続し,更に被告との提携時間の延長等を実施しているというのであるから,このような事情も踏まえれば,1件当たり21円という銀行間利用料がおよそ不合理なものであると断じることはできない。また,前記1で認定したとおり,原告のゼロバンキング事業においては,他行から支払われる銀行間利用料をそのままB1社に対する委託費用の支払に充てること等が予定されていたからといって,被告において,このような仕組みが成り立つような金額を銀行間利用料として原告に支払い続けることを甘受しなければならない理由はないというべきである。」


  

[参考・審決]

丸亀青果物(株)に対する件

審判審決昭和42419

審決集1464

独禁法第19  一般指定2項前段

 

1. 被審人丸亀青果物株式会社(以下「会社」という。)は,せり市場を開設して青果物の卸売業を営む。このせり市場における仲買人は,丸亀市内における主要な青果物販売業者である。取扱高は,丸亀市内におけるせり市場取引の大部分を占める。

2. 丸亀市内において青果物の販売業を営む者は,他の市場,卸売業者,産地等で青果物を入手すると多大の時間および労力がかかるなどのことから,会社のせり市場から青果物を入手できなければ営業に支障をきたす状況にあった。

3. 丸亀青果物仲買人組合(以下「組合」という。)は会社と取引する青果物仲買人を構成員とする組合である。組合員のほとんどすべてが会社の株主である。

4. 会社および組合の業務規程により,会社は,青果物食料品を組合の組合員に販売することとしている。

5. 組合員の一部は,会社の職員の不正行為について会社側に説明を求めたが,説明が得られなかった。そこで,これらの者のうち1名を含む組合員は,会社の業務および財産の状況を調査させるため検査役の選任を高松地方裁判所丸亀支部に申請した。さらに,これらの者ほか株主らの一部は,代表取締役(重元)及び専務取締役1名の解任等を目的とする株主総会の招集を請求した。

6. これに対して,会社の代表取締役(重元)は,検査役申請等を行なった上記組合員(10人)の会社との取引を停止することを意図して,組合員全員が会社のせりに参加することを停止する旨を通知し,これと同時に上記組合員(10人)を除く他の組合員らを組合員とする丸亀青果物株式会社運営協力委員会を組織して同委員会に加入した者に対して同年228日あらたに会社のせりに参加することを認めて取引を開始した。

7. 会社は,上記組合員中1名とは上記取引停止の通知前に取引を停止していた(以下,この1名を除く組合員を「組合員9人」という。)。

8. この結果,上記組合員10人は,丸亀市内における青果物のせり取引の大部分を占める会社との取引から排除されて青果物の仕入れに支障を受けた。

9. 審判において,会社は,上記組合員10名中数名については,取引を停止したのは前記5の株主権行使とは無関係であって,「せり落とした品物に文句をつけて値引きをさせた」こと,「約96万円の未済代金等未済金がある」こと,「会社との取引量がすくなく」当該組合員自身の「直接の取引ではなかつた」こと,「市場内であばれてやる」と言ったことなどが理由であると主張した。

公取委の判断

前記9の理由は,それだけでは取引を停止するに足る十分な理由とは認められない。

法の適用

会社は組合員9人に対し「不当に物資を供給しないものであつて,これは昭和28年公正取引委員会告示第11号不公正な取引方法の1に該当し,法第19条の規定に違反する」。

 


 

[参考・判決]

三光丸出荷停止差止等請求事件

東京地方裁判所判決平成16415

判例時報187269頁、判例タイムズ1163235

独禁法19条 一般指定2項前段,12項,法295

独禁法24

 

1. 原告ら(原告有限会社足高薬品,原告有限会社イシイ薬品ハイチネット,原告A,原告B,原告C,原告D,原告E及び原告池田薬品株式会社)は,「被告から仕入れた三光丸等の家庭用配置薬(以下「配置薬」という。)を一般家庭に配置し,後日配置先の家庭(以下「得意先」という。)から使用された配置薬分の代金を徴収するなどして配置販売業を営む者(以下「配置業者」という。)」である。

2. 被告は,和漢胃腸薬「三光丸」の製造販売を行っている。三光丸は,現在ではもっぱら配置業者(全国で約250業者)を通じて販売されている。

3. 被告は,三光丸は600種類ある胃腸薬の中で5指に入ると宣伝している。

4. 原告らを含めた三光丸の配置業者は,三光丸以外の医薬品も他の製薬業者から仕入れて配置販売している。しかし,原告らにとって,三光丸は中核商品であり,取扱商品に占める割合も相当程度高い。原告らは,得意先に「三光丸」印の配置箱を置き,得意先から三光丸さんとの名称で呼ばれ,自らの営業拠点等に三光丸の広告を出すなど,三光丸の配置販売にあたっては,専ら三光丸のブランドイメージに依存している。被告と原告らとの間の三光丸の取引は,15年ないし100年以上の長期に及ぶ。

5. 配置業者は,新規顧客の開拓を積極的に行なっていなかった。被告は,配置薬の既存の得意先の減少による売上の先細りを防ぐために,新規の得意先の開拓を行う関連会社を設立した。獲得した得意先を配置業者の得意先に帰属させるなどしてきたが,平成10年ころからは配置業者側の研修会開催の要請が減ってきたこともあって,他の配置業者の活動していない地域を中心に,自ら新規の得意先の開拓も行うようになった

5. 三光丸の配置業者(原告らを含む)は,かねてから,三光丸同盟会(以下「同盟会」という。)を組織している。同盟会は,配置業者の地域指定を行なってきた。配置業者らと被告との間では,明文では,4カ条の取引規定があるだけであった。

6. 同盟会による地域の取決めが独禁法の禁じるカルテルに該当するおそれが指摘されたことを契機として,被告は,配置業者との間で詳細な明文の契約規定を設けることにした。そこで,被告は,配置業者に対して,既存の契約に代わる商品供給契約(以下「新取引規定」という。)による契約の締結を求めた。配置業者の9割以上の者が求めに応じて新規の契約を締結した。

10. 原告らは,この求めに応じなかった。そこで,被告は,原告らとの契約を解約し,商品の供給を停止した。

11. 新取引規定には,販売地域の指定,配置業者が被告に顧客台帳上の情報を提供する義務及び得意先の譲渡を制限することを定める規定があった。

12. 販売地域の指定について,新取引規定では,①被告は,配置業者に対し販売地域を指定し,②配置業者は指定された販売地域内でのみ三光丸の配置を行い,③配置業者が指定された販売地域外で配置を行う場合には,被告に対し申請し,新たな販売地域として指定を受けなければならないと規定されていた。なお,1地域に複数の配置業者がある例はあり,これら配置業者間の競争は制限されておらず,地域外顧客からの注文に応じることも否定されていなかった。

13. 原告らは,被告に対し,解約が一般指定2項の取引拒絶にあたるとして,独占禁止法24条に基づいて,差止請求として前記解約に伴う商品の出荷停止の禁止及び必要数量の商品の引渡しを求めた。原告は,地域指定にかかる行為は一般指定13項,顧客台帳上の情報提供の義務付け及び顧客の譲渡禁止は一般指定14項であって,これらに従わないことを理由とする解約は独禁法に反すると主張した。

14. 被告は,地域制限については「得意先の把握が容易になること,迴商効率や売上げの向上につながること,さらには拡販意欲も沸くことといった配置薬業独特の事情」を理由として行なったものであること,一般指定14項の優越的地位とは,単なる相対的な優越ではなく,市場支配的な地位又はそれに準ずるような絶対的な優越であると解すべきであるなどと主張した。

裁判所の判断

「独占禁止法24条は,「侵害の停止又は予防を請求することができる」と規定しているものであり,この文理からすれば,独占禁止法24条に基づく差止請求は,相手方に直接的な作為義務を課すことは予定していないというべきである。また,仮に直接的な作為義務を認めたとしても,強制執行は不可能であり,この点からも,直接的な作為義務を課すことは,法制度上,想定されていないと解すべきである。

 よって,原告らの独占禁止法24条に基づく引渡請求は不適法というべきである。

 なお,独占禁止法24条に基づく差止請求には,作為命令も含まれるとする見解も存在する。確かに,公正取引委員会及び被審人の間の関係のような,独占禁止法における規定の中でのみ実体法上の主張がされ,手続が進められる場合には,排除措置命令の内容を充実させたものとするために,一定の作為を求めることは当然に認められ,法文上もそのことが予定されている(独占禁止法7条等)。しかしながら,独占禁止法24条に基づく差止請求権は,公法上の請求権ではなく民事法上の請求権であるから,民事訴訟手続における私訴として位置付けられる差止請求においては,差止請求の当事者間に,契約関係等その他の民事上の権利関係も存在しているのが通常であって,これらの権利関係に基づく民事上の請求をすること自体何ら排除されていないから,当該民事上の請求の中で,原告が被告に対してこれらの権利関係上の履行行為としての一定の作為を求めることが可能である。そうであれば,ことさらに,独占禁止法24条に基づく差止請求の内容に作為命令を取り込む必要はなく,原告らの同条に基づく引渡請求は認められないというべきである。」

 

被告は独禁法に違反したかについて,「単独の取引拒絶は,共同の取引拒絶(不公正な取引方法〔一般指定〕1項)とは異なって,拒絶された相手方が通常は自由に他の取引先を見出すことができるので,原則として契約の相手方選択の自由の行使として認められる。しかしながら,このような取引拒絶が,不当に行われる場合,例えば競争者の事業活動が困難になる場合及び独占禁止法上不当な目的を達成するための手段として用いられる場合には,公正競争阻害性が認められる。」

「本件出荷停止については,これが独占禁止法の適用にあたっての行為要件としての取引拒絶にあたるとは認められるが,当該取引拒絶についての公正競争阻害性の存在を認めることはできないから,独占禁止法24条に規定されている著しい損害の有無及び差止めの必要性の有無について判断するまでもなく,原告らの独占禁止法に基づく差止請求は理由がない」。

 

(参考: 一般指定2項・不当性についての検討(一部))

地域制限条項について,「不公正な取引方法(一般指定)13項は,「相手方とその取引の相手方との取引その他相手方の事業活動を不当に拘束する条件をつけて,当該相手方と取り引きすること」を規制の対象とし,その1つの内容として,メーカーが流通業者に対して,一定の地域を割り当て,地域外での販売を制限すること(厳格な地域制限)を違法な行為とする。そして,原告らは,新取引規定中の地域制限条項がこれにあたる旨を指摘する。」「以下,禁止される厳格な地域制限に該当するのかを検討する前提として,その要件を検討すると,そもそも不公正な取引方法とは,市場における自由な競争の確保,競争手段の公正さの確保及び自由競争基盤の確保によりもたらされる公正な競争を可能とする状態を阻害するおそれのあるものである必要がある。そうすると,厳格な地域制限に該当するというためには,当該行為の主体が当該行為により市場における自由競争基盤との関係で市場に悪影響を与えることが可能な地位にあることが必要と考えられ,また,自由な競争の確保の観点から当該行為について価格が維持されるおそれが認められるものでなければならない。すなわち,厳格な地域制限を認定するための要件として,①違法行為の主体たりうるメーカーは市場における有力な事業者である必要があり,②その者の行う規制が事業活動の不当な制限となること,③その制限を通じて価格維持の効果が生ずることが必要であると解される。」しかしながら,①被告は市場における有力な事業者であるとは認められず,②被告のいう地域指定を行なった理由に照らして地域指定を行なったこと自体は不合理とはいえないこと,地域外顧客への販売が禁じられておらず,1地域に複数配置業者があったことなどからして,事業活動の不当な制限には該当せず,③価格を維持したことは認められず「新取引規定中の地域制限条項には,価格維持の効果等は存在しない」。したがって,「新取引規定中の地域制限条項は,前記aで示した3要件を満たしていると認めることができないから,これが独占禁止法で違法とされる厳格な地域制限(拘束条件付取引)に該当するとは言えない」。

「「優越的地位」とは,一方が相手方に対して相対的に優越的地位にあれば足りるものと解するのが相当である。」「相対的に優越した地位にある事業者であるとすれば,市場における競争を阻害することは十分に可能である。そうであれば,市場支配的な地位又はそれに準ずるような絶対的な優越がなければ,不公正な取引方法(一般指定)14項の適用がないと解することは,独占禁止法の趣旨を極めて限定してしまうことになって妥当ではない。」

「優越的地位の濫用行為を認めるについては」,「相手方である原告らに不利益を与えるものであること」が必要である。

前記4に挙げた事実からして,「原告らの営業における三光丸取引への依存度は相当程度高いものであると認めざるをえず,本件三光丸取引に関しては,被告は原告らに対する関係では,取引依存性に基づく優越性があるというべきであ」る。しかし,顧客情報を提供させることと顧客譲渡禁止は,原告らに不利益を与えるものではなく,優越的地位の濫用はない。

以上より,本件取引拒絶には公正競争阻害性がない。

 

 


 

[参考・審決]

大正製薬(株)に対する件 

勧告審決昭和301210

審決集799

独禁法第19条 一般指定2項前段,4項,11項,法295号(昭和28年指定12710

 

1. 大正製薬株式会社(以下大正という。)は,医薬品の製造販売を営む。

2. 大正は,昭和21年ごろから「大正チェーン」と称する自由連鎖店を組織し,このチェーンに加盟する薬局薬店のみに大正の製品の宣伝及び販売を行わせ,加盟店に対してはその販売高に応じて一定率の割戻金を支払うとの方針を採用した。

3. 公取委は,大正の同方針に基づく加盟店に対する約定書(他チェーンへの加盟禁止条項等を含む。)の義務履行強制行為などが19条に反するとして,一部条項の削除などを命じた。

4. 大正は,その後,専ら大正の商品を販売するよう努力する(ただし,客が他の商品を名指して買いにきたときはこの限りでない)旨を規定する約定書の条項(別紙約定書第1項)を根拠として,加盟店が他のチェーンに加入し,またはその商品の看板をかかげる等の行為は,いずれも大正の商品の販売に努力する約定書の義務に反するものとした。そして,①他のチェーンに加盟する者については,チェーンから脱退させ,自ら取引を中止し,又はこれを「連鎖外取引」として扱うこととし,②他のチェーンの商品の広告看板をかかげることを禁じ,③他の商品を仕入れて店頭におきその広告を掲示した場合には,その商品を返送させて取引を中止させ,④加盟店の部会において他のチェーンとの取引に関する相談が行われたことを理由として,当該部会を解散させ,部会に属する加盟店に対して出荷を停止し,これら加盟店が他のチェーンと取引する意思の有無に応じてその後の取引を中止または復活し,⑤他のチェーンや商品を排除する大正の営業方針を批判又は批判したという理由により取引を停止し,⑥大正の自ら認める連鎖外取引店についても,他チェーンからの脱退を要請し,要請が受け入れられないことを理由として取引を中止する等することにより,取引の相手方が他のチェーンに加入しまたは他の商品を販売することを事実上妨げた。

5. 大正は,規約及び約定書において,以下の内容又は効果をもつ規定を設けられていた。

「(1) 原則として大正は,加盟店のすべてに約定書を差し入れさせ(規約第2条),特別の事情ある場合にはその差入れを免じてこれを連鎖外取引とするが(規約第3条),これに対しては割戻金および加盟店部会への参加等一切の利益を認めず

2) 加盟店が割戻金を受けるには,約定書の約束を誠実に実行することを条件とし(規約第4条第2項),かつ加盟店が約定書の義務に違背した場合には自己に差し入れ,かつ積み立てた取引保証金(規約第1条,第9条)を違約金として没収することとして(約定書第2項)加盟店に約定書の義務の励行を求め

3) 加盟店が約定書の義務を誠実に実行しないときは,当該加盟店の近辺に自由に取引店を設けることとして(規約第18条第3号)加盟店に脅威を加え

4) 規約に疑義を生じた場合は,商慣習を参しやくして自己の適当と認めるところによることとし(規約第22条)

5) 自己の方針を推進するため加盟店の組織する部会を支配または利用する(規約第12条,第19条等)」

大正は,これらにより,加盟店たる相手方と連鎖外取引店とを区別し,加盟店のうける利益・不利益のすべてを約定書の義務の誠実な実行という曖昧な条項にかからしめるとともに,この条項の解釈を自ら左右し,加盟店に直接または間接に脅威を加えて,自己の営業方針を一方的に強要している。

法の適用

1,大正がその取引の相手方に対して他のチエーンに加入しまたは他の商品の販売または広告を禁止している行為は,大正が正当な理由がないのに自己の競争者である他の製薬業者と取引しないことを条件として取引するものであつて昭和28年公正取引委員会告示第11号(以下告示第11号という。)の7に該当し,

2,大正がその取引の相手方が他のチエーンに加入しまたは他の商品を販売することを理由としてそれとの取引を中止したことは,相手方に対し不当に物資を供給しないものであつて告示第11号の1に該当し,

3,大正がその取引の相手方が約定書を差し入れまたはその義務を実行するか否かを理由として割戻金の交付,取引保証金の没収等の利益不利益を与える旨の規定を規約,約定書に設けている点は,正当な理由がないのに相手方の取扱に著しい差別を設けたものであつて告示第11号の2に該当し,

4,大正が規約,約定書を一方的に解釈して相手方に不当な義務を課し,さらにそれを励行するために取引保証金の没収等をもつて臨んでいる点は,薬局,薬店に対する自己の取引上の地位が優越していることを利用して正常な商慣習に照して相手方に不当に不利益な条件で取引しているものであつて告示第11号の10に該当し,

それぞれ私的独占禁止法第19条に違反するものである。」

主文

1,大正製薬株式会社(以下大正という。)は,その商品の小売店(以下小売店という。)に差し入れさせた取引約定書をただちに廃棄しなければならない。また大正は将来小売店とこれと同趣旨の契約をしてはならない。

2,大正は,小売店が大正の排他的販売政策を批判し,または大正の発売品に類似する商品を宣伝,販売することを理由として差別的取扱または取引拒否をしてはならない。

3,大正は,小売店に対する不当な取引条件および差別的取扱を改めるため大正チエーン規約第2条,第3条,第4条第2項,第9条,第12条第4項,第18条第3号,第22条を削除し,または変更する等小売店との契約にただちに必要な修正を加えなければならない。

4,大正は,第1項および前項の措置を完了したときは遅滞なくその経過を当委員会に報告しなければならない。」

 


 

[参考・判決]

不動産鑑定業入会拒否差止請求事件

東京高等裁判所判決平成24517

審決集59巻第二分冊111

独禁法19条 一般指定2項,5

 

1. 社団法人日本不動産鑑定協会(以下、「被控訴人」という。)は,地方公共団体の不動産鑑定評価に関する事業の受託及び不動産鑑定評価の受託並びに不動産鑑定評価制度の普及等を目的とする社団法人である。控訴人は、不動産鑑定業を営む。

2. 控訴人は、被控訴人への入会を申請したが拒否された。

3. 控訴人によれば、県内における不動産鑑定評価業務は公的機関からの依頼がほとんどを占め,かつ,依頼者である公的機関も,事実上,被告に所属する不動産鑑定業者に鑑定を依頼することから,専ら被告が公的機関からの斡旋を行っていた。そして、被告に入会しない場合には,被告が会員に供与する公的機関からの依頼の斡旋等の便宜を受けられなかった。

4. 控訴人は、被控訴人が独禁法に反して入会を拒否したとして、独禁法24条に基づき、入会拒否行為の差止めを求めて提訴した。

5. 1審であるさいたま地方裁判所は、入会拒否は被控訴人自らが行ったものであるから85号の適用はないなどとし、事業者団体たる被告が事業者として活動する場合について19条に照らした検討を行った上で控訴人の請求は理由がないとした。控訴人が控訴した。

 

裁判所の判断

被控訴人による入会拒否等が一般指定5項ないし5項に該当するか否かを検討する。これらの「各項における「不当に」とは,公正な競争を阻害するおそれを意味する要件であるところ,上記各項については,その該当性を主張する側が,その具体的な評価根拠事実について主張,立証する責任を負うと解される。この点について,原告は,本件入会拒否等は,被告が,会員が増えると競争が激化すると考えたことによる競争阻害目的であった旨主張するが,このことを認めるに足りる証拠はない。かえって,証拠に照らせば,被告による本件入会拒否等は,従前の原告ないし原告代表者の言動から,原告を被告に入会させると,被告の正常な業務の遂行を阻害するおそれがあったためであることが窺われる。また,客観面においても,本件入会拒否等によって,県内での不動産鑑定の委託取引市場における公正な競争を阻害するおそれがあることについての立証は不十分である。」「そうすると,本件入会拒否等が,一般指定2項ないし5項の類型として,独禁法19条に違反するということもできない。」

 


 

[参考・事例]

大阪ブラシ工業協同組合に対する件

審判審決昭和30920

審決集720

独禁法第19条 一般指定2

 

1. 被審人大阪ブラシ工業協同組合(以下大阪ブラシ組合という。)は,中小企業等協同組合法施行法第4条の規定に基いて,旧商工協同組合法による協同組合を中小企業等協同組合法による事業協同組合に改組移行したものであり,大阪府区域内において頭髪用ブラシ等のいわゆる身辺用ブラシまたはブラシ柄(裏抜ブラシ柄を除く。)の製造業を営む者を組合員とし,身辺用ブラシの共同受注等を行う。

2. 大阪ブラシ組合の組合員は,合計38名であり,この中には日本新興刷子株式会社(身辺用ブラシ製造業界において第1位)をはじめ業界屈指の事業者数名を含む一貫メーカー(製造のほとんど全工程の設備を有するもの)10名が含まれる。これら組合員の機械植身辺用ブラシの製造実績は,全国製造高の約80%を占めている。

3. 被審人大阪ブラシ組合は,保安庁がブラシ3種類各10万個の競争入札を行うことを知り,大量かつ規格の指定されたブラシを納期までに完納するためには,組合員間の協力が必要になるとの認識の下で,この同庁発注ブラシの受注は被審人大阪ブラシ組合の共同事業とすることが適当であると考えるにいたった。そして,次の事項を決議した。

①今回の保安庁発注ブラシは組合1本で受注すること。

②規格改正のため組合代表が上京することを承認すること。

③組合員は組合以外からの受注は行わないことを誓約すること。

④適正な利潤を受けること。

4.その後,大阪ブラシ組合は,ブラシ別に,受注すべき価格を決定した。

5. 大阪ブラシ組合は,競争入札の対象となったブラシのうち2種類(くつ用ブラシ及び洗たく用ブラシ)について,上記4の価格を指示して水谷刷子工業株式会社々長土田甚蔵に入札させた。

6. 土田甚蔵が落札できたのは,洗たく用ブラシ35214個だけであった。その他はすべて東京都所在の事業者に落札した。

7. 大阪ブラシ組合は,土田甚蔵を通じて受注した洗たく用ブラシについて,大阪ブラシ組合は,組合で定めた級別により割り当てることを決議した。大阪ブラシ組合は,この決議にあわせて,「今後他の方面より変名をもつて依頼ありたる場合といえども保安庁発注ブラシは組合1本で下請することにして個人では引き受けぬこと」を決議した。

8. 被審人大阪ブラシ組合は,さらに,上記ブラシ3種類(服用ブラシ,くつ用ブラシ,洗たく用ブラシ)について,同組合が下請する場合の価格について決定した。保安庁発注のブラシについては,その落札価格からして,これら下請価格では被審人大阪ブラシ組合が大阪ブラシ組合以外の落札者からの下請を受けることは不可能であり,このことを被審人大阪ブラシ組合は認識していた。洗たく用ブラシについて設定された下請価格については,規模の大小を問わず,製造工程中のすべてのものが相当の利益が得られると見込まれる水準に設定されていた。

9. 前記5の入札前に,被審人大阪ブラシ組合の組合員である生悦住格太郎は,日本輸出ブラシ工業株式会社との間で,「①同社が保安庁発注ブラシを受注した場合には下請を行うこと,②この取引についてはその内容はもちろん内交渉のあつたことも他にもらさぬこと」との申し合わせ,洗濯用ブラシについての見積りを同社に送付していた。日本輸出ブラシ工業株式会社は,この見積りをもとに入札し,洗たく用ブラシ34893個を落札した。生悦住格太郎は,このうち2100個の製造を下請することを契約し,製造に着手した。被審人大阪ブラシ組合は,生悦住格太郎が保安庁発注ブラシの製造を行つていることを知り,前記6の決議は決議前の契約にも適用されるとして,生悦住格太郎に対して日本輸出ブラシ工業株式会社との下請契約の破棄を要求した。生悦住格太郎は,同社との契約単価2650銭にて被審人大阪ブラシ組合に肩替りしてほしいと申し出たが,大阪ブラシ組合はこの単価は前記7の価格を下回るとして拒否した。生悦住格太郎は「とかく病身であり,また,自己の下請(木地屋および毛植屋)に対し妨害をこうむることにより,自己および後継者の将来の営業に支障をきたすことが明らかであ」って,「組合を脱退して下請を遂行することも不可能である弱少企業のマトメ屋」であった。これらのことから,生悦住格太郎は,やむなく上記契約を破棄した。なお,被審人大阪ブラシ組合の組合員は,いずれも単価2650銭よりある程度下廻る価格で製造可能であった。

法の適用

「正当の理由がないのに組合員が落札者から直接下請することを禁止している事情のもとに被審人大阪ブラシ組合自体が落札者から洗たく用ブラシの下請を拒否していることは不当と認めざるを得ない。」

「被審人大阪ブラシ組合が保安庁発注ブラシのうち洗たく用ブラシの製造の下請を拒否していることは,被審人大阪ブラシ組合が洗たく用ブラシの落札者に対し不当に経済上の利益を供給しないものであつて,昭和28年法律第259号私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律(以下昭和28年法律第259号という。)による改正前の私的独占禁止法(以下旧法という。)第2条第6項第1号に掲げる不公正な競争方法に該当し,また,・・・昭和28年公正取引委員会告示第11号中第1号に掲げる不公正な取引方法に該当し,したがつて,私的独占禁止法第19条の規定に違反するものと認める。」

主文

被審人に対してはなんら措置を命じない。

 

 


 

 

[事例]

全国農業協同組合連合会に対する件

勧告審決平成2220

審決集3653

 独禁法19条 一般指定2項後段,12項,法295

 

1. 全国農業協同組合連合会(以下「全農」という。)は,農業協同組合法に基づき設立された農業協同組合連合会であり,会員に対する青果物用段ボール箱の供給その他の経済事業を行っている。全農は,都道府県経済農業協同組合連合会(以下「経済連」という。)その他の農業団体を会員とする。経済連の構成員は,農業協同組合(以下「単協」という。)単協である。全農の会員数は3,654名であり,いわゆる総合農協のうちのほとんどすべての単協及びすべての経済連を含む。

2. 全農東京支所の事業区域は東北6県,関東16県,新潟県,山梨県及び長野県(以下「東日本」という。)である。

3. 青果物用段ボール箱の主要な供給経路は,①系統ルート(段ボール箱製造業者から全農及び経済連を経て単協,出荷組合等の需要者(以下「需要者」という。)に供給される経路のである。)と,②系統外ルート(段ボール箱製造業者から,直接又は農業用資材販売業者等を経て,需要者に供給される経路である。)に二分される。

4. 系統ルートによる供給数量は,青果物用段ボール箱の供給数量全体において,東日本で約6割,全国で約5割を占める。

5. 青果物用段ボール箱の製造業者は,1回当たりの取引数量が大きく,安定的需要が見込めること,代金回収が確実であること等のために全農との取引を強く望んでいる。

6. 全農は,青果物用段ボールシート及び段ボール箱を販売する者のうち主要な者(以下「指定メーカー」という。)との間で契約を締結して青果物用段ボールを購入している。

7. 全農は,原則として,自らが購入する青果物段ボール箱の製造に要する段ボール原紙を段ボール原紙製造業者から購入して,指定メーカーに供給することとしている。

8. 全農は,青果物用段ボール箱の供給について,指定メーカー別にそれぞれが製造した青果物用段ボール箱を納入する地域を指定している。指定された地域は,「指定県」と称される。

9. 全農は,系統ルートによる青果物用段ボール箱の供給数量の維持拡大のために,東日本において,以下のとおり,①指定メーカーが青果物用段ボール箱を系統外ルートにより販売しないようにさせる措置,②指定メーカー以外の者が青果物用段ボール箱の製造販売を開始することを妨げる措置,及び,③需要者が青果物用段ボール箱の購入を系統ルートから系統外ルートに変更することを防止する対策を行うために要する金員を指定メーカーに提供させる措置を講じている。

10. 株式会社トーモク(以下「トーモク」という。)は,指定メーカーである(指定県は神奈川県等)。トーモクは,指定県の外で青果物用段ボール箱を系統ルートにおいて設定されている販売価格よりも低い価格で,系統外ルートにより,約20の単協に販売した。これに対して,全農は,低価格による系統外ルートでの販売をやめるよう要請し,同社の指定県から神奈川県を削除するとともに,要請に従わなければ指定県をさらに減らし,最終的には取引を停止することを申し渡した。

11. 日本ハイパック株式会社(以下「日本ハイパック」という。)は,指定メーカーである。日本ハイパックは,引合いに応じて指定県外で系統外ルートによりブドウ用段ボール箱を低価格で販売しようとした。このような動きに対して全農は,日本ハイパックに対して,今後需要者に対し受注活動を行わないよう申し入れ,その後には需要者から引き合いがあっても系統外ルートにより販売しないよう要請した。

12. 鎌田段ボール工業株式会社(以下「鎌田段ボール工業」という。)は,岩手県等において青果物用段ボール箱を低価格で系統外ルートにより販売していた。全農は,鎌田段ボール工業に,岩手県内において今後は需要者への直接販売を行わず,岩手県外において直接販売している分については系統ルートによる供給に切り替えていくことを確約させた上で,同社を指定メーカー(指定県:岩手県)とした。

13.  セッツ株式会社は,全農に段ボール原紙を販売している。セッツ株式会社は,段ボール箱製造工場を建設し,青果物用段ボール箱の需要者に対して受注活動を行った。これに対して,全農は,セッツ株式会社の参入により系統外ルートによる低価格販売が拡大することを懸念して,同社に対し上記受注活動を取りやめるように要請した。セッツ株式会社は,全農との段ボール原紙の取引に悪影響が出ることを懸念して,この要請に従った。

14. 株式会社トキワパッケージ(以下「トキワパッケージ」という。)は,段ボール箱製造工場を建設して青果物用段ボール箱の製造販売を開始した。これに対して,全農は,同社による青果物用段ボール箱の製造販売をやめさせるために,順次,次の措置をとった。

(1) トキワパッケージに対して青果物用段ボール箱用段ボールシート(以下「青果物用シート」という。)を供給しないよう要請し,同供給を行っていた者(合計2社,いずれも指定メーカーである。)にこの要請に従わせた。

(2) トキワパッケージは,全農の前記行為のために青果物用シートの入手が困難となったことから,自ら青果物用シートを製造して青果物用段ボール箱の製造販売を行うこととした。すると全農は,トキワパッケージの親会社である常盤産業株式会社(以下「常盤産業」という。)から段ボール中芯原紙を購入していた者合計4社(いずれも指定メーカーである。)に対して同購入を行わないよう要請し,このうち3社は常盤産業からの段ボール中芯原紙の購入数量を削減していった。

トキワパッケージは,開始から約2年後に段ボール箱の製造販売を中止した。

15. 全農は,需要者が青果物用段ボール箱の購入を系統ルートから系統外ルートに変更することを防ぐために,単協に対して系統外ルートによる低価格での売り込みがあったとして単協が申し出た場合には,当該単協に対して,当該売り込みのあった青果用段ボール箱の規格分について,当該低価格と系統ルートによる需要者向け価格と差額に青果物用段ボール箱の数量を乗じて得た額の金員を補てんすることとしている。全農は,この補てんに要する費用の全部又は一部を,「市況対策費」と称して,当該単協が系統ルートにより購入した青果物用段ボール箱を製造した指定メーカーに負担させている。指定メーカーは,全農との青果物用段ボール箱の取引の継続を必要とするために,「市況対策費」の負担を余儀なくされている。指定メーカーは,市況対策費の負担が生じないように,自ら青果物用段ボール箱を系統外ルートで需要者に低価格で販売しないようにするとともに,他の段ボール箱製造業者に対しても同行為を行わないよう要請している。

16. 全農は,茨城県,栃木県,群馬県,埼玉県及び千葉県において,系統ルートによる供給割合を引き上げるために,前記9以下と同様の行為を行っている(詳細略)。

 

法令の適用

1 前記事実・・・によれば,全農は,指定メーカーと青果物用段ボール箱を取引するに当たり,指定メーカーの事業活動を不当に拘束する条件をつけて当該指定メーカーと取引しているものであり,また,前記事実の1及び22)イによれば,全農は,段ボール原紙製造業者から段ボール原紙を購入するに当たり,段ボール原紙製造業者の事業製造業者の事業活動を不当に拘束する条件をつけて当該段ボール原紙製造業者と取引しているものであり,これらは,いずれも不公正な取引方法(昭和57年公正取引委員会告示第15号)の第13項に該当し,

2 前記事実・・・によれば,全農は,不当に,指定メーカーに,段ボール箱製造業者に対する青果物用シートの供給を拒絶させ,又は段ボール原紙製造業者からの段ボール中芯原紙の購入数量を制限させているものであり,これらは,前記不公正な取引方法の第2項に該当し,

3 前記事実・・・によれば,全農は,自己の取引上の地位が優越していることを利用して,正常な商慣習に照らして不当に,指定メーカーに対し,自己のために金銭を提供させているものであり,これは,前記不公正な取引方法の第14項第2号に該当し,

それぞれ,独占禁止法第19条の規定に違反するものである。」

 


 

[事例]

(株)サギサカに対する件

勧告審決平成12516

審決集47267

 独禁法19条 一般指定2項後段, 12

 

1. 株式会社サギサカ(以下「サギサカ」という。)は,自転車用品製造業者(株式会社オークス,株式会社ヨシオ,株式会社キャットアイ,有限会社シンセイ等)から自転車用品を購入し,これを自己の仕様でパックするなどして,自転車用品を各種品揃えした上で,直接又は卸売業者を通じて量販店に販売している(以下,サギサカが自己の仕様でパックした自転車用品を「サギサカ取扱用品」という。)。

2. サギサカは,我が国における量販店向け自転車用品の販売高において業界第1位を占めている。

3. サギサカは,株式会社オークス(以下,「オークス」という。)が製造する人気キャラクターを利用した製品(以下「オークス製品」という。)の総代理店として,オークス製品の供給を一手に行なっている。

4. オークス製品は,幅広い年齢層に対して人気がある数多くのキャラクターを使用しており,その種類も豊富である。このために,自転車用品を取り扱う量販店にとって,オークス製品を取り扱うことは営業上有利であるとされている。

5. 自転車用品を取り扱う量販店は,卸売業者から多種多様の自転車用品を一定の品揃えされた商品群として購入した上で,統一されたデザインでパックした自転車用品を主として陳列することにより一般消費者への訴求効果を高めた上で販売を行うことが通常である。

6. 自転車用品を量販店に販売する卸売業者にとっては,①自転車用品を自己の仕様でパックするなどして,自転車用品の豊富な品揃えを有すること,および,②納入する商品群中の自転車用品について,量販店からの個別の発注に迅速かつ的確に応えることが,必要不可欠である。

7. サギサカは,顧客争奪競争による取引の減少及び価格の低落を防止する等の理由から,自己と取引する自転車用品製造業者に対して,サギサカ取扱用品を取り扱う量販店に対する自転車用品への販売は,サギサカを通じて行なうよう要請している。

8. 株式会社株式会社ヨシオ(以下「ヨシオ」という。)は,サギサカに自転車用品を販売する自転車用品製造業者である。ヨシオは,サギサカによる前記要請にもかかわらず,サギサカを通じることなく,卸売業者を通じて量販店に自転車用品を販売していることが確認された。そこで,サギサカは,ヨシオに対して,同行為をやめるよう要請した。ヨシオは,この要請を受けたことから,当該卸売業者に対する自転車用品の販売品目数及び販売量を大幅に縮小させた。その後,再び,ヨシオは,サギサカを通じることなく,販売業者(後記「ハチスカ」。この者は,自転車用品の量販店向け販売に関してサギサカと競争関係にあった。)を通じて量販店に自転車用品を販売した。そこで,サギサカは,ヨシオとの取引を停止した。

9. サギサカに自転車用品を販売する自転車用品製造業者2社(株式会社キャットアイ及び有限会社シンセイ製作所)は,それぞれ,ヨシオに自転車用品を販売していた。サギサカは,これら2社に対して,①再三にわたって,ヨシオの前記行為に対する不快感を示し,②サギサカ自身はヨシオとの取引を停止することとした旨を伝え,③これら2社にもヨシオとの取引を停止するよう働きかけた。2社は,サギサカとの取引に悪影響が出ることを懸念して,ヨシオとの取引を停止した。

10.サギサカは,主要な購入先製造業者等を招集して会合を開き,前記7の要請を繰り返し行った。

11. サギサカのこれら行為により,サギサカに自転車用品を販売する自転車用品製造業者は,おおむね,サギサカの前記7の要請にしたがっている。

12.株式会社ハチスカ(以下「ハチスカ」という。)ほか4社は,量販店に対する自転車用品の販売に関してサギサカと競合する関係にある。

13. サギサカは,ハチスカが,サギサカと取引のある卸売業者からオークス製品を購入し,サギサカと取引のある量販店に対してオークス製品を含む自転車用品を安価で売り込んでいるとの情報に接した。

14. そこで,サギサカは,ハチスカの自転車用品の販売活動を抑制するため,同卸売業者に対して,ハチスカにオークス製品を販売しないようにさせている。

15. サギサカは,ハチスカ以外の4社についても,サギサカと取引のある卸売業者に対して要請することにより,オークス製品を直接又は間接を問わず販売しないようにさせている。

法令の適用

サギサカは,自転車用品を購入先製造業者から購入するに当たり,購入先製造業者に対し,サギサカ納入先量販店に自己を通さず直接又は間接に自転車用品を販売しないようにさせており,これは,購入先製造業者の事業活動を不当に拘束する条件を付けて購入先製造業者と取引しているものであって,不公正な取引方法(昭和57年公正取引委員会告示第15号)の第13項に該当し,また,サギサカは,不当に,販売先卸売業者に,特定競合5[本文12,株式会社ハチスカ(以下「ハチスカ」という。)ほか4社のこと]に対するオークス製品の販売を拒絶させているものであり,これは,前記不公正な取引方法の第2項に該当し,いずれも独占禁止法第19条の規定に違反するものである。

 


 

差別対価・差別取扱い

 

[参考・決定(緊急停止命令)]

株式会社北国新聞社に対する件

東京高等裁判所決定(緊急停止命令)昭和32318

行政事件裁判例集83443

独禁法19条 新聞業旧(昭和30年)特殊指定3

独禁法70条の13

*差別対価と商品・役務の同一性

 

1. 被申立人(株式会社北国新聞社)は,日刊新聞の発行、販売を業とする

2. 被申立人は,①石川県を主たる販売地域として「北国新聞」と題する新聞を発行、販売し,②富山県を主たる販売地域として「富山新聞」と題する新聞を発行、販売している。

3. 被申立人は,①北国新聞(連日朝刊8頁、夕刊4頁、計12頁)を月極定価330円で,②富山新聞(朝刊8頁(但し第1,第3月曜日は6頁)、夕刊4頁、計12頁)を月極定価280円で販売している。

. 富山新聞については,従来は,朝刊4頁(ただし週36頁)夕刊4頁計8頁を月極230円で販売していたところ,被申立人は昭和31121日から前期のとおり頁数及び価格を改めたものである。

5. 北国新聞と富山新聞は,ともに一般日刊新聞という同一の新聞種類に属し,月間記事量もほぼ同量で,紙面構成においても地方的記事を除く一般的記事においてはその選択処理において一貫した共通性をもち,社説においても一部地方的関心事を除いては同一であり,連載小説の類は全く同じであった。

6. 被申立人は,富山新聞を「北国新聞の富山版」とし、このことを内外に表明していたことがあった。

 

裁判所の判断

「北国新聞と富山新聞とは結局一応前記特殊指定における意味において同一の新聞と認めて妨げない」。「両者題号の相違はかならずしもその同一性を否定せしめるものとはいいがたい。」

 

「公正取引委員会は既に本件事案を含めて被申立人にたいし審判開始決定をし現に審判手続きを進めていることは明らかであるが、審決をみるまでにまだそうとうの日時を要することは当然と解される。しかるに本件にあらわれた疎明方法によれば富山県において販売せられる競争紙としては地方紙としての北日本新聞をはじめいわゆる県版を伴う中央諸紙等あり、これらの多くは朝夕刊12頁建で月極め定価330円で販売されているが被申立人が富山県下においてとくに前記のような低い定価で販売することは必然被申立人が石川県において有する北国新聞の優越的地位にもとづく資力をこれに投入することを意味し被申立人がこの方法によつて競争する時は、富山県下の競争各紙は不当な圧迫をこうむり、その販路、顧客を奪われる危険のあることは容易に推察しうる処であり、現に北日本新聞のみについてみても今次年末年始にかけて数千部の減紙を余儀なくされ販売代金の未収もまたようやく多きを加えようとしていることがうかがわれる。もつとも北日本新聞の減紙は同紙が昭和3111月以降従来の月極めセット版定価280円を330円に値上げしたという事情にもよることはさつし得られないわけではないが被申立人の前記行為の影響の及ぼすところ大であることを否定し得ないところである。そして継続購読をたてまえとする一般日刊新聞においてしかも相当程度に購読が普及していると認められる本件の地方において一度読者を失えばこれが回復には容易ならざるものがあり、勢いのおもむくところ他の競争紙はこれにたいする相応の対抗策を講ぜざるを得ざるにいたり、かくては新聞業界における正常な競争秩序は破壊されるおそれがあるものというべきである。従つて本件においては右審決のあるまで1時これを停止させる緊急の必要があるものというべきである。」「よつて当裁判所は申立人の本件申立を正当として認容し独占禁止法第67条第1項にのつとり被申立人に対しこの命令の属する月の翌月たる昭和3241日から本件事案につき公正取引委員会が審決をするまでの間、富山新聞の朝夕刊セット版を北国新聞のそれより低い定価で販売することを停止せしめることとする。そしてこの命令にもとづく具体的措置としては申立人の釈明するところに従い、被申立人において主文第2項に掲げる各種の方法のいずれかを採れば前記命令は満足するものと言うべきことおのづから明らかであるからこの方法によつてこれを履行せしめることとする。」

主文

「一、被申立人は昭和3241日から本件事案につき公正取引委員会の審決があるまでその発行、販売する富山新聞の朝夕刊セット版を北国新聞のそれより低い定価で販売してはならない。

二、前項の命令はつぎに定めるいずれか一の方法をとることにより履行されるものとする。

① 富山新聞の朝夕刊セット版(以下単に富山新聞という)の定価を北国新聞朝夕刊セット版(以下単に北国新聞という)と同じ定価月極め330円に引上げる。

② 北国新聞の定価月極め330円を富山新聞と同じ定価280円に引下げる。

③ 富山新聞の建頁(臨時増頁を含む実数において)および定価を本件発生前である昭和3111月の状態にすなわち左の通りにもどす。

定価230円、建頁朝刊4頁(ただし週36頁)夕刊4

④ 両新聞の現行定価を据置き頁数を1頁当り価格差が解消するまでそれぞれ増減する。

⑤ 両新聞の現行定価を据置き1頁当りの価格差を解消するため富山新聞の頁数を左の通りに改める。

定価280円、建頁(臨時増頁を含む実数)朝刊6頁(ただし週18頁)夕刊4頁」

 

[参考・決定]

北国新聞社緊急停止命令執行免除申立事件

東京高等決定昭和32329日決定

行政事件裁判例集83483

独禁法19条 

 

独禁法「[]68条第1項は,同法[]67条により裁判所が発したいわゆる緊急停止命令については,裁判所の定める保証金又は有価証券を供託してその執行を免れることができる旨規定しているが,かかる供託をすることにより常に必ずこの執行免除を受け得るものと解すべきでなく,事案の性質が執行の免除に適するかどうか,執行を免除することが緊急停止命令によつて保全しようとする法益を危うくすることがないかどうかその他諸般の事情を検討してこれを決すべきものと解するのを相当とする(当庁昭和30年(行ウ)第13号緊急停止命令申立事件昭和30115日決定参照)」。

「本件においては,申立人(株式会社北国新聞社)は現にその発行販売する富山新聞の朝夕刊セツト版を富山県下においては,石川県における北国新聞のそれより1カ月につき50低い月極め定価280円で販売しているのであつて,これを放置とするときは,富山県下の競争各紙は不当な圧迫をこうむり,この販路顧客を奪われ,勢いのおもむくところ競争各紙はこれに対する相応の対抗策を講ぜざるを得ざるにいたり,かくては新聞業界における正常な競争秩序は破壊されるおそれがあるものというべきことは,当裁判所が本件緊急停止命令において示したとおりであり,当裁判所は本件事案につき公正取引委員会の審決があるまで一時右行為を停止せしむべき緊急の必要があるものとして右命令を発したのである。この故に今本件申立人に右執行の免除を得しめるならば,事態はまた右命令以前の状態に戻り,本件緊急停止命令によつて保全しようとした法益は再び侵害せられることとなり,そもそも右緊急停止命令を発したゆえんは全く無に帰するものといわなければならない。このことはたんに申立人に裁判所の定める保証金等を供託せしめ,違反の審決ある場合これが没収の危険を負担せしめることによつては解消するものではない。よつて本件においては右緊急停止命令の執行を免除すべき理由はないものと認め,申立人の本件申立は失当として棄却すべきものである。」

 


 

[事例]

オートグラス東日本(株)に対する件

勧告審決平成1222

審決集46394

 独禁法19条 一般指定4

 

1.  オートグラス東日本株式会社(以下「オートグラス東日本」という。)は,国産自動車向け補修用ガラス(以下「補修用ガラス」という。)の卸売業を営む。

2. オートグラス東日本は,我が国における補修用ガラスの最大手の製造業者の子会社である。オートグラス東日本は,北海道地方,東北地方,信越地方及び関東地方の区域において,同製造業者の製品を取り扱う唯一の卸売業者である。

3. オートグラス東日本は,これら区域の補修用ガラスの卸売分野において業界第1位を占める。

4. 補修用ガラスの製造業者大手3社の製品は,それぞれ,一手に取り扱う卸売業者(以下「特約店」という。)がある。

5. 国内で使用される補修用ガラスには,「純正品」,「社外品」及び「輸入品」等がある。

①「純正品」は,自動車製造業者が国内の補修用ガラスの製造業者に製造を依頼し,自社製自動車の部品として販売するものである。自動車製造業者は,純正品を,部品販売会社を通じて補修用ガラス販売業者(以下「ガラス商」という。)に販売し,ガラス商は主として自動車販売業者に販売する。ガラス商への配送業務については,「特約店」が行っている。

②「社外品」は,国内の補修用ガラスの製造業者が自社製品として製造販売するものである。補修用ガラスの製造業者は,社外品を,特約店を通じてガラス商に販売し,ガラス商はこれを貨物自動車運送業者等の大口需要者(以下「大口需要者」という。),自動車販売業者,自動車修理業者等などに販売している。

③「輸入品」は,海外から我が国に輸入されるものである。輸入品は,輸入販売業者等から,直接に,又はガラス商を通じて,大口需要者,自動車修理業者等に販売されている。

6. 国内で使用される純正品及び社外品の型式数は3000以上ある。

7. ガラス商は,自動車補修用ガラスの需要が生じたとき(例えば,ガラスが損傷したとき)に,都度,純正品又は社外品を特約店から取り寄せて配送し,あわせて自動車への取り付け作業も行なっている。

8. 特約店は,予測困難な需要への対応及び迅速供給が可能となるように,通常,11回から数回の定期便を運行して取引先ガラス商を巡回している。

9. 流通している輸入品の型式数は数十である。

10. ガラス商を通じないで購入した大口需要者,自動車修理業者等の多くは,補修用ガラスを自動車に取り付ける技術を持たないため,取付作業を別途ガラス商等に依頼している。

11.  平成7年ころから,輸入品が大口需要者等に対して輸入販売業者等から格安の価格で販売されるようになってきた。

12. オートグラス東日本は,自社の社外品の卸売高及び卸売価格が低下することを懸念し,取引先ガラス商に対する社外品の卸売価格を引き下げる等の対抗策を講じてきたところ,輸入品を取り扱うガラス商が増加することにより輸入品の流通が活発化することを抑制するため,積極的に輸入品を取り扱っている取引先ガラス商に対して,社外品の卸売価格を引き上げ,配送の回数を減らす行為を行い,これにより輸入品を取り扱う取引先ガラス商が増加することを抑制している。

 

法令の適用

オートグラス東日本は,積極的に輸入品を取り扱う取引先ガラス商に対して,社外品の卸売価格を引き上げ,配送の回数を減らす行為を行っているものであり,これは,不当に,ある事業者に対し取引の条件又は実施について不利な取扱いをするものであって,不公正な取引方法(昭和57年公正取引委員会告示第15号)の第4項に該当し,独占禁止法第19条の規定に違反するものである。

主文

「オートグラス東日本株式会社は,国産自動車向け補修用ガラスの取引に関し,平成101月ころ以降行っている,積極的に輸入品を取り扱う取引先ガラス販売業者に対し,国産品の卸売価格を引き上げ,配送の回数を減らしている行為を取りやめなければならない。」(主文・以下略)

 


 

 

[事例]

大分県農業協同組合に対する件

排除措置命令平成30223

公正取引委員会ホームページ

19条 一般指定4

 

1. 大分県農業協同組合(以下「大分県農協」という。)は,大分県の区域を地区とし,地区内において農業を営む者等を組合員として,組合員の生産する農産物の販売その他の経済事業等を行っている。

2. 味一ねぎ部会は,大分県農協の事業を推進する組織であり,大分県農協内に事務局を置き,大分県農協から経費の助成を受けている。味一ねぎ部会は,大分県中津市,豊後高田市,杵築市,宇佐市及び国東市の5市(以下「5市」という。)においてこねぎの生産を行っている大分県農協の組合員によって構成され,部会員数は62名であった。国,大分県等は,味一ねぎの生産者育成支援を行っている。

3. こねぎは,大分県においては,主に5市で栽培されている。味一ねぎは,大分県内で生産されるこねぎの中で最も生産量が多い。大分県農協は,「味一ねぎ」の商標登録を受けている。

4. 味一ねぎは,市場価格が著しく低落した場合の生産者の経営への影響を緩和するための補給金の交付を内容とする大分県野菜価格安定事業の対象となっている。野菜価格安定事業の対象となっているこねぎは,味一ねぎのみである。

5. 大分県農協は,国,大分県等から補助金の交付を受けて調整場及びパッケージセンター(以下「集出荷施設」という。)を設置し,組合員に利用させる事業を行っている。こねぎを出荷する際には,収穫後のこねぎについて,洗浄及び皮むきを行った上で,一定の品質及び長さごとに仕分ける調整作業が必要であるところ,大分県農協は,調整場を利用する組合員から持ち込まれたこねぎについて調整作業を行っている。こねぎの出荷に際しては,一定の重量ごとに結束して袋詰めにした上で一定の数量ごとに梱包する出荷前作業を行う必要があるところ,大分県農協は,パッケージセンターにおいて出荷前作業を行っている。大分県農協は,出荷施設を利用する組合員から施設利用料を徴収している。

6. こねぎを生産する大分県農協の組合員の多くは調整作業に関して調整場を利用しているところ,5市及びその近隣の地域において,調整場と同程度の処理能力を有する施設は他に存在しない。

また,5市及びその近隣の地域において,パッケージセンターと同程度の処理能力を有する施設は他に存在しない。

7.大分県農協は,組合員が直接又は調整場を通じてパッケージセンターに出荷したこねぎのうち,味一ねぎ部会と協議の上で定めた出荷規格を満たすものについて,組合員から販売を受託し,当該こねぎを「味一ねぎ」の銘柄で出荷している。大分県農協は,全国農業協同組合連合会に販売を再委託するなどして,共同販売の方法により,味一ねぎに係る販売事業を行っている。

8. 大分県農協の組合員は,味一ねぎに係る販売事業の利用に際し,大分県農協に対して条件を付けずに販売を委託しており,販売価格,販売先等については大分県農協の判断に任せている。

9. 大分県農協は,味一ねぎに係る販売事業を利用した組合員への対価の支払いに関して共同計算を行っており,販売代金から販売手数料,前記7の施設利用料等の費用等を控除し,荷受量(販売を受託したこねぎの量をいう。以下同じ。)に応じた組合員ごとの精算額を算出して,当該精算額を組合員に支払っている。また,大分県農協は,味一ねぎの市場価格が著しく低落し,上記4の大分県野菜価格安定対策事業に基づく補給金が交付された場合,当該補給金を味一ねぎの荷受量に応じて組合員ごとに按分し,組合員に支払っている。

10(1) 味一ねぎ部会は,大分味一ねぎ生産部会が設けた規約等において,部会員が味一ねぎ部会の承認を得ずに大分県農協以外にこねぎを出荷すること(以下,「個人出荷」という。)を認めず,当該個人出荷を行った部会員を除名することができる旨の規定を置いていた。部会員中5名が,味一ねぎの販売価格の下落に伴って大分県農協から支払われる対価が減少し,会社経営上,大分県農協に対するこねぎの販売委託だけで採算をとることが困難な状況になり,大分県農協以外のこねぎの出荷先を新たに確保する必要が生じたことから,大分県農協に対する販売委託に加えて個人出荷を行うようになったところ,味一ねぎ部会は,承認を得ずに個人出荷を続けていることを理由に5名を除名した。

(2) 大分県農協は,前記(1)の除名後,5名が出荷するこねぎを「味一ねぎ」の銘柄で販売せず,別の新たな銘柄で販売する方針を決定し,5名に対して新たな銘柄での販売を検討するよう再三にわたって求めた。このような動きを受けて,5名中1名は,大分県農協に対するこねぎの販売委託を取りやめた。残る4名は,4名が出荷するこねぎの新たな銘柄の決定を大分県農協に一任した。

(3) 大分県農協は,4名に対し,4名のこねぎについて,出荷場所をパッケージセンターから他の施設に変更すること等を通知した。4名は,大分県農協に出荷するこねぎについて,集出荷施設を利用することができなくなった。

(4) 大分県農協は,4名から販売を受託するこねぎについて,出荷前作業を行わず,無銘柄のこねぎとして共同販売するようになった。このように共同販売されていたこねぎに係る対価は,味一ねぎに係る販売事業を利用する場合の対価と比べて低い金額だった,採算が合わなかったこと等から,4名は,大分県農協に対するこねぎの販売委託を取りやめた。

11. 5名の中には,こねぎの出荷量を1割ないし4割程度減少させた者がいた。また,5名は,味一ねぎに係る販売事業を利用することができなくなったため,前記4の野菜価格安定事業に係る補給金の交付を受けることができなくなった。

 

法令の適用

「大分県農協は,こねぎの販売受託に関し,個人出荷を理由として味一ねぎ部会を除名された5名に対して,味一ねぎに係る販売事業等を利用させない行為を行っており,この行為は,大分県農協が,不当に,ある事業者に対し取引の条件について不利な取扱いをしているものであって,不公正な取引方法(昭和57年公正取引委員会告示第15号)の第4項に該当し,独占禁止法第19条の規定に違反する」。


 

 

[参考・判決]

無線配車システムに関する組合決議無効確認等請求事件

東京地方裁判所判決平成13719

判例時報1777154

独禁法19条 一般指定5

 

1. 被告(東京無線タクシー株式会社)は,タクシー事業者を組合員とし,タクシー無線による組合員に対する共同配車等を行うこと目的として中小企業等協同組合法に基づいて設立された事業協同組合である。被告は,組合員の経済的地位の向上を図ることなど目的として上記事業を営んでいる。

2. 被告は,組合員が被告の事業区域内で独自に無線配車システムを導入した場合には,被告が運営する無線配車システムの車載用タクシー無線機を搭載してはならないとの決議を行った。

3. 原告ら(3名)は,それぞれ,被告の組合員でありタクシー事業を営む。

4. 原告らは,前記決議に反して,独自の無線配車システムを装着しながら組合の無線配車の利用をも継続した。

5. 被告は,原告らは「本組合の事業を妨げようとする行為のあった組合員」であり除名事由があるとして除名決議をした。

6. 無線配車を行うためには無線局を設置し電波法に基づく許可を得る必要がある。

7. 原告らが,本件除名決議は,除名理由がなく,また本件除名決議は独占禁止法に違反し,又は権利の濫用であると主張して除名決議の無効の確認を求める等した。

 

裁判所の判断

「組合の目的及び無線配車事業の重要性から見て,組合員が一体となって組合の無線配車に協力し,組合による無線配車の利益を享受しつつ,電波法による無線局設置が許可された利益をタクシー利用者に対して最大限還元し,その結果として組合に対する利用者の信頼を得ることを通じて組合による無線配車事業の発展に寄与することは,無線配車事業によって利益を享受する組合員の当然の責務として予定されていることである。すなわち,組合員にとって,組合に参加して無線配車の利益を受けるためには,その反面として,組合の無線配車に協力して組合の無線配車事業の発展に協力するべき責任をも負わなければならないのであって,このような責任を果たさない者は,組合員として無線配車事業の利益を受ける資格を有すべきではないのである。このことは,定款や運営規程には特別の定めが置かれていないものの,事業協同組合による無線配車事業の性質上当然のことであるといわなければならない。

 もし,原告らのように,組合員が独自の無線配車システムを装着して利用しながら,組合の無線配車をも利用するということになれば,そのような組合員は,自己の独自システムの利用による利益を享受しつつ,一方で組合の無線配車による利益をも獲得しようとしていることになるのであって,無線配車事業を利用する組合員としての責任を十分に果たさないまま,組合の無線配車による利益のみを享受しようとするものにほかならないのであって,特定の組合員にこのような行為が許されるとすれば,組合員の積極的な寄与を前提とする組合の無線配車事業の基盤を根底から覆すことになる。したがって,独自の無線配車システムの利用は,組合の設立目的に真っ向から反する行為であるといわなければならない。

 そして,前記認定の除名決議に至る経緯によれば,原告らは,このような組合の無線配車事業の目的及びその目的を果たすために組合員が果たすべき責任の重要性について全く理解をしないで,独自の見解の下に,独自の無線配車システムを原告らの使用するタクシー全部に装着した上,組合の無線配車の利用をも継続しようと」たのであり,原告らは,「組合の存立の基盤を脅かす行為をした者として,組合の定款122号が除名理由として定める「本組合の事業を妨げようとする行為のあった組合員」に当たることは明らかであるといわなければならない。」「本件除名決議が組合の統制権の濫用であるとは到底言えず,これを権利の濫用として無効とすべき理由もない。」

「また,組合における無線配車事業の性質及び原告らの独自の無線配車システムの利用から除名に至る経緯等の前記の事実関係に照らせば,本件除名決議が,独占禁止法19条,29項,一般指定5にいう「事業者団体からある事業者を不当に排斥し,その事業者の事業活動を著しく困難にさせること」に当たらないことも明らかである。」

 


 

不当廉売

 

[基本・判決][事例]

日本食品(株)による損害賠償請求上告事件(都営と畜場事件)

最高裁判所平成元年1214

最高裁判所民事判例集43122078頁、判例時報135470頁、判例タイムズ731103頁、最高裁判所裁判集民事158571頁、金融・商事判例83933

 独禁法19条 293号(昭和28年指定5

民法709条ほか

 

「昭和28年公正取引委員会告示第11号の5(以下「旧指定の5」という。)により「不当に低い対価をもって,物資,資金その他の経済上の利益を供給・・・・(す)ること」が指定され,その後昭和57年同委員会告示第15号の6(以下「一般指定の6」という。)により旧指定の5が改正され,「正当な理由がないのに商品又は役務をその供給に要する費用を著しく下回る対価で継続して供給し,・・・・他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあること」が指定されている(以下,これらの行為に対する独占禁止法上の規制を「不当廉売規制」という。)。このようなしくみによって不当廉売規制がされているのは,自由競争経済は,需給の調整を市場機構に委ね,事業者が市場の需給関係に適応しつつ価格決定を行う自由を有することを前提とするものであり,企業努力による価格引下げ競争は,本来,競争政策が維持・促進しようとする能率競争の中核をなすものであるが,原価を著しく下回る対価で継続して商品又は役務の供給を行うことは,企業努力又は正常な競争過程を反映せず,競争事業者の事業活動を困難にさせるなど公正な競争秩序に悪影響を及ぼすおそれが多いとみられるため,原則としてこれを禁止し,具体的な場合に右の不当性がないものを除外する趣旨で,旧指定の5にいう「不当に」ないし一般指定の6にいう「正当な理由がないのに」との限定を付したものであると考えられる。そして,その根拠規定である独占禁止法19条の趣旨も,公正な競争秩序を維持ることにあるのであるから,右の「不当に」ないし「正当な理由がないのに」なる要件に当たるかどうか,換言すれば,不当廉売規制に違反するかどうかは,専ら公正な競争秩序維持の見地に立ち,具体的な場合における行為の意図・目的,態様,競争関係の実態及び市場の状況等を総合考慮して判断すべきものである。」

「独占禁止法21項は,事業者とは,商業,工業,金融業その他の事業を行う者をいうと規定しており,この事業はなんらかの経済的利益の供給に対応し反対給付を反覆継続して受ける経済活動を指し,その主体の法的性格は問うところではないから,地方公共団体も,同法の適用除外規定がない以上,かかる経済活動の主体たる関係において事業者に当たると解すべきである。」

 

1. 上告人は,東京都荒川区内に三河島ミートプラント(以下「三河島」という。)を設置して獣畜のと殺解体業を営むと畜業者であり,被上告人は東京都港区内東京都中央卸売市場食肉市場(以下「都食肉市場」という。)に併設されている東京都立芝浦屠場(以下「芝浦」という。)の設置管理者としてと場料を徴収してと畜場事業を経営する地方公共団体である。

2. 東京都23区内において,110頭以上の大動物(牛・馬)の処理能力を有する一般と畜場は上記2つのみである。

3. と畜場法(昭和28年法律第114号)にもとづき,と畜場の設置管理者又はと畜業者は,と畜場使用料又はと殺解体料(以下,これらを「と場料」という。)の額の設定及び変更については都道府県知事の認可を受けなければならず(同法81項),右認可額を超えると場料を受けることは禁じられている。

3. 芝浦におけると場料の実徴収額は,東京都知事の認可額どおりであり,昭和40年度以降継続して原価を大幅に下回り,本件係争年間(昭和5441日から昭和58122日まで)における額は2480円ないし3480円であった。

4. 芝浦の実徴収料が前記4のようなものであったのは,①と場料の値上げには生産者が敏感に反応して,芝浦への生体の集荷量の減少,都食肉市場の卸売価格ひいて都民に対する小売価格の高騰を招く可能性があるところから,②かかる事態を回避して集荷量の確保及び価格の安定を図るとの政策目的達成のため,③赤字経営の防止よりは物価抑制策を優先させることとし,④東京都一般会計からの補助金により赤字分を補填してきたことによるものだった。

5. 三河島においては,長年にわたり実徴収額が認可額を下回り,本件係争年間において,認可額は8000円であるのに実徴収額は5800円にとどまった。

6. 生産者の出荷先は広範囲に及ぶ。本件係争年間において大動物につき1日の処理能力又は実処理頭数が10頭以上の規模を有する一般と畜場は,首都圏を含む関東及び東北の111県の59事業者にのぼり,三河島及び芝浦は,右事業者との間でそれぞれ競争関係に立っている。

7. 上記59社のうち47事業者が,三河島のと場料の実徴収額より低い認可額で営業している(うち半分近くが民営業者)。

8. 上告人は,他の競争事業者との関係から,認可額を下回る実徴収額とせざるを得なかった。

9. 芝浦においては,と場料のほか都食肉市場の卸売業者に対しと畜解体及び販売を委託する委託手数料等を負担する必要がある。市場外流通である三河島の場合にはその負担がない。

10. 近年では,生産地に近い食肉センター型のと畜場のシェアが著しく増加している。三河島は,消費地型の単独と畜場であり,シェアは衰退傾向にある。他方で,消費地型ではあっても食肉市場に併設されている芝浦では,三河島に比し衰退傾向がそれほどではない。

裁判所の判断

「被上告人は、と場料を徴収してと畜場事業を経営する地方公共団体であるが、昭和40年度以降、本件係争年間を含め、認可額どおりであるとはいえ原価を著しく下回ると場料を徴収してきたものであって、このように芝浦のと場料が長期間にわたり低簾で推移してきたのは、原審が適法に確定したところによると、と場料の値上げには生産者が敏感に反応して、芝浦への生体の集荷量の減少、都食肉市場の卸売価格ひいて都民に対する小売価格の高騰を招く可能性があるところから、かかる事態を回避して集荷量の確保及び価格の安定を図るとの政策目的達成のため、赤字経営の防止よりは物価抑制策を優先させることとし、東京都一般会計からの補助金により赤字分を補填してきたことによる、というのである。料金認可制度の下においても不当廉売規制が及ぶことは前記説示のとおりであり、また、公営中心主義を廃止したと畜場法の下において、公営企業であると畜場の事業主体が特定の政策目的から廉売行為に出たというだけでは、公正競争阻害性を欠くということはできないことも独占禁止法19条の規定の趣旨から明らかである。公営中心主義を廃止したと畜場法の下において,公営企業であると畜場の事業主体が特定の政策目的から廉売行為に出たというだけでは,公正競争阻害性を欠くということはできない。しかしながら,被上告人の意図・目的が右のようなものであって,前示のような三河島及び芝浦を含むと畜場事業の競争関係の実態,ことに競争の地理的範囲,競争事業者の認可額の実情,と畜場市場の状況,上告人の実徴収額が認可額を下回った事情等を総合考慮すれば,被上告人の前示行為は,公正な競争を阻害するものではないといわざるを得ず,旧指定の5にいう「不当に」ないし一般指定の6にいう「正当な理由がないのに」した行為に当たるものということはできないから,被上告人の右行為は独占禁止法19条に違反するものではない。」

 


 

[基本・判決]

ヤマト運輸対日本郵政公社(ゆうパック)差止請求控訴事件

東京高等裁判所判決平成191128

審決集54699頁、判例時報203434頁、金融・商事判例128244

独禁法19条 293号 一般指定6

独禁法24

 

「(1)不当廉売の規制の趣旨等について

・・・不当廉売が不公正な取引方法として規制されているのは,自由競争経済は,需給の調整を市場機構に委ね,事業者が市場の需給関係に適応しつつ価格決定を行う自由を有することを前提とするものであり,企業努力による価格引下げ競争は,本来,競争政策が維持・促進しようとする能率競争の中核をなすものであるが,正当な理由がないのに商品若しくは役務を供給に要する費用を著しく下回る対価で継続して供給し,又は不当に商品若しくは役務を低い対価で供給することは,企業努力又は正常な競争過程を反映せず,競争事業者の事業活動を困難にさせるなど公正な競争秩序に悪影響を及ぼすおそれが高いとみられるためであると考えられる(最高裁昭和61年(オ)第655号平成元年1214日第1小法廷判決・民集43122078頁参照)。

イ ところで,一般指定6項は,独占禁止法292号(不当な対価をもって取引することに該当する行為で,公正な競争を阻害するおそれがあるもの)をうけて,「正当な理由がないのに商品又は役務をその供給に要する費用を著しく下回る対価で継続して供給し�他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあること。」(一般指定6項前段)と「不当に商品又は役務を低い対価で供給し,他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあること。」(一般指定6項後段)とを指定する。

 この文意に照らせば,供給費用を著しく下回る対価で継続して供給することに係る前段の行為は,競争秩序の観点から正当な理由がない限りは,通常はそれ自体で,公正な競争を阻害するおそれがあるものとして,後段の適用を検討するまでもなく,不公正な取引方法に該当し,低い対価での供給に係る後段の行為は,それ自体で常に不公正な取引方法ということはできないが,競争秩序の観点から不当と認められるときには,公正な競争を阻害するおそれがあるものとして,不公正な取引方法に該当するものと解される。すなわち,前段行為に該当する限り後段行為に該当せず,概念上,相互に重複を予定しないという意味では,両者は並列の関係にあるということができる。もっとも,独禁法292号との関係でいえば,同号に積極的に該当する行為を前段行為とし,その余の公正な競争を阻害するおそれがある行為を後段行為として総括したということができるから,「供給に要する費用を著しく下回る対価」とは,不当に低い対価に該当する典型的な場合を例示したものと解することができる(公正取引委員会事務局が昭和591120日に明らかにした「不当廉売に関する独占禁止法上の考え方」)。

ウ 不当廉売を規制した趣旨が公正な競争秩序の維持の観点から役務又は商品の対価を規制することにあることからすれば,市場価格を超える対価は,競争事業者を排除する競争阻害的効果を有しないから,ここでの規律の対象とする理由はない。

 市場価格を下回る対価で役務等を供給することは,その対価が事業者の効率性によって達成したものであれば,他の事業者の効率向上を刺激するものであって競争を阻害するものではないが,供給費用を下回る対価で商品又は役務を提供すること(採算割れ販売)は,経済合理性に欠け,競争事業者を排除する競争阻害的効果を有することとなり,廉価販売としての規制が必要になるところ,商品又は役務の対価が営業原価に販売費及び一般管理費を加えた総販売原価を上回るときは,事業者の効率性によって達成した対価とみることができるのに対し,商品又は役務の対価が総販売原価を下回るときは,通常は,採算を度外視した競争阻害的な効果を有すると考えられる。

 この観点からすれば,一般指定6項は,市場価格を下回る対価を規制の対象とし,前段においては,「その供給に要する費用」すなわち総販売原価を著しく下回る対価での継続的供給を原則として不公正な取引とし,後段においては,役務等の供給の対価が総販売価格を下回るが,その程度が著しくない場合又は供給の態様が継続的でない場合でも,公正な競争秩序の維持という観点から不当と認められる対価での役務等の供給を不公正な取引としたものと解するのが相当である。

 この点について,控訴人は,「一般指定6項後段が一般指定6項前段とは別に規定されていることからすれば,一般指定6項後段には,供給に要する費用を下回らないけれども,不当性のある市場価格を下回る価格で役務を供給する場合を含むと解すべきである。」旨主張する。しかし,たとえ市場価格を下回る対価であっても,「供給に要する費用」を上回る対価で供給している場合には,当該事業者の効率性を反映した対価として経済合理性を有し,効率性向上による競争を促進するものといえるから,このようなものまで一般指定6項後段の「不当に�低い対価」に含ませることは同項を設けた趣旨に沿わず,採用することができない。」

 

「原告は,「被告の一般小包郵便物(ゆうパック)は,税金の免除をはじめとする種々の優遇措置によって成り立っており,被告の一般小包郵便物(ゆうパック)単独では,赤字である。税金の優遇措置による利益の合計は,約5708000万円となるところ,これを郵便事業の中の各事業別の営業費用の割合に従って配賦すると,このうち,約526000万円が小包郵便物の事業の負担となるはずであり,また,原告の試算によれば,駐車禁止の規制が除外される優遇措置によって,約947753万円の費用を免れている。」旨主張する。

 確かに,「供給に要する費用」とは,前記のとおり,当該行為を行っている者の供給に要する費用であって,業界一般の供給に要する費用又は特定の競争者の費用を基準とすべきでないというべきであるが,原価を形成する要因が,いわゆる企業努力によるものでなく,当該事業者の場合にのみ妥当する特殊な事情によるものであるときに,これらの特殊事情の存在を考慮する必要があることは,原告の主張するとおりである。

 しかし,まず,所得税,事業税及び住民税の支払が免除されていることについてみれば,これらは,本来利益に課せられるものであるか,利益の有無にかかわらず,一定の基準の下に課せられる性質のものであって,いずれも総販売原価を構成する性質のものではなく,所得税,事業税及び住民税の支払に要する費用は,一般指定6項前段の「供給に要する費用」とはいえないから,所得税,事業税及び住民税の支払を免れているとの事情を被告の「供給に要する費用」を形成する要因として考慮するのは相当とはいえない。」「したがって,原告の主張するように,被告の一般小包郵便物(ゆうパック)に関する事業は,税金の免除をはじめとする種々の優遇措置によって成り立っており,被告の一般小包郵便物(ゆうパック)単独では赤字であるとの前提が存在するとして,一般小包郵便物(ゆうパック)の供給が「供給に要する費用」を下回っていると認めることはできない。」

「以上のとおり,本件においては,一般小包郵便物(ゆうパック)における総販売原価については,どのような項目で構成され,その額がいくらであり,その総額がいくらになるかについて,具体的な主張,立証がされていないうえ,原告の主張する各事由を個別に検討しても,被告の新料金体系に基づく一般小包郵便物(ゆうパック)の役務が一般指定6項前段の「その供給に要する費用�下回る対価」で供給されているという事実を認めることは困難である。」

「被告が,一般小包郵便物(ゆうパック)の役務を,一般指定6項後段の「不当に�低い対価で供給し」ていると認めることはできない。」

 

一般指定6項の「他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれ」の有無について

一般指定6項の「他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがある」とは,他の事業者の事業活動を困難にさせる結果が招来される蓋然性が認められる場合を指すと解されるところ,他の事業者の事業活動を困難にさせる結果を招来させる蓋然性が認められるか否かは,不当廉売の規制の趣旨が公正な競争秩序を維持することにあることからして,①廉売を行っているとされる事業者の事業の規模及び態様,②廉売とされている役務又は商品の性質,その供給の数量及び期間,方法,③廉売によって影響を受けるとされる他の事業者の事業の規模及び態様等を総合的に考慮して判断するのが相当である。

 

「「前提となる事実」及び前記認定事実によれば,次の各事実が認められる。

a 平成15年度から平成183月期までの市場占有率の変化をみると,平成15年度には,控訴人が1位(取扱個数335パーセント,売上高408パーセント),佐川急便が2位(取扱個数310パーセント,売上高293パーセント),日本通運が3位(取扱個数126パーセント,売上高117パーセント),福山通運が4位(取扱個数99パーセント,売上高68パーセント),被控訴人が5位(取扱個数60パーセント,売上高65パーセント)であり,平成183月期までに,取扱個数による順位の変化はなかったが,控訴人には21ポイント,被控訴人には18ポイントの拡大傾向が,日本通運には1.8ポイント,福山通運には1.3ポイントの減少傾向が認められ,これに被控訴人の一般小包郵便物(ゆうパック)の事業規模に比べ,控訴人の宅急便の事業規模が大きいことをも考慮すると,日本通運及び福山通運の市場占有率の減少は被控訴人の事業のみによるものと断定するには足りないこと

b 同年度の平均単価は,被告の一般小包郵便物(ゆうパック)が605.4円であったのに対し,原告の宅急便は682.5円であり,また,佐川急便の宅配便が530.2円,日本通運の宅配便が519円,福山通運株式会社の宅配便が383.2円,西濃運輸株式会社の宅配便が362.9円であったこと

c 原告の宅急便取扱個数は,平成164月から同年9月までの合計50972.9万個が平成15年の同時期と比べると105パーセントであったところ,平成1610月から平成173月までの合計55332.8万個も平成15年の同時期と比べても105.3パーセントとなっていたこと

d 原告の平成16年度の宅急便取扱個数は,106300万個で,平成15年度に比べて5.1パーセント増加し,原告の平成16年度の宅急便の営業収益は,7085300万円で平成15年度に比べて2.7パーセント増加したこと

e 原告の平成1741日から同年630日までの宅急便取扱個数は,25100万個で,平成16年の同時期と比べて7パーセント増加したこと

f 原告の平成1741日から同年630日までの宅急便の売上高は,16448400万円で,平成16年の同時期と比べて4.5パーセント増加したこと

g 原告は,平成167月から「超速宅急便」のエリアを拡大するとともに,宅急便のお届日・時間帯をeメールで知らせる「宅急便お届け通知サービス」を開始し,同年11月から担当セールスドライバーの携帯電話に顧客の要望を連絡する「ドライバーダイレクト」を開始したこと

h さらに,原告は,平成17年度(平成183月期)における宅急便取扱個数を,前年比5.1パーセント増の111700万個と予想し,同期における宅急便売上を,前年比3.5パーセント増の7330億円と予想していること

ウ 以上によれば,被控訴人の一般小包郵便物(ゆうパック)は,平成15年度から平成183月期に至るまで,宅配便業界における市場占有率は第5位で,取扱個数も最大7.8パーセントを占めるに止まり,被控訴人が控訴人以外の事業者との間で競争阻害的価格を設定しているとは認められないこと,一方,競争関係にあると解される控訴人との対比においても,控訴人の宅急便は,一般小包郵便物(ゆうパック)の新料金体系が導入された平成1610月以降も,宅急便の単価を減少させる一方で,売上及び収益を増やしており,控訴人自身もそのような傾向が今後も続くものと予想していること,控訴人の宅急便は,その平均単価が被控訴人及び他の事業者と比較して高額であるにもかかわらず,平成15年度から平成183月期に至るまで,第1位の市場占有率(取扱個数)を維持している上,さらにその市場占有率が拡大傾向にあること,また,本件の口頭弁論終結時(郵政民営化法の施行前)において,上記の事情に変化が生じていると認めるに足りる的確な証拠はないこと等の諸事情を勘案すると,被控訴人の新料金体系に基づく一般小包郵便物(ゆうパック)の役務の供給によって,控訴人ひいては他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれが存在すると認めることは困難である。

エ 控訴人は,一般小包郵便物(ゆうパック)の個人向けの定価は,宅急便の個人向けの定価より100円程度安く,一般小包郵便物(ゆうパック)の大口法人向け特別料金表は宅急便の大口向け実勢価格より150円程度安く,平成173月期の控訴人の宅急便1個当たりの平均営業利益は約32円であるところ,控訴人が一般小包郵便物(ゆうパック)に追随して値下げをすれば,大幅な赤字になって事業の継続は不可能となるから,被控訴人の一般小包郵便物(ゆうパック)の価格設定は,個人向け,法人向けの両方で不当廉売に当たり,控訴人の事業活動を困難にさせるおそれがあるなどと主張する。

 しかしながら,前記(前記コ「ウ」・本判決17頁)のとおり,控訴人の宅急便は,主要な宅急便取扱業者の中で平均単価が最も高いにもかかわらず,最大の市場占有率を維持している上,その市場占有率が拡大傾向にあるというのであり,その理由としては,宅配便市場においては,控訴人のサービスレベルの向上等の営業努力により,そのサービス内容,信用,実績,企業姿勢等が利用者に高く評価されており,価格は高くても控訴人の宅急便サービスを選択する利用者が多いことが考えられるところ(甲78),本件の口頭弁論終結時(郵政民営化法の施行前)において,上記の事情に変化が生じていると認めるに足りる的確な証拠はないことからすれば,そもそも,控訴人が被控訴人に追随して値下げをしなければ控訴人の事業活動を困難にさせるおそれがあるということはできないというべきであるから,控訴人の上記主張を採用することはできない。

オ なお,控訴人は,控訴人の平成193月期の連結決算が経常減益になったとして,一般指定6項の「他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれ」があると主張する。しかし,甲68によれば,控訴人の経常利益は前期比3パーセント減の691億円であり,売上高が増加したにもかかわらず,営業利益が2パーセント減の671億円(減益分は13.7億円程度と算定される。)となった要因としては,人員を大量に採用したことに加え宅急便の単価下落も響いたものの,原油価格の上昇が約30億円の減益要因であるとされているのであって,原油価格の上昇による減益額が上記営業利益の減額分を上回る上,連結決算における経常減益の理由の詳細は明らかではないのであるから,上記の事情は,前記認定を左右するものではない。

6)小括

以上によれば,被控訴人の新料金体系に基づく一般小包郵便物(ゆうパック)の役務の供給は,上記検討に係る事実関係の下において一般指定6項所定の不公正な取引方法に当たると認めるに足りず,本件口頭弁論終結時において,同項所定の不公正な取引方法に当たると認めることもできない。」

 

「ア 一般指定6項前段の「供給に要する費用」の算定とスタンドアローンコスト方式について

(ア)控訴人は,一般指定6項前段の「供給に要する費用」の算定に関し,一般的に,独占領域を有する事業者が専有している範囲の経済を用いて競争分野において行う事業については,スタンドアローンコスト方式を用いて原価の判断を行うことが適切であるところ,被控訴人は,信書事業という独占領域を専有しながら小包事業という競争事業を行っているのであるから,小包事業についてはスタンドアローンコスト方式で算定すべきであると主張する。

 一般指定6項前段の「供給に要する費用」の算定に関し,事業者が複数の事業を営む場合の共通費用の割り振りの方法については,大別して,〔1〕スタンドアローンコスト方式,〔2〕増分費用方式,〔3〕共通費用配賦方式(ABC方式)の考え方があるとされている。〔1〕スタンドアローンコスト方式とは,競争分野の事業のみを単独で行う際に必要とする費用を算定し,残余の費用を独占領域の事業を行う場合の費用とする(共通費用は競争分野の事業の費用となる)方法をいい,〔2〕増分費用方式とは,独占領域の事業のみを単独で行う際に必要とする費用を算定し,残余の費用を競争分野の事業を行う場合の費用とする(共通費用は独占領域の事業の費用となる)方法をいい,〔3〕共通費用配賦方式(ABC方式)とは,専ら独占領域の事業に要する費用及び専ら競争分野の事業に要する費用を除いた共通費用を,独占領域の事業及び競争分野の事業それぞれに要する作業時間や専有面積,体積等に応じた配分比により費用配賦する方法をいう。」

 「企業会計上は,複数の事業に共通する費用が存在する場合,これを当該費用の発生により各事業が便益を受ける程度等に応じ,各事業者が実情に即して合理的に選択した配賦基準に従って配賦されることが一般的であり,スタンドアローンコスト方式を採用することは実務上行われておらず,一般指定6項の適用に際して,同方式を採用した事例も存しないことが認められる。また,事業者が既存の事業と関連する事業に参入する際に,既存の事業における人的物的資源を共用することによって,事業の経費を節約し,より安い対価で商品や役務を供給すること(範囲の経済の活用)自体は,経済的に合理性のある行為と評価することができ,一般指定6項の適用に際しても,共通費用の割り振りについては,一般的に共通費用配賦方式により,共通費用を複数の事業に配賦して各事業の費用を算定することが合理的であるところ,費用の算定方法として,事業者が独占領域の事業と競争分野の事業とを行う場合に限り,スタンドアローンコスト方式のみが許容され,共通費用配賦方式(ABC方式)は許容されないとするのは,費用の算定という本来は統一的な会計基準にしたがって行われるべき計算過程について,特定の事業についてのみ競争政策的観点から変更を加えるものであり,政策論としてはともかく,一般指定6項の適用に係る法解釈として,直ちに採用することはできない。

 そして,本件の口頭弁論終結時(郵政民営化法の施行前)において,一般指定6項前段の「供給に要する費用」の算定に関し,一般小包郵便物(ゆうパック)の役務の供給に要する費用の算定を,共通費用配賦方式で行うことを否定すべき事情は認められないから,スタンドアローンコスト方式で算定すべきであるとする控訴人の主張は採用することができない。」

 

独占禁止法24条にいう「著しい損害」について

「(1独占禁止法24条にいう「著しい損害」の要件は,一般に差止請求を認容するには損害賠償請求を認容する場合よりも高度の違法性を要するとされていることを踏まえつつ,不正競争防止法等他の法律に基づく差止請求権との均衡や過度に厳格な要件を課した場合は差止請求の制度の利用価値が減殺されることにも留意しつつ定められたものであって,例えば,当該事業者が市場から排除されるおそれがある場合や新規参入が阻止されている場合等独占禁止法違反行為によって回復し難い損害が生ずる場合や,金銭賠償では救済として不十分な場合等がこの要件に該当するものと解される。

2)控訴人は,控訴人が一般小包郵便物(ゆうパック)に追随して値下げをすれば,大幅な赤字になって事業の継続は不可能となるし,また,被控訴人の一般小包郵便物(ゆうパック)の新料金体系が導入された平成1610月以降,料金が安いこと等を理由に控訴人の宅急便の大口法人顧客(13社,合計2182万個)や個人発宅急便の取次所となるコンビニエンスストア(約19400)が相次いで控訴人との取引を中止して一般小包郵便物(ゆうパック)に切り替えており,被控訴人の一般小包郵便物(ゆうパック)の価格設定により,独占禁止法24条にいう著しい損害を生じ,又は生ずるおそれがあるなどと主張する。

 しかしながら,前記(前記22)コ「ウ」・本判決17頁)によれば,控訴人の宅急便は,一般小包郵便物(ゆうパック)の新料金体系が導入された平成1610月以降も,宅急便の単価を減少させる一方で,売上及び収益を増やしており,控訴人自身もそのような傾向が今後も続くものと予想しており,控訴人の宅急便は,その平均単価が被控訴人及び他の事業者と比較して高額であるにもかかわらず,平成15年度から平成183月期に至るまで,第1位の市場占有率(取扱個数)を維持している上,さらにその市場占有率が拡大傾向にあるというのであって,本件の口頭弁論終結時(郵政民営化法の施行前)において,上記の事情に変化が生じていると認めるに足りる的確な証拠はないから,被控訴人がコンビニエンスストアを取次所とするなどして,新料金体系に基づく一般小包郵便物(ゆうパック)の役務の供給をすることによって,控訴人について,独占禁止法24条にいう「著しい損害」が生じているとは認められない。」


 

[基本・判決][事例]

株式会社中部読売新聞社に係る緊急停止命令申立事件

東京高等裁判所決定昭和50430

高等裁判所民事判例集282174頁、行政事件裁判例集264670頁、判例時報77630頁、判例タイムズ332126頁、東京高等裁判所(民事)判決時報26465頁、金融・商事判例4548

独禁法19条 一般指定6(昭和28年指定11

独禁法67

 

独占禁止法上一般に不公正な取引方法を構成するいわゆる不当廉価とは単に市場価格を下回るというのではなく,その原価を下回る価格をいうと解すべき」である。

「独占禁止法上互いに競争関係にある事業者の1人がその物資等を提供する対価が不当に廉価であって不公正な取引方法に当るかどうかを判断するに当っては,その原価を形成する要因が,そのいわゆる企業努力によるものでなく,当該事業者の場合にのみ妥当する特殊な事情によるものであるときは,これを考慮の外におき,そのような事情のない一般の独立の事業者が自らの責任において,その規模の企業を維持するため経済上通常計上すべき費目を基準としなければならないからである。この理は,巨大な資力を有する事業者が一定期間採算を度外視する圧倒的な廉価で,自己の商品を販売し,あるいは,ある事業者が1の業種による利益を投入して他の業種につき圧倒的な廉価で商品を提供する等により,当該市場において競争上優位に立とうとする場合,当該事業者としてはその全体の収支の上では損失はないとしても,この対抗を受ける他の競争事業者の被むる損害は甚大であり,公正な競争秩序が阻害されることは明らかで,独占禁止法は,このような競争手段を不公正なものとして禁止するのでなければ無意味に帰するから,これを不当対価としてとらえるのであって,その際,基準となるべきものは,あくまで,経済上通常要すべき費目によって算定されるべき原価でなければならない」。

 

(「およそ新聞を発行して顧客を獲得し版路を開拓するには,新聞の公共性に鑑み,新聞に掲載される言論,思想,文化,報道,記事等の程度内容により評価される新聞の価値にしたがい,読者の自由な選択に委せる方法によって,他の競争関係にある各新聞との間で公正に競争すべきであり,これを特殊な事情に基づいて通常の場合の原価を下回る廉価をもって競争することは公正な競争を阻害するものというべきである。」)

 

1. 被申立人(株式会社中部読売新聞社)は,愛知,三重,岐阜の3県(以下東海3県という。)を販売地域として,昭和50325日から,おおむね6か月後の販売目標部数を50万部とする「中部読売新聞」16ページ建朝刊(以下中部読売新聞という。)の発行を開始した。

2. 被申立人は,東海3県の各県版等(新聞の極一部にあたる。)を独自に編集製作する。その余は,読売新聞社との業務提携に基づき,主要部分は読売新聞社からファクシミリ送信を受けた読売新聞の記載をそのまま使用している。その他,文化欄,娯楽欄は組みかえて合成し,スポーツ欄一部は漢字テレタイプ送信されたものから製作している。

3. 被申立人は,中部読売新聞を販売価格を1か月一部当り金500円と定めて販売している。

4. 被申立人の前記販売価格の算定根拠では,発行部数は50万部であり,その損益計算の結果は損益なく零となるものとされている。しかしながら,経済上通常要すべき費目によって算定するならば,被申立人の利益を零とした場合の販売原価は一部当り金812円となる。

5. 東海3県においては,中日新聞,朝日新聞,毎日新聞その他新聞発行業者が販路を確立している。新聞普及度は,世帯数に対し90%余である。被申立人は,中部読売新聞の発行によりこれらと競争関係に立つこととなる。これら各紙の月ぎめ一部価格は,①中日,朝日,毎日がいずれも朝夕刊セット版1,700円,統合版1,300円,②岐阜日日新聞が朝夕刊セット版1,600円,朝刊1,200円,③伊勢新聞が朝刊1,000円等である。

6. 被申立人は,中部読売新聞を一部当たり500円で販売し,新聞発行業者に伍して競争上有利な地位を占めようとしている。

7. 被申立人による中部読売新聞の発行後,東海3県においては中日,朝日,毎日その他の新聞の顧客が継続購読を中止し,中部読売新聞に切り替える者が続出している。

8. 公取委が,緊急停止命令を発すべきであるとして次の通り申立を行った。

「被申立人が中部読売新聞を1か月一部当り金500円で販売することはもとより,少くとも金812円未満で販売することは,独占禁止法272号,昭和28年公正取引委員会告示11号不公正な取引方法5号にいわゆる不当に低い対価をもって,物資を供給するものであり,不公正な取引方法を用いることに該当し,同法19条に違反する疑いがある。」

緊急停止命令を発すべき必要性について,「被申立人が中部読売新聞を発行した後東海3県において競争関係にある中日,朝日,毎日その他の新聞の同地方の顧客が継続購読を中止して中部読売新聞に切替える者が続出していることは前記のとおりで,この事態を申立人が審決をもって排除措置を命ずるまで放置するときは,勢いのおもむくところ,他の競争事業者もこれに対抗するため,各種の手段を講ずることは必至であり,同地域における新聞販売事業の公正な競争秩序は侵害され,回復し難い状況におちいるものというはかないことは明らかであるから,被申立人の前記行為は,直ちにこれを停止すべき緊急の必要性が存在する。」

 

主文

「被申立人は,本件事実について公正取引委員会の審決があるまで,中部読売新聞16ページ建朝刊を1か月一部当り金812円を下回る価格で販売してはならない。」

 

 

(参考)

原価を構成する各費目について

「(1) 広告収入について

被申立人は,読売新聞社から,読売新聞の広告を月間2,400段掲載する広告料として1段当り全115,500円の割合で支払を受ける旨約定したから,右約定額がその広告収入額であると主張し,疎明資料からは右約定が成立したことが認められる。しかし,これは読売新聞社との特殊な事情によるものであるから,この要因は考慮すべきではなく,競争場裡にある事業者か通常得られるべき広告料金を収入として計上すべきであることは前記のとおりである。疎明資料によると,長期大口需要の場合の広告料金が逓減されること,被申立人と同程度の規模の読売新聞・西部本社の最低広告料金は1段当り金97,400円であることが認められ,月間2,400段の長期大口需要者から通常得られるべき広告料金は1段当り金97,400円とするのが相当である。そうすると,広告収入は,申立人主張のとおり,被申立人主張額から金4,344万円 〔(115,500-97,400)�2,4004,344万円〕を減額するのが相当である。

2) 編集費について

① 被申立人は,読売新聞社と業務提携し,同社の編集した読売新聞の記事,広告の大部分をそのまま使用するので,編集に要する人件費,交通費は,被申立人の独自の活動としては大部分が不必要であり,編集局費として,同社に対し,同社の編集荷費から人件費,交通費を除く額に,読売新聞発行部数(朝夕刊合計660万部)に対する中部読売新聞発行部数(50万部)の割合7%の2分の1(すなわち3.5%)相当額を支払うこととしたため,読売新聞社編集局費分担金549万円,名古屋総局等経費金130万円合計金679万円が同社に支払うべき経費であるという。

しかし,このような編集費算定の方法は読売新聞社との特別な関係に基づくものであって,是認できないことは前記のとおりである。新聞を発行する事業者が新聞を編集するには多額の人件費(読売新聞社の場合,取材編集等の人件費は,編集局費の64%に達することが認められる。),交通費を含む諸多の経費を要するのであるから,仮に読売新聞社との業務提携によって編集ずみの記事をそのまま使用する場合においても,その使用の対価は,本来その製作費に当るものであるから,これらのすべての費用を含めて計算されるべきであり,新聞製作費は少くともその発行部数に比例するものを下ることはありえないから,その額は,読売新聞社の人件費等を含む編集局費を基準としてこれに前記発行部数割合7%を乗じた額とするのが相当であり,疎明資料によると,その額は申立人主張のとおり金5,626万円であることが認められる。

② 被申立人は,中部読売新聞の発行にあたり,プロジェクトチームをもうけ,その企画実行にあったが,読売新聞社の通常業務と兼務で行なったからその人件費は零であると主張する。しかし,被申立人の業務を行なった以上その人件費を計上すべきことは当然であり,右主張は失当というほかなく,疎明資料によると,申立人主張のとおり金226万円(編集局従業員1人当り平均賃金323,000円の7人分)が,その額にあたることが認められるから,これを編集費の一部に計上しなければならない。

③ 被申立人は,取材編集に要する機報機器(ファクシミリ,電送,漢字テレタイプなど)は,被申立人が読売新聞社から賃借して使用することとし,その賃料は,機報機器取得額金42,300万円を10年で償却する場合の償却額相当額金350万円と約定したとし,その額を経費に計上する。しかし,そのような約定額を計算基礎とすることができない点は,編集局費に関する前記説示と同様であり,通常要すべき経費としては,少くとも右取得額に対する償却期間中の金利の当該期間に対応する分はこれに加算すべきであり,申立人提出の疎明資料によると,右の相当金利は年12%であることが認められ,その賃料相当額は金773万円(350万円+42,300万円�年利12%�12か月=350万円+423万円=773万円)であることが計算上明らかである。

④ 被申立人は編集費内訳の経費として以上のほかファクシミリ回線使用料月額金282万円,被申立人の独自の取材分に関する経費月額金850万円を計上し,申立人は石額を是認している。

以上①から④の各経費を合計した,編集費として計上すべき額は申立人主張額7,756万円より下ることはない。

3) 工務費について

① 被申立人は,読売新聞社との業務提携により同社に対し,同社の工務局費中被申立人が負担する金額を月額料330万円とする旨約定したので,その額が経費として計上される工務局費額であると主張する。しかし,被申立人主張の約定による額を本件の販売価格計算の基礎とすることができないことは,前述のとおりである。販売価格の計算上読売新聞社に通常支払うことを要する工務局費負担部分は,同社の工務局費のうちファクシミリ送信にいたるまでに要した費用に前記発行部数割合7%を乗じた額とするのが相当であり,その額は疎明資料によると,申立人主張のとおり金1,303万円であることが認められる。

② 被申立人は,独自の工務部経費として月額全150万円を計上しており,申立人もこれを是認する。

以上①②の各経費を合計した,工務費として計上すべき額は,申立人主張のとおり,月額金1,453万円となる。

4) 広告費について

被申立人は広告費として月額全5,515万円を計上するが,前記(1)のように広告料収入が減少するのに伴ない広告代理店手数料(疎明資料によると,15%であることが認められる。)も減額すべきであり,その月額は全652万円(4,344万円�0.15652万円)であることが計算上明らかであるから,広告費は申立人主張のとおり月額金4,863万円となる。

5) 販売費について

被申立人は,販売経路につき従前他の新聞販売につき採られているような専売店制度をもうけておらず,読売販売サービス株式会社から直接に,配達店または販売店,即売店(以下配達店等という。)に行き,そこから読者に販売される経籍をとっているので,月間一部当り配達店等手数料金300円,販売経費金50円,販売雑費金10円として,販売費は金18,000万円であると主張する。

しかし,疎明資料によると,被申立人は,名古屋市,春日井市,一宮市については専売店をもうけていないが,その他の販売地域には専売店をもうけており,その専売店が取扱う部数は月間32万部(全体の64%)に達し,これら専売店に支払われるものは,前記の月間一部当り販売手数料金300円,販売経費金50円,合計金350円であること(販売雑費金10円は専ら読売販売サービス株式会社および販売センターに支払われるものである。),読売新聞社の専売店に対する統合版の月間一部当り販売手数料は金455円,販売維持費(前記販売経費に対応するもの)は金342円,合計金797円であることが認められる。右事実によると,被申立人の専売店に対する支払額は,通常支払われるべき額よりは著しく低額であり,販売維持費はさておくとしても,読売新聞社の右販売手数料と同一の金455円は少くとも計上すべきものである。被申立人主張の前記販売費のうち,専売店経費金11,200万円〔(30050)円�32万部=11,200万円〕は相当ではなく,その額は申立人主張のとおり金14,560万円(455円�32万部=14,560万円)とするのが相当である。右のように修正すると,販売費は他の18万部の部分を含め,金21,360万円(14,560万円+350円�18万部+1050万部=21,360万円)となる。

6) 減価償却費について

被申立人は資産の減価償却費を損益計算上全く計上していないが,資産の減価償却費が必要経費にあたり損益計算上これを計上すべきことは当然であり,疎明資料によると,被申立人の資産は金447,501万円相当で,各物件毎に法定年限による定額償却をした場合,その月額は合計金1,988万円であることが認められる。」

「以上の事実によって損益計算すると,被申立人が中部読売新聞を1カ月一部当り金500円で販売すると,総額で1カ月当り申立人主張の金15,609万円を下らない損失を生じ,これを一部当りにすると,金312円の赤字となる。すなわち,被申立人の利益を零とした場合の販売原価は,一部当り金812円となる。」

 

 

 

[参考・審決]

(株)中部読売新聞社に対する件

同意審決昭和521124

審決集2450

独禁法19条 293号 一般指定6

 

1. 被審人(株式会社中部読売新聞社)は,愛知県,岐阜県及び三重県(以下「東海3県」という。)を販売地域として昭和50325日から,中部読売新聞と題する日刊紙(16ページ建)(以下「中部読売新聞」という。)の発行を開始した。

2. 被審人は,おおむね6か月後の販売目標部数を50万部とする。

3. 被審人は,中部読売新聞の月ぎめ購読料金を金500円と定めた。

4. 被審人における中部読売新聞にかかる損益計算の結果は,損益なく零となっている。

5. 中部読売新聞の購読料金500円の根拠となった原価は,同社の企業努力によるものというよりは,同人が株式会社読売新聞社との業務提携により同社から強大な援助を得ているという特殊の事情に起因して算定されたものである。

6.  独占禁止法上不公正な取引方法(昭和28年公正取引委員会告示第11号,以下「一般指定」という。)を構成するいわゆる不当廉売を判断する場合の原価は,右のような特殊事情のない一般の独立の事業者が自らの責任においてその事業を維持するため経済上通常計上すべき費目を基準として算定されるべきであることを考慮したうえで,仮に被審人が目途としていた販売部数50万部を前提として前記損益計算書日の各費目を検討すると,月ぎめ購読料金が500円であると,月間一部当たり320円を下らない損失を生ずることとなる。したがって,月ぎめ購読料金500円は,原価を著しく下回るものである。

7. 東海3県においては,中日新聞,朝日新聞,毎日新聞,その他の新聞が発行されている。新聞の普及度は,同地域の世帯数に対し90%である。

8. 前記7の新聞は,中部読売新聞と競争関係にある。

9. 月ぎめ購読料金は,①中日新聞は,朝夕刊セット板(週200ページ建) 1,700円,同統合版(週140ページ建)1,300円,②朝日新聞は,朝夕刊セット版(週174ページ建) 1,700円,毎日新聞は,朝夕刊セット版(週188ページ建)1,700円,③岐阜日日新開は,朝夕刊セット版(週148ページ建)1,600円,朝刊(週112ページ建)1,200円,④伊勢新聞は,朝刊(週56ページ建) 1,000円等である。

10. 前記購読料金に対して,被審人が中部読売新聞金500円をもって臨むときは,競争上極めて有利であることは明らかである。

11. 被審人が中部読売新聞を月ぎめ購読料金500円で発行した昭和504月の実販売部数は,182,914部にのぼった。

 

法令の適用

「被審人が中部読売新聞を月ぎめ購読料金500円で販売する行為は,不当に低い対価をもって,物資を供給するものであって,一般指定の5に該当し,独占禁止法第19条の規定に違反するものである。」

主文

1 被審人は,今後,中部読売新聞16ページ建朝刊(以下「中部読売新聞」という。)を1か月一部当たり金1,000円を下回る価格で販売してはならない。

2 被審人は,被審人が中部読売新聞を昭和50325日から月ぎめ購読料金500円で販売した行為は,不当に低い対価をもって物資を供給したものであって,不公正な取引方法(昭和28年公正取引委員会告示第11号。以下「一般指定」という。)の5に該当し,独占禁止法第19条の規定に違反したものである旨及び今後中部読売新聞を一般指定の5に該当する価格では販売しない旨を速やかに公示しなければならない。この公示の方法については,あらかじめ,当委員会の承認を受けなければならない。」(主文以下略)

 

 


 

[事例]

(有)濱口石油に対する件

排除措置命令平成18516

審決集53867

独禁法19条 293号,一般指定6

 

1.  有限会社濱口石油(以下「濱口石油」という。)は,和歌山県の区域に10給油所及び三重県の区域に4給油所を設置し,主として監視員が常駐する有人給油方式のセルフ給油により,一般消費者に対し,普通揮発油等を販売している。

2. 濱口石油は,旧和歌山県田辺市及び同西牟婁郡上富田町(以下,旧和歌山県田辺市と併せて「田辺地区」という。)における有力な石油製品小売業者である。

3. 濱口石油は,田辺地区において,平成17825日に「南紀田辺店」を,同年1129日に「白浜空港線店」を新規開店した。そして,これら2店における販売価格が田辺地区に所在する給油所の中で最安値となるように現金販売価格を設定し,その価格を表示した看板を店頭に掲示して一般消費者に周知している。

①南紀田辺店においては,普通揮発油を,平成17825日から平成18131日までの期間内に,(i)仕入価格(運送費を含む。以下同じ。)を下回る価格で80日間販売し,また,(ii)仕入価格に南紀田辺店の人件費等の販売経費(普通揮発油の販売に係る経費をいう。以下同じ。)を加えた価格を下回る価格で106日間(この期間には(i)の期間を含む。),販売した。

②白浜空港線店においては,普通揮発油を,平成171129日から平成18131日までの期間内に,(i) 仕入価格を下回る価格で30日間,(ii)仕入価格に白浜空港線店の人件費等の販売経費を加えた価格を下回る価格で43日間(この期間には(i)の期間を含む。)販売した。

4. 田辺地区に所在する給油所を経営する石油製品小売業者のほとんどは,①田辺地区に本店を置き,②濱口石油に比較して規模が小さい事業者であり,③田辺地区以外に給油所を設置していない。④田辺地区に所在する給油所における普通揮発油の販売量が石油製品の販売量に占める割合は高い。

 5.  濱口石油は,田辺地区における販売量が多い他の有力な石油製品小売業者を排除する意図をもって,前記3の行為を行なった。

6.  濱口石油は,前記3の行為により,田辺地区において,平成181月の普通揮発油の販売量が第1位の地位を占めるに至っている。

7. 濱口石油は,前記3の販売価格を設定することにより生じる損失を,濱口石油が田辺地区以外に設置する給油所における普通揮発油等の販売から得られる利益により補てんしている。

8. 田辺地区に給油所を設置する他の石油製品小売業者は,効率的な事業者であっても,通常の企業努力によっては濱口石油の前記3の行為に到底対抗することができない。

9. 他の石油製品小売業者は,普通揮発油の販売価格の引下げを余儀なくされた。

10. 平成17825日から平成18131日までの期間内におけるこれら他の石油製品小売業者の「普通揮発油の各販売量は,おおむね,前年同期間と比較して減少している。

 

法令の適用

前記事実によれば,濱口石油は,正当な理由がないのに普通揮発油をその供給に要する費用を著しく下回る対価で継続して供給し,その他不当に普通揮発油を低い対価で供給し,他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあるものであって,これは,不公正な取引方法(昭和57年公正取引委員会告示第15号)の第6項に該当し,独占禁止法第19条の規定に違反するものである。

主文

1 有限会社濱口石油は,「セルフ南紀田辺サービスステーション」及び「セルフ南紀白浜空港線サービスステーション」と称する給油所において,普通揮発油を,その仕入価格(運送費を含む。以下主文において同じ。)に販売経費(普通揮発油の販売に係る経費をいう。以下主文において同じ。)を加えた価格を下回る価格で継続して販売している行為を取りやめなければならない。」

2 有限会社濱口石油は,南紀田辺店及び白浜空港線店において,それぞれ,これら「給油所において,普通揮発油を,その仕入価格に販売経費を加えた価格を下回る価格で継続して販売する行為を取りやめた」こと及び「今後,第1項の行為を行わない」ことを表示しなければならない。

3 有限会社濱口石油は,今後,普通揮発油を,その仕入価格を下回る価格で継続して販売し,又は他の石油製品小売業者を排除する意図をもってその仕入価格に販売経費を加えた価格を下回る価格で販売することにより,他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがある行為をしてはならない。」


 

[事例]

(株)東日本宇佐美に対する件

排除措置命令平成191127

審決集54504

独禁法第19条 293

 

1.株式会社東日本宇佐美(以下「東日本宇佐美」という。)は,東日本宇佐美は,栃木県小山市(以下「小山市」という。)において,3つの給油所(以下「3給油所」という。)を運営し,一般消費者に対して普通揮発油を販売する石油製品小売業者である。

2. 3給油所は,いずれも主要幹線道路に面している。

3. 平成194月から同年6月までの間において,東日本宇佐美は,小山市における普通揮発油の総販売数量に対する各石油製品小売業者の普通揮発油の販売数量の割合(以下,この割合を「販売シェア」という。)において約12パーセントを占め,小山市における普通揮発油の販売数量において第3位の地位にあった。

4. 東日本宇佐美は,3給油所におけるサービス内容を考慮して,3給油所のいずれかにおける普通揮発油の販売価格(1リットル当たりの販売価格をいう。以下同じ。)が小山市における普通揮発油の販売価格のうち最も低い価格よりも1円程度高い価格となるように設定し,この販売価格を店頭に掲示して一般消費者に周知している。

5. 株式会社シンエネコーポレーション(以下「シンエネコーポレーション」という。)は,小山市において, 3つの給油所を運営する石油製品小売業者である。給油所では,一般消費者に対して普通揮発油を販売している。これらの給油所はいずれも主要幹線道路に面している。

6.  平成194月から同年6月までの間において,シンエネコーポレーションは,小山市において約29パーセントの販売シェアを占め,小山市における普通揮発油の販売数量において第1位の地位にあった。

7. シンエネコーポレーションは,前記の3つの給油所のいずれかにおける普通揮発油の販売価格が小山市に所在する給油所の販売価格の中で最も低い価格となるようこれらの給油所における販売価格を設定し,この販売価格を店頭に掲示して一般消費者に周知している。

8. 東日本宇佐美及びシンエネコーポレーション以外の小山市における石油製品小売業者(以下「競争業者」という。)の過半は, 1給油所のみを運営して普通揮発油を販売している小規模小売業者である。

9. 小山市に所在する給油所においては,普通揮発油の販売数量が石油製品の販売数量に占める割合は高い。また,小山市における普通揮発油の販売数量は,一般に,年間を通じて夏季に多い傾向にある。

10.東日本宇佐美及びシンエネコーポレーションは,普通揮発油について,東日本宇佐美が,平成19618日,4号線小山北給油所における販売価格を,その前日のシンエネコーポレーションの3給油所における販売価格と同額に引き下げたことを契機として,それ以降,互いに販売価格の引下げを繰り返した。

11. 東日本宇佐美は,新4号小山バイパス給油所及び4号線小山北給油所において平成19628日から同年83日までの37日間,新4号線小山南給油所において同年628日から同年82日までの36日間,それぞれその仕入価格を最大で10円以上下回る価格で販売を行った。

12. 前記10の行為により,平成197月における東日本宇佐美の販売シェアは,同年4月から同年6月までの間における販売シェアに比して増加し,東日本宇佐美は,小山市における普通揮発油の販売数量において第2位の地位を占めるに至った。

13. 競争業者は,前記7の小規模小売業者以外を中心に普通揮発油の販売価格の引下げを行った。しかしながら,効率的な事業者であっても,通常の企業努力によっては東日本宇佐美の前記11の行為に対抗することができなかった。

14. 平成197月におけるほとんどの競争業者の販売シェアは,同年4月から同年6月までの間における販売シェアに比して減少した。

 

法令の適用

「前記事実によれば,東日本宇佐美は,正当な理由がないのに普通揮発油をその供給に要する費用を著しく下回る対価で継続して供給し,競争業者の事業活動を困難にさせるおそれがある行為をしていたものであって,これは,不公正な取引方法(昭和57年公正取引委員会告示第15号)の第6項に該当し,独占禁止法第19条の規定に違反するものである。」

 

 

[参考・排除措置命令]

(株)シンエネコーポレーションに対する件

排除措置命令平成191127

審決集54502

独禁法第19条 293号(旧一般指定6項)

 

(略)東日本宇佐美に対する排除措置命令 参照 1213に対応する部分は,以下のとおり。

「前記2の行為により,平成197月におけるシンエネコーポレーションの販売シェアは,同年4月から同年6月までの間における販売シェアに比して増加し,シンエネコーポレーションは,小山市における普通揮発油の販売数量において第1位の地位を維持した。」

 

法令の適用

前記事実によれば,シンエネコーポレーションは,正当な理由がないのに普通揮発油をその供給に要する費用を著しく下回る対価で継続して供給し,競争業者の事業活動を困難にさせるおそれがある行為をしていたものであって,これは,不公正な取引方法(昭和57年公正取引委員会告示第15号)の第6項に該当し,独占禁止法第19条の規定に違反するものである。


 

[事例]

(株)マルエツに対する件

勧告審決昭和57528

審決集2913

独禁法19条 293号(昭和28年指定5

 

1. 株式会社マルエツ(以下「マルエツ」という。)は,一般消費者に対し,食料品を主体として日用品雑貨等の多種類の商品を販売する小売業者である。

2. マルエツの年間売上高は約1,950億円である。

3. マルエツは千葉県松戸市所在の上本郷店(以下「マルエツ上本郷店」という。)のほか,東京都,埼玉県,千葉県及び神奈川県に144店舗を置き,首都圏における有力な小売業者である。

4. マルエツ上本郷店は,店舗面積1,429平方メートルの量販店であり,食料品を主体として日用品雑貨等約1万品目の商品を販売している。マルエツ上本郷店の年間売上高は約9億円である。

5. 株式会社ハローマート(以下「ハローマート」という。)は,一般消費者に対し,食料品を中心に日用品雑貨等の多種類の商品を販売する小売業者である。

6. ハローマートの年間売上高は約34億円である。

7. ハローマートは,千葉県松戸市に上本郷店(以下「ハローエース上本郷店」という。)のほか3店舗を置き,松戸市における有力な食料品小売業者である。

8. ハローエース上本郷店は,店舗面積369平方メートルの店舗であり,食料品を中心に日用品雑貨等約900品目の商品を販売している。ハローエース上本郷店の年間売上高は約74,000万円である。

10. マルエツ上本郷店及びハローエース上本郷店の店舗(以下,これらを「両店」という。)は相互に近接している。

11. 両店のそれぞれの店舗から約1キロメートル以内の地域(この範囲がそれぞれの店舗の集客範囲とされる。この範囲を以下「商圏」という。)内において,両店は,有力な食料品小売店舗である。

12. 上記商圏内の有力な有力な食料品小売店舗として,両店のほか,量販店である株式会社セイフー松戸新田店がある。

13. 両店は,それぞれ,2銘柄の牛乳を販売している。両店における年間売上高中に牛乳の売上高の占める割合は,マルエツ上本郷店において約1.6%,ハローエース上本郷店において約3%である。

14. 上記商圏内では,両店及びセイフー松戸新田店のほか,牛乳専売店,食料品小売店等が牛乳を販売している。

15. 上記商圏内に存する牛乳専売店は,10数店である。この多くは,年間売上高が牛乳を主体として1,500万円から2,000万円であって,個人経営が約半数を占める。

16. ハローエース上本郷店は,昭和55107日以降,新装開店を機に生鮮食料品を従来より安い価格で販売することとした。牛乳については,1リットル紙容器入りの牛乳について,従来の通常販売価格が178円であったところ,1本当たり160円で廉売することとした。

17. マルエツは,競争関係にある小売店の影響により売上高等が特に減少している店舗において生鮮食料品を中心に販売価格を引き下げること等により,来店客数,店舗全体の売上高等の増加を図ることとした。マルエツは,主としてハローエース上本郷店の影響により来店客数,売上高等が減少していた同社上本郷店をこの方針を実施する店舗とした。マルエツ上本郷店は,牛乳の廉売による集客効果を考慮して,また,ハローエース上本郷店が前記16のとおり牛乳を廉売していたことに対抗して,昭和5671日から,従来の通常販売価格が178円であった牛乳を1本当たり158円で廉売し始めた。

18. その後,ハローエース上本郷店がこれに対抗して牛乳の販売価格を1本当たり155円と引き下げた。

19. これ以降,両店は,牛乳の廉売による自店への集客効果を考慮して,牛乳についてはその販売利益を度外視し,交互に対抗的に販売価格の引下げを繰り返した。

20. 両店は,昭和569月中旬頃から同年11月上旬までの間(以下「廉売期間」という。),継続して,顧客1人につき1本目は100円,2本目から150円の価格で販売本数の制限なしに牛乳を販売した。

21. マルエツ上本郷店の牛乳の仕入価格は,銘柄により,1本当たり155円及び158円であった。ハローエース上本郷店の牛乳の仕入価格は,銘柄により,1本当たり157円及び160円であった。

23. 牛乳専売店等における牛乳の通常の仕入価格は,1本当たり185円程度である。その店頭販売価格は1本当たり190円から230円程度(宅配価格は同225円から230円程度)である。

22. マルエツ及びハローマートは,多種類の商品を取り扱っている有力な小売業者であって,上記のような廉売を行うことは効果的な集客手段となっている。これらは,牛乳の廉売による直接的な損失があっても,来店客数,店舗全体の売上高の増加によって,全体の利益を図ることのできている。

23. これに対して,牛乳専売店等は,小規模で取扱商品の種類も少ないため通常の企業努力によっては到底対抗することができない。また,とりわけ牛乳専売店は,牛乳を主体に販売しているところからマルエツ及びハローマートによる廉売により大きな影響を受けている。

24. 両店の廉売は,牛乳専売店等を競争上極めて不利な状況に置いている。

25. 前記24に加えて本件と同様の牛乳の廉売が他の量販店等にも波及し易いこととも相まって,両店の廉売は,牛乳専売店等の事業活動を困難にするおそれがある。

26. マルエツ上本郷店の廉売期間における牛乳の販売本数は,約34,000本であるのに対して,前年同期の牛乳販売本数は約12,700本であった。廉売期間における来店客数,売上高は,ともに,前年同期に比して増加している。

27.ハローエース上本郷店の廉売期間における牛乳の販売本数は,約39,000本であるのに対して,前年同期の牛乳販売本数は約15,000本であった。廉売期間における来店客数,売上高は,ともに,前年同期に比して増加している。

28. 両店の商圏内に店舗を有している牛乳専売店の右廉売期間における牛乳の販売数量,宅配件数,牛乳の売上高等は,前年同期に比していずれも減少している。

29. 株式会社セイフー松戸新田店における廉売期間における牛乳の販売本数,来店客数及び同店舗全体の売上高は,いずれも,前年同期に比して減少している。

30. 公取委が本件について審査を開始したところ,マルエツ及びハローマートは上本郷店における前記廉売行為を中止した。

 

法令の適用

「マルエツは,不当に低い対価をもって,牛乳を供給したものであり,これは,不公正な取引方法(昭和28年公正取引委員会告示第11号)の5に該当し,独占禁止法第19条の規定に違反するものである。」

主文

1 株式会社マルエツは,

1) 同社上本郷店が牛乳をその仕入価格を著しく下回る価格で販売していたが,この行為をやめたこと

2) 今後,右行為と同様な行為を行わないこと

を同社上本郷店の商圏内において牛乳を販売する事業社及び同商圏内に所在する一般消費者に周知徹底させなければならない。この周知徹底の方法については,あらかじめ,当委員会の承認を受けなければならない。」(主文以下略)

 

 

 

(株)ハローマートに対する件

勧告審決昭和57528

審決集2918

 独禁法19条 293号(昭和28年指定5項)

内容略

 

 


 

[参考・判決]

アース名刺(株)ほか6名による損害賠償等請求控訴事件

大阪高等裁判所平成61014

判例時報154863頁、訟務月報4211

独禁法19条ほか 293号,一般指定6

 

料額印面(証票)と一体をなす郵便葉書(いわゆる官製葉書)のうち,①くじ引き番号付きで図画等の記載のない「お年玉付年賀葉書」,「さくらめーる」及び「かもめーる」,くじ引き番号付きで図画等の記載のある「さくらめーる」及び「かもめーる」についてはいずれも41円で,②くじ引き番号付きで図画等の記載のある寄附金付お年玉付年賀葉書については43円(ただし寄附金3円を除いた額)で販売することが一般指定6項に該当し独禁法19条に反するかについて―

 

「郵便葉書の発行・販売という事業に関する限り、被控訴人国もまたその事業の主体として独占禁止法の事業者に該当し、私製の郵便葉書の製造・販売を業とする事業者である控訴人らと競争関係に立つものというべきである。」

 

郵便法では「郵政大臣が図画等を記載しない郵便葉書で料額印面の付いたものを発行するときは、料額印面に表された額で販売しなければならない」と規定していると解することができる。

くじ引き付年賀はがきのうち図画等の記載のないものについては,郵便法の規定より料額印面で販売しなければならず,「販売額が法定されている結果、その法定額である料額印面に表された金額で販売する限り、それが独占禁止法が禁止する不当廉売等に該当する余地はない」。

図画等の記載のある年賀葉書等については,郵便法によりその記載に要する費用を勘案して省令で定める額で販売することができるものとされているが,ここで「記載に要する費用」とは,図画等の記載のない郵便葉書については料額印面に表された金額で販売しなければならないとされていることなどからして,図画等の記載のために要する経費(つまり,図画等を記載した郵便葉書の製造経費から図画等を記載しない郵便葉書の製造経費を除いたもの)を指すと解される。図画等の記載のために要する費用は年賀葉書については1.91円であるところ,この増加分については「販売額を42円と定めるについても勘案されており、したがって実質的に無償というわけではない」。「さくらめーる」及び「かもめーる」の経費の増加額はそれぞれ0.6円、0.61円にすぎず,「国が郵便の役務をなるべく安い料金で、あまねく公平に提供することによって、公共の福祉を増進することを目的として郵便の事業を行うものであり(郵便法2条)、郵便葉書の製造販売もそれに付随する事業としてなされているものであることを考慮すれば、右絵入り葉書の対価が低廉であることについて「正当な理由がない」(前記公取委告15「不公正な取引方法」第6項)ものということはできず、また、それが「不当に」低い対価であるということもできない。したがって、これが不当廉売として独占禁止法に違反するとの控訴人らの主張を採用することはできない。」

 

 


 

[参考・判決]

ダイコク事件地裁判決

東京地方裁判所判決平成1425

判例時報1802145頁、判例タイムズ1114279

独禁法19条 293

 

「独占禁止法上禁止されている不当廉売につき,一般指定6項は,「正当な理由がないのに商品又は役務をその供給に要する費用を著しく下回る対価で継続して供給し,その他不当に商品又は役務を低い対価で供給し,他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあること」と規定している。

 ここにいう「供給に要する費用を著しく下回る対価」については,「不当廉売に関する独占禁止法上の考え方」(昭和591120日公正取引委員会事務局)において,仕入価格を下回るかどうかを1つの基準とするものとされており,さらに,ここにいう仕入価格は,名目上の仕入価格ではなく,実際の取引で値引き,リベート,現品添付が行われている場合,これらを考慮に入れた実質的な仕入価格であるとされている。

 本件についていえば,被告ダイコクが販売した価格が,上記名目上の仕入価格と一致することは,弁論の全趣旨から明らかである。本件において,原告商品の仕入に際して,リベート(歩戻し),現品添付等が行われて実質的な仕入価格がこれよりも低額であったかどうかは,証拠上確定できないが,いずれにしても,被告ダイコクの原告商品の販売価格が実質的な仕入価格を下回っていたとは認められないから,上記基準に該当しない。したがって,同被告が原告商品を「供給に要する費用を著しく下回る対価」により販売したとは認められないから,同被告の行為は,不当廉売に当たらない。

さらに,被告ダイコクが行った仕入価格による原価セールの全容は,ほぼ前記11)のとおりであるところ,この程度のものを継続的な廉価販売行為ということもできない。いずれにせよ,同被告の行為は,不当廉売に当たらないというべきである。」


 

[参考・判決]

日本テクノ差止請求事件

東京高裁判決平成17127

審決集51951

独禁法19条 293号,一般指定6項,8項,10項,14

 

1. 自家用電気工作物を設置する者は,電気事業法の規定に基づいて,従業員の中から主任技術者を選任するか,電気管理技術者と電気保安業務委託契約を締結する必要がある。

2. 控訴人ら(666名)は,電気管理技術者として自家用電気工作物の保安業務(電気保安業務)を営んでいる。

3. 被控訴人(日本テクノ株式会社,以下「日本テクノ」という。)は,ESシステム(自家用電気工作物の停電,変圧器温度等を常時監視する自動遠隔監視装置。Electric Securityシステムから命名したものである。)の開発,販売及びこのシステムを利用したシステム管理サービスを提供する。

4. ESシステムは,自家用電気工作物の設置者に対して販売される。ESシステムを利用したシステム管理には,電気管理技術者との連携が必要である。

5. 電気工事業界及び電気保安業界には,伝統的に商慣習として,電気保安業務を電気設備設置業務を行う工事業者とは別の主体に行わせるという原則がある。日本テクノは工事業者にあたる。

6. 日本テクノは,電気管理技術者らと連携を強め,電気管理技術者によって構成される日本電気保安サービス協会(以下「日電協」という。)を設立した。設立後は,日電協は,日本テクノとは別個の組織を有し,独立して運営されている。

7. 日本テクノと日電協の間では,次の内容の業務提携関係が存在した。

(1) 日本テクノは,日電協所属の電気管理技術者(以下「日電協技術者」という。)にESシステムの保守・管理を委託し,日電協技術者はESシステムの保守・管理及びESシステムの顧客との間で締結される電気保守業務を行う。

(2)日本テクノは,ESシステムの販売の際に顧客に対して日電協技術者との間の電気保安業務を勧誘し,日電協技術者に代行して契約を締結する。

(3)日本テクノは,日電協技術者のために顧客から電気保安業務の報酬を代理回収して,ESシステムの保守・管理業務の報酬とともに日電協に支払う。日電協は,これを個々の日電協技術者に対して顧客との間の契約条件等に従い分配する。

8. 控訴人らは,日本テクノが行っている契約締結行為等が不公正な取引方法(競争者に対する取引妨害,不当廉売,ぎまん的顧客誘引,抱き合わせ)に当たるとして独禁法24条に基づく行為の差止め等を求めた。

 

裁判所の判断

控訴人らの請求は,理由がない。

取引妨害について,「取引妨害を行う主体は他の事業者と競争関係に立つことが前提となっている」ところ,「被控訴人日本テクノは,自ら電気保安業務を供給する事業者ではなく,控訴人らと直接競争関係に立つ者ではないが,控訴人らと競争関係にある日電協技術者の委託を受けて契約の勧誘,契約の締結代行及び報酬の代理回収を行っており,控訴人らと競争関係にある日電協技術者と意思を通じて電気保安業務の勧誘行為を行っているものと認められるから,被控訴人日本テクノも,不当な取引妨害の主体となる余地がある。」

「被控訴人日本テクノの活動が,控訴人らと顧客との間の取引を「不当に」妨害するものであるか否か」について,「独占禁止法19条及び296号が競争者とその取引の相手方との間の取引の不当な妨害を禁止している趣旨は,このような行為が価格と品質による競争をゆがめ,顧客の商品・役務の選択を妨げるおそれがあることによるものであると解され」「そうすると,本件のような顧客に対する働き掛けが問題となる事案における「不当性」の判断は,勧誘に用いられた手段が客観的にみて顧客の自由な意思決定に支障を来す程度のものであったかどうかにより判断されるべきものと解される」ところ,本件においては,日本テクノは,ESシステムの勧誘に際して「日電協技術者への電気保安業務の委託を義務付けたり,強制しているわけではない。そのような状況でほとんどの顧客が既存の電気保安業務委託契約を解約し,日電協技術者との電気保安業務委託契約を締結し直しているのは,日電協技術者による電気保安業務が低廉であることやESシステムの保守・管理を行う電気管理技術者と同一の電気管理技術者に電気保安業務を委託するのが便宜であるとの考えに基づくものと認められるから,本件で,被控訴人日本テクノが顧客の自由な意思決定に支障を来すような手段,方法により日電協技術者による電気保安業務委託契約を締結させているとは認め難い。」

控訴人らは,「独占禁止法は,顧客の自由な意思決定に支障を来すような手段による取引妨害のみを禁じているわけではな」いとし,「既に控訴人らとの間に電気保安業務委託契約が締結されている顧客について,被控訴人日本テクノが契約の不履行ないし契約解消を働き掛けている」ことは問題であるとするが,「既に競争関係にある他の事業者と契約を締結している顧客に対して,その不履行ないし契約解消を誘引することが,手段方法のいかんを問わず,直ちに不当な取引妨害に当たるとはいえない。価格と品質による自由な競争の結果,顧客が既に締結済みの契約を解消し,新たな商品・役務を選択することは当然許容されるべきであるし,その新たな商品・役務の選択を提示すること自体は自由競争の範囲内と解されるからである。」本件においては,「被控訴人日本テクノがこのような自由競争として許容される範囲をこえるような不当な方法,態様で,顧客と控訴人らとの既存の電気保安業務委託契約の解消を図っていたことを認めるに足りる証拠はない。」

 

不当廉売について

「本件において電気保安業務を提供しているのは日電協技術者であって,被控訴人日本テクノが日電協技術者が日電協を支配下において自己の計算で電気保安業務を供給しているものとは認めることができないので,被控訴人日本テクノが不当廉売していると認めることはできない。もっとも,前述のとおり,被控訴人日本テクノは,控訴人らと競争関係にある日電協技術者の委託を受けて契約の勧誘及び契約締結の代行を行っているため,仮に,日電協技術者が電気保安業務の不当廉売を行っているとすると,被控訴人日本テクノが日電協技術者と意思を通じて不当廉売を行い,控訴人らの利益を侵害し,又は侵害するおそれがある行為をしているとみる余地もある。」しかしながら,本件においては,日電協技術者による不当廉売の事実は認められない。

 

ぎまん的顧客誘引について

「控訴人らと被控訴人日本テクノは直接の競争関係に立つものではないが,」「日本テクノは,ESシステム及びこれに基づくシステム管理サービスを顧客に勧誘するのと同一の機会に,日電協から委託されて日電協技術者による電気保安業務の勧誘を行っており,顧客はESシステム及びこれに基づくシステム管理サービスを受けることも考慮の上,日電協技術者との間で電気保安業務委託契約の締結を行っているから,仮に被控訴人日本テクノの営業活動がぎまん的顧客誘引に当たるとするならば,控訴人らは,独占禁止法24条にいう不公正な取引方法により損害を受けるおそれがある者に該当する。」

「独占禁止法19条及び2条9項3号がぎまん的顧客誘引を禁止する趣旨は,本来,公正な競争は,顧客が正しい商品情報を受けて,正確,冷静に判断するという過程を通じて実現されるべきであり,商品・役務の情報について虚偽の情報を表示することは公正競争を阻害することになるからであると解される。」

 本件においては,ぎまん的顧客誘引に当たる行為が行われているとは認められない。

 

抱き合わせ販売について

控訴人らによる「主たる商品・役務である電気保安業務に,従たる商品・役務であるESシステム及びこれに基づくシステム管理サービスが抱き合わされ」ているとの主張については,日本テクノは「電気保安業務については日電協技術者の委託を受けてその勧誘を行っているにすぎず,顧客に対しては,必ずしも日電協技術者に電気保安業務を依頼しなくてもよいという立場で営業活動を行っていると認められるのであるから,被控訴人日本テクノが電気保安業務にESシステム等を抱き合わせて販売しているとはいえない」し,「仮に,このような形で抱き合わせ販売が行われているとした場合に,これにより損害を受ける可能性があるのは,電気工作物の自動遠隔監視装置の製造・販売業者か,あるいは電気保安業務の顧客であって,控訴人らではないと認められる(この場合には,従たる商品等はESシステム等であり,ESシステム等が不要商品であるのに抱き合わせてその購入を強制したりするかどうかが主な問題となるが,その被害者は控訴人らではないというべきである。)」から,「控訴人らが抱き合わせ販売の違法を理由に,その行為の差止め等を求める立場にはない」。

 

控訴人による「主たる商品・役務であるESシステム等に従たる商品・役務である電気保安業務が抱き合わされ」ているとの主張については,ESシステムの購入者のほとんどが日電協技術者との間で電気保安業務委託契約を締結している事実が認められるが,「日本テクノは,勧誘の際に日電協技術者との間で電気保安業務委託契約を締結することをESシステムの販売の条件としているわけではなく,顧客は,日電協技術者の電気保安業務の報酬が低廉であることなどにメリットを感じて日電協技術者との間で,電気保安業務委託契約を締結していると認められるのであるから,2つの商品・役務が抱き合わされているとは認めることができない」。さらに,「自家用電気工作物は約74万件」(うち,電気主任技術者を選任しない工作物の件数は約64万件)「であるのに対し,ESシステムの販売量は平成159月の時点で約24000件にどとまることからすると,そもそも被控訴人日本テクノのESシステムの営業が電気保安業務の市場における競争減殺効果を及ぼし得る程度のものでないことは明らかである。」

 

 


 

 

[参考・判決]

路線バス区間無料運転行為差止請求事件

東京高裁判決平成24417

審決集59巻第二分冊107

独禁法19条 293号,一般指定6

独禁法24

 

1. Xは、路線バスの運行事業を営む有限会社である。Xは、東日本旅客鉄道株式会社矢板駅(以下「矢板駅」という。)と栃木県立矢板高等学校(以下、「矢板高校」という。)の区間において無償でバス運行を行った。

2. Yは、矢板駅と矢板高校の区間において路線バスの運行を営んでいる。Yは、独禁法19条に反してXが無償でバス運行を行ったとして、上記区間におけるバスの無償運行の差止めを求めた。

3. Xは、本件口頭弁論終結時においては,無償運行は行っていなかった。

 

裁判所の判断

「独占禁止法24条に基づき不公正な取引方法に該当する行為による侵害の停止又は予防が判決で命じられる場合には,原則として,事実審の口頭弁論終結時後の実現を予定することになるので,主観訴訟である差止請求を基礎付ける利益侵害及び著しい損害は,事実審の口頭弁論終結時に現存し,又は発生の蓋然性があることを要すると解するべきである。」

「本件において,被控訴人が控訴人による不公正な取引方法に該当する行為として主張している矢板駅と矢板高校の間の区間における路線バスの無償運行は,前記前提となる事実のとおり,過去において行われたことはあったものの,本件口頭弁論終結時においては行われておらず,控訴人が再びこのような無償運行を行う具体的な計画の存在も認められないのであるから,事実審の口頭弁論終結時において,独占禁止法24条にいう利益侵害及び著しい損害が現存し,又は発生の蓋然性があるといえる状況にないことは明らかである。」


 

 

不当な利益による顧客誘引

 

[参考・審決]

熊本魚(株)に対する件

勧告審決昭和3529

審決集1017

独禁法第19条 一般指定9項,12項,14項(昭和28年指定6711

 

1. 熊本魚株式会社(以下熊本魚という。)は,熊本魚市場内において,鮮魚介類の卸売を業とする事業者である。

2. 熊本魚の取扱高は,同市場内における鮮魚介類の取扱高の約85%を占めている。

3. 熊本魚は,熊本魚類株式会社(以下熊本魚類という。)ほか卸売業者7社により設立された。これら卸売業者は,営業の全部を熊本魚に譲渡して,会社を解散した。熊本魚は,昭和33814日から卸売業務を開始した。この以前には,熊本魚類株式会社(以下熊本魚類という。)ほか7社は,熊本魚市場で,それぞれ鮮魚介類の卸売を行なっていた。

4. 大海水産株式会社(以下大海水産という。)は,熊本魚市場で卸売業を営む。大海水産は,卸売人を一つに統合する際の条件に反対して,熊本魚にその営業を譲渡しなかった。

5. 熊本県魚市場条例により,魚市場内で鮮魚介類の卸売を業とする者は,買受人との間で買受契約を締結することが義務付けられている。熊本魚は,熊本魚市場に所属する買受人で自己と買受契約を締結した者を,すべて自己とのみ取引させる方針を採用し,次の行為を行なった。

①その内容を記した文書を作成して買受人に手渡した。

②大海水産がその買受人との間の買受契約を更新しようとすると,これらの買受人らに威圧を加えて契約の更新を阻止した。

③熊本魚の役職員は,熊本魚市場に所属する買受人の組合(熊本県海産物仲買協同組合,熊本魚市買受人協同組合および熊本県カマボコ協同組合熊本支部)の理事長等を訪問して,①の方針を完全に実施することを言明した。

④約1週間にわたり,①の方針を実施する旨を拡声機を用いて市場内に放送した。

⑤買受人らがその所属する組合を通じて,熊本魚及び大海水産の双方から鮮魚介類を購入したい旨の希望を表明して,熊本魚に申し入れたところ,熊本魚はこれを拒否し,大海水産と取引している買受人に対しては売り止めをする旨を申し渡した。

6. 熊本魚は,その後,大海水産のせり場の周囲に障壁を設け,熊本魚の役職員らは,障壁の周囲を監視する等,買受人が大海水産のせりに参加することを妨害した。

7. 熊本魚は,さらに,大海水産の買受人を自己と取引するように誘引するために,資金等を提供して仲買専業の買受人に対しては落札価格よりも安い値段で販売させた。

8. 熊本魚の行為により大海水産のせりは妨げられ,大海水産と取引していた買受人約400名のうち,現在も大海水産と公然と取引している者は10数名にすぎなくなっている。

 

法の適用

前記2の事実によれば,熊本魚は,その取引先である買受人が,正当な理由がないのに,大海水産と取引しないことを条件としてこれと取引しているものであつて,これは昭和28年公正取引委員会告示第11号(以下一般指定という。)の7に該当し,前記4の事実によれば,熊本魚は,買受人に対して正常な商慣習に照らして不当な利益を提供してこれを自己と取引するように誘引しているものであつて,これは一般指定の6に該当し,また,前記2および3の事実によれば,熊本魚は,大海水産と,その取引先である買受人との間の買受契約の成立を阻止し,その取引を不当に妨害するとともに熊本魚市場内に障壁を設け,買受人に威圧を加え,大海水産と買受人との間の取引を不当に妨害しているものであつて,これは一般指定の11に該当し,いずれも私的独占禁止法第19条に違反するものである。

 

 


 

抱き合わせ・取引妨害

 

[基本・判決][事例]

東芝エレベーター事件

大阪高等裁判所判決平成5730

判例時報147921頁、判例タイムズ83362

独禁法19条 一般指定10項,14

 

一般指定10項及び同15項にいう「「不当に」とは,公正な競争を阻害するか否かの有無により判断されるべきである。ところで,商品の安全性の確保は,直接の競争の要因とはその性格を異にするけれども,これが一般消費者の利益に資するものであることはいうまでもなく,広い意味での公益に係わるものというべきである。したがって,当該取引方法が安全性の確保のため必要であるか否かは,右の取引方法が「不当に」なされたかどうかを判断するに当たり,考慮すべき要因の1つである。

 

1. 控訴人(東芝エレベータテクノス株式会社)は,株式会社東芝(訴外)(以下「東芝」という。)が全額出資して設立された会社であり,昇降機の保守点検作業を営む。

2.昇降機の製造販売者には,株式会社東芝,三菱電気株式会社,株式会社日立製作所,日本オーチスエレベーター株式会社,フジテック株式会社,日本エレベータ製造株式会社の6社がある。このうち,東芝,三菱電機,日立製作所の3社に保守点検業を目的として設立された子会社がある。

3. 昇降機の保守点検契約台数では,菱電サービスが第1位,日立エレベーターが第2位,控訴人が第3位である。

4. メーカー系保守業者(控訴人を含む)は,親会社又は自社の製造する保守部品を事実上一手に独占販売している。

5. 甲事件被控訴人(株式会社続木鑑定事務所)の所有する建物には東芝製エレベーター1機(以下「甲事件エレベーター」という)が設置されていた。甲事件被控訴人は,愛媛メンテナンス株式会社(訴外)(以下「愛媛メンテナンス」という。)と保守契約を締結していた。甲事件エレベーターは,正規位置以外の場所で停止し,ドアが開かずに乗客が缶詰状態になる事故を起こした。愛媛メンテナンスが故障の原因を調査し,この故障を完全に修理するためには不良箇所がある部品(以下「甲事件部品」という)を交換することが必要であると判断した。そこで,甲事件被控訴人が控訴人に対して,甲事件部品の買付注文を行い,至急納品してほしい旨依頼すると,控訴人は「保守部品単体での供給はしない。取替え調整工事込みでなければ右の供給に応じない」と回答した。

6. 乙事件被控訴人(光誠電機有限会社)は,昇降機の保守(修理を含む。以下同じ。),点検を主たる業務とする。乙事件原告は,有限会社藤(訴外)(以下「藤」という。)との間で藤所有の東芝製エレベーター(以下「乙事件エレベーター」という。)について月16千円で期間の定めのない保守点検契約を締結していた。乙事件エレベーターは,フロアーとの水準が合わずに,いわば階下と階下の間で急停止する故障を起こした。乙事件原告が直ちに故障の原因を調査したところ,部品(以下「乙事件部品」という。)の取替えが必要と判断した。乙事件被控訴人は,独立系保守業者がメーカー系保守業者たる被告にこの部品を注文しても,取替え調整工事込みでないと売ってもらえないことを知っていた。そこで,控訴人に,藤名義で乙事件エレベータの故障を依頼した。これに対して,控訴人は,乙事件部品がないので,3か月後に部品が入れば取替えると回答した。乙事件エレベーターは再び同じ故障を起こした。乙事件被控訴人が,止むなく右エレベーターが設置されている建物を建築した大手建設会社に催促方を依頼し,同社が翌日控訴人にクレームを申し入れると,同日,控訴人は在庫にあった乙事件部品を持参して修理にやってきた。

7. 乙事件被控訴人は,藤の社長から,部品の入手ができないようでは完全なメンテナンスができないのではないかと言われ,乙事件エレベーターの保守点検契約を解約した。その後,藤は,控訴人と乙事件エレベーターの保守点検契約を締結した(保守金額月額3万円)

8. 甲事件被控訴人及び乙事件被控訴人は,控訴人が,独禁法違反行為により原告らに損害を生じさせたとして損害賠償を請求した。大阪地裁はこの請求を認容した(平成2730日判決)。控訴人が控訴した。

9.  控訴人は,「東芝製エレベーターの保守は,控訴人のみが完全に行い得るもので,特に本件各部品のように安全性に影響を及ぼす部品については,控訴人においてその取替え調整工事をする必要が」あり,「本件において控訴人に本件各部品の単体での注文に応じさせることは,契約上供給義務のある契約先と区別されるべき独立系保守業者の育成を強制される結果となって不合理である」などと主張した。

 

裁判所の判断

問題とされる取引方法が安全性の確保のため必要であるか否かは,不当性を判断するにあたり考慮すべき要因の1つである。しかしながら,「愛媛メンテナンス及び乙事件被控訴人においては,エレベーターの安全性に関して一定の資格ないしは能力を有しているものということができる。そして,たとえその技術自体が控訴人の技術自体に対比して相対的には劣るとみられるものであったとしてみても,愛媛メンテナンス及び乙事件被控訴人は,その技術水準において,本件各部品の単体での供給を受けて,前記の現実的故障を修理するに足りる程度には達していたものであったとみてよい。」「独立系保守業者の中には極めて危険な措置を取るものもあったことが認められるけれども,愛媛メンテナンス及び乙事件被控訴人がそのような措置を取り,控訴人がこれを理由に部品単体での供給を拒否したのであれば格別,危険な措置を取った他の業者があったからといって,控訴人の前記の取引方法が正当化されるいわれはない。したがって,本件においては,控訴人が本件各部品を単体で供給することなく,取替え調整工事込みでなければこれを供給しないとし,このような両者一体のもとでの部品供給でなければエレベーターの安全性を確保できないと認めるべき証拠は存しない」。

 

「独立系保守業者の育成を強制されることとなり,不合理である」との主張については,「本件で問題とされているのは,独立系保守業者が自らのストックとして部品の注文をした場合ではなく,東芝製エレベーターの所有者がその現実に発生した故障について修理に必要な部品を供給することを求めている場合であって,メーカーである東芝及びその子会社で東芝製エレベーターの部品を一手に販売している控訴人が,東芝製エレベーター及びその部品の数・耐用年数・故障の頻度を容易に把握し得ること及びエレベーターの所有者が容易にはそのエレベーターを他社製のそれに交換し難いのはいわば当然であることを考慮すれば,このような部品を一定期間常備し,必要の都度,求めに応じて迅速にこれを供給することは,右の販売者である東芝ないし控訴人が負うべき,東芝製エレベーターを購入してこれを所有する者に対する,右販売に附随した当然の義務であると解するのが相当である。したがって,控訴人の右の主張が容れられなかったからといって,控訴人が独立系保守業者の育成を強制されるものとはいえない。」

一般指定10項「不当に」といえるかについて,「本件各部品とその取替え調整工事とは,それぞれ独自性を有し,独立して取引の対象とされている。そして,安全性確保のための必要性が明確に認められない以上,このような商品と役務を抱き合わせての取引をすることは,買い手にその商品選択の自由を失わせ,事業者間の公正な能率競争を阻害するものであって,不当というべきである(なお,いわゆるブランド・イメージは,企業の経済的活動の合理性という見地から問題とされることはあり得ても,独占禁止法上の問題ではない。)。」控訴人(甲)に対する行為は,一般指定10項に該当する。

控訴人の乙事件行為については,「前に述べたとおり,メーカーである東芝及びその子会社で東芝製エレベーターの部品を一手に販売している控訴人は,東芝製エレベーター及びその部品の数・耐用年数・故障の頻度を容易に把握し得ること及びエレベーターの所有者が容易にはそのエレベーターを他社製のそれに交換し難いことからして,部品の常備及び供給が東芝及びその子会社で東芝製エレベーターの部品を一手に販売している控訴人の同エレベーター所有者に対する義務であると解される一方で,エレベーターが交通(輸送)機関の一種であって,これに不備が生じた場合迅速な回復が望まれるのは極めて当然であることからすると,控訴人の保守契約先でないからといって,手持ちしていた部品の納期を3か月も先に指定することに合理性があるとは到底みられず,不当とされても止むを得ないところである。したがって,控訴人の乙事件行為は,一般指定15項の不当な取引妨害行為に当たる」。

なお,この行為は,「抱き合わせ販売の方針に従ってたされたものではあるが,もともと乙事件被控訴人において乙事件部品のみの注文をしたわけではなく,右方針に従い,取替え調整工事込みで注文をしたのであるから,これが不当な抱き合わせ販売に当たるとしてその損害賠償を求めるのは筋違いである(同時にまた,乙事件被控訴人主張の損害との因果関係もない。)。」

不法行為の成否について,「控訴人は,東芝製エレベーターの保守を一手に独占し,独立系保守業者等他の競争者を排除しようとの意図の下に本件各行為を行ったものと」推認される。「控訴人は,前記の被控訴人らに対する各対応が公正取引委員会の一般指定に該当し,独占禁止法に違反するものであることを認識していたか,少なくとも認識することが可能であったものとみられ」る。以上より「控訴人の本件各行為は,それにより,故意に(少なくとも過失によって)被控訴人らに後記認定の損害を与えたものというべく,民法709条の不法行為に当たる」。

 

 

 


 

 

[参考・判決]

独立系保守業者営業妨害損害賠償・差止請求事件

東京高等裁判所判決平成2396

審決集58巻第二分冊243

独禁法19条 一般指定14

 

1. エレベーターの独立系保守業者である株式会社ハイン(以下,「被控訴人」と言う。)は,訴外Bとの間で,被控訴人が平成171227日にA社製エレベーターの保守点検を行うことを内容とするエレベーター保守点検契約(以下,「本件保守契約」と言う。)を締結した。契約期間は,平成1831日から平成19228日とし,期間以降は更新継続することとされていた。なお,Bは病院であり,移動に車椅子を必要とする者も入院していた。

2. 株式会社日立ビルシステム(以下,「控訴人」と言う)は,エレベーターの保守点検業等を目的とする会社であり,訴外Aの子会社である。控訴人はエレベーターメーカーがエレベーターを設置し,同系列のエレベーター保守業者において,保守点検を行っており,いわゆる「メーカー系保守業者」である。

3. 控訴人はA製エレベーターの部品を一手に販売しており,同部品を控訴人以外から購入することはできない。

4. 平成2044日に,Bは被控訴人に本件エレベーターが停止した旨の連絡を行った。被控訴人の従業員が調整を行ったところ,エレベーターは通常通り動き出した。しかし,エレベーターは同7日再度故障し,このときには調整を行っても復旧しなかった。そこで,被控訴人は,調査を行った上で,同8日に,控訴人に対して修理に必要な部品(基板)(以下「本件部品」という。)の見積依頼をした。

5. 控訴人は,かねてから,エレベーター部品の納期について,確実に納品ができる時期の見通しに基づき,余裕をみたうえで,見積書上は納期を1カ月単位で設定することとなっていた。そして,このような取り扱いの結果,見積書上の納期よりも実際の納期が早まることも多かった。この取扱いは,独立系保守業者から見積り依頼及び注文を受けた場合とメーカー系保守業者としての控訴人が保守契約を締結している顧客から見積り依頼及び注文を受けた場合とで変わるところがなかった。控訴人は,被控訴人からの前記見積依頼に対して,納期は発注後2ヵ月である旨と解答をした。

6. Bは2ヵ月も待てないと考え,控訴人に調査を依頼すれば部品の納期が早まると考え,控訴人に対して調査依頼を行った。控訴人は同年416日に調査を行い,本件部品の交換が必要であることを確認した上で,本件部品の納期が2カ月先になると述べた。

7. Bが控訴人に対して納期が遅いなどと告げたところ,控訴人は,「点検契約も再度当社とご契約していただけるものと考え,取り急ぎ手配しておりますので,工場より部品が納入できしだい(5月の連休明けくらい)作業できるかと思います」などと回答した。

8. 同年515日に控訴人はBを訪問して,本件部品の交換作業を行った。Bは,控訴人と保守契約を締結し,その後,同月31日に被控訴人との本件保守契約を解約した。

9. 被控訴人が,控訴人に対して,控訴人が被控訴人とBとの間のエレベーター保守点検契約を本件部品の納期を秘匿する行為等によって妨害し独禁法に違反する行為を行ったとして,民法709条に基づく逸失利益の請求及び独禁法24条に基づく昇降機の保守用部品の供給を遅延させて被控訴人と昇降機の所有者・管理者との取引を妨害することの差止めを求めて提訴した。

 

(裁判所の判断)

部品の納期の秘匿について

控訴人は,エレベーター部品の納期について,独立系保守業者からの依頼であると自己の顧客からの依頼である場合とを問わず,確実に納品ができる時期の見通しに基づき,余裕をみたうえで,独立系保守業者からの依頼か自己の顧客からの依頼かを問わず1カ月単位で設定する取扱いをしていたのであり,本件部品の被控訴人による見積りについても,このような従前の取扱いと同様に,「基板の納期が2か月であると告げていたものであり,被控訴人が主張するように,控訴人が,あえて現実に要するよりも1か月以上の著しく長い納期を告げたものとは認められず,また,見積もり依頼の段階における控訴人のこのような取扱い並びに被控訴人及びD整形外科に対する対応を格別不合理なものということはできない。」「そして,控訴人が自ら本件エレベーターの調査をし,故障原因を特定し,Bから修理の注文を受ける前には,控訴人としては,被控訴人又はD整形外科を通じて本件エレベーターの故障原因を把握することができる状況にはなく,また,被控訴人からは[本件部品]のみならず,パーキングスイッチ及びUA-IOCB基板の見積り依頼も受け,これらの全部又は一部の注文がされるのか否かは未確定であったのであるから,UA-MPU基板の在庫,D整形外科のデータの存否及び作業員のスケジュールを確認して実納期の見込みを被控訴人又はBに対して告げる義務を控訴人が負っていたとはいえない。そうすると,上記2か月の納期のみを告げたことをもって,控訴人の行為が違法であったということはできない。」「よって,被控訴人の主張は,理由がない。」

また,控訴人は,保守点検契約を再締結することを条件に,被控訴人を通じた場合の納期の3分の1の期間での納品を期待させるという営業活動を行い被控訴人の取引を妨害したと主張するが,保守点検契約の控訴人への変更はBが切り出したものである。また,前記7の事実から「控訴人は,Bに対して,控訴人との間で保守点検契約を再締結することを条件にエレベーターの修理用部品の早期納品を持ち掛けたものと認めること」もできず,控訴人の主張は,理由がない。


 

抱き合わせ

 

[基本・審決][事例]

(株)藤田屋に対する件

審判審決平成4228

審決集3841

 独禁法19条(一般指定10項)

 

抱き合わせ販売が,一般指定第10項に規定する「購入させること」にあたるというためには,「ある商品の供給を受けるのに際し,客観的にみて少なからぬ顧客が他の商品の購入を余儀なくされるような抱き合わせ販売であることが必要であると解するのが相当である。」

「一般指定第10項に規定する不当とは,公正な競争を阻害するおそれがあることを意味すると解されるが,右公正な競争を阻害するおそれとは,当該抱き合わせ販売がなされることにより,買手は被抱き合わせ商品の購入を強制され商品選択の自由が妨げられ,その結果,良質・廉価な商品を提供して顧客を獲得するという能率競争が侵害され,もって競争秩序に悪影響を及ぼすおそれのあることを指すものと解するのが相当である。」

 

1. 被審人は,家庭用テレビゲーム機用ゲームソフト(以下「ゲームソフト」という。)等の家庭用電子玩具の卸売業を営む。

2.被審人は,ゲームソフトの二次卸売業界において約10パーセントのシェアを占めていた。

3. 被審人は,株式会社エニックスが平成2211日から発売開始したゲームソフトであるドラゴンクエストIV(以下「ドラクエIV」という。)を,平成23月末までの間に,一次卸売業者である卸売業者5社から,約77600本購入した。

3.ドラクエIVは,①ドラゴンクエスト・シリーズの前3作がいずれも人気ゲームソフトになったところから前人気が高く,②発売時には消費者が店頭に殺到することが予想された。また,③このように人気の高いドラクエIVをできるだけ多く確保し,顧客の要望に応えることは店舗の格,信用を高めることになり,今後の営業成績にも影響する。このため,各小売店はドラクエIVを「1本でも多く確保するのに躍起となる状況」であった。

4. ドラクエIVについては,一般の小売業者は,従前取引関係のない卸売業者からドラクエIVを入手することは困難であった。

5. 被審人は,右のような状況において,ドラクエIVの販売に当たり同社に在庫となっているゲームソフトを処分することを企図した。そして,「取引先小売業者約310店に対しては過去の取引実績に応じた数量配分として約73300本を販売することとし」,この数量配分以上の購入を希望する小売業者については,被審人において在庫となっているゲームソフト3本を購入することを条件にドラクエIV1本を販売することとした。小売業者25店が,この販売条件に応じて,ドラクエIV合計約1,700本を,在庫となっている他のゲームソフト約3,500本と抱き合わせて購入させられた。

6. ゲームソフトの大半は流通業者が在庫として抱えることになるのが通常であり,流通業者は,人気商品が販売された場合,在庫品を処分するため人気商品と不人気商品とを抱き合わせて販売することが必ずしも稀ではなかった。

7. 被審人は,ドラクエIVの前作であるドラゴンクエストIIIの販売に当たり,本件と同様の抱き合わせ販売を行い公正取引委員会から警告を受けていた。

 

公取委の判断

ドラクエIVと本件抱き合わせ販売に供された他のゲームソフトとは,それぞれその内容において独自性を有し,独立して取引の対象とされているものであるから,右他のゲームソフトが,一般指定第10項に規定する「他の商品」にあたることは明らかである。

本件抱き合わせ販売は,ドラクエIVが人気の高い商品であることから,その市場力を利用して価格・品質等によらず他のゲームソフトを抱き合わせて販売したものであり,買手の商品選択の自由を妨げ,卸売業者間の能率競争を侵害し競争手段として公正を欠くものといわざるを得ない。

本件抱き合わせが組織的,計画的に行なわれていたこと,抱き合わせ販売に応じて購入を希望した小売業者が少なからず存在していたとみられること,前記6及び7記載の事実「並びに本件抱き合わせ販売は事業者の独占的地位あるいは経済力を背景にするものではなく,ドラクエIVの人気そのものに依存するものであるため,人気商品を入手し得る立場にある者は,容易に実行することのできる行為であることを考えると,本件抱き合わせ販売は,実際に販売されたのは,小売業者25店に対し被抱き合わせゲームソフト約3,500本であるが,その申入れは実績配分以上の数量を希望した取引先小売業者を対象に組織的,計画的になされたものであり,また前記のように本件抱き合わせ販売は,その性質上及び市場の実態からみて反復性,伝播性があり,更に広い範囲で本件の如き抱き合わせ販売が行われる契機となる危険性を有し,被抱き合わせ商品市場における競争秩序に悪影響を及ぼすおそれがあるものと認められる」。

法令の適用

前記事実によれば,被審人は,その取引先小売業者に対し,不当に,ドラクエIVの供給に併せて他のゲームソフトを自己から購入させていたものであって,これは,一般指定第10項に該当し,独占禁止法第19条の規定に違反するものである。

 

 

[参考・審決]

(株)光陽に対する件

勧告審決平成21130

審決集3739

 独禁法19条 一般指定10

 

1. 株式会社光陽(以下「光陽」という。)は,家庭用テレビゲーム機用ゲームソフト(以下「ゲームソフト」という。)等の家庭用電子玩具を一次卸売業者から購入し,小売業者等へ販売している。

2. 光陽は,任天堂株式会社が平成元年421日から発売開始したゲームボーイと称する携帯用コンピュータゲーム機(以下「ゲームボーイ」という。)を,一次卸売業者(9社)から購入した(約9,600台)。

3. ゲームボーイは,発売開始後の平成元年7月ごろから人気が出始め,その後小売業者は入荷量の確保が困難な状況となった。

4. この中で光陽は,ゲームボーイの販売に当たり同社に在庫となっているゲームソフトを処分することを企図し,取引先小売業者約120店に対しては過去の取引実績に応じた数量配分として約7,800台を販売することとした上,過去の取引実績に応じた数量配分以上の購入を希望する小売業者に対しては,同社に在庫となっているゲームソフト3本を購入することを条件にゲームボーイ1台を販売すること等を商品案内を送付する等して通知し,この販売条件に応じて購入を希望した小売業者約100店に対し,合計でゲームボーイ約1,800台と在庫となっている他のゲームソフト約3,000本を抱き合わせて購入させた。

5. 光陽は,株式会社エニックスが平成2211日から発売開始したゲームソフトであるドラゴンクエストⅣ(以下「ドラクエⅣ」という。)を,一次卸売業者(7社)から購入した(約46,200本)。ドラクエⅣは,ドラゴンクエスト・シリーズの前3作がいずれも人気ゲームソフトとなったことから前人気が高く,同ゲームソフトの発売時には消費者が店頭に殺到することが予想されたため,小売業者は同ゲームソフトの入荷量確保に躍起となる状況にあった。この中で光陽はドラクエⅣの販売に当たり同社に在庫となっているゲームソフトを処分することを企図し,取引先小売業者約100店に対しては過去の取引実績に応じた数量配分として約35,900本を販売することとした上,過去の取引実績に応じた数量配分以上の購入を希望する小売業者に対しては,平成21月以降,他のゲームソフト3本を購入することを条件にドラクエⅣ1本を販売すること等を商品案内を送付する等して通知し,この販売条件に応じて購入を希望した小売業者約80店に対し,合計でドラクエⅣ約1300本と在庫となっている他のゲームソフト約2400本を抱き合わせて購入させた。

法令の適用

「光陽は,取引小売業者に対し,不当に,家庭用電子玩具の供給に併せて他の家庭用電子玩具を自己から購入させていたものであって,これは,不公正な取引方法(昭和57年公正取引委員会告示第15号)の第10項に該当し,独占禁止法第19条の規定に違反するものである。」

 

 

(株)松葉屋に対する件

勧告審決平成21130

審決集3732

 独禁法19条 一般指定10

 

1. 株式会社松葉屋(以下「松葉屋」という。)は,家庭用テレビゲーム機用ゲームソフト(以下「ゲームソフト」という。)等の家庭用電子玩具をメーカーから購入し,二次卸売業者及び小売業者に販売している。

2. 松葉屋は,株式会社エニックスが平成2211日から発売開始したゲームソフトであるドラゴンクエストⅣ(以下「ドラクエⅣ」という。)約363,400本を,株式会社エニックスから購入した。

3.ドラクエⅣは,ドラゴンクエスト・シリーズの前3作がいずれも人気ゲームソフトとなったところから前人気が高く,同ゲームソフトの発売時には消費者が店頭に殺到することが予想されたため,小売業者は同ゲームソフトの入荷量確保に躍起となる状況にあった。

4. この中で松葉屋は,ドラクエⅣの販売に当たり同社に在庫となっているゲームソフトを処分することを企図し,過去の取引実績に応じた数量分配以上の購入を求めた株式会社光陽に対して,松葉屋に在庫となっているゲームソフトの購入協力を求めた。株式会社光陽は,これに応じて,過去の取引実績に応じた数量配分としてのドラクエⅣ4万本に加え,ドラクエⅣ約1万本と松葉屋に在庫となっている他のゲームソフト約29,400本を抱き合わせて購入させた。なお,この他のドラクエIVは,過去の取引実績に応じて数量配分され,取引先二次卸売業者14店及び取引先小売業者約130店に対して販売された。

法令の適用

「松葉屋は,取引先卸売業者に対し,不当に,家庭用電子玩具の供給に併せて他の家庭用電子玩具を自己から購入させていたものであって,これは,不公正な取引方法(昭和57年公正取引委員会告示第15号)の第10項に該当し,独占禁止法第19条の規定に違反するものである。」

 

 

(株)ワールドアオヤマに対する件

勧告審決平成21130

審決集3747

 独禁法19条 一般指定10

 

1. 株式会社ワールドアオヤマ(以下「ワールドアオヤマ」という。)は,家庭用テレビゲーム機(携帯用コンピュータゲーム機を含む。),家庭用テレビゲーム機用ゲームソフト(以下「ゲームソフト」という。)等の家庭用電子玩具を一次卸売業者から購入し,小売業者等へ販売している。

2. ワールドアオヤマは,株式会社エニックスが平成2211日から発売開始したゲームソフトであるドラゴンクエストⅣ(以下「ドラクエⅣ」という。)を,一次卸売業者(4社)から購入し(約16,200本),その一部(約1,700本)を同社東京支店の販売用に配分することとした。

3. ドラクエⅣは,ドラゴンクエスト・シリーズの前3作がいずれも人気ゲームソフトとなったところから,前人気が高く,同ゲームソフトの発売時には消費者が店頭に殺到することが予想されたため,小売業者は同ゲームソフトの入荷量確保に躍起となる状況にあった。

4. この中でワールドアオヤマは,ドラクエⅣの販売に当たり同社に在庫となっているゲームソフトを処分することを企図し,東京支店において,過去の取引実績が大きい取引先小売業者3社に対しては,過去の取引実績に応じた数量配分として約1,100本を販売することとした上,その他の取引先小売業者に対しては,平成21月以降,同支店に在庫となっているゲームソフト2本を購入することを条件にドラクエⅣ1本を販売すること等を商品案内を送付する等して通知した。そして,この販売条件に応じて購入を希望した小売業者20店に対し,合計でドラクエⅣ約600本と在庫となっている他のゲームソフト約1,300本を抱き合わせて購入させた。

法令の適用

「ワールドアオヤマは,取引先小売業者に対し,不当に,家庭用電子玩具の供給に併せて他の家庭用電子玩具を自己から購入させていたものであって,これは,不公正な取引方法(昭和57年公正取引委員会告示第15号)の第10項に該当し,独占禁止法第19条の規定に違反するものである。」

 

 

(株)一世に対する件

勧告審決平成21130

審決集3743

 独禁法19条 一般指定10

1. 株式会社一世(以下「一世」という。)は,家庭用テレビゲーム機(携帯用コンピュータゲーム機を含む。),家庭用テレビゲーム機用ゲームソフト(以下「ゲームソフト」という。)等の家庭用電子玩具を一次卸売業者等から購入し,小売業者等へ販売している。

2. 一世は,任天堂株式会社が平成元年421日から発売開始したゲームボーイと称する携帯用コンピュータゲーム機(以下「ゲームボーイ」という。)を,同年4月以降12月末までの間に,一次卸売業者(約60名)から購入した(約7,000台)。ゲームボーイは,発売開始後の平成元年7月ごろから人気が出始め,その後小売業者にとって入荷量の確保が困難な状況が続いていた。一世は,この中で,ゲームボーイの販売に当たり同社に在庫となっているゲームソフトを処分することを企図し,ゲームボーイ1台を在庫ゲームソフト2本を購入することを条件に販売することを案内し,この案内に応じて購入を希望した小売業者約40店に対してゲームボーイ約4,200台と在庫となっている他のゲームソフト約6,600本を抱き合わせて購入させた。

3.  一世は,株式会社エニックスが平成2211日から発売開始したゲームソフトであるドラゴンクエストⅣ(以下「ドラクエⅣ」という。)を,平成22月末までの間に,一次卸売業者(5社)から購入した(約35,000本)。ドラクエⅣは,ドラゴンクエスト・シリーズの前3作がいずれも人気ゲームソフトとなったところから前人気が高く,同ゲームソフトの発売時には消費者が店頭に殺到することが予想されたため,小売業者は同ゲームソフトの入荷量確保に躍起となる状況にあった。一世は,この中で,ドラクエⅣの販売に当たり同社に在庫となっているゲームソフトを処分することを企図し,ドラクエIV1本を在庫ゲームソフト1本を購入することを条件に販売することを案内し,この案内に応じて「購入を希望した小売業者約70店に対し,合計でドラクエⅣ約2900本と在庫となっている他のゲームソフト約25,700本を抱き合わせて購入させた。

法令の適用

「一世は,取引先小売業者に対し,不当に,家庭用電子玩具の供給に併せて他の家庭用電気玩具を自己から購入させていたものであって,これは,不公正な取引方法(昭和57年公正取引委員会告示第15号)の第10項に該当し,独占禁止法第19条の規定に違反するものである。」

 


 

[事例]

マイクロソフト(株)に対する件

勧告審決平成101214

審決集45153

 独禁法19条 一般指定10

 

1. マイクロソフト株式会社(以下「マイクロソフト社」という。)は,我が国に所在するパソコン製造販売業者との間で,マイクロソフトコーポレーション(米国)が契約する基本ソフトウェア等に係るライセンス契約の締結交渉を行うほか,表計算用ソフトウェア(以下「表計算ソフト」という。)である「エクセル」,ワードプロセッサ用ソフトウェア(以下「ワープロソフト」という。)である「ワード」,スケジュール管理用ソフトウェア(以下「スケジュール管理ソフト」という。)である「アウトルック」等の応用ソフトウェアを開発し,ライセンス供与している。

2. 応用ソフトウェアのうち一般消費者の需要が最も大きいのは,表計算ソフト及びワープロソフトである。応用ソフトウェアであるスケジュール管理ソフトも近年,需要が増大している。

3.  表計算ソフト,ワープロソフト及びスケジュール管理ソフトは,それぞれ,機能,種類の異なるソフトウェアである。

4. マイクロソフト社は,「エクセル」,「ワード」又は「アウトルック」を,パッケージ製品(ソフトウェアと取扱説明書を一体とした製品をいう。以下同じ。)としては,それぞれ単体でも供給している。

5. 表計算ソフトの市場においては,平成5年ころから,マイクロソフト社の「エクセル」の市場占拠率が第1位であった。

6. ワープロソフトの市場においては,平成6年には,株式会社ジャストシステムの供給する「一太郎」の市場占拠率が第1位であった。

7. スケジュール管理ソフトの市場においては,平成8年までは,ロータス株式会社が供給する「オーガナイザー」の市場占拠率が第1位であった。

8. パソコン製造販売業者は,表計算ソフト,ワープロソフト等の中心的な応用ソフトウェアをパソコン本体に搭載又は同梱して販売する場合があった。平成9年に出荷されたパソコンのうち,これらソフトが搭載又は同梱されて出荷されたものの割合は約4割であった。

9. 前記8の搭載又は同梱をする際に,パソコン製造販売業者は,パソコン製造に係るコストが増加すること等のために,同種のソフトウェアを重複してパソコン本体に搭載又は同梱して出荷することは行わないことが通常である。

10. 搭載又は同梱されている表計算ソフト又はワープロソフトは,一般消費者がパソコンを購入する際の選択基準の1つである。

11.  パソコン本体に搭載又は同梱されたソフトウェアについてバージョンアップが行われると,一般消費者は,当該ソフトウェアのパッケージ製品を購入することが多い。

12. 主要なパソコン製造販売業者の1つである富士通株式会社(以下「富士通」という。)は,ワープロソフトとして「一太郎」,表計算ソフトとして「ロータス1−2−3」を搭載したパソコンを発売していた。

13. マイクロソフト社は,平成71月頃から,パソコン製造販売業者の出荷するパソコンについて,表計算ソフトの市場において有力な「エクセル」とともに「ワード」を搭載させて,「ワード」のパソコン製造販売業者向けの供給を拡大することとし,「エクセル」と「ワード」を併せてパソコン本体に搭載・同梱して出荷する権利を許諾する契約を締結することを受け入れさせた。パソコン製造販売業者(富士通を含む。)の中には,「エクセル」のみを対象とする契約を締結することを希望する者があったが,マイクロソフト社は,この要請を拒絶した。

14.マイクロソフト社は,さらに,「アウトルック」の供給開始に先立ち,この供給を拡大するために,平成812月以降,パソコン製造販売業者に対し,「エクセル」,「ワード」及び「アウトルック」を併せてパソコン本体に搭載又は同梱して出荷する権利を許諾する契約を締結することを提案し,これを受け入れさせた。一部のパソコン製造販売業者は,従来どおり「エクセル」及び「ワード」のみを対象とした契約を締結することを要請したが,マイクロソフト社はこれを拒絶した。

15. マイクロソフト社の前記行為に伴い,平成7年以降,ワープロソフトの市場における「ワード」の市場占拠率が拡大し,平成9年度には第1位を占めるに至っている。また,平成9年度には,スケジュール管理ソフトの市場において,「アウトルック」が第1位を占めるに至っている。

法令の適用

マイクロソフト社は,取引先パソコン製造販売業者等に対し,不当に,表計算ソフトの供給に併せてワープロソフトを自己から購入させ,さらに,取引先パソコン製造販売業者に対し,不当に,表計算ソフト及びワープロソフトの供給に併せてスケジュール管理ソフトを自己から購入させているものであって,これは,不公正な取引方法(昭和57年公正取引委員会告示第15号)の第10項に該当し,独占禁止法第19条の規定に違反するものである。

 


 

[参考・審決]

(株)長野県教科書供給所に対する件

同意審決昭和39211

審決集12100

独占禁止法19条 一般指定10

 

1. 被審人株式会社長野県教科書供給所(以下「長野供給所」という。)は,小学校,中学校,高等学校およびこれらに準ずる学校(以下「学校」という。)で使用される教科書(以下「教科書」という。)ならびに普通図書の販売を主たる事業としている。

2. 長野供給所は,長野県内における唯一の教科書卸売業者である。長野供給所は,教科書発行会社またはその元卸売業者(以下「発行会社ら」という。)と教科書特約供給契約(以下「特約契約」という。)を締結し,長野県内における学校で使用される教科書の供給代行責任者となっている。

3. 長野供給所は,教科書を学校に供給するため,おおむね,普通図書の小売業を営んでいる者と教科書取次供給代行契約(以下「取次契約」という。)を締結している。教科書取次供給代行業務委託先は「取次店」と呼ばれる。長野県下の取次店は,92名ある。

4. 長野供給所は,特約契約にもとづいて,代金回収能力に関する要件など一定の要件を具備する者を取次店を選定することを発行会社らから委任されており,毎年,この選定を行い,この者らと取次契約を締結してきた。

5. 長野供給所は,特約契約により,取次店に教科書以外の商品の販売を強要し,または教科書以外の商品の販売を教科書取引の条件とすることを禁じられている。

6. 長野供給所は,就学児童の減少による教科書取扱高の減少および教科書の無償交付実施に伴う教科書取扱手数料の削減による収入減に対処するために,普通図書の販売を拡充強化するとの方針の下で取次店に対して次の事項を了承させた。

①一定額以上(教科書取扱額の3分の1以上)の普通図書を長野供給所から購入すること。

1店あたり合計で年間300万円以上の教科書および普通図書を長野供給所から購入すること。

③今後3ヵ年の取扱実績を考慮し,前記②の目標に達しない取次店を整理統合すること。

法の適用

前記1および2の事実によれば,長野供給所は,一定基準に達しない取次店を整理統合する旨を明示して,長野県内における取次店に対し,教科書の取扱いに関連し普通図書を長野供給所から購入するよう強制しているものであつて,これは,正常な商慣習に照らして不当な不利益をもつて,直接,競争者の顧客を自己と取引するよう強制しているもので,昭和28年公正取引委員会告示第11号の6に該当し,私的独占禁止法第19条の規定に違反するものである。

 


 

排他条件付取引

 

[基本・判決]

(株)東洋精米機製作所による審決取消請求事件

東京高等裁判所判決昭和59217

行政事件裁判例集352144頁、判例時報110647頁、判例タイムズ51796頁、金融・商事判例70227

 独禁法19条 一般指定11項(昭和28年指定7

 

「いわゆる排他条件付取引が正当な理由がないものとして昭和28年公正取引委員会告示第11号不公正な取引方法7に該当するといい得るためには,それが行為者と競争者との間における公正な競争を阻害するおそれがあると認められることが必要であり,したがって,本件特約店契約が右の不公正な取引方法7に該当するためには,原告の右契約の締結行為によって,食糧加工機製造業者が販売業者を通じて小精米用食糧加工機を米穀小売業者に供給するという取引の場における公正な競争が阻害されるおそれがあると認められることが必要であるところ,右の公正競争阻害性の有無は,結局のところ,行為者のする排他条件付取引によって行為者と競争関係にある事業者の利用しうる流通経路がどの程度閉鎖的な状態におかれることとなるかによって決定されるべきであり,一般に一定の取引の分野において有力な立場にある事業者がその製品について販売業者の中の相当数の者との間で排他条件付取引を行う場合には,その取引には原則的に公正競争阻害性が認められるものとみて差し支えないであろう。」

 

「右のような場合であっても,一定の取引の分野の市場構造の特殊性等からして,すでに各販売業者が事実上特定の事業者の系列に組み込まれており,その事業者の製品だけしか取り扱わないという実態になっているなど特段の事情が認められる場合は,排他条件付取引に公正競争阻害性が認められないとされる余地が生ずるものと解される。」「したがって,排他条件付取引に公正競争阻害性が認められるか否かを判断するに当たっては,行為者及びその競争者の製造する製品を取り扱う販売業者がどの程度存在し,販売業者の各事業者への系列化の実情がどのようなものになっているかといった点が重要な判断資料となるものというべきである。

 

「本件審決は,原告が昭和51112日から昭和52311日までの間に全国の販売業者240名のうち79名との間で本件特約店契約を締結したこと及び原告が前記取引の場において有力な地位にある者であることから,右の排他条件付取引には公正競争阻害性が認められると判断しているのであるが,本件審決が全国の販売業者の数が240名であるとの事実をいかなる証拠に基づいて認定したのかは,被告から当裁判所に送付された事件記録を精査してみても明らかでな」く,かえって,「全国の販売業者の数はおおよそ100名とするものから2,000名とするものまで区々に分れており,とうていこれを確定することができない」。加えて,「本件で問題とされている取引の場においては,各販売業者の特定の事業者への系列化がかなりの程度まで進んでいるのではないかと推認できる余地さえも認められる。」「そうすると,仮に,本件審決のいう取引の場において原告が有力な地位を有する業者であるとの本件審決の前記の認定判断が合理性を有するとした場合においても,更に,本件審決は,右の全国の販売業者の数やその各事業者への系列化の実情の点を認定判断するのに必要な的確な証拠を収集することなく,たやすく本件特約店契約の締結行為について公正競争阻害性の存在を肯定したものであり,この点においても審決の基礎となった事実を立証する実質的証拠を欠く」。

 


 

[参考・判決]

(株)北海道新聞社に対する審決取消訴訟事件(北海タイムス事件)

東京高等裁判所判決昭和291223

行政事件裁判例集5123027

独禁法19条 一般指定11

 

「思うに独占禁止法は私的独占及び不当な取引制限を禁止して一切の競争制限行為を排除し,もつて自由競争を可能ならしめる経済的基盤を提供するとともに,自由競争の赴くところ,いきおい不公正な競争方法を誘致することを保し難いので,さらにこれを規整をして公正ならしめ,もつて自由競争における正当な秩序を維持しようとはかつているものである。すなわち自由競争はこれを確保しつつ,競争方法そのものは公正ならしめようとするところに主眼がある。この故にここで不公正な競争方法として禁止されるべきは本件のような条件付取引いわゆる排他約款付取引をも含めて,いずれも不当なものでなければならないとすることはおのずから明らかであり,法の明文もまたこれを規定する。しからば同法第2条第6項各号の列挙する各競争方法にしてその外形が列挙の要件にあたるもののうちでいかなるものがここにいう不当なものであるかといえば,これを抽象的にいう限り結局公正な競争を妨げるおそれのある一切のものをいうとするほかはない(改正法第2条第7項第4号,公正取引委員会告示第11号「不公正な取引方法」第7号参照)。

一般に相手方が自己の競争者から物資等の供給を受けないことを条件としてこれと取引することは,それ自体は違法ではない。ある事業者Aがかかる競争方法をとつても,その競争者たる別の事業者Bにとつて,Aと取引ある者を除外してこれに代るべき取引の相手方を容易に求めることができるかぎり,Bはこれとの取引を通じて価格,品質,数量,サービス等のいわゆる能率による本来の競争により,その市場への進出は少しも妨げられないところであるから,Aのかかる競争方法はなんらBに対して脅威となるものでなく,結局において公正な競争を妨げるものといい得ないこととなるであろう。しかしそうでない限り,Bはその競争の条件においてすでに不利益を受け,本来の競争による市場進出はAによつて人為的に妨げられることとなるわけであるから,Aのかかる競争方法は不当なものとならざるを得ないのである。」

 

「これを本件についてみるに,先ず原告は審決認定のように道内において発行されるすべての新聞紙の56パーセント,札幌市内のそれの45パーセントを制し道内全新聞販売店の90パーセントをいわゆる系統店として把握するという巨大な経済力を具有する事業者であるが,かかる経済力の存在はたんに審決認定のような競争方法が原告によつて人為的にとられ得た契機たるの意味を有するに止まり,審決もそのことをもつて右競争方法を不当ならしめるものとしているのでないことは審決自体によつて明らかである。しかし従前合売制の維持され来つたところで,原告が各新聞販売店に対し自己と取引する限り競争紙たるタイムス紙を扱い得ないことを条件とするときは,タイムスは自己の新聞の販売については原告と取引ある既存の合売店を用いることを得なくなるのであり,これに対処するためにはあらたに直売もしくは専売の販売制を採るか,又は原告と取引のない別個の合売店を見出してこれによつてその販路を開拓せざるを得なくなるのであり,殊に予約購読制を原則とする新聞販売において,すでにその競争の条件において多大の不利益を受け,その当面する困難はあたかも既存の市場に入り込む新来の競争者のそれにも比すべきものである。かくてはその北海道という特殊の立地条件と相まつてタイムス社がその商品たる新聞の販売において価格,品質,数量,サービス等をもつてする本来的競争によつて市場に進出することは原告のこの人為的措置によつて妨げられることとなるのであつて,これこそ自由競争を公正なものに規整しようとする法の理念に背くものというべく,かかる条件を付する取引は結局不当のものと断ぜざるを得ない。」

 


 

[事例]

神奈川生コンクリート協会に対する件

勧告審決平成2215

審決集3644

独禁法19条 一般指定11項,14

 

1. 神奈川生コンクリート協同組合(以下「神奈川協組」という。)は,神奈川県及び東京都において生コンクリート(以下「生コン」という。)の製造業を営む者を組合員(平成元年10月末日現在42名)として,中小企業等協同組合法に基づいて設立された事業協同組合である。神奈川協組は,昭和5271日から横浜市並びに川崎市のうち川崎区及び幸区の区域(以下「共同販売事業区域」という。)において組合員の製造する生コンの共同販売事業を行っている。

2. 神奈川協組は,組合員から生コンを買い受けてこれを生コンの販売業者に販売している。生コンの需要者は,建設工事業者である。

3. 神奈川協組の販売数量は,共同販売事業区域における生コンの総販売数量のほとんどすべてを占める。

5. 共同販売事業区域内においては,建設工事業者は,同協組の組合員でない生コンの製造業者(以下「員外者」という。)の生コンのみを使用して工事を行うことは困難な状況である。

4. 組合員は,販売業者からの生コンの引き合いについて,神奈川協組からあらかじめ割り当てられた出荷比率に従い配分を受け,生コンを出荷している。

5. 神奈川協組は,生コンの販売業者との間に「代行販売店取引基本契約」(以下「代行販売店契約」という。)又は「特約販売店取引基本契約」(以下「特約販売店契約」という。)を締結し,これら販売業者に同協組が行っている生コンの共同販売事業に係る生コンの販売を行わせている。これら販売業者は,「代行販売店」又は「特約販売店」と称されている(以下,これらを「販売店」という。)。

6. 神奈川協組の販売する生コンを取り扱っている販売店は,80名であり,共同販売事業区域に所在する生コンの販売業者の大部分を占める。

7. 神奈川協組は,前記代行販売店契約及び特約販売店契約において,販売店が神奈川協組の供給する生コン以外の生コンを取り扱う場合は,事前に神奈川協組に報告しなければならない旨を規定し,販売店がこの報告を怠った場合は当該契約を解除することとしている。

8. 神奈川協組は,かねてから,共同販売事業によって生コンの市況の立て直し及び組合員の生コンの出荷数量の増大に努めてきたものの,員外者が存在するためにその目的を十分に達成できなかった。そこで,神奈川協組は,代行販売店契約及び特約販売店契約の前記条項に基づき,販売店から員外者の生コンを取り扱いたい旨の報告がなされた場合でも,組会員により出荷が可能なときは,神奈川協組と取引するよう慫慂すること等により員外者との取引を認めていない。また,同報告をせずに員外者の生コンを取り扱った販売店に対しては取引を一定期間停止する等の措置を採っている。

9. 前記8の行為により,神奈川協組は,販売店に対し,同協組から生コンの全量を購入させ,員外者の生コンを取り扱わせないようにしている。

10. 神奈川協組は,組合員の生コンの出荷数量の増大を図るため,昭和61年ごろから,員外者の生コンを使用している需要者に対し組合員の生コンを使用するよう要請し,この要請に応じない者に対しては,今後,組合員の生コンは供給しない旨を申し入れるなどして,員外者と生コンの需要者との生コンの取引をさせないようにしている。

11. 神奈川協組の前記10の行為ために,一部の生コンの需要者は,既に員外者の生コンを使用して施工していた工事について,途中から組合員の生コンに切り替えることを余儀なくされている。

12. 神奈川協組は,員外者の生コンの出荷数量を抑制させる方策として,組合員及び主要な員外者を生コンの原材料であるセメントの仕入先製造業者ごとに区分し,員外者の生コンの出荷については,その数量を当該員外者と同一の区分に属する組合員の出荷数量とみなすことを含む「系列別責任体制」と称する措置を決定し,これをセメントの製造業者9社に対して周知させた。

13. 神奈川協組は,員外者である株式会社和田砂利商会(以下「和田砂利」という。)に関し,同社が出荷した生コンのうち一定の比率で算出された数量を越える出荷数量(以下「超過数量」という。)については,同社にセメントを供給している徳山曹達株式会社が全額出資しており,かつ,組合員である川崎徳山生コンクリート株式会社の出荷数量とみなすことを決定し,この決定に基づいて川崎徳山生コンクリート株式会社に対して,昭和636月分から超過数量に一定金額を乗じた額を特別赤黒調整金と称して請求して支払わせている。これは,徳山曹達株式会社に和田砂利へのセメントの供給数量を削減させることにより,和田砂利生コンの出荷数量を抑制させることを目的としたものであり,員外者である和田砂利と徳山曹達株式会社との取引を妨害しているものである。

法令の適用

神奈川協組は,「販売店に対し,不当に,販売店が自己の競争業者である員外者と生コンの取引をしないことを条件として取引を行っているものであり,これは,不公正な取引方法(昭和57年公正取引委員会告示第15号)の第11項に該当し,また,前記事実1及び3によれば,員外者と生コンの需要者との生コンの取引を不当に妨害しているものであり,さらに,前記事実1及び4によれば,員外者とセメントの製造業者とのセメントの取引を不当に妨害しているものであって,これらは,いずれも前記不公正な取引方法の第15項に該当し,それぞれ,独占禁止法第19条の規定に違反するものである。」

主文

1 神奈川生コンクリート協同組合は,生コンクリートの販売業者との間で締結している「代行販売店取引基本契約書」及び「特約販売店取引基本契約書」中各第4条を削除するとともに,今後,生コンクリートの販売業者との取引に当たって,当該販売業者に対し,その取り扱う生コンクリートはすべて自己から購入しなければならない旨の条件を課してはならない。

2 神奈川生コンクリート協同組合は,生コンクリートの需要者に対し,同協同組合の組合員でない生コンクリートの製造業者との取引をさせないようにしている行為を取りやめるとともに,今後,同様の行為を行ってはならない。

3 神奈川生コンクリート協同組合は,昭和62716日に行った「系列別責任体制」に関する決定を破棄し,同決定に基づいて川崎徳山生コンクリート株式会社に対して行った行為を撤回するとともに,今後,同様の行為を行ってはならない。」(主文・以下略)

 


 

[事例]

湘南生コンクリート協会に対する件

勧告審決平成2215

審決集3649

独禁法19条 一般指定11項,14

 

1. 湘南生コンクリート協同組合(以下「湘南協組」という。)は,中小企業等協同組合法に基づいて設立された事業協同組合である。湘南協組は,神奈川県・東京都の一部(以下「共同販売事業区域」という。)において組合員の製造する生コンの共同販売事業を行っている。

2. 湘南協組は,組合員から生コンを買い受けてこれを生コンの販売業者に販売しており,その販売数量は,共同販売事業区域における生コンの総販売数量の大部分を占める。

3. 湘南協組は,生コンの販売業者との間に「代行販売店取引基本契約」(以下「代行販売店契約」という。)又は「特約販売店取引基本契約」(以下「特約販売店契約」という。)を締結し,これらの販売業者を「代行販売店」又は「特約販売店」(以下これらを「販売店」という。)と称し,販売店に同協組が行っている生コンの共同販売事業に係る生コンの販売を行わせている。湘南協組の販売する生コンを取り扱っている販売店は,72名であり,共同販売事業区域に所在する生コンの販売業者の大部分を占める。

4. 湘南協組は,前記代行販売店契約及び特約販売店契約において,販売店が湘南協組の供給する生コン以外の生コンを取り扱う場合は,あらかじめ湘南協組に対して届け出なければならない旨を規定し,販売店がこの届出を怠った場合は当該契約を解除することとしている。

5. 湘南協組は,かねてから,共同販売事業によって生コンの市況の立て直し及び組合員の生コンの出荷数量の増大に努めてきたが,同協組の組合員でない生コンの製造業者(以下「員外者」という。)の存在によりその目的が十分達成されなかった。このため,湘南協組は,代行販売店契約及び特約販売店契約の前記条項に基づき,販売店から員外者の生コンを取り扱いたい旨の届出がなされた場合でも,組合員により出荷が可能であるときは,湘南協組と取引するよう慫慂すること等により員外者との取引を認めていない。また,同届出をせずに員外者の生コンを取り扱った販売店に対しては今後このようなことを行わないよう警告する等の措置を採ることにより,販売店に対し,同協組から生コンの全量を購入させ,員外者の生コンを取り扱わせないようにしている。

6. 湘南協組は,協同販売事業区域内では,生コンの需要者である建設工事業者が員外者の生コンのみを使用して工事を行うことは困難な状況であるところ,組合員の生コンの出荷数量の増大を図るため,員外者の生コンを使用している需要者に対し組合員の生コンを使用するよう要請し,この要請に応じない者に対しては,今後,組合員の生コンは供給しない旨を申し入れるなどして,員外者と生コンの需要者との生コンの取引をさせないようにしている。

法令の適用

「湘南協組は,前記事実1及び2によれば,販売店に対し,不当に,販売店が自己の競争業者である員外者と生コンの取引をしないことを条件として取引を行っているものであり,これは,不公正な取引方法(昭和57年公正取引委員会告示第15号)の第11項に該当し,また,前記事実1及び3によれば,員外者と生コンの需要者との生コンの取引を不当に妨害しているものであり,これは,前記不公正な取引方法の第15項に該当し,それぞれ,独占禁止法第19条の規定に違反するものである。」

主文

1 湘南生コンクリート協同組合は,生コンクリートの販売業者との間で締結している「代行販売店取引基本契約書」及び「特約販売店取引基本契約書」中各第6条を削除するとともに,今後,生コンクリートの販売業者との取引に当たって,当該販売業者に対し,その取り扱う生コンクリートはすべて自己から購入しなければならない旨の条件を課してはならない。

2 湘南生コンクリート協同組合は,生コンクリートの需要者に対し,同協同組合の組合員でない生コンクリートの製造業者との取引をさせないようにしている行為を取りやめるとともに,今後,同様の行為を行ってはならない。」(主文・以下略)

 

 


 

再販売価格の拘束

 

[基本・判決]

和光堂(株)による審決取消訴訟

最高裁判所判決昭和50710

最高裁判所民事判例集296888頁、判例時報78121頁、判例タイムズ32682頁、裁判所時報6721頁、最高裁判所裁判集民事115307頁、金融・商事判例52037

独禁法19条 294号(昭和28年指定8

 

上告人は,本件販売対策が卸売業者と小売業者との取引を拘束するものであるとしたこと,特にこの拘束力の有無を判断するにあたって上告人の育児用粉ミルクの市場占拠率いかんを考慮していない点において重大な誤りがあると主張するが,「一般指定8は,「正当な理由がないのに,相手方とこれから物資の供給を受ける者との取引を拘束する条件をつけて,当該相手方と取引すること」を不公正な取引方法の1つと定めているが,公正な競争を促進する見地からすれば,取引の対価や取引先の選択等は,当該取引当事者において経済効率を考慮し自由な判断によって個別的に決定すべきものであるから,右当事者以外の者がこれらの事項について拘束を加えることは,右にいう「取引」の拘束にあたることか明らかであり,また,右の「拘束」があるというためには,必ずしもその取引条件に従うことが契約上の義務として定められていることを要せず,それに従わない場合に経済上なんらかの不利益を伴うことにより現実にその実効性が確保されていれば足りるものと解すべきである。

 

「育児用粉ミルクについては,その商品の特性から,銘柄間に価格差があっても,消費者は特定の銘柄を指定して購入するのが常態であり,使用後に他の銘柄に切り替えることは原則としてないため,特定銘柄に対する需要が絶えることがなく,これに応ずる販売業者は,量の多寡にかかわらず,右銘柄を常備する必要があるという特殊事情があり,このことは上告人の育児用粉ミルクについても同様であるところ,上告人と取引する卸売業者は,右粉ミルクのほかに,上告人の製造又は販売する他の多数の育児用商品及び乳幼児用薬品等をも取り扱っている,というであって,審決の右の認定はすべて実質的証拠に基づくものとして首肯することができる。このような事実関係のもとにおいては,たとえ所論のように上告人の育児用粉ミルクの市場占拠率が低く,販売業者の取扱量が少ないとしても,小売業者からの注文を受ける卸売業者としては,右粉ミルクについて上告人との取引をやめるわけにはいかないのであり,また,取引を続けるかぎり,前記感謝金による利潤を確保するために,上告人の定めた販売価格及び販売先の制限に従わざるをえないこととなるのはみやすいところであるから,審決が,本件販売対策は右市場占拠率のいかんにかかわりなく,相手方たる卸売業者と小売業者との取引を拘束するものであると認定したことは,なんら不合理なものではない。」

 

法が不公正な取引方法を禁止した趣旨は,公正な競争秩序を維持することにあるから,法274号の「不当に」とは,かかる法の趣旨に照らして判断すべきものであり,また右4号の規定を具体化した一般指定8は,拘束条件付取引が相手方の事業活動における競争を阻害することとなる点に右の不当性を認め,具体的な場合に右の不当性がないものを除外する趣旨で「正当な理由がないのに」との限定を付したものと解すべきである。したがって,右の「正当な理由」とは,専ら公正な競争秩序維持の見地からみた観念であって,当該拘束条件か相手方の事業活動における自由な競争を阻害するおそれがないことをいうものであ」る。

 

「単に通常の意味において正当のごとくみえる場合すなわち競争秩序の維持とは直接関係のない事業経営上又は取引上の観点等からみて合理性ないし必要性があるにすぎない場合などは,ここにいう「正当な理由」があるとすることはできない」。

「所論は,再販売価格維持行為が市場競争力の弱い商品について行われる場合には,それによりかえって他の商品との間における競争が促進されるから,「正当な理由」を認めるべきである,と主張するが,前記のとおり,一般指定8は相手方の事業活動における競争の制限を排除することを主眼とするものであるから,右のような再販売価格維持行為により,行為者とその競争者との間における競争関係が強化されるとしても,それが,必ずしも相手方たる当該商品の販売業者間において自由な価格競争が行われた場合と同様な経済上の効果をもたらすものでない以上,競争阻害性のあることを否定することはできないというべきである。」

 

「現行の一般指定は,法27項各号に定められた各行為類型をより個別的・具体的に特定しているのであり,流動する経済情勢のもとですべての事業分野に一般的に適用することを予定したものとしては,右の程度に特定されていれば法の委任の趣旨に反するものとはいえない。」

 

「被上告委員会の審判手続は,事業者の法違反の行為により公正かつ自由な競争秩序が侵害されている場合に,右競争秩序を回復するため,同委員会が自ら審判開始決定をした事件につき,関係者に防禦の機会を与え,審決をもって違反状態を排除することを目的とした行政上の手続であって,民事若しくは刑事の訴訟手続とは性格を異にするから,その審判の対象の特定に関して訴訟手続におけると同様に厳格な手続的規制が要求されるものではない。このことと,審判手続については,被審人の防禦権を保障し審決の適正を期する趣旨から対審構造が採られていることを合わせ考えると,審判の範囲又は審決の認定事実は,必ずしも審判開始決定書に記載された事実そのもののみに限定されるものではなく,これと多少異なる事項にわたったとしても,事実の同一性を害せず,かつ,審判手続全体の経過からみて被審人に防禦の機会を閉ざしていないかぎり,違法ではないと解するのが相当である(昭和26年(オ)第665号同29525日第3小法廷判決・民集85950頁参照)。」

(「本件審判開始決定書には感謝金制度に開する記載がなかったことは,所論のとおりである。しかし,本件審判においては,先に述べたとおりの特定の販売対策に基づく価格維持行為が不公正な取引方法にあたるかどうかが問題とされているのであるから,右販売対策の内容の一環をなす感謝金制度について審理が及ぶことは当然であり,たとえ審判開始決定書自体にその具体的記載がなくても,被上告委員会が審決においてこれを認定することは,なんら事実の同一性を害するものではない。そして,右感謝金制度につき上告人が現実に防禦の機会を与えられていたことは,原審の判示する審判の経過からみて明らかなところである。したがって,その点に関する審決の認定は,前記の場合にあたるものとして適法」である。)

「法80条は,審決取消訴訟につきいわゆる実質的証拠の原則を採用し,審決の認定した事実は,これを立証する実質的証拠があるときは裁判所を拘束する旨を定めている。したがって,裁判所は,審決の認定事実については,独白の立場で新たに認定をやり直すのではなく,審判で取り調べられた証拠から当該事実を認定することが合理的であるかどうかの点のみを審査するのであって,右訴訟の提起があったときは,裁判所は被上告委員会に対して当該事件記録の送付を求めるべきものとされ(法78条),また,右訴訟においては,審判で取り調べられなかった証拠の提出が制限され,裁判所が新たな証拠を取り調べる必要があると認めるときは,被上告委員会に事件を差し戻すべきこととされている(法81条)のは,これを前提とするものである。このような審判と訴訟との関係からすれば,審判は,制度上訴訟の前審手続ではないけれども,審判で取り調べられた証拠はすべて当然に裁判所の判断資料とされるべきものであり,右証拠につき改めて通常の訴訟におけるような証拠調に関する手続を行う余地はないと解すべきである。したがって,原審が本件審判手続の証拠をもって判断の資料としたことに所論の違法はない。」

 

 

明治商事(株)による審決取消訴訟

最高裁判決昭和50711

和光堂事件最高裁判決参照

 


 

[基本・判決][事例]

ハマナカ(株)による審決取消請求事件

東京高等裁判所判決平成23422

審決集58巻第二分冊1

独禁法19条 294号イ・ロ

 

独占禁止法が不公正な取引方法を禁止した趣旨は,公正かつ自由な競争秩序を維持することにあるから,同法294号(相手方の事業活動を不当に拘束する条件をもって取引すること)の「不当に」は,この法の趣旨に照らして判断すべきであり,同号の規定を具体化した一般指定12項は,再販売価格の拘束が相手方の事業活動における競争を阻害する点に不当性を認め,具体的な場合にこの不当性がないものを除外する趣旨で「正当な理由がないのに」との限定を付したものと解すべきである。したがって,この「正当な理由」は,公正な競争秩序維持の観点から,当該拘束条件が相手方の事業活動における自由な競争を阻害するおそれがないことをいう。」

 

「「中小小売業者の生き残りを図る」という原告の主張する目的は,中小小売業者が自由な価格競争をしないことで生き残りを図るというのであるから,公正かつ自由な競争秩序維持の見地からみて正当性がないことは明らかであり,国民経済の民主的で健全な発展の促進という独占禁止法の目的に沿うともいえない。

 

「産業としての,文化としての手芸手編み業を維持する」という原告の主張する目的は,「一般的にみて保護に値する価値とはいえるものの,それが一般消費者の利益を確保するという独占禁止法の目的と直接関係するとはいえない上,同法23条の指定も受けていない商品について,上記の目的達成のために相手方の事業活動における自由な競争を阻害することが明らかな本件行為という手段を採ることが,必要かつ相当であるとはいえない。」

 

1. 原告(ハマナカ株式会社)は,手芸手編み糸を玉状等にまとめ,「ハマナカ」又は「Rich More」の商標を付したもの(以下「ハマナカ毛糸」という。)を,他の事業者に委託して製造させ,販売する事業を営む。原告は,ハマナカ毛糸を,自ら又は卸売業者を通じて小売業者に販売するほか,通信販売等の方法により直接一般消費者への販売も行っている。

2. ハマナカ毛糸は,他の手芸手編み糸に比して知名度が高く,一般消費者には,ハマナカ毛糸を指名して購入する者が少なくないことから,手芸手編み糸を取り扱う小売業者にとって品ぞろえに加えておくことが重要な商品となっている。

3. 前記2より,ハマナカ毛糸を取り扱う小売業者の多くは,原告の要請に従わざるを得ないと考えていた。

4. 原告は,ハマナカ毛糸について,標準価格等と称する希望小売価格(以下「標準価格」という。)を定め,自ら又は卸売業者を通じて,小売業者に周知させている。

5. 原告に対しては,ハマナカ毛糸を他店より安く販売する小売店が存在について,この周辺の小売業者から苦情が寄せられていた。原告は,安く販売している小売店に対して,極端な安売りは周辺の小売店に影響するのでやめるよう申入れをするなどして対応した。この際,原告は,玉単位で販売する場合には標準価格の10パーセント引きの価格,袋単位で販売する場合には標準価格の20パーセント引きの価格を下限とし(以下,これらの価格を「値引き限度価格」という。),値引き限度価格以上の価格で販売させるようにするとの方針を有していた。

6. 大手小売業者であるユザワヤ株式会社及びユザワヤ商事株式会社(以下,両社を併せて「ユザワヤ」という。)は,原告からハマナカ毛糸を直接仕入れて,標準価格から10パーセントないし30パーセント引きの価格で販売していた。ユザワヤは,大阪市出店に際して新規開店店舗にてハマナカ毛糸の一部を標準価格の40-50パーセント引きで販売した。これについて,周辺の小売業者から原告に対して苦情が寄せられた。原告は,値引き限度価格以上の価格で販売させるようにするよう再三にわたり申し入れた。ユザワヤは,原告が他の小売業者にも値引き限度価格以上の価格で販売させるようにすることを条件として原告の申入れに応ずることとし,同年10月ころ以降,値引き限度価格以上の価格で販売した。

7. 株式会社ABCクラフト(以下「ABCクラフト」という。)は,ハマナカ毛糸を卸売業者から仕入れ,玉単位で標準価格の20パーセント引き及び袋単位で標準価格の30パーセント引きの価格で販売していた。原告は,ハマナカ毛糸を値引き限度価格以上の価格で販売するよう申し入れたが,ABCクラフトはこの申入れに応じなかった。そこで,原告は,当該卸売業者2社に対するハマナカ毛糸の出荷を停止し,これによって,ABCクラフトに対するハマナカ毛糸の供給を停止させた。原告の出荷停止を受けて,ABCクラフトは,ハマナカ毛糸を品ぞろえしておく必要があることから原告の申入れに従わざるを得ないと考え,原告の申入れに応じ,ハマナカ毛糸を値引き限度価格以上の価格で販売する旨を原告に伝え,それ以降,当該価格で販売した。

8. 小野株式会社(以下「小野」という。)は,ハマナカ毛糸を原告から直接仕入れ,標準価格の1030%引きで販売していた。原告による要請及び出荷停止処分を受けた後,小野は,ハマナカ毛糸を値引き限度価格以上の価格で販売するようになった。

9.  イオン株式会社(以下「イオン」という。)は,ハマナカ毛糸を二次卸売業者である有限会社銀河夢(銀河夢)から仕入れ,玉単位で標準価格の15パーセント引きの価格で販売していた。銀河夢は,ハマナカ毛糸を一次卸売業者から仕入れていた。原告は,銀河夢に,イオンに対しハマナカ毛糸を値引き限度価格以上の価格で販売するよう申し入れさせた。イオンがその申入れに応じなかったことから,原告は,①ハマナカ毛糸を販売していたイオンの約150店舗のうち約半数の店舗においてハマナカ毛糸をすべて買い上げ,②銀河夢のハマナカ毛糸の仕入先である一次卸売業者に,銀河夢に対するハマナカ毛糸の出荷を停止させ,③他の卸売業者に対しても,銀河夢からハマナカ毛糸の注文があっても販売しないよう連絡し,④卸売業者から受けた注文のうち当該卸売業者が銀河夢から注文を受けて原告に発注したとみられるものについては,当該卸売業者に出荷しないようにした。イオンは,見切り品及び廃番品以外のハマナカの毛糸を取り扱わなくなり,イオンにおけるハマナカ毛糸の売上高は大幅に減った。

10. 株式会社三喜(以下「三喜」という。)は,標準価格の25パーセント引きの価格で販売していた。原告は,ハマナカ毛糸を値引き限度価格以上の価格で販売するよう要請し,この申入れに従わない場合には三喜に対するハマナカ毛糸の出荷を停止することを示唆した。三喜は,ハマナカ毛糸を品ぞろえしておく必要があることから,出荷停止されることを恐れて,要請に従うこととした。

11.  原告は,インターネット上でハマナカ毛糸が値引き限度価格を下回る価格で販売されていることについて苦情が寄せられていた。そこで,原告は,インターネット上においても値引き限度価格以上の価格で販売させることとし,これを下回る価格で販売しているインターネット小売業者を中心に少なくとも15社のインターネット小売業者に対し,値引き限度価格以上の価格で販売するよう申し入れた。あわせて,卸売業者を通じて,インターネット小売業者に対して値引き限度価格以上の価格で販売するよう申し入れをさせた。この申入れを受けたインターネット小売業者は,おおむねこれに応じて,小売価格を引き上げた。その他の小売業者も追随した。この結果,インターネット小売業者の販売価格が概ね標準価格の10パーセント引きの価格となった。

12. 公取委は,原告が「正当な理由がないのに,小売業者に対し値引き限度価格を維持するとの条件を付けて手編み毛糸等を供給し,卸売業者に対し,小売業者に値引き限度価格を維持させるとの条件を付けて手編み毛糸等を供給している行為が,平成21年法律第51号による改正前の私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(独占禁止法)29項に基づき公正取引委員会が定めた平成211028日改正前の「不公正な取引方法」(昭和57年公正取引委員会告示第15号。以下「一般指定」という。)の121号及び2号に該当し,同法19条に違反」したとして,排除措置命令を下した。原告がこの排除措置命令について審判を請求したところ,公取委は却下した。

13. 原告は,審決取消訴訟において,「イオンが原告による出荷停止等を受けても原告の値引き限度価格以上で販売するようにとの要請に従っていない」ことなどから,「原告が値引き限度価格を実効性をもって維持させている」との審決認定は実質的証拠がないと主張した。

14. 原告は,このほか,「中小小売企業の生き残りをはかるため」目的等によるものであり,「正当な理由」があるなどと主張した。

 

裁判所の判断

イオンは,原告の要請に従い小売価格を引き上げはしなかったものの,出荷停止措置を受けてハマナカ毛糸を従前と同様に販売することができなくなり,「このことは他の小売業者に対しても「見せしめ」的な効果をもつことは明らかであるから,原告が値引き限度価格を実効性をもって維持させているとの認定は左右されない」。

 

 


 

[基本・審決][事例]

(株)ソニー・コンピュータエンタテインメントに対する件

審判審決平成1381

審決集483頁、判例タイムズ1072267

 独禁法19条 294号イ,同ロ,一般指定12

 

再販売価格の拘束行為の消滅について「本件値引き販売禁止行為のような再販売価格の拘束行為が消滅したか否かを判断するに当たっては,当該再販売価格の拘束の手段・方法とされた具体的行為が取りやめられたり,当該具体的行為を打ち消すような積極的な措置が採られたか否かという拘束者の観点からの検討に加え,拘束行為の対象とされた販売業者が制約を受けずに価格決定等の事業活動をすることができるようになっているかという被拘束者の観点からの検討が必要である。さらに,これを補うものとして,当該商品の一般的な価格動向等の検討も有用である。

 

「再販売価格の拘束行為は,原則として公正競争阻害性を有する違法なものである(最判昭和50710日民集296888頁及び最判昭和50711日民集296951頁)。」

 

再販売価格拘束以外の拘束条件付取引行為(中古品取扱い禁止行為及び横流し禁止行為)の公正競争阻害性の判断について,「これらの行為が公正な競争秩序に及ぼす影響を具体的に明らかにすることによって,これらの行為自体が独立して公正競争阻害性を有することを認定することができるし,また,そこまでの認定ができない場合にも,これらの行為が,一体的に行われている値引き販売禁止行為を補強するものとして機能していると認められるときには,その点において,これらの行為も不公正な取引方法として排除されるべき再販売価格の拘束行為に包含されるものとみるのが相当である。」

 

1. 被審人(株式会社ソニー・コンピュータエンタテインメント)は,プレイステーションと称する家庭用テレビゲーム機(以下「PSハード」という。),PSハード用ソフトウェア(以下「PSソフト」という。)及びPSハード用周辺機器(以下,PSハード,PSソフト及びPSハード用周辺機器を併せて「PS製品」という。)の製造販売並びにPSソフトの仕入販売の事業を営む。

2. 家庭用テレビゲーム機(以下「ゲーム機」という。)であってPSハードと競合するものは,任天堂株式会社(以下「任天堂」という。),株式会社セガ・エンタープライゼズ(現社名株式会社セガ)などにより製造されている。

3. 家庭用テレビゲーム機は,いずれも,ゲーム機本体に家庭用テレビゲーム機用ソフトウェア(以下「ゲームソフト」という。)を装着して用いられる(以下,ゲーム機とゲームソフトを併せて「テレビゲーム」ともいう。)。それぞれのゲーム機用のゲームソフトの間に互換性はない。

4. PS製品については,平成6123日の発売当初から,「ソニー」のブランド力などのために,テレビゲームの販売業者の間にこれを取り扱うことが営業上有利であり,又は品揃え上必要であるとの認識が広まっていた。その後,PS製品は,発売直後から一般消費者の高い評価を得てシェアを高め,PSハードとPSソフトとの相乗効果によりテレビゲーム市場において有力な地位を確立した。このため,テレビゲームの販売業者にとっては,PS製品を取り扱うことがますます重要になっていった。

5. 被審人は,我が国のゲーム機及びゲームソフトの各販売分野において,平成8年度の出荷額が第1位の地位を占める最有力の事業者である。

6. 被審人は,原則として,ゲームソフト製造業者の開発製造したPSソフトを一手に仕入れて販売しており,ゲームソフトの販売業者にとってPSソフトの供給面で独占的地位にある。

7.  被審人は,PS製品について次のような流通経路政策を採用し,シリアル番号による出荷先調査などを通じて実効性を確保している。

①被審人は,PS製品について直接小売業者と取引し,これら小売業者が一般消費者に販売するという「直取引」を基本方針とする。被審人は,小売業者にはPS製品を一般消費者に対してのみ販売するように義務付け,卸売業者には取引先の小売業者に対してのみ販売するとともに取引先の小売業者に一般消費者にのみ販売することを指導するように義務付ける。(以下,この方針を「横流し禁止」という。)

②被審人は,自ら開発製造するPSソフトの希望小売価格を設定する。ゲームソフト製造業者が開発し,被審人が製造受託して仕入販売するPSソフトについては,基本的にゲームソフト製造業者が希望小売価格を設定する。そして,小売業者に対しては,これらの遵守を促し,卸売業者に対しては,取引先の小売業者に同様の価格設定をすることを指導するように求める。(この方針を,以下では,「値引き販売禁止」という。)(なお,この方針は後に一部変更され,発売月から2ヶ月を経過したものには値引きをしてよいものとされた。その後には,廃止された。)

8. ゲームソフトについては,一般消費者による小売業者に対する中古ゲームソフトの売却及び販売業者による買い取り,販売が行われている。被審人は,中古のPSソフトの取扱いがテレビゲーム業界全体のためにマイナスであることを強調し,小売業者に対して,その取扱いをしないように求め,また,卸売業者に対し,取引先の小売業者に中古のPSソフトを取り扱わないことを指導するように求めている。(この方針を,以下では,「中古品取扱い禁止」という。)

9. 前記78の販売方針は,被審人の参入時にみられた流通の問題点を解消するために,一体のものとして採用された。

10. 中古品取扱い禁止の方針については,①目的は「新品PSソフトの販売本数を確保することにより,ゲームソフト製造業者及び新品ゲームソフト販売業者の利益を図るとともに,ゲームソフト製造業者にPSソフトの積極的な開発を促すこと」にあった。②一般消費者にとっては,PSソフトを購入する際には新品と中古品とは選択的な関係にあった。③被審人は,新品のPSソフトの希望小売価格の水準と中古品売買との関係を検討し,ゲームソフトの価格を高くすると中古ゲームソフトが流通することから希望小売価格を低く設定するなどしていた。

11. 横流し禁止に関しては,被審人の営業担当者らは,未取引店へのPS製品の流出を防止することにより値崩れを防止する効果があることを一般的に認識している。さらに,PS製品の店舗数・取扱店舗が限定されており,このために取扱店にとってはPS製品の取扱いそれ自体が大きな利益となり,取扱店としてはPS製品取扱を継続するために被審人の意向に配慮せざるを得ない。また,事実上,一店一帳合となっており,シリアル番号が付されており,監視が容易であるなどの状況にある。

12.平成85月に,公正取引委員会が被審人のこれら流通方針について立入検査を行った。

13. 前記立入検査から,被審人は,営業担当者に対する値引き店への説得・是正指導の自粛の指示を行い,小売業者に対して,販売価格は販売業者自らが決めるべきであるという説明等をするようになった。もっとも,この後も,被審人営業担当者が小売業者の値引きに介入する例がみられた。

14. さらにその後,営業担当者は,次第に,値引きへの介入を行わなくなった。平成97日以降には,是正指導の事例もみられなくなった。それまで行われていた小売店からの競合店の値引きに関する情報提供も次第に行われなくなった。平成92月頃から,有力な小売業者らが値引き販売を始めるようになった。平成91月下旬ころから,希望小売価格から1割程度の値引き販売がみられるようになり,同年11月下旬にはこのような値引き販売が既に一般的なものになった。

 

公取委の判断

再販売価格の拘束行為の消滅について,本件においては,前記1011からして,被審人の値引き販売禁止行為が平成911月ころには消滅したと認められる。

 

値引き販売禁止について「被審人の値引き販売禁止行為は再販売価格の拘束に当たり,特段の正当な理由の存在も認められない以上,被審人の同行為は,公正競争阻害性を有するものと認められる(なお,著作物再販制度との関係については,後記のとおりである。)。」

 

本件における非価格制限行為(中古品取扱い禁止及び横流し禁止)の評価の仕方について,被審人は,前記78の販売方針を関連した一体のものとして決定し実施したのであり,「中古品取扱い禁止行為及び横流し禁止行為の公正競争阻害性を判断するに当たっては,値引き販売禁止行為がされていることを考慮した上で,これらの行為が公正な競争秩序に及ぼす影響について判断すべきである。そして,これらの行為が公正な競争秩序に及ぼす影響を具体的に明らかにすることによって,これらの行為自体が独立して公正競争阻害性を有することを認定することができるし,また,そこまでの認定ができない場合にも,これらの行為が,一体的に行われている値引き販売禁止行為を補強するものとして機能していると認められるときには,その点において,これらの行為も不公正な取引方法として排除されるべき再販売価格の拘束行為に包含されるものとみるのが相当である。」「本件のように,複数の非価格制限行為が同時に行われている場合や価格制限行為も併せて行われている場合に,ある非価格制限行為の公正競争阻害性を判断するに当たっては,同時に行われている他の非価格制限行為あるいは価格制限行為により影響を受けている市場環境を踏まえた上でなされるべきことは当然」である。

 

中古品取扱い禁止について,目的は新品の再販売価格維持にはなかったものの,この行為に「新品の価格競争を制限する機能・効果が認められる場合その他PSソフトの販売に係る公正な競争を阻害するおそれがある場合には,その具体的な態様・程度により同行為自体が公正競争阻害性を有すると判断される」。本件中古品取扱い禁止行為の影響・効果については,前記10②・③などの事実があり,「新品のPSソフトの価格や販売数量と中古のPSソフトの価格や販売数量とは,一般的・抽象的には相互に影響し合う関係にあるものということができ」る。「また,中古のPSソフトの売買が行われることによって新品PSソフトの売上げが減少するとすれば,一般的な経済法則に照らすと,中古のPSソフトの売買は,新品PSソフトに対する需要の減少を通して,新品PSソフトの販売価格の軟化につながることとなる。」「加えて,新品のPSソフトの独占的な供給者である被審人が,特約店に対し,一般消費者のニーズが高い中古品の取扱いを禁止することは,中古PSソフトの市場への参入自体を制限するものともいえ,観念的にはそれによって同市場における競争が制限されることとなり,さらに,前記のとおり,新品と中古品とが相互に影響し合う関係にあることからすれば,中古品市場における競争制限は新品市場における競争制限につながることにもなる。」

しかし「本件においては,被審人が特約店に対して中古品の取扱いを禁止したことにより,PSソフトの販売段階での競争が実際にどのような態様でどの程度影響を受けるものであるかを上記のような観点から具体的に判断するためには,中古品市場の状況,ゲームソフト販売業者の事業活動に及ぼす影響,更には一般消費者の購買行動を含めて幅広い実態把握とその分析が必要になると考えられるところ,本件記録上,こうした具体的な認定・判断をするに足りる証拠は十分ではない。」

しかしながら,本件では,「再販売価格の拘束行為が行われ,それと一体的なものとして中古品取扱い禁止行為及び横流し禁止行為が行われている」。「新品と中古品との関係や一般的な経済法則に照らせば,中古品取扱い禁止により新品PSソフトの販売価格に影響が及ぶこととなることは前記のとおりであるから,これらを併せ考えれば,中古品取扱い禁止行為が新品PSソフトの再販売価格の拘束行為の実効的な実施に寄与し,同行為を補強するものとして機能していると認められる。したがって,本件中古品取扱い禁止行為は,その点において再販売価格の拘束行為に包含され,同行為全体として公正競争阻害性を有するものと認めることができるというべきである。」そして,「再販売価格の拘束行為に包含されるものとしての中古品取扱い禁止行為の公正競争阻害性」は,再販売価格拘束行為の消滅時に「なくなったものというべきである」。

 

横流し禁止の販売方針については,前記11の事実等が認められる。これに照らせば,被審人は,一連の「流通政策によって単線的で閉鎖的な流通経路を構築し,PSソフトの販売段階での競争が生じにくい仕組みを採っているところ,更に横流し禁止をすることによって,流通経路内で川下方向にのみPS製品を流通させ,横流れが生じないようにしているものである。こうした流通政策により,小売業者の仕入先は被審人又は特定の卸売業者に限定され,仕入価格も一律であることから,競合する小売業者が行わない限り,小売業者がPSソフトの値引き販売を行う誘因は元々小さい上に,被審人の値引き販売禁止の販売方針の下でPSソフトの値引き販売を行って被審人から取引を停止されると,他にPS製品を入手する経路は存在しないから,PS製品全体の取扱いができなくなることに直結することとなる。そして,こうした事情は,PSソフトを取り扱う小売業者に共通のものであり,小売業者間で値引き販売禁止を申し合わせているのと実質的に同様の効果がもたらされる」。また,「こうした販売段階での競争制限への脅威は」,「本来PSソフトを扱っていないはずの販売業者による安売りにあるのであって,それを防止する方法として,閉鎖的流通経路外の販売業者へのPSソフトの流出を根絶することが必要になる。そして,PS製品の横流し禁止によって,閉鎖的流通経路外の(被審人のコントロールが及ばない)小売店舗でPS製品が販売されること自体が生じないようにすることができ,それによりPSソフトの安売りを防止し,そうした安売りがコントロール下の小売業者による値引き販売に波及してこないようにすることができるのである」。「このように,被審人のPS製品の流通政策の一環としての横流し禁止の販売方針は,それ自体,取扱い小売業者に対してPSソフトの値引き販売を禁止する上での前提ないしはその実効確保措置として機能する閉鎖的流通経路を構築するという側面及び閉鎖的流通経路外の販売業者へのPS製品の流出を防止することにより外からの競争要因を排除するという側面の両面において,PSソフトの販売段階での競争が行われないようにする効果を有している」。そして,PSソフトの値引き販売禁止行為の消滅によって「横流し禁止行為の公正競争阻害性の根拠のうち,閉鎖的流通経路内での値引き販売禁止の前提ないし実効確保としての意味が失われたとしても,閉鎖的流通経路外へのPS製品の流出を防止し,外からの競争要因を排除する効果が直ちに失われるものではないから,PSソフトの販売段階での競争を制限するPSソフトの横流し禁止行為には,現時点でも公正競争阻害性が認められる」。

なお,平成101218日最高裁判所判決最高裁判所民事判例集5291866頁(以下「資生堂最高裁判決」という。)及び同日同裁判所判決最高裁判所裁判集民事1901017頁(以下「花王最高裁判決」という。)は,「商品説明の義務付けや品質管理・陳列方法の指示などの制限形態によっては販売段階での競争制限とは直ちに結び付くものではなく,もともと,こうした販売方法についてはメーカー等に選択の自由を幅広く認めたとしても,公正な競争の確保の観点からは問題が生じにくいと考えられることによるものである。これに対し,本件の横流し禁止は,販売業者の取引先という,取引の基本となる契約当事者の選定に制限を課すものであるから,その制限の形態に照らして販売段階での競争制限に結び付きやすく,この制限により当該商品の価格が維持されるおそれがあると認められる場合には,原則として一般指定第13項の拘束条件付取引に該当するというべきであり,たとえ取引先の制限に販売政策としてそれなりの合理性が認められるとしても,それだけでは公正な競争に悪影響を及ぼすおそれがないということはできない。」

また,「花王最高裁判決は,販売方法の制限についてだけでなく,販売先の制限についても,それなりの合理性を有するか,差別的に用いられていないか,の2つの基準によって判断した」が,これは「販売方法の制限に必然的に伴う卸売販売禁止について,販売方法に関する制限と同様の基準で判断されることを判示したものであって,卸売販売禁止という取引先制限行為一般についての公正競争阻害性の判断基準を判示したものではない。」本件では,「販売方法に関する制限を小売業者に課した上で当該制限に必然的に伴うものとして横流し禁止を行っているものではないから,花王最高裁判決の射程範囲外というべきであ」る。

また,独占禁止法第23条第4項との関係について,「同法第23条第4項による著作物の再販適用除外制度は,当時の書籍,雑誌,新聞及びレコード盤(著作物4品目)の定価販売の慣行を追認する趣旨で導入されたものとされている。そして,公正取引委員会では,その後,音楽用テープ及び音楽用CDについては,レコード盤とその機能・効用が同一であることからレコード盤に準じるものとして取り扱い,著作物4品目を含む,これら6品目に限定して著作物再販制度の対象とすることとし,その旨公表されている(平成4415日公正取引委員会公表)。ゲームソフトについては,昭和28年の独占禁止法改正当時には存在しておらず,また,上記著作物4品目のいずれかとその機能・効用を同一にするものではないし,著作物再販制度が独占禁止法上原則として違法として禁止される再販売価格維持行為に対する例外的措置であることからすると,これを再販適用除外の対象とすべき著作物に該当するものということはできない。」

 


 

[事例]

アディダスジャパン(株)に対する件

排除措置命令平成2432

審決集56巻第一分冊284

独禁法19条 294号イ・ロ

 

1. アディダスジャパン株式会社(以下,「アディダスジャパン」という)は,シューズなどの輸入業,販売業などを営む。

2. アディダズジャパンは,平成212月に「イージートーン」という名称のトーニングシューズの販売を開始した。トーニングシューズは,靴底の形状等により通常より筋肉に負荷が掛かる仕組みを採用することにより,これを履いて歩くことで下半身の引締め効果等が期待できるとされるシューズである。イージートーンについては,年の前半と後半のシーズンごとに新たなモデルが発売されていた。

3. アディダスジャパンは,オランダ王国所在のアディダス・インターナショナル・トレーディング・ビー・ブイからイージートーンを輸入し,直営店舗等において直接一般消費者に販売するほか,自ら又は取引先卸売業者を通じて小売業者に販売していた。

4. イージートーンは,トーニングシューズの中でも一般消費者の認知度が高く,一般消費者の中にはイージートーンを指名して購入する者が少なくないことから,トーニングシューズを販売する小売業者にとって,品ぞろえに加えることが重要な商品となっていた。

5. アディダスジャパンは,新たなモデルが発売されるたびに,モデルごとに,直接又は取引先卸売業者を通じて,小売業者に自らが希望する価格(以下,「本体価格」と言う。)での販売を原則とし,本体価格を下回る価格で販売する場合には,値引き限度価格以上の価格で販売するよう要請していた。

6. イージートーンの人気が高まるにつれて,アディダスジャパンに対して,値引き限度価格を下回る価格でイージートーンを販売する小売業者に対する他の小売業者からの苦情が寄せられるようになった。平成2111月頃から平成221月頃にかけて,複数の大手小売業者が値引き限度価格を下回る価格でイージートーンを販売した。この状況下で,アディダスジャパンは,イージートーンについて,値引き限度価格以上の価格での販売を小売業者に徹底させることとし,遅くとも平成223月下旬以降,自らの調査等により値引き限度価格を下回る価格で販売していることが判明した小売業者に対して,①当該小売業者が自社の取引先である場合には,値引き限度価格以上の価格で販売するよう申入れを行い,②当該小売業者が取引先卸売業者からイージートーンを購入している場合には,当該取引先卸売業者をして同様の申入れを行わせることにより,イージートーンの販売価格を値引き限度価格以上の価格に改めさせていた。

7. アディダスジャパンは,前記の自ら又は取引先卸売業者の要請に反する価格でイージートーンを販売する小売業者については,販売価格を改めさせるとの実効性を確保するために,当該小売業者に対して,自ら又は取引先卸売業者を通じて,当該要請に従わない場合にはイージートーンの出荷停止等を行う旨を示唆した。そして,要請に反する価格での販売を継続する小売業者に対しては,イージートーンの出荷を停止する,在庫を返品させるなどしていた。

8. 大阪府に本店を置く小売業者は,主にインターネットを利用した方法により全国に商品を販売している小売業者が値引き限度価格を下回る価格でイージートーンの販売を行った。アディダスジャパンは,当該小売業者にイージートーンを販売していた自社の取引先卸売業者をして値引き限度価格以上の価格で販売するよう当該小売業者に申入れを行わせたが,当該小売業者がこれに応じなかったことから,当該取引先卸売業者をして,当該小売業者に対する全てのイージートーンの出荷を停止させた。

9. 愛知県に本店を置くアディダスジャパンの取引先小売業者は,イージートーンの割引券付き新聞折込み広告を行うことにより本体価格を下回る価格で販売を行うことを計画していた。アディダスジャパンは,当該小売業者に対し,当該広告を行った場合はイージートーンの出荷を停止する旨を示唆して問題のイージートーンを割引券の対象から除外するよう申入れを行った。当該取引先小売業者は,当該広告を割引券のない新聞折込み広告に変更した。

10. アディダスジャパンのこれらの行為により,小売業者は,イージートーンを,おおむね値引き限度価格以上の価格ないし本体価格どおりの価格で販売していた。

11. 公正取引委員会が立入検査を行った日以降は,アディダスジャパンが自ら又は取引先卸売業者を通じて,小売価格を指定し,販売するようにさせていた行為は行われていないものと認められる。

 

法令の適用

「前記事実によれば,アディダスジャパンは,正当な理由がないのに,取引先小売業者に対しアディダスジャパンの定めた値引き限度価格又は本体価格を維持させる条件を付けてイージートーンを供給し,取引先卸売業者に対し当該取引先卸売業者をして小売業者にこれらの価格を維持させる条件を付けてイージートーンを供給していたものであって,この行為は独占禁止法第2条第9号第4号に該当し,独占禁止法第19条の規定に違反するものである。このため,アディダスジャパンは,独占禁止法第20条第2項において準用する独占禁止法第7条第2項第1号に該当する者である。また,違反行為が行われなくなったことが公正取引委員会の立入検査を契機としたものであること等の諸事情を総合的に勘案すれば,特に排除措置を命ずる必要があると認められる。」

(主文)

 


 

 

 [事例]

コールマンジャパン(株)に対する件

排除措置命令平成28615

公正取引委員会審決等データベースシステム

独禁法19条 294

 

1. コールマンジャパン株式会社(以下「コールマン」という。)は,テント,タープ,シュラフ,照明器具,調理器具,燃料,テーブル,チェア,クーラー,ジャグ等,主としてキャンプで用いる商品(以下,「キャンプ用品」という。)の輸入業,販売業等を営む。

2. コールマンは,国内外のキャンプ用品製造業者にコールマンのキャンプ用品の製造を委託するとともに,アメリカ合衆国所在のザ・コールマン・カンパニー・インクからコールマンジャパンが販売する「Coleman」の商標が付されたキャンプ用品(以下,「本件商品」という。)を輸入するなどして,本件商品を直営店舗等において直接一般消費者に販売するほか,自ら又は取引先卸売業者を通じて小売業者に販売していた。

3. コールマンは,毎年9月頃から年末頃にかけて,取引先小売業者及び取引先卸売業者ごとに翌シーズンに販売するコールマンのキャンプ用品について商談を行い,コールマンのキャンプ用品ごとの納入価格等を決めていた。また,当該卸売業者は,コールマンジャパンとの商談後,小売業者ごとに翌シーズンに販売するコールマンのキャンプ用品について商談を行い,コールマンのキャンプ用品ごとの納入価格等を決めていた。また,コールマンジャパンは,シーズンごとに,「参考価格」等と称するコールマンのキャンプ用品ごとの希望小売価格(以下「参考価格」という。)を定めていた。

4. 本件商品は,キャンプ用品の中でも一般消費者の認知度が高く,人気があり,一般消費者の中には本件商品を指名して購入する者が多いことから,キャンプ用品を販売する小売業者にとって,品ぞろえに加えておくことが不可欠な商品となっていた。

5. コールマンは,本件商品について,小売業者が実店舗における販売又はインターネット販売を行うに当たっての販売ルールを次のとおり定めていた。

① 販売価格は,本件商品の価格を,参考価格からおおむね10パーセント引き以内でコールマンが定める下限の価格以上とすること。

② 割引販売は,他社の商品を含めた全ての商品を対象として実施する場合又は実店舗における在庫処分を目的として,コールマンが指定する日以降,チラシ広告を行わずに,一部の商品を除いて実施する場合に限り行うこと。

6. コールマンジャパンは,本件商品について,小売業者に販売ルールに従って販売させるという方針の下,取引先小売業者と翌年の取引について商談を行うにあたり上記5の販売ルールに従って販売するよう要請するとともに,取引先卸売業者が当該商品を当該卸売業者から購入する小売業者と翌年の取引について商談を行うに当たり販売ルールに従って販売するよう要請させていた。また,コールマンは,新たに本件商品の取引を希望する小売業者に対し,取引開始に当たり,自ら又は取引先卸売業者を通じて,販売ルールに従って販売するよう要請してこれに従う旨の同意を得,又は,得させていた。

7. コールマンは,自らの調査又は他の小売業者からの苦情等により,小売業者が販売ルールを逸脱して本件商品を販売していることが判明した場合には,当該小売業者に対し,自ら又は取引先卸売業者を通じて,販売ルールに従って販売するよう要請を続けるなどして,販売ルールに従って販売させていた。

8. コールマンは,インターネット販売において複数の小売業者が値下げを相互に行うことによりコールマンが設定した下限価格を下回る価格で本件商品を販売していた場合には,当該小売業者に対し,自ら又は取引先卸売業者を通じて,期限を定めて一斉に販売価格を下限以上の価格まで引き上げるよう要請し下限以上の価格で販売させていた。

9. 小売業者は,おおむね販売ルールに従って本件商品を販売していた。

10. 公取委が立ち入り検査を行った日以降,前記の拘束は事実上消滅した。

 

法令の適用

「コールマンジャパンは,コールマンのキャンプ用品の販売に関し,取引先小売業者にコールマンのキャンプ用品を販売ルールに従って販売するようにさせ,取引先卸売業者をして小売業者にコールマンのキャンプ用品を販売ルールに従って販売するようにさせていたものであり,これは,コールマンジャパンが,正当な理由がないのに,取引先小売業者に対し,当該小売業者の販売価格の自由な決定を拘束する条件を付けてコールマンのキャンプ用品を供給し,取引先卸売業者に対し,当該卸売業者をして小売業者の販売価格の自由な決定を拘束させる条件を付けてコールマンのキャンプ用品を供給していたものであって,独占禁止法第2条第9項第4号イ及びロに該当し,独占禁止法第19条の規定に違反するものである。

 また,・・・違反行為が長期間にわたって行われていたこと,違反行為の取りやめが公正取引委員会の立入検査を契機としたものであること等の諸事情を総合的に勘案すれば,特に排除措置を命ずる必要があると認められる。」

 

 


 

 

[事例]

コンビ株式会社に対する件

排除措置命令令和元年724

公正取引委員会ホームページ

独禁法19条 294 イ・ロ

 

1. コンビ株式会社(以下「コンビ」という。)は,ベビーカー,チャイルドシート,ゆりかご,抱っこ紐,おむつ処理器その他の育児に用いる商品(以下,「育児用品」という。)の販売業等を営む。

2. コンビは,コンビが販売するベビーカー,チャイルドシート及びゆりかごを,自ら又は取引先卸売業者を通じて小売業者に販売するほか,インターネットを利用した販売により自社の子会社を通じて一般消費者に販売していた。コンビは,これら3種の商品に係る提案売価について,自ら又は取引先卸売業者を通じて,小売業者に,文書を配布するなどして周知していた。

3. コンビは,上記23種の商品の販売価格の値崩れを受けて,新たなブランドを付した商品を販売することとし,平成2011月頃,「ホワイトレーベル」と称するブランドが付された商品(以下,「本件商品」という。)の販売を開始した。

4. 本件商品は,育児用品の中でも一般消費者からの認知度が高く,一般消費者の中には本件商品を指名して購入する者も少なくないことから,育児用品を販売する小売業者にとって,品ぞろえに加えておくことが重要な商品となっていた。

5. コンビは,かねてから,本件商品について,提案売価での販売に同意した小売業者に販売を認める方針の下,自ら又は取引先卸売業者を通じて小売業者から提案売価で販売する旨の同意を得ていた。

6. コンビは,遅くとも平成271月頃以降,本件商品を提案売価で販売する旨に同意した小売業者に自ら又は取引先卸売業者を通じて本件商品を販売することにより,小売業者に本件商品を提案売価で販売するようにさせていた。

7. コンビの前記56の行為により,小売業者は,本件商品を,おおむね提案売価で販売していた。

8. 公取委が立入検査を行った後も,コンビは,5ないし6ヵ月の間,小売業者に,本件商品を提案売価で販売するようにさせていたが,平成3012月にコンビは平成311月以降は小売業者の販売価格の決定に関与しない旨を取引先卸売業者及び取引先小売業者に通知したことなどから,平成311月以降,前記56の行為は事実上消滅した。

 

法令の適用

「前記事実によれば,コンビは,正当な理由がないのに,小売業者に,提案売価を維持させる条件を付けて本件商品を供給し,取引先卸売業者に,当該取引先卸売業者をしてその取引先である小売業者に提案売価を維持させる条件を付けてホワイトレーベル商品を供給していたものであって,この行為は,独占禁止法第2条第9項第4号イ及びロに該当し,独占禁止法第19条の規定に違反するものである。

 また,前記の違反行為は既になくなっているが・・・公正取引委員会の立入検査後もなお違反行為を継続していたこと等の諸事情を総合的に勘案すれば,特に排除措置を命ずる必要があると認められる。」

 


 

 

[参考]

アップリカ・チルドレンズプロダクツ合同会社に対する件

排除措置命令令和元年71

公正取引委員会ホームページ

独禁法19条 294号イ・ロ

 

1. アップリカ・チルドレンズプロダクツ合同会社(以下「アップリカ」という。)は,ベビーカー,チャイルドシート,ゆりかご,抱っこ紐,おむつ処理器その他の育児に用いる商品(以下,「育児用品」という。)の販売業等を営む。

2. アップリカは,自ら又は取引先卸売業者を通じて小売業者に販売するほか,インターネットを利用した販売により自ら一般消費者に販売していた。

3. アップリカは,アップリカが販売する「Aprica」,「GRACO」又は「BABY JOGGER」の商標が付された育児用品(以下,「本件育児用品」という。)に係る提案売価について,自ら又は取引先卸売業者を通じて,小売業者に,文書を配布するなどして周知していた。

4. 本件育児用品は,育児用品の中でも一般消費者からの認知度が高く,一般消費者の中には本件育児用品を指名して購入する者も少なくないことから,育児用品を販売する小売業者にとって,品ぞろえに加えておくことが重要な商品となっていた。

5. アップリカは,遅くとも平成285月頃以降,次の行為を行うことにより,小売業者に本件育児用品を提案売価で販売するようにさせていた。

(1) 提案売価を下回る販売価格(以下「逸脱売価」という。)で本件育児用品を販売している又は販売しようとしている小売業者を把握するため,次の行為を行っていた。

ア 小売業者の本件育児用品の販売価格を自ら定期的に調査していた。

イ 小売業者のチラシの配布に先立ち,当該チラシに掲載される本件育児用品の販売価格を自ら確認し又は取引先卸売業者をして確認させていた。

ウ 取引先卸売業者及び小売業者から,逸脱売価で本件育児用品を販売している小売業者に関する苦情を受け付けていた。

(2) 前記(1)の行為により,逸脱売価で本件育児用品を販売している又は販売しようとしていることが判明した小売業者に,提案売価で販売するよう,自ら要請を行い又は取引先卸売業者をして要請を行わせていた。

(3) 前記(2)の要請にもかかわらず,逸脱売価で本件育児用品を販売し続ける小売業者に対しては,本件育児用品の出荷を停止し,又は取引先卸売業者をして当該小売業者に対する本件育児用品の出荷を停止させるなどしていた。

6. アップリカの前記5の行為により,小売業者は,本件育児用品を,おおむね提案売価で販売していた。

7. 公取委の立入検査後もアップリカは4ヵ月ほどの期間,本件育児用品を提案売価で販売するようにさせていたが,アップリカの法務担当者が前記5の行為を行わないよう自社の営業責任者に指示し,以降,前記5の行為は事実上消滅した。

 

法令の適用

「前記事実によれば,アップリカは,正当な理由がないのに,小売業者に,提案売価を維持させる条件を付けて本件育児用品を供給し,取引先卸売業者に,当該取引先卸売業者をしてその取引先である小売業者に提案売価を維持させる条件を付けて本件育児用品を供給していたものであって,この行為は,独占禁止法第2条第9項第4号イ及びロに該当し,独占禁止法第19条の規定に違反するものである。

 また,前記の違反行為は既になくなっているが,・・・公正取引委員会の立入検査後もなお違反行為を継続していたこと等の諸事情を総合的に勘案すれば,特に排除措置を命ずる必要があると認められる。」

 


 

 

[事例]

日産化学工業㈱に対する件

排除措置命令平成18522

審決集53869

独禁法19条 294号イ・ロ

 

1.日産化学工業株式会社(以下「日産化学工業」という。)は,米国に所在するモンサント・カンパニーが製造販売する「ラウンドアップハイロード」の商標を付した茎葉処理除草剤(以下「ラウンドアップハイロード」という。)を一手に輸入して,販売している。

2. 日産化学工業は,なかでも①500ミリリットル入りボトルのラウンドアップハイロード,②5リットル入りボトルのラウンドアップハイロード及び③500ミリリットル入りボトル3本パックのラウンドアップハイロード(以下,これら3品目を「ラウンドアップハイロード3品目」という。)を販売している。

3. 日産化学工業は,ラウンドアップハイロードを,幹事卸と称する一次卸売業者(以下「幹事卸」という。)に販売している。幹事卸は,ラウンドアップハイロードを直接又は二次卸売業者(以下,幹事卸と二次卸売業者を総称して「取引先卸売業者」という。)を通じて,日用雑貨品,園芸品等を取り扱うホームセンター等の小売業者(以下「ホームセンター」という。),農薬等の農業資材を専門に取り扱う小売業者等に販売している。

4. ラウンドアップハイロードは,知名度が高く,一般消費者の中にはラウンドアップハイロードを指名し,又は継続して購入する者が少なくないことから,ホームセンターにとって,品ぞろえをしておくことが不可欠な商品となっている。

5. 日産化学工業は,ラウンドアップハイロード3品目について,希望小売価格を定め,自ら又は取引先卸売業者を通じて,ホームセンターにこの小売価格を周知している。

6. 日産化学工業は,自ら又は取引先卸売業者を通じて,ホームセンターに対し,ラウンドアップハイロード3品目を希望小売価格で販売するように要請するとともに,次の調整,要請等を行っている。

日産化学工業は,自ら又は取引先卸売業者を通じて,ホームセンターの店舗においてラウンドアップハイロード3品目の小売価格を把握している。

ホームセンターがラウンドアップハイロード3品目を希望小売価格を下回る小売価格で販売している場合には,ラウンドアップハイロード3品目のボトルに付されたロット番号を利用するなどして当該ホームセンターに供給する取引先卸売業者を調査している。

日産化学工業は,ホームセンターが,希望小売価格を下回る小売価格でラウンドアップハイロード3品目を販売していることが判明した場合(自らの調査又は他ホームセンター等からの通報により)には,自ら又は取引先卸売業者を通じて,当該ホームセンターに対して,出荷停止を示唆して小売価格を引き上げるよう要請するなどにより,当該ホームセンターに希望小売価格で販売するようにさせている。

日産化学工業は,ホームセンターが前記要請に応じない場合には,(i) 当該ホームセンターに供給する取引先卸売業者をして当該ホームセンターに対するラウンドアップハイロード3品目の出荷を停止若しくはその数量を制限させ,又は(ii)当該取引先卸売業者にラウンドアップハイロード3品目を供給している他の取引先卸売業者をして当該取引先卸売業者への出荷を停止させるなどにより,当該ホームセンターに対するラウンドアップハイロード3品目の出荷を停止又はその数量を制限させるなどしている。

行為(ii)の例として,日産化学工業は,希望小売価格を下回る小売価格でラウンドアップハイロードを販売したホームセンターに対して小売価格を希望小売価格に改めるよう,当該ホームセンターに同製品を出荷していた二次卸売業者とともに要請したが,このホームセンターがこの要請に応じなかったことから,当該二次卸売業者に同製品を供給している取引先卸売業者をして当該二次卸売業者への出荷を停止させ,これにより,当該二次卸売業者に同製品を当該ホームセンターへ出荷させないようにした。

⑤ 日産化学工業は,新種のラウンドアップハイロードを,既存種類のラウンドアップハイロードを希望小売価格で販売しているホームセンターに対して供給することとした。そして,新種のラウンドアップハイロードを供給するに当たっては,当該ホームセンターが希望小売価格で販売することを取引の条件として提示して,これを受け入れたホームセンターに供給している。

7. 日産化学工業の前記6の行為により,ホームセンターのほとんどは,ラウンドアップハイロード3品目を希望小売価格又はこれを上回る小売価格で販売している。

 

法令の適用

「前記事実によれば,日産化学工業は,正当な理由がないのに,ホームセンターに対し日産化学工業の定めた希望小売価格を維持させる条件を付けてラウンドアップハイロード3品目を供給し,又は取引先卸売業者に対し当該取引先卸売業者をしてホームセンターに日産化学工業の定めた希望小売価格を維持させる条件を付けてラウンドアップハイロード3品目を供給しているものであり,これは,不公正な取引方法(昭和57年公正取引委員会告示第15号)の第12項第1号及び第2号に該当し,独占禁止法第19条の規定に違反するものである。」

 

 


 

[事例]

(株)資生堂に対する件

同意審決平成71130

審決集4297

独禁法19条 294号イ

 

1. 株式会社資生堂(以下「資生堂」という。)は,化粧品等の製造販売業を営む。

2. 資生堂は,化粧品の国内向け総販売高において業界第1位を占める。

3. 資生堂の化粧品のうち,コスメティック及びコスメニティー(以下「資生堂化粧品」という。)は,一般消費者に高い知名度を有し,これを指名して購入する一般消費者が多い。このことから,化粧品の小売業者にとって資生堂化粧品を取り扱うことが営業上有利とされている。

4. 資生堂は,国内に15の販売会社(以下「販社」という。)を設けている。

5. 資生堂は,販社のすべてに50%超を出資し,その代表取締役,取締役,支店長等の地位にある者については資生堂の役員又は従業員を兼任又は出向させ,資生堂の定めた営業方針に基づいて資生堂と一体となって営業活動を行わせている。

6. 資生堂は,小売業者と取引を開始するに当たり,販社を通じて店舗ごとに契約を締結し,この契約において資生堂化粧品を当該店舗において一般消費者に販売することを義務付けている。

7. 資生堂の取引先小売業者のうち,資生堂化粧品の売上額において上位5位までを占める者は全国に100店舗以上を有する量販店(以下「大手量販店」という。)である。

8. 資生堂は,コスメティックの販売について,販社を通じて営業員を取引先小売業者に対し,同商品の説明販売をさせて販売促進を図っている。営業員8440名中,約1300名が,大手量販店に派遣されている。

9. 資生堂は,小売業者が資生堂化粧品を資生堂が定めた価格で販売して適正利潤を確保すべきであるとの販売理念を有している。

10. 資生堂は,資生堂化粧品のうち,独占禁止法第24条の21項の規定により指定されている商品(以下「指定再販商品」という。)に該当する化粧品(以下「再販商品」という。)について,取引先小売業者に再販売価格で販売させている。

11. 資生堂は,指定再販商品ではない化粧品(以下「非再販商品」という。)について,メーカー希望小売価格を定めている。資生堂化粧品のうち,非再販商品は,売上額において約88%を占めている。

12. 資生堂は,平成541日から指定再販商品を縮小した。

13. 資生堂は,前記指定再販商品の縮小等を契機に,大手量販店ほか有力な取引先小売業者の一部が非再販商品について,メーカー希望小売価格を下回る価格での販売(以下「割引販売」という。)を企図し,割引販売の動きがさらに拡大することが懸念されたことから,割引販売を企図した大手量販店について,①大手量販店が行った割引販売の申入れに対してこれを断り,②割引販売を行わないよう要請し,③販売促進の支援を行い,これら方法により割引販売を行わないようにさせた。

14. 前記の行為について具体的に示すと,次のとおりである。

①全国に約150店舗を有する大手量販店は,割引販売を企図して,資生堂に対し,非再販商品となる資生堂化粧品についてメーカー希望小売価格の約1割引で販売したい旨を申し入れたが,資生堂は,(イ)これを断り,(ロ)資生堂化粧品に添付するサンプルを提供する代わりに割引販売を行わないよう要請した。この量販店は,資生堂から商品の円滑な供給が得られないことの懸念等から資生堂の要請を受け入れ,割引販売を行わないこととした。

② 東京都及び千葉県に8店舗を有する有力な取引先小売業者が,非再販商品についてメーカー希望小売価格の25分ないし3割引で販売を開始した。このことから,全国に約350店舗を有する大手量販店は,非再販商品の割引販売を企図し,資生堂に対し,非再販商品をメーカー希望小売価格の約1割引で販売したい旨を申し入れたところ,資生堂は,(イ)これを断り,(ロ)前記取引先小売業者による割引販売について対応策を講ずる旨を伝え,(ハ)資生堂化粧品の大幅な売上拡大を目的とした販売促進の支援をする旨申し出るなどし,これにより割引販売を行わないよう要請した。この量販店は,資生堂から商品の円滑な供給が得られないことの懸念等から要請を受け入れた。

15. 前記割引を企図した大手量販店は,非再販商品をおおむねメーカー希望小売価格で販売している。

16. 大手量販店が設定する販売価格は,他の取引先小売業者の販売価格に大きな影響を及ぼし得る状況にある。割引を企図した大手量販店が前記のとおり,おおむねメーカー希望小売価格で販売している状況の下,取引先小売業者は,非再販商品をおおむねメーカー希望小売価格で販売している。

17. 資生堂は,再販商品について,消費生活協同組合法に基づいて設立された団体(以下「生協」という。)19者と,販社を通じて,生協の役員等の個人又は関連法人を名義人として契約を締結し,当該生協に対し再販商品を再販売価格で販売するようにさせていた(公取委が勧告を行ったところ,契約を破棄した)。

 

法令の適用

「資生堂は,非再販商品について,割引販売を企図した大手量販店に対し,正当な理由がないのに,その販売価格を定めてこれを維持させる条件を付けて供給しているものであり,また,再販商品について,独占禁止法第24条の25項の規定により再販契約を締結することのできない団体である生協に対し,正当な理由がないのに,その販売価格を定めてこれを維持させる条件を付けて供給していたものであり,それぞれ不公正な取引方法(昭和57年公正取引委員会告示第15号)の第12項第1号に該当し,独占禁止法第19条の規定に違反するものである。」

 


 

[事例]

(株)ピエトロに対する件

勧告審決平成1289

審決集47305

独禁法19条 294号イ

 

1. 株式会社ピエトロ(以下「ピエトロ」という。)は,液状ドレッシング及びドレッシングタイプ調味料(以下「液状ドレッシング類」という。)の製造販売業を営む。

2. ピエトロが製造販売する液状ドレッシング類(以下「ピエトロ製ドレッシング類」という。)は,生タイプであることなどの特色があり,これを使用した消費者が引き続き購入することが多いとされ,食品類を販売する小売業者の中にはピエトロ製ドレッシング類の取扱いを望む者が多く,ピエトロは,我が国の液状ドレッシング類の販売分野において有力な地位を占めている。

3. ピエトロは,ピエトロ製ドレッシング類のほとんどを百貨店や量販店等の小売業者を通じて一般消費者に販売している。ピエトロは,発売当初においては,ピエトロ製ドレッシング類を主として百貨店向けに販売していた。その後,平成6年ころから,販路を量販店等に順次拡大した。

4. ピエトロは,ピエトロ製ドレッシング類を,直接又は卸売業者を通じて小売業者に販売している。

5. ピエトロは,ピエトロ製ドレッシング類を,取り扱うことを認める店舗を特定した上で小売業者を選定している。

6. ピエトロは,ピエトロ製ドレッシング類について,希望小売価格を定めている。

7. ピエトロは,前記3の販路拡大にあたり,量販店等に販路を拡大することで,①ピエトロ製ドレッシング類を取り扱う小売業者間の価格競争が活発化し,②他の事業者が製造販売する液状ドレッシング類との間の価格競争に巻き込まれる結果として小売価格が低下し,③これにより流通業者及び消費者の間に定着している高級品としての評価が崩れることを懸念した。

8. ピエトロは,そこで,以下の措置を講じることにより,小売業者にピエトロの定めた希望小売価格で販売するようにさせることとし,実行している。

① ピエトロ製ドレッシング類の取扱いは,原則として,ピエトロの定めた希望小売価格で販売すること等の要請に了承した小売業者に限って認める。

②上記①の実効を確保するため,取引先卸売業者に対して,あらかじめピエトロが取扱いを認めた小売業者のみに販売し,取引先卸売業者が独自に販路を拡大しないようにさせる。

③ 小売業者がピエトロの定めた希望小売価格を下回る価格で販売したときには,当該小売業者に販売している取引先卸売業者の協力を得て,供給停止の可能性を示唆するなどして希望小売価格を下回る価格での販売をやめさせる。

④ 要請に反して小売業者がピエトロの定めた希望小売価格を下回る価格で販売したときには,当該小売業者に対する供給の全部又は一部を取りやめる。

9. ピエトロの前記行為により,小売業者は,おおむね,ピエトロ製ドレッシング類をピエトロの定めた希望小売価格で販売している。

法令の適用

「ピエトロは,正当な理由がないのに,小売業者に対し,ピエトロの定めた希望小売価格を維持させる条件を付けてピエトロ製ドレッシング類を供給しているものであり,これは,不公正な取引方法(昭和57年公正取引委員会告示第15号)の第12項第1号に該当し,独占禁止法第19条の規定に違反するものである。」

 


 

[事例]

(株)ウエルネットに対する件

勧告審決平成12121

審決集46386

独禁法19条 294号イ・ロ

 

1. 株式会社ウエルネット(以下「ウエルネット」という。)は,テンピュール安眠枕と称するまくら(以下「テンピュール安眠枕」という。)を,自ら又は国内の取引先卸売業者等を通じて,小売業者に販売している。

2. テンピュール安眠枕は,スウェーデン王国所在のファゲダーラ・ワールド・フォームズ・アクティーボラーグが供給する「TEMPUR」の商標を付されたまくらである。このまくらについては,豊田通商株式会社が上記スウェーデン所在の会社から一手に輸入を行っている。ウエルネットは,豊田通商株式会社からの供給を一定に受けている。

3. ウエルネットは,テンピュール安眠枕を,百貨店,通信販売業者等を通じて販売していたが,人気が高まってきたこと等から,平成84月以降,取引先の拡大を図ることとした。

4. テンピュール安眠枕は,どのような姿勢で眠っても首を自然な形に保ち快適な睡眠と休養をもたらすもの等として一般消費者の間において,高い人気を有しており,まくらを取り扱う小売業者にとって,テンピュール安眠枕を取り扱うことは営業上有利であるとされている。

5. ウエルネットは,テンピュール安眠枕について,そのサイズ別に希望小売価格を定めている。

6. ウエルネットは,前記3の販売先拡大にあたり,今後,希望小売価格を下回る価格でテンピュール安眠枕を販売する小売業者が現れ,それまで希望小売価格で販売していた百貨店,通信販売業者等がテンピュール安眠枕を取り扱わなくなること等を懸念し,テンピュール安眠枕の小売価格の水準を維持するとの方針の下に以下の措置を講ずることとし,これを実行した。

①小売業者との取引開始時及びその後の商談において,希望小売価格でテンピュール安眠枕を販売するよう要請し,これを受け入れた者とのみ取引する。

②卸売業者との取引開始時及びその後の商談において,卸売業者の取引先小売業者に希望小売価格でテンピュール安眠枕を販売させるよう要請し,これを受け入れた者とのみ取引する。

③前記①②の実効を確保するため,取引先小売業者の店舗等において行う価格調査の結果及び取引先小売業者からの価格に関する苦情に基づいて,前記①の要請を遵守しない取引先小売業者に対して,自ら又は取引先卸売業者を通じて要請等することにより,希望小売価格を下回る価格での販売をやめさせる。

④前記③の要請に応じなかった一部取引先大手量販店に対して,テンピュール安眠枕の出荷を停止する。

7. ウエルネットの前記行為により,取引先小売業者は,おおむね,希望小売価格でテンピュール安眠枕を販売していた。

8. 公取委が審査を開始したところ,ウエルネットは,自ら又は取引先卸売業者を通じて,取引先小売業者に対し,希望小売価格で販売するようにさせる行為を取りやめている。

 

法令の適用

「ウエルネットは,正当な理由がないのに,取引先小売業者に対し,ウエルネットの定めた希望小売価格を維持させる条件をつけてテンピュール安眠枕を供給していたものであり,これは,不公正な取引方法(昭和57年公正取引委員会告示第15号)の第12項第1号に該当し,また,正当な理由がないのに,取引先卸売業者に対し,同卸売業者をしてその取引先小売業者にウエルネットの定めた希望小売価格を維持させる条件をつけてテンピュール安眠枕を供給していたものであり,これは,同項第2号に該当し,いずれも独占禁止法第19条の規定に違反するものである。」

 


 

 [事例]

(株)ナイキジャパンに対する件

勧告審決平成10728

審決集45130

独禁法19条 294号イ・ロ

 

1. 株式会社ナイキジャパン(以下「ナイキジャパン」という。)は,アメリカ合衆国所在のナイキ・インコーポレイテッド(以下「ナイキ社」という。)からナイキ社の有する商標について我が国における独占的な使用許諾を受け,ナイキ社がナイキジャパンの代理人として製造委託契約を締結している日本国外の製造業者から,ナイキ社の有する商標を付したスポーツシューズ(以下「ナイキシューズ」という。)を輸入し,自ら又は卸売業者を通じて,小売業者に販売している。

2. 国内においては,ナイキシューズの並行輸入品(以下「並行輸入品」という。)が流通している。並行輸入品を取り扱う輸入販売業者は,アメリカ合衆国等に所在する販売業者等からナイキシューズを輸入し,国内の小売業者等に販売している。

3.ナイキジャパンは,我が国のスポーツシューズの販売分野において有力な地位を占める。

4. ナイキシューズは一般消費者の間において高い人気を有していることから,スポーツシューズを取り扱う販売業者にとっては,ナイキシューズを取り扱うことが営業上有利であるとされている。平成7年の中ころからは,ナイキシューズのブームがあり,ナイキシューズのうち一定種類の製品(以下,この種類の製品を「トップモデルの製品」という。)がとりわけ一般消費者の間において高い人気を有していた。

5. ナイキジャパンは,ナイキシューズについて希望小売価格を定めている。

6. ナイキジャパンは,ナイキシューズを販売する小売業者を店舗別に登録している。

7. ナイキジャパンは,登録する店舗を,キー・アカウントと一般店に分類し,キー・アカウントに対しては,重点的に販売促進活動(一般店には販売しないトップモデルの製品をキー・アカウントに販売し,製品の納期を一般店より早める等)を行っている。

6. ナイキジャパンは,平成7年の中ころから,ナイキシューズの人気が高まり,その需要が増大してきた状況の下で,ナイキシューズの小売価格の水準を維持するため,小売業者に対し,自ら又は卸売業者を通じて,次の要請を行った。

①希望小売価格で販売すること

②並行輸入品を取り扱わないこと

③希望小売価格を下回る価格を表示した新聞折り込み広告等を行わないこと

7. ナイキジャパンは,平成712月ころまでに,キー・アカウントの選定基準として,希望小売価格で販売する店舗であること及び並行輸入品を取り扱わない店舗であることを含む基準を設定し,小売業者に対してこれを周知し,この基準に基づく選定を行っていた。

8. ナイキジャパンは,一般店のうち前記6の要請を受け入れないディスカウント業態の店舗について,登録の対象外とし,ナイキシューズの販売を中止するとともに,取引先卸売業者に対してナイキシューズを販売しないようにさせていた。

9. ナイキジャパンは,ナイキシューズの小売業者における在庫が増えてきたことを受けて,平成94月ころから,販売開始後一定の期間を経た種類の製品については,その期間の長さに応じて一定の限度で割引を認めることとした。

10.ナイキジャパンは,前記79の実効を確保するため,小売業者の店舗に対する同社の営業部員の巡回活動による情報及び他の小売業者等からの苦情に基づいて,要請を守らない小売業者に対してこの遵守を求め,要請に従わない場合は,キー・アカウントとしての登録の抹消及び出荷停止等の措置を講じていた。

11. ナイキジャパンの前記行為により,小売業者は,おおむね,希望小売価格で(割引を認められた製品については,値引き限度価格以上の価格で)ナイキシューズを販売していた。

12. 公取委が本件について審査を開始したところ,ナイキジャパンは,ナイキシューズについて,自ら又は卸売業者を通じて,小売業者に対し,希望小売価格で,また,シーズン終了後1か月を経過した後に販売するものについては,シーズン終了後の値引き限度価格以上の価格で販売するようにさせる行為を取りやめている。

 

法令の適用

「ナイキジャパンは,正当な理由がないのに,取引先小売業者に対し,希望小売価格及びシーズン終了後の値引き限度価格を維持させる条件をつけてナイキシューズを供給していたものであり,これは不公正な取引方法(昭和57年公正取引委員会告示第15号)の第12項第1号に該当し,また,ナイキジャパンは,正当な理由がないのに,取引先卸売業者に対し,同卸売業者をしてその取引先小売業者に希望小売価格及びシーズン終了後の値引き限度価格を維持させる条件をつけてナイキシューズを供給していたものであり,これは,同項第2号に該当し,いずれも独占禁止法第19条の規定に違反するものである。」

 

主文

1 株式会社ナイキジャパンは,ナイキ・インコーポレイテッドの有する商標を付したスポーツシューズの販売に関し,自ら又は卸売業者を通じて,小売業者に対し,株式会社ナイキジャパンが定めた希望小売価格で,また,シーズン終了後1か月を経過した後に販売するものについては,同社が平成94月ころに定めたシーズン終了後の値引き限度価格以上の価格で販売すること,並行輸入品を取り扱わないこと及び同希望小売価格を下回る価格を表示した新聞折り込み広告等を行わないことを要請するとともに,次の措置を講ずることによって,小売業者に対し,ナイキ・インコーポレイテッドの有する商標を付したスポーツシューズを同希望小売価格で,また,シーズン終了後1か月を経過した後に販売するものについては,同値引き限度価格以上の価格で販売するようにさせる行為を取りやめていることを確認しなければならない。

1 株式会社ナイキジャパンが重点的に販売促進活動を行う小売業者の店舗であるキー・アカウントの選定基準として,前記希望小売価格で販売する店舗であること及び並行輸入品を取り扱わない店舗であることを含む基準を定め,同基準を満たすキー・アカウントからのみ,ナイキ・インコーポレイテッドの有する商標を付したスポーツシューズのうち,一般消費者の間において高い人気を有しているステイトメント及びパフォーマンスに分類されている製品の注文を受け付けること

2 ディスカウント業態の店舗については,ナイキ・インコーポレイテッドの有する商標を付したスポーツシューズを販売する小売業者の店舗としての登録の対象外とし,同製品を販売しないようにすること

3 小売業者の店舗の巡回活動による情報等に基づき,ナイキ・インコーポレイテッドの有する商標を付したスポーツシューズの販売に関し,前記希望小売価格若しくは前記値引き限度価格を下回る価格での販売,並行輸入品の取扱い又は同希望小売価格を下回る価格を表示した新聞折り込み広告等を行っている小売業者に対し,当該行為を取りやめるよう要請すること等により,同希望小売価格で,また,シーズン終了後1か月を経過した後に販売するものについては,同値引き限度価格以上の価格で販売するようにさせること」(主文・以下略)

 


 

[事例]

富士写真フイルム(株)ほか1名に対する件

勧告審決昭和56511

審決集2810

独禁法19条 294号,一般指定12項(昭和28年指定8

 

1. 富士写真フイルム株式会社(以下「富士」という。)は,医療用エックス線フイルム(以下「エックス線フイルム」という。)の製造業を営む。

2. 富士は,国内において供給されたエックス線フイルムのうち約53パーセントを供給し,エックス線フイルムの事業分野において卓越した地位にある。

3.富士エックスレイ株式会社(以下「富士エックスレイ」という。)は,エックス線フイルムの販売業を営む。富士エックスレイの発行済株式は,すべて富士によって所有されている。富士エックスレイは富士が国内において販売するエックス線フイルムのすべてを取り扱っている。

4. 富士エックスレイは,特約店等を通じて富士のエックス線フイルムの需要者に販売している。特約店については,エックス線フイルムの取引額等により,①専門特約店,②準特約店等の区分を設けられている。富士の国内におけるエックス線フイルムの総販売額の約9割は,専門特約店6杜によって取り扱われている。

5. 準特約店等に対する販売価格は,一部を除き専門特約店のそれより高い。

6. 富士,富士エックスレイ及び専門特約店(準特約店の一部を含む。)の3者の間の契約においては,次の事項が定められている。

専門特約店が,エックス線フイルムの取引について,富士の製品と同一又は同種の製品を富士以外の第三者と取引しようとするときは,あらかじめ,富士エックスレイの了解を得る

②専門特約店は,定められた地域において富士製品を販売する

7. 富士は,富士エックスレイとの間で,富士エックスレイを富士のエックス線フイルムの総販売代理店とする契約を締結し,この契約内で次の事項を定めている。

①専門特約店及び準特約店の小売価格は,本契約で定めるとおりとする

②富士エックスレイは,エックス線フイルムの価格を維持するよう努力する

8. 富士エックスレイは,専門特約店,準特約店(以下「特約店」という。)との間でエックス線フイルムの取引に関する契約を締結し,この契約内で次の事項を定めた。

①特約店がエックス線フイルムを販売する地域は,本契約で定めるとおりとする

②特約店は,富士エックスレイが定める小売価格をもって需要者に販売する

③特約店は,エックス線フイルムの価格を維持するよう努力する

④特約店が本契約又は前記3者間契約に違反したとき,富士エックスレイは,催告をしないで本契約を解除することができる

9. ①専門特約店は,エックス線フイルムの販売においては,専ら富士のエックス線フイルムを取り扱っている。

②富士エックスレイは,専門特約店及び準特約店のエックス線フイルムの販売地域を国内の大部分の地域において競合しないように定めている。専門特約店及び準特約店は,おおむね富士エックスレイが定めた販売地域内でエックス線フイルムを販売している。

③専門特約店及び準特約店は,富士が定めたエックス線フイルムの小売価格を,需要者とのエックス線フイルムの取引において基準として用いている。

法令の適用

「富士は,エックス線フイルムの販売に当たり,正当な理由がないのに,富士エックスレイに対し,その取引先販売業者に販売価格を維持させる条件をつけて同社と取引しているものであり,また,富士エックスレイは,エックス線フイルムの販売に当たり,正当な理由がないのに,その取引先販売業者に対し,その取扱商品,販売地域及び販売価格を拘束する条件をつけて当該販売業者と取引しているものであって,これは,いずれも,不公正な取引方法(昭和25年公正取引委員会告示第11号)の8に該当し,独占禁止法第19条の規定に違反するものである。」

 


 

[事例]

エーザイ(株)に対する件

勧告審決平成385

審決集3870

独禁法19  294号イ,一般指定12

 

1. エーザイ株式会社(以下「エーザイ」という。)は,ビタミンE主薬製剤である「ユベラックス」の名称を用いた製品(以下「ユベラックス製品」という。)を製造販売する。

2. エーザイは,一般用医薬品におけるビタミンE主薬製剤の国内向け販売高において業界第1位を占めており,第2位以下を大きく引き離している。

3. エーザイは,ユベラックス製品について,自ら取扱小売業者を選定し,これら小売業者に対する取引条件の決定及び販売促進活動を行い,製品を小売業者に直送する等,実質的に小売業者を相手方として取引を行っている。

4. エーザイは,以下の行為を行い,取扱小売業者に対し,おおむね,ユベラックス製品の希望小売価格を維持させるとともに転売を行わせないようにしている。

① 新しく開発されたユベラックス製品のユベラックス取扱小売業者向け販売に当たっては,この小売業者がユベラックスを希望小売価格で販売し,転売を行っていないことを条件とすること。

② 包装箱に流通ロット番号を付すことにより転売を防止すること。

③ ユベラックス300の包装箱に,取扱小売業者名及びその電話番号を印刷すること。

④ ユベラックス製品を転売した実績のある取扱小売業者を登録し,当該小売業者に対し,納入数量の管理を行うこと。

法令の適用

エーザイは,ユベラックス製品について,正当な理由がないのに,取扱小売業者に対し,希望小売価格を維持させる条件をつけて供給しているものであり,これは,不公正な取引方法(昭和57年公正取引委員会告示第15号)の第12項第1号に該当し,また,同社は,取扱小売業者にユベラックス製品を供給するに当たり,同製品を転売しないようその事業活動を不当に拘束する条件をつけて当該小売業者と取引しているものであり,これは,前記不公正な取引方法の第13項に該当し,いずれも独占禁止法第19条の規定に違反するものである。

 


 

[事例]

(株)ホビージャパンに対する件

勧告審決平成91128

審決集44289

 独禁法19条 294号イ・ロ,一般指定12

 

1. 株式会社ホビージャパン(以下「ホビージャパン」という。)は,米国・ウィザーズ・オブ・ザ・コースト社(以下「ウィザード社」という。)が製造している「マジック:ザ・ギャザリング」と称するトレーディングカードゲーム(以下「マジック」という。)を,子会社である株式会社ポストホビーを通じて購入し,主として国内の卸売業者を通じて小売業者に販売している。

2. 株式会社ポストホビーは,ウィザード社との間で,国内においてマジックを独占的に販売すること等を内容とする契約を締結している。

3. ホビージャパンは,当初は英語版のマジックのみ,平成8年からは英語版と日本語版のマジックを販売している。

4. ホビージャパンは,我が国のトレーディングカードゲームの販売分野において有力な地位を占める。

5. マジックは,一般消費者の間において人気が高まっていることから,トレーディングカードゲームを取り扱う販売業者にとってマジックを取り扱うことが営業上有利であるとされている。

6. ホビージャパンは,マジックについて,ウィザード社との協議の下に,希望小売価格を定めている。

7. ホビージャパンは,マジックを販売する小売業者を正規取扱店として登録・承認している。正規取扱店に対しては,自社が発行する雑誌における店舗名の掲載,ウィザード社が認定するマジックの公式大会を開催する権利の付与,販売促進物の提供等,マジックの販売を促進するための支援を行っている。

8. 国内においてマジックの英語版の並行輸入品を取り扱う輸入販売業者(以下「並行輸入業者」という。)は,米国所在の卸売業者から直接に,又は,同卸売業者から供給を受けて販売する販売業者を通じて,マジックの英語版を輸入している。並行輸入業者は,こうして輸入したマジックを,主として自己の小売店舗において販売するほか,卸売販売している。

9. ウィザード社は,マジックの販売について,米国内の取引先卸売業者との間で,販売先を米国及びカナダに限定する契約を締結している。この結果,並行輸入業者は,マジックの英語版の並行輸入品の取扱量の減少,輸入価格の上昇等の影響を受けている。

10. ホビージャパンは,並行輸入業者がマジックの英語版の並行輸入品を前記5の希望小売価格を下回る価格で販売しているとの情報を入手した。平成8年以降にマジックの日本語版を発売する予定になっていたことから,ホビージャパンは,マジックの小売価格の水準を維持するため,平成711月ころから,マジックの取引開始時等に,①取引先卸売業者に対し,並行輸入業者,並行輸入業者からマジックを購入している小売業者等マジックを希望小売価格を下回る価格で販売するおそれのある小売業者(以下「並行輸入品取扱業者等」という。)にはマジックを販売しないよう要請している。②また,小売業者に対し,自ら又は取引先卸売業者を通じて,マジックを希望小売価格で販売するよう要請し,これを守らせている。

11.ホビージャパンは,前記10①の並行輸入品取扱業者等にはマジックを販売しない旨の要請を受け入れさせるために次の行為を行っている。

(i) 取引先卸売業者に対し,マジックを販売する取引先小売業者全員の名簿を提出させ,名簿に並行輸入品取扱業者等が含まれている場合には並行輸入品取扱業者等にはマジックを販売しないようにさせる。

 (ii) マジックの日本語版に取引先卸売業者別の色で印を付した上で,並行輸入品取扱業者等の店舗を調査して取引先卸売業者のマジックの販売先を監視する。

12. ホビージャパンの行為により,取引先卸売業者は,並行輸入品取扱業者等に対するマジックの販売を制限しており,また,小売業者は,おおむね,希望小売価格でマジックを販売している。

法令の適用

右の事実に法令を適用した結果は,次のとおりである。

「ホビージャパンは,取引先卸売業者にマジックを供給するに当たり,並行輸入品取扱業者等にはマジックを販売しないようその事業活動を不当に拘束する条件をつけて当該卸売業者と取引しているものであり,これは,不公正な取引方法(昭和57年公正取引委員会告示第15号)の第13項に該当し,また,ホビージャパンは,マジックについて,正当な理由がないのに,小売業者に対して希望小売価格を維持させる条件をつけ,また,取引先卸売業者に対して同卸売業者をしてその取引先小売業者に希望小売価格を維持させる条件をつけ,マジックを供給しているものであり,これらは,それぞれ,前記不公正な取引方法の第12項に該当し,いずれも独占禁止法第19条の規定に違反する」。

 


 

[事例]

ハーゲンダッツジャパン(株)に対する件

勧告審決平成9425

審決集44230

 独禁法19条 294号イ・ロ,一般指定14

 

1. ハーゲンダッツジャパン株式会社(以下「ハーゲンダッツジャパン」という。)は,ハーゲンダッツブランドのアイスクリーム製品(以下「ハーゲンダッツ製品」という。)を製造販売及び輸入販売する事業を営む。ハーゲンダッツジャパンは,ハーゲンダッツ製品のうち,474ミリリットル入りの製品等については,米国ザ・ピルスベリー・カンパニー(以下「ピルスベリー社」という。)から一手に供給を受けて,国内において販売している。

2. ハーゲンダッツジャパンは,我が国のプレミアムアイスクリームの販売分野において有力な地位を占め,ハーゲンダッツ製品は,一般消費者の間において高い評価が得られており,ハーゲンダッツ製品を指名して購入する顧客が多い。これらのことことから,アイスクリーム製品の小売業者にとって,ハーゲンダッツ製品を取り扱うことが営業上有利であるとされている。

3. ハーゲンダッツジャパンは,ハーゲンダッツ製品を卸売業者を通じて小売業者に販売している。ハーゲンダッツジャパンは,一部の取引先小売業者との間で,直接,取扱商品,販売促進活動の内容等を取り決めるための交渉(以下「商談」という。)を行っている。

4. ハーゲンダッツジャパンは,取引先卸売業者に対して,他の卸売業者への販売を制限している。

5. ピルスベリー社は,ハーゲンダッツ製品について,賞味期限記号及び製造ロット番号(以下「ロット番号等」という。)を付して供給している。ピルスベリー社は,米国内内においては,地域内一手販売権を付与した卸売業者を通じてハーゲンダッツ製品を供給している。

5. ハーゲンダッツジャパンは,希望小売価格及び希望卸売価格を設定している。ハーゲンダッツ製品を販売し始めたころには,ハーゲンダッツ製品に関する供給能力が十分でなく,薄利多売で利益を確保することが困難であったことから,少量の売上げで利益を確保するために,ハーゲンダッツ製品の小売価格について希望小売価格の水準を維持する旨の方針を採っていた。その後には,供給能力が増大し販売先が拡大したものの,この方針は維持された。

6. 前記5の方針を実施するため,ハーゲンダッツジャパンは,①取引先卸売業者に対し,帳合先の小売業者に希望小売価格でハーゲンダッツ製品を販売させるよう要請し,②取引先小売業者との取引開始時又は商談時には自らも取引先小売業者に対して,希望小売価格でハーゲンダッツ製品を販売するよう要請し,③取引先小売業者の店舗を巡回しているセールスレディー及び営業部員にハーゲンダッツ製品の販売価格を調査させ,④③で得られた情報及び周辺小売業者等からの苦情に基づいて,希望小売価格を下回る価格でハーゲンダッツ製品を販売している取引先小売業者に対し,自ら又は取引先卸売業者を通じて,希望小売価格でハーゲンダッツ製品を販売するよう要請し,⑤要請に応じない一部の取引先小売業者に対し,取引先卸売業者をしてハーゲンダッツ製品の出荷を停止させ,⑥試食販売(ハーゲンダッツ製品の販売促進活動として,ハーゲンダッツジャパンの費用により,派遣店員により,取引先小売業者の店頭において行なわれるもの)時に希望小売価格を下回る価格でハーゲンダッツ製品を販売し前記②の要請に応じない取引先小売業者の店舗から派遣店員を引き上げ,⑦ハーゲンダッツ製品を希望小売価格を下回る価格で販売しようとする取引先小売業者に対し,試食販売等の販売促進手段の提供の増加を申し出るなどして希望小売価格を下回る価格での販売を行わないようにさせている。これらの行為により,ハーゲンダッツジャパンは,希望小売価格を下回る価格での販売を行わないようにさせている。取引先小売業者は,おおむね,希望小売価格でハーゲンダッツ製品を販売している。

7. ハーゲンダッツジャパンは,ピルスベリー社に対して,並行輸入品の販売が行われないようにするための対策を採るよう申し入れていた。ピルスベリー社は,これに対して,①並行輸入を阻止するための対応が可能であること,②並行輸入品が販売された場合には,その経路を調査するためにロット番号等の情報を通知するようにという回答を行なっていた。

8. 並行輸入品がハーゲンダッツジャパンの設定する希望小売価格の30%引きの価格に相当する価格(490円)で販売され,その旨が新聞折込みチラシで広告されると,ハーゲンダッツジャパンは,並行輸入品の販売が自社製品の小売価格の維持等に影響を及ぼすおそれがあると考え,並行輸入品を購入して,ピルスベリー社にロット番号等を通致し,同社に対して同社の米国内取引先卸売業者に日本国内へのハーゲンダッツ製品の並行輸入につながる販売を行わないようにさせる旨要請した。ピルスベリー社は,この要請及び通知を受けて,並行輸入の経路を調査し,①アメリカ合衆国ワシントン州所在の卸売業者等に対し,販売担当地域外への販売を行わないよう指示し,②その後には米国の取引先卸売業者全社に対して,日本への並行輸入につながる販売は販売担当地域外への販売とみなされ,取引停止の対象となる旨を書面で通知した。

9. この後も,ハーゲンダッツジャパンは,ピルスベリー社に対する要請及びロット番号の通知等を続けた。ピルスベリー社は,ハーゲンダッツジャパンの要請及び通知を受けて,並行輸入の経路調査,販売担当地域外への販売中止の警告,この販売を行なった者に対する出荷停止などを行なった。

10. ハーゲンダッツジャパンの前記行為により,輸入販売業者は,ハーゲンダッツ製品について,外国に所在する販売業者からの並行輸入を行い,国内において販売することが困難になっていた。

11. 公取委が本件について審査を開始したところ,ハーゲンダッツジャパンは,前記7の行為をとりやめた。

法令の適用

ハーゲンダッツジャパンは,ハーゲンダッツ製品について,正当な理由がないのに,取引先小売業者に対し,自ら又は取引先卸売業者をしてハーゲンダッツジャパンの定めた希望小売価格を維持させる条件をつけて供給しているものであり,これは,不公正な取引方法(昭和57年公正取引委員会告示第15号)の第12項第1号及び第2号に該当し,また,ハーゲンダッツジャパンは,自己と国内において競争関係にある並行輸入品を取り扱う輸入販売業者とその取引の相手方である外国に所在するハーゲンダッツ製品の販売業者との取引を不当に妨害していたものであり,これは,前記不公正な取引方法の第15項に該当し,いずれも独占禁止法第19条の規定に違反するものである。

 


 

[参考・審決]

朝日毛糸(株)に対する件

勧告審決昭和40105

審決集1375

独禁法19条 294号ロ,一般指定12項(昭和28年指定8

 

1. 朝日毛糸株式会社(以下「朝日毛糸」といろ。)は,鐘淵紡績株式会社の製造にかかるカネボウ毛糸を一手に販売している。

2. 朝日毛糸は,カネボウ毛糸の販売価格の安定をはかるため,関東甲信越,東北および静岡県東部の地域内の毛編毛糸小売業者及び卸売業者に,東部カネボウ毛糸会を設けさせた。

3. 朝日毛糸は,東部カネボウ毛糸会にあらたに加入しようとする小売業者に対して①近隣の既存会員2名の推せん状及び②カネボウ毛糸の小売定価を守る旨の誓約書を,同会あてに提出させている。

4. 朝日毛糸は,取引の相手方である卸売業者に対し,前記地域内においては,東部カネボウ毛糸会の会員以外の者にカネボウ毛糸を卸売しないよう指示し,これを実施させている。

 

法の適用

「朝日毛糸は,正当な理由がないのに,卸売業者と小売業者との取引を拘束する条件をつけて,当該卸売業者と取引しているものであり,これは,昭和28年公正取引委員会告示第11号不公正な取引方法の8に該当し,私的独占禁止法第19条の規定に違反するものである。」

 


 

 

拘束条件付取引

 

[基本・判決][事例]

(株)富士喜本店による地位確認等請求上告事件

最高裁判所判決平成101218

最高裁判所民事判例集5291866頁、判例時報16643頁、判例タイムズ99294頁、最高裁判所裁判集民事190941頁、金融・商事判例106222

 独禁法19条 一般指定12

 

拘束条件付取引が規制されるのは,相手方の事業活動を拘束する条件を付けて取引すること,とりわけ,事業者が自己の取引とは直接関係のない相手方と第三者との取引について,競争に直接影響を及ぼすような拘束を加えることは,相手方が良質廉価な商品・役務を提供するという形で行われるべき競争を人為的に妨げる側面を有しているからである。しかし,拘束条件付取引の内容は様々であるから,その形態や拘束の程度等に応じて公正な競争を阻害するおそれを判断し,それが公正な競争秩序に悪影響を及ぼすおそれがあると認められる場合に,初めて相手方の事業活動を「不当に」拘束する条件を付けた取引に当たるものというべきである。」

 

「メーカーや卸売業者が販売政策や販売方法について有する選択の自由は原則として尊重されるべきであることにかんがみると,これらの者が,小売業者に対して,商品の販売に当たり顧客に商品の説明をすることを義務付けたり,商品の品質管理の方法や陳列方法を指示したりするなどの形態によって販売方法に関する制限を課することは,それが当該商品の販売のためのそれなりの合理的な理由に基づくものと認められ,かつ,他の取引先に対しても同等の制限が課せられている限り,それ自体としては公正な競争秩序に悪影響を及ぼすおそれはなく,一般指定の13にいう相手方の事業活動を「不当に」拘束する条件を付けた取引に当たるものではないと解することが相当である。」

 

「一般指定の121は,正当な理由がないのに,「相手方に対しその販売する当該商品の販売価格を定めてこれを維持させることその他相手方の当該商品の販売価格の自由な決定を拘束すること。」(再販売価格の拘束)を禁じているところ,販売方法の制限を手段として再販売価格の拘束を行っていると認められる場合には,そのような販売方法は右の見地から独占禁止法上問題となり得ると解される。」(ただし)「販売方法に関する制限を課した場合,販売経費の増大を招くことなどから多かれ少なかれ小売価格が安定する効果が生ずるが,右のような効果が生ずるというだけで,直ちに販売価格の自由な決定を拘束しているということはできないと解すべきである」。

 

 

1. 被上告人(資生堂化粧品販売株式会社)は,我が国において最大の売上高を有する化粧品メーカーである株式会社資生堂(以下「資生堂」という。)の製造する化粧品を専門に取り扱う販売会社である。上告人(株式会社富士喜本店)は,化粧品の小売販売等を業とする会社である。

2. 被上告人は,資生堂化粧品の販売先である各小売店との間において,同一内容の「資生堂チェインストア契約書」に基づいて,化粧品の供給を目的とした特約店契約を締結してきた。

3. 本件特約店契約により,特約店は,販売に当たり,顧客に対して化粧品の使用方法等の説明をしたり,顧客の相談に応ずること(以下「対面販売」という。)を行なう義務を負う。被上告人は,対面販売義務を課す理由として,化粧品の使用によって発生するおそれのある皮膚に関するトラブルの発生を未然に防止すること及び化粧品の販売は単なる「もの」の販売ではなく,それを使用して美しくなるとの機能を販売することが大切であるから,顧客に化粧品の上手な使い方を教えるために必要であることを挙げている。特約店において顧客が資生堂化粧品を説明を受けずに購入し,特約店側もこれに応じている例も少なくないが,なお相当数の資生堂化粧品が,専用コーナーを設けている特約店において,店員が顧客と面接し,相談や説明をして販売されている。

4. 被上告人は,上告人とも,昭和37年に特約店契約(以下「本件特約店契約」という。)を締結して取引を継続してきた。

5. 上告人は,昭和602月ころから,商品名,価格,商品コードのみを記載したカタログ(商品一覧表)を事業所等の職場に配布して電話やファクシミリでまとめて注文を受けて配達するという方法(上告人はこれを「職域販売」と称している。)によって,化粧品を2割引きで販売しており,資生堂化粧品についても右の方法により販売していた。この方法による販売では,顧客と対面しての説明,相談等は全く予定されていなかった。

6.  被上告人は,前記販売方法は,本件特約店契約の対面販売等を定めた条項に違反するとして是正を求めたが,上告人が従来の販売方法を変更する態度を全く示さなかったので,被上告人は本件特約店契約上の解約条項に基づいて平成2425日付けで同契約を解約する旨の意思表示をし,上告人に対する出荷を停止した。

7. なお,被上告人は,前記是正要求以降の一連の折衝の過程において,上告人の値引販売を問題にしたことはなかった。

8. 上告人が,前記解約を無効と主張して,商品の引渡しを受けるべき地位にあることの確認及び注文済みの商品の引渡しを求めた。原審においては,特約店契約に定める対面販売を義務付ける約定に違反したと認めた上,特約店契約上の解約条項に基づいて被上告人がした本件解約を有効なものと判断して,上告人の請求をいずれも棄却していた。

 

裁判所の判断

「本件特約店契約において,特約店に義務付けられた対面販売は,化粧品の説明を行ったり,その選択や使用方法について顧客の相談に応ずる(少なくとも常に顧客の求めにより説明・相談に応じ得る態勢を整えておく)という付加価値を付けて化粧品を販売する方法であって,被上告人が右販売方法を採る理由は,これによって,最適な条件で化粧品を使用して美容効果を高めたいとの顧客の要求に応え,あるいは肌荒れ等の皮膚のトラブルを防ぐ配慮をすることによって,顧客に満足感を与え,他の商品とは区別された資生堂化粧品に対する顧客の信頼(いわゆるブランドイメージ)を保持しようとするところにあると解されるところ,化粧品という商品の特性にかんがみれば,顧客の信頼を保持することが化粧品市場における競争力に影響することは自明のことであるから,被上告人が対面販売という販売方法を採ることにはそれなりの合理性があると考えられる。そして,被上告人は,他の取引先との間においても本件特約店契約と同一の約定を結んでおり,実際にも相当数の資生堂化粧品が対面販売により販売されていることからすれば,上告人に対してこれを義務付けることは,一般指定の13にいう相手方の事業活動を「不当に」拘束する条件を付けた取引に当たるものということはできないと解される。」

「被上告人が対面販売を手段として再販売価格の拘束を行っているとは認められないとした原審の認定判断は,原判決挙示の証拠関係に照らし,正当として是認することができる。」

 

 

 


 

 

[基本・判決][事例]

(有)江川企画による地位確認等請求上告事件

最高裁判所判決平成101218

判例時報166414頁,判例タイムズ99298頁,金融・商事判例106227頁, 最高裁判所裁判集民事1901017

(花王株式会社に対する訴え,事実関係・裁判所の判断は前記事件のそれとほぼ同じ)

裁判所の判断

「被上告人と特約店契約を締結しておらずカウンセリング販売の義務を負わない小売店等に商品が売却されてしまうと,特約店契約を締結して販売方法を制限し,花王化粧品に対する顧客の信頼(いわゆるブランドイメージ)を保持しようとした本件特約店契約の目的を達することができなくなるから,被上告人と特約店契約を締結していない小売店等に対する卸売販売の禁止は,カウンセリング販売の義務に必然的に伴う義務というべきであって,カウンセリング販売を義務付けた約定が独占禁止法19条に違反しない場合には,右卸売販売の禁止も,同様に同条に違反しないと解すべきである。」

 


 

[基本・審決]

マイクロソフトコーポレーションに対する件

審判審決平成20916

審決集55380

 独禁法19条 一般指定12

*知的財産ライセンス 非係争条項

 

一般指定告示第13項に「規定する「不当に」の要件は,独占禁止法第2条第9項が規定する「公正な競争を阻害するおそれ」(「公正競争阻害性」と呼ばれる。)があることを意味するものと解されている。」

「不当な拘束条件付取引に該当するか否かを判断するに当たっては,被審人が主張するような具体的な競争減殺効果の発生を要するものではなく,ある程度において競争減殺効果発生のおそれがあると認められる場合であれば足りるが,この「おそれ」の程度は,競争減殺効果が発生する可能性があるという程度の漠然とした可能性の程度でもって足りると解すべきではなく,当該行為の競争に及ぼす量的又は質的な影響を個別に判断して,公正な競争を阻害するおそれの有無が判断されることが必要である。」

「独占禁止法第19条が「公正な競争を阻害するおそれがある」場合を不公正な取引方法として違法とするのは,競争制限の弊害が現実に生じる萌芽の段階において,不公正な取引方法を規制し,よって実質的な競争制限に発展する可能性を阻止する等の趣旨を有するものであるから,その認定に当たって,公正な競争を阻害することの立証まで要するものではなく,公正な競争を阻害するおそれの段階をもって,不公正な取引方法に該当するか否かが判断されるべきである。

 

「知的財産権のライセンスが一般的には競争促進効果を有することにより,独占禁止法第19条における公正な競争を阻害する「おそれ」についての解釈が左右されるものではない。」

「公正取引委員会は,自らの独占禁止法運用上の基準を明確にして,事業者の予見可能性と法運用の透明性を確保するために,運用指針としてガイドラインを作成・公表していること,そして,同ガイドラインが,公正取引委員会によって作成され,公表されることにより,取引社会における行為指針としての役割を果たしていることにかんがみると,同ガイドラインにおける記述は,本件における公正競争阻害性の認定においても尊重されるべきである。」

 

「自由な競争は,様々な種類の機能をもった新規のより性能のよい製品の出現を促すものであり,また,多種多様な機能を有する製品の出現は,経済活動の活発化をもたらすとともに,消費者の選択の幅を広げる。そして,多種多様な機能を有する製品の出現を促す自由な競争が維持されるためには,これらの技術を開発する能力を有する者の技術の研究開発のインセンティブが機能し,研究開発意欲が損なわれない状態であることが肝要である。」

 

1. 被審人(マイクロソフトコーポレーション)は,米国に本店を置き,パーソナルコンピュータ用基本ソフトウェア(以下,パーソナルコンピュータを「パソコン」と,パソコン用基本ソフトウェアを「パソコン用OS」という。)の開発及び使用等の許諾に係る事業等を営む。

2. 被審人は,「Windows(ウィンドウズ)」という名称を付したパソコン用OS(以下「Windows(ウィンドウズ)」という名称を付した被審人のパソコン用OSを総称して「ウィンドウズシリーズ」という。)を販売する。

3. 平成12年には,ウィンドウズシリーズが全世界におけるパソコン用OS90パーセントを占め,年々その割合が増加している。OEM業者にとって,パソコン製造販売事業を継続するためには,ウィンドウズシリーズのOEM販売の許諾を受けることが必要不可欠である。

4. 被審人は,ウィンドウズシリーズのバージョンアップを行う中で,既存の機能(セキュリティ機能等)を改良,修正したり,新たな機能(デジタル化された音声又は画像を視聴できるようにするための機能(以下,この機能を「AV機能」という。),デジタルビデオ編集機能等)やソフトウェア(インターネットブラウザー用ソフト,「Windows Media Player」と称するアプリケーションソフトウェア等)をパソコン用OSに組み込むことにより,ウィンドウズシリーズの機能を拡張してきている。

5. 平成10年から平成15年までにおいて,我が国においてパソコンを出荷している主要なパソコン製造販売業者は,日本電気株式会社(以下「日本電気」という。),富士通株式会社(以下「富士通」という。),デル・インク(以下「デル」という。),株式会社東芝(以下「東芝」という。),ソニー株式会社(以下「ソニー」という。),インターナショナル・ビジネス・マシンズ・コーポレーション(以下「IBM」という。),ヒューレット・パッカード・カンパニー(以下「HP」という。),株式会社日立製作所(以下「日立製作所」という。),シャープ株式会社(以下「シャープ」という。),アップル,株式会社ソーテック(以下「ソーテック」という。),セイコーエプソン株式会社(以下「セイコーエプソン」という。),松下電器産業株式会社(以下「松下電器産業」という。),三菱電機株式会社(以下「三菱電機」という。)及び日本ビクター株式会社(平成14年以降出荷。以下「日本ビクター」という。)である。これら15社の平成15年における我が国向けパソコンの出荷量は,我が国のパソコン出荷量の94パーセント程度を占める。

6. 近年,パソコンをオーディオ・ビジュアル(AV)機器のように使うエンドユーザーが増えてきている。このようなAV機能をパソコン上で実現するためには,パソコンAV技術(デジタル化された音声データ及び画像データの作成技術,管理技術,アクセス管理技術など)が必要となる(以下,これら技術を「パソコンAV技術」という。)。パソコンAV技術取引の開発者間では,当該技術の優劣やロイヤリティの多寡などによって,パソコンAV技術取引をめぐる競争が行われている。OEM業者は,開発したパソコンAV技術を自社のパソコンに搭載することによって,自社のパソコンの差別化を図ることができる。なお,パソコンAV技術に係るパソコン市場の市場規模は,約16兆円であった(ちなみに,AV技術を用いるAV家電機器市場の市場規模は,約23兆円であった)。

8. 被審人は,パソコンAV技術を開発している。OEM業者の多くは,MPEG規格(音声データ及び画像データの圧縮に関する技術の国際規格)に係るAV技術について必須特許を保有し,これをライセンスすることにより収入を得ている。

9. 被審人は,OEM業者に,被審人から使用の許諾を受けたウィンドウズシリーズに関して,OEM業者が特許権侵害を理由に被審人又は被審人のライセンシー等に対して訴えを提起しないことを誓約する規定(以下,これと同趣旨の規定を総称して「本件非係争条項」という。)を含む契約を提示し,締結させた。OEM業者の中には,本件非係争条項の削除を求めたものがあったが,被審人は応じなかった。

10. 本件非係争条項については,①本件非係争条項の対象となる製品がライセンス対象製品のみならず将来製品にも及び,②極めて長期間にわたり,③ウィンドウズシリーズの機能の拡張に伴い,広範な特許権が将来的に無償ライセンスの対象となっていく可能性があり,④ウィンドウズシリーズがパソコンOS用市場において占める高いシェアのために,いったんOEM業者の特許権に係る技術がウィンドウズシリーズに取り入れられてしまった場合には,パソコンを利用するほとんどすべての者が当該OEM業者の特許権を利用することができることになり,⑤OEM業者は自社技術を第三者に許諾することにより技術開発の対価を回収することが困難となり,⑥これらの特許権を利用できる者の中には同業のOEM業者も含まれているために,OEM業者は自ら開発した技術を自社製品のみに利用して自社製品を差別化するという方法を選択することも困難となり,⑦ウィンドウズシリーズの技術情報の開示が不十分であるために,OEM業者にとって,自社の特許権がウィンドウズシリーズにおいて利用されているかが不明であって,契約締結時の交渉において特許権侵害の主張を被審人に対して行うことができなかった。

11. 他方で,被審人は,本件非係争条項により,①OEM業者の特許権を自ら無償で利用でき,ウィンドウズシリーズの機能拡張を図ることを可能とする地位を取得するとともに,②被審人のすべてのライセンシーに対して,ウィンドウズシリーズが特許権侵害訴訟の提起等によって差止めを受けることのないというウィンドウズシリーズの安定性を無償で提供することができた。このことは,パソコン用OS市場及びパソコンAV技術取引市場における競争において,極めて優位な地位を被審人にもたらした。

12. 被審人は,審判において,「ウィンドウズシリーズは社会的に広く利用されるプラットホームであり,様々なソフトウェアやハードウェアなどの前提となるものであるから,その権利義務に関する安定性は社会的に強く要請されるのであり,仮に,特許権侵害などを理由に,販売済みのウィンドウズシリーズ並びに当該ウィンドウズシリーズに対応したソフトウェア及びハードウェアについて設計変更その他の改変等が要求される場合には,被審人のみならず,ウィンドウズシリーズに基づきウェブページ,ソフトウェア又はハードウェアを構築しているソフトウェア開発業者,ハードウェア製造業者及びOEM業者等のみならず,エンドユーザーにも,回復困難な多大の混乱を生じることになるところ,本件非係争条項は,ウィンドウズシリーズの権利義務に関する安定性をもたらしており,それゆえ競争促進的である」などと主張した。

 

公取委の判断

被審人は,「パソコン用OS市場における有力な地位を利用して,パソコンAV技術取引市場における有力な競争者であるOEM業者に対して,極めて不合理な内容である本件非係争条項の受入れを余儀なくさせたものであり,当該行為は,OEM業者のパソコンAV技術の研究開発意欲を損なわせる高い蓋然性を有するものである。」「本件非係争条項は,パソコンAV技術取引市場におけるOEM業者の地位を低下させ,当該市場における被審人の地位を強化して,公正な競争秩序に悪影響を及ぼすおそれを有するものである。」「本件非係争条項には,パソコンAV技術取引市場における公正な競争秩序への悪影響を覆すに足りる特段の事情も認められないことから,平成1311日以降における被審人及びOEM業者の間の本件非係争条項の付された直接契約の締結並びに本件非係争条項によるOEM業者の事業活動の拘束行為は,公正競争阻害性を有し,一般指定告示第13項の不当な拘束条件付取引に該当すると認められる。」

 


 

 

[参考]

クアルコム・インコーポレイテッドに対する件

審判審決平成31313

公正取引委員会ホームページ

独禁法19条 一般指定12

*知的財産無償ライセンス条項等

 

「独占禁止法が不当な拘束条件付取引を規制するのは,競争に直接影響を及ぼすような拘束を加えることは,相手方の事業活動において,相手方が良質廉価な商品・役務を提供するという形で行われるべき競争を人為的に妨げる側面を有しているからであり,拘束条件付取引の内容が様々であることから,不当な拘束条件付取引に該当するか否かを判断するに当たっては,個々の事案ごとに,その形態や拘束の程度等に応じて公正な競争を阻害するおそれを判断し,それが公正な競争秩序に悪影響を及ぼすおそれがあると認められる場合に初めて相手方の事業活動を「不当に」拘束する条件を付けた取引に当たるというべきである(最高裁判所平成101218日判決・民集第52巻第91866頁・公正取引委員会審決集第45461頁〔有限会社江川企画による地位確認等請求上告事件〕参照)。
 また,不当な拘束条件付取引に該当するか否かを判断するに当たっては,具体的な競争減殺効果の発生を要するものではなく,ある程度において競争減殺効果発生のおそれがあると認められる場合であれば足りるが,この「おそれ」の程度は,競争減殺効果が発生する可能性があるという程度の漠然とした可能性の程度でもって足りると解するべきではなく,当該行為の競争に及ぼす量的又は質的な影響を個別に判断して,公正な競争を阻害するおそれの有無が判断されることが必要である(公正取引委員会平成20916日審決・公正取引委員会審決集第55380頁〔マイクロソフトコーポレーションに対する件〕参照)。」

「本件ライセンス契約は,被審人が国内端末等製造販売業者に対してCDMA携帯無線通信に係る知的財産権の実施権を許諾する一方,国内端末等製造販売業者が被審人に対し,一時金及び継続的なロイヤルティの支払のほか,国内端末等製造販売業者の被審人に対するCDMA携帯無線通信に係る知的財産権の実施権の許諾(本件無償許諾条項)又は国内端末等製造販売業者の被審人等及び被審人の顧客に対するCDMA携帯無線通信に係る知的財産権の権利主張をしない約束(被審人等に対する非係争条項)をするというものであり,基本的な契約の構造としては,被審人が保有する知的財産権の実施権を許諾するのに対し,国内端末等製造販売業者も保有する知的財産権の非独占的な実施権を許諾するというクロスライセンス契約(特許権の一部について権利主張をしない約束をしているものを含む。以下同じ。)としての性質を有するものといえる。また,被審人のライセンシーに対する非係争条項も,これを本件ライセンス契約に規定した国内端末等製造販売業者と,同様の条項を規定した他の被審人のライセンシーが,無償で,互いに保有する知的財産権の権利主張をしないことを約束するというものであって,相互に保有する知的財産権の使用を可能とするものとして,クロスライセンス契約に類似した性質を有するものと認めるのが相当である。そして,クロスライセンス契約を締結すること自体は原則として公正競争阻害性を有するものとは認められない。
 そうすると,クロスライセンス契約としての性質を有する本件無償許諾条項等が規定された本件ライセンス契約について,国内端末等製造販売業者の研究開発意欲を阻害するなどして公正な競争秩序に悪影響を及ぼす可能性があると認められるためには,この点についての証拠等に基づくある程度具体的な立証等が必要になるものと解される。」

「本件ライセンス契約は,クロスライセンス契約としての性質を有するものであり,契約の性質上,双方の知的財産権の行使が制限されるのは当然であって,そのうちの国内端末等製造販売業者等の保有する知的財産権の行使が制限される部分のみを取り出し,その適用範囲の広範性を論じるのは適切とはいえない。
 そして,前記・・・,まず,本件無償許諾条項等により実施権を許諾し,又は,権利主張を行わないと約束する国内端末等製造販売業者の知的財産権は,CDMA携帯電話端末等の製造,販売等のためのCDMA携帯無線通信に係る技術的必須知的財産権及び商業的必須知的財産権(被審人のライセンシーに対する非係争条項は技術的必須知的財産権のみ)であるが,この範囲が,携帯無線通信に係る携帯電話端末,基地局及びこれらに使用される部品の製造,販売等のための知的財産権のライセンス契約ないしクロスライセンス契約において実施権の許諾等の対象となる知的財産権の範囲として,通常のものとは異なり,特に広範なものであると認めるに足りる証拠はない。また,国内端末等製造販売業者は,一方で,被審人等に対し,国内端末等製造販売業者等が保有する知的財産権について,本件無償許諾条項等により実施権を許諾し,又は,権利主張を行わないと約束するものの,他方で,被審人から,被審人等が保有するCDMA携帯無線通信に係る技術的必須知的財産権及び商業的必須知的財産権の実施権の許諾を受けたり,他の被審人のライセンシーから,保有する技術的必須知的財産権についての権利主張をされなかったりすることを考慮すると,本件無償許諾条項等の対象として国内端末等製造販売業者の権利行使が制限される知的財産権の範囲について,これが広範なものであって,本件無償許諾条項等の制約の程度,内容が国内端末等製造販売業者の研究開発意欲を阻害するおそれがあると推認できる程度に不合理であることを示すものであると認めるのは困難である。」

「国内端末等製造販売業者14社のうちの9社との本件ライセンス契約では,技術的必須知的財産権の改良期間が無期限と定められているものの,そもそも,技術的必須知的財産権は,標準規格(第三世代携帯無線通信規格)を構成するものであり,規格会議により,標準規格の対象とするものについては,当該権利所有者が,一切の権利主張をせずに無条件に,又は適切な条件の下に非排他的かつ無差別に実施権を許諾するものとされており,CDMA携帯電話端末等の製品の差別化要素となるものではない。しかも,国内端末等製造販売業者が被審人に対して実施権の許諾等をする知的財産権の範囲を画する改良期間は,被審人が国内端末等製造販売業者に実施権を許諾する知的財産権の範囲を画する改良期間と共通のものでもあり,改良期間が定められていない(無期限とされている)場合,被審人も,(本件ライセンス契約が存続する限り)国内端末等製造販売業者に対し,本件ライセンス契約の発効日から無期限の期間に開発又は取得することとなる知的財産権の実施権の許諾等をすることになることからすると,技術的必須知的財産権の改良期間が無期限とされていることをもって,その範囲が広範なものであって,本件無償許諾条項等の制約の程度,内容が国内端末等製造販売業者の研究開発意欲を阻害するおそれがあると推認できる程度に不合理であることを示すものであるとまで認めることはできない。」

「本件無償許諾条項に基づいて国内端末等製造販売業者が被審人に対して知的財産権の実施権を許諾することによって権利行使が制限される相手方の範囲は,被審人等のほか,被審人等からCDMA部品を購入した者(被審人の顧客)であるが,実際に国内端末等製造販売業者が被審人の顧客に対して権利行使をすることができなくなるのは,当該被審人の顧客が被審人等のCDMA部品に使用された知的財産によって国内端末等製造販売業者の知的財産権を侵害する場合に限られ,被審人等のCDMA部品を組み込まない顧客の部分又は機能によって知的財産権を侵害された場合には,権利行使をすることが妨げられない。そして,知的財産権の実施権を許諾した者が,それを使用して製造」した部品を購入した者に対し,その製品による知的財産権の侵害について,権利行使を制限されること自体は,一般的なライセンス契約やクロスライセンス契約で通常生じるものである。さらに,・・・本件ライセンス契約は,クロスライセンス契約としての性質を有しており,上記のとおり,一方で,国内端末等製造販売業者は,本件無償許諾条項の効果により,被審人の顧客に対する権利主張を一定の範囲で制限されるものの,他方で,本件ライセンス契約に基づいて実施権を許諾された被審人等の保有する知的財産権を使用して製品を製造した場合,同様に,その製品を購入した国内端末等製造販売業者の顧客の製品による被審人の知的財産権の侵害について,これが広範なものであって,本件無償許諾条項等の制約の程度,内容が国内端末等製造販売業者の研究開発意欲を阻害するおそれがあると推認できる程度に不合理であることを示すものであると認めることはできない。」

「本件ライセンス契約の契約期間が無期限あるいは長期間であるということは,国内端末等製造販売業者が本件無償許諾条項等に基づいて実施権の許諾等をする知的財産権について,その行使を制限される期間が無期限あるいは長期間であることを意味するものの,この点は,被審人が国内端末等製造販売業者に対して知的財産権の実施権を許諾する期間と一致するものであって,国内端末等製造販売業者が権利行使できない期間が一方的に無期限あるいは長期間にわたるものというものではないし,上記のとおり,国内端末等製造販売業者は,改良期間終了後に開発又は取得することとなる知的財産権を別途行使できることは変わりない。
 したがって,本件ライセンス契約の契約期間が無期限あるいは長期間であるということをもって,その範囲が広範であって,本件無償許諾条項等の制約の程度,内容が国内端末等製造販売業者の研究開発意欲を阻害するおそれがあると推認できる程度に不合理であることを示すものと認めることはできない。本件無償許諾条項等の適用範囲(国内端末等製造販売業者が権利行使を制限される範囲)について,これが広範なものであって,本件無償許諾条項等の制約の程度,内容が国内端末等製造販売業者の研究開発意欲を阻害するおそれがあると推認できる程度に不合理であることを示すものであるという審査官の主張を採用することはできない。」

「審査官は,国内端末等製造販売業者が,本件無償許諾条項等によって保有する知的財産権の行使を妨げられ,これによって本来得ることができる経済的利益を獲得する機会を奪われたため,新たな技術のための研究開発活動への再投資を妨げられ,研究開発意欲が阻害されたと主張するがそもそも,本件無償許諾条項等が規定された本件ライセンス契約は,クロスライセンス契約としての性質を有しており,その性質上,各契約当事者が実施権を許諾するなどした知的財産権の行使が制限され,別途,その実施権の許諾等による対価を得ることができる余地が減少するのは当然のことであるから,国内端末等製造販売業者が本件無償許諾条項等のため,自社が保有する知的財産権を行使する機会が制限されたことをもって,直ちに,本来得ることができる経済的利益を獲得する機会を奪われたと評価することはできない。」
「被審人が本件検討対象市場において有力な地位を有していたことを前提に,被審人により本件無償許諾条項等を含む本件ライセンス契約の締結を余儀なくされた結果,国内端末等製造販売業者による研究開発意欲を阻害するおそれがあり,これにより国内端末等製造販売業者の地位が低下することとなる一方で,相対的に被審人の有力な地位が更に強化されると主張するが被審人がCDMA携帯電話端末等に関する技術に係る市場において有力な地位を有していたものと認められるとしても,本件無償許諾条項等が規定された本件ライセンス契約が,国内端末等製造販売業者によるCDMA携帯電話端末等に関する技術の研究開発意欲を阻害するおそれを推認させる程度に不合理なものであるとまでは認められないことからすると,本件無償許諾条項等が規定された本件ライセンス契約によって国内端末等製造販売業者の研究開発意欲が阻害され,それによって国内端末等製造販売業者の地位が低下し,被審人の有力な地位が更に強化されるという審査官の主張は,その前提を欠く」。

「本件無償許諾条項等が,国内端末等製造販売業者の研究開発意欲を阻害するおそれを有するとも,被審人の有力な地位が強化されるおそれを有するとも認めるに足りないことからすると,本件無償許諾条項等が,本件検討対象市場における競争秩序に悪影響を及ぼすとはいえない。」

 

 


 

[参考・判決]

明治乳業(株)に対する件

審判審決昭和521128

審決集2486

独禁法19

 

「一店一帳合制」(卸売業者間においてその販売先が競合しないように,卸売業者に対してその販売先である小売業者を特定し,小売業者に特定の一卸売業者以外のものとは取引できなくさせている制度)について

「本件一店一帳合制が被審人の育児用粉ミルクの卸売価格及び小売価格を被審人自身の価格建てによる水準に維持する方策として実施されており,実質的にその再販売価格維持に役立つ機能を有することは,前掲の証拠,とりわけ査第58号証ないし査第61号証により十分認められるところであるが,更に,被審人の主張に即してこれを敷行すれば,小売業者の取引先卸売業者の選択及び変更は,前記第1事実21)及び31)に認定したとおり卸売巣者を経由して被審人の定める手続を履まなければならないのであって,言わば被審人の管理下に置かれているのであるから,自由であるとは認められないものであり,その変更が行われる場合でも,小売業者は2以上の卸売業者とは取引できなくさせられているのであるから,本件一店一帳合制が取引先の自由な選択及び変更を制限しており,その結果,小売業者が随時適宜の卸売業者を取引先として選択し,自己に有利な条件で時宜にかなった仕入れをすることを妨げている事実は,明らかである。右の制限は,同時に卸売業者が取引先小売業者を選択及び変更する自由をも妨げるものであるが,このことは,とりもなおさず,卸売業者間における被審人の育児用粉ミルクの販売価格及び各種の取引条件についての競争が行われる場を極めて狭い範囲に限定することになり,このような被審人による育児用粉ミルクの競争の場の限定は,前述したように卸売業者の段階における育児用粉ミルクについての製造業者間の競争が活発に行われていない状況の下では,卸売業者間において本来存在すべき小売業者に対する競争を減殺する効果を生ずるのであるから,本件一店一帳合制が公正な競争を阻害するおそれがあることは明らかである。」


 

[事例]

(株)小林コーセー対する件

勧告審決昭和580706

審決集3047

独禁法19  一般指定12

*価格拘束

 

1. 株式会社小林コーセー(以下「小林コーセー」という。)は,フランスの会社であるロレアル・ソシエテ・アノニムの有する商標を使用した化粧品(以下「ロレアル化粧品」という。)を我が国において一手に製造販売する。ロレアル化粧品のうち美容室向けコールド式パーマネントウエービング液(以下「コールド液」という。)の国内販売実績は業界第1位であり,2位以下を大きく引き離している。

2. 小林コーセーは,コールド液を代理店を通じて美容室に販売し,美容室はこのコールド液を使用して施術している。

3. 小林コーセーは,「ミニバーグドウサー」と称するコールド液を発売するに当たり,安定した需要量を確保するためには同液を使用して施術する美容室(以下「ドウサーサロン」という。)のパーマネント料金を維持する必要があるとして,①代理店に対して,ミニバーグドウサー使用に係る施術(総合コールドパーマネントウエービング)の最低料金は6,000円とし,ドウサーサロンにこれを下回る料金で施術しないようにさせる旨を指示し,②その後,①に定める最低料金を下回って施術することを禁ずる内容の代理店及びドウサーサロンとの3者間に「ミニバーグドウサー取扱い覚書」を,また,代理店との間に「ミニバーグドウサー販売に関する覚書」をそれぞれ取り交わしている。③これら②の覚書には,(i)これに違反した場合は商品の販売停止等の措置を採ることがあること,(ii)代理店は,取引先であるドウサーサロンに右覚書を遵守させるべきこと,及び(iii)これに違背した場合には小林コーセーが警告,出荷停止等の措置を採ることも定められている。④小林コーセーは,前記①又は②に反したドウサーサロン又は代理店に対して,警告,出荷停止等の措置を講じ,前記最低料金以上で施術する旨を約束させるとともに,料金を是正した旨を店頭広告又はチラシ広告によって利用者に周知させる等の措置を講じさせている。

法令の適用

小林コーセーは,同社の販売するコールド液の代理店とこれからコールド液を購入するドウサーサロンとの取引を不当に拘束する条件をつけて,当該代理店と取引している者であり,これは,不公正な取引方法(昭和57年公正取引委員会告示第15号)の第13項に該当し,独占禁止法第19条の規定に違反するものである。

 


 

[事例]

トエンティース センチュリー フォックス ジャパン,インコーポレーテッドに対する件

勧告審決平成151125

審決集50389

独禁法19条 一般指定12

*価格拘束

 

1.トエンティース センチュリー フォックス ジャパン,インコーポレーテッド(以下「フォックスジャパン社」という。)は,日本国内に主たる営業拠点をそれぞれ置き,アメリカ合衆国所在のトエンティース センチュリー フォックス インターナショナル コーポレーションから配給を受けた映画作品(以下「フォックス映画作品」という。)を国内において上映する事業者 (以下「上映者」という。)に配給する事業を営む。

2. フォックスジャパン社は,上映者に対し,「スター・ウォーズ」と題する一連の映画作品,「PLANET OF THE APES 猿の惑星」と題する映画作品,「マイノリティ・リポート」と題する映画作品等の高い人気を有したフォックス映画作品を含めて,毎年10ないし20作品程度ずつ,継続的に配給している。

3. フォックスジャパン社が上映者と締結した契約では,上映者がフォックスジャパン社に支払うべき対価(「映画料」と呼ばれる。)は,上映者が映画を鑑賞させる対価として入場者から徴収する入場料の総額に一定の割合を乗じた額とする旨規定されており,フォックスジャパンは,上映者からその支払を受けることを基本としている。

4. フォックスジャパン社は,契約上で,①上映者が上映期間中に入場者から徴収する入場料は,フォックスジャパン社と上映者との間の契約において定めること,②上映者は,当該入場料を徴収することを約束すること,③上映者は,あらかじめフォックスジャパン社が了承した場合を除いて,前記①により定められる入場料を割り引かないことを約束すること,④上映者が前記①により入場料を割り引いて徴収した場合,フォックスジャパン社に支払うべき配給の対価は,付属契約において定められる入場料に基づき計算されることを定める条項を設けている。

5. フォックスジャパン社の前記4に基づく入場料設定等の行為を例示すると,次のとおりである。

①「スター・ウォーズ エピソード1 ファントム・メナス」と題する映画作品について,大都市の一部の上映者が従来徴収してきた入場料が大人1人当たり1,800円である場合には,これを2,000円に,地方都市の一部の上映者が従来徴収してきた入場料が大人1人当たり1,700円である場合には,これを1,800円に,引き上げさせている。

②前記①の映画作品について,映画館において配布されるパンフレット,チラシ等に印刷された割引券を持参する入場者を対象とした割引を取りやめさせている。

③「スター・ウォーズ エピソード2 クローンの攻撃」と題する映画作品について,大都市の一部の上映者が従来徴収してきた入場料が,大人1人当たり1,800円である場合には,これを維持させている。

 

法令の適用

フォックスジャパン社は,フォックス映画作品を配給するに当たり,上映者が入場者から徴収する入場料を制限しているものであり,これは,上映者の事業活動を不当に拘束する条件を付けて,フォックス映画作品を配給しているものであって,不公正な取引方法(昭和57年公正取引委員会告示第15号)の第13項に該当し,独占禁止法第19条の規定に違反するものである。

 


 

[参考・審決]

(株)ヤクルト本社に対する件

勧告審決昭和40913

審決集1372

独禁法19条 一般指定12

*価格拘束

 

1. 株式会社ヤクルト本社(以下「ヤクルト本社」という。)は,醗酵乳の原液の製造業を営む。

2. ヤクルト本社は,醗酵乳の製法に関する特許権および「生菌ヤクルト」の商標権を保有する。

3. ヤクルト本社は,醗酵乳の原液を加工業者に販売し,加工業者は,これを稀釈し,びん詰加工し,「生菌ヤクルト」の商標を付し,小売業者に販売している。

4. ヤクルト本社は,①加工業者との間で,前記特許の実施権および前記商標の使用権の許諾に関する契約を締結し,②小売業者との間に,前記商標を付した醗酵乳の小売に関する契約を締結している。

5. ヤクルト本社は,ヤクルトの流通機構を確立するため,前記契約中において次の事項を定めこれを実施している。

加工業者は,ヤクルト本社と,小売価格,小売地域および小売数量の遵守ならびに競争商品の販売禁止を内容に含む小売契約を締結した者以外の者に,ヤクルトを販売しない

加工業者は,小売契約において定められた小売価格および小売地域を,小売業者に守らせる

 

法の適用

1 ヤクルト本社の前記事実の2の(2)の行為は,特許法または商標法による権利の行使とは認められないものである。

ニ ヤクルト本社の前記事実の2の(2)の行為は,正当な理由がないのに,加工業者と小売業者との取引を拘束する条件をつけて,当該加工業者と取引しているものであり,これは昭和28年公正取引委員会告示第11号不公正な取引方法の8に該当し,私的独占禁止法第19条の規定に違反するものである。」

 


 

[参考・判決]

キース・ヘリング著作権侵害差止等請求事件

知的財産高等裁判所判決平成1945日判決

裁判所ウェブサイト

独禁法19条 一般指定12

*価格拘束

 

サクラインターナショナル株式会社(一審原告,控訴人)は,キース・エステイトとの間でキース・へリングの創作に係るイラスト・図柄・文字・デザイン等(本件プロパティ)につき,本件マスターライセンス契約を締結し,その後,株式会社ファーストリテイリング(一審被告,被控訴人)との間で,同被控訴人が本件プロパティを使用すること等を内容とする本件サブライセンス契約を締結した。ところが,控訴人は,被控訴人ファーストリテイリングが契約に反して本件プロパティ使用製品を安値で販売するとともに,安値で販売することについて広告を行ったこと等したと考え被控訴人に対して契約解除の意思表示を行った。訴訟ではこの意思表示の有効性等が争われた。

 

控訴人による安値販売の制限について「価格に関する制限行為は,そもそも本件サブライセンス契約が予定しないところであ」り,本件サブライセンス契約3条はあくまで「ロイヤリティの計算の前提として商品上代の承認を要するとしたものに過ぎず,具体的な個別の販売価格の承認を要する旨定めたものと読むことはできない。このことは,公正取引委員会による「特許・ノウハウライセンス契約に関する独占禁止法上の指針」(平成11730日)においても,ライセンサーがライセンシーに対して,ライセンシーが販売価格を決定するに当たって,事前にライセンサーの承認を得ることを義務づけるものは,特段の正当化事由のない限り不公正な取引方法に該当するとされ,この考え方は商標にも準用できるとされることとも整合するものである。

 そして,本件においては,確かに正価1000円~1900円の商品を100円で販売したものであるが,被控訴人ファーストリテイリングは,季節商品である本件商品の在庫数が1店舗平均で各品番当たり多くても3点程度になっていたため,この程度の在庫数では魅力的な展示ができないことなどを理由に販売価格を下げて売切りを図ったものと認められることにも鑑みれば,これをもって本件に上記特段の正当化事由があるということまでは困難である。」

 

チラシの控訴人による承認制度について「価格に関する制限行為は,そもそも本件サブライセンス契約が予定しないところであり,本件サブライセンス契約3条も,あくまでロイヤリティの計算の前提として商品上代の承認を要するとしたものに過ぎず,具体的な個別の販売価格の承認を要する旨定めたものと読むことはできない。そしてかかる理解が,公正取引委員会による「特許・ノウハウライセンス契約に関する独占禁止法上の指針」とも整合することも踏まえて当事者の意思を合理的に解釈すれば,本件サブライセンス契約8条の「本商品のグッドクオリティを目指し,プロパティ・イメージの向上と調和をはかるため,販売促進・広告宣伝等或いは,本件プロパティを本商品以外に使用する場合は事前に控訴人の承認を必要とする。」との規定も,本件プロパティをチラシに使用するに際しての使用態様等を控訴人の承認にかからしめるものに過ぎず,具体的な個別の販売価格のみを理由とする場合にまで控訴人の承認を必要としたものではないと解するのが相当である。」

 


 

 [事例]

ジョンソン・エンド・ジョンソン(株)に対する件

排除措置命令平成22121

審決集57巻第二分冊50

独禁法19条 一般指定12

*価格表示に関する制限

 

1. ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社(以下「ジョンソン・エンド・ジョンソン」という。)は,視力補正用コンタクトレンズの販売業を営む。

2. ジョンソン・エンド・ジョンソンは,我が国における1日使い捨てタイプの視力補正用コンタクトレンズの販売高において業界第1位を占めており,第2位以下を大きく引き離している。

3. ジョンソン・エンド・ジョンソンが販売する1日使い捨てタイプの視力補正用コンタクトレンズ(ワンデーアキュビュー及びワンデーアキュビューモイスト等)は,一般消費者の間において高い評価が得られており,指名して購入する一般消費者が多いことから,1日使い捨てタイプの視力補正用コンタクトレンズの小売業者にとって,これを取り扱うことが営業上有利となっている。

4. ジョンソン・エンド・ジョンソンは,自社の視力補正用コンタクトレンズのほとんどを取引先小売業者に販売し,取引先小売業者は,店頭において又は通信販売の方法によりこれを一般消費者に販売している。

5. ジョンソン・エンド・ジョンソンは,取引先小売業者に対して,ワンデーアキュビュー及びワンデーアキュビューモイストの30枚パック(130枚入りで包装したものをいう。以下同じ。)を販売していたところ,販売を促進するため,ワンデーアキュビュー及びワンデーアキュビューモイストの90枚パック(以下,これらを「90枚パック」という。)の販売を始めることとした。90枚パックは,それぞれ,30枚パックよりも30枚当たりに換算した場合の納入価格が低く,ジョンソン・エンド・ジョンソンは,取引先小売業者が当該製品の販売によって一定の粗利益を確保できることが,当該製品の販売の促進につながるとの認識を有していた。

6. ジョンソン・エンド・ジョンソンは,90枚パックの販売を始めるに当たって,取引先小売業者が販売価格について自由に広告を行えば取引先小売業者間の価格競争が進み,取引先小売業者が当該製品の販売によって一定の粗利益を確保できなくなると考え,当該製品の販売については,取引先小売業者に対して,広告において販売価格の表示を行わせないこととした。

7. ジョンソン・エンド・ジョンソンは,前記方針を取引先小売業者に通知し,その後この方針に反した取引先小売業者に対しては広告から価格表示を削除させるなどの是正を求め,是正要請に従わなければ当該製品の出荷を停止することにより,この方針に従わせた。

8. ジョンソン・エンド・ジョンソンは,J&Jコンタクトレンズについて一定金額以上の仕入実績を有するなどの理由から選定した特定の取引先小売業者(以下「特定大口取引先小売業者」という。)を対象として,ワンデーアキュビューモイストの納入価格の引下げ及びリベートの支払を行うこととした。ジョンソン・エンド・ジョンソンは,これらにより特定大口取引先小売業者が当該製品の販売によって一定の粗利益を確保できることが,当該製品の販売の促進につながるとの認識を有していた。

9. ジョンソン・エンド・ジョンソンは,前記8の納入価格引下げ等を行うにあたり,特定大口取引先小売業者が当該製品の販売価格について自由に広告を行えば特定大口取引先小売業者間の価格競争が進み,特定大口取引先小売業者が当該製品によって一定の粗利益を確保できなくなると考え,特定大口取引先小売業者がダイレクトメールを除く広告において当該製品の販売価格の表示を行わないことを,納入価格引下げ等を行うことの条件の1つとすることとした。

10. ジョンソン・エンド・ジョンソンは,この条件に反した特定大口取引先小売業者に対しては,広告から価格表示を削除させるなど是正させ,値引き前の納入価格を適用し,リベートを支払わないことにより,条件を遵守させた。

11. ジョンソン・エンド・ジョンソンの前記行為により,取引先小売業者は,ワンデーアキュビュー及びワンデーアキュビューモイストの90枚パックについての広告においては,当該製品の販売開始以降,おおむね,その販売価格の表示を行わず,代わりに「特別価格」等の表示を行い,また,特定大口取引先小売業者は,その販売価格の表示を行わず,代わりに「特別価格」等の表示を行っていた。

12. 公取委による本件にかかる立入検査後は,ジョンソン・エンド・ジョンソンは,前記67及び910の行為を行っていない。

法令の適用

「ジョンソン・エンド・ジョンソンは,ワンデーアキュビュー90枚パック及びワンデーアキュビューモイスト90枚パックの販売に関して,取引先小売業者が広告において販売価格の表示を行うことを,また,ワンデーアキュビューモイスト30枚パックの販売に関して,特定大口取引先小売業者がダイレクトメールを除く広告において販売価格の表示を行うことを,それぞれ制限していたものであり,これらは,取引先小売業者の事業活動を不当に拘束する条件を付けて,当該取引先小売業者と取引していたものであって,不公正な取引方法(昭和57年公正取引委員会告示第15号)の第12項(平成21年公正取引委員会告示第18号の施行の日(平成2211日)前においては同告示による改正前の不公正な取引方法の第13項)に該当し,独占禁止法第19条の規定に違反するものであり,ジョンソン・エンド・ジョンソンは,独占禁止法第20条第2項において準用する独占禁止法第7条第2項第1号に該当する者である。また,違反行為が行われなくなったことが公正取引委員会の立入検査を契機としたものであること等の諸事情を総合的に勘案すれば,特に排除措置を命ずる必要があると認められる。」

 

 


 

[事例]

アルパイン(株)に対する件

勧告審決平成13123

審決集47336

 独禁法19条 一般指定12

*価格表示に関する制限

 

1. アルパイン株式会社(以下「アルパイン」という。)は,同社が製造販売する市販向けのカーオーディオ及びカーナビゲーションシステム並びにこれらに付随する製品(以下「アルパイン製品」という。)を,直接又は同社が出資する販売会社を通じて自動車用品を取り扱う量販店,専門店等の小売業者に供給し,これらの取引先小売業者を通じて一般消費者に販売している。

2.  販売会社は,アルパインから出資及び役員派遣を受け,契約によりアルパインの営業方針に基づきアルパイン製品を販売することが義務付けられ,専らアルパイン製品をアルパインの営業方針に基づいて販売し,アルパインの実質的な営業部門として営業活動を行っている。

3.  アルパイン製品は,一般消費者の間での評価が高く,これを指名して購入する顧客もいることから,自動車用品の小売業者にとってアルパイン製品を品揃えしておくことが営業上有利であるとされている。

4. アルパインは,アルパイン製品について,同社の希望小売価格を定め,これを標準小売価格と称している。

5. アルパインは,標準小売価格を掲載した製品カタログ等を作成して,標準小売価格の周知に努めている。

6. アルパイン製品については,小売業者が店頭等で表示した価格を基に一般消費者との間で価格交渉が行われる場合が多い。このために,アルパイン製品については,小売業者により標準小売価格を下回る価格表示(以下「値引表示」という。)が広く行われると,実際の小売価格が低下する傾向がある。

7. アルパイン製品の新聞折り込み広告,店頭表示等における価格表示についてはそのほとんどが標準小売価格により表示されている状況にあったが,その後,自動車用品小売業界における新規参入業者の増加等に伴い,一部の取引先小売業者がアルパイン製品について値引表示を行って安値販売を行う事例がみられるようになった。これに伴い,アルパインは,大手量販店チェーン等から当該値引表示をやめさせてほしい旨の苦情を受けたり,小売価格の低下に伴う利幅の減少を補てんすることの要請を受けたりすることが多くなった。

8. そこでアルパインは,アルパイン製品について,取引先小売業者が新聞折り込み広告,店頭表示等において価格表示を行う場合には標準小売価格により表示させることとし,直接又は販売会社を通じて,取引先小売業者に対し次の方策を講じた。

新たに小売業者との取引を開始するに当たり,当該小売業者に対し,アルパイン製品について,新聞折り込み広告,店頭表示等において標準小売価格による価格表示を行うよう要請し,これに同意した小売業者を取引先とする。

大手量販店チェーンの本部,それらの加盟小売業者等に対し,販売促進目的でアルパイン製品を通常よりも卸売価格を引き下げて提供するときなどの場合には,新聞折り込み広告,店頭表示等において当該製品の値引表示を行わない旨を約束させる。

9. アルパインは,自ら発見し又は他の取引先小売業者からの苦情等を受けて値引表示を行っていることをつきとめ,値引表示を行っている取引先小売業者に対しては価格表示に改めさせるなどの措置を講じることにより,取引先小売業者が値引表示を行わないようにさせていた。

10. 取引先小売業者は,値引表示が広く行われると実際の小売価格が低下することを懸念して,おおむね,アルパイン製品の販売に当たり,新聞折り込み広告,店頭表示等において,標準小売価格による価格表示を行っていた。その後,アルパインは前記89の行為をとりやめた。

法令の適用

「アルパインは,アルパイン製品について,取引先小売業者が表示する価格を制限していたものであり,これは,取引先小売業者の事業活動を不当に拘束する条件を付けて,取引先小売業者と取引していたものであって,不公正な取引方法(昭和57年公正取引委員会告示第15号)の第13項に該当し,独占禁止法第19条の規定に違反するものである。」

 


 

[事例]

(株)日立家電に対する件

勧告審決平成538

審決集39241

 独禁法19条 一般指定12

*価格表示に関する制限

 

1. 株式会社日立家電(以下「日立家電」という。)の製品は消費者の間で高い知名度を有している。同社の製品中,約40パーセントは直接又は間接に量販店に販売され,約60パーセントは系列小売店に販売されている。日立家電は,これらを通じて同製品を一般消費者に供給している。

2.  日立家電は,日立家電製品のうち後継機種の発売に伴い旧型となった機種を除く製品(以下「新型日立家電製品」という。)について,自ら又は販社を通じて,取引先量販店との間で行っている取引条件等を取り決めるための交渉において,メーカー希望小売価格とは別に,市場想定価格と称する価格(日立家電が新型日立家電製品の機種ごとに市場における実勢小売価格を想定して定めた価格であって,メーカー希望小売価格のおおむね10パーセント引き程度のもの。以下「市場想定価格」という。)を取引先量販店に示し,同価格を基準として取引先量販店に対する卸売価格を取り決めていた。

3.  新型日立家電製品のうち,カラーテレビ,エアコンディショナ,冷蔵庫,洗濯機及び掃除機の5品目(以下「対象製品」という。)について,量販店が広告等において行う価格表示が実勢小売価格の形成に大きな影響力を有している。

4.  日立家電は,前記3の状況を考慮し,自ら又は販社を通じ,取引先量販店に対して,新聞折込み広告,店頭表示等において市場想定価格を下回る価格での価格表示を行わないよう要請してきた。

5. 前記4の要請を受けた取引先量販店は,市場想定価格での価格表示が定着すれば,実勢小売価格の安定が図られ,これは自己の利益に資するところから,おおむね,同要請を受け入れる状況にあった。

6. 日立家電は,公取委による「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」公表に伴い,前記4の行為を取りやめている。

 

法令の適用

日立家電は,同社の販売する対象製品について,取引先量販店が表示する価格を制限していたものであり,これは,取引先量販店の事業活動を不当に拘束する条件をつけて,当該相手方と取引していたものであって,不公正な取引方法(昭和57年公正取引委員会告示第15号)の第13項に該当し,独占禁止法第19条の規定に違反するものである。

 

松下エレクトロニクス(株)に対する件・勧告審決平成538日・審決集39236

((株)日立家電に対する件・勧告審決平成538日と,ほぼ同内容)

 

 

 


 

 

[参考・審決]

ソニーネットワーク販売(株)に対する件

勧告審決平成538

審決集39246

独禁法19条 一般指定12

*価格表示に関する制限

 

1. ソニーネットワーク販売株式会社は,ソニー製家電製品の卸売業を営む。ソニー製家電製品は消費者の間で高い知名度を有する。同製品中,約60パーセントはソニーネットワークから量販店を通じて,約40パーセントは量販店以外の小売店を通じて,それぞれ一般消費者に供給されている。

2. ソニーネットワークは,ソニー家電製品のうち後継機種の発売に伴い旧型となった機種を除く製品(以下「新型ソニー家電製品」という。)について,取引先量販店との間で行っている取引条件等を取り決めるための交渉において,ソニーが,メーカー希望小売価格とは別に,新型ソニー家電製品の機種ごとに市場における実勢小売価格を想定して定めた価格であって,メーカー希望小売価格のおおむね10パーセント引き程度の価格(以下これを「市場想定価格」という。)を取引先量販店に示し,同価格を基準として取引先量販店に対する卸売価格を取り決めていた。

3. 新型ソニー家電製品については,量販店が広告等において行う価格表示が実勢小売価格の形成において大きな影響力を有している。

4. ソニーネットワークは,取引先量販店に対し,商談時における卸売価格の取決め等に際して,新聞折込み広告,店頭表示等において市場想定価格を下回る価格での価格表示を行わないよう要請してきた。

5. ソニーネットワークは,前記4の要請を行うとともに,新型ソニー家電製品について,価格を調査し,市場想定価格を下回る価格での価格表示を行っていた場合には,その店頭表示価格を市場想定価格に改めさせるなどの措置を講じた。

6. 取引先量販店は,おおむね,新聞折込み広告,店頭表示等において価格表示を行うに当たっては,市場想定価格での価格表示を行う状況にあった。その後,ソニーネットワークは前記45の行為を取りやめた。

法令の適用

ソニーネットワークは,同社の販売する新型ソニー家電製品について,取引先量販店が表示する価格を制限していたものであり,これは,取引先量販店の事業活動を不当に拘束する条件をつけて,当該相手方と取引していたものであって,不公正な取引方法(昭和57年公正取引委員会告示第15号)の第13項に該当し,独占禁止法第19条の規定に違反するものである。

 

 

東芝東日本ライフエレクトロニクス(株)に対する件・勧告審決平成538日・審決集39251

(ソニーネットワーク販売(株)に対する件・勧告審決平成538日と,ほぼ同じ内容)

 


 

[事例]

東北セルラー電話(株)に対する件

勧告審決平成9115

審決集44275

独禁法19条 一般指定12

*価格表示に関する制限

 

1. 東北セルラー電話株式会社(以下「東北セルラー」という。)は,青森県,岩手県,宮城県,秋田県,山形県,福島県及び新潟県の区域において,携帯電話に係る電気通信役務を提供するとともに「cellular」の商標を付した携帯電話機(以下「セルラーブランド電話機」という。)を第2電電株式会社から購入し,その全量を取引先代理店に販売している。

2. セルラーブランド電話機を,取引先代理店は,直接又は取引先代理店から仕入れて小売販売を行う取扱店を通じて一般消費者に販売している。

3. 取引先代理店及び取扱店(以下「代理店等」という。)は,セルラーブランド電話機を販売する際には,委託契約等に基づき,購入者と東北セルラーの間の回線加入契約に関する業務を行っている。

4. 東北セルラーは,かねてから一般代理店からセルラーブランド電話機の安売りへの対応策の要請を受け対策を検討しており,代理店等が他の代理店等より低い価格を表示してセルラーブランド電話機を販売すると,これに対抗して価格の引き下げが行われ,市場価格が低下することとなることから,市場価格の安定を図るため,新聞折り込み広告,新聞広告,店頭等において表示するセルラーブランド電話機の販売価格について,次の方針を立てて実施した。

5機種の電話機については,機種ごとに販売価格を表示する場合の最低価格(以下「下限価格」という。)を定め,代理店等に対してこの価格を下回る価格での価格表示を行わせないことにする。

② 代理店等が,下限価格を下回る価格での価格表示を行った場合は,新製品及び売れ筋商品の出荷を差し控える。

5. 東北セルラーは,前記4の行為により,代理店等にセルラーブランド電話機について,新聞折り込み広告等において販売価格を表示するに当たってはおおむね下限価格以上で価格表示を行うようにさせていた。東北セルラーは,その後,前記4の行為をとりやめた。

法令の適用

「東北セルラーは,東北セルラーが販売するセルラーブランド電話機について,取引先代理店が新聞折り込み広告,新聞広告,店頭等において表示する価格を,また,取引先代理店を通じて,取扱店が新聞折り込み広告,新聞広告,店頭等において表示する価格を,それぞれ制限していたものであり,これらは,取引先代理店の事業活動を不当に拘束する条件を付けて,当該相手方と取引していたものであって,不公正な取引方法(昭和57年公正取引委員会告示第15号)の第13項に該当し,独占禁止法第19条の規定に違反するものである。」

 


 

[事例]

ジェイフォン(株)に対する件

勧告審決平成1594

審決集50369

 独禁法19条 一般指定12

*価格表示に関する制限

 

1. ジェイフォン株式会社(以下「ジェイフォン」という。)は,携帯電話機に係る電気通信役務を提供するとともに,「J-PHONE」の商標を付した携帯電話機(以下「ジェイフォンブランド携帯電話機」という。)を販売する。

2. ジェイフォンは,携帯電話機の製造業者にジェイフォンブランド携帯電話機の製造を委託している。ジェイフォンブランド携帯電話機のほとんどは,取引先代理店に販売され,取引先代理店又は取引先代理店から仕入れて小売販売を行う販売店(以下「取次店」という。)を通じて一般消費者に販売されている。

3.  ジェイフォンブランド携帯電話機のうちカメラ付き携帯電話機は,先発ブランドとして有力な地位を占め,一般消費者に高い知名度を有し,これを指名して購入する一般消費者が多いために,携帯電話機の小売業者としてはこれを取り扱うことが営業上有利とされている。

4. ジェイフォンは,ジェイフォンブランド携帯電話機の販売に関し,参考価格又は想定価格と称する価格(以下「参考価格」という。)を定め,これに基づいて取引先代理店に対する仕切価格及び手数料を設定している。

5. ジェイフォンブランド携帯電話機については,取引先代理店及び取次店が店頭又はチラシ広告において表示した価格(以下「表示価格」という。)が引き上げられると,実際の小売価格が上昇する傾向がある

6.ジェイフォンは,関東甲信地区において,ジェイフォン主力製品の小売価格の水準を引き上げて取引先代理店の利益を確保するという方針を定め,このために表示価格を参考価格で表示させることとし,この遵守を取引先代理店及び取引先取次店に対して要請した。ジェイフォンは,取引先代理店に対して,前記6の要請に応じない場合には出荷制限等も辞さない旨を伝えるなどしてこれに従わせた。

7. ジェイフォンの前記要請を受けた取引先代理店及び取次店は,参考価格が表示価格とされるようになれば小売価格の維持が図られることから,おおむね,当該要請を受け入れ,店頭又はチラシ広告における価格を参考価格により表示していた。その後,ジェイフォンは前記6の行為をとりやめた。

 

法令の適用

「ジェイフォンは,新たに携帯電話機に係る電気通信役務の契約を締結する一般消費者に対するジェイフォン主力製品の関東甲信地区における販売に関して,取引先代理店及び取次店が店頭又はチラシ広告において表示する価格を制限していたものであり,これは,取引先代理店の事業活動を不当に拘束する条件を付けて,取引先代理店と取引していたものであって,不公正な取引方法(昭和57年公正取引委員会告示第15号)の第13項に該当し,独占禁止法第19条の規定に違反するものである。」

 


 

[事例]

ヤマハ東京(株)に対する件

勧告審決平成3725

審決集3865

独禁法19条 一般指定12

*価格表示に関する制限

 

1. ヤマハ東京株式会社(以下「ヤマハ東京」という。)は,わが国における原動機付自転車及び自動2輪車(以下「モーターサイクル」という。)の有力な製造業者であるヤマハ発動機株式会社(以下「ヤマハ発動機」という。)が製造するモーターサイクル等の卸売業を営む者であり,茨城県,栃木県,群馬県,埼玉県,千葉県,東京都,神奈川県,新潟県,山梨県及び長野県の地域(以下これらの地域を「関東甲信越地区」という。)を主たる販売地区としている。

2. ヤマハ東京は,ヤマハ発動機が関東甲信越地区で供給するモーターサイクルのほとんどすべてを,直接又は卸売業者を通じて小売業者に販売している。

3. ヤマハ東京は,ヤマハ発動機が昭和615月から平成元年3月にかけて発売したスポーツタイプのモーターサイクルについて,売行きの不振,新型車の発売に伴う旧型車の滞留により流通段階で生じた在庫車(以下「滞留在庫車」という。)を多量に抱えることになった。

4. そこで,ヤマハ東京は,前記モーターサイクルの販売促進を図るため,①小売市場における実勢販売価格(以下「実勢小売価格」という。)の低下に対応して,小売業者に対する販売仕切価格を引き下げるとともに,②実勢小売価格を参考にして小売業者の販売価格の目安となる価格(以下「小売目安価格」という。)を順次定め,③小売業者に対しては,車種ごとに,店頭ビラ,チラシ及びモーターサイクルの専門雑誌(以下「専門雑誌」という。)による広告において当該小売目安価格を下回る価格表示を行わないことなどを指示し,④卸売業者に対しては,その取引先小売業者に③の指示を遵守させることにした。

5. 前記4②-④の方針は,滞留在庫車については,広告による価格表示がその実勢小売価格の形成に大きな影響力を有しているところ,一部の小売業者が前記媒体による広告において実勢小売価格を下回る価格表示を行い,このために実勢小売価格が更に低落し,他の小売業者の販売意欲が損なわれ,そのために滞留在庫車の円滑な処分を一層困難にすることが懸念されたために講じられたものであった。

6. ヤマハ東京は,指示に従わない小売業者に対して,直接又は取引先卸売業者を通じて,これらの指示を遵守するよう注意し,必要な是正措置を講じさせている。

7. 公取委が本件について審査を開始したところ,ヤマハ東京は,前記4の行為をとりやめた。

法令の適用

ヤマハ東京は,同社の販売するモーターサイクルの滞留在庫車について,直接又は卸売業者を通じて,小売業者が行う広告での価格表示を制限しているものであり,これは,小売業者及び卸売業者の事業活動を不当に拘束する条件をつけて,当該相手方と取引しているものであって,不公正な取引方法(昭和57年公正取引委員会告示第15号)の第13項に該当し,独占禁止法第19条の規定に違反するものである。

 


 

[事例]

大分大山町農業協同組合に対する件

排除措置命令平成211210

審決集56巻第二分冊79

 独禁法19条 一般指定12

*取引先制限

 

1. 大分大山町農業協同組合(以下「大山農協」という。)は,大分県日田市大山町(以下「大山町」という。)及び同市前津江町赤石の区域において農業を営む者等を組合員として,農業協同組合法に基づき設立された農業協同組合である(組合員数合計879名(平成213月末日現在))。

2. 大山農協は,「木の花ガルテン」と称する農産物直売所(以下「木の花ガルテン」という。)を8店舗(以下「木の花ガルテン8店舗」という。)設けて運営している。大山農協は,木の花ガルテンに出荷された直売用農産物の販売を受託し,「出荷手数料」と称して,出荷販売された直売用農産物の販売金額の22パーセントに相当する額を出荷した者から収受している。

3. 直売用農産物を木の花ガルテンに出荷することを希望する者は,大山農協に登録を行う必要がある。この登録を行っている者(以下「木の花ガルテンの出荷登録者」という。)は,約3400名である。このうちの大部分は,大山農協の組合員以外の者である。

4.  農産物に対する安全・安心志向の高まり等を受け,農産物直売所の数は全国的に年々増加し,農産物直売所において取り扱われる直売用農産物の販売金額も年々増加している。

5. 主に日田市内で生産された直売用農産物を取り扱う日田市内の農産物直売所には,大山農協が運営する2店のほか, 6店舗があった(うち1店舗は,株式会社おおやま夢工房が運営する。)(以下,これら計8店舗を「既存農産物直売所8店舗」という。)。

6. 平成21416日には,株式会社元氣家(以下「元氣家」という。)が運営する1店舗(「日田天領水の里元氣の駅」と称する。以下「元氣の駅」という。)が営業を開始した。

7. 既存農産物直売所8店舗の中で最も販売金額の大きな店舗は木の花ガルテン大山店であり,その販売金額は約47587万円である(平成20年度)。大山農協が運営する2店における直売用農産物の販売金額の合計は,既存農産物直売所8店舗における直売用農産物の総販売金額の過半を占めていた(平成20年度)。

8. 既存農産物直売所8店舗及び元氣の駅の9店舗(以下「9店舗」という。)においては,直売用農産物を多種類にわたってそろえることが重要である。

9. 前記8の直売用農産物には,梅干し等の地元の特産品であって青果市場には供給されていないため,9店舗でしか購入できないものがある。

10. 木の花ガルテン大山店,株式会社おおやま夢工房が運営する1店舗及び元氣の駅の3店舗は,インターチェンジから続く国道沿いに位置していることから観光客や自家用車で来店する一般消費者が多い。

11. 日田市に所在する農産物直売所に直売用農産物を出荷することが可能な者のほとんどが木の花ガルテンの出荷登録者となっている。

12.木の花ガルテンは知名度が高くブランド力が強いことなどから他の農産物直売所に比して集客力があり,かつ,木の花ガルテン大山店等の集荷場に直売用農産物を搬入すれば木の花ガルテン・8店舗に当該直売用農産物が配送されることになり販売機会が多くなるために,登録出荷者は木の花ガルテンとの取引から安定した収入が見込むことができる。このために,木の花ガルテンの出荷登録者の多くにとって,木の花ガルテンは直売用農産物の重要な出荷先となっている。

13.  直売用農産物を元氣の駅に出荷することを希望する者は,「元氣の会」と称する組織の会員(以下「元氣の会の会員」という。)にならなければならない。元氣家は,元氣の会の会員からの直売用農産物の販売を受託し,「販売手数料」と称して,出荷販売された直売用農産物の販売金額の15パーセントに相当する額を元気の会の会員から収受することとしている。

14. 大山農協は,かねてから,木の花ガルテンの出荷登録者に木の花ガルテンと競合する農産物直売所に直売用農産物を出荷しないようにさせる方針を有して実施してきた。

15.平成213月中旬ころ,大山農協は,「元氣の駅が営業を開始すれば,木の花ガルテン8店舗の中で最も収益を上げている木の花ガルテン大山店の販売金額が25パーセント程度減少すると予想し,その結果,大山農協の木の花ガルテンに係る経済事業全体の運営に支障を来すおそれが生じる」と懸念した。大山農協の調査によれば,木の花ガルテンの出荷登録者中,元氣の会の会員にもなった者(以下「双方出荷登録者」という。)の数は,40名程度存在していた。

16. 前記懸念に対する方策として,大山農協は,①双方出荷登録者に対し,元氣の駅に直売用農産物を出荷しないようにさせること,②その手段として,双方出荷登録者に対し,元氣の駅に直売用農産物を出荷した場合には木の花ガルテンへの直売用農産物の出荷を取りやめるよう申し入れることを基本方針として採用し(平成2141日決定),周知をはかり,前記②の申入を行なうことなどにより実施した。また,大山農協は,③「双方出荷登録者」が木の花ガルテンに出荷した直売用農産物を,木の花ガルテン各店舗において人目に付かない売場に移すなどの制裁措置を講ずることとし,このとおり実施した。さらに,大山農協は,④双方出荷登録者であって元氣の駅に直売用農産物を出荷していた大山農協組合員等について,大山農協からの除名処分とすることを検討している。

17. これら大山農協の行為により,前記・双方出荷登録者40名程度のうち,① 19名が元氣の駅に直売用農産物を出荷することを取りやめ(大山町の特産品である梅干しを元氣の駅に出荷しようとしていた5名中4名による出荷取りやめを含む),②2名がこれまで継続して行ってきた木の花ガルテンへの直売用農産物の出荷を取りやめた。

18. これら大山農協の行為により,元氣家は,元氣の駅を運営するために必要な量の直売用農産物を確保することが困難な状態となっており,近隣の青果市場を通じて直売用農産物でない農産物を仕入れざるを得なくなり,更には大山町の特産品である梅干しを目玉商品とする催事を中止せざるを得なくなるなど,元氣の駅の運営に支障を来している。

 

法令の適用

前記事実によれば,大山農協は,本件基本方針に基づき双方出荷登録者に対して元氣の駅に直売用農産物を出荷した場合には木の花ガルテンへの直売用農産物の出荷を取りやめるよう申し入れるとともに,木の花ガルテンの出荷登録者に対して本件基本方針を周知すること等により,木の花ガルテンの出荷登録者に対し,元氣の駅に直売用農産物を出荷しないようにさせており,これは,木の花ガルテンの出荷登録者の事業活動を不当に拘束する条件を付けて,木の花ガルテンの出荷登録者と取引しているものであって,不公正な取引方法(昭和57年公正取引委員会告示第15号)の第13項に該当し,独占禁止法第19条の規定に違反するものである。

主文

1 大分大山町農業協同組合は,自らが農産物直売所(別紙1記載の施設をいう。以下主文において同じ。)として運営する「木の花ガルテン」と称する施設(以下主文において「木の花ガルテン」という。)に直売用農産物(別紙2記載の農産物及び農産物加工品をいう。以下主文において同じ。)を出荷するために同組合に登録を行っている農業者(以下主文において「木の花ガルテンの出荷登録者」という。)に対し,株式会社元氣家が運営する「日田天領水の里元氣の駅」と称する農産物直売所(以下主文において「元氣の駅」という。)に直売用農産物を出荷しないようにさせている行為を取りやめなければならない。

2 大分大山町農業協同組合は,前項の行為を取りやめる旨及び今後,自らが運営する農産物直売所に直売用農産物を出荷する農業者に対し,自らが運営する農産物直売所以外の農産物直売所に直売用農産物を出荷しないようにさせる行為を行わない旨を,理事会において決議しなければならない。」(主文・以下略)

 


 

[事例]

オールドパー(株)に対する件

勧告審決昭和53418

審決集251

独禁法19条 一般指定12

*取引先制限

 

1. オールドパー株式会社 (以下「オールドパー社」という。)は,英国に本店を置くマクドナルド・グリーンリース・リミテッド (以下「マクドナルド社」という。)との間で,マクドナルド社が製造するオールドパーほか4銘柄のウィスキーについて,輸入総代理店契約を締結した。

2. オールドパーは,いわゆるハイクラス・スコッチウイスキーとして高い評価を受けている。我が国におけるオールドパーの販売量は,同種製品中第2位を占めている。

3. オールドパー社は,オールドパーを日本リカー株式会社ほか7名の特約店に販売している。

4. 特約店は,オールドパー社から購入したオールドパーのほとんどすべてを二次卸売業者又は小売業者に販売している。

5. オールドパー社は,特約店を集めて会合を開き,オールドパーの並行輸入量の増加に対処し,同社が販売するオールドパーの価格及びオールドパーの小売価格を維持するため,特約店に対して次の指示を行った。

特約店は,並行輸入されたオールドパーを取り扱っている販売業者には,オールドパーを納入しないこと

特約店は,並行輸入されたオールドパーを取り扱っている販売業者にオールドパーを供給する者に,オールドパーを納入しないこと

特約店は,オールドパー社が定めた標準小売価格を著しく下回って販売する小売業者には,オールドパーを納入しないこと

特約店は,オールドパー社が定めた標準小売価格を著しく下回って販売する小売業者にオールドパーを供給する者に,オールドパーを納入しないこと

6. オールドパー社は,前記②・④「並行輸入されたオールドパーを取り扱っている販売業者」ないし「オールドパー社が定めた標準小売価格を著しく下回って販売する小売業者にオールドパーを供給する者」として合計10社を指名した。

7. オールドパー社は,オールドパーの紙箱に特約店別の番号を記入し,オールドパーの容器に特約店別に定めた色で印を付し,小売業者が購入先を記入して返送するためのはがきを封入すること等により,流通状況を調査した。

8. オールドパー社は,前記指示に反した特約店に対して,出荷を停止し,小売業者から買い戻させる等の措置を講じた。

9. 公取委が本件について審査を開始したところ,オールドパー社は,指示の撤回等をすることを特約店に通知した。

 

法令の適用

「オールドパー社は,オールドパーの販売について,正当な理由がないのに,特約店とこれから供給を受ける二次卸売業者及び小売業者との取引を拘束する条件をつけて,特約店と取引していたものであり,これは,不公正な取引方法(昭和28年公正取引委員会告示第11号)の8に該当し,独占禁止法第19条の規定に違反するものである。」

 


 

[事例]

姫路市管工事業協同組合に対する件

勧告審決平成12510

審決集47263

 独禁法19条 一般指定12

*協同組合による取引先制限

 

1. 姫路市管工事業協同組合(以下「姫路協組」という。)は,兵庫県姫路市内において管工事業を営む姫路市水道局が指定した給水装置工事事業者を組合員として,中小企業等協同組合法に基づいて設立された事業協同組合であり,給水装置工事用資材等の共同購入,道路漏水修理工事等の共同受注,官公庁への申請及び届出の業務代行等の経済事業その他の事業を行っている。

2. 姫路協組の組合員の数は,平成122月末日現在,83名であり,右地区内における姫路協組の非組合員の数は92名である。組合員は同地区内における給水装置工事のほとんどすべてを受注している。

3. 姫路市水道局は,姫路市給水条例に基づき給水装置工事事業者を指定し,当該指定工事事業者(以下「指定工事業者」という。)のみに,前記地区内における給水装置工事の施工を認めている。

4.  姫路市水道局は,指定工事業者に対し,同水道局が給水装置工事用資材として指定する資材(以下「指定資材」という。)の使用を事実上義務付けている。

5. 姫路協組は,指定資材のうち共同購入の対象としている資材(以下「分譲資材」という。)を組合員及び非組合員が注文の都度指定する給水装置工事用資材の販売業者から購入し,組合員及び非組合員に供給しており,これは,組合員及び非組合員が使用する指定資材の大部分を占めている。

6. 指定資材のほとんどすべては,給水装置工事用資材の販売業者(以下「資材販売業者」という。)である東神工業株式会社ほか7社(以下「8社」という。)により,姫路協組を通じて又は直接,指定工事業者に供給されている。

7. 姫路協組は,分譲資材のすべてを8社中の東神工業株式会社及び安田株式会社の2社(以下「2社」という。)から共同購入して組合員に供給することとした。しかし,その後,組合員が2社以外の資材販売業者から分譲資材を購入している(いわゆる「抜け駆け」が行なわれている)可能性があることが明らかとなった。そこで姫路協組は,分譲資材の共同購入事業を維持し,同事業に係る手数料収入を確保するため,①購入先資材販売業者を2社から8社に拡大するとともに,②8社に対し,分譲資材を組合員及び非組合員に直接販売しないようにさせ,③さらに,8社に対して,分譲資材と同一規格であって製造業者が異なる類似品と称する指定資材(以下「類似品」という。)を組合員及び非組合員に販売しないようにさせることとした。8社は,前記②及び③を内容とする要請を姫路協組から受けて,これを了承した。

8. 姫路協組は,これら行為により,8社に対し,分譲資材を組合員及び非組合員に直接販売しないようにさせ,また,類似品を組合員及び非組合員に販売しないようにさせている。

法令の適用

姫路協組は,分譲資材を8社から購入するに当たり,8社に対し,分譲資材を組合員及び非組合員に直接販売しないようにさせ,また,類似品を組合員及び非組合員に販売しないようにさせているものであり,これらは,8社の事業活動を不当に拘束する条件をつけて8社と取引しているものであって,不公正な取引方法(昭和57年公正取引委員会告示第15号)の第13項に該当し,独占禁止法第19条の規定に違反するものである。

 

 


 

[事例]

鳥取中央農業協同組合に対する件

勧告審決平成1139

審決集45197

独禁法19条 一般指定12

*協同組合による取引先制限

 

1. 鳥取中央農業協同組合(以下「鳥取中央農協」という。)は,鳥取県倉吉市及び東伯郡のうち東伯町を除く8町村内において農業を営む者等を組合員(18,657名。これは右地区内において農業を営む者のほとんどすべてにあたる。)として,農業協同組合法に基づき設立された農業協同組合であって,組合員に対する農薬,肥料,各種ビニール等の農業用生産資材(以下「農業用生産資材」という。)の供給その他の経済事業等を行っている。

2. 鳥取中央農協は,前記地区内の9市町村においてそれぞれ経済事業等を行っていた農業協同組合(以下「9農業協同組合」という。)の合併によって設立された。

3.  鳥取中央農協は,前記地区内において,組合員が購入する農業用生産資材の大部分を供給している。

4. 鳥取中央農協は,従来9農業協同組合に農業用生産資材を販売していた販売業者との間で農業用生産資材の取引を開始するにあたり,組合員の農業用生産資材の購入数量に占める自己の供給比率を引き上げ,手数料収入の増加を図る等のため,9農業協同組合に対する農業用生産資材の販売額の多い主要販売業者1516社に対して,以下の要請を行い,これら販売業者らと以下の内容を含む契約を締結するなどして実施させている。

①販売業者は,農業用生産資材を組合員に直接販売しない。

②販売業者は,農業用生産資材について,組合員から購入の申込みを受けた場合は,鳥取中央農協に当該農業用生産資材を販売したとの帳票類を作成することにより,鳥取中央農協が同組合員に供給したこととする。

③販売業者は,組合員向けに農業用生産資材のチラシ広告等を配布するときは,事前に鳥取中央農協に相談し,了解を得る。

④販売業者は,農業用生産資材について,組合員向けにチラシ広告等を独自に配布しない。

⑤また,鳥取中央農協は,これら販売業者のチラシ広告等に記載する農業用生産資材の販売価格が自己の供給価格より低いときは,自己の供給価格と同一となるよう表示価格を引き上げさせている。

5. 鳥取中央農協は,前記要請及び契約に基づき,16社に対し,おおむね農業用生産資材を組合員に直接販売しないようにさせており,また,16社が組合員向けに農業用生産資材のチラシ広告等を配布する場合は,鳥取中央農協に事前に了解を得るようにさせ,同チラシ広告等に記載する農業用生産資材の販売価格が自己の供給価格より低いときは,自己の供給価格と同一となるよう表示価格を引き上げさせている。

 

法令の適用

鳥取中央農協は,農業用生産資材を16社から購入するに当たり,16社が農業用生産資材を組合員に直接販売しないようにさせ,及び16社が組合員に配布する農業用生産資材のチラシ広告等に自己の供給価格より低い価格を表示しないようにさせており,これらは,16社と組合員との取引その他16社の事業活動を不当に拘束する条件を付けて16社と取引しているものであって,不公正な取引方法(昭和57年公正取引委員会告示第15号)の第13項に該当し,独占禁止法第19条の規定に違反するものである。

 


 

[事例]

山口県経済農業協同組合連合会に対する件

勧告審決平成986

審決集44248

 独禁法19条 一般指定12

*協同組合による取引先制限

 

1. 山口県経済農業協同組合連合会(以下「山口県経済連」という。)は,山口県内の農業協同組合(以下「会員農協」という。)22名を会員とする。

2. 山口県経済連は,会員農協に対して農薬及び肥料を供給する事業を行っている。この事業は,全国農業協同組合連合会が全国規模で行っている購買事業の一環として行われている。

3. 山口県経済連は,会員農協が仕入れる農薬及び肥料の大部分を供給している。

4. 会員農協は,農家が購入する農薬及び肥料の大部分を供給している。

5. 山口県経済連は,会員農協の農薬及び肥料に対する需要を自己に集約するために,会員農協に対する情報提供及び奨励金支給等の施策を講じている。

6. 山口県経済連は,会員農協の仕入高全体に占める自己からの仕入高の比率(以下「経済連利用率」という。)を高めること等を目的として,年度当初に経済連利用率を90パーセント以上とする利用計画を策定することなどを奨励金支給の要件として定め,この要件を満たす会員農協に対して奨励金を支給している。この奨励金支給額は,実際に利用した率(達成率)などを考慮して決定されている。また,農薬及び肥料を相互に関連付けて一体的に取り扱う運用を行っている。

7. 会員農協の大部分は,前記奨励金を重要な収益源として位置付けている。

8. 会員農協の大部分は,自らの事業計画に織り込んだ奨励金を計画どおり受給できるようにするために,山口県経済連に提出した農薬及び肥料の利用計画を達成するよう努め,農薬及び肥料について高水準の経済連利用率を維持している。

 

法令の適用

「山口県経済連は,会員農協に農薬及び肥料を供給するに当たり,会員農協とこれに農薬又は肥料を供給する自己の競争者との取引を不当に拘束する条件を付けて会員農協と取引しているものであって,これは,不公正な取引方法(昭和57年公正取引委員会告示第15号)の第13項に該当し,独占禁止法第19条の規定に違反するものである。」

 

 


 

 

[事例]

土佐あき農業協同組合による排除措置命令取消請求事件

東京地方裁判所判決平成31328

審決集

 独禁法19条 一般指定12

*協同組合による取引先制限

東京高等裁判所判決令和11127日公正取引委員会ホームページ,金融・商事判例156713頁,判例時報2433111

 

 

1. 土佐あき農業協同組合(以下「土佐あき農協」という。)は,高知県安芸市,室戸市,安芸郡東洋町,安芸郡奈半利町,安芸郡北川村,安芸郡田野町,安芸郡安田町及び安芸郡芸西村の区域(以下「土佐あき農協管内」という。)の農業者によって組織された農業協同組合法(以下「農協法」という。)に基づく農業協同組合である。土佐あき農協の組合員数は,正組合員と准組合員を合わせて,平成28331日時点で,個人が13523名,法人その他の団体が48団体であった。

2.土佐あき農協は,土佐あき農協が所有する集出荷場に出荷されたなす等の園芸農産物の販売を受託している。

3. 土佐あき農協は,販売を受託したなすの全量について,園芸農産物の販売流通等の事業を行っている高知県園芸農業協同組合連合会(以下「園芸連」という。)に対し,販売を委託している(以下では,土佐あき農協管内で生産されるなすにつき,集出荷場に出荷され土佐あき農協が販売を受託し,土佐あき農協が園芸連に販売を委託することを「系統出荷」ということとする。)。さらに園芸連は,そのなすの販売を全国各地の卸売業者に委託している。

4. 土佐あき農協管内及びその周辺地域においては,土佐あき農協以外にも卸売市場を開設し,なすを集荷,販売する青果卸売業者(以下「商系業者」という。)が3社(以下,3社を併せて「商系三者」という。)存在する。

5. 土佐あき農協管内の農業者は,商系業者になすの販売を委託することができ(以下では,農業者がなすを集出荷場に出荷せず,商系業者に販売を委託することを「系統外出荷」ということとする。),商系業者は,そのなすを自らが開設する卸売市場において仲卸業者等に販売している。

6. 土佐あき農協管内の支部園芸部の大半は,その規約において,支部員が支部園芸部の勧告を無視して系統外出荷を続けた場合には,除名又は出荷停止の処分をすることができる旨定めていた。

7. 土佐あき農協は,集出荷場への出荷以外の方法でなすの販売を受託し,園芸連に販売を再委託することはなかったところ,集出荷場を利用することができるのはおおむね支部員等のみであった。土佐あき農協は,支部員が支部員資格の停止処分を受けた際には,集出荷場を利用することができないようにしていた。こうして土佐あき農協は,支部園芸部から除名又は出荷停止等の処分を受けるなどした者からなすの販売を受託しないこととしていたと認められる。

8. また,安芸支部,穴内支部,赤野支部及び芸西支部では,支部員が商系業者になすを出荷した場合に系統外出荷手数料を徴収することとしていたところ,土佐あき農協の職員が実際に系統外出荷手数料を徴収していた。

9. 穴内支部及び赤野支部では,土佐あき農協の職員が,支部員の年間の系統出荷量が10アール当たり12トン又は11トンに満たない場合に罰金を徴収していた。

10. 上記除名制度,系統外出荷手数料及び罰金の徴収は,系統出荷率を可及的に増加させることを目的としたものであり,土佐あき農協は,なすの販売を委託しようとする組合員(農業者)をして,系統外出荷を理由に除名されるなどした者から委託を受けないという条件,系統外出荷を行った場合に系統外出荷手数料及び罰金を収受するという条件という組合員が土佐あき農協以外の者になすを出荷することを制限する条件を付して,なすの販売受託をしていた。

11. 土佐あき農協管内からのなすの出荷重量は高知県全体のなすの出荷重量の約875%を占めていた。高知県及びその周辺のなす販売受託業者が土佐あき農協管内以外の地域から十分な量のなすの販売受託を受けることは困難であた。生鮮食料品であることから,なすの生産者たる農業者が生産地から遠くの業者に販売を委託することは,考えにくかった。

12. 上記11より,本件行為によって市場閉鎖効果が生じるかを検討するに際には,土佐あき農協管内及びその周辺地域におけるなすの販売受託における市場閉鎖効果につき検討することが相当である。

13. 土佐あき農協管内及びその周辺地域において農業者からなすの販売を受託する事業者は,土佐あき農協及び商系三者であるが,平成244月から平成273月までの間に土佐あき農協が園芸連から支払を受けたなすの販売金額は,同販売金額と商系業者が仲卸業者等に販売したなすの販売金額との合計のうちの4割以上を占めていた。

14. 農業者は,土佐あき農協になすの販売を委託する場合にのみ,土佐あき農協の集出荷場を利用し土佐あき農協の従業員に選果・梱包をしてもらうことができた。加えて,農業者は,土佐あき農協になすの販売を委託する場合にのみ,指定野菜価格安定対策事業に基づく価格差補給金を受領することができた。このため,農業者にとって土佐あき農協は重要な取引先であった。

15. 上記1314より,土佐あき農協はその管内及びその周辺地域におけるなす販売受託の取引市場において特に有力な事業者であった。

16. 土佐あき農協管内には,平成287月末日時点でなす農家が1102名いるところ,そのうち632名がいずれかの支部園芸部の支部員であった。支部員のうち,系統外出荷を理由とする除名等の規定を規約に置いていた支部園芸部(芸西,穴内,安芸(赤野及び穴内を除く。),中芸,芸東)に所属する者は551名,系統外出荷手数料を徴収していた安芸支部,穴内支部,赤野支部又は芸西支部に所属する者は445名,罰金を徴収していた穴内支部又は赤野支部に所属する者は137名であった。

17. 上記16より,本件行為の対象となる取引先事業者の数は相当数に上っていた。加えて,前記のとおり,土佐あき農協のなすの受託販売金額のシェアが4割を超えていることからしても,土佐あき農協管内及びその周辺地域のなす販売受託の取引市場において,本件行為の対象となっている農業者が占める割合は大きく,集荷するなすの大部分を土佐あき農協管内からの集荷に依存していた商系三者にとって,本件行為の対象となっている取引先事業者たる農業者の重要性が高かった。

18. 土佐あき農協管内のなす農家のうち概ね半数は本件行為による拘束を受けていないが,個々のなす農家の収穫量はその所有する農地の面積等による制約を受けることは自明であって,商系業者が,本件行為による拘束を受けていないなす農家に依頼し,増産により出荷量を増やしてもらうなどの方法により,本件行為の拘束を受ける農業者の生産するなすの収穫量に代わる十分な量のなすを集荷し,取引機会を得ることは困難であった。

19. 本件行為に係る条件は,その性質上,農業者に対し,有力な事業者である土佐あき農協へのなす販売受託ができなくなる事態を避けるべく,支部園芸部から除名等の処分を受けないよう,系統外出荷を行わず又は行うとしてもその量を抑制させるものであり,系統外出荷手数料や罰金の制度も,端的に経済的不利益を避けるべく系統外出荷量を抑制させる効果があるものであって,農業者が本来自由に決定すべき取引先の選択を制約するものであった。

20. 高知県内のなすの9割近くという圧倒的多数を生産する土佐あき農協管内のなす農家のうち相当数の者に対し,上記のとおりの性質を有する本件行為による拘束が及んでいたことに加え,商系業者において,本件行為の拘束が及ばないなす農家から,これに代わる十分な量のなすを集荷することは困難と推認することができる。

21. 土佐あき農協の本件行為によって,集荷するなすのほとんどを土佐あき農協管内から集荷している商系業者にとっては,取引機会が減少するような状態がもたらされるおそれが生じ,市場閉鎖効果が生じた。

22. なお,原告の行為がなければ,商系業者へのなすの出荷量は更に増加していたかもしれないのであるから,系統出荷と置き場出荷を合わせた出荷量の割合が低下し,商系業者への出荷量の割合が増加しているからといって,本件行為によっても商系業者の取引機会が減少するおそれがなかったとまでいうことはできない。

23. �「原告は,本件行為について,ブランドイメージの保護を通じた産地間競争の促進や,フリーライドの防止という目的があり,これらは正当な目的であるから,本件行為は正当化されると主張する。
 独禁法が不公正な取引方法を禁止した趣旨は,公正かつ自由な競争を促進することで,一般消費者の利益を確保するとともに,国民経済の民主的で健全な発達を促進すること(独禁法1条参照)にあるから,取引に拘束条件を付すことについて,公正な競争秩序維持ないし一般消費者の利益確保の見地から正当な目的があり,かつその手段においても相当といえる場合には,一般指定12項にいう「不当な」拘束条件に当たらないと解するべきである。
 原告が本件行為の目的の1つとして主張する産地間競争の促進は,公正かつ自由な競争を促進させる効果が認められることもあるから,それ自体として公正な競争秩序維持の見地から正当とされる場合があることを否定することはできない。しかし,公正かつ自由な競争が促進されるためには,各取引段階において公正かつ自由な競争が確保されていることが必要であるというべきであって,産地間競争の促進のための垂直的制限行為によって,産地内競争の減少・消滅等の競争阻害効果が生じる場合があることもまた明らかであることに照らせば,上記原告主張の目的があることのみをもって,土佐あき農協管内又はその周辺地域におけるなすの販売受託の市場における競争を阻害することが正当化されるということはできない。」

24. 「原告は,一部の支部員が,強い農業づくり交付金の出荷計画の達成や,野菜価格安定事業の価格差補給金の産地指定要件である自動選果機の利用目標量ないし系統出荷率の達成に協力しないことをもって,フリーライドと呼称し,それを防止することは正当なことであるから,本件行為も正当化されるなどと主張する。
しかしながら,支部員が自動選果機を利用し,あるいは価格差補給金を受給するためには,系統出荷を行う必要があるから,系統出荷をせずに自動選果機や価格差補給金の恩恵を受けることにはならないというべきである。
また,原告は,集出荷施設の人件費など,出荷量にかかわらず賄う必要がある費用があり,一部の支部員がこれを負担せずに集出荷場を利用するというフリーライドを防止する目的があるとも主張する。しかし,農業者が系統外出荷をする際には,利用料等を負担しないものの,そもそも集出荷場を利用していないのであるから,経費を負担せずに集出荷場を利用するというフリーライドの問題があるとはいえない。そして,系統出荷率が低下すると集出荷場の固定費の捻出に支障が出るというのであれば,固定費の削減に努めたり,系統出荷のメリットを高める等の方法により改善を図るべきであって,集出荷場を利用しない系統外出荷に対して金銭的負担を求めることで系統外出荷を抑制することになる本件行為が,集出荷場の固定費捻出の手段として相当であるとはいえない。」

 


 

 

[参考・審決]

兼松(株)に対する件

勧告審決昭和42116

審決集1455

独禁法第19条 一般指定12項(昭和28年指定8

*取引先制限

 

1. 兼松株式会社(以下「兼松」という。)は,ニチボー株式会社の製造にかかるニチボー毛糸を一手に販売している。

2. 兼松は,国鉄共済組合四国支部(以下「国鉄物資部」という。)がニチボー毛糸を廉価で供給していることについて,四国地区内における手編毛糸販売業者から苦情を受け対策をとることを要望された。

3. 兼松は,四国地区内におけるニチボー毛糸販売業者の参加する会合において,同地区内の卸売業者全員に対して,次の要請を行い,この要請に従うことを条件として卸売業者と取引している。

①国鉄物資部その他の職域団体,生活協同組合等へのニチボー毛糸の納入を行なわないこと

②取引先である手編毛糸販売業者に前記①の納入を行なわせない措置をとること

4. 大阪大同毛糸株式会社は,高知市所在の有限会社木口商会(以下「木口」という。)と取引していたが,木口が国鉄物資部に対するニチボー毛糸の納入を始めたので,兼松の指示にもとづき,木口とのニチボー毛糸の取引を中止している。

 

法の適用

「兼松は,正当な理由がないのに,四国地区内におけるニチボー毛糸の卸売業者と,ニチボー毛糸を,国鉄物資部その他の職域団体,生活協同組合等に納入しないこと,また,その取引先手編毛糸販売業者に国鉄物資部その他の職域団体,生活協同組合等に納入させないことを条件として,取引しているものであり,これは昭和28年公正取引委員会告示第11号不公正な取引方法の8に該当し,私的独占禁止法第19条の規定に違反するものである。」


 

[参考・審決]

(株)北国新聞社に対する件

勧告審決昭和291217

審決集613

独禁法第19条 一般指定12項(昭和28年指定8

*取引先制限

 

1. 株式会社北国新聞社(以下「北国新聞社」という。)は,新聞「北国新聞」を発行・販売する。

2. 「北国新聞」は,石川県地区における各新聞販売部数の約65%,金沢市内におけるその約60%に相当する販売部数を有する。

3. 金沢市内には,映画館(演劇館を含む。)が12ある。

4. 金沢市内の12の映画館が各新聞に掲載する映画広告(演劇広告を含む。)のうち,約70ないし80%が「北国新聞」に掲載されている。

5. 北国新聞は,映画広告収入の増加をはかるとともに,北陸新聞を発行する株式会社北陸新聞社その他の映画広告獲得を排除することにより新聞販売競争を自社に有利に展開させるために,次の措置を講じている。

①金沢市内各映画館の映画広告料を,朝刊11センチ当り300円,夕刊250円とする。

②各映画館について1カ月の基準掲載量を設け,これを上回る分については,他の新聞社と映画広告の取引をしない映画館に限り,映画広告料を,朝刊11センチ当り250円,夕刊200円とする。

6. 北国新聞の前記行為の結果として,従来北陸新聞に掲載していた7映画館(うち,2映画館は北陸新聞社と特殊な関係を有する。)のうち4映画館(前記2映画館以外のものである。)は,北陸新聞における映画広告掲載を中止した。

 

法の適用

「被審人が,正当な理由がないのに,金沢市内の全映画館とこれらに映画広告の掲載という経済上の利益を供給する前記北陸新聞社その他との取引を拘束する条件をつけて,各映画館と取引している行為は,昭和28年公正取引委員会告示第11号の第8に該当し,私的独占禁止法第19条に違反する。」

主文

1,株式会社北国新聞社被審人は,昭和264月末ごろおよび519日付をもつて金沢市内の12映画館(演劇館を含む。)に対してなした映画広告料金に関する申入のうち,他の新聞社と映画広告の取引をしない館に対してのみ一定の割引を行うという条件は直ちに撤回しなければならない。」

 

 


 

[参考・審決]

旭電化工業(株)に対する件

勧告審決平成71013

審決集42163

 独禁法19条 一般指定12

*ノウハウライセンスにおける地域制限

 

1. 旭電化工業株式会社(以下「旭電化」という。)は,エポキシ系可塑剤の製造をオキシラン化学株式会社に委託し,同製品の供給を受けて販売している。旭電化は,平成2101日に,同社が全株式を所有するアデカ・アーガス化学株式会社(以下「アデカ・アーガス」という。)を吸収合併した。

2. 旭電化は,国内におけるエポキシ系可塑剤の販売高において業界第1位を占めている。

3. アデカ・アーガスは,台湾に所在する長春石油化學股ぶん有限公司(以下「長春石油化学」という。)との間に,契約期間を10年とするエポキシ系可塑剤(エポキシ化亜麻仁油を除く。以下同じ。)製造に係るノウハウの供与に関する国際的契約(以下「ライセンス契約」という。)を締結した。

4. この際に,旭電化はアデカ・アーガスとの間で「ライセンス契約終了後,直接又は間接を問わず,アデカ・アーガスによる事前の書面の同意がない限り,長春石油化学はエポキシ系可塑剤の我が国における製造又は販売をしてはならない」と定める規定を含む協定を結んだ。

5. 公取委が本件について審査を開始したところ,旭電化は,長春石油化学の同意を得て,前記4の規定を破棄した。

法令の適用

「旭電化は,エポキシ系可塑剤について,長春石油化学に対し,ライセンス契約終了後における我が国向けの供給を制限していたものであり,これは,ライセンス契約の相手方の事業活動を不当に拘束する条件を付けて,当該相手方と取引していたものであって,不公正な取引方法(昭和57年公正取引委員会告示第15号)の第13項に該当し,独占禁止法第19条の規定に違反するものである。」


 

 

[参考・審決]

オキシラン化学(株)に対する件

勧告審決平成71013

審決集42166

 独禁法19条 一般指定12項[地域制限・ノウハウライセンス](旧一般指定13項)

*ノウハウライセンスにおける地域制限

 

1. オキシラン化学株式会社(以下「オキシラン化学」という。)は,旭電化工業株式会社,大日本インキ化学工業株式会社,新日本理化株式会社及び日本油脂株式会社の4社を株主とし,4社が販売するエポキシ系可塑剤を製造している。

2. オキシラン化学は,国内におけるエポキシ系可塑剤であるエポキシ化亜麻仁油(以下「エルソ」という。)の生産高において業界第1位を占める。

3. オキシラン化学は,台湾に所在する長春石油化學股ぶん有限公司(以下「長春石油化学」という。)との間に,契約期間を10年とするエルソ製造に係るノウハウの供与に関する国際的契約(以下「ライセンス契約」という。)を締結した。

4. この際に,オキシラン化学は,長春石油化学との間で「ライセンス契約終了後,長春石油化学はエルソの我が国における販売又は市場に出すための供給をしてはならない」との取決めを行った。

5. 公取委が本件について審査を開始したところ,旭電化は,長春石油化学の同意を得て,前記4の規定を破棄した。

法令の適用

「オキシラン化学は,エルソについて,長春石油化学に対し,ライセンス契約終了後における我が国向けの供給を制限することとしていたものであり,これは,ライセンス契約の相手方の事業活動を不当に拘束する条件を付けて,当該相手方と取引していたものであって,不公正な取引方法(昭和57年公正取引委員会告示第15号)の第13項に該当し,独占禁止法第19条の規定に違反するものである。」

 


 

[参考・判決]

メディプローラー特許許諾損害賠償等請求事件

大阪地方裁判所判決平成18427

判例時報1958155

独禁法19条 一般指定12

*競合品取扱制限

 

1.  被告(有限会社サンクス製薬)は,原告(株式会社メディオン・リサーチ・ラボラトリーズ)との製造委託契約に基づいて,「メディプローラー」等の商品名の2剤混合の用事調整型CO2含有粘性組成物製剤(以下「本件製品」という。)を製造し,原告に納入していた。

2. 前記1の取引開始に当たって,原告は,製品見本(他社(訴外)に製造させたもの)及びその成分比率を被告に示して,同じものを作るよう依頼した。被告は,その後,原材料のメーカー・番手及び製造方法を選んで約1-2週間をかけて試作品を製造した。原告はこの試作品に納得しなかった。そこで,被告は,原告の指摘により成分の番手を変更するなどして作り直しを行い,本件製品の処方を完成させた。

3. 原告・被告間の契約において,被告は,原告が開発した基本処方及び技術を使用して,本件製品及びその類似物を原告の許可なく製造することが禁じられていた。

4. 被告は,本件製品と成分及び使用方法が類似する製剤(以下「被告製品」という。)を製造して,原告以外の会社に納入した。

5. 原告が,被告が前記契約に違反したとして,被告との契約を解約し,前記契約に基づき被告に対して前記製剤の製造販売の差止め及び損害賠償を求めた。

6. 裁判において,被告は,前記3の拘束について,禁止される類似範囲が過度に広範であり,競業の禁止期間が長すぎるなどとし,原告が独禁法に反する拘束条件付取引及び優越的地位の濫用に該当する行為を行ったなどと主張した。被告は,処方のノウハウの一部は公知のものであったと主張した。また,被告の主張によれば,被告が原告から受注していた製品のうち1の被告の総売上高に占める割合は,59%~95%であった。

 

裁判所の判断

「独占禁止法19条に違反したとしても,その契約が公序良俗に反するとされるような場合は格別として,同条が強行法規であるからとの理由で直ちに無効と解されるものではない。」

拘束条件付取引(一般指定13項)に該当するかについて「本件契約は,元々は無関係にそれぞれ事業をしていた原告と被告が継続的な取引関係に入るに当たって締結された契約であるということができる。」「そうだとすると,継続的取引契約を締結するに当たり,上記ノウハウ(前記被告の試作品での失敗から得られた知識も含む。)や,その後の変更・改良の際に得られるノウハウを守るため,製造者である被告に対し,契約終了後も,一定期間類似商品の製造販売を禁止することは,合理性のあるものであって,独占禁止法19条所定の不公正な取引方法に関わる「相手方の事業活動を不当に拘束する条件」ということはできない。」

本件ジェルの処方にかかるノウハウの完成に被告も関与していたとしても,原告から見本品・成分比率の開示等が行われているのであって,「このノウハウを原告が守ろうとすることを不当とすることはできない。」ノウハウの一部が開示されていたとしても,「原告は,不正競争防止法上の「営業秘密」としての保護を求めるのではなく,契約に基づいてノウハウを守ろうとするのであるから,そのノウハウの一部が若干の者に知られていることは,その契約の妨げとなるものではない。」

優越的地位の濫用にあたるかについて「本件契約締結までの原被告の取引期間,及び原告の資本金額や役員構成等から窺われる事業規模を考慮すると,本件契約の際に,被告が,本件契約の締結を拒否して原告との継続的取引関係に入らないという選択をすることが困難であったとは到底認められないし,原告について独占禁止法19条所定の不公正な取引方法に関わる「原告の取引上の地位が被告に優越していること」といえる状況があったとも認めることはできない。」被告の主張するように「被告が原告から受注していた製品のうち1の被告の総売上高に占める割合」が「59%~95%であった」としても,被告は,原告との取引を開始するまでは全く原告からの受注なしに事業を営んでいたのであり,原告との取引関係を開始するために多額の設備投資をしたとか,従来の取引先との関係を絶ったとか,という事情も認められない本件では」,上記事実は「前記認定を左右するに足りる事情とすることはできない。」

禁止範囲・期間について「被告製品は,原告商品と成分や使用方法までもが大きな相違のない物であり,被告は,これを本件契約継続中から終了後9か月以内に販売しているのであって,このような期間と製品の限度においては,その禁止範囲が広いとか,禁止期間が長いということはできないから,その限度での本件契約第5条の効力を否定することは,到底できない」。

以上より「本件契約第5条による禁止される範囲や期間を公序良俗違反とまでいうこともできない。」

 


 

[参考・判決]

八重山地区生コンクリート工業組合による約束手形金請求,過怠金請求事件

那覇地方裁判所石垣支部判決平成9530

判例時報1644149

独禁法19条 一般指定12項 ほか

独禁法22

*協同組合による直接取引禁止(専用義務)

 

1. 原告(八重山地区生コンクリート協同組合)は,組合員の取り扱う生コンクリートの共同販売,共同受注等の事業を行うことを目的として,中小企業等協同組合法に基いて設立された協同組合である。

2. 被告(八重山生コン工業株式会社)は,原告の設立当初からの組合員であり,下記3の規約制定時には原告理事として理事会に参加していた。

3. 原告の規約には,組合員が原告を通さずに販売したときは,原告は,組合員に対して1立方メートル当たり1万円の過怠金を課すことができる旨の規定があった。

4. また,原告の定款には,「組合員はあらかじめ組合に通知した上で,事業年度の終わり(毎年331日)において脱退することができる」との規定があった。

5. 被告は原告に対し,平成61013日付け書面で,原告を脱退する旨を通知した。

6. 被告は,その後,原告を介する共同販売によることなく,取引先との間で生コンクリートの売買契約を締結して,生コンクリートを販売した(以下「直接取引」という。)。

7. 原告は,被告に対して,①定款の規定(前記3)により,被告の脱退の効力は平成7331日までは認められないこと,②直接取引を継続すると,原告の規約に基づいて課せられる過怠金(前記3)の額が莫大となること,③直接取引を中止されたいことを内容とする書面を送付した。

8. 被告はその後も直接取引を継続した。

9. 原告は,平成723日及び平成738日に,過怠金の額を決定した。また,原告は平成738日に原告を除名し,原告は同日に原告組合員の地位を失った。

10. 被告は原告に対して過怠金の担保として保証手形(満期及び振出日白地のもの)を振り出しており,原告は前記9の後に白地補充して取立てに回した。ところが,この手形は不渡り返却された。そこで,原告は,手形金等を支払うよう請求した。

11. 被告は,原告が組合員が製造する生コンクリートの全量を原告を経由して共同販売することを取り決め,その違反者に対して過怠金を課すことは独禁法違反であり,過怠金にかかる規定は公序良俗に反し無効であると主張した。

裁判所の判断

本件過怠金の定めが公序良俗に反するかどうかについて,「未上程物件の納入や割当物件の侵害が放置されると,値崩れや過当競争の危険があるほか,原告の取り扱う共同販売が利益率の低い案件ばかりとなってしまうことが予想されること,本件過怠金はこのような観点から原告の共同販売事業の実効性を確保することを目的として定められており,その金額についても違反行為に対する制裁としての機能を十分果たすことが期待されていること,生コンクリートの1立方メートル当たりの販売単価は通常2万円余りであり,同単価1万円の過怠金を課された場合,採算の確保は無理だとしても,制裁としての効果を期待する以上,著しく過酷とまではいえないこと,右過怠金額の定めは,被告代表者自身も原告の理事として出席した理事会において可決承認されていること,原告は被告に対し違反行為を継続すると過怠金が莫大となることをあらかじめ警告していたこと等の事情が認められ,以上を総合すれば,本件過怠金の定め及びその適用が公序良俗に反するとは認められない。」

独禁法違反かどうかについて,原告は「同法24条所定のいわゆる適格組合であ」り,「原告は原則として同法の適用除外を受けることができるところ,同条ただし書の例外事由に該当するかどうか検討する。」「まず,本件制裁規定は,組合員に対し,その主要な取扱商品である生コンクリートの全量について共同販売を行わせることを事実上強制するものにほかならず,このため,本件制裁規定は公正競争阻害性を帯び「不公正な取引方法」一般指定13項の「拘束条件付取引」に該当するのではないかとの疑問もある。しかし,共同販売の実効性を確保する上で本件制裁規定を設けることにやむを得ない事情があることは右1で述べたとおりであり,その内容自体ただちに不合理ということはできない。すなわち,有効な競争単位となりえない中小業者による連合体としての組合の内部での過当な競争を回避し,共同販売事業の実効性を確保することは不可欠であり,これをもって公正な競争を阻害するということは相当でない。また,共同販売の強制といっても,あくまでも自由脱退(原告定款12条)を前提とするものである以上,競争力に自信のある組合員業者は脱退の上組合と公正な競争を行うことはいつでも可能であり,むしろそのような棲み分けを通じて公正な競争を図ることが期待されているともいえる。以上を総合すると,本件制裁規定が共同販売を事実上強制するものであるとしても,不公正な取引方法とまでは認めることができない。」

「次に,原告代表者本人及び弁論の全趣旨によれば,原告は被告が脱退するまで石垣島内において生コンクリートの出荷シェアは原告がほぼ独占していたことが認められ,「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」結果となっていたことは否定できない。しかし「不当な対価の引上げ」の要件については,現実にそのような対価の引上げがなされたとも,その具体的な危険があるとも認めるに足りる証拠はなく,結局,独禁法24条ただし書所定の同法適用除外の例外事由を認めることはできない。」「よって,独禁法違反の被告の主張も理由がない。」


 

 

優越的地位の濫用

 

[事例]

(株)山陽マルナカに対する件

審決平成31220

公正取引委員会ホームページ

独禁法19条 295号イ-ハ

 

 「独占禁止法第19条において,自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して,正常な商慣習に照らして不当に同法第2条第9項第5号に該当する行為をすることが不公正な取引方法の一つとして規制されているのは,自己の取引上の地位が相手方に優越している一方の当事者が,相手方に対し,その地位を利用して,正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることは,相手方の自由かつ自主的な判断による取引を阻害するとともに,相手方はその競争者との関係において競争上不利となる一方で,行為者はその競争者との関係において競争上有利となるおそれがあり,このような行為は公正な競争を阻害するおそれ(公正競争阻害性)があるといえるからである。

 公正競争阻害性については,①行為者が多数の相手方に対して組織的に不利益を与えているか,②特定の相手方に対してしか不利益を与えていないときであっても,その不利益の程度が強い又はその行為を放置すれば他に波及するおそれがあるかなど問題となる不利益の程度,行為の広がり等を考慮して判断することになる。」

 

優越的地位の濫用の判断基準

「甲が乙に対し,取引上の地位が優越しているというためには,甲が市場支配的な地位又はそれに準ずる絶対的に優越した地位にある必要はなく,乙との関係で相対的に優越した地位にあれば足りると解される。また,甲が乙に対して優越した地位にあるとは,乙にとって甲との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すため,甲が乙にとって著しく不利益な要請等を行っても,乙がこれを受け入れざるを得ないような場合をいうと解される。

 この判断に当たって,乙の甲に対する取引依存度が大きい場合には,乙は甲と取引を行う必要性が高くなるため,乙にとって甲との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すことになりやすく,甲の市場におけるシェアが大きい場合又はその順位が高い場合には,甲と取引することで乙の取引数量や取引額の増加が期待でき,乙は甲と取引を行う必要性が高くなるため,乙にとって甲との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すことになりやすく,乙が他の事業者との取引を開始若しくは拡大することが困難である場合又は甲との取引に関連して多額の投資を行っている場合には,乙は甲と取引を行う必要性が高くなるため,乙にとって甲との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すことになりやすく,また,甲との取引の額が大きい,甲の事業規模が拡大している,甲と取引することで乙の取り扱う商品又は役務の信用が向上する,又は甲の事業規模が乙のそれよりも著しく大きい場合には,乙は甲と取引を行う必要性が高くなるため,乙にとって甲との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すことになりやすいものといえる。

 なお,甲が乙に対して,取引上の地位が優越しているかどうかは,上記の事情を総合的に考慮して判断するので,大企業と中小企業との取引だけでなく,大企業同士,中小企業同士の取引においても,取引の一方当事者が他方当事者に対し,取引上の地位が優越していると認められる場合がある。また,事業全体の経営に大きな支障を来せば,通常,「事業経営上大きな支障を来す」こととなるが,特定の事業部門や営業拠点など特定の事業の経営のみに大きな支障を来す場合であっても,当該特定の事業が当該事業者の経営全体の中で相対的に重要なものである場合などには,「事業経営上大きな支障を来す」ことがあり得る。

 また,独占禁止法第2条第9項第5号イないしハが規定する①継続して取引する相手方に対して当該取引に係る商品又は役務以外の商品又は役務を購入させる行為,②継続して取引する相手方に対して自己のために金銭,役務その他の経済上の利益の提供をさせる行為,③取引の相手方からの取引に係る商品の受領を拒む行為,④取引の相手方から取引に係る商品を受領した後当該商品を当該取引の相手方に引き取らせる行為,⑤取引の相手方に対して取引の対価の支払を遅らせる行為,⑥取引の相手方に対して取引の対価の額を減じる行為,⑦上記③ないし⑥のほか,取引の相手方に不利益となるように取引の条件を設定し,若しくは変更し,又は取引を実施する行為(以下,①ないし⑦を「不利益行為」という。)を甲が行い,乙がこれを受け入れている事実が認められる場合,これを受け入れるに至った経緯や態様によっては,それ自体,甲が乙にとって著しく不利益な要請等を行っても,乙がこれを受け入れざるを得ないような場合にあったことをうかがわせる重要な要素となり得るものというべきである。なぜなら,取引関係にある当事者間の取引を巡る具体的な経緯や態様には,当事者間の相対的な力関係が如実に反映されるからである。

 したがって,甲が乙に対して優越した地位にあるといえるか否かについては,①乙の甲に対する取引依存度,②甲の市場における地位,③乙にとっての取引先変更の可能性,④その他甲と取引することの必要性,重要性を示す具体的事実のほか,乙が甲による不利益行為を受け入れている事実が認められる場合,これを受け入れるに至った経緯や態様等を総合的に考慮して,乙にとって甲との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すため,甲が乙にとって著しく不利益な要請等を行っても,乙がこれを受け入れざるを得ないような場合であるかを判断するのが相当である。

 そして,甲が乙に対して優越的な地位にあると認められる場合には,甲が乙に不利益行為を行えば,通常は,甲は自己の取引上の地位が乙に対して優越していることを利用してこれを行ったものと認められ,このような場合,乙は自由かつ自主的な判断に基づいて不利益行為を受け入れたとはいえず,甲は正常な商慣習に照らして不当に独占禁止法第2条第9項第5号所定の行為を行っていたものと認めるのが相当である。」

[優越的地位]

 「被審人の年間総売上高は,平成203月期から平成223月期までの各年度において,いずれも1200億円台で推移しており,岡山県の区域に本店を置く各種商品小売業に係る事業者の中で第1位であった。

 また,被審人は,岡山県内の食品スーパーの中で,平成19年度から平成21年度までの各年度における食品販売高のシェアの19パーセント前後を占める大手の事業者であり,平成20年における同県の区域内の売場面積及び店舗数も,同県に店舗を有する小売業者のうち第1位で,年間売上高,シェア,売場面積及び店舗数のいずれにおいても第2位の事業者を大きく上回っていた。

 さらに,・・・平成19年から平成22年頃にかけて,被審人は,年に2店舗程度のペースで新規店舗を開設するなど,事業を急速に拡大する勢いを見せており,消費者に人気のある小売業者であったことが認められる。

 これらの事実によれば,被審人は,岡山県の区域内において食料品等の小売業を営む事業者として有力な地位にあったと認められる。

 そうすると,岡山県を営業区域とする食料品等の製造業者及び卸売業者は,被審人と継続的に取引を行うことで,被審人を通じて,同県の区域内の消費者に幅広く自社の取扱商品を供給することができ,同区域内において多額かつ安定した売上高を見込むことができることになるから,一般的にいえば,被審人と取引することの必要性及び重要性は高いと評価することができる。」

「納入業者甲らについては,前記・・・の事実に加え,・・・取引依存度における被審人の順位が高いこと等の事実を考慮すれば,[甲ら]にとって,被審人との取引の継続が困難になることは事業経営上大きな支障を来すものとうかがわれる。

 すなわち,納入業者にとっては,それぞれの取引先に対する売上高を常に一定水準に維持できるという保証はないところ,前記・・・の状況に照らし,被審人は,納入業者にとって安定的な取引を期待できる取引先ということができる。このような被審人に対して,取引先別の取引依存度の順位が高いということ(端的に,取引先別の売上高の順位が高いと言い換えてもよい。)は,当該納入業者にとって,被審人は,数ある取引先の中でも比較的高水準の売上高を安定的に確保できる取引先であって,継続的な事業戦略上,重視すべき有力な取引先の一つということができる。このような納入業者にしてみれば,被審人との取引の継続が困難となることは,取引依存度が大きい取引先を失った場合のように直ちに事業経営上大きな支障を来すということはないとしても,取引チャネルの選択や販売戦略の再構築といった事業方針の転換を迫られるなど,その後の事業経営に大きな支障を来す要因となり得るものである。」

 「そして,[甲ら]についても,・・・被審人による不利益行為を受け入れていた事実が認められるところ,・・・[甲ら]がこれら不利益行為を受け入れるに至った経緯や態様からすれば,[甲ら]は,被審人が著しく不利益な要請等を行っても,これを受け入れざるを得ないような場合にあったことがうかがわれる。

 以上を総合的に考慮すれば,[甲ら]は,被審人との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すため,被審人が著しく不利益な要請等を行っても,これを受け入れざるを得ないような場合にあり,被審人の取引上の地位は[甲ら]に対して優越していたものと認められる。」

 「被審人は,[甲]につき,同社は被審人に対してブランド力のある商品や消費者が通常検討対象とする商品等を多く販売する納入業者であり,これらの商品が当該商品の属する商品群の売場の構成に重要なものであることから,被審人がこれら納入業者との取引を打ち切ることは想定し難く,被審人の優越的地位は認められない旨主張するが,仮に,そのことからこれら商品が被審人の売場の構成に重要なものであり,被審人が同社との取引を安易に打ち切ることは想定し難い面があったとしても,このことのみをもって,直ちに同社に対する被審人の優越的な地位が否定されるものではない。

 すなわち,全国的に消費者に対する知名度が高く,いわゆるブランド力があるといわれる商品を販売する納入業者にとっては,当該商品のナショナルブランドを維持する上で,全国に販路を網羅することが重要なのであって,通常,当該商品の行き届かない空白地帯が生じることのないような事業戦略をとるため,被審人のように特定の地域において消費者に人気が高く,当該地域で第1位の売上高を誇る小売業者は,極めて重要な取引相手ということができる。このことからすれば,かかる納入業者側においても,被審人のようないわば小売業者としてブランド力のある取引相手に対し,その取引を打ち切ることは想定し難いのであって,納入業者がブランド力のある商品や消費者に人気のある商品を小売業者に販売していることのみをもって,直ちにこれら納入業者に対する小売業者の優越的な地位が否定されるものではない。

 そして,[甲]については,被審人が岡山県の区域内において食料品等の小売業を営む事業者として有力な地位にあったことに加え・・・,取引先に対する取引依存度における被審人の順位が約《取引先数》社中の上位第7位又は第9位と極めて高く,被審人に対する売上高に係る取引のほとんどを扱う《略》営業所の被審人に対する取引依存度が10パーセント前後あることなどからすれば,[甲]が販売する商品に相応のブランド力があることは,これをもって同社に関する前記aの認定を左右するものではない。」

「[乙・丙ら]については,・・・前記・・・の事実に加え,・・・,とりわけ,[乙・丙ら]において被審人との取引を主に担当している営業拠点の被審人に対する取引依存度が大きいこと,あるいは,同営業拠点の取引先に対する取引依存度における被審人の順位が高いこと等の事実を考慮すれば,[乙・丙ら]にとっては,被審人との取引の継続が困難となれば,当該営業拠点の収益の大幅な落込みが予想され,岡山県の区域内における事業方針の修正を余儀なくされるなど,全社的にみてもその後の事業経営に大きな支障を来すことが看取できる。これらのことからすれば[乙・丙ら]のうちには,事業規模が相対的に大きい者や,全社的にみれば被審人に対する取引依存度が小さい者があることを考慮しても,なお[乙・丙ら]にとって,被審人との取引の継続が困難になることは事業経営上大きな支障を来すものとうかがわれる。」

 「そして,[乙・丙ら]についても,・・・被審人による不利益行為を受け入れていた事実が認められるところ,・・・[乙・丙ら]がこれら不利益行為を受け入れるに至った経緯や態様からすれば,[乙・丙ら]は,被審人が著しく不利益な要請等を行っても,これを受け入れざるを得ないような場合にあったことがうかがわれる。

 以上を総合的に考慮すれば,[乙・丙ら]は,被審人との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すため,被審人が著しく不利益な要請等を行っても,これを受け入れざるを得ないような場合にあり,被審人の取引上の地位は[乙・丙ら]に対して優越していたものと認められる。」

 「被審人は,・・・例えば[乙]につき,同社《略》支店が同社の経営全体の中で相対的に重要であることは何ら認定されていないから,取引先変更困難性は同社全体で検討されるべきであるなどと主張する。 が,一般に営業拠点の設置や統廃合は,事業戦略上の重要事項であるところ,殊に,食品スーパーなど地場の消費者を顧客とする小売業者に対し,多くの商品を販売する納入業者にとっては,地域の情報を収集してきめ細やかな営業活動を行うためにも,営業拠点の配置や構成は極めて重要な問題であると考えられる。

 この点,[乙]等においても,岡山県の区域を営業エリアに含む営業拠点が経営全体の中で相対的に重要であることや,そのことなどから,被審人との取引の継続が困難となると全社的な事業経営上大きな支障を来すことがうかがわれるのであって,これらの納入業者にとっての取引先変更困難性を,常に全社的な観点から検討しなければならないというものではない。

 すなわち,岡山県の区域において第1位の売上高を誇る小売業者である被審人に対し,多くの商品を販売している[乙]の《略》支店は,別紙5記載の同支店の事業規模等に照らしても,同社の経営全体の中で相対的に重要な営業拠点であることは優に認められ,また,被審人との取引の継続が困難となることは,営業拠点である《略》支店に係る特定の事業に大きな支障を来すものであるから,同社全体にとっても,事業経営上大きな支障を来すものであることがうかがわれる。」

 「被審人は,[丙]につき,同社は被審人アンケートの・・・において,被審人からの取引停止の予告が取引停止の6か月前に行われた場合に,全社的にみれば被審人との取引額を「完全に補える」と回答しており,このような納入業者に取引先変更困難性を認定することはできず,被審人が優越的地位にあるとは認められないと主張する。

 しかし,取引先変更困難性とは,被審人との取引額を補えるか否かという事情のみからではなく,被審人と取引することによって得られる自社及び自社商品の信用や,岡山県の区域内の店舗数が小売業者の中で第1位である被審人と取引することにより,自社の商品を同県を含めた全国に流通させるという納入業者の営業政策や期待といった事情に加え,被審人との取引を主に担当している営業拠点が存する場合には,・・・当該営業拠点における事情も踏まえて判断されるものであるから,納入業者が,被審人との取引額を全社的な観点から「完全に補える」と回答したからといって,直ちに取引先変更困難性が認められないとはいえない。

 そして,[丙]については,被審人が岡山県の区域内において食料品等の小売業を営む事業者として有力な地位にあったことに加え,・・・被審人に対する売上高が年間《金額》円前後と大きいこと,その約50パーセントに当たる取引を扱っている同社の《略》支店の被審人に対する取引依存度が8パーセント前後あること,同支店の取引先に対する取引依存度における被審人の順位が約《取引先数》社又は約《取引先数》社中上位第2位又は第3位と極めて高いこと,同社において同支店の営業区域を含む中国地方の5県を管轄する《略》部の《略》課の営業担当者が,被審人に代わる取引先を新たに見つけることは容易ではなく,被審人は重要な取引先である旨供述していることなどからすれば, [丙]の《略》支店は,同社の経営全体の中で相対的に重要であることが認められ,同支店と被審人との取引の継続が困難となると同社全体の事業経営上大きな支障を来すことがうかがわれる。だとすれば,同社が被審人アンケートにおいて,全社的な観点から被審人との取引額を「完全に補える」と回答していることは,同社に関する前記・・・の認定を左右するものではない。」

 「上記[丁ら]については,・・・前記アの事実に加え,・・・とりわけ,資本金額,年間総売上高,掲記の各証拠から認められる従業員数などに照らして[丁ら]の事業規模が極めて小さいと認められること等の事実を考慮すれば,被審人に対する取引依存度が小さいことを勘案しても,なお[丁ら]にとって,被審人との取引の継続が困難になることは事業経営上大きな支障を来すものとうかがわれる。

 すなわち,納入業者の多くは被審人よりも事業規模が小さいところ・・・殊に,[丁ら]のうちには,年間総売上高が被審人の年間総売上高(1200億円台で推移)と比較して極めて少額である者や,営業区域が被審人の営業区域内に限定されているとみられる者もあり,被審人の事業規模が[丁ら]のそれより著しく大きい場合に当たると認められる。これら小規模な納入業者にとってみれば,被審人との取引に代えて,新たな取引先と取引を開始し,あるいは既存の取引先との取引を拡大することは,必ずしも容易なことではない。なぜなら,納入業者の事業規模が小さければ,新たな取引の開始につながる,商品の需要や売れ筋等に関して入手できる情報も限定されると考えられるからである。他方で,これら小規模な納入業者が既に取引を行っている被審人は,・・・のとおり,岡山県の区域内において小売業を営む事業者として,その事業が拡大基調にあり,今後の取引の拡大を期待できる取引先であり,これら納入業者自らの事業活動の拡大や安定的な継続のためには,被審人との取引が必要かつ重要であると認められる。このような小規模な納入業者にしてみれば,被審人との取引の継続が困難となることは,直ちに資金繰りの悪化を招きかねず,その取引依存度が小さかったとしても,早急な事業方針の転換を迫られるなど事業経営に大きな支障を来す要因となり得るものである。

 したがって,事業規模が極めて小さいこと等が認められる[丁ら]についても,被審人との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すものとうかがわれるということができる。」

 「そして,[丁ら]についても,・・・被審人による不利益行為を受け入れていた事実が認められるところ,同(5)のとおり,[丁ら]がこれら不利益行為を受け入れるに至った経緯や態様からすれば,[丁ら]は,被審人が著しく不利益な要請等を行っても,これを受け入れざるを得ないような場合にあったことがうかがわれる。

 以上を総合的に考慮すれば,[丁ら]は,被審人との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すため,被審人が著しく不利益な要請等を行っても,これを受け入れざるを得ないような場合にあり,被審人の取引上の地位は[丁ら]に対して優越していたものと認められる。」 

 「[戊ら]については、・・・前記[甲乙丙丁ら]と同等の状況にあるとは認められない。

 いずれも被審人に対する全社的な取引依存度が極めて小さい上に,・・・被審人アンケートの・・・に対し,被審人との取引額を「完全に補える」と回答しているなど,被審人の取引上の地位が優越していたとはいえないことを示す相応の事情も認められる。

 これらの事情を総合的に考慮すれば,前記アの事実を勘案しても,[戊ら]にとって,被審人との取引の継続が困難になることが直ちに事業経営上大きな支障を来すものとは認められない。

 また,・・・被審人による不利益行為を受け入れるに至った経緯や態様を勘案しても,[戊ら]については,被審人との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すために,被審人が著しく不利益な要請等を行ってもこれを受け入れざるを得ないような場合にあったとまではなお断ずることはできない。」

 

従業員等派遣の要求

 「従業員等の派遣を受ける行為が不利益行為となる場合 本件における被審人と納入業者との間の取引は買取取引であるが,このような取引についてみれば,売主は,買主に商品を引き渡すことにより取引契約上の義務を履行したこととなるところ,買主が小売業者である場合に,買主の新規店舗の開設,既存店舗の改装及びこれらの店舗での開店セール等の際に,買取取引で仕入れた商品を他の陳列棚から移動させ,又は新たに若しくは補充として店舗の陳列棚へ並べる作業や,接客するという作業などは,買主が消費者に商品を販売するための準備作業又は消費者に対する販売作業そのものであり,本来買主が行うべき役務であって,売主が自社の従業員等を派遣して上記のような作業に当たらせること(以下「新規店舗開設等作業のための従業員等派遣」という。)は,売主としては当該従業員等による労務をその派遣の期間逸失するものであることに加えて,交通費などの派遣に必要となる費用が発生した場合には,当該費用を負担することになることから,売主にとって通常は何ら合理性のないことであり,そのような行為は,原則として不利益行為に当たることになる。

 もっとも,新規店舗開設等作業のための従業員等派遣については,例外的に,①従業員等の業務内容,労働時間及び派遣期間等の派遣の条件について,あらかじめ相手方と合意し,かつ,派遣される従業員等の人件費,交通費及び宿泊費等の派遣のために通常必要な費用を買主が負担する場合,②従業員等が自社の納入商品のみの販売業務に従事するものなどであって,従業員等の派遣による相手方の負担が従業員等の派遣を通じて相手方が得ることとなる直接の利益等を勘案して合理的な範囲内のものであり,相手方の同意の上で行われる場合は,不利益行為には当たらないと解される。

 以上のとおり,相手方に従業員等を派遣させて新規店舗開設等作業に当たらせる行為については,上記①及び②の例外と認められるべき場合(以下「従業員等派遣例外事由」という。)はあるものの,通常は相手方にとって何ら合理性のないことであるから,従業員等派遣例外事由に当たるなどの特段の事情がない限り,不利益行為に当たると認めるのが相当である。」

 「被審人は,競合他社商品の陳列・配列方法,消費者のニーズ,被審人の販売方針等の情報を直接把握することができ,営業上のヒントを得る機会となると考えて従業員等を派遣していた納入業者については,自社の従業員等を派遣することにつき合理的な理由があり,自由かつ自主的な判断に基づきこれを行ったものであると主張するが,例えば,競合他社商品の陳列・配列方法といった情報は,納入業者が営業訪問等の通常の業務において被審人の店舗に赴いた際に売場を見学することなどにより容易に把握することが可能であるなど,競合他社商品の陳列・配列方法,消費者のニーズ,被審人の販売方針等の情報は本件従業員等派遣に応じないと得られない情報であるとは認められない。」

 「被審人は,①円滑,良好な取引関係の構築につながり,被審人との今後の取引において有利に働く可能性がある,②被審人に対する商品の価格や品質以外の付加的なサービスの提供となるなど,今後の被審人との取引に有利に働く可能性がある,③従業員等を派遣することにより他の納入業者との競争に勝ち抜こうと考え,自社の従業員等を派遣した納入業者については,自社の従業員等を派遣することにつき合理的な理由があり,自由かつ自主的な判断に基づきこれを行ったものであると主張するが,被審人は,本件従業員等派遣を受けるに当たり,納入業者に対して見返りを約束していたものではなかったことから,納入業者が本件従業員等派遣に応じることで,被審人との円滑,良好な取引関係の構築につながったり,今後の被審人との取引又は他の納入業者との競争に有利に働いたりする可能性があると考えていたとしても,これは納入業者の一方的かつ漠然とした期待にすぎず,取引上有利になる又は競合他社との競争上不利にならないということに結び付くものではなかった。」

 「被審人は,従業員等を派遣することについて,負担の程度や取引上の利益とのバランスから許容できる範囲内と考えていた納入業者については,自社の従業員等を派遣することにつき合理的な理由があり,納入業者に著しい不利益を与えるものではなく,自由かつ自主的な判断に基づきこれを行ったものであると主張するが,仮に,納入業者が,本件従業員等派遣に応じることについて許容できる範囲の負担と考えていたとしても,自社の従業員等を派遣して新規店舗開設等作業に当たらせる行為は,売主は当該従業員等による労務をその派遣の期間逸失するものであることに加えて,交通費などの派遣に必要となる費用が発生した場合には,当該費用を負担することになることから,売主にとっては通常は何ら合理性のないことであり,従業員等派遣例外事由に当たるなど特段の事情が認められない限り,不利益行為に当たると認められる。」

 

金銭提供の要求

 「被審人と納入業者との間の取引は買取取引であるが,このような取引についてみれば,売主は,買主に商品を引き渡すことにより取引契約上の義務を履行したこととなるところ,契約等に別段の定めがなく,協賛金等の名目で売主が買主のために本来提供する必要のない金銭を提供することは,提供した金銭がそのまま売主の損失となることから,売主にとって通常は何ら合理性のないことであり,そのような行為は,原則として不利益行為に当たる。

 もっとも,例外的に,協賛金等の名目で提供した金銭について,その負担額,算出根拠及び使途等について,あらかじめ事業者が相手方に対して明らかにし,かつ,当該金銭の提供による相手方の負担が,その提供を通じて相手方が得ることとなる直接の利益等を勘案して合理的な範囲内のものであり,相手方の同意の上で行われる場合は,不利益行為には当たらないと解される。

 以上のとおり,事業者が相手方から本来提供する必要のない金銭の提供を受ける行為については,上記の例外と認められるべき場合(以下「金銭提供例外事由」という。)はあるものの,通常は相手方にとって何ら合理性のないことであるから,金銭提供例外事由に当たるなどの特段の事情がない限り,不利益行為に当たると認めるのが相当である。」

 

 「本件における被審人と納入業者との間の取引は買取取引であるが,このような取引についてみれば,売主の責めに帰すべき事由がない場合の商品の返品及び代金の減額は,一旦締結した売買契約を反故にしたり,売主に対して,売れ残りリスクや値引き販売による売上額の減少など買主が負うべき不利益を転嫁したりする行為であることから,売主にとって通常は何ら合理性のないことであり,そのような行為は,原則として不利益行為に当たると解される。

 もっとも,返品に関しては,例外的に,①商品の購入に当たって,相手方との合意により返品の条件を明確に定め,その条件に従って返品する場合,②あらかじめ相手方の同意を得て,かつ,商品の返品によって相手方に通常生ずべき損失を自己が負担する場合,③相手方から商品の返品を受けたい旨の申出があり,かつ,相手方が当該商品を処分することが相手方の直接の利益となる場合は,不利益行為には当たらないと解される(ただし,上記①については,返品が相手方の得ることとなる直接の利益等を勘案して合理的であると認められる範囲を超えた負担となり,相手方に不利益を与えることとなる場合には,不利益行為に当たる。)。

 また,減額に関しても,例外的に,①対価を減額するための要請が対価に係る交渉の一環として行われ,その額が需給関係を反映したものであると認められる場合,②相手方から値引き販売の原資とするための減額の申出があり,かつ,当該値引き販売を実施して当該商品が処分されることが相手方の直接の利益となる場合は,不利益行為には当たらないと解される。

 以上のとおり,買取取引において,売主である相手方の責めに帰すべき事由がない場合の商品の返品及び減額については,上記の例外と認められるべき場合(以下,前者を「返品例外事由」,後者を「減額例外事由」といい,両者を総称して「返品減額例外事由」という。)はあるものの,通常は相手方にとって何ら合理性のないことであるから,返品減額例外事由に当たるなどの特段の事情がない限り,不利益行為に当たると認めるのが相当である。」

 

不必要商品等購入の強制

 「ある事業者と継続的な取引関係にある相手方が,自己の事業遂行上必要としない,又は,その購入を希望していないにもかかわらず,当該取引に係る商品又は役務以外の商品又は役務(以下「不必要商品等」という。)をその事業者から購入することは,当該相手方にとって通常は何ら合理性のないことである。

 したがって,事業者が,継続的な取引関係にある相手方に対し,不必要商品等の購入を要請し,これを相手方に販売する行為は,原則として不利益行為に当たることとなる。

 もっとも,例外的に,相手方に対し特定の仕様を指示して商品の製造又は役務の提供を発注する際に,当該商品又は役務の内容を均質にするため又はその改善を図るため必要があるなど合理的な必要性から,当該相手方に対して当該商品の製造に必要な原材料や当該役務の提供に必要な設備を購入させる場合は,不利益行為には当たらないと解される。

 以上のとおり,不必要商品等の販売については,上記の例外と認められるべき場合(以下「商品購入要請例外事由」という。)はあるものの,通常は相手方にとって何ら合理性のないことであるから,商品購入要請例外事由に当たるなどの特段の事情がない限り,不利益行為に当たると認めるのが相当である。」

 

165社が不利益行為を受け入れるに至った経緯や態様等]

「前記・・・不利益行為を165社が受け入れるに至った経緯や態様についてみれば,次のようにいうことができる。

 まず,被審人は,消費者に販売するために商品を納入業者から購入する大規模な小売業者であり,他方で165社は,自ら製造しあるいは自ら仕入れた商品を,被審人に販売する納入業者であって,165社に対する・・・の不利益行為は,このような被審人によるいわゆるバイイングパワーが発揮されやすい取引上の関係を背景としたものである。

 このような背景の下,前記・・・の不利益行為は,・・・165社という多数の取引の相手方に対して,遅くとも平成191月から平成22518日までの長期間にわたり,被審人の利益を確保することなどを目的として,役員等の指示の下,組織的かつ計画的に一連のものとして行われたものである。」

 「以上のような不利益行為を165社が受け入れるに至った経緯や態様は,それ自体,被審人が納入業者一般に対してその意に反するような要請等を行っても,一般的に甘受され得る力関係にあったことを示すものであるから・・・,前記・・・の不利益行為を受け入れていた納入業者については,被審人が著しく不利益な要請等を行ってもこれを受け入れざるを得ないような場合にあったことをうかがうことができる。」

 「被審人による不利益行為のうち,被審人の取引上の地位が優越していた127社に対する行為は,優越的地位を利用して行われたものと認められ,127社の自由かつ自主的な判断による取引を阻害したものであり,正常な商慣習に照らして不当に行われたものと認めるのが相当である。」

「他方,[甲乙丙丁ら]については,被審人が[甲乙丙丁ら]に対して優越的地位を有していたことを認めるに足りる証拠はないから,[甲乙丙丁ら]に対する行為は,優越的地位の濫用に該当すると認めることはできない。」

 

《納入業者(甲)》 について

「《納入業者(甲)》は,卸売業を営む株式会社であり,主な取扱商品は乳製品・飲料,アイスクリーム及び冷凍食品である。

《納入業者(甲)》の平成19年度から平成21年度までの3事業年度において,各事業年度の被審人に対する年間売上高は約《金額》円ないし約《金額》円,被審人に対する取引依存度は約2.6パーセント又は約3.1パーセント,取引依存度における被審人の順位はいずれも約《取引先数》社中の上位第7位又は第9位であった。」

 

《納入業者(乙)》について

「《納入業者(乙)》は,卸売業を営む株式会社であり,主な取扱商品は飲料,冷凍食品及び即席麺である。

《納入業者(乙)》の平成19年度から平成21年度までの3事業年度において各事業年度の被審人に対する年間売上高は約《金額》円ないし約《金額》円,被審人に対する取引依存度は約0.55パーセント又は約0.59パーセント,取引依存度における被審人の順位は約《取引先数》社ないし約《取引先数》社中の上位第27位ないし第32位であった。」

 

《納入業者(戊)》について

「《納入業者(戊)》は,製造業を営む株式会社であり,主な取扱商品は納豆,加工食品及び凍豆腐である。

《納入業者(戊)》の平成19年度から平成21年度までの3事業年度において各事業年度の被審人に対する年間売上高は約《金額》円又は約《金額》円,被審人に対する取引依存度はいずれも約0.2パーセント,取引依存度における被審人の順位はいずれも約《取引先数》社中の上位第82位又は第86位であった。

《納入業者(戊)》の被審人に対する前記⑵の年間売上高の全ては,同社の《略》営業所(営業区域は広島県,岡山県,山口県,鳥取県及び島根県)によるものであるところ,各事業年度の同営業所の年間総売上高は約《金額》円ないし約《金額》円,被審人に対する取引依存度は約4パーセント又は約4.2パーセント,取引依存度における被審人の順位はいずれも約《取引先数》社中の上位第5位であった。

 《納入業者(戊)》は,取引先変更可能性の設問に対し,取引先変更困難との回答を選択し,その理由記載欄に,同一地域において,年間《金額》円の売上げを見込める販売先を確保することは不可能である旨記載している。

 《納入業者(戊)》は,取引継続必要性の設問に対し,「はい」を選択し,その理由の選択肢のうち,①取引額等大きく安定,②高取引依存度,③損失補填困難,④取引額増加期待,⑤自社信用確保,⑥消費者人気小売業者を選択している。」


 

 

[事例]

株式会社ラルズに対する件

審判審決平成31325

公正取引委員会ホームページ

独禁法19条 295号イ・ロ

*優越的地位の濫用

 

「被審人は,()本件で問題とされるべき被審人の市場影響力は,本来,被審人と納入業者との取引が行われている買付市場における購買力であるはずであり,被審人が消費者に対して商品販売を行っている売付市場におけるものではない旨,()仮に「北海道の区域内において食料品等の小売業を営む事業者」との市場画定を前提としたとしても,被審人は同市場を寡占しているわけではなく,同市場においては,被審人のような食品スーパーの業態で小売業を営む事業者以外にも,コンビニエンスストア等の事業者も含まれるとし,・・・被審人が納入業者との取引市場において有力な地位にあったとはいえない旨,()市場の画定は商品の性質に応じて行う必要がある旨主張する。

 

()について

 優越的地位の判断において,甲の市場における地位を考慮するのは,甲の市場におけるシェアが大きい場合又はその順位が高い場合には,甲と取引することで乙の取引数量や取引額の増加が期待でき,乙は甲と取引を行う必要性が高くなるため,乙にとって甲との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すことになりやすいからである。」

 「仮に,被審人が主張するとおり,被審人と納入業者との取引が行われている買付市場における地位を検討する必要があるとしても,被審人のような食料品等の小売業者は,通常,その販売する商品を納入業者からの仕入れにより調達し,消費者に対して販売するものであることからすると,小売業者の店舗で購入する消費者が多いほど,販売量や販売額も増えることとなり,小売業者としては商品の仕入れ等を増やすことになることから,小売業者が消費者に対して商品販売を行っている売付市場における地位と,当該小売業者と納入業者との取引が行われている買付市場における地位とは,密接に関連することになる。」

 「小売業者である被審人の取引上の地位が納入業者である88社に対して優越的地位にあるかを判断するに当たって,検討すべき被審人の市場における地位は,被審人が消費者に対して商品販売を行っている売付市場,すなわち,被審人の北海道の区域内における食料品等の小売業の市場における地位であるところ,・・・,その地位は,被審人と納入業者との取引が行われている買付市場における地位にも密接に関連していたといえる。

したがって,被審人の主張は採用できない。

 優越的地位の判断において,甲の市場における地位を考慮する趣旨は,前記・・・のとおりであり,甲と取引することで乙の取引数量や取引額の増加が期待でき,乙は甲と取引を行う必要性が高くなるため,乙にとって甲との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すことになりやすいからであるから,このような観点から市場を画定すれば足りることになる。・・・

 被審人が主張する「北海道の区域内において食料品等の小売業を営む事業者」には,コンビニエンスストア等の事業者も含まれていることは否定できない。しかし,消費者に対して商品販売を行っている市場(売付市場)における取引をみれば,コンビニエンスストアは,食料品を扱うものの,店舗の規模が小さく,取扱商品の種類も限られており,また,ドラッグストアは,大規模な店舗を有するものもあるが,中心となる商品は薬品や日用雑貨である。このように,売付市場における取引をみると,コンビニエンスストア等の事業者は,食品スーパーの業態と異なる事業を営む事業者といえ,そのことが買付市場における取引にも密接に関連することから,被審人の市場における地位を検討するに当たって,これにコンビニエンスストア等の事業者を含める必要はなく,食品スーパーの分野における地位を検討すれば足りる・・・したがって,被審人の主張は採用できない。

 優越的地位の判断において,甲の市場における地位を考慮する趣旨は,前記・・・のとおりであり,甲と取引することで乙の取引数量や取引額の増加が期待でき,乙は甲と取引を行う必要性が高くなるため,乙にとって甲との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すことになりやすいからであるから,このような観点から市場を画定すれば足りることになる。

 ・・・被審人は,一般的に食品スーパーという業態にある事業者と認識されており,食品スーパーは,食料品を中心に日用雑貨品・衣料品等を大規模な店舗で小売するという事業を営む者であり,多数の消費者に広範に商品を販売することができる小売業者であるところ,88 社が,被審人と取引を必要とするかどうかを判断する場合にも,被審人が食品スーパーという業態で行っている事業活動に関連して判断されるものといえる。そうすると,被審人の主張するように客観的に「複数の商品の性質に応じた市場」が存在するとしても,このように細分された個別の商品ごとの市場を画定して地位を判断する必要はなく,本件では,被審人と同様の業態を持つ事業者の市場である食品スーパーの市場における地位を検討すれば足りることになる。

 したがって,被審人の主張は採用できない。」

 

「被審人は,・・・事業規模が被審人をはるかに上回る者については,かかる事情を被審人の優越的地位を否定する事情として考慮すべきである旨主張する。・・・

 しかし,そもそも納入業者の事業規模が被審人のそれを上回っていることのみをもって,被審人の取引上の地位が当該納入業者に優越していることを直ちに否定するものとはいえない。」

 「「被審人は,本件商品の小売業を営む被審人が取引先に対して自社商品の購入依頼を行うことは,本件商品の性質及びその商品価値などからすると,何ら不合理ではない」等と主張する。

 たしかに,被審人の紳士服特別販売会の案内が,一般的な販売促進活動の一環といえる範囲のものであれば,許容される場合もあるといえる。しかし,・・・,自らの所属する商品部が担当する納入業者ごとに購入数を割り振って,当該バイヤー等が,納入業者に対し,当該納入業者の購入すべき本件商品の数量を示して,その数量を購入するよう要請していたということ,

 しかも,複数回にわたって納入業者に対して本件商品の購入を電子メール等で要請したり,販売目標の達成状況の管理等を行ったりしたものであること,また,実際にも《納入業者・・・は,被審人の要請がなくなってから被審人から本件商品を購入しなくなったこと等の認定事実によれば,被審人が行った行為は,一般的な販売促進活動の一環として許容される範囲を超えるものであり,その結果として被審人において設定した販売目標が常に達成されていたと評価することは困難である。》

 「被審人は,消費者に販売するために商品を納入業者から購入する大規模な小売業者であり,他方で88社は,自ら製造しあるいは自ら仕入れた商品を,被審人に販売する納入業者であって,88社に対する前記認定の不利益行為は,このような被審人によるいわゆるバイイングパワーが発揮されやすい取引上の関係を背景としたものである。

 そして,このような背景の下,前記認定の不利益行為は,前記・・・のとおり,88社という多数の取引の相手方に対して,遅くとも平成21420日から平成24313日までの長期間にわたり,被審人の利益を確保することなどを目的として,役員等の指示の下,組織的かつ計画的に一連のものとして行われたものである。 このことは,殊に次のような事実からも明らかである。すなわち,被審人は,

    2商品部等のGMからの指示に基づき,本件開店準備作業等の必要が生じる都度,恒常的に,納入業者に対し本件従業員等派遣を要請しており,一部の商品部においては,個々の納入業者に直接要請するのではなく,バイヤーが特定の納入業者に取りまとめを行わせ,当該納入業者を介して多数の納入業者から本件従業員等派遣を受けていた。

    営業本部長と商品統括部長を兼務し,仕入担当者に対して仕入業務全般について指示する立場にあった《A1 専務の指示などにより,納入業者に対し,オープンセールといったスポット的なイベントにあってはその都度慣例的に,創業祭といった毎年恒例のイベントにあっては定期的に,算出根拠に合理性のない本件協賛金の提供を要請しており,その結果,多数の納入業者から,ほぼ要請金額どおりの本件協賛金の提供を受けていた。

    紳士服特別販売会を企画立案する第8商品部において,本件商品の販売目標を設定した上,第3商品部等に対して各商品部が担当する納入業者に本件商品の購入要請を依頼しており,これを受けた第3商品部等においては,担当する納入業者に対し,納入業者ごとに購入数を割り振って本件商品の購入を要請していたところ,例えば,納入業者に対する電子メールにおいて,「今回は《納入業者(3)の会社名の記載》さんチームが担当になりますのでご協力をお願いします。尚,7着が目標着数となっています。」,「今回は《納入業者(3)の会社名の記載》さんチームが担当ですので21日(水)までに目標数を達成しますようお願いいたします。」などと伝達し,個々の納入業者の事情に関わらず,一律かつ一方的に,決定事項を伝達する形で本件商品の購入を迫っており,要請を受けた納入業者の従業員等によって,当該要請にかかる数量と同数又はそれ以上の本件商品が購入された。

 以上のような不利益行為を88社が受け入れるに至った経緯や態様は,それ自体,被審人が納入業者一般に対してその意に反するような要請等を行っても,一般的に甘受され得る力関係にあったことを示すものであるから,前記・・・において被審人の88社に対する取引上の地位を判断する際に考慮したとおり,前記認定の不利益行為を受け入れていた納入業者については,被審人が著しく不利益な要請等を行ってもこれを受け入れざるを得ないような場合にあったことをうかがうことができる。

 被審人の取引上の地位は88社に対して優越していたことが認められ,・・・被審人は88社に対して不利益行為を行っていたことが認められることからすると,通常は,被審人の88社に対する上記行為は,優越的地位を利用して行われたものと認められ,本件においてはこれに反するような事情は見当たらず,88社は自由かつ自主的な判断によって不利益行為を受け入れたとはいえないことから,被審人は,正常な商慣習に照らして不当に上記行為を行ったものと認めるのが相当である。

 したがって,被審人は,本件対象期間中,自己の取引上の地位が88社に優越していることを利用して,正常な商慣習に照らして不当に独占禁止法第2条第9項第5号イ及びロ(改正法の施行日前については,旧一般指定第14項第1号及び第2号)に該当する行為を行っていたものであり,当該行為は,優越的地位の濫用に該当すると認められる。」

 

 

 

 

 


 

 

[事例]

三井住友銀行事件

勧告審決平成171226

審決集52436

独禁法19条 295号イ

*優越的地位の濫用

 

1 「株式会社三井住友銀行(以下「三井住友銀行」という。)は,銀行業を営む」

2 「三井住友銀行の平成173月末日現在における総資産額は約91兆円であり,総資産額につき我が国の銀行業界において第1位の地位にある。」

3 「三井住友銀行は,主として変動金利で融資を行う機会を利用して,融資とは別の商品である金利スワップを販売している」

4 「三井住友銀行と融資取引を行っている事業者,特に中小事業者の中には
ア 金融機関からの借入れのうち,主として三井住友銀行からの借入れによって資金需要を充足している
イ 三井住友銀行からの借入れについて,直ちに他の金融機関から借り換えることが困難である
ウ 事業のための土地や設備の購入に当たって三井住友銀行からの融資を受けられる旨が示唆された後,当該土地や設備の購入契約を進めたことから,当該融資を受けることができなければ他の方法による資金調達が困難である
など,当面,三井住友銀行からの融資に代えて,三井住友銀行以外の金融機関からの融資等によって資金手当てをすることが困難な事業者(以下「融資先事業者」という。)が存在する。融資先事業者は,三井住友銀行から融資を受けることができなくなると事業活動に支障を来すこととなるため,融資取引を継続する上で,融資の取引条件とは別に三井住友銀行からの種々の要請に従わざるを得ない立場にあり,その取引上の地位は三井住友銀行に対して劣っている。」

5 「三井住友銀行は,融資先事業者から新規の融資の申込み又は既存の融資の更新の申込みを受けた場合に,融資に係る手続を進める過程において,融資先事業者に対し,金利スワップの購入を提案し,融資先事業者が同提案に応じない場合に
ア 金利スワップの購入が融資を行うことの条件である旨,又は金利スワップを購入しなければ融資に関して通常設定される融資のイ 条件よりも不利な取扱いをする旨明示する
担当者に管理職である上司を帯同させて重ねて購入を要請するなどにより,金利スワップの購入が融資を行うことの条件である旨,又は金利スワップを購入しなければ融資に関して通常設定される融資の条件よりも不利な取扱いをする旨示唆することにより金利スワップの購入を要請し,融資先事業者に金利スワップの購入を余儀なくさせる行為を行っている。」

6 「 三井住友銀行のこれらの行為の結果,金利スワップの購入を余儀なくされた融資先事業者は,融資に係る支払金利に加えて,当該金利スワップの契約期間において金利スワップに伴う固定金利と変動金利の差額を支払い続けなければならず,また,当該金利スワップを契約期間中に解約しようとするには一括して所要の解約清算金を支払わなければならず,融資に係る支払金利以外の金銭的負担を強いられることとなっている。」

「法令の適用」

「融資先事業者の取引上の地位は三井住友銀行に対して劣っているところ,三井住友銀行が,・・・融資先事業者に対して,融資に係る手続を進める過程において,金利スワップの購入を提案し,金利スワップの購入が融資を行うことの条件である旨又は金利スワップを購入しなければ融資に関して不利な取扱いをする旨明示又は示唆することにより,融資先事業者に金利スワップの購入を余儀なくさせる行為を行っていることは,自己の取引上の地位が融資先事業者に対して優越していることを利用して,正常な商慣習に照らして不当に,融資先事業者に対し,融資に係る商品又は役務以外の金利スワップを購入させているものであり,これは,不公正な取引方法(昭和57年公正取引委員会告示第15号)の第14項第1号に該当し,独占禁止法第19条の規定に違反する」


 

 

[事例]

(株)エディオンに対する件

審決令和1102

公正取引委員会ホームページ

独禁法19条 295号ロ

*優越的地位の濫用

 

[優越的地位について]

「被審人の資本金の額は約1017400万円であった。・・・ 被審人の連結売上高は,平成213月期は8030400万円,平成223月期は82003000万円,平成233月期は90101000万円であり(平均年間総売上高は約84134800万円),家電製品等の小売業を営む家電量販店の中でいずれも第2位であった。・・・

 被審人運営店舗は,西日本を中心として関東以西の広範囲にわたって展開されており,その数(フランチャイズ店を含む。)は,平成213月末日時点は1,078店,平成223月末日時点は1,101店,平成233月末日時点は1,130店であり,家電製品等の小売業を営む者の中で第2位であった。

 このように,被審人は,家電量販店として有数の規模を誇り,しかも,その事業規模は年々拡大していたことからすると,本件対象期間において,家電製品等の小売業を営む家電量販店として有力な地位にあったものと認められる。

 そうすると,家電製品等の製造業者及び卸売業者は,被審人と継続的に取引を行うことで,被審人を通じて,家電製品等の自社の取扱商品を消費者に幅広く供給することができ,多額かつ安定した売上高を見込むことができることになるから,一般的にいえば,被審人と取引することの必要性及び重要性は高いと評価することができる。」

 

「[A]について・・・, 取引依存度及びその順位は,[A]全社の年間総売上高に基づくものではなく,国内の《製品名》を含む家電量販店と取引をしている商品を取り扱っている部門(以下「家電量販店部門」という。)の年間総売上高に基づくものであるところ,被審人は,[A]全社の被審人に対する売上高の割合(取引依存度)は,第25期(平成1941日から平成20331日まで)では0.6パーセント,第26期(平成2041日から平成21331日まで)では0.6パーセント,第27期(平成2141日から平成22331日まで)では0.5パーセントであったから,被審人との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すことにはならないと主張する。しかし,証拠によれば,[A]は,《製品名》商品等のメーカーであり,被審人に対し,《製品名》等の情報通信商品等を納入していたところ,[A]には,家電量販店門以外にも,他の商品を取り扱う事業部が存在したものの[A]の商品は平成20年ないし平成22年において《製品名》部門でトップシェアを有しており,そのシェアも《数値》ないし《数値》パーセントと独占的であったものと認められる。これに加え,[A]は,・・・,取引先変更困難との回答及び取引継続必要との回答をしており,しかも,[A]の報告命令に対する報告書の作成責任者に確認した[A]の従業員は,上記の各回答が[A]全社としてみた場合でも変わらないと供述していることからすると,上記のような市場における地位の保持という点からも,家電量販店部門は[A]の経営全体の中で相対的に重要なものであったと認められる。そうすると,[A]にとっては,被審人との取引の継続が困難となれば,家電量販店部門における収益の大幅な落ち込みが予想され,家電量販店部門における事業方針の修正を余儀なくされるなど,全社的にみてもその後の事業経営に大きな支障を来すことが看取できるから,全社的にみれば被審人に対する取引依存度が小さかったとしても,なお[A ]にとって,被審人との取引の継続が困難になることは事業経営上大きな支障を来すものとうかがわれる。その他,前記で説示した点も総合考慮すれば,被審人の取引上の地位は[A]に対して優越していたものと認めるのが相当である。」

 

「被審人は,各被審人運営店舗が競合他社の近隣店舗との極めて厳しい競合にさらされていたとして,納入業者の側からみれ ば被審人との取引を中止しても容易に代替取引先を確保するこ とが可能であったと主張」する。

「しかし,前記・・・のような被審人の資本金や売上高,店舗数, これらの家電量販店における順位等に鑑みると,被審人が家電 製品等の小売業を営む家電量販店として有力な地位にあったこ とは明らかである。また,前記�のとおり,大手家電量販店 は,あらかじめ計画を立てて商品を仕入れており,計画によらな い仕入れを基本的に行っていないものと認められる。これらの事実に加え,・・・のとおり,92社が,取引先変更困難との回答をしていることからすると,92社が,被審人との間の取引 が困難になった場合にその取引を他の大手家電量販店との取引で補 うことが容易であったとは認められない。

 したがって,被審人の上記主張を採用することはできない。」

「被審人は,92社のうち,・・・実際に新規に継続的 な取引先を確保できていることからすると,被審人との取引を継続することができなくなったとしても,取引先の変更が困難 ということはできず,事業経営上大きな支障は生じないから, 被審人の取引上の地位が上記各納入業者に優越しているとは認 められないと主張する。

 しかし・・・,上記各納入業者が新規取引 先との取引を開始した具体的な経過やその後の取引の状況は明 らかではない。また,上記各納入業者に事業経営上の支障が生 じるか否かは,新規取引先の有無だけではなく,従前からの取 引先との取引状況が影響するから,上記各納入業者がある一時 期に新規に取引を開始した取引先に対する売上高や取引依存度 が被審人に対する売上高や取引依存度を超えていたとしても, そのことをもって,上記各納入業者にとって,被審人との取引 を他の取引先に変更することが容易であったということはでき ない。そうすると,上記各回答をもって,被審人の取引上の地 位が上記各納入業者に優越しているという・・・認 定は左右されない。」

「被審人は,被審人との「取引の継続が困難になることが事業 経営上大きな支障を来す」といえるためには,[A]におけ る被審人への取引依存度が少なくとも10パーセントは必要に なると考えられるし,被審人への取引依存度が10パーセント に満たない[A]社について,取引依存度以外の事情によって 「取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来す」 ことについての立証もされていないから,被審人の取引上の地 位が上記各納入業者に優越しているとは認められないなどと主張する・・・。

 しかし,事業経営上大きな支障となるか否かは,取引依存度 のみによって定量的に決せられるものではない。

 そして,本件においては,前記アのとおり,被審人は,家電 製品等の小売業を営む家電量販店として有力な地位にあったこ と,前記・・・のとおり,92社は,被審人に対する取引 依存度が10パーセントを下回る場合であっても,取引先に対 する取引依存度における被審人の順位が高かったり,事業規模 が小さかったりすること,その他,後記 に認定する被審人の不利益行為を127社が受け入れるに至った経緯や態様等の諸 事情を総合的に考慮すれば,92社のいずれについても,審査 官の主張する本件対象期間中,被審人の取引上の地位は92 に対して優越していたことが認められるものである。

 したがって,被審人の上記主張を採用することはできない。」

「乙にとって甲との取引の継続が困難になることが事業経 営上大きな支障を来す場合に該当するといえるためには,必ずしも乙が倒産に瀕するような事業経営上の支障までは必要では ない」。�������������

 「被審人は,・・・, 被審人らとの間における価格等の取引条件に関する交渉につい ての設問に対する回答として,「イ 交渉はない」とか,・・・「ウ 貴社の条件提示が受け入れられる こともあるし,受け入れられないこともある」,「エ 貴社の 条件提示がほとんど受け入れられる」,「オ 貴社の条件提示が全て受け入れられる」などという選択肢を選択しているところ,上記のような回答は,上記各納入業者において,被審人と の間で価格等の取引条件の交渉を自由かつ自主的な判断に基づ き対等に行っていたことを示すものであり,被審人の取引上の地位が上記各納入業者に優越していることを否定すべき要素に なる旨主張する。

 しかし,上記各納入業者について,仮に,価格等の取引条件の交渉の場面において,被審人と対等に交渉できたとか,自身 の提示する条件が受け入れられたという事情が認められたとしても,このような継続的取引の中の一場面における事実のみをもって,被審人の取引上の地位が,上記各納入業者に対して優 越していなかったとは認められない。一方で,前記・・・のとおり,92社は,被審人 に対する取引依存度や取引先に対する取引依存度における被審 人の順位が高かったり,事業規模が小さかったりするといった事情が認められること,さらに,後記 ・・・認定する被審人の不 利益行為を[A]社が受け入れるに至った経緯や態様等の諸事 情を総合的に考慮すれば,客観的に見たときに,被審人の取引上の地位が上記各納入業者に優越していたという前記・・・の認定は左右されないというべきである。」

 「[Bら]については,・・・被審人との取引の継続が困難になることが直ちに事業経営上大きな支障を来すものとは認められない。」

 「また,[Bら]については,後記・・・ で認定するとおり,その全てが被審人による不利益行為を受け入れていたという事実が認めら れるものの,後記 ・・・のような被審人による不利益行為を受け入れ るに至った経緯や態様を勘案しても,被審人との取引の継続が困 難になることが事業経営上大きな支障を来すために,被審人が著 しく不利益な要請等を行ってもこれを受け入れざるを得ないよう な場合にあったとまではなお断ずることはできない。」

 

不利益行為への該当性

「被審人は,本件対象期間(平成2096日から平成221129日までの間)において, A]に対して,店舗開設準備作業の日程等を連絡するなどして 従業員等の派遣を依頼し,被審人運営店舗の新規開店又は改装開店 の際の店舗開設準備作業(商品の搬出,商品の搬入又は店作り[「新規開店又は改装開店を実施する被審人の店舗にお いて,当該店舗の売場まで搬入された商品を開梱し, 被審人が指定する位置に当該商品の展示及び陳列を行 い,被審人が決定した装飾内容で販促物等による当該 売場又は当該商品の装飾を行う新規開店前又は改装 開店前の作業」をいう。以下同じ。」の ため,・・・[A]から本件従業員等派遣という役務 の提供を受けた([A]に本件従業員等派遣をさせた)ものと認 められる。」

「本件における被審人と納入業者との間の取引は買取取引であるが,このような取引についてみれば,売主は,買主に商品を引き渡すことにより取引契約上の義務を履行したこととなるところ,買主が小 売業者である場合に,買主の新規店舗の開設,既存店舗の改装及び これらの店舗での開店セール等の際に,買取取引で仕入れた商品を他の陳列棚から移動させ,又は新たに若しくは補充として店舗の陳 列棚へ並べる作業や,接客するという作業などは,買主が消費者に商品を販売するための準備作業又は消費者に対する販売作業そのも のであり,本来買主が行うべき役務であって,売主が自社の従業員 等を派遣して上記のような作業に当たらせること(以下「新規店舗 開設等作業のための従業員等派遣」という。)は,売主としては当該従業員等による労務をその派遣の期間逸失するものであることに 加えて,交通費などの派遣に必要となる費用が発生した場合には, 当該費用を負担することになることから,売主にとって通常は何ら合理性のないことであり,そのような行為は,原則として不利益行為に当たることになる。

 もっとも,新規店舗開設等作業のための従業員等派遣については, 例外的に,①従業員等の業務内容,労働時間及び派遣期間等の派遣の条件について,あらかじめ相手方と合意し,かつ,派遣される従業員等の人件費,交通費及び宿泊費等の派遣のために通常必要な費 用を買主が負担する場合(以下「従業員等派遣例外事由①」という。), ②従業員等が自社の納入商品のみの販売業務に従事するものなどであって,従業員等の派遣による相手方の負担が従業員等の派遣を通じて相手方が得ることとなる直接の利益等を勘案して合理的な範囲 内のものであり,相手方の同意の上で行われる場合(以下「従業員 等派遣例外事由②」といい,従業員等派遣例外事由①と併せて単に 「従業員等派遣例外事由」という。)は,不利益行為には当たらないと解される。

 以上のとおり,相手方に新規店舗開設等作業のための従業員等派 遣をさせる行為については,従業員等派遣例外事由はあるものの,通常は相手方にとって何ら合理性のないことであるから,従業員等 派遣例外事由に当たるなどの特段の事情がない限り,不利益行為に 当たると認めるのが相当である。

 この点,被審人は,従業員等の派遣をさせることが濫用行為(不 利益行為)とされるためには,納入業者の不利益が単なる不利益ではなく,公的秩序にまで関わりを持つレベルに達した著しく過大な 不利益であることが要件となると主張するが,著しく過大な不利益に至らない不利益を課す場合であっても,これを優越的地位を有す るものが取引相手に行わせれば,公正な競争秩序に悪影響を及ぼすおそれは否定できないのであるから,納入業者の不利益が著しく過大である場合に限って濫用行為(不利益行為)に該当するという被 審人の主張を採用することはできない。

また,上記の「直接の利益」とは,例えば,取引の相手方が納入 する商品の売上増加,取引の相手方による消費者ニーズの動向の直 接把握につながる場合など実際に生じる利益をいい,従業員等の派 遣をすることにより将来の取引が有利になるというような間接的な 利益を含まないものと解されるところ,被審人は,「直接の利益」の有無は取引の相手方(納 入業者)の認識を重視して判断すべきであり,この「直接の利益」には,不利益行為自体とは直接的に関係のないものや,金銭換算し得ないものも含めるべきであるとして,相手方が将来の実現可能な 具体的利益を期待して不利益行為を受け入れることも,取引実態か らみて正常な商慣習に照らし不当なものでない限り,取引の相手方 に著しく過大な不利益を与えるものとは認められないから,濫用行 為には該当しないと解すべきであると主張する。しかし,「直接の 利益」の有無の判断において,取引当事者の認識を考慮する必要が 全くないとは解されないものの,公正な競争秩序を回復し,自由競争経済秩序を維持するという独占禁止法の目的からすると,その有無について,取引当事者の認識のみをもって判断したり,これを過度に重視して判断したりするのは相当とは解されない。また,上記 のとおり,「直接の利益」には,消費者ニーズの動向の直接把握のように必ずしも計測可能でないものも含まれるものと解されるものの,新規店舗開設等作業のための従業員等派遣を行った場合に,その対価となるものが発生するか,発生するとして準備作業の負担に 見合うものであるかを客観的に検証できる事情が存在しなければ,当該従業員等派遣を行う者は,義務なき準備作業に応じるか否かを事前に判断できず,あらかじめ計算できない不利益や合理的範囲を 超える負担を負うことになることからすると,従業員等の派遣による相手方の負担が合理的な範囲内であることを基礎付ける利益については,それが新規店舗開設等作業のための従業員等派遣に応じたことと直接結び付いたものであることが必要であり,新規店舗開設 等作業のための従業員等派遣を行うことにより将来の取引が有利になるというような「間接的な利益」はこれに当たらないものと解するのが相当である。よって,このような解釈に反する限りにおいて, 被審人の上記主張を採用することはできない。」

「被審人運営店舗において納入業者の商品の販売促進がされれば,被審人による仕入れ(納入業者による売上げ)の増加という直接の利益に結び付くという関係にあったものということができるから(これは,自社商品の適切な展示による販売促進のほか,自社商品の 展示スペースの確保による販売促進,情報収集の機会及 び店舗従業員等との良好な人間関係の構築による自社商品の販売促進,新規開店又は改装開店の際の自社商品の販 売促進などについても同様である。),[A]は,本件 従業員等派遣が自社商品の販売促進に直接結び付くのであれば,本件従業員等派遣により,直接の利益を得ることが できるものと認めることができる。

A]による本件従業員等派遣が,自社商品の適切な展示による販売促進に直接結び付き,かか る観点から[A]が直接の利益を得ることができるかについて検討するに,まず,[A]が本件従業員等派遣に よって派遣した従業員等が行った作業のうち,店作りは, ・・・,被審人運営店舗の売場まで搬入された商品を開梱し又は折り畳み式のコンテナから取り 出し,棚割表に基づき,商品の陳列,展示を行い,これらの作業を終えた後,又はこれらの作業に並行して,POP等 の販促物によって売場又は当該商品の装飾を行うというものであるから,その作業内容からして,自社商品の適切な 展示と関係を有するものと認められる。したがって,[A]は,本件従業員等派遣によって派遣した従業員等による店作りが自社商品の適切な展示による販売促進に直接結び付き得るものであり,その場合には,本件従業員等派遣により,直接の利益を得ることができるものと認められる。

 一方,[A]の派遣した従業員等が行った作業のうちの商品の搬出については,・・・,改装を行う売場にある商品を梱包材で梱包し,又は,折り畳 み式のコンテナに収納して,売場から当該店舗の倉庫等の 被審人が指定する場所まで当該商品を運搬するというものであって,その作業内容からして,自社商品の適切な展示と関係を有するものとは認められないから,自社商品の適切な展示による販売促進に直接結び付くものとは認められ ない。

A]の派遣した従業員等が行った作業のうち の商品の搬入は,・・・,売場又は店舗の倉庫の所定の位置に什器の設置が行われた後に行われるものであり,具体的には,当該店舗の搬入口若しくは倉 庫から被審人が指定する売場まで,又は当該店舗の搬入口から被審人が指定する当該店舗の倉庫まで商品を運搬し, 設置された什器に沿って並べるというものであった。しかるに,まず,[A]の派遣した従業員等が商品の搬入の みを行い,店作りを行わないという場合には,上記の商品の搬出と同様,当該商品の搬入は自社商品の適切な展示と 関係するものとは認められないから,自社商品の適切な展示による販売促進に直接結び付くものとは認められない。 また,[A]の派遣した従業員等が商品の搬入とともに 店作りを行い,かつ,仮に当該店作りが[A]の商品の販売促進に直接結び付くものであったとしても,上記の販 売促進は,飽くまで店作りによって生じるものであって, 商品の搬入自体によって直接生じるものではないから自社商品の適切な展示による販売促進に直接結び付くものとは 認められない。しかも,商品の搬入自体は,その作業内容からして,被審人の従業員においても行うことが可能なも のと認められるから,結局,[A]は,商品の搬入と共に店作りが行われる場合であっても,本件従業員等派遣によって派遣した従業員等が商品の搬入を行うことを通じて,自社商品の適切な展示による販売促進により,直接の利益 を得ることができるとは認められない。」

「[A]が本件従業員等派遣によって派遣した従業員等の行う店作りが,上記のように[A]の商品の販売促進に直接結び付くといえるためには,[A]が本 件従業員等派遣によって派遣した従業員等が店作りを行う場合と,被審人の従業員がこれを行う場合とで差異が生じ, かつ,その差異が当該商品の販売促進に違いを生じさせること,すなわち,[A]が本件従業員等派遣によって派 遣した従業員等が行う店作りが,被審人の従業員がこれを行う場合との比較において,当該納入業者の商品についての格別の販売促進の効果を生じさせるものであることが必要となる。なぜなら,被審人運営店舗における新規開店又 は改装開店の際の店作りが販売促進に結び付くものであっ たとしても,本件従業員等派遣によって派遣された[A]の従業員等が実施する場合と被審人の従業員が実施する 場合とで差異がないのであれば,上記の販売促進は本件従 業員等派遣によって生じたものとは評価できないし,仮に これらの店作りに差異が生じるとしても,その差異が当該 商品の販売促進に違いを生じさせないのであれば,本件従 業員等派遣によって派遣された従業員等の行う店作りが, 当該納入業者の商品についての販売促進に直接結び付いた とはいえないからである。

また,上記のように,本件従業員等派遣によって派遣された[A]の従業員等が店作りを行う場合と,被審人の 従業員がこれを行う場合とで差異が生じるというためには, その前提として,本件従業員等派遣によって派遣された[A]の従業員等の実施する店作りが,被審人の従業員によっては実施できないものである必要がある。なぜなら,当該店作りが,単に被審人によって決められた棚割りに従って店作りをするというだけであるなど,被審人の従業員に おいて行うことができるものであれば,このような店作りは,本来は被審人の従業員において実施すべき作業を納入 業者の派遣する従業員等が代わって実施させられているにすぎず,本件従業員等派遣によって派遣された[A]の従業員等が店作りを行う場合と,被審人の従業員がこれを 行う場合とで差異が生じないということになり,127社 が本件従業員等派遣によって派遣した従業員等による店作 りが,[A]の商品についての販売促進に直接結び付いたとはいえないからである。」

「被審人運営店舗において棚割表に基づいて実施される店作 りにおける在庫商品の配置,陳列については,被審人の従 業員において実施することが可能なものと認められるから,A]が本件従業 員等派遣によって派遣した従業員等が在庫商品の配置,陳 列を実施することは,被審人の従業員がこれを実施する場 合と比べて,特段の差異を生じさせるものではないものと認められる。

以上に加え,経験則上,在庫商品の配置,陳列は,商品 の展示,装飾に比べて,消費者の商品選択への影響の度合 いが小さいことが明らかであることからすると,[A]が本件従業員等派遣によって派遣した従業員等が行う店作 りのうち,在庫商品の配置,陳列が,これを被審人の従業 員が行った場合との比較において,[A]の商品につい ての格別の販売促進の効果を生じさせるものとまでは認め られず,当該商品についての販売促進に直接結びつくものとは認められない。」

「玩具・書籍については納入業者が一定の裁量をもって店作りを行っているという実情があったものと認められる。しかし,まず,玩具及び書籍の在 庫商品の配置,陳列の作業自体については,その作業内容からして,被審人の従業員が実施できないものであったと は認められない。また,証拠によれば,被審人は,納入業 者との商談を通じて,どの玩具や書籍をどれだけ仕入れる かを決定しており、被審人運営店舗における棚割りについては,被審人の担当者と納入業者の担当者との商談の 際,商品の演出のためのPOPや実機の使用等の展示,装飾を含めて打合せが行われ,棚割表の内容は,これを作成 する店舗支援部の担当者等の承諾の下,一定程度,納入業 者の意見が反映されたものとなっていたものと認められることからすると、玩具や書籍についても,被審人において,各商品の流行等を踏まえた棚割表を作成した上で,これに基づいて被審人の従業員に納入業者 の派遣する従業員等が実施するのと同様の在庫商品の配置, 陳列を行わせることは可能であったものと認められる。さらに,証拠によれば,玩具や書籍については,棚割表の作 成の時点では実際に納入される商品が具体的に決まっておらず,実際に納入される商品に応じて,店作りの現場にお ける棚割りの調整が必要になることもあったものと認められるものの,この調整についても,納入業者の従業員等が店作り の現場において在庫商品の配置,陳列を実施しなければできないものとは認められない。そうすると,・・・被審人の従業員 がこれを行う場合との比較において,特段の差異を生じさせるものではないということになる。」

「[A]が本件従業員等派遣によって派遣した従 業員等が行った店作りのうち,商品の展示,装飾について,これが[A]の商品についての販売促進に直接結び付き,かかる観点から[A]が直接の利益を得ることができるかについて検討する。」

「一般に,家電量販店における商品の展示,装飾の工夫は,商品の販売促進に影響を与え得るものと認められるものの・・・問題となるのは,[A]が本件従業員等派遣によって派遣した従業員等が商品の展示,装飾を実施する場合と,被審人の従業員がこれを実施する場合とで差異が生じ,かつ,その差異が当該商品の販売促進に違いを生じさせるか,すなわち,[A]が本件従業員等派遣によって派遣した従業員等が実施する商品の展示,装飾が,被審人の従業員がこれを実施する場合との比較において,[A]の商品について格別の販売促進の効果を生じさせるか否かである。」     

「[A]が本件従業員等派遣によって派遣した従業員等が商品の展示,装飾を実施することは,基本的に,被審人の従業員がこれを実施する場合と比べて,基本的に,特段の差異を生じさせるものではないものと認められる。」

「その一方で,・・・特に,商品について熟知している納入業者の派遣する従業員等が,その技術や知識等を活用して当該商品の展示,装飾を行うことを通じて,当該商品の特有の魅力が発揮され,被審人の従業員においてこれを行う場合との比較において,明らかに差異を生じるような特性を有する商品について,納入業者の派遣する従業員等による当該商品の展示,装飾が,その商品特有の魅力を演出するために行われるものであり,かつ,被審人の従業員において,そのような商品の展示,装飾をすることができないという場合(以下「商品の特性上格別の販売促進の効果を生じさせる場合」という。)には,当該商品についての格別の販売促進の効果を生じさせるものとして,当該商品の販売促進に直接結び付くものと認めるのが相当である。ただし,[A]が本件従業員等派遣を通じて直接の利益を得ることができると認められる場合でも,被審人が[A]に本件従業員等派遣をさせたことが従業員等派遣例外事由②に該当するかについては,上記の直接の利益を勘案して従業員等派遣による負担が合理的な範囲内のものであり,それが当該納入業者の同意の上で行われた場合であるかによって判断されることになる。」

「[A]は,本件従業員等派遣をすることにより,自社商品の展示スペースの確保(拡張)ができると認めることはできず,また,これができるとしても,それが自社商品の適切な展示のように,[A]の商品についての販売促進に直接結び付くものであると認めることはできない。」

「[A]は,本件従業員等派遣を通じて,情報収集の機会及び店舗従業員等との良好な人間関係の構築による自社商品の販売促進により,直接の利益を得ることはできないものと認められる。」

「[A]による本件従業員等派遣の実施自体が自社商品についての販売促進に直接結び付くものであるか否かについて検討するに,・・・,被審人は,新規開店又は改装開店の際の店舗開設準備作業のために本件従業員等派遣を受けるに当たり,納入業者に対して見返りを約束していたわけではなく,納入業者の納入する製品を勧めるかは被審人の店員次第であり,被審人と納入業者との商談の際,当該納入業者が従業員等派遣を行っていたことを考慮した交渉がされていたわけでもなかったことからすると,[A]が本件従業員等派遣を実施すること自体が,当該納入業者の商品の販売促進に直接結び付くものとは認められない。また,被審人運営店舗の新規開店又は改装開店の際に,[A]の商品の売上げが拡大する可能性があるとしても,それは被審人運営店舗の新規開店又は改装開店自体やそれらに伴うセールに集客効果があるためであり,127社が本件従業員等派遣に応じたことによるものではないから,本件従業員等被審人運営店舗の新規開店又は改装開店自体やそれらに伴うセールに集客効果があるためであり,[A]が本件従業員等派遣に応じたことによるものではないから,本件従業員等派遣によって得られる直接の利益には当たらない。派遣によって得られる直接の利益には当たらない。」

「被審人は,被審人アンケートに対する回答書において,新規開店又は改装開店の際の従業員等派遣について,仮に「エディオンから日時・場所の連絡がなければ,自発的に日時・場所の確認を行い,従業員等を派遣していた。」との回答を選択した納入業者について,本件従業員等派遣を自主的に行っていたのであるから,被審人が当該納入業者から本件従業員等派遣を受けたことは濫用行為(不利益行為)に該当しないと主張する。

 しかしながら,証拠によれば,従前,家電小売業界では,納入業者が家電量販店の新規開店又は改装開店前の準備作業を負担する商慣習が存在していたところ,[A]を含む納入業者は,長らく被審人から店舗開設準備作業のための従業員等派遣の依頼を受け,これに応じてきたという実情があり,このような中で,仮に,被審人からの連絡がない場合に納入業者において自主的に問い合わせをして従業員等の派遣に応じるということがあったとしても,それ自体,正常なものとは認められない商慣習があったことの現れともいえるのであって,上記回答をもって,被審人が上記回答をした納入業者に本件従業員等派遣をさせることによって,自身が負うべき負担を納入業者に転嫁していることは正当化されず,これが不利益行為に当たらないものと認めることはできない。

 被審人は,被審人が本件立入検査後の平成221130日付けで納入業者に対して従業員の派遣に対する報酬の支払を申し出たところ,一部の納入業者が,自社の営業活動の一環であるという理由により,報酬の支払を受けることを辞退する旨の文書を被審人に送付したことや,平成24423日付けで納入業者に対して今後の商品の搬出,商品の搬入及び店作りについては被審人で行う体制を構築する旨通知したところ,一部の納入業者が,店作りは当該納入業者らの営業活動又は販売促進活動であるなどとして,従業員等を派遣して店作りに参加することを希望し,又は,これに併せて被審人による費用の負担を求めないとする旨の文書を被審人に送付したことなどを指摘し,納入業者による上記の対応は本件対象期間中にされたものではないものの,件対象期間中においても,同様に,店作りのための従業員等派遣を自らの営業活動ないし販売促進活動として自主的に行っていたことを示すものであると主張する。

 しかしながら,一部の納入業者が被審人の申出に対して上記のような対応をしたことは,当該納入業者が本件従業員等派遣について,自社に一定の利益があると考えていたことをうかがわせるものとはいえるものの,・・・,被審人が[A]に本件従業員等派遣をさせた行為は,従業員等派遣例外事由に当たるなどの特段の事情がない限り,不利益行為に当たるとものと認められる。そして,店作りなどのために従業員等派遣を希望する理由やそれによって得ることができる利益,これを得ることができる根拠等についておおむね抽象的な内容しか記載されていない上記各文書の提出又は送付をもって,上記のような利益を得ることができることを裏付ける事実等が具体的に認められないにもかかわらず,納入業者が本件従業員等派遣を通じて直接の利益を得ることができるとか,当該納入業者における従業員等派遣の負担が合理的な範囲内のものであるなどと認めることはできず,従業員等派遣例外事由②に当たるなどの特段の事情があるものと認めることはできない。

 家電製品等の小売業者に対して商品を納入する者が,契約上の義務が無いにもかかわらず,実費も含めて無償で従業員等の派遣をさせられるという実態が,被審人のみならず,一般的な商慣習として家電業界に長年にわたり定着しており,納入業者において,通常の営業活動の一環であると考えて当該従業員等の派遣を行っていたとしても,そのような商慣習は,前記のような優越的地位の濫用規制の趣旨に鑑みれば,公正な競争秩序の維持・促進の立場から,「正常な商慣習」(独占禁止法第2条第9項第5号柱書)として是認されるべきではない。

 被審人が,[A]に本件従業員等派遣をさせたことについては,[B]に店作りのための従業員等派遣をさせたこと等については,商品の特性上格別の販売促進効果を生じさせる場合に当たり,自社商品の適切な展示による販売促進により直接の利益を得ることができるものとして,従業員等派遣例外事由②に該当すると認めることができるが,その余については,上記3社に対して上記以外の店舗開設準備作業をさせたことを含めて,いずれも従業員等派遣例外事由②に当たるなどの特段の事情を認めることはできない。

 以上によれば,被審人[A]に本件従業員等派遣をさせたことは,前記・・・例外部分を除き,いずれも不利益行為に該当する。」

5)[A]が不利益行為を受け入れるに至った経緯や態様等

 「被審人は,消費者に販売するために商品を納入業者から購入する大規模な小売業者であり,他方で[A]は,自ら製造しあるいは自ら仕入れた商品を,被審人に販売する納入業者であって,[A]に対する前記 で認定した不利益行為は,このような被審人によるいわゆるバイイングパワーが発揮されやすい取引上の関係を背景としたものである。

 このような背景の下,前記・・・ で認定した不利益行為は,・・・[A]という多数の取引の相手方に対して,遅くとも平成2096日から平成221129日まで(本件対象期間)の約23か月という長期間にわたり,133回に上る被審人運営店舗の新規開店又は改装開店に際し,被審人の利益を確保することなどを目的として,被審人運営店舗の店舗開設準備作業に関係する被審人の従業員の連携の下,組織的かつ計画的に一連のものとして行われたものである。

 以上のような不利益行為を[A]が受け入れるに至った経緯や態様は,それ自体,被審人が納入業者一般に対してその意に反するような要請等を行っても,一般的に甘受され得る力関係にあったことを示すものであるから,前記・・・ において被審人の[A]に対する取引上の地位を判断する際に考慮したとおり,前記 ・・・で認定した不利益行為を受け入れていた納入業者については,被審人が著しく不利益な要請等を行ってもこれを受け入れざるを得ないような場合にあったことをうかがうことができる。」

 

公正競争阻害性について

「被審人は,・・・その取引上の地位が対象納 入業者に対して優越していることを利用し,前記 のとおり,被審人の利益を確保することなどを目的として,被審人運営店舗の店舗開設準備作業に関係する被審人の従業員の連携の下,組織的かつ計画的に一連のものとして,対象納入業者に本件従業員等派遣をさせていることかすると,これらの行為は,行為者の優越的地位の濫用として一体として評価できる場合に該当し,独占禁止法上一つの優越的地位の濫用として規制されることになる。

 また,被審人の上記の行為により,遅くとも平成20年9月6日から平成22年11月29日までの約2年3か月もの長期間にわたり,92社という多数の納入業者に対し,合計133回に及ぶ被審人運営店舗の新規開店又は改装開店に際し,延べ3,165回という多数回にわたって従業員等を派遣することを余儀なくさせていたのであって,これは,納入業者である対象納入業者の自由かつ自主的な判断による取引を阻害するものといえる。

 さらに,対象納入業者は,上記のような本件従業員等派遣を余儀なくされたことによって生じる人件費等の負担により,その競争者との関係において競争上不利となる一方で,被審人は,本来であれば自社の従業員等において行うべき店舗開設準備作業の一部を多数の納入業者に多数回にわたって行わせ,人件費等の負担を納入業者に転嫁することにより,被審人がその競争者との関係において競争上有利となるおそれがあったものと認められる。

 そうすると,被審人が,その優越的地位を利用して,対象納入業者に本件従業員等派遣をさせたことは,正常な商慣習に照らして不当に行われたものであって,公正な競争を阻害するおそれ(公正競争阻害性)があるものと認められる。」

 

《納入業者[B]》について

「《納入業者[B]》は,高級オーディオ商品の輸入業者であり、・・・,被審人に対し,音響商品を納入していた。

 《納入業者[B]》による被審人の店舗への従業員等派遣は,《店舗名①》が《店舗名②》6階に移転することに伴う商品の搬出,商品の搬入及び店作り各1回である。

《納入業者[B]》が派遣した従業員等が従事した作業は商品の搬出と商品の搬入,店作りであったが,商品の搬出,商品の搬入については,当該商品についての販売促進に直接結び付くものとは認められない。

 また,店作りについても,127社が本件従業員等派遣によって派遣する従業員等が在庫商品の配置,陳列を実施することはもとより,商品の展示,装飾を実施することも,基本的に,被審人の従業員がこれを行う場合との比較において,127社の商品についての格別の販売促進の効果を生じさせるものであるとは認められない。

 しかしながら,[B ら4社]が取り扱ういわゆる輸入品の超高級オーディオ商品については,その繊細な音の違いが消費者の嗜好に影響し,消費者は,自身の好みの音であるかを確認するため,当該商品が展示された店舗等で試聴をした上で,これを購入することがあること,上記4社の超高級オーディオ商品が,その設置方法如何によっては,聴こえる音に繊細な違いが生じ得るため,店舗での商品の展示に当たっては,電源,アンプ,ケーブル,スピーカーといった諸要素について,微妙なセッティングが求められること,上記4社が取り扱う輸入品の超高級オーディオ商品には,その表面に天然木や丁寧に磨かれた金属が用いられていて,取扱いに注意する必要があるものがあったこと,本件対象期間中,《店舗名③》のオーディオ売場と《店舗名①》のみが,上記のような性質を有する輸入品の超高級オーディオ商品を取り扱っていたところ,平成22年2月,《店舗名①》が,《店舗名②》(旧《店舗名③》)オーディオ売場と統合され,同店6階のオーディオ売場に移転したこと,同月以降,《店舗名②》(旧《店舗名③》)オーディオ売場において,視聴スペースを確保した上で,上記のような超高級オーディオが展示販売されていたことが認められる。また,証拠によれば,《納入業者[B]》が被審人に納入していた《事業者P》のスピーカーや《事業者Q》のケーブルは,一点で100万円を超えるものもあるような極めて高価な輸入オーディオ商品であったこと,被審人は,《納入業者[B]》の納入する上記商品について,《店舗名①》及び移転後の《店舗名②》のみにおいて,消費者が視聴できる状態で展示し,販売していたことが認められる。さらに,前記のとおり,《納入業者[B]》による被審人の店舗への従業員等派遣は,《店舗名①》が平成22年2月に《店舗名②》6階に移転することに伴う商品の搬出,商品の搬入及び店作り各1回であり,証拠によれば,その際に,《納入業者[B]》の従業員が,店作りとして,自社商品の設定,調整を行ったことが認められる。

 上記のような各事実からすると,《店舗名②》及び《店舗名①》において展示して販売されていた輸入品の超高級オーディオ商品は,商品について熟知している納入業者の派遣する従業員等が,その技術や知識等を活用して当該商品の展示,装飾を行うことにより,当該商品の特有の魅力が発揮され,被審人の従業員においてこれを行う場合との比較において,明らかに差異を生じるような特性を有するものであり,また,納入業者の派遣する従業員等が店作りの際に行っていた当該商品の展示(設定,調整)は,その特有の魅力を演出するために行われるものであり,・・・その展示(設定,調整)については,被審人の従業員において実施すること自体は不可能ではなかったとしても,被審人の従業員が納入業者の従業員等が実施する場合と同様の水準で実施することはできないものと認められるから,《納入業者[B]》が本件従業員等派遣によって派遣した従業員等が店作りの際に行っていた上記の輸入品の超高級オーディオ商品の展示(設定,調整)は,商品の特性上格別の販売促進の効果を生じさせる場合に当たり,当該商品の販売促進に直接結び付くものと認めるのが相当である。

 そうすると,《納入業者[B]》は,本件従業員等派遣によって派遣した従業員等が《店舗名①》が《店舗名②》6階に移転することに伴う店作りを行うことを通じて,自社商品の適切な展示による販売促進により,従業員等派遣例外事由②にいう直接の利益を得ることができるものと認められる。

 以上によれば,《納入業者[B]》は,《店舗名①》が《店舗名②》6階に移転することに伴う店作りのための本件従業員等派遣を通じて,自社商品の適切な展示による販売促進により,従業員等派遣例外事由②にいう直接の利益を得ることができるものと認められ,この項目で摘示した各証拠によれば,《納入業者[B]》の上記の従業員等派遣の負担は,この利益等を勘案して合理的な範囲内のものであり,《納入業者[B]》の同意の上で行われたものと認められるから,従業員等派遣例外事由②に該当し,不利益行為には当たらないものと認められる。

 一方,本件における被審人の主張及び証拠を精査しても,被審人が《納入業者[B]》に上記の移転の際に商品の搬出及び商品の搬入のために本件従業員等派遣をさせたことについて,従業員等派遣例外事由②に当たるなどの特段の事情を認めることはできない。


 

 

[事例]

日本トイザらス(株)に対する件

審判審決平成2764

審決集62119

独禁法19条 295号ハ

*優越的地位の濫用

 

優越的地位の濫用が規制されているのは,「自己の取引上の地位が相手方に優越している一方の当事者が,取引の相手方に対し,その地位を利用して,正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることは,当該取引の相手方の自由かつ自主的な判断による取引を阻害するとともに,当該取引の相手方はその競争者との関係において競争上不利となる一方で,行為者はその競争者との関係において競争上有利となるおそれがあり,このような行為は公正な競争を阻害するおそれ(公正競争阻害性)があるといえるからである」。

 

 そして,「どのような場合に公正競争阻害性があると認められるのかについては,問題となる不利益の程度,行為の広がり等を考慮して,個別の事案ごとに判断すべきである」。

 

 「優越的地位の濫用の成否の判断に際して考慮されるべきは「正常な商慣習」であり,公正な競争秩序の維持・促進の観点から是認されないものは「正常な商慣習」とは認められない」。

 

 「優越的地位の濫用規制の趣旨に照らせば,取引の一方の当事者(以下「甲」という。)が他方の当事者(以下「乙」という。)に対し,取引上の地位が優越しているというためには,甲が市場支配的な地位又はそれに準ずる絶対的に優越した地位にある必要はなく,取引の相手方との関係で相対的に優越した地位にあれば足りると解される。また,甲が取引先である乙に対して優越した地位にあるとは,乙にとって甲との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すため,甲が乙にとって著しく不利益な要請等を行っても,乙がこれを受け入れざるを得ないような場合をいうと解される。」

 

「ところで,取引の相手方に対し正常な商慣習に照らして不当に不利益を与える行為(以下「濫用行為」ということもある。)は,通常の企業行動からすれば当該取引の相手方が受け入れる合理性のないような行為であるから,甲が濫用行為を行い,乙がこれを受け入れている事実が認められる場合,これは,乙が当該濫用行為を受け入れることについて特段の事情がない限り,乙にとって甲との取引が必要かつ重要であることを推認させるとともに,「甲が乙にとって著しく不利益な要請等を行っても,乙がこれを受け入れざるを得ないような場合」にあったことの現実化として評価できるものというべきであり,このことは,乙にとって甲との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すことに結び付く重要な要素になるものというべきである。

 「また,乙の甲に対する取引依存度が大きい場合には,乙は甲と取引を行う必要性が高くなるため,乙にとって甲との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すことになりやすく,甲の市場におけるシェアが大きい場合又はその順位が高い場合には,甲と取引することで乙の取引数量や取引額の増加が期待でき,乙は甲と取引を行う必要性が高くなるため,乙にとって甲との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すことになりやすく,また,乙が他の事業者との取引を開始若しくは拡大することが困難である場合又は甲との取引に関連して多額の投資を行っている場合には,乙は甲と取引を行う必要性が高くなるため,乙にとって甲との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すことになりやすいものといえる。」

 「したがって,甲が乙に対して優越した地位にあるといえるか否かについては,甲による行為が濫用行為に該当するか否か,濫用行為の内容,乙がこれを受け入れたことについての特段の事情の有無を検討し,さらに,①乙の甲に対する取引依存度,②甲の市場における地位,③乙にとっての取引先変更の可能性,④その他甲と取引することの必要性,重要性を示す具体的事実を総合的に考慮して判断するのが相当である。」

 なお,「優越的地位の有無の判断に際しての行為者の市場における地位は,行為者と取引の相手方との取引に係る商品類型を考慮した市場における行為者の地位を検討すべきであると主張するが,行為者が供給する商品全体が取引される市場における行為者のシェアが大きい場合又はその順位が高い場合には,そうでない事業者と比べ,納入業者にとって,自らの利益を拡大する上で,行為者がより魅力的な取引先であることは明らかであり,行為者と取引を行う必要性がより高くなると考えられるから,行為者と特定納入業者との取引上の地位の格差を判断するに当たっては,通常は行為者が供給する商品全体が取引される市場における地位を考慮するのが妥当である。」

 また,取引の相手方のうち特定の事業者が「被審人にとって必要かつ重要な取引先であったとしても,それだけで被審人が[当該事業者]に対し優越的地位にあるとの前記Cの認定を覆すことはできない。」

 

「優越的地位にある行為者が取引の相手方に対して不当に不利益を課して取引を行えば,通常「利用して」行われた行為であると認められる。」

 

「買取取引において,取引の相手方の責めに帰すべき事由がない場合の返品及び減額は,一旦締結した売買契約を反故にしたり,納入業者に対して,売れ残りリスクや値引き販売による売上額の減少など購入者が負うべき不利益を転嫁する行為であり,取引の相手方にとって通常は何ら合理性のないことであるから,そのような行為は,原則として,取引の相手方にあらかじめ計算できない不利益を与えるものであり,当該取引の相手方の自由かつ自主的な判断による取引を阻害するものとして,濫用行為に当たると解される。」

「もっとも,返品に関しては,例外的に,①商品の購入に当たって,当該取引の相手方との合意により返品の条件を明確に定め,その条件に従って返品する場合,②あらかじめ当該取引の相手方の同意を得て,かつ,商品の返品によって当該取引の相手方に通常生ずべき損失を自己が負担する場合,③当該取引の相手方から商品の返品を受けたい旨の申出があり,かつ,当該取引の相手方が当該商品を処分することが当該取引の相手方の直接の利益となる場合などは,当該取引の相手方にあらかじめ計算できない不利益を与えるものではなく,濫用行為には当たらないと解される(ただし,上記①については,返品が当該取引の相手方が得る直接の利益等を勘案して合理的であると認められる範囲を超えた負担となり,当該取引の相手方に不利益を与えることとなる場合には,当該取引の相手方の自由かつ自主的な判断による取引を阻害するものとして,濫用行為に当たることとなる。)。」

「減額に関しても,例外的に,①対価を減額するための要請が対価に係る交渉の一環として行われ,その額が需給関係を反映したものであると認められる場合,②当該取引の相手方から値引き販売の原資とするための減額の申出があり,かつ,当該値引き販売を実施して当該商品が処分されることが当該取引の相手方の直接の利益となる場合などは,当該取引の相手方にあらかじめ計算できない不利益を与えるものではなく,濫用行為には当たらないと解される。」

「取引の相手方の責めに帰すべき事由がない場合の返品及び減額については,前記ウ及びエのような例外と認められるべき場合(以下,これに該当する場合の事情を「例外事由」という。)はあるものの,通常は取引の相手方にとって何ら合理性のないことであるから,例外事由に当たるなどの特段の事情がない限り,当該取引の相手方にあらかじめ計算できない不利益を与えるものと推認され,濫用行為に当たると認めるのが相当である。」

 

 

1. 被審人(日本トイザらス株式会社)は,「トイザらス」又は「ベビーザらス」の名称で,玩具,育児用品,子供衣料,文具,学用品,家庭用ゲーム機,ゲームソフトウェア,書籍,スポーツ用品等の子供・ベビー用品全般を専門的に取り扱う小売業を営んでいた。

2. 被審人の年間売上高は約1624億円(平成23年度1月期)であり,子供・ベビー用品全般を専門的に取り扱う大手3社と呼ばれる小売業者の中で最も大きく,日本に本店を置く子供・ベビー用品全般を専門的に取り扱う小売業者の中で最大手の事業者だった。

3. 被審人は,自社が販売する商品のほとんど全てを納入業者から買取取引(小売業者が納入業者から商品の引渡しを受けると同時に当該商品の所有権が当該納入業者から当該小売業者に移転し,その後は当該小売業者が当該商品の保管責任を負う取引形態をいう。以下同じ。)の方法により仕入れていた。

4. 14社は,玩具,家庭用ゲーム機器,知育玩具,紙おむつ等の製造業者又は卸売業者であり,被審人に対し,被審人が販売する商品を納入していた。

5. 被審人は,14社のうち5社から取引に係る商品を受領した後,当該商品を当該取引の相手方に引き取らせた(以下,取引の相手方から取引に係る商品を受領した後当該商品を当該取引の相手方に引き取らせることを「返品」という。)。

6. 被審人は,14社のうち13社に対して取引の対価の額を減じた(以下,取引の相手方に対して取引の対価の額を減じることを「減額」という。)被審人は,購入した商品について値引き販売を実施し,その値引き相当額の全部又は一部を当該特定納入業者に負担させる方法で減額を行っていた。

 

公取委の判断

 優越的地位について,取引の相手方たる事業者のうち1社に対する「被審人に対する取引依存度は約0.5パーセントであり,取引依存度における被審人の順位は約*社中第21位であるものの,被審人に対する年間売上高は約*万円であったこと,翌事業年度における被審人に対する取引依存度は約0.7パーセントであ」り,当該事業者の「取扱商品である*(以下「本件商品」)に限ってみた場合には,被審人に対する取引依存度は約5パーセントであり,また,[当該事業者]の被審人に対する売上げの9割以上は[当該商品]であったことが認められ,また,[当該事業者]は,被審人との取引額や取引数量が大きいこと,年間総売上高における被審人に対する取引依存度が高いこと,[本件商品]の取引依存度については被審人の順位が常に上位であることを認識していたことが認められるから,[当該事業者]は被審人を主な取引先としている状況にあったことが認められる。」

「被審人は,[本件商品]の主な販路はドラッグストア等であること,[本件商品]の小売市場における被審人の地位が低いこと」などから,「被審人以外の取引先に変更できる可能性は高」く「被審人からの著しく不利益な要請を受け入れざるを得ない立場にはないし,被審人との取引の継続が困難になることが[当該事業者]の事業経営上大きな支障を来すこともないと主張する」が,当該事業者は「主力商品である[本件商品]について被審人に代わる取引先を見付けることが困難であると認識し」ており,「現に被審人はIに対して減額という濫用行為を行い,[当該事業者]はこれを受け入れているのであり,これを受け入れたことについて・・・特段の事情があったことはうかがわれず,これと[他]の事情を総合すれば,被審人の取引上の地位は[当該事業者]に優越したと認めるのが相当であ」る。

 

 返品のうち,特定の返品については「売上不振商品であることを理由にしたものと認められるところ,同各返品について例外事由に当たるなどの特段の事情はうかがわれないから,同各返品については」,取引の相手方に「あらかじめ計算できない不利益を与えたものと推認され,濫用行為に当たると認められる。」

 減額のうち,特定の減額については「被審人から値引き販売の実施に伴う費用負担の要請を受け」て取引の相手方が応じたものであり,要請に応じた理由は,被審人が「重要な取引先であり,当該要請を断ると取引に影響すると考えているからであり,実際にも被審人のバイヤーから,当該要請を断ると購入量を減らす等のペナルティを示唆されたこともあり,当該要請に応じざるを得なかったこと,また,競合する他の納入業者も同様の要請に応じて費用を負担していたので,[自社]だけ断るということはできなかったこと」などのためである。したがって,当該減額については,「被審人がAに対し正当な理由がないのに値引き販売の実施に伴う費用負担を求め,同社は今後の取引に与える影響を懸念してそれを受け入れざるを得なかった」のであり,取引の相手方に「あらかじめ計算できない不利益を与えたものであり,濫用行為に当たると認められる。」

「他方で,減額Rについては,取引の相手方が商品をリニューアルするのに伴い,「新商品の販売促進と,品質の劣る旧商品が長期間にわたって店頭で販売されることの弊害を避けるために,旧商品を早期に売り切ることを目的として,被審人に対し値引き販売費用の一部負担を提案したこと,その結果,旧商品の値引き販売が実施されて旧商品の消化が促進されるとともに,[当該事業者]の被審人に対する[商品]の販売実績が上がったことが認められる。」そうすると,本減額については,相手方から「申出があり,かつ,当該減額を原資とした値引き販売の実施により旧商品が処分されることが[相手方]の直接の利益となる場合に当たると認められ」るのであり,この減額については,取引の相手方に「あらかじめ計算できない不利益を与えたものではなく,濫用行為に当たるとは認められない。」

 

 公正競争阻害性について,「被審人は,既に認定したとおり,特定納入業者のうち115社という多数の取引の相手方に対して,遅くとも平成2116日から平成23131日までの2年以上もの期間にわたり,被審人の組織的かつ計画的に一連の行為として本件濫用行為を行ったものであり,これにより,115社にあらかじめ計算できない不利益を与え,115社の自由かつ自主的な判断による取引が阻害されたものであり,これは,取りも直さず,115社が,返品や減額によって,その競争者との関係において競争上不利となる一方で,被審人が,当該返品や減額によって,その競争者との競争において競争上有利となるおそれを生じさせたものであるから,その点で既に本件濫用行為には公正競争阻害性があることが認められる。

 なお,被審人は,その業界の慣行とされている返品や値引き販売の実施に伴う費用負担としての減額であれば,取引の相手方がその競争者との関係において競争上不利となるおそれも,行為者がその競争者との関係で競争上有利となるおそれもないから,取引の相手方に返品等を行うことによって,必然的に取引の相手方がその競争者との関係において競争上不利となり,行為者がその競争者との関係で競争上有利となるおそれがあるということはできないと主張する。

 しかし,優越的地位の濫用の成否の判断に際して考慮されるべきは「正常な商慣習」であり,公正な競争秩序の維持・促進の観点から是認されないものは「正常な商慣習」とは認められないから,仮に本件濫用行為が現に存在する商慣習に合致しているとしても,それにより優越的地位の濫用が正当化されることはない。また・・・子供・ベビー用品を取り扱う小売業者において,納入業者の責めに帰すべき事由のない返品や減額が行われることが業界の慣行であると認めることはできない。

したがって,被審人の上記主張は採用できない。」

(*は記載が略されている部分)

 

 


 

 

[事例]

(株)セブン-イレブン・ジャパンに対する件

排除措置命令平成21622

公正取引委員会審決集56巻第二分冊6

独禁法19条 295号ハ

*フランチャイズ

 

�1.株式会社セブン-イレブン・ジャパン(以下,「セブン-イレブン」という。)は,「セブン-イレブン」という統一的な商標等の下に自社のフランチャイズ・チェーンに加盟する事業者(以下,「加盟者」という。)に対し、特定の商標等を使用する権利を与えるとともに、当該事業者によるコンビニエンスストアの経営について、統一的な方法で統制、指導及び援助を行い、これらの対価として当該事業者から金銭を収受する事業(以下,「コンビニエンスストア・フランチャイズ事業」という。)を営む。

2. セブン-イレブン・ジャパンが自ら経営するコンビニエンスストア(以下「直営店」という。)及びセブン-イレブン・ジャパンのフランチャイズ・チェーンに加盟する事業者(以下「加盟者」という。)が経営するコンビニエンスストア(以下「加盟店」という。)の店舗数は合計約12000店(直営店約800店,加盟店約11200店)であり,平成1931日から平成20229日までの1年間における売上額は,直営店が約1500億円,加盟店が約24200億円の合計約25700億円であって,セブン-イレブンは,店舗数及び売上額のいずれについても,日本においてコンビニエンスストア・フランチャイズ事業を営む者の中で最大手の事業者である。

3. これに対し,加盟者は,ほとんどすべてが中小の小売業者である。加盟者には,加盟者が自ら用意した店舗で経営を行うタイプ(以下,「タイプ1」という。)及びセブン-イレブンが用意した店舗で加盟者が経営を行うタイプ(以下,「タイプ2

」という。)がある。

4. セブン-イレブンは,加盟者との間で,加盟者が使用することができる商標等に関する統制,加盟店の経営に関する指導及び援助の内容等について規定する加盟店基本契約を締結している。

5.加盟店基本契約においては,契約期間は15年間とされ,当該契約期間の満了までに,加盟者とセブン-イレブン・ジャパンの間で,契約期間の延長又は契約の更新について合意することができなければ,加盟店基本契約は終了することとされている。そして,タイプ1の加盟者については,加盟店基本契約の終了後少なくとも1年間は,コンビニエンスストアに係るフランチャイズ事業を営むセブン-イレブン以外の事業者のフランチャイズ・チェーンに加盟することができず,タイプ2の加盟者については,加盟店基本契約の終了後直ちに,店舗をセブン-イレブン・ジャパンに返還することとされている。

6. セブン-イレブン・ジャパンは,加盟店基本契約に基づき,加盟店で販売することを推奨する商品(以下「推奨商品」という。)及びその仕入先を加盟者に提示している。加盟者が当該仕入先から推奨商品を仕入れる場合はセブン-イレブンのシステムを用いて発注,仕入れ,代金決済等の手続を簡便に行うことができるなどの理由により,加盟店で販売される商品のほとんどすべては推奨商品となっている。

7.セブン-イレブンは,加盟店が所在する地区にオペレーション・フィールド・カウンセラーと称する経営相談員を配置し,加盟店基本契約に基づき,経営相談員を通じて,加盟者に対し,加盟店の経営に関する指導,援助等を行っている。加盟者は,それらの内容に従って経営を行っている。

8. 前記2ないし7までの事情等により,加盟者にとっては,セブン-イレブンとの取引を継続することができなくなれば事業経営上大きな支障を来すこととなり,このため,加盟者は,セブン-イレブンからの要請に従わざるを得ない立場にある。したがって,セブン-イレブンの取引上の地位は,加盟者に対し優越している。

9. 加盟店基本契約においては,加盟者は,加盟店で販売する商品の販売価格を自らの判断で決定することとされている。

10. 商品の販売価格を決定したとき及び決定した販売価格を変更しようとするときは,セブン-イレブンに対し,その旨を通知することとされている。

11. セブン-イレブンは,加盟店基本契約に基づき,推奨商品についての標準的な販売価格(以下「推奨価格」という。)を定めてこれを加盟者に提示しているところ,ほとんどすべての加盟者は,推奨価格を加盟店で販売する商品の販売価格としている。

12. セブン-イレブンは,推奨商品のうちデイリー商品(品質が劣化しやすい食品及び飲料であって,原則として毎日店舗に納品されるものをいう。)について,メーカー等が定める消費期限又は賞味期限より前に,独自の基準により販売期限を定めているところ,加盟店基本契約等により,加盟者は,当該販売期限を経過したデイリー商品についてはすべて廃棄することとされている。

13. 加盟店で廃棄された商品の原価相当額については,加盟店基本契約に基づき,その全額を加盟者が負担することとされているところ,セブン-イレブンは,セブン-イレブンがコンビニエンスストアに係るフランチャイズ事業における対価として加盟者から収受しているセブン-イレブン・チャージと称するロイヤルティ(以下「ロイヤルティ」という。)の額について,加盟店基本契約に基づき,加盟店で販売された商品の売上額から当該商品の原価相当額を差し引いた額(以下「売上総利益」という。)に一定の率を乗じて算定することとし,ロイヤルティの額が加盟店で廃棄された商品の原価相当額の多寡に左右されない方式を採用している。

14. 加盟者が得る実質的な利益は,売上総利益からロイヤルティの額及び加盟店で廃棄された商品の原価相当額を含む営業費を差し引いたものとなっているところ,平成1931日から平成20229日までの1年間に,加盟店のうち無作為に抽出した約1100店において廃棄された商品の原価相当額の平均は約530万円となっている。

15. セブン-イレブンは,かねてから,デイリー商品は推奨価格で販売されるべきとの考え方について,経営相談員を始めとする従業員に対し周知徹底を図ってきているところ,前記のとおり,加盟店で廃棄された商品の原価相当額の全額が加盟者の負担となる仕組みの下で

(1) 経営相談員は,加盟者がデイリー商品について,セブン-イレブンが独自の基準により定める販売期限が迫っている商品について、それまでの販売価格から値引きした価格で消費者に販売する行為(以下,「見切り販売」という。)を行おうとしていることを知ったときは,当該加盟者に対し,見切り販売を行わないようにさせる

2) 経営相談員は,加盟者が見切り販売を行ったことを知ったときは,当該加盟者に対し,見切り販売を再び行わないようにさせる

3) 加盟者が上記(1)又は(2)にもかかわらず見切り販売を取りやめないときは,経営相談員の上司に当たるディストリクト・マネジャーと称する従業員らは,当該加盟者に対し,加盟店基本契約の解除等の不利益な取扱いをする旨を示唆するなどして,見切り販売を行わないよう又は再び行わないようにさせる

など,見切り販売を行おうとし,又は行っている加盟者に対し,見切り販売の取りやめを余儀なくさせている。

16.前記15の行為によって,セブン-イレブン・ジャパンは,加盟者が自らの合理的な経営判断に基づいて廃棄に係るデイリー商品の原価相当額の負担を軽減する機会を失わせている。

 

法令の適用

「セブン-イレブンは,自己の取引上の地位が加盟者に優越していることを利用して,正常な商慣習に照らして不当に,取引の実施について加盟者に不利益を与えているものであり,これは,不公正な取引方法(昭和57年公正取引委員会告示第15号)の第14項第4号に該当し,独占禁止法第19条の規定に違反する」。

 

 


 

 

 

[参考]

手数料収受行為強要差止等請求控訴事件

東京高等裁判所判決平成24 620

公正取引委員会審決集59巻第二分冊113

独禁法19条 295号ハ

*フランチャイズ

 

被告は,本件フランチャイズ・チェーンの運営者であり,原告らは,その加盟者であるところ,・・・①原告らは,被告から,その保有するコンビニエンス・ストア事業に係る経営ノウハウの使用を許諾され,これに依拠して本件各店舗を経営しており,商品の仕入れについても被告に大きく依存していること,②原告らは,開業時に少なくとも250万円の初期投資をしている上,本件基本契約等では,契約期間は15年間という長期間に及ぶものとされており,契約の終了後,Aタイプの加盟者については,少なくとも1年間はコンビニエンス・ストア営業を行うことができず,Cタイプの加盟者については,直ちに被告に店舗を返還するものとされていること,③被告は,全国37都道府県に1万店舗以上の加盟店を擁し,年間2兆円以上の売上高を有しているのに対し,原告らは,いずれも年間売上高が数億円程度にとどまる中小規模の小売業者であることを指摘することができる。

 これらの諸点に照らすと,原告らと被告との間には,原告らにとって被告との取引を継続することができなくなれば事業経営上多大な支障を来すという関係があるということができるから,本件基本契約等締結後における被告の取引上の地位は,原告らに対して優越しているものというべきである。」

 被告による優越的地位濫用の有無について,「原告らは,原告らには本件対象業務を行う義務がないにもかかわらず,被告はその取引上の優越的地位を利用して,煩瑣なだけで利益の薄い本件対象業務を行うことを不当に強要し,誤収納による損失や多額の現金の取扱いによる強盗被害の危険が高まるという不利益を与えている旨主張するところ,確かに,本件基本契約等には,本件対象業務に関する明文の規定がないことは,原告らの指摘するとおりである。

 イ しかしながら,他方,本件においては,次の諸点を指摘することができる。

 (ア)被告は,本件フランチャイズ・チェーンの運営者として,加盟者との間で本件基本契約等を締結し,自らの保有するコンビニエンス・ストアの経営に関するノウハウや商標,サービスマーク,意匠等を用いて,同一のイメージの下に加盟店の営業を行う権利を与え,経営指導や技術援助等を行う一方,加盟者から,その対価としてチャージの支払を受けている。一般に,このようなフランチャイズ・システムにおいては,フランチャイジーがフランチャイザーから提供されるノウハウや商標,サービスマーク,意匠等を用いて,同一のイメージの下に商品の販売やサービスの提供等を行い,フランチャイズ・チェーン全体が統一的に運営されており,そのために業務マニュアル,商品やサービスの品ぞろえ,接客方法等の統一が図られるとともに,その時々の状況に応じて合理性の認められる限度でこれを変更していくことが予定されているものと解される。

 本件フランチャイズ・チェーンに関しても,前記で認定したとおり,加盟者は,本件基本契約等において,その加盟店が共通の仕様や品ぞろえ,接客方法,便利さ等の特色を有しており,これが本件イメージとして広く認識されていることによって,加盟店の信用が支えられていることを確認した上で,商品構成や品ぞろえ等を含む経営ノウハウを組織化した本件システムに反する行為や本件イメージの変更を行わないことを約している。したがって,加盟者は,本件基本契約等に基づき,本件フランチャイズ・チェーンの利便性にかかわるもので,本件イメージの重要な要素を構成する商品やサービスについては,特段の事情のない限り,これを提供する義務を負っており,商品やサービスの内容,構成等が合理性の認められる限度で随時変更されることも了解していたというべきである。

 (イ)本件においては,被告は,昭和6210月に公共料金等の収納代行サービスを開始した後,その対象となる料金の種類や委託元企業等の数を増やして取扱件数等を増加させていったものであり,原告らの中で最も加盟時期の早い原告X10が加盟した平成8年には,年間取扱件数が約2452万件,年間取扱金額が約1660億円に達する規模となっていた。また,その頃までには,宅配便受付サービスも開始されており,被告の加盟店が収納代行サービスや宅配便受付サービスを提供する店舗であるという認識が一般に広まっていた。そうすると,収納代行サービスや宅配便受付サービスは,平成8年頃までには,本件フランチャイズ・チェーンの利便性にかかわるものとして,本件イメージの重要な要素を構成するに至っていたものというべきである。

 (ウ)また,被告は,加盟希望者が本件システムの内容について十分に理解した上で本件フランチャイズ・チェーンに加盟するかどうかを判断することができるようにするため,契約締結に先立って面接等を実施しているところ,その際,加盟希望者に交付される資料等には,収納代行サービス等の内容や取扱件数及び取扱金額の推移,収納代行サービス等の重要性等が記載されていた上,被告のリクルート担当者も,加盟店では収納代行サービス等を提供することになっていることや,これが本件イメージの一部となって売上げにも貢献していること等を説明していた。原告らも,前記(イ)のとおり,既に収納代行サービスの取扱量が相当な規模に上り,被告の加盟店は収納代行サービス等を提供する店舗であるという認識が一般に広まっている状況下において,上記のような面接等を経た上で本件基本契約等を締結し,既存店舗の訪問や実際の店舗での実地訓練によって収納代行サービス等を体験していたのであるから,収納代行サービス等が本件イメージの重要な要素を構成するサービスであり,加盟店において提供すべきサービスの一つであることを十分に認識し,これを了解した上で,本件基本契約等を締結したものというべきである。

 (エ)さらに,平成222月末の時点で,被告に収納代行サービスを委託する企業や地方公共団体等は,約320社に達しており,現在では,被告の加盟店において本件対象サービス(別紙サービス目録記載①~⑪及び⑭の各サービス)が提供されている。このうち,同目録①~⑪の各サービスは,来店客が持参した払込票又はマルチコピー機から発券される払込票の提示を受けてその委託元に支払う各種料金等の収納を代行することを内容とするものであり,同目録⑭のサービスは,宅配便受付サービスと同様に,大手宅配便業者が取り扱うメール便の受付けを行うことを内容とするものである。各種料金等の収納代行業務は,料金等の種類や委託元の企業等によって格別異なるものではなく,メール便の受付業務も,宅配便の受付業務と特段変わるところはない。したがって,本件対象業務は,いずれも原告らの加盟時に既に導入されていたものか,又は既に導入されていた業務と基本的に性質を同じくするものであるということができる。

 (オ)次に,平成222月末の時点で,本件対象業務1件当たりの手数料収入額(チャージ控除前のもの)は,約66円(来店客の支払手数料を加算した場合には約77円)であり,おにぎりを2個販売した場合の粗利益を若干上回る程度のものである。物品販売の場合には,仕入商品の種類及び数量の決定,商品の陳列,売れ残り商品の廃棄等に要する手間や,廃棄に伴う仕入原価相当額の損失等のコストが生じるのに対し,本件対象サービスの場合には,これらのコストは発生しないこと等も考慮すると,本件対象業務によって加盟店が取得する手数料収入が不当に低廉であるということはできない。

 他方,上記時点で,1店舗当たりの本件対象業務の取扱件数は,1日当たり約70件であり,1件当たりの取扱金額は,約9485円であった。その処理に要する所要時間は,払込票1枚当たり約40秒(一度に複数枚を処理する場合の払込票1枚当たりの所要時間はさらに短縮される。)程度にとどまる上,被告は,本件対象業務の負担軽減や過誤防止のために,払込票のサイズの統一,レジシステムの改良,現金カウント機の割安価格での購入やリースの斡旋,取扱金額の上限設定,料金収納業務保険の導入等を行い,さらに強盗被害の発生を防止するために,加盟店に侵入防止扉や防御盾を設置し,警備会社との間で警備契約を締結した上で,警備会社への通報機能を備えた携帯用非常ボタンを貸与し,自ら保険料を負担して現金盗難被害保険に加入するなどの対策も講じている。

 これらの点からすると,本件対象業務によって原告らの被る負担がこれによって得られる利益に比して過重なものであるとまでいうことはできない。

 (カ)さらに,現在,我が国のコンビニエンス・ストア業界においては,本件対象サービスと同種の収納代行サービス等が広く普及しており,収納代行サービス等は,一般人がコンビニエンス・ストアの提供するサービスとして想定又は利用するものの中でも上位に位置づけられている。したがって,被告の加盟店において本件対象サービスが提供されないという状況が生じた場合には,本件フランチャイズ・チェーンの利便性にかかわる本件イメージが損なわれることは避け難い。

   ウ 前記イで指摘した諸点,とりわけ被告における収納代行サービス等の推移や実施状況,被告の加盟希望者に対する情報提供,本件対象業務の内容やこれによる負担の軽重等に照らすと,被告が原告らに対して本件対象業務を行うことを求めることは,正常な商慣習に照らして不当に原告らに対して不利益を与えるものではなく,独占禁止法295号ハ所定の「不公正な取引方法(優越的地位の濫用)」に当たるということはできない。

   エ これに対し,原告らは,①本件対象業務の処理のために最低でも1日当たり140分を要しており,②本件対象業務1件当たりの手数料収入額は,大手銀行の窓口における振込手数料額(315円から840円)と比して著しく低廉である旨主張する。

 しかしながら,本件対象業務の処理のために1日当たり140分を要するとの事実を認めるに足りる証拠はない。また,原告らの上記主張①は,レジにおける処理業務のほかに,売上金と収納代行サービス等に係る収納金との仕分け作業,受領した払込票の枚数及び金額の確認作業,収納金の送金作業及び銀行での翌日分の両替等の作業が必要であることを前提にするものであるところ,証拠(乙5101)及び弁論の全趣旨によると,被告においては,レジの処理記録に基づいてストアコンピューター上で自動的に各種帳票類が作成されるシステムが導入されているため,収納代行サービスに係る収納金と物品の売上金とを仕分けする作業は不要であることが認められる上,前記1で認定したとおり,現在,被告の加盟店の多くにおいては,現金カウント機や店舗内に設置されたATMを利用して現金の点検や送金を容易に行うことが可能な状況になっているのであるから,原告らの上記主張①は,いずれにしても採用することができない。

 原告らの上記主張②についても,銀行の口座振込業務は,決済の方法や手順等の点において,コンビニエンス・ストアにおける収納代行業務とはその性質を異にするものであるから,収納代行業務の手数料収入額が銀行窓口の振込手数料額を下回るからといって,不当な取引条件を課すものということはできない。

 3  本件深夜営業に係る差止請求について

   (1)本件基本契約の締結後における被告の取引上の地位が原告らに対して優越していることは,前記2で認定,説示したとおりである。

   (2)そこで,進んで,被告による優越的地位濫用の有無について検討する。

   ア この点について,原告らは,被告はその取引上の優越的地位を利用して,本件基本契約等を変更して本件深夜営業を中止したい旨の原告らの申入れを不当に拒絶し,原告らに対し,売上げの少ない本件深夜営業を行うことを強要し,深夜労働の負担や強盗被害の危険という不利益を与えている旨主張する。

   イ しかしながら,前記1で認定した事実によると,原告らは,いずれも本件基本契約に加え,本件条項により本件深夜営業の義務が定められた本件付属契約を締結した上で,本件フランチャイズ・チェーンに加盟したというのであるから,原告らが本件基本契約等に基づき本件深夜営業を行う義務を負うことは明らかである。

 これに加えて,前記1で認定した事実によると,①原告らの中で最も加盟時期の早い原告X10が加盟した平成8年には,既に被告の加盟店は24時間営業の店舗であるという認識が一般に広まっており,被告が契約締結に先立って加盟希望者に交付した資料等にも,24時間営業の実施が明記されていたこと,②深夜の時間帯には,売上額が減少するのが一般的であるものの,被告の加盟店では,従業員の手待ち時間を利用して,発注業務や店舗の清掃・点検等の作業が行われることが多く,来客数の増加する早朝に合わせて早朝向け商品の発注,納品,検品,陳列等も行われていること,③深夜のコンビニエンス・ストア等における強盗事件は,近時,減少傾向にあるとはいえ,軽視し得ないものではあるが,他方において,被告における発生率が他社よりも高いというような状況にはなく,原告らによる本件基本契約等の締結時から現在までの間に,深夜の時間帯における強盗の発生状況等に関して,本件条項を定めるに当たって前提とされた事実関係の基礎が時の経過により失われたと評価し得るほどの重大な事情変更があったとはうかがわれないこと,④被告においても,強盗被害の発生を防止するため,加盟店に侵入防止扉や防御盾を設置し,警備会社との間で警備契約を締結した上で,警備会社への通報機能を備えた携帯用非常ボタンを貸与し,自ら保険料を負担して現金盗難被害保険に加入するなどの各種対策を講じていること,⑤現在,我が国のコンビニエンス・ストア業界においては,24時間営業が広く普及しており,被告の加盟店では,本件深夜営業が行われないことも珍しくないという状況が生じた場合には,本件フランチャイズ・チェーンの利便性にかかわる本件イメージが損なわれることは避け難いこと等を指摘することができる。

 そうすると,被告が本件基本契約等の変更を拒み,本件深夜営業を行うことを原告らに求めることは,正常な商慣習に照らして不当に原告らに対して不利益を与えるものではなく,独占禁止法295号ハ所定の「不公正な取引方法(優越的地位の濫用)」に当たるということはできない。

   ウ これに対し,原告らは,本件深夜営業により過重労働を強いられている旨主張し・・・開業以来,月400時間前後も店内に拘束される過重労働を続けてきたなどとする供述記載部分ないし供述部分が存在する。

 しかしながら,証拠(原告X1本人尋問の結果)によると,原告X1 は,開業時に,従前の借入金の返済及び建築費等のために7000万円を借り入れ,その後も若干の追加借入れを行ったため,毎月40万円以上(一時は月額55万円程度)の返済を余儀なくされており,深夜の時間帯の人件費削減のために自ら勤務せざるを得ないという状況にあることが認められる。

 そうすると,原告X1 の現在の労務が上記のような状況にあるとしても,このような状況に陥ったのは同原告が借財を負担するに至ったことに由来するものというべきであり,このことをもって上記状況が本件深夜営業それ自体の負担によってもたらされたものということはできない。したがって,原告らの上記主張は,採用することができない。」

目録記載①~⑪及び⑭の各サービス(「本件対象業務」という。)について,

「本件基本契約等に本件対象業務に関する明文の規定がないことは原判決も指摘するとおりである。しかし,① 収納代行サービス等は,控訴人らが本件基本契約等を締結した当時には,本件イメージ(本件に関していえば,本件対象サービスが「A」のいずれの店舗でも受けられるというものである。)の重要な要素を構成するに至っていたこと,② 控訴人らも,面接等,既存店舗の訪問や実際の店舗での実地訓練によって収納代行サービス等が本件イメージの重要な要素を構成するサービスであり,加盟店において提供すべきサービスの一つであることを十分に認識し,これを了承した上で,本件基本契約等を締結したこと,③ 控訴人らは,本件基本契約等に基づき,本件イメージを変更し,又はその信用を低下させる行為をしないという法的義務を負ったこと,他方,④ 本件対象業務の手数料は,不当に低廉であるとはいえず,また,収納代行サービス等ための労力等も控訴人らが主張するほどのものではなく(控訴人らが,収納代行サービス等に応じるために従業員等を増員したり,これに応じることによって他の商品等の売上げの減少を招いたことを認めるに足りる証拠はない。),かえって,被控訴人によってその労力等を低減するための方策が採られたり,収納代行サービス等における過誤による損害の補填のために保険が導入されたりされていること,⑤ 本件対象業務は,いずれも控訴人らの加盟時に既に導入されていたものか,又は既に導入されていた業務と基本的に性質を同じくするものであるということができることは,原判決説示のとおりであり,以上の諸点を併せ考えると,本件対象業務は,本件基本契約等に基づく法的義務であるというべきである。

   イ 収納代行サービス等については,のいずれにも記載がされている。また,マルチコピー機が設置されていない店舗が一部にある(甲69)が,それは,店舗内にマルチコピー機を設置するスペースがないという例外的な場合であり,店舗にマルチコピー機が設置されていなくてもマルチコピー機を使用しない収納代行サービス等は行われるのである(Iの証人調書33頁)から,マルチコピー機が一部店舗には設置されていないからといって,収納代行サービス等が本件イメージの重要な要素を構成するに至っていないとまではいえない。

 したがって,控訴人らの主張は理由がない。

   ウ 控訴人らの,① 本件対象業務の処理のために最低でも1日当たり140分を要しており,② 本件対象業務1件当たりの手数料収入額は,大手銀行の窓口における振込手数料額(315円から840円)と比して著しく低廉であるとの主張が理由のないことは,原判決が説示するとおりである。

   (2)  本件深夜営業について

   ア 本件深夜営業は,本件条項に基づく控訴人らの法的義務であるから,控訴人らが,本件深夜営業が経済的に不利益であると感じた後に,被控訴人が控訴人らに対し本件深夜営業を続けるように求めることが,直ちに優越的地位の濫用に当たるとはいえない。

   イ 本件深夜営業を行わない店舗は,例外的なものであり,また,たばこの小売販売を行うにはたばこ事業法に基づく許可が必要である。したがって,一部に本件深夜営業を行わない店舗や,たばこの販売を行わない店舗があるからといって,加盟店に本件深夜営業を行わないことを広く認めても本件イメージを損なうことにはならないという控訴人らの主張は理由がない。

   ウ さらに,深夜の時間帯には売上額が減少するのが一般的であるものの,被控訴人の加盟店では,従業員の手持ち時間を利用して,発注業務や店舗の清掃・点検等が行われることが多く,来客数の増加する早朝に合わせて早朝向け商品の発注,納品,検品,陳列等も行われているし,本件深夜営業を行う場合,これを行わない場合に比べてチャージ率が2パーセント低減されているから,本件深夜営業が控訴人らに不利益を与えるだけのものではない上に,標準的な店舗の場合,午前2時から午前5時の間に被控訴人の配送システムによって合計6回の納品が行われるから,早朝の時間帯の来客に対応するためには,本件深夜営業を行う必要性があることは,原判決の説示するとおりである。

 したがって,本件深夜営業が,控訴人らに不当な不利益を与えることを前提とする控訴人らの主張は理由がない。

   エ そして,深夜のコンビニエンス・ストア等における強盗事件は,近時,減少傾向にあり,被控訴人のフランチャイズ店における強盗事件の発生率が他社よりも高いという状況にはなく,深夜の時間帯における強盗事件の発生状況が,本件基本契約等の前提事実を損なうほどには至っていないこと,被控訴人も強盗被害の発生を防止するための方策を講じていることは原判決説示のとおりであるから,深夜営業中の強盗被害の発生の可能性は,被控訴人が優越的地位を濫用していることの根拠とはならない。」


 

[参考]

セコマら損害賠償請求控訴事件

札幌高等裁判所判決平成3137

判決集未登載

独禁法19条 295

 

「被告フーズの目的」

 「被告フーズが原告に対して本件返品合意の締結を求めたのは,被告セコマらが,米の賞味期限を短く設定して,消費者に米の新鮮さを訴え,売上げを伸ばすという販売戦略を採用するに当たって,賞味期限切れにより販売できなくなった商品の在庫が発生しやすいところ,そのような在庫の発生を避けるために仕入量を減らせば,店舗で欠品が生じやすくなり,売上げが伸びにくくなるという同販売戦略の難点を,本件返品合意により在庫が発生した場合のリスクを原告に転嫁し,被告セコマらは欠品が生じるリスクのみを考慮すれば足りるようにすることで克服するためであったと認められる。そして,被告フーズは,実際に,欠品を防ぐために,売上げの見込みを度外視した大量発注・大量返品を繰り返した。

 このように,本件返品合意は,被告フーズが,自己が負うべきリスクないし負担を原告に転嫁した上で,原告に転嫁したリスクないし負担の増大もいとわず,原告の犠牲の下に被告セコマらの利益を追求した」。

 

「取引上の地位の差」

 「本件返品合意がされた平成8年当時,米の卸売市場では,規制緩和による卸売業者間の競争激化により,大手小売業者が卸売業者に対して強い交渉力を有していた」。

 「原告は,茨城県に所在し,人気銘柄である茨城県産コシヒカリの入手や首都圏での顧客開拓に地理的な強みを有し,資本金は1000万円で,平成7年には約1億1500万円の設備投資をする余力もあり,平成17年には従業員が15名いた」が,「上記資本金の額や,従業員の人数,平成8年当時の役員はAとEのみであり,両名のみで会社の意思決定がされていたこと,さらに,後述するとおり,原告の顧客は被告フーズ及びだるま食品を除けば首都圏の小口の顧客が主であったことや大口の顧客であるだるま食品や一審被告フーズとの取引に代わる取引先を容易に獲得し得るとも考えられず,一審原告としては本件取引を継続せざるを得なかったと考えられることなどに照らせば,家族経営の小規模卸売業者の域を出るものではない。」「対して,被告セコマらは,北海道では著名なコンビニエンスストアであるセイコーマートを展開し,その資本金は4億円を超える,大手小売業者である」。

 「原告は,本件取引開始までは被告セコマらの関連業者であるだるま食品を,本件取引開始後はだるま食品と被告フーズを最大かつ唯一の大口顧客としていたものであり,その経営を被告セコマらに大きく依存していた。」

 

「返品及び返品量の予測可能性」

 「原告は本件取引開始時に本件返品合意をしたと認められる以上,原告は同時点で本件取引において一定の条件下で返品がされること自体は予測していたと認められる」が,「原告は,本件取引開始当時,被告セコマらとの取引経験がなく,本件返品合意に返品量の上限や返品期限も定められていなかったため,実際の返品量や納品から返品までの期間を予測することは困難であり,実際にも,原告が本件取引開始後に被告セコマらに対し再三,返品量の抑制を懇請していたことに照らせば,原告は,本件取引開始当時,本件取引における実際の返品量が大量であり,納品から返品までの期間が長期になり得ることまでは予測困難であったものと認められる。」

 「また,本件取引開始後も,返品率が相当程度変動していたことに照らせば,過去の返品実績から将来の返品量を推測することも困難であったと認められる。」

 「原告は,返品自体は予測していたものの,その程度や態様について予測し得なかったものであり,その結果として,想定以上の返品,あるいは,想定以上に古くなった米の返品を受け,それにより,想定以上の損失を被ったものと認められる。」

 

「合意のプロセス」

 「本件返品合意が原告の自由かつ自主的な判断によってされたものであるか否かについては,原告と被告セコマらの間で十分な協議がされたかといった意思決定過程にも照らして検討すべきである。」

 「本件返品合意は原告に重大な不利益をもたらすものであるにもかかわらず,合意書面が作成されていない。また,上記...の検討のとおり,原告の代表者であったAにおいては,本件返品合意をするに当たって,返品量に上限がなく,返品条件成就から返送までの期間にも制限がないことなどから,返品の量や時期を予測することが困難であり,返品による損失の程度を予測することも困難であった。さらに,本件返品合意では,返品による損失を補てんするに足りるだけの粗利益率の保証などについて何ら合意がされなかった。]

 「このような状況からすると,原告は,本件取引開始後に,返品量に上限がなく,返品条件成就から返送までの期間に制限がないことにより重大な不利益を被ることになることをようやく理解したことから,被告セコマらに対して返品量の抑制を求めるようになったと認められる。しかし,被告セコマらは,飽くまでも被告セコマらの自主的な配慮として返品量の抑制や,比較的高めの粗利益率の設定に応じたことや,あるいはごく一部の商品について返品量に上限を設けることを提案したことがあったのみで,本件返品合意自体を見直すことや,返品量,返送時期,粗利益率等について新たに合意をするということはしなかった。また,上記配慮としても,常に原告が望むような返品量の抑制や粗利益率の設定がされたわけではない。」

 「被告らは,原告は,長年にわたって返品を受入れてきたものであり,その間本件返品合意を再検討する余裕があったのであるから,本件返品合意は原告の自由かつ自主的な判断によるものであると主張する」が,「原告が被告セコマらに対して取引上劣位にあったことから,消極的に返品を甘受せざるを得なかったことは否定できず,その後,原告の経営状態が悪化していく状況にあったことをも考慮すれば,被告らが主張するように,原告に本件返品合意を再検討する余裕があったということはできない。」

 「以上によれば,本件返品合意が,原告において,被告セコマらとの協議等を通して十分にそのリスクを認識した上で締結されたものであるとはいえない。」

 「上記aによれば,原告が本件返品合意を承諾したのは,自己が経営を依存する被告フーズの求めであって,これを容易に拒否できなかったためであると認められる。さらに,上記b及びcによれば,被告フーズから十分な説明がなく,本件返品合意が原告にもたらす不利益の内容や程度を正しく理解できなかったことも,原告が同合意を拒否することを一層困難にさせたと認められる。」

 

「取引慣習との関係」

 「米卸売業者と大手小売業者の取引では,旧米の返品及び販売期限(賞味期限)が切れた米の返品が慣行として存在しており,本件返品合意は同慣行に合致するものである」が,この「取引慣行は,米流通業界全体の様相として,大手小売業者が卸売業者に対して強い交渉力を発揮していた時代的な状況を背景として,すなわち,大手小売業者による優越的地位の利用の危険をはらんだ状況において成立したものであり,同慣行の正常性を所与のものとすることはできないから,本件返品合意は同慣行に合致するというだけで,その相当性が認められるものではない。」

 「旧米の返品及び販売期限(賞味期限)が切れた米の返品が慣行化したことは,返品が小売業者にとって非常に都合のよいものであり,これを多用する動機を有していたことを如実に示しているといえる。そして,独占禁止法2条9項5号ハ,19条及び下請法4条1項4号が,優越的地位の濫用の一態様として返品を禁止していることも併せ考えると,返品合意の合理性ないし相当性に関する判断は特に慎重に行われるべきである。」

 「そのような状況において,本件返品合意は,返品量及び返品期限を制限せず,損失を補てんするに足りる粗利益率も保証していなかった。そして,実際に,本件返品合意による返品率及び返品期間は,返品を受け入れている同業者の平均(返品率約1.9%,返品期間21日ないし30日を大きく上回っていた。このように,本件返品合意による返品は,悪質な態様でされたものであるといえる。よって,本件返品合意は,合理性を欠く,著しく不相当なものであるとの評価を避けられない。」

 

 「以上を総合すると,被告フーズは,本来自己が負うべき在庫リスク等を原告に転嫁するという不当な目的から,原告が自己との取引関係に経営を依存していることに乗じて,原告に協議を通じて本件返品合意に基づく返品により生じ得る損失の性質及び程度を説明することなく,また,原告の損失が無限定に膨らむことがないように返品量,返品期限及び粗利益率について約束をするなど十分な配慮をすることもなく,本件返品合意を締結させ,これに基づき大量の返品を繰り返すことで,原告の予想し難い,返品米の再販売や高めの粗利益率の設定によっても補てんできず,原告の経営を危殆化させかねないほどの過大な損失を原告にもたらしたものであり,本件返品合意の違法性は強いというべきである。

 よって,本件返品合意は,被告フーズが,優越的な地位を濫用して,正常な商慣習に照らして不当に,原告に過大な不利益を受け入れることを余儀なくさせたものであり,健全な取引秩序を乱し,かつ,公正な商慣習の育成を阻害するものであるから,下請法の適用があるRB米の製造委託契約との関係においてはもとより,同法の適用がないもち米の売買契約(独禁法の適用対象ではある。)との関係においてもRB米と同様の状況で取引がされていたことが推認され,民法90条にいう公序良俗に反し,無効」である。


 

 

 


 

 

 

取引妨害

 

[基本・判決][事例]

神鉄タクシー差止請求等事件

大阪高等裁判所判決平成261031

判例時報224938頁,判例タイムズ1409209

独禁法19条 一般指定14

独禁法24

*取引妨害

*物理的妨害(物理的実力による取引妨害)

*著しい損害

 

1. 原告及び被告は,神戸市等を営業区域として一般乗用旅客自動車運送事業を営む事業者(以下,「タクシー事業者」という。)である。

2. 被告は,神戸電鉄株式会社(以下,「神戸電鉄」という。)の子会社であり,神戸電鉄沿線を中心として営業を行っている。

3. 神戸電鉄鈴蘭台駅及び同北鈴蘭台駅には,鈴蘭台駅前タクシー待機場所及び北鈴蘭台駅前タクシー待機場所(以下,上記各待機場所を併せて「本件各タクシー待機場所」という。また,各々の待機場所を「本件タクシー待機場所」ということがある。)がある。本件各待機場所を除く鈴蘭台駅周辺及び北鈴蘭台駅周辺の道路については,駐車禁止区域に指定されている。道路の物理的形状からしても,本件各タクシー待機場所以外にはタクシーが待機するのに適した場所は存在しない。

4, 本件各タクシー待機場所は,神戸市所有の土地であって神戸市道の車道部分である。

5.原告は,本件タクシー待機場所において旅客となろうとする者(以下,「タクシー利用者」という。)と旅客自動車運送契約を締結する目的で,本件各タクシー待機場所にタクシー(以下,原告らの運転するタクシーを「原告側タクシー」という。)を乗り入れた。

6. 被告は,原告側タクシーの乗り入れに組織的に抵抗するとの方針を定め,実際に平成23418日から同月20日まで及び同年517日に,以下のとおり原告側タクシーが本件タクシー待機場所に進入することを妨げた。

原告側タクシーが本件タクシー待機場所に乗り入れたところ,被告の乗務員のうち一部の者が,原告側タクシーが待機場所内で先頭になった際に同タクシーの後部扉の横に座り込んだり,原告側タクシーの前に立ちはだかったり,原告側タクシーよりも後方で客待ちをしている被告タクシーに利用者を誘導したりし,この後,原告側タクシーの運転手らは利用者を乗せることなく乗り入れを終了した。

②原告側タクシーが本件タクシー待機場所に乗り入れたところ,被告代表者や被告の乗務員は協力して,待機場所内の先頭付近の被告タクシーが発車するとすぐに別の被告タクシーが原告側タクシーの前に割り込むようにしたり,被告タクシーを発車しないようにすることにより,原告側タクシーが先頭にならないようにし,この後,原告側タクシーの運転手らは一般の利用者を乗せることなく乗り入れを終了した。

7. 原告は,独禁法24条(同法19条,296号,一般指定14項)又は営業権に基づき,被告の従業員その他の者をして,原告らが運転する一般乗用旅客自動車運送事業の用に供する自動車の前に立ちはだからせ,又は被告の従業員その他の者が運転する一般乗用旅客自動車運送事業の用に供する自動車を割り込ませる方法により原告側タクシーが本件各タクシー待機場に進入することを妨害する行為の差止めを求めるとともに,上記6の妨害行為により被った損害について不法行為による損害賠償請求権に基づき約30万円及び損害遅延金の支払を求めた。

 

(裁判所の判断)

[競争関係について(一般指定14項)]

「一般指定14項にいう「競争関係」は,自己と他の事業者との間に,その通常の事業活動の範囲内において,かつ,当該事業活動の施設又は態様に重要な変更を加えることなく同一の需要者に同種又は類似の商品又は役務を供給し,又は供給することができるという関係が成り立つことをいう(独禁法241号)。」

「鈴蘭台駅及び北鈴蘭台駅付近には,本件各タクシー待機場所のほかには,客待ちのためにタクシーが待機するのに適した場所はなく,両駅からの降車客などの両駅付近でタクシーを利用しようとする者は,通常,本件各タクシー待機場所においてタクシーに乗車することになるから,本件各タクシー待機場所におけるタクシー利用者が上記の「同一の需要者」に当たる。」

「原告らは鈴蘭台駅周辺及び北鈴蘭台駅周辺で事業活動を行うために必要な法令上の許可を得ているほか,一人一車制個人タクシー事業者は,許可を受けた営業区域内であればどこでも同一の車両で,利用者を発見して乗車させ,その者を目的地に運搬して運賃を収受するという同一の態様で事業活動を行うものであって,前認定の原告らの事業拠点の所在地からすると,原告らが本件各タクシー待機場所で乗客を得ようとすることは不合理とはいえない。そうすると,原告らが本件各タクシー待機場所で乗客を得ようとすることは,原告らの通常の事業活動の範囲内において,当該事業活動の施設又は態様に重要な変更を加えることなく同一の需要者に被告の供給する役務と同種の役務を供給しようとすることであるから,原告らと被告との間には,一般指定14項にいう「競争関係」があるといえる。」

「この点について,被告は,原告らは開業以来長年にわたって本件各タクシー待機場所以外の場所で営業をしてきたのであるから,原告らと被告との間には「競争関係」がない旨を主張する」が,「競争関係は,現に同一の需要者に対して同種の商品・役務を供給している場合だけでなく,その供給が可能な場合にも成り立つ。すなわち,当該市場に新たに参入しようとする者との間でも競争関係が生じるのであって,被告の上記主張は当を得ない。」

「また,被告は,本件各タクシー待機場所は被告専用の施設であるから,原告らが上記各待機場所においてタクシー利用者に一般乗用旅客自動車運送役務を供給することができるとはいえない旨を主張する」が,「本件各タクシー待機場所は道路法にいう「道路」に当たるから,原則としてこれらについて私権を行使することはできず(道路法4条本文)・・・原告らに本件各タクシー待機場所の使用を禁じ,又は被告にこれらの専用を許す旨の法令若しくは条例の規定,権限を有する行政当局の措置等はいずれも存在しない」ことから,原告らは,法律上,本件各タクシー待機場所への乗り入れを禁止されて」おらず,原告が「本件各タクシー待機場所において利用者を原告らタクシーに乗車させること」は許されている。「被告及び神戸電鉄は,本件各タクシー待機場所の設置費用や用地を提供し,隣接する土地に利用者のための待合所を整備するなどしているが,それによって道路である本件各タクシー待機場所が被告専用のものとなる理由はない。」

[「不当」な「妨害」について(一般指定14項)]

「被告が過去に北鈴蘭台駅前タクシー待機場所において自社の方針として上記のような組織的な抵抗行動に出ていることに加え,その後も,本件各タクシー待機場所が被告専用のものであり,被告タクシー以外のタクシーには利用を認めないという見解を堅持していることからすると,実際に妨害を受けていない原告をも含む原告らのタクシーが,北鈴蘭台駅前タクシー待機場所に限らず鈴蘭台駅前タクシー待機場所に乗り入れようとした場合であっても,被告は同様の行動に出るであろうと推認することができる。」

「被告がその従業員らによって行い,今後も行うことが予測される上記の妨害行為は,本件各タクシー待機場所付近の交通に危険を及ぼしかねず,道路交通法・・・に違反することもあり得る態様で,物理的実力を用いて利用者との旅客自動車運送契約の締結を妨害するものであるから,一般指定14項にいう不当な取引妨害に当たるというべきである。」

「もっとも,被告の従業員その他の者が利用者に対して客待ち停車中の先頭車両以外の車両に乗車するよう働き掛ける行為は,タクシー乗り場における平穏を破るおそれが強い行為ではあるが,独禁法以外の法令に触れる行為とはいえないし,そもそも,先頭車両の運転手が乗客を最優先で獲得する権利・利益を有するといえる根拠はないから,被告が従業員等にそのような行為をさせることが同項にいう不当な取引妨害に当たるとはいえない。」

[著しい損害を生じ又は生じるおそれについて(法24条)]

「被告は,・・・延べ4日間,一般指定14項にいう不当な取引妨害によって,競争関係にある事業者である原告[の一部]から,北鈴蘭台駅前タクシー待機場所においてタクシー利用者と旅客自動車運送契約を締結する機会をほぼ完全に奪ったものであり,今後も本件各タクシー待機場所において,同様の行為をして原告らからタクシー利用者と旅客自動車運送契約を締結する機会をほぼ完全に奪うことが予想されるのであって,これは,公正かつ自由な競争を促進するという独禁法の目的ないし理念を真っ向から否定するものといい得る。また,その手段としても,待機場所に進入しようとした原告側タクシーの前に立ちはだからせたり,その前に被告タクシーを割り込ませて待機場所への進入や,待機場所内で先頭車両となることを妨害し,先頭車両となった原告側タクシーの扉の横に座り込ませたり,その前に立ちはだからせたりして,原告側タクシーが利用者を乗せて発進することを妨害するという物理的な実力を組織的に用いるというものであるから,このような損害の内容,程度,独禁法違反行為の態様等を総合勘案すると,原告らが被告の独禁法19条違反行為によって利益を侵害され,侵害されるおそれがあることによって生じる損害は著しいものというべきである。」

「したがって,原告らの独禁法24条に基づく差止請求は」,被告の従業員その他の者が利用者に対して客待ち停車中の先頭車両以外の車両に乗車するよう働き掛ける行為を除く行為の「差止めを求める限度で理由がある。」

[営業権に基づく差止請求の可否について]

被告の従業員その他の者が利用者に対して客待ち停車中の先頭車両以外の車両に乗車するよう働き掛ける行為については,「仮に原告らのいう営業権なるものが認められたとしても,・・・先頭車両の運転手に優先権がないことに照らすと,仮に営業権に基づく差止請求について判断をしたとしても,客待ち停車中の先頭車両以外のタクシーに乗車するよう働き掛けさせる行為の差止めを認めることはできない。」

[損害賠償請求について]

「延べ4日間の被告の妨害行為により,原告[の一部]は,少なくとも1回ずつ乗客を得る機会を奪われたと認められる。」原告は,「以上の機会喪失により初乗り運賃同額の損害を被ったと主張するが,機会喪失による損害は限界利益(おおむね,得られたはずの売上高からこれに対応する変動費を控除し,これに対応する固定費を加算した額)により算定するのが相当」であり,この利益は「控え目に認定しても売上高の50%を下回ることはないと推認して,原告[1]の損害は330円,原告[2]の損害は320円と算定すべきである。」

(参考:主文「被告は,原告[1]に対し,金330円及びこれに対する平成24111日から支払済みまで年5分の割合による金員を,原告[2]に対し,金320円及びこれに対する平成24111日から支払済みまで年5分の割合による金員をそれぞれ支払え。」)

 

 

 


 

[基本・審決]

(株)第一興商に対する件

審判審決平成21216

審決集55500

独禁法19条 一般指定14

 

「一般指定15項に規定する「不当に」の要件は,独占禁止法第2条第9項が規定する「公正な競争を阻害するおそれ」(公正競争阻害性)があることを意味するものと解されている。」

 

一般指定第15項の適用対象を「脅迫・威圧」等特定の行為類型又はそれに類似する行為に限定すべき理由はな」い。

 

「独占禁止法と不正競争防止法とは,法律の趣旨・目的が異なっており,一般指定第15項と不正競争防止法第2条第1項第14号が類似した制度であるとしても,一般指定第15項の適用に当たり,同項に規定の無い要件を付加すべき理由はない。」

 

著作権法等による知的財産権の行使に対する独占禁止法の適用について,独占禁止法第21条は,著作権法等による権利の行使と認められる行為には独占禁止法を適用しない旨規定しているところ,この規定は,文字どおり,著作権法等による権利の行使と認められる行為には独占禁止法の規定が適用されないことを示すとともに,他方,著作権法等による権利の行使とみられるような行為であっても,行為の目的,態様,競争に与える影響等を勘案した上で,知的財産権制度の趣旨を逸脱し,又は同制度の目的に反すると認められる場合には,当該行為が同条にいう「権利の行使と認められる行為」とは評価されず,独占禁止法が適用されることを確認する趣旨で設けられたものであると解される(公正取引委員会平成1381日審決・公正取引委員会審決集第483頁[株式会社ソニー・コンピュータエンタテインメントに対する件]参照)。」

 

1. 被審人(株式会社第一興商)は,通信カラオケ機器(放送及び有線放送以外の公衆送信を用いて配信されるカラオケソフト等を再生するもののことである。)を販売又は賃貸するとともにカラオケソフトを制作して配信する事業を営む者(以下「通信カラオケ事業者」という。)である。

2. 通信カラオケ事業者らは,通信カラオケ機器を卸売業者又は当該通信カラオケ事業者の子会社である販売会社(以下,併せて「販売業者」という。)に販売又は賃貸している。販売業者は,当該通信カラオケ機器を来店客のカラオケの用に供する事業を営む者(以下「ユーザー」という。)に販売又は賃貸している。通信カラオケ事業者は,通信カラオケ機器を直接ユーザーに販売又は賃貸することもある。

3. ユーザーは,「ナイト市場」と称されるスナック,バー等の遊興飲食店,「ボックス市場」と称されるカラオケボックス及び「その他の市場」と称される旅館,ホテル,宴会場等の3つに大別される。通信カラオケ機器の総稼働台数では,ナイト市場が約56パーセント,ボックス市場が約34パーセント,その他の市場が約10パーセントを占める。

4. 国内における通信カラオケ機器の出荷台数及び稼働台数のシェアにおいて,被審人は,約44パーセントを占める。ナイト市場における稼働台数シェアにおいて,被審人は,約43パーセントを占める。

5. このほかの通信カラオケ事業者及びそのシェアは,国内における通信カラオケ機器の出荷台数及び稼働台数については,通信株式会社ユーズ・ビーエムビーエンタテイメント(以下「ユーズ」という。)が約27パーセント(出荷台数ベース)及び約26パーセント(稼動台数ベース)(第2位),株式会社エクシング(以下「エクシング」という。)が,約13パーセント(出荷台数ベース)及び約11パーセント(稼動台数ベース)(第3位)を占める。ナイト市場における稼働台数シェアについては,ユーズが約32パーセント(第2位),エクシングが約4パーセント(第6位)を占める。

6. レコード製作会社が作詞者又は作曲者から作品を録音等する権利を独占的に得た歌詞・楽曲(以下「管理楽曲」という。)を使用してカラオケソフトを制作し,またはこれらを通信カラオケ機器で使用する場合には,社団法人日本音楽著作権協会(以下「JASRAC」という。)から利用許諾を受ける必要があるほか,レコード制作会社からも個別にその使用の承諾を得ることが必要であると,通信カラオケ事業者及び卸売業者は認識している。実際にも,通信カラオケ事業者は,レコード制作会社から管理楽曲の使用承諾を得ている。

7. 管理楽曲について前記権利を有するレコード会社には,日本クラウン株式会社(以下「クラウン」という。),株式会社徳間ジャパンコミュニケーションズ(以下「徳間」という。),コロムビアミュージックエンタテインメント株式会社,ビクターエンタテインメント株式会社,キングレコード株式会社,株式会社テイチクエンタテインメント,東芝イーエムアイ株式会社及びユニバーサルミュージック株式会社の8社(以下「レコード会社8社」という。)がある。

8. 被審人は,クラウンの株式を取得し,平成131月ころから同社の筆頭株主となり,平成1311月ころから過半数の株式を保有して親会社となった。被審人は,平成1310月ころ,徳間の全株式を取得し同社の親会社となった。

9. エクシング及びブラザー工業は,平成812月及び平成123月ころ,被審人がエクシングの親会社であるブラザー工業株式会社(以下「ブラザー工業」という。)が取得し,エクシングが専用実施権を有する特許を侵害しているとして,被審人の通信カラオケ機器の製造,販売及び使用の差止めを求める仮処分申立て及び特許権侵害請求訴訟提起を行なった。被審人は,特許訴訟において劣勢にあると考えて,和解交渉に臨んだが,エクシング及びブラザー工業が平成131121日付け書面にて示した和解条件を受け容れることができず和解交渉は決裂した。

10. 被審人は,平成1311月末ころ,前記和解交渉の決裂を受けて,エクシングの事業活動を徹底的に攻撃していくとの方針を決定し,この方針に基づいて次の行為を行なった。

①被審人の子会社となっていたクラウン及び徳間をしてその管理楽曲の使用をエクシングに対して承諾しないようにさせた。

②営業・販売担当者ら及び子会社たる販売会社に対して,この方針及びエクシングの通信カラオケ機器ではクラウン及び徳間の管理楽曲が使えなくなること等を周知した。

③卸売業者に対して,エクシングに対してクラウン及び徳間は管理楽曲の使用を許諾しないつもりであり,エクシングのカラオケ機器ではこれら楽曲が使えなくなることを,会合を通じて又は個別に卸売業者に告知した。

11. クラウン及び徳間は,エクシングに対し,それぞれ管理楽曲の使用を継続して承諾してきており,ブラザー工業及びエクシングによる被審人に対する前記特許訴訟によってもクラウン・徳間とエクシングとの間の信頼関係は破壊されなかったところ,平成13年末及び平成14年春に,被審人は,クラウン及び徳間をして,使用承諾契約を更新する意思はないことを通知させ,管理楽曲の使用を直ちに止めるよう申し入れさせた。

12. クラウン及び徳間の管理楽曲(合計67曲分)は,通信カラオケにおいて人気があり,実際の演奏回数や演奏順位も楽曲全体の中でかなり上位を占めており,クラウン及び徳間の管理楽曲が通信カラオケ機器にとって重要であった。卸売業者やユーザーの管理楽曲に対する関心が高くないことはなかった。カラオケ利用者は,自分の好みの楽曲の歌唱を望んでいるところ,特定の管理楽曲を十八番にするカラオケ利用者がいることなどから,各管理楽曲が,その歌唱を好む中高年齢層のカラオケ利用者にとって容易に代替できるものではなかった。

13. 卸売業者の中には,前記10の告知を受けて,エクシング機器の購入又は賃貸を躊躇し又は購入賃貸数を減らした者があった。

14. エクシングは,前記11の通知を受けた後も,クラウン及び徳間の管理楽曲の使用を継続した。

15.  被審人は,過去に,レコード会社8社に対して,通信カラオケ機器市場に参入したエクシング等の通信カラオケ事業者に対する管理楽曲の使用承諾を遅らせるよう要請したことがあった。このときには,レコード会社8社は,被審人が管理楽曲を搭載した通信カラオケ機器を発売してから1年以上経過するまでエクシング等からの管理楽曲の使用承諾に応じなかった。

16. エクシングは,その後,徳間・クラウンとの間で使用許諾契約を締結し又は許諾に関する基本条件について概ね合意に至った。平成168月から9月ころには,エクシングの通信カラオケ機器でクラウン及び徳間の管理楽曲が使えなくなると考える卸売業者は無くなった。

17.  公取委が被審人が独禁法19条に反する行為を行ったとして勧告したところ,被審人が応諾せず審判が開始された。審判において,被審人は,一般指定第15項の適用は脅迫・威圧等特定の行為類型又はそれに類似する行為に限定すべきであるところ被審人はこれら行為を行なっていないこと,一般指定15項を適用するには不正競争防止法第2条第1項第14号の要件を満たすべきであるところ被審人の行為は満たしていないこと,独禁法21条により独禁法の適用を除外されるべきことなどを主張した。

 

公取委の判断

「平成1311月末ころ以降,日本クラウン株式会社及び株式会社徳間ジャパンコミュニケーションズをして下記の楽曲(以下主文において「本件管理楽曲」という。)の使用を株式会社エクシングに対して承諾しないようにさせた行為並びに日本クラウン株式会社及び株式会社徳間ジャパンコミュニケーションズをして本件管理楽曲の使用を株式会社エクシングに対して承諾しないようにさせる旨又は株式会社エクシングの通信カラオケ機器では本件管理楽曲が使えなくなる旨を通信カラオケ機器の卸売業者等に告知した行為は,独占禁止法第19条の規定に違反する」。「当該行為は,既に無くなっている」。

「本件違反行為は,通信カラオケ事業の分野における有力な事業者である被審人が,会社としての方針に基づき組織的に行ったものであ」り,「クラウン及び徳間の管理楽曲が通信カラオケ機器にとって重要であること」及び過去に被審人がレコード会社8社に対する使用承諾を遅らせるよう要請しレコード会社がこの要請に応じたことがあったことを「併せ考えれば,被審人が本件違反行為を行うことにより,卸売業者及びユーザーが,クラウン及び徳間の管理楽曲が使用できなくなることへの懸念から,エクシングの通信カラオケ機器の取扱い又は使用を中止し,管理楽曲に関する問題のない他の通信カラオケ事業者の通信カラオケ機器に変更するものが少なからずあるであろうことは容易に推認することができるから,本件違反行為は,エクシングの通信カラオケ機器の取引に重大な影響を及ぼす蓋然性が高い」。このことは,卸売業者がエクシングとの取引を取りやめたことがうかがわれる複数の事例があることなどからも裏付けられる。

「本件違反行為は,特許権侵害に関する争訟を起こされた被審人の対抗措置ないし意趣返しとして」,「専らエクシングの事業活動を攻撃することを目的として行われたものである」。

「被審人は,専らエクシングの事業活動を徹底的に攻撃することを目的として,クラウン及び徳間の管理楽曲の重要性を利用し,クラウン及び徳間をして,それまで平穏かつ継続的に行われてきたエクシングとの間の管理楽曲の使用承諾契約の更新を突如拒絶させ,さらに,当該拒絶を原因として,エクシングの通信カラオケ機器ではクラウン及び徳間の管理楽曲が使用できなくなる旨を卸売業者等に告知したのであり,当該更新拒絶及び当該告知は,前記目的の下に一連のものとして行ったものである。これら一連の行為は,被審人が,その競争事業者であるエクシングとの間で,価格・品質等による競争を行うのではなく,エクシングにクラウン及び徳間の管理楽曲を使わせず,卸売業者等にエクシングの通信カラオケ機器の取扱いや使用を敬遠させるという,公正かつ自由な競争の確保の観点から不公正な手段であると認められる。」(なお)「クラウン及び徳間によるエクシングとの管理楽曲使用承諾契約の更新拒絶は,本件告知行為と一連のものとして行われたのであり,エクシングがクラウン及び徳間からその管理楽曲の使用停止を求められながらも当該管理楽曲を継続して使用したからといって,エクシングの事業活動や競争秩序に影響がなかったとはいえず,また,被審人の一連の行為が不公正な手段であることが否定されるものでもない。」

「本件違反行為は,通信カラオケ機器の取引分野における有力な事業者である被審人が会社を挙げて行ったものであり,通信カラオケ機器にとって重要なクラウン及び徳間の管理楽曲が使えなくなることへの懸念から,卸売業者等がエクシングの通信カラオケ機器の取扱い又は使用を中止することにより,エクシングの通信カラオケ機器の取引機会を減少させる蓋然性が高いというべきである。」

「このように,本件違反行為は,競争手段として不公正であるとともに,当該行為により,妨害の対象となる取引に悪影響を及ぼすおそれがあるものであって,一般指定第15項の「不当に」の要件に該当する。」

「レコード制作会社が,その管理楽曲の通信カラオケ機器における使用を通信カラオケ事業者に承諾するか否かを決定することが,著作権法による権利の行使に該当するか否かについては,当事者間に争いがある」が,「当該決定が著作権法による権利の行使に該当するとした」としても,「当該更新拒絶は,エクシングの事業活動を徹底的に攻撃していくとの被審人の方針の下で」,「卸売業者等に対する前記告知と一連のものとして行われ」,「エクシングの通信カラオケ機器の取引に影響を与えるおそれがあったのであるから,知的財産権制度の趣旨・目的に反しており,著作権法による権利の行使と認められる行為とはいえ」ず,独占禁止法第21条により「独占禁止法の規定を適用しない場合には当たらない」。

 


 

[事例]

ラジオメータートレーディング(株)に対する件

勧告審決平成5928

審決集40123

 独禁法19条 一般指定14

*並行輸入の阻害

 

1. ラジオメータートレーディング株式会社(以下「トレーディング社」という。)は,デンマーク王国所在のラジオメーター・メディカル・エイ・エス(以下「メディカル社」という。)が製造し,日本所在のラジオメーター株式会社が一手に輸入している血液ガス分析装置及び同装置用試薬(以下「試薬」という。)を同社から一手に供給を受けて,国内において販売する。この試薬は,取引先販売業者を通じて需要者である病院等に供給されている。

2. トレーディング社は,国内における血液ガス分析装置の販売高において業界第2位を占める。

3. メディカル社製の血液ガス分析装置を使用する際には,同社製の試薬のみが用いられている。

4. トレーディング社は,輸入販売業者により,並行輸入されたメディカル社製の試薬(以下「並行輸入試薬」という。)が,トレーディング社が取引先販売業者に販売している価格(以下「卸売価格」という。)よりも低い価格で需要者に供給されていることを知った。トレーディング社は,これを放置すると自社の収益が損なわれると考え,取引先販売業者に対し次の措置をとることとし実施している。

①並行輸入試薬を取り扱わないよう要請する。

②この要請に応じない場合は,試薬の供給の停止及び並行輸入試薬が用いられたメディカル社製の血液ガス分析装置の保守管理の中止を含む対応を行う。

5. 前記通知により,トレーディング社の取引先販売業者は,並行輸入試薬の販売を中止するなどしている。

 

法令の適用

「トレーディング社は,自己と国内において競争関係にある並行輸入試薬を取り扱う輸入販売業者とその取引の相手方との取引を不当に妨害しているものであって,これは,不公正な取引方法(昭和57年公正取引委員会告示第15号)の第15項に該当し,独占禁止法第19条の規定に違反するものである。」

 


 

[事例] 

グランドデュークス(株)に対する件

勧告審決平成10724

審決集45119

独禁法19条 一般指定14

*並行輸入の阻害

 

1.  グランドデュークス株式会社(以下「グランドデュークス」という。)は,ゼネラル・エコロジー社(米国)が製造する浄水器を,同社から一手に供給を受けて,国内において販売する事業を営む。

2. ゼネラル・エコロジー社が製造する浄水器のうちでも,グランドデュークスが取り扱う浄水器の大部分(シーガルフォー・ブランドの据置型(以下「シーガルフォー」という。)は,国内において,テレビ放送の料理番組中で使用されていることなどから,最近,知名度が高まり需要が増加している。このシーガルフォーは,据置型浄水器の販売高の半分近くを占めている輸入に係る据置型浄水器のうち第2位の販売実績を有しているなど,一定の評価を得ている。

3.  グランドデュークスは,シーガルフォー等を販売業者を通じて一般消費者に販売している。

4. グランドデュークスは,シーガルフォー等について希望小売価格を設定している。

5. ゼネラル・エコロジー社は,シーガルフォーにシリアルナンバーと称する番号(以下「シリアルナンバー」という。)を付して供給している。

6. シーガルフォーについては,並行輸入品(以下「並行輸入浄水器」という。)を取り扱う輸入販売業者(以下「輸入販売業者」という。)が国内にみられる。輸入販売業者は,ゼネラル・エコロジー社の米国所在の販売代理店又はその取引先販売業者(以下これらを「海外販売業者」という。)からシーガルフォーを輸入し,販売業者を通じて一般消費者に販売している。

7. グランドデュークスは,かねてから,ゼネラル・エコロジー社に対し,並行輸入浄水器の我が国への流入について懸念を表明していた。

8. 平成6年ころには,海外販売業者からグランドデュークスの取引先販売業者に対し,シーガルフォーについて,グランドデュークスの卸売価格を大幅に下回る価格で注文に応じる旨の引合いがあったとの情報に接した。

9. そこで,グランドデュークがゼネラル・エコロジー社に対して並行輸入品対策について質問したところ,ゼネラル・エコロジー社は,「並行輸入浄水器の存在が判明した場合には,当該並行輸入浄水器に付されたシリアルナンバーを調査してこれをゼネラル・エコロジー社に通報することにより,ゼネラル・エコロジー社が当該並行輸入浄水器の供給元である販売代理店を突き止め,当該販売代理店に対し日本向けに供給しないよう警告を行い,これに従わない場合には,当該販売代理店に対するシーガルフォーの供給を中止する」旨の回答を行なった。

10. グランドデュークスは,前記回答を得たことから,我が国において並行輸入浄水器の存在が判明した場合には,当該並行輸入浄水器に付されたシリアルナンバーを調査し,これをゼネラル・エコロジー社に通報した。そして,これにより,ゼネラル・エコロジー社をして,シーガルフォーを我が国の輸入販売業者に供給しないようにさせた。

11. グランドデュークスの前記行為により,前記の輸入販売業者は,前記販売代理店の供給に係るシーガルフォーについて,海外販売業者からの並行輸入を行い,国内において販売することが困難となっている。

法令の適用

「グランドデュークスは,自己と国内において競争関係にある輸入販売業者とその取引の相手方である海外販売業者との取引を不当に妨害しているものであって,これは,不公正な取引方法(昭和57年公正取引委員会告示第15号)の第15項に該当し,独占禁止法第19条の規定に違反するものである。」

 


 

[事例]

ミツワ自動車(株)に対する件

審判審決平成10619

審決集4542

 独禁法19条 一般指定14

*並行輸入の阻害

 

1.  被審人(ミツワ自動車株式会社)は,独国所在のドクトル・インジニール・ハー・ツエー・エフ・ポルシエ・アクチエンゲゼルシヤフト(以下「ポルシェ社」という。)と輸入総代理店契約を締結して,同社が製造する自動車(以下「ポルシェ車」という。)を一手に供給を受けて,国内において主に代理店を通じて販売する。

2. 我が国において,ポルシェ車は,ブランド知名度が高く,高級スポーツカーとしての評価を得ている。

3. 被審人は,毎年行なわれるモデルチェンジの都度,当該年式のポルシェ車について希望小売価格を定めている。

4. ポルシェ社は,ポルシェ車に車台番号を付して供給している。

5. 国内においてポルシェ車の並行輸入品(以下「並行輸入車」という。)を取り扱う輸入販売業者(以下「輸入販売業者」という。)は,外国に所在する輸入総代理店から供給を受けて販売する事業者(以下「海外販売業者」という。)からポルシェ車を輸入し,消費者及び他の販売業者に販売している。

6. 被審人は,新年式車である並行輸入車が希望小売価格の約35パーセント引きの価格で販売される旨の広告に接し,このような並行輸入車の販売を放置しておくと,同様の輸入販売業者及び並行輸入車の販売台数が増加し,自己の取引先である代理店の小売価格に影響を及ぼし,ひいては自己の営業活動等に悪影響が出るおそれがあると考えた。

7. そこで,被審人は,並行輸入車が希望小売価格を相当程度下回る価格で大量に販売される場合には,並行輸入車に付された車台番号を調査してこれをポルシェ社に通知し,同社をして供給経路を調査させ,並行輸入車を減らすための対策を採るよう求めることとし,ポルシェ社に対する要請を行った。

8. この後,①被審人による並行輸入車についての店頭調査,車体番号の確認及びそのポルシェ社への通知,②ポルシャ社による調査及び販売元(ポルシェ社の中国の輸入総代理店)に対する日本向け供給を行なわないようにとの警告が行なわれた。この販売元は,その後も,数度にわたって日本の輸入販売業者向けに供給を行い,これに対してポルシェ社は上記通知及び警告等を数回わたり行った,その後ポルシェ社は,この輸入総代理店からの受注を断ることとし,この輸入総代理店から既に受注しているポルシェ車については,日本に供給されることが明らかな場合は出荷しないこととした旨を通知した。ポルシェ社は,平成96月ころ,この輸入総代理店との取引を停止した。

9. 被審人の前記78の行為により,輸入販売業者らは,前記輸入総代理店(ポルシェ社の中国の輸入総代理店)の供給に係るポルシェ車について,海外販売業者からの並行輸入を行い,国内において販売することができなくなっている。

10. 被審人とポルシェ社との日本における輸入総代理店契約は既に終了し,その後ポルシェ社の出資による日本法人であるポルシェジャパン株式会社がポルシェ車の日本における輸入総代理店として活動を開始した。被審人は,既に,ポルシェ車の輸入販売業務を停止し,関係部門を閉鎖し,現在は,当該業務の清算事務を行っているのみである。

法令の適用

「被審人は,自己と国内において競争関係にある輸入販売業者とその取引の相手方である海外販売業者との取引を不当に妨害していたものであって,これは,不公正な取引方法(昭和57年公正取引委員会告示第15号)の第15項に該当し,独占禁止法第19条の規定に違反するものであるが,同第1事実2によれば,当該行為は既になくなっていると認められ,かつ,特に措置を命ずる必要があるとは認められない。」

 


 

 [事例]

星商事(株)に対する件

勧告審決平成8322

審決集42195

 独禁法19条  一般指定14

*並行輸入の阻害

 

1. 星商事株式会社(以下「星商事」という。)は,ハンガリー共和国所在のヘレンド・ポーセライン・マニュファクトリー・リミティッド(以下「ヘレンド社」という。)が製造する磁器製の食器等(以下「ヘレンド製品」という。)を,同社から一手に供給を受けて,国内において販売する事業を営む。星商事は,ヘレンド製品を主として百貨店等に販売している。

2. ヘレンド製品は,一般に,我が国に輸入される磁器製の食器等の中では高級品であるとの評価を受けている。我が国では,ヘレンド製品のうちでも,「ウィーンのバラ」,「インドの華」及び「アポニーグリーン」と称する3つの商品群の製品に係る需要が多く,とりわけ紅茶茶碗の需要が多い。

3. 星商事は同製品について同社の希望小売価格(以下「希望小売価格」という。)を設定しており,百貨店等は通常同価格で販売している。

4. ヘレンド社は,ヘレンド製品の輸出については,主要輸出相手国別に,当該国内における同製品の一手販売権を付与した販売代理店(以下「総代理店」という。)を通じて供給している。この際には,同製品の底部に同社があらかじめ定めた当該製品の輸出相手国別の国番号を付している。

5. 日本国内には,ヘレンド製品の並行輸入品(以下「並行輸入品」という。)を取り扱う輸入販売業者(以下「輸入販売業者」という。)が存在する。輸入販売業者は,外国に所在する総代理店,これから供給を受けて販売する小売業者等(以下「総代理店等」という。)からヘレンド製品を輸入している。

6. 星商事は,並行輸入品が希望小売価格を相当程度下回る価格で大量に販売されるようになり,小売価格の維持,その他自己の営業活動等に影響を及ばすおそれが生じてきたことから,①希望小売価格を相当程度下回る価格で販売される並行輸入品について店頭調査を行い,②当該製品に付された国番号により当該並行輸入品の輸出国を突き止めてヘレンド社に通報し,③同社をして,ヘレンド製品を輸入販売業者に供給しないようにさせる旨の方針を決定した。

7. 星商事は,前記6の方針に基づいて次の行為等を行なっている。

①輸入販売業者が行なった希望小売価格の3040パーセント引きの価格での並行輸入品の販売について,店頭調査を行い,前記5の国番号により,それぞれ,香港及びオーストリア共和国からの並行輸入品であることを突き止め,ヘレンド社に対し,香港及びオーストリアからの並行輸入品である当該製品が日本国内において大量に販売されていることを通報し,香港から右輸入販売業者にヘレンド製品を供給しないようにさせるよう要請した。

右要請を受けたヘレンド社は,香港・オーストリア共和国所在の総代理店に対し,香港・オーストリアからの並行輸入品である当該製品が日本国内において大量に販売されている状況について遺憾の意を表明した。すると,これら総代理店は,前記輸入販売業者に対するヘレンド製品の供給を停止した。

②星商事は,前記①と同様にして,別の輸入販売業者による並行輸入品の入手先(フランス共和国)を突き止めて,ヘレンド社に対して通報し,フランス共和国から日本向けに当該製品を供給しないようにさせるため,以後,2年ないし3年の間,フランス共和国向けの当該製品の供給を停止するよう要講した。この要請を受けたヘレンド社は,同社がフランス共和国所在の総代理店から受注したヘレンド製品のうち,日本向けに供給されることが判明したものについて右総代理店をして自己に対する発注を取り消させた。そして,以後は,同総代理店が発注するヘレンド製品のうち,日本向けに供給されることが明らかとなったものについて受注を断ることとした。

8. 星商事のこれら行為により,輸入販売業者は,ヘレンド製品について,外国に所在する総代理店等からの並行輸入を行い,国内において販売することが困難になっている。

法令の適用

星商事は,自己と国内において競争関係にある並行輸入品を取り扱う輸入販売業者とその取引の相手方である外国に所在するヘレンド社の総代理店等との取引を不当に妨害しているものであって,これは,不公正な取引方法(昭和57年公正取引委員会告示第15号)の第15項に該当し,独占禁止法第19条の規定に違反するものである。

 


 

[事例]

(株)松尾楽器商会に対する件

勧告審決平成858

審決集43204

 独禁法19  一般指定14

*並行輸入の阻害

 

1.  株式会社松尾楽器商会(以下「松尾楽器」という。)は,米国所在のスタインウェイ・アンド・サンズがドイツ連邦共和国所在のハンブルク支店(以下「スタインウェイ・ハンブルク支店」という。)に製造販売させているピアノを,同支店から一手に供給を受けて,国内において販売する事業を営む。

2. フルコンサート型スタインウェイ・ピアノ(以下「スタインウェイ・ピアノ」という。)は,演奏者から高い評価を得ていることから,これを指名して購入する官公庁等が多い。スタインウェイ・ピアノは,多数の公共ホールに設置されている。

3.松尾楽器は,スタインウェイ・ピアノを直接又は楽器店を通じて需要者である官公庁等に販売している。

4. スタインウェイ・ハンブルク支店は,スタインウェイ・ピアノに製造番号を付している。

5. 国内においては,スタインウェイ・ピアノの並行輸入品(以下「並行輸入ピアノ」という。)を取り扱う輸入販売業者(以下「輸入販売業者」という。)が存在する。これら輸入販売業者は,外国に所在するスタインウェイ・ハンブルク支店の代理店から輸入し,直接又は楽器店を通じて官公庁等に販売している。

6.  松尾楽器は,スタインウェイ・ピアノについて定価と称する価格(以下「定価」という。)を設定しており,定価で官公庁等に販売するよう努めている。

7.  松尾楽器は,定価を相当程度下回る価格で販売される並行輸入ピアノの販売を阻止することに努めてきた。そして,このために並行輸入ピアノの存在が判明した場合には,①当該ピアノに付された製造番号を調べ,②その製造番号をスタンウェイ・ハンブルグ支店に通知し,③同支店をして入手経路を調査させ,④輸入販売業者に並行輸入ピアノを販売したスタインウェイ・ハンブルク支店をして代理店に輸入販売業者への販売を行なわないよう要請させ,又は,支店にこれら代理店に対する出荷停止の措置をとらせた。

8. 松尾楽器の前記行為により,前記7④の対象となった代理店と取引していた輸入販売業者は,並行輸入を行い,国内において販売することが困難になっている。

法令の適用

松尾楽器は,自己と国内において競争関係にある並行輸入ピアノを取り扱う輸入販売業者とその取引の相手方である外国に所在するスタインウェイ・ハンブルク支店の代理店との取引を不当に妨害しているものであって,これは,不公正な取引方法(昭和57年公正取引委員会告示第15号)の第15項に該当し,独占禁止法第19条の規定に違反するものである。

 


 

[参考・審決]

株式会社ヤシロに対する件

勧告審決平成295

審決集3729

独禁法19条 一般指定14

*並行輸入の阻害

 

1. 株式会社ヤシロ(以下「ヤシロ」という。)は,仏国に所在するグルーム・ディストリビュシオン・エス・アー・エル・エル(以下「グルーム社」という。)が製造するハンドバッグ等の商品(以下「グルーム社商品」という。)を,ヤシロの関連会社である八代商事株式会社(以下「八代商事」という。)を通じて購入し,これを同年9月以降国内の百貨店に販売している。

2. 株式会社フジサンケイリビングサービス(以下「フジサンケイ」という。)は,グルーム社商品を輸入し,仏国パリ市における小売価格と同程度の価格で日本国内の消費者に販売することを企図し,この価格を付したグルーム社商品を掲載した商品カタログ誌を発行した。この価格は,ヤシロの希望小売価格より大幅に低い価格であった。

3. ヤシロは,フジサンケイの前記販売を放置すると自己の取引先である百貨店におけるグルーム社商品の販売に重大な支障が生じるおそれがあると考えて,八代商事を通じてグルーム社に対し,フジサンケイとの取引を停止するよう要請した。

4. このためフジサンケイは,グルーム社からグルーム社商品を仕入れることができなかった。

 

法令の適用

ヤシロは,自己と国内において競争関係にあるフジサンケイとその取引の相手方であるグルーム社との取引を不当に妨害しているものであって,これは,不公正な取引方法(昭和57年公正取引委員会告示第15号)の第15項に該当し,独占禁止法第19条の規定に違反するものである。

主文

1 株式会社ヤシロは,平成元年821日に八代商事株式会社を通じてグルーム・ディストリビュシオン・エス・アー・エル・エルに対して行った株式会社フジサンケイリビングサービスとの取引を停止するようにする旨の要請を撤回しなければならない。」(主文・以下略)

 


 

[事例]

三菱電機ビルテクノサービス(株)に対する件

勧告審決平成14726

審決集49168

独禁法19条 一般指定14

*差別対価,差別取扱い

*取引先制限

*独立系業者排除

 

1. 昇降機は,耐用年数が長いことから,経年変化による構造機能の低下がないようにするために,常時,適切に保守を行って当該昇降機の機能,性能及び安全性を確保する必要がある。

2.  昇降機の所有者等は,通常,昇降機の保守業を営む者(以下「保守業者」という。)との間で保守契約を締結して,昇降機の保守業務を委託している。この保守契約には,①フルメンテナンス契約(給油,調整,清掃,部品取替えを含む定期点検,機能維持のための修理工事等の一連の保守業務を内容とする。)及び②パーツ・オイル・グリース契約(いわゆる点検契約。点検,給油,調整,清掃,若干の消耗品の交換及びオイル類の補充を行うことを内容とする。)の2種類がある。昇降機の機能維持のために部品取替え又は修理工事については,フルメンテナンス契約では保守業者が,パーツ・オイル・グリース契約では所有者等が,費用を負担する。

3.  昇降機の構成部品は,昇降機メーカー又は昇降機の機種ごとに仕様が異なる設計となっているものが多いことから,昇降機を適切に保守するためには,昇降機メーカー等が製造する当該昇降機専用の取替部品(以下「保守用部品」という。)を必要とすることが多い。特に,昇降機の基板等の重要部品の不具合が生じた場合には,昇降機メーカー等が製造する保守用部品との取替えが必要不可欠とされている。

4. 昇降機に故障等が発生した場合,保守業者は建物等の所有者等から迅速な修理を求められる。

5. 保守業者には,メーカー系保守業者と独立系保守業者がある。メーカー系保守業者とは,昇降機を製造した昇降機メーカー自ら又は昇降機メーカーが子会社として設立した保守業者である。独立系保守業者とは,メーカー系保守業者以外の保守業者である。

6. 昇降機の保守取引の大部分については,メーカー系保守業者が昇降機の所有者等と保守契約を締結している。一部については,独立系保守業者が所有者等と保守契約を締結している。

7.  昇降機メーカー及びメーカー系保守業者は,自社又は親会社たる昇降機メーカーの製造に係る昇降機のみを対象として保守業務を行っている。

8. 独立系保守業者は,そのほとんどが,複数の昇降機メーカーの昇降機の保守業務を行っている。独立系保守業者は,特定地域において保守業務を行う中小規模の事業者である。また,独立系保守業者は,メーカー系保守業者と比べて低廉な料金により昇降機の所有者等と保守契約を締結している。独立系保守業者は,パーツ・オイル・グリース契約を締結する場合が多い。

 9. 三菱電機ビルテクノサービス株式会社(以下「三菱ビルテクノ」という。)は,昇降機等の製造販売を行っている三菱電機株式会社(以下「三菱電機」という。)が全額出資により設立したメーカー系保守業者である。三菱ビルテクノは,三菱電機が製造する昇降機(以下「三菱電機製昇降機」という。)の大部分の保守業務を行っており,我が国における昇降機保守の市場において第1位の地位を占める。

10.三菱電機製昇降機専用に製造された保守用部品は,もっぱら三菱ビルテクノから供給されている。

11.三菱ビルテクノは,保守用部品について,同部品の製造業者等に発注してから自社に納品されるまでに要する標準的な日数(以下「標準納期」という。)を定めている。

12. 三菱ビルテクノは,自社と保守契約を締結している顧客(以下「自社の保守契約顧客」という。)向け保守用部品の販売価格について,同部品を自社が製造業者等から購入する価格の約2倍とする旨定めている。

13. 三菱ビルテクノは,保守用部品のうち,継続して使用が見込まれるもの,緊急性が高いものなどについては,自社の物流センター,資材センター等において計画的に在庫として保有し,自社の保守契約顧客等に供給している。

14. 三菱ビルテクノは,独立系保守業者の台頭等による,同昇降機の所有者等との保守契約率(同昇降機の国内設置台数に占める三菱ビルテクノの保守契約台数の割合)の低下及び自社の保守契約料金の低下の防止を目的として,次の活動等を含む全社的な取り組みを開始した。

① 各支社にこの取り組みの推進者を置いて,この者を中心に,保守契約の解約等の防止及び独立系保守業者からの契約奪回を図る。

② 低価格の保守商品の開発及び販売,迅速な部品確保ができることなど自社の保守業務の優位性を主張する各種パンフレット類の配布等を実施する。

15. この中で,三菱ビルテクノは,同社との間で保守契約を締結していない顧客(独立系保守業者を含む。)への保守用部品の販売について,次の事項を含む方針を決めて実施している。

①納期については,原則として,受注後に部品製造業者等へ発注することを前提として定める。独立系保守業者から受注した保守用部品を在庫として保有し独立系保守業者に対しても在庫の中から納入している場合など,標準納期より短期間に納入し得る場合であっても,原則として標準納期である60日,120日等を納期として納入する。

②販売価格については,部品製造業者等から自社が購入する価格の3倍の価格(自社の保守契約顧客向け販売価格の約15倍に相当する。)で販売する。

16. 三菱ビルテクノのこれら行為により,独立系保守業者は,三菱電機製昇降機の保守業務を迅速かつ低廉に行うことが困難となっており,このため,同昇降機の保守契約を解除され,又は保守用部品の調達能力に関する信用を失うことなどにより,同昇降機の所有者等との同昇降機についての保守契約の締結及び維持並びに保守業務の円滑な遂行が妨げられている。

17. 独立系保守業者の中には,部品を調達できないことを理由に保守契約を解除された例(そして,さらにその後,三菱ビルテクノが保守契約を締結した例)がみられる。

法令の適用

「三菱ビルテクノは,自己と三菱電機製昇降機の保守分野において競争関係にある独立系保守業者と同昇降機の所有者等との取引を不当に妨害しているものであって,これは,不公正な取引方法(昭和57年公正取引委員会告示第15号)の第15項に該当し,独占禁止法第19条の規定に違反するものである。」

主文

1 三菱電機ビルテクノサービス株式会社は,三菱電機株式会社の製造に係る昇降機(エレベーター,エスカレーター及び小荷物専用昇降機をいう。)の所有者,管理者等から委託を受けて同昇降機の保守業務を行う独立系保守業者(昇降機の保守業務を行う事業者のうち昇降機メーカー及び昇降機メーカーが子会社として設立した者以外の者をいう。)に対して,同昇降機の保守用部品を供給するに当たり

(1) 納入し得る部品があり,遅滞なく納入できるにもかかわらず,原則として部品製造業者等へ発注した場合に要する納期により納入する

(2) 合理的理由なく,自社と保守契約を締結している顧客向けの販売価格を著しく上回る価格により販売する

ことにより,前記独立系保守業者と同昇降機の所有者,管理者等との保守の取引を不当に妨害している行為を取りやめなければならない。

2 三菱電機ビルテクノサービス株式会社は,今後,前項の行為と同様の行為を行わないよう「未契約昇降機への部品販売等に関する取扱い」と題する社内文書の規定のうち

(1) 納期は,原則として,受注後部品製造業者等へ発注することを前提に対応する

(2) 販売価格は,部品製造業者等からの自社の購入価格の3倍とする

旨を規定した条項を削除しなければならない。」(主文・以下略)

 


 

[事例]

東急パーキングシステムズ(株)に対する件

勧告審決平成16412

審決集51401

独禁法19条 一般指定14

*差別対価,差別取扱い

*取引先制限

*独立系業者排除

 

1. 東急車輛製造株式会社(以下「東急車輛」という。)は,2段方式及び多段方式の機械式駐車装置(以下「駐車装置」という。)を製造する(以下,同社が製造する駐車装置を「東急車輛製駐車装置」という。)

2. 東急パーキングシステムズ株式会社(以下「東急パーキングシステムズ」という。)は,東急車輛が全額出資しているメーカー系保守業者(当該駐車装置を製造した駐車装置メーカー自ら又はその子会社である保守業者のことをいう。以下同じ。)であり,自社が保守契約を締結している管理業者等の東急車輛製駐車装置について保守業務を行うほか,東急車輛が保守契約を締結している管理業者等の東急車輛製駐車装置について,東急車輛から委託を受けて保守業務を行っている。

3. 東急パーキングシステムズは,東急車輛製駐車装置のほとんどの保守業務を行っており,我が国における駐車装置の保守業務において第1位の地位を占める。

4. 東急パーキングシステムズは,東急車輛製駐車装置専用の保守用部品を一手に供給しており,当該保守用部品は東急パーキングシステムズ以外からは入手することができない状況にある。

5. 駐車装置は,耐用年数が長い。駐車装置は,経年変化による機能低下がないようにするために,常時,保守することが必要である。

6. 駐車装置の管理業者,所有者等(以下「管理業者等」という。)は,通常,駐車装置の保守業を営む者(以下「保守業者」という。)との間で,駐車装置の保守に係る契約(以下「保守契約」という。)を締結し保守業務を委託している。

7. 保守契約は,点検,給油,調整,若干の消耗品の交換等を行うことを内容とするパーツ・オイル・グリース契約がほとんどを占めている。パーツ・オイル・グリース契約において,駐車装置の機能維持のために部品取替え又は修理工事を行った場合,これらに要する費用は管理業者等が別途負担する。

8. 駐車装置の保守業務の大部分については,メーカー系保守業者が管理業者等と保守契約を締結し,一部については,メーカー系保守業者以外の保守業者(以下「独立系保守業者」という。)が管理業者等と保守契約を締結している。

9. 独立系保守業者は,複数の駐車装置メーカーの駐車装置の保守業務を行っている。独立系保守業者のほとんどが,一定の地域において保守業務を行う中小規模の事業者である。独立系保守業者は,メーカー系保守業者と比べて低廉な料金により管理業者等と保守契約を締結している。

10. 駐車装置を構成する部品は,駐車装置メーカー又は駐車装置の機種ごとに仕様が異なっており,駐車装置を適切に保守するためには,部品メーカー等が製造する当該駐車装置専用の保守用部品を必要とすることが多い。保守業者は管理業者等から迅速な修理等を求められる。修理に要する保守用部品を迅速かつ確実に入手できることが,契約先管理業者等の信用を保持する上で重要である。

11. 東急パーキングシステムズは,保守用部品のうち取替頻度の高いものなどについては,保守用部品ごとに,その年間出荷数量に基づいて最低在庫数量を定め,常時,最低在庫数量を上回る数量の在庫を保有し,自社又は東急車輛が保守契約を締結している管理業者等(以下「自社の契約先管理業者等」という。)及び独立系保守業者に供給している。

12. 東急パーキングシステムズは,自社の契約先管理業者等向けの保守用部品の販売価格について,原則として部品メーカー等からの仕入価格の約2倍としている。

13. 東急パーキングメンテナンスは,独立系保守業者が東急車輌製駐車装置について保守契約を締結すると,自社又は東急車輛による保守契約締結数及び保守料金の低下につながるとして,独立系保守業者に対して,原則として保守用部品を販売しないこととしていた。その後,販売しないことには問題があるとの指摘を受けて,販売は行うこととした。ただし,独立系保守業者又は自社と取引のない管理業者等への保守用部品の販売については,次の販売方針により対応することとし,このとおり実行している。

①納期は,部品メーカー等に新たに製造を委託して保守用部品を販売するいわゆる「生産出荷」により対応することを名目として,受注日の3か月後(ただし,地域及び時期によっては,入金確認日の約1ヶ月後)を目途とする

②販売価格は,自社の契約先管理業者等向けの販売価格の1.5倍から2.5倍(部品メーカー等からの仕入価格の3倍から5倍に相当する。)を基準とする

③販売数量は,部品メーカー等に新たに製造を委託する場合の最低発注可能数量を単位とする

14. 東急パーキングメンテナンスは,前記方針に基づいて,独立系保守業者からの申込みに係る保守用部品を現に在庫しており,遅滞なく出荷することができるにもかかわらず,前記13①の名目により,保守用部品の出荷を著しく遅らせている。

15. 東急パーキングシステムズのこれら行為により,独立系保守業者は,東急車輛製駐車装置の保守業務を迅速かつ低廉に行うことが困難となっており,このため,保守用部品の調達能力に関する信用を失うことなどにより,東急車輛製駐車装置の管理業者等との東急車輛製駐車装置についての保守契約の維持及び獲得が妨げられている。

法令の適用

「東急パーキングシステムズは,自社と東急車輛製駐車装置の保守業務の取引において競争関係にある独立系保守業者と東急車輛製駐車装置の管理業者等との取引を不当に妨害しているものであって,これは,不公正な取引方法(昭和57年公正取引委員会告示第15号)の第15項に該当し,独占禁止法第19条の規定に違反するものである。」

主文

1 東急パーキングシステムズ株式会社は,東急車輛製造株式会社が製造する2段方式及び多段方式の機械式駐車装置の管理業者,所有者等から委託を受けて同駐車装置の保守業を営む独立系保守業者(2段方式及び多段方式の機械式駐車装置の保守業を営む事業者のうち同駐車装置メーカー及びその子会社以外の者をいう。)に対して,同駐車装置専用の保守用部品を供給するに当たり

(1) 保守用部品を在庫しており,遅滞なく出荷できるにもかかわらず,部品メーカー等に新たに製造を委託して保守用部品を販売するいわゆる「生産出荷」により対応することを名目として,出荷する時期を著しく遅らせる

(2) 合理的理由なく,自社又は東急車輛製造株式会社が保守契約を締結している同駐車装置の管理業者,所有者等向けの販売価格を著しく上回る価格で販売し,又は部品メーカー等に新たに製造を委託する場合の最低発注可能数量を単位として販売する

ことにより,前記独立系保守業者と同駐車装置の管理業者,所有者等との保守業務の取引を不当に妨害している行為を取りやめなければならない。」(主文・以下略)

 


 

[事例]

岡山県北生コンクリート協同組合に対する件

排除措置命令平成27227

判例集未登載

独禁法19条 一般指定14

*差別対価・差別取扱い

*取引先制限

 

1. 岡山県北生コンクリート協同組合(以下,「岡山県北生コン協組」という。)は,組合員の取り扱う生コンの共同販売事業を行うこと等を目的として中小企業等協同組合法に基づいて設立された事業協同組合であり,岡山県津山市,美作市,苫田郡,久米郡(一部),勝田郡及び英田郡(以下,これらを「本件共同販売地域」という。)において,組合員が製造する生コンの共同販売事業を行っている。岡山県北生コン協組の組合員は,本件共同販売地域等において生コン製造工場を有する事業者である。

2. 岡山県北生コン協組の組合員の生コン製造工場は,10施設存在し,本件共同販売地域において偏りなく所在している。本件共同販売地域内に所在する生コン製造工場であって,組合員のものでない工場は1施設のみである(平成24年夏頃から稼働)。

3. 生コンは,製造工場で練り混ぜられた後に時間の経過とともに固化する特性を有している。このため,生コンについては,ミキサー車による納入場所までの運搬時間が日本工業規格により定められている。

4. 生コンの需要者は,建設業者である。建設業者が供給を受けることのできる生コンは,納入場所までの運搬時間が相当の域内に収まる距離内に生コン製造工場を有する生コン製造業者の供給する生コンに限られる。

5. 本件共同販売地域においては,岡山県北生コン協組が供給する生コンが総供給数量の大部分を占める。前記2の非組合員が有する生コン製造工場からの供給には,限界がある。

6. 前記5のために,本件共同販売地域において工事を行う者は,岡山県北生コン協組から生コンの供給を受ける必要がある。

7. 岡山県北生コン協組は,平成246月頃,前記2の非組合員の工場が稼働すること及びこの工場から出荷される生コンが岡山県北生コン協組よりも低い価格で出荷されるとの情報に接し,価格競争を回避しつつ取引先に非組合員との取引を思いとどまらせるための方策として,①取引先が生コンを非組合員から購入した場合には当該取引先との取引条件を現金による販売とすること,②この際の価格は,値引のない定価販売とすること,③これらのことを取引先に伝える「お知らせ」文書を作成・配布することを取り決め実施した。

8. 岡山県北生コン協組は,取引先(建設業者)から生コン代金を,通常,請求の締切日の翌月以降に現金又は約束手形により収受している。

9. 本件共同販売地域内の公共工事にかかる生コンの設計単価は,岡山県北生コン協組の設定する定価を下回っていることから,取引先は,岡山県北生コン協組から値引きを受けずに生コンを購入する場合には,当該生コンの設計単価と定価の間の差額を自ら負担することになる。

10. 岡山県北生コン協組の前記7の行為により,少なくとも取引先28名が生コンを非組合員から購入しないようにしている。

 

法令の適用

「岡山県北生コン協組は,自己と生コンの取引において競争関係にある非組合員とその取引の相手方との取引を不当に妨害しているものであって,この行為は,不公正な取引方法(昭和57年公正取引委員会告示第15号)の第14項に該当し,独占禁止法第19条の規定に違反する」。

 

 

 


 

[事例]

奈良県生コンクリート協同組合に対する件

勧告審決平成13220

審決集47359

独禁法19条 一般指定14

*取引先制限

 

1. 奈良県生コンクリート協同組合(以下「奈良生コン協組」という。)は,奈良県内において生コンクリート(以下「生コン」という。)の製造販売業を営む者を組合員として,中小企業等協同組合法に基づき,組合員の製造する生コンの共同販売事業を行うこと等を目的として設立された(組合員数26名)。

2.  奈良生コン協組は,組合員から生コンを買い受けて,取引先販売業者として登録している販売店(以下「登録販売店」という。)等を通じて販売している。

3. 奈良生コン協組の販売量は,奈良地区における生コンの供給量の大部分を占める。

4.  住友大阪セメント株式会社(以下「住友大阪セメント」という。),宇部三菱セメント株式会社及び太平洋セメント株式会社の3社は,セメントの製造業又は販売業を営む。これら3社は,奈良地区においてセメント販売業者を通じてセメントを生コンの製造販売業者に供給している。これら3社のセメントの供給量の合計は,奈良地区における生コンの製造販売業者向けセメント供給量の大部分を占めている。

5. 奈良地区におけるセメント販売業者のうち17社(以下「セメント販売業者17社」という。)は,奈良生コン協組の登録販売店でもあり,奈良生コン協組から購入した生コンの販売を行っている。

6. 奈良生コン協組は,かねてから,奈良地区における生コンの需要量の減少傾向への対応策について検討してきていた。

7. 奈良県生コン協組は,徳本砕石工業株式会社(以下「徳本砕石」という。)(骨材の製造業者であり,奈良地区において,生コンの製造販売業者が使用する骨材の供給を行う。)が,その役員が全額出資する株式会社サンコーレミテックを通じて,ニッコー産業株式会社(生コン製造業者)の休止中の製造設備等により生コンの製造販売を行う計画であるとの情報に接し,前記6の対応策に影響が生じると考え,この製造販売を阻止することを決定し,この決定に基づいて前記セメント製造業者3社及びセメント販売業者17社に対して,サンコーレミテックにセメントを供給しないことを要請し,セメント製造・販売業者らはこれを承諾した。

8. サンコーレメテックにセメントを供給したセメント販売業者17社のうち1社に対しては,奈良生コン協組は,同協組の登録販売店としての登録を抹消することを示唆して供給を行なわないよう要請し,承諾を得た。

9. 公取委が本件について審査を開始したところ,奈良生コン協組は上記7の行為をとりやめた。

 

法令の適用

「奈良生コン協組は,自己と奈良地区において競争関係にあるサンコーレミテックとセメントの製造業者又は販売業者との取引を不当に妨害していたものであって,これは,不公正な取引方法(昭和57年公正取引委員会告示第15号)の第15項に該当し,独占禁止法第19条の規定に違反するものである。

 


 

[事例]

株式会社ディー・エヌ・エーに対する件

排除措置命令平成2369

審決集58巻第一分冊189

独禁法19条 一般指定14

*取引先制限

 

1. 株式会社ディー・エヌ・エー(以下「DeNA」という。)及びグリー株式会社(以下「グリー」という。)は,それぞれ我が国において携帯電話向けソーシャルネットワーキングサービス(以下「SNS」という。)をそれぞれのSNSのユーザーとして登録した者(以下「登録ユーザー」という。)に提供する事業を営む。

2. SNSでは,ソーシャルゲームが提供されている。DeNA及びグリーのほかに,「ソーシャルゲーム提供事業者」が,ソーシャルゲームを提供している。

3. DeNAは,平成182月頃から,「モバゲータウン」という名称のSNSを登録ユーザーに提供している。

4. DeNAは,自らソーシャルゲームをモバゲータウンを通じて提供していたが,平成221月頃からは,ソーシャルゲーム提供事業者に対して,モバゲータウンにおいてゲームを提供するために必要なプログラムに係る情報を公開するなどして,ソーシャルゲーム提供事業者にモバゲータウンを通じてソーシャルゲームの提供を開始させるようになった。

5. モバゲータウンを通じたソーシャルゲームの提供は,モバゲータウンの登録ユーザーが,モバゲータウンのウェブサイトにおける「ゲーム」のトップページ等に掲載されたリンクを選択し,各ソーシャルゲームのウェブサイトにアクセスして,当該ウェブサイトからソーシャルゲームの提供を受けるという方法で行われていた。

6. DeNAとソーシャルゲーム提供事業者との間で,モバゲータウンを通じたソーシャルゲームの提供に伴う手数料等を収受する旨の契約が締結された。

7. モバゲータウンのウェブサイトにおける「ゲーム」のトップページ等に掲載されるリンクは,モバゲータウンの登録ユーザーを当該ウェブサイトに誘引する重要な経路となっていた。

8. グリーは,平成176月頃から, GREEを登録ユーザーに提供している。グリーは,GREEを通じて自らソーシャルゲームを提供していたが,平成226月頃からは,DeNAと同様に,オープン化により,ソーシャルゲーム提供事業者にGREEを通じてソーシャルゲームの提供を開始させるようになった。

9. DeNAは,ソーシャルゲームに係る売上額において平成221月以降第1位の地位を占める(この売上高とは,携帯電話向けSNSを提供する事業を営む者が,ソーシャルゲーム提供事業者から収受する当該携帯電話向けSNSを通じたソーシャルゲームの提供に伴う手数料及び自らが提供するソーシャルゲームに係る売上額の合計額をいう。以下同じ。)。

10. DeNAは,オープン化についてグリーに先行したことなどから,多くのソーシャルゲーム提供事業者にとって重要な取引先となっていた。

11. グリーは,ソーシャルゲームに係る売上額においてDeNAに次いで第2位の地位にある。

12. この中で,DeNAは,平成227月頃,モバゲータウンにおける売上額が多いなど,ソーシャルゲームの提供において有力な事業者であると判断して選定したソーシャルゲーム提供事業者(以下「特定ソーシャルゲーム提供事業者」という。)に対して,GREEを通じて新たにソーシャルゲームを提供しないことを要請していくこととした。そして,特定ソーシャルゲーム提供事業者がGREEを通じて新たにソーシャルゲームを提供した場合には,当該特定ソーシャルゲーム提供事業者がモバゲータウンを通じて提供するソーシャルゲームのリンクをモバゲータウンのウェブサイトに掲載しないこととした。

13. DeNAの前記12の要請を受けた特定ソーシャルゲーム提供事業者の少なくとも過半は,一部の例外を除き,GREEを通じて新たにソーシャルゲームを提供することはしなかった。この中には,GREEを通じて新たにソーシャルゲームを提供するためにソーシャルゲームを開発していたところ,自社のソーシャルゲームのリンクがモバゲータウンのウェブサイトに掲載されなくなることを避けるためにGREEを通じた提供を断念した者があった。

14. 特定ソーシャルゲーム提供事業者のモバゲータウン及びGREEにおけるそれぞれの平成227月の売上額は,ソーシャルゲーム提供事業者のモバゲータウン及びGREEにおける同月の売上額のそれぞれ大部分を占めていた。

15. DeNAの行為により,グリーは,前記12の要請を受けた特定ソーシャルゲーム提供事業者の少なくとも過半について,GREEを通じて新たにソーシャルゲームを提供させることが困難となった。

16. 公取委が立入検査を行ったところ,DeNAは,リンクをモバゲータウンのウェブサイトに掲載しないようにすることによりGREEを通じてソーシャルゲームを提供しないようにさせていた行為は行われなくなった。

法令の適用

DeNAは,自社と国内において競争関係にあるグリーと特定ソーシャルゲーム提供事業者とのソーシャルゲームに係る取引を不当に妨害していたものであって,この行為は,不公正な取引方法(昭和57年公正取引委員会告示第15号)の第14項に該当し,独占禁止法第19条の規定に違反するものである。このため,DeNAは,独占禁止法第20条第2項において準用する独占禁止法第7条第2項第1号に該当する者である。また,違反行為が行われなくなったことが公正取引委員会の立入検査を契機としたものであること等の諸事情を総合的に勘案すれば,特に排除措置を命ずる必要があると認められる。」

主文

1.DeNAは,次の事項を取締役会において決議しなければならない。

(1) ソーシャルゲーム提供事業者のうちDeNAが選定した者に対し,GREEを通じてソーシャルゲームを提供した場合に当該ソーシャルゲーム提供事業者がモバゲータウンを通じて提供するソーシャルゲームのリンクをモバゲータウンのウェブサイトに掲載しないようにすることにより,GREEを通じてソーシャルゲームを提供しないようにさせていた行為を行っていない旨を確認すること

(2) 今後,ソーシャルゲーム提供事業者に対し,他の事業者の運営する携帯電話向けソーシャルネットワーキングサービスを通じてソーシャルゲームを提供した場合には当該ソーシャルゲーム提供事業者がモバゲータウンを通じて提供するソーシャルゲームのリンクをモバゲータウンのウェブサイトに掲載しないようにすることにより,他の事業者の運営する携帯電話向けソーシャルネットワーキングサービスを通じてソーシャルゲームを提供しないようにさせる行為を行わない旨(主文以下略)

 

 


 

[事例]

株式会社フジタに対する件

排除措置命令平成30614

公正取引委員会ホームページ

19 一般指定14

 

1. 株式会社フジタ(以下「フジタ」という。)は,土木一式工事を請け負う者である。フジタ東北支店は,仙台東災害復旧関連区画整理事業高砂換地区区画整理第一期建設工事(以下,「本件工事」という。)の一般競争入札(以下「本件入札」という。)に参加していた。

2. 農林水産省は,東北農政局において本件工事を発注するに当たり,入札参加申請者に対して,入札説明書において求められた課題に対し,入札参加申請者が行う提案技術を記載した書面(以下,「技術提案書」という。)の提出を求めていた。

3. 農林水産省は本件工事について,東北農政局において数種類の評価値を設けて落札者を決定することとしていたが,いくつかの評価値については入札者間で差がなかったため,落札者は,入札参加者の加算点及び入札価格によって決まっていた。加算点は,事実上,東北農政局が定めた技術提案を評価する立場にある者(評価者)が付与した点数によって決まっていた。

4. フジタは,本件工事について,下記の行為を行った上で,フジタ東北支店において入札を行っていた。

①フジタ東北支店に再就職した東北農政局元職員から,東北農政局の評価担当者に対して,技術提案書の提出期限前に,技術提案書の添削又は技術提案についての助言を依頼し,フジタ東北支店において当該添削等を踏まえて技術提案書を作成して東北農政局に提出する行為

②イ フジタ東北支店に再就職した東北農政局元職員から,東北農政局の評価担当者に対して,入札書の提出期限前に,入札参加申請者の技術評価点及び順位を問い合わせ,これらに関する情報について教示を受ける行為

5. 東北農政局の評価担当者は,本件工事に関して,フジタ東北支店の全ての技術提案に最高の評価を付与した。

6. フジタ東北支店は,本件工事に含まれる各工事の全てについて第1位の技術評価点を獲得し,本件工事のうちの工事2件を落札し受注した。なお,フジタに3回の落札・受注の機会があったのは3回であった。

 

法令の適用

「フジタは,農林水産省が東北農政局において発注した本件工事に係る取引において,自己と競争関係にある入札参加者である建設業者とその取引の相手方である農林水産省との取引を不当に妨害していたものであって,この行為は,不公正な取引方法(昭和57年公正取引委員会告示第15号)の第14項に該当し,独占禁止法第19条の規定に違反する」。


 

 

[事例]

ドライアイス取引妨害禁止等仮処分申立事件

東京地方裁判所決定平成23330

判決集未登載(TKC文献番号25480106

独禁法19条 一般指定14

 

1. ドライアイスは,角ドライアイス,ペレットドライアイス及びパウダードライアイスの3種類に大別される。

2. 角ドライアイスの最終需要者は,食料品取扱業者,宅配業者,葬儀業者,医療関係者等であり,これら最終需要者には用途に合わせてスライス加工された上で販売納品されている。角ドライアイスは,①角ドライアイス製造業者がドライアイス加工業者に角ドライアイスの加工・配送等を委託し,ドライアイス加工業者が加工製品を最終需要者に納品する方法(以下「加工委託ルート」という。)及び②角ドライアイス製造業者はドライアイス加工業者に角ドライアイスを販売し,ドライアイス加工業者がこれを加工して最終需要者に販売する方法(以下「独自販売ルート」という。)がある。

3. 債務者(Y株式会社)は,角ドライアイスを加工委託ルートにより販売するほか,ペレットドライアイスを製造し最終需要者である顧客に販売していた。

4. 国内の角ドライアイス製造市場では,債務者が出荷量の約49%を占め,第2位の製造業者が約24%,z株式会社(以下,zという)が約20%,第4位の製造業者が約8%を占めていた(平成20年)。

5. 債権者(x株式会社)は,債務者から仕入れた角ドライアイスを加工して自らの顧客に販売するとともに,債務者から委託を受けて角ドライアイスを加工し債務者の顧客に納品するなどの取引を継続的に行ってきた。

6. その後,債権者は,zとの間でも,角ドライアイスを購入して自らの顧客に販売するとともに,債務者から委託を受けて角ドライアイスを加工し債務者の顧客に納品するなどの取引を行なうようになった。

7. その後,債権者は,zから,ペレットドライアイスについて製造委託を受けることになり,ペレットドライアイス製造工場を建設し,ペレットドライアイスの製造を開始した。この湖上の稼動開始については,ペレットドライアイスの製造能力が高い製造装置を完備した工場が稼動開始したものとして,業界新聞で報道された。

8. この報道後から債務者の従業員が債権者を頻繁に訪問するようになった。債務者は,債権者の競合避止義務違反を理由に加工委託ルートの取引を停止した。債務者は,その後,債権者が独自販売ルートによる販売に用いる角ドライアイスについても,販売を停止した。

9. 債権者が債務者の委託により角ドライアイスを加工し納品するについては,両者の間で契約が締結されており,この中では,債務者の販売するドライアイスのスライス等の加工業務と競合する業務を一切禁じる旨の規定がおかれていた。

10. 前記9にかかわらず,委託及び債権者とzとの角ドライアイスにかかる取引は,債務者の紹介によって開始されたものであり,zとの取引開始後,zと債権者が取引していることは明らかな状況にあったが,債務者がこれに異を唱えるようなことは1度もなかった。zが債権者に加工を委託した分の角ドライアイスについて,zと債権者とが取引をしていることを明らかに示す注文書により,債務者が債権者を通じてzに供給したこともあった。債権者以外の関西地方のドライアイス加工業者の多くも,競合避止義務等を約しているかどうかにかかわらず,債務者以外の角ドライアイス製造業者と恒常的に取引しており,債務者はこれらを問題にしたことがなかった。

11. さらに,債務者は,債権者の前記7のペレットドライアイスの製造受託開始前には,債権者から事前に説明を受け,債権者に対してZと取り交わす契約書について修正を助言し,工場の視察を行なった。工場完成時には,債務者は,従業員を竣工式に参加させ,祝い金を交付した。この間,債務者が債権者に対して競合避止義務違反等を指摘するようなことは一切なかった。

12. 債務者は,債権者とzとの間の前記取引は競合避止義務に違反するとして債権者との間で締結していた商品供給契約等を解除した。

13. 債務者は,①債権者の顧客及びzに対して「債権者が債務者との間の契約上の競合避止義務に違反した」旨の告知を,②債権者の顧客に対して「債権者がドライアイスの供給を行うことができなくなる」旨の告知を,③「債権者は近々倒産する」旨の告知を,④zに対して「zが債権者との間でドライアイスに関する取引を行うことは,債権者の債務者との間の契約上の競合避止義務に抵触し,許されない」旨の告知を行なった。

14. 債務者の前記13の行為を受け,債権者の顧客の間では,債権者の先行きを危ぶむ声が広がり,zも,債権者に対して,ペレットドライアイスの製造委託を停止し,平成233月末をもって一切の取引を停止する旨通告するに至っている。

15. 債権者の年商の大半は,ドライアイス事業によって占められており,zとの取引が停止されると,顧客に販売するドライアイス加工製品の原料である角ドライアイスを確保することができず,ドライアイス事業を継続することは著しく困難となる。

16. 債権者は,債務者の前記告知行為は一般指定14項に反するとして,独占禁止法24条に基づく差止請求権を被保全権利として,告知行為差止等の仮処分を申し立てた。

 

裁判所の判断

債権者と債務者は,「国内の角ドライアイス加工製品及びペレットドライアイスの販売市場において,競争関係にある」。

前記13①及び④の告知は,「債権者が債務者との間の契約上の競合避止義務に違反したことを告知するものであるところ」,前記1011の事実からして,債権者がzとの間で行ってきた取引は競合避止義務に違反せず,又は少なくとも,債務者が前記取引を競合避止義務の範囲外の取引として承認していたことは明らかであり,債務者が契約等の文言を盾にとって競合避止義務違反を理由に債権者との契約を解除することは「信義則に反し許されない」。そうすると,これら告知は,「債権者に対する誹謗中傷に当たり,債務者は,債権者が独自販売ルートによって角ドライアイス加工製品を販売していた顧客やzに対し,債権者を誹謗中傷して取引を停止するよう働きかけたものであるから,前記行為は,それ自体,公正な競争を阻害するものであるというべきである。」

前記13②及び③の告知についても,「債権者が商品供給不能の状況となり,倒産の危機に瀕していることを内容とするものであり」,13①及び④の告知に関する前記認定によれば,「債権者に対する誹謗中傷に当たることは明らかである。そうすると,債務者は,債権者が独自販売ルートによって角ドライアイス加工製品を販売していた顧客に対し,債権者を誹謗中傷して取引を停止するよう働きかけたものであるから,前記行為は,それ自体,公正な競争を阻害するものであるというべきである。」

さらに「債務者は,長年にわたり,債権者とzとの取引を問題にしたことは1度もなかったにもかかわらず」,前記7の報道があった途端「競合避止義務違反を理由に債権者との加工委託ルートの取引を突如停止するに至ったこと」などを勘案すると,「その公正競争阻害性は明らかであるというべきである

前記15の事実に加えて,「債務者の取引妨害行為の態様,経緯等をも併せ考慮すると,債権者がこれによって利益侵害を受け,著しい損害を被るおそれがあることは明らかである」。

「債務者の取引妨害行為によって債権者には著しい損害が生ずるおそれがあると認められるところ,債務者の取引妨害行為を受けて,zが平成233月末をもって債権者との一切の取引を停止する旨を通告していることにかんがみると,債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるため,これを必要とするとき(民事保全法232項)に当たり,保全の必要性がある」。

 


 

[事例]

ヨネックス(株)に対する件

勧告審決平成151127

審決集50398

独禁法19条 一般指定14

 

1. バドミントン用品であるシャトルコックには,水鳥の羽根を用いた水鳥シャトル及び水鳥の羽根以外の素材を用いた合成シャトルがあるところ,水鳥シャトルがその大部分を占めている。

2. ヨネックス株式会社(以下「ヨネックス」という。)は,水鳥シャトルを,①自ら又は取引先卸売業者を通じて小売業者に販売し,②小売業者を通じて,中学校,高等学校,大学,実業団等のバドミントンクラブ等又はこれらの団体である各種バドミントン競技団体(以下「バドミントンクラブ等」という。)に販売している。

3. 我が国における水鳥シャトルの製造販売又は輸入販売をする事業者は約20社ある。ヨネックスは,我が国における水鳥シャトルの販売数量が第1位であり,同社の水鳥シャトルは多くのバドミントン競技大会で使用されている。

4. 前記3より,小売業者にとっては,ヨネックスの水鳥シャトルを取り扱うことが営業上有利であるとされている。

5. バドミントン競技大会で使用する水鳥シャトル(以下「大会使用球」という。)は,バドミントン競技大会の主催者又は主管者(以下「大会主催者等」という。)により指定される。財団法人日本バドミントン協会又は同協会に加盟する大会主催者等は,ほとんどの競技大会において,同協会の検定に合格した水鳥シャトルを使用している。

6. 大会主催者等は,製造販売業者,小売業者等から大会使用球を購入するとともに,指定した製造販売業者等から大会使用球の提供等の協賛を受けて,バドミントン競技大会を開催している。

7. 水鳥シャトルの製造販売業者等は,自社が製造販売等する水鳥シャトルが大会使用球とされると,宣伝効果が大きく,競技者への販売促進効果が見込まれることなどから,大会使用球の提供等の協賛を行っている。

8. 平成5年ころから,円高傾向を背景に,海外から廉価な水鳥シャトルを輸入して通信販売等によりバドミントンクラブ等に販売する事業者(以下「輸入販売業者」という。)が水鳥シャトルの販売を開始した。バトミントンクラブ等では,輸入販売業者が販売する水鳥シャトル(以下「直販シャトル」という。)を購入する例が増えてきた。

9. ヨネックスは,前記8の影響を受けた取引先小売業者から直販シャトルに対する対策を採るよう求められた。そこで,ヨネックスは,直販シャトルの販売数量が伸長することを抑止し,自社及び取引先小売業者の売上げや利益の確保を図ることを目的として,以下の要請等を行なうこととし実行している。

①大会主催者等に対して,輸入販売業者から直販シャトルの提供等の協賛を受ける場合には自社は協賛しない旨示唆するなどして,輸入販売業者から協賛を受けないこと及び直販シャトルを大会使用球としないことを要請する

直販シャトルに対抗するための商品として,「スタンダード」と称する廉価品を発売し,直販シャトルに顧客を奪われるなどの影響を受けている取引先小売業者に限定して取り扱わせ,直販シャトルを使用している顧客に販売させ,この顧客が使用する水鳥シャトルを自社のものに切り替えさせる

③ 取引先小売業者が直販シャトルを取り扱おうとし,又は取り扱っている場合においては,直販シャトルを取り扱わない旨のヨネックスの要請に応じない限りスタンダードを供給しないことを示唆する

④千葉県所在の1輸入販売業者のホームページに直販シャトルの取扱小売業者として取引先小売業者の名称が掲載されていることについて,当該小売業者から同輸入販売業者に対して名称掲載をやめるよう求めさせ掲載をやめさせる

法令の適用

ヨネックスは,水鳥シャトルの取引に当たり,自己と競争関係にある輸入販売業者とその取引の相手方との取引を不当に妨害しているものであって,これは,不公正な取引方法(昭和57年公正取引委員会告示第15号)の第15項に該当し,独占禁止法第19条の規定に違反するものである。

 

 

 


 

[基本・判決]

FTTHサービスにかかる差止請求事件(ソフトバンク事件)

東京地方裁判所判決平成26619

判例時報2232102頁,判例タイムズ1405371

独禁法19条,独禁法24

*作為を求める差止請求

*事業法と独禁法の関係

 

「独占禁止法24条は,不公正な取引方法に係る規制に違反する行為によってその利益を侵害され又は侵害されるおそれがある者は,その利益を侵害し又は侵害するおそれがある事業者に対し,「その侵害の停止又は予防」を請求することができると規定しているところ,ここでいう不公正な取引方法に係る規制に違反する行為が不作為によるものである場合もあり得ることから考えると,差止請求の対象である「その侵害の停止又は予防」は,不作為による損害を停止又は予防するための作為を含むと解するのが相当である。」

 

1分岐単位の接続自体は抽象的であるが,1分岐単位の接続として具体的にどのような箇所で接続するのかは被告らの選択に委ねられているものとして,その強制執行は可能である]。「作為の内容である接続に係る接続箇所であるA・・・D自体はその具体的な場所等が特定されているわけではないものの,これも被告らの選択に委ねられているものとして,その強制執行は可能である」。

 

電気通信事業法上,「被告らは,本件請求に係る接続をするためには,その接続料及び接続条件について接続約款を定め,総務大臣の認可を受けなければならず,このような認可を受けた接続約款によらなければ,原告らとの間で,本件請求に係る接続に関する協定を締結してはならないところ」,「被告らの現行の本件接続約款には本件請求に係る接続・・・に係る接続料及び接続条件の定めはない。また,本件請求に係る接続について,本件接続約款により難い特別な事情があるといえるときであっても,被告らは,原告らとの間で本件請求に係る接続に関する協定を締結するためには,[電気通信事業法上,]総務大臣の認可を受けなければならないところ,このような認可がされたことは認められない。そうすると,被告らは,・・・電気通信事業法[上],本件請求に係る接続に関する協定を締結するなどして,このような接続をさせることはできないのであって,接続約款の認可を受けずに原告らとの間で本件請求に係る接続に関する協定又は契約を締結すれば,[電気通信事業法上の]刑罰法規の構成要件に該当することになる」。

「もとより,電気通信事業法による規制は,独占禁止法による規制を排除するものではなく,電気通信事業法に基づき総務大臣が認可した接続約款による接続が,具体的な事案において,独占禁止法違反の要件を満たす場合に,独占禁止法に基づく規制に服することがあり得ることは否定できない」ものの,「前記のとおり,被告らは,・・・電気通信事業法上,このような接続に応じてはならない義務を課されている状況にあるといえるのであって,にもかかわらず,独占禁止法により,このような接続をしなければならない義務を被告らに課すことは、被告らに相互に矛盾する法的義務を課すことにほかならないことを考えると,独占禁止法24条に基づき,被告らに対してこのような接続を請求することはできない」。

 


 

[参考・判決]

三愛土地による確定審決違反事件

東京高等裁判所判決昭和46129

判例時報61925頁、判例タイムズ257114頁、東京高等裁判所(刑事)判決時報22118頁、刑事裁判月報3120

景品表示法

独禁法95

 

被告人坂東(被告会社の代表取締役)はさきに被告会社(株式会社三愛土地(宅地建物取引業を営む。))の業務に関し,「誇大広告をし不当に顧客を誘引し公正な競争を阻害するおそれがあると認められたため,同44117日付をもつて公正取引委員会から,①「今後,住宅用地の取引に関し,新聞・・・による広告をするときは,本件事実と同様の記載または写真の掲載をすることにより当該住宅用地の内容について実際のものよりも著しく優良であり,その価格について実際のものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される広告をしてはならない」こと,②「今後1年間,住宅用地の取引に関し,新聞,ビラ,ポスターその他これらに類以する物による広告をしたときは,ただちに,当該広告物を同委員会に提出しなければならない」ことなどを内容とする「排除命令を受け,同排除命令は同年45日確定した審決とみなされるにいたつたものであるにもかかわらず」,①に反して誇大広告を行い,②に反して公取委に広告ビラを提出せず,「もつて確定した審決に従わ」なかった。

 

被告人らのの行為は,独禁法「95条,903号不当景品類及び不当表示防止法91項,6条,4条」に該当する。

 

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